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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029578
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】空芯コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/03 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
H01F17/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131913
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正夫
(72)【発明者】
【氏名】末永 司
(72)【発明者】
【氏名】三宅 佳郎
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070EA07
(57)【要約】
【課題】同等サイズの空芯コイルで、より大きなインダクタンスを得る。
【解決手段】空芯コイルは、非磁性体または弱磁性体のトロイダルのコア10aと、コア10aに巻かれた導線と、を有し、コア10aは、延伸トロイダルコアである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体または弱磁性体のトロイダルコアと、
前記トロイダルコアに巻かれた導線と、
を有し、
前記トロイダルコアは、延伸トロイダルコアである
空芯コイル。
【請求項2】
前記延伸トロイダルコアは、軸対称なトロイダルを、その軸対称の中心軸の方向に延伸した形状を有する
請求項1に記載の空芯コイル。
【請求項3】
前記延伸トロイダルコアの高さは、前記延伸トロイダルコアの直径よりも長い
請求項1に記載の空芯コイル。
【請求項4】
前記導線が、前記延伸トロイダルコアの全周に均一に巻かれた
請求項1に記載の空芯コイル。
【請求項5】
前記延伸トロイダルコアは、中心軸に沿った開孔部を有する円柱形状である
請求項1に記載の空芯コイル。
【請求項6】
前記延伸トロイダルコアは、中心軸に沿った開孔部を有し、五以上の多角柱形状である
請求項1に記載の空芯コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば空芯コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、すなわちコイルには、磁性コアを有する磁性芯コイル(magnetic-core coil)と磁性コアを有しない空芯コイル(air-core coil)とに大別される、
同じインダクタンスであれば、磁性芯コイルのサイズは、空芯コイルのサイズよりも遥かに小さくて済む。ただし、磁性芯コイルは、磁性コアで磁束が飽和して、歪みが発生しやすい。一方で、空芯コイルは、磁束が飽和しないので、歪みが小さい。
一般的な空芯コイルは、コアなしで導線が円状に巻かれた構造、または、弱磁性体/非磁性体のコアに導線が巻かれた構造である。空芯コイルは、歪みが小さいので、高級スピーカのネットワーク回路などに使用されることが多い。ただし、空芯コイルでは、磁束の漏れが大きいので、複数のコイルを使用する場合には、コイル間の干渉を避けるために間隔を空けたり方向を異ならせたりする必要がある。
【0003】
磁性芯コイルには、磁性体のトロイダルコアに導線を巻き付けたトロイダルコイルというものが知られている。トロイダルコイルでは、磁束がトロイダルコアに集中し、外部への漏れが少ないので、複数のコイルを近接して配置することができる。ただし、トロイダルコイルにおいても、磁束が磁性体のトロイダルコアに集中するため、飽和が生じやすい。
【0004】
オーディオ用のD級パワーアンプでは、入力信号のパルス幅変調によりPWM(Pulse Width Modulation)信号が生成され、当該PWM信号にしたがってハイサイドトランジスターおよびローサイドトランジスターのスイッチングにより生成されたスイッチング信号がLPF(Low Pass Filter)でフィルタリングされる(例えば特許文献1参照)。すなわち、D級パワーアンプでは、スイッチング信号の高調波成分がLPFでカットされて、オーディオ信号が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-72276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなD級パワーアンプにおいてLPFを構成するインダクタには、磁性芯コイルまたは空芯コイルが使用される。そのLPFには比較的大きな電流が流れるので、磁性芯コイルでは、その芯において磁束が飽和する虞がある。オーディオ信号の品質を向上させるためには、LPFを構成するインダクタとして、磁束が飽和しにくい空芯コイルを使用することが好ましい。
一方で、磁性芯コイルを用いた場合に比べてD級アンプのサイズをあまり大きくしないためには、LPFを構成する空芯コイルのサイズをなるべく小さくする必要がある。空芯コイルには、サイズが磁性芯コイルと比べ大きくなるデメリットがある。
