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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029579
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】露光装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G03F7/20 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131914
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 未有
(72)【発明者】
【氏名】千田 悠雅
(72)【発明者】
【氏名】片岡 元樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 敏行
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA05
2H197AA22
2H197AA41
2H197BA03
2H197BA05
2H197CA07
2H197CD12
2H197CD15
2H197CD17
2H197CE01
2H197CE10
(57)【要約】
【課題】柱状又は筒状の立体構造物の外面に不規則なパターンを一括して露光可能な露光装置を提供することである。
【解決手段】本発明に係る露光装置100は、スペックル光を用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光軸AX上に光拡散部材20よりも光源10から離間した位置に配置し、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹面状とされた部分を有する反射面30Aを備える回転軸対称反射ミラー30と、被露光物Mを光軸AXに沿って保持可能な被露光物保持部40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペックル光を用いて被露光物の外面を露光する露光装置であって、
コヒーレント光を発する光源と、
前記光源の光軸上に配置する光拡散部材と、
前記光軸上に前記光拡散部材よりも前記光源から離間した位置に配置し、光軸に対して回転軸対称でありかつ前記光源から視て凹面状とされた部分を有する反射面を備える回転軸対称反射ミラーと、
前記被露光物を光軸に沿って保持可能な被露光物保持部と、を備える、露光装置。
【請求項2】
前記回転軸対称反射ミラーは、前記光源から視て前記光軸上に配置する出口開口を有する、請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記反射面が、半球面状、球面状、楕円面状、放物面状、又は、円錐面状である、請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記光軸に直交する方向から視て前記光拡散部材と前記反射面との間に配置し、前記光拡散部材で発生したスペックル光を遮光する遮光部材を備える、請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項5】
前記遮光部材が、スペックル光を透過可能な透過部分を有するように、離間して配置する複数の遮蔽部からなる、請求項4に記載の露光装置。
【請求項6】
前記複数の遮蔽部の間に位置する前記透過部分に配置して、スペックル光の透過率を変えるフィルターを有する、請求項5に記載の露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料表面にマイクロメートルからサブマイクロメートルの不規則な構造物を加工することで材料にはない機能を付与できることが知られている。表面に作られる構造物の大きさや密度によって機能が大きく変わり広い利用用途がある。
【0003】
付与できる機能として例えば、撥水性や親水性の付与(例えば、ピペットチップ先端への加工による分注残差の改善効果、分注機器や医療機器・分析機器への利用)、高潤滑性の付与(例えば、摺動部の摩耗・摩擦低減効果付与。金属表面に微細加工(ディンプル)を施し、そこに油をためることにより、摺動部の摩耗・摩擦低減効果を得る)、摩擦力の低減効果の付与(例えば、接触面積が減ることによる摩擦力の制御で摺動性向上。自動車業界でのエンジンの燃焼エネルギー向上、劣化抑制による部品の寿命向上)、光拡散特性の付与(例えば、光拡散板として)、高密着性の付与(例えば、ヤモリの足のような構造の付与。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)や生体親和性を高めるハイドロキシアパタイトなどの機能性薄膜の密着性向上、微小な物体の吸着搬送やシール材で利用)、反射防止効果の付与(例えば、サブ波長構造付与によるレンズの反射防止。透明な光学素子や太陽電池などの金属表面で利用)等を挙げることができる。
【0004】
従来、規則的なパターンの微細加工技術として知られ、半導体集積回路の製作等に利用されているリソグラフィ技術では、所定のパターンを有する原版(レチクル、マスク)を用いて光源からの光の透過・遮光を制御して、感光性物質のレジストを表面に備える基板に所定のパターンで光を照射することによって感光させ、その後の現像処理によって感光部を保持または除去することで所定の微細パターンを得るものである。X線やレーザーのような指向性の強い光源を用いる場合は、通過した光を直接被露光物上に照射して露光する。その他の光源では、マスクまたはレチクルを通過した光はレンズまたはミラーを用いた投影光学系、またはレンズとミラーを組み合わせた投影光学系により被露光物上に投影し、マスクまたはレチクル上のパターンの投影像を作って露光する。
【0005】
一方、不規則なパターンの微細加工技術として、スペックル光を利用したリソグラフィ技術が知られている(例えば、特許文献1)。図17に模式的に示すように、レーザー等のコヒーレント光が光拡散部材により散乱すると、光の干渉・回折現象によりスペックル光という空間に不規則な配置・形状の極所的な光強度分布を生じる(図においては、不規則的に配置する膨らみによって不規則な配置・形状の極所的な光強度分布を模式的に示している)。このリソグラフィ技術は、所定のパターンを有する原版を用いず、投影レンズがなくても微細なパターンを転写できる技術として注目されている。このリソグラフィ技術では、感光性樹脂の塗布された表面にスペックル光を当てることで、マイクロメートルからサブマイクロメートルオーダーの微細な感光性樹脂パターンを製作することができる。これをマスキング材として金属エッチングすることで、微細な構造物を金属表面に作ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-140967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されている、拡散板に光をあててスペックル光を発生させ、感光性樹脂を塗布した被露光物体にスペックルを投影することで微細なパターンを転写する方法は平板を対象としたものであり、例えば被露光物の形状が曲面を持った円柱や円筒などの立体構造物の表面には精度よくパターンを転写することができない。これは、マスターとする拡散板が平面であり、スペックル光の極所的な光強度分布はそこからの距離に依存することが分かっているためである。このため、円筒や円柱形状のようにマスターとする拡散板から光が当たる面までの距離が異なると、パターン寸法が変化したり、光強度が弱くてパターン形成ができない状態となる。スペックル光を応用したリソグラフィ技術において、平板以外の立体構造物に対しての露光を実現する手段を示した例はなく、また、円柱の裏側など一方向から光を当てるだけの技術では、光の当たらない部分の加工を同時に行うことができない。
【0008】
近年、平面だけでなく、円筒部品などの曲面を持つ構造物表面への微細加工に強いニーズがある。レーザー加工により円筒表面に微細な加工を施すことで摩擦が低減し、自動車のエンジンの燃焼エネルギー向上、劣化抑制による部品の寿命向上が増大している。これらの微細な構造物の製作方法では、マイクロメーターオーダーの場合は機械加工が用いられ、サブマイクロメーターオーダーの場合にはエネルギービーム(イオンビーム、フェムト秒レーザー(超短パルスレーザー)や熱リソグラフィなどの高出力のレーザー)を用いた直接加工法、電子線やシンクロトロン光を用いた方法が知られており、精度の良い構造物ができあがる。しかしながら、機械加工では、加工時間が長く、加工精度も足りないことが多く、エネルギービームを利用した方法では、レーザー自体が高価であることに加えて、平面以外の多種多様な形状のものに対応できない。このため、製品の試作時に気軽に使えず、また用途が限定的であった。
【0009】
このため、現状では、柱状又は筒状の立体構造物の外面に対して簡便かつ安価に利用できる微細加工手段はない。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、柱状又は筒状の立体構造物の外面に不規則なパターンを一括して露光可能な露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
本発明の態様1は、スペックル光を用いて被露光物の外面を露光する露光装置であって、
コヒーレント光を発する光源と、前記光源の光軸上に配置する光拡散部材と、前記光軸上に前記光拡散部材よりも前記光源から離間した位置に配置し、光軸に対して回転軸対称でありかつ前記光源から視て凹面状とされた部分を有する反射面を備える回転軸対称反射ミラーと、前記被露光物を光軸に沿って保持可能な被露光物保持部と、を備える露光装置である。
【0013】
本発明の態様2は、態様1の露光装置において、前記回転軸対称反射ミラーは、前記光源から視て前記光軸上に配置する出口開口を有する。
【0014】
本発明の態様3は、態様1又は態様2の露光装置において、前記反射面が、半球面状、球面状、楕円面状、放物面状、又は、円錐面状である。
【0015】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの露光装置において、前記光軸に直交する方向から視て前記光拡散部材と前記反射面との間に配置し、前記光拡散部材で発生したスペックル光を遮光する遮光部材を備える。