以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、同等サイズで、より大きなインダクタンスを得ることができる空芯コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る空芯コイルは、非磁性体または弱磁性体のトロイダルコアと、前記トロイダルコアに巻かれた導線と、を有し、前記トロイダルコアは、延伸トロイダルコアである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る空芯コイルを示す図である。
図2】実施形態に係る空芯コイルのコアを示す平面図である。
図3】実施形態に係る空芯コイルのコアの断面図である。
図4】比較例に係る空芯コイルにおけるコアの平面図である。
図5】比較例に係る空芯コイルにおけるコアの断面図である。
図6】比較例と実施形態とを対比した図表である。
図7】比較例と実施形態とにおいて、コアの磁束密度を示す図である。
図8】変形例に係る空芯コイルのコアを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態に係る空芯コイルについて図面を参照して説明する。
なお、各図において、各部の寸法および縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
図1は、実施形態に係る空芯コイル1aの構成を示す平面図である。図2は、空芯コイル1aのコア10aを示す平面図である。図3は、図2に示されるコア10aをA-a線で破断した断面図である。
空芯コイル1aにおけるコア10aは、A-a線で破断した断面形状が延伸円である延伸トロイダルコアである。トロイダルとは、中心軸Cenを中心に例えば円形の板を回転することにより描かれる、軸対称(axial symmetry)の形状である。延伸トロイダルコアとは、その断面が半径aの円形であるトロイダルを、その中心軸Cenの方向に延伸した形状のコアである。より具体的には、延伸トロイダルは、中心軸Cenに垂直な面でトロイダルを上半分と下半分に分割し、その分割面を中心軸Cenの方向に延ばした形状を有する。コア10aでは、その断面の延伸円は、図3のように、半径aの上半円と、縦b×横2aの長方形と、半径aの下半円とを連結した形状である。なお、延伸する前のトロイダルの断面は、正方形や多角形であってもよい。
また、断面が円形であるトロイダルコアについては、以下において延伸トロイダルコアと区別するために、一般トロイダルコアと表記する。また、延伸トロイダルコアの形状を特に延伸環状体と表記する。単に、環状体と表記した場合には、断面形状を限定しない。
【0011】
コア10aは、例えば非磁性体の素材を延伸環状体の形状に成形したり、非磁性体の粉末を延伸環状体の形状に焼き固めたりすることで構成される。コア10aには、図1に示されるように全周にわたって均一に導線20が巻かれる。磁性芯コイルでは、導線の巻きが不均一でも、磁束が磁性芯から殆ど漏れないが、空芯コイルでは、空芯の導線の巻きが不均一な部分から磁束が漏れる。そのため、空芯コイルでは、導線を全周に均一に巻く必要がある。
導線20の巻き数をNとする。なお、図1では、巻き数Nが「12」となっているが、あくまでも便宜的な措置であり、巻き数Nを「12」に限定する趣旨ではない。
【0012】
コア10aにおける磁路円の半径をrとする。磁路円は、平面視したときに環状体のコア10aにおける内径φ1と外径φ2との中間点を連続させた仮想円であり、図において破線で示される。当該仮想円の円周長がコア10aにおける平均磁路長lであり、2πrで表される。
なお、磁路円の直径をR(=2r)とする。また、コア10aの高さをHとする。高さHは、断面形状における延伸円のうち、円形部分の半径aの2倍と、直線部分の長さbと、との和(2a+b)である。
【0013】
実施形態において、コア10aにおける高さHと磁路円の直径Rとは、次のような関係にある。
H>R
また、コア10aの断面積Sは、図3においてハッチングが付された延伸円領域の面積であり、(πa+ab)で表される。
【0014】
実施形態に係る空芯コイル1aの優位性を説明するための比較例について説明する。図4は、比較例に係る空芯コイルのコア10cを示す平面図であり、図5は、コア10cを図3と同様に破断した断面図である。比較例におけるコア10cは、実施形態と同様な環状体であるが、断面形状が延伸円ではなく、直線部分を有しない円形である。すなわち、コア10cは、一般トロイダルコアである。
【0015】
図6は、比較例と実施形態との寸法やパラメータ等を比較して示す表である。実施形態に係るコア10aが、図6に示される寸法(磁路円の直径、および、コアの高さ)とされた場合に、線径(直径)0.8mmの導線20が、巻き数Nを「30」として巻かれた状態を想定する。この状態においてコア10aに巻かれた導線20の線長は2890mmである。比較例に係るコア10cは、断面の円形における半径(高さHの半分)を、実施形態における円形の半径aと同一とし、導線20の線長が実施形態とほぼ同じになるように磁路長を設計したものである。
【0016】
環状体のコアに導線が巻かれたコイルの自己インダクタンスL[H]は、次式のように表すことができる。
L=μS/2πr …(1)
なお、μは、真空におけるコアの透磁率である。
式(1)から判るように、コイルの自己インダクタンスLは、巻き数Nの二乗に比例し、コアの断面積Sに比例し、平均磁路長(l=2πr)に反比例する。
【0017】
図6に示される寸法やパラメータ等を式(1)に代入して得られる自己インダクタンスは、比較例では4.2μHであり、実施形態では6.9μHである。なお、式(1)は、一般トロイダルコアに導線が巻かれたコイルの自己インダクタンスLを算出するための式であり、実施形態のような延伸トロイダルコアでは誤差が生じる。また、実際の一般トロイダルコアでも、磁束密度が円環の内側と外側とで偏りが生じることがあるので、式(1)から得られる自己インダクタンスは参考値に過ぎない。