【0016】
本発明の態様5は、態様4の露光装置において、前記遮光部材が、スペックル光を透過可能な透過部を有するように、離間して配置する複数の遮蔽部からなる。
【0017】
本発明の態様6は、態様5の露光装置において、前記複数の遮蔽部の間に位置する前記透過部分に配置して、スペックル光の透過率を変えるフィルターを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の露光装置によれば、柱状又は筒状の立体構造物の外面に不規則なパターンを一括して露光可能な露光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は、第1実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図であり、(b)は、回転軸対称反射ミラーを光源から光軸方向に平面視した平面模式図である。
図2図1に示した露光装置の変形例の概略構成を示す断面模式図である。
図3】パターン形成の原理を説明するための露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図4】パターン形成の原理を説明するための露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図5】第2実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図6】光拡散部材における散乱光の強度分布と遮光部材による遮光領域の概念図である。
図7】第3実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図8】(a)は光拡散部材における散乱光の強度分布と遮光部材による遮光領域の概念図であり、(b)は、遮光部材を光軸方向から視た平面模式図である。
図9】(a)は、被露光物への光の入射角度とスペックルの極所的に発生する光強度の空間分布を概念的に示す図であり、(b)は(a)で示した被露光物への光の入射角度のときの露光パターンの方向性を概念的に示す図であり、(c)はネガ型レジストへのスペックル光の露光結果を示す写真である。
図10】第3実施形態に係る露光装置の効果を説明するための露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図11】(a)は光拡散部材における散乱光の光強度分布と遮光部材による遮光領域の概念図であり、(b)は、遮光部材を光軸方向から視た平面模式図である。
図12】第4実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図13】光拡散部材における散乱光の光強度分布と遮光部材による遮光領域の概念図である。
図14】第5実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
図15】ステップ露光の手順を示すフロー図である。
図16】(a)はレジストパターンが形成されたステンレスの円柱試料の光学顕微鏡による観察写真であり、(b)は(a)で示した写真の拡大写真であり、(c)はさらに拡大した電子顕微鏡(SEM)での観察写真である。
図17】不規則的に配置する膨らみによって、スペックル光の不規則な配置・形状の極所的な光強度分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
以下、特に説明しない場合でも、一つの実施形態で説明した構成を、他の実施形態に適用してもよい。
【0021】
(第1実施形態)
図1(a)は、第1実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図であり、(b)は、回転軸対称反射ミラーを光源から光軸方向に平面視した平面模式図である。図2図1に示した露光装置の変形例の概略構成を示す断面模式図である。
図1(a)に示す露光装置100は、スペックル光SLを用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光軸AX上に光拡散部材20よりも光源10から離間した位置に配置し、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹面状とされた部分を有する反射面30Aを備える回転軸対称反射ミラー30と、被露光物Mを光軸AXに沿って保持可能な被露光物保持部40と、を備える。
露光装置100によって、被露光物Mの外面Maの周方向を一括で露光することができる。
【0022】
図1(a)に示す露光装置100はさらに、光拡散部材20を支持する光拡散部材支持部60、回転軸対称反射ミラー30を支持する反射ミラー支持部50、光源10を載置する固定台2を介して光源10を支持する光源支持部70、露光装置全体を載置する載置台1を備える。
【0023】
<被露光物>
本実施形態に係る露光装置が露光する被露光物Mは、筒状または柱状の立体物であり、その断面が例えば、円形、楕円形などの外周が曲線である立体物や、四角形などの多角形である立体物である。筒状立体物としては、両端が開放されている中空の筒状立体物や、一端のみ開放され、他端が有底である筒状立体物であってもよい。
露光パターン(レジストパターン)の制御のしやすさの観点では、被露光物は軸対称な形状(例えば、多角柱(中実)、多角筒(中空)、)であることが好ましく、軸回転対称な形状(例えば、円柱(中実)、円筒(中空))であることがより好ましいが、非対称な被露光物であっても露光可能である。
【0024】
被露光物Mとしては例えば、ステンレスや真鍮などの金属製の立体構造物を例示できる。露光の際には、被露光物Mは、その外面Maに感光性物質(レジスト)が所定の厚み(例えば、1μm~数100μm)で付いている状態で露光が実施される。
被露光物Mは例えば、図には記載のないバイス等の保持機構により着脱可能な状態で保持される。
【0025】
<光源、照明光学系>
コヒーレント光を発する光源としては、レーザー、LD(レーザーダイオード)を例示できる。光源は、例えばLDなどであればファイバーで光源からの光を露光装置に導き、FCコネクターで接続することができる。着脱の再現性があることから、光源の波長変更には大掛かりな光学系は不要である。
【0026】
図1(a)に示す露光装置100では、光源10から発せられたコヒーレント光を直接、光拡散部材20に照射される構成であるが、図2に示す露光装置100Aのように、光源10と光拡散部材20との間に照明領域を制御する照明光学系11を有してもよい。光源10から出た光線を照明光学系11(図2に示す例では、11a、11b、11c)で拡大、縮小を行い、所定の大きさで光拡散部材20を照明する。
照明領域を制御する照明光学系には、照明領域の拡大用途でビームエキスパンダーを入れることが好ましい。
【0027】
<光拡散部材>
図1(a)に示す光拡散部材20は透過型であるが、反射型でもよい。
透過型光拡散部材の場合、片面または両面が加工された平板硝子の拡散板でもよい。また、透過型光拡散部材の場合、物質内部で光が拡散するオパールガラスでよい。
反射型光拡散部材の場合、表面が加工された拡散板でもよい。また、反射型光拡散部材の場合、表面に完全拡散物質が塗装されているものでもよい。
【0028】
図1(a)及び以下の図において、光線又は光路長を説明するための点線あるいは2点鎖線について、一部を除き、上側だけを描き、下側を省略している。光拡散部材20の散乱光強度分布の強い角度Soを示すための点線については下側の省略せずに描いている。
【0029】
<回転軸対称反射ミラー>
回転軸対称反射ミラーは、光軸を回転軸として対称な形状であって凹状の反射面を有する。ここで、凹状の反射面とは、光源から視て光源から遠ざかるように凹んだ形状の反射面を意味する。
回転軸対称反射ミラー30は、光源10から発せられたコヒーレント光が光拡散部材20に照射されることによって発生した散乱光(コヒーレント光による散乱光は光の干渉現象によってスペックルという空間に極所的で不規則な光強度変化を持つ斑点模様が生じる。このため、以下、「スペックル光」ということがある。)SLを反射面30Aで反射して被露光物Mに向かうように進行させる。
反射面の材質は、アルミニウム、金、銀、プラチナ、多層膜コートなど露光光源の波長の反射率が高いものを用いることが好ましい。
【0030】
図1に示す回転軸対称反射ミラー30の凹状内面(反射面)は、半球面状であるが、球面状、楕円面状、放物面状、円錐面状であってもよい。反射面が半球面状、球面状、楕円面状、放物面状、又は円錐面状であるとは、半球面の一部、球面の一部、楕円面の一部、放物面の一部、円錐面の一部であることも含む。
また、回転軸対称反射ミラーの凹状内面(反射面)は四角錘などの角形であってもよい。
【0031】
回転軸対称反射ミラー30全体の形状として、反射面の形状と同様な形状をしていてもよい。回転軸対称反射ミラー30は半球面状であるが、後述する回転軸対称反射ミラー32は球面状である。
【0032】
回転軸対称反射ミラー30は一部に穴(開口)を有することが好ましい。
図1(a)に示す回転軸対称反射ミラー30は半球の頂部に開口30ao(以下、「出口開口」ということがある。)を有する。開口30aoを有することによって、光拡散部材20で散乱した散乱光(スペックル光)に中心から周辺に行くに従い光強度分布があったとしても中心の強度が強い光だけを回転軸対称反射ミラーの外部に出す一方で、弱くてより均一な光を柱状または筒状の被露光物Mの外面Maに導き、均一なスペックルパターンを転写することが可能になる。
【0033】
図1(a)に示す回転軸対称反射ミラー30は、入口開口30aiを光源10側に向け、出口開口30aoを光源10の反対側に向けて配置し、その半球の球中心O(当該半球を球の一部としたときのその球の中心)と半球の頂点とを結ぶ仮想直線が光軸AXに一致するように配置する。入口開口30aiは円であり、その半径はRである。
本明細書において「光軸」とは、光源10の出射面の中心と、その光源の出射面の中心から回転軸対称反射ミラー30を平面視して回転軸対称反射ミラー30の幾何中心とを結ぶ仮想的な線をいう。「回転軸対称反射ミラーの幾何中心」は回転軸対称反射ミラーを「光軸」に直交する面に投影した形状の幾何中心である。