なお、発明者による電磁界シミュレーションの結果、比較例では4.4μHであるのに対し、実施形態では8.0μHとなった。このように、実施形態は、比較例に比べて大きなインダクタンスを得ることができる。この点について説明する。
【0018】
実施形態の巻き数Nは、比較例の約1/3である。巻き数Nは、式(1)から判るように、インダクタンスの算出において二乗で効いてくるので、巻き数Nについてみれば、実施形態では、比較例と比べるとインダクタンスが約1/9倍に減少する方向に作用する。
しかしながら、実施形態の平均磁路長lは、比較例の1/3倍であり、実施形態におけるコアの断面積Sは、比較例の約4.7倍である。
このため、平均磁路長lについてみれば、実施形態では、インダクタンスが比較例と比べると3倍に増加する方向に作用し、断面積Sについてみれば、実施形態では、インダクタンスが比較例と比べると約4.7倍に増加する方向に作用する。
本実施形態のようにコア10aの断面形状を延伸円とした場合、比較例と比べると、リアクタンスについて、巻き数(N)の減少よりも、平均磁路長(l)の減少と断面積(S)の増加とが大きく影響を及ぼすことになる。
【0019】
図7は、実施形態におけるコア10aと、比較例におけるコア10bとにおいて巻かれた導線20に電流が流れたときの磁束密度を示す図であって、電磁界シミュレーションして得られた結果を示す。なお、図において横軸はコアにおける円環の中心軸Cenから円環の放射方向に向かう距離を示し、縦軸は磁束密度Bの強さを示す。実施形態では、比較例と比べて磁束密度Bがコア10aのうち、円環の中心軸Cen方向に向かって集中する傾向が見られる。
電磁界シミュレーションによれば、実施形態では、磁束密度が円環の内側で高くなるので、実質的な平均磁路長が、上述した2πrよりも短くなる。このため、実施形態に係る空芯コイル1aのインダクタンスは、式(1)で得られる6.9μHよりも大きい8.0μHとなる。
【0020】
実施形態では、コア10aが環状体であり、閉じているので、磁束がコアに集中する。このため、実施形態では、磁束漏れを少なくすることができる。また、実施形態は、非磁性体のコア10aに導線が巻かれた空芯コイル1aであるので、飽和しにくい。実施形態では、比較例と比べてコイルのサイズのコンパクト化を図ることができ、換言すれば、同等サイズの空芯コイルで、より大きなインダクタンスを得ることができる。
【0021】
なお、実施形態に係るコア10aについては、平面視で円環の形状であったが、これに限られない。図8は、変形例に係るコア10bを示す平面図である。図に示されるように、コア10bの形状を、中心軸Cenに沿った開孔部12cを有する六角柱としてもよい。一般に、五以上の多角形であれば、1つの角が鈍角になり、導線20が巻かれたときの折れ曲がりが抑えられて、磁束の漏れを少なくすることができる。したがって、コア10cは、開孔部12aを有する五以上の多角柱形状であると換言することができる。
実施形態では、コア10aの素材を非磁性体としたが、非磁性体の代わりに、磁気飽和しにくい弱磁性体を用いてもよい。
また、実施形態に係る空芯コイル1aを、スピーカのネットワーク回路など、D級アンプのLPF以外に使用してもよい。
【0022】
以上の記載から、例えば以下のように本発明の好適な態様が把握される。
【0023】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る空芯コイルは、非磁性体または弱磁性体のトロイダルコアと、前記トロイダルコアに巻かれた導線と、を有し、前記トロイダルコアは、延伸トロイダルコアである。態様1によれば、同等サイズの空芯コイルで、より大きなインダクタンスを得ることができる。
【0024】
態様1の具体的な態様2では、前記延伸トロイダルコアが、軸対称なトロイダルを、その軸対称の中心軸の方向に延伸した形状を有する。
【0025】
態様1の具体的な態様3は、前記延伸トロイダルコアの高さは、前記延伸トロイダルコアの直径よりも長い。態様2によれば、従来の空芯コイルと比較して、コイルのサイズを抑えることができる。なお、コイルのサイズを抑えて、とは、同じインダクタンスであるならば、外形体積が小さい、ということを意味する。
【0026】
態様1の別の具体的な態様4は、前記導線が、前記延伸トロイダルコアの全周に均一に巻かれる。態様3のように、導線が延伸トロイダルコアの全周に均一に巻かれた構成によれば、全周に巻かれていない構成と比較して、磁束の漏れを少なくすることができる。
【0027】
態様1の別の具体的な態様5は、前記延伸トロイダルコアは、中心軸に沿った開孔部を有する円柱形状である。態様4のように、円柱形状では、導線が巻かれたときの折れ曲がりが抑えられて、磁束の漏れを少なくすることができる。
【0028】
態様1の別の具体的な態様6において、前記延伸トロイダルコアは、中心軸に沿った開孔部を有し、五以上の多角柱形状である。態様4において、五以上の多角柱形状は、円柱形状と同視できる。五以上の多角柱形状であれば、1つの角が鈍角になり、導線が巻かれたときの折れ曲がりが抑えられて、磁束の漏れを少なくすることができる。
【符号の説明】
【0029】
1a…空芯コイル、10a…コア、12a…開孔部、20…導線、Cen…中心軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8