【0034】
図1を参照して、出口開口30aoのサイズdは、光拡散部材20との距離L2と光拡散部材20の散乱光強度分布により決まる。光強度分布の強いところを回転軸対称反射ミラー30の外に逃すため、図1のように強い光の角度Soを決め、角度Soを満たす出口開口30aoの直径dを下記式(1)より求めて出口開口30aoを設ける。
【0035】
【数1】
【0036】
回転軸対称反射ミラー30が式(1)を満たすようなサイズの出口開口30aoを有することによって、散乱光の放射角度に光強度分布があったとしても強度分布の中心部の強い光を回転軸対称反射ミラー30の外に逃して、弱くてより均一な光を柱状または筒状の被露光物Mの外面Maに導き、均一なスペックルパターンを転写できる。
【0037】
光拡散部材20及び回転軸対称反射ミラー30の少なくとも一方を光軸AX方向に移動可能な構成とすることによって、光拡散部材20と回転軸対称反射ミラー30との距離L1を調整し、スペックル光が被露光物Mに当たる角度を調整することができる。これにより被露光物に転写されるパターンの形状を制御することができる。
【0038】
<被露光物保持部>
被露光物Mは被露光物保持部によって保持される。被露光物保持部は被露光物の位置や向きを動かす移動機構(被露光物移動機構)を別体で又は一体で備えることが好ましい。
被露光物移動機構は、光軸(光線)方向に並進移動可能な移動機構を有することによって、回転軸対称反射ミラーが移動しない構成である場合でも被露光物Mを回転軸対称反射ミラーの内面側の所定位置へ移動させることができる。
【0039】
図1(a)に示す被露光物保持部40は載置台1に載置されている。被露光物保持部40は、被露光物Mを把持する把持部40aと、把持部40aが載置固定され、z軸に対して回転移動可能なz軸回転ステージ40bと、z軸回転ステージ40bが載置され、z方向(xy面に対して垂直な方向)に並進移動可能なz軸並進移動ステージ40cと、z軸並進移動ステージ40cが載置され、y軸に対して回転移動可能なy軸回転ステージ40dと、y軸回転ステージ40dが載置され、x軸(光軸)方向に並進移動可能なx軸並進移動ステージ40eとを備えている。
被露光物保持部40はさらに、y方向(水平面内で、x方向に直交する方向)に並進移動可能なy軸並進移動ステージ、x軸に対して回転移動可能なx軸回転ステージを備えてもよい。
【0040】
<反射ミラー支持部>
反射ミラー支持部は回転軸対称反射ミラーを下方から支持する。
反射ミラー支持部は、回転軸対称反射ミラーの位置や向きを動かす移動機構(反射ミラー移動機構を備えることが好ましい。
反射ミラー移動機構は、光軸(光線)方向に並進移動可能な移動機構を有することによって、被露光物Mが移動しない構成である場合でも被露光物Mを回転軸対称反射ミラーの内面側の所定位置へ移動させることができる。
【0041】
図1(a)に示す反射ミラー支持部50は載置台1に載置されている。回転軸対称反射ミラー30は、載置台1に載置された反射ミラー支持部50によって支持されている。反射ミラー支持部50は、回転軸対称反射ミラー30を直接支持し、z方向に並進移動可能なz軸並進移動ステージ50aと、z軸並進移動ステージ50aが載置され、y軸に対して回転移動可能なy軸回転ステージ50bと、y軸回転ステージ50bが載置され、x軸(光軸)方向に並進移動可能なx軸並進移動ステージ50cとを備えている。
反射ミラー支持部50はさらに、y方向(水平面内で、x方向に直交する方向)に並進移動可能なy軸並進移動ステージや、x軸に対して回転移動可能なx軸回転ステージ、z軸に対して回転移動可能なz軸回転ステージを備えてもよい。
【0042】
図1(a)に示す露光装置100では、反射ミラー支持部50がx軸並進移動ステージ50cを有するため、被露光物Mを移動させなくても回転軸対称反射ミラー30を光軸方向に並進移動させることによって被露光物Mを回転軸対称反射ミラー30の内面30A側の所定位置へ相対移動させることができる。
また、図1(a)に示す露光装置100では、被露光物保持部40がx軸並進移動ステージ40eを有するため、回転軸対称反射ミラー30を移動させなくても被露光物Mを光軸方向に並進移動させることによって被露光物Mを回転軸対称反射ミラー30の内面30A側の所定位置へ移動させることができる。
さらに、図1(a)に示す露光装置100では、被露光物保持部40のx軸並進移動ステージ40e、及び、反射ミラー支持部50のx軸並進移動ステージ50cの両方を用いて、被露光物M及び回転軸対称反射ミラー30の両者を相対的に光軸方向に並進移動させることによって被露光物Mを回転軸対称反射ミラー30の内面30A側の所定位置へ移動させることができる。
【0043】
<被露光物の位置決め>
バイス(不図示)等に取り付けた被露光物Mはその長手方向の軸が光軸AXに一致するように位置決めすることが好ましい。また、被露光物Mの所望の露光領域にスペックル光が当たるように長手方向の位置決めを行うことが好ましい。
位置決めが難しい場合は、光源をレジストの非感光波長に変更して光拡散部材を照明することで解決できる。光拡散部材から発せられたスペックル光は回転軸対称反射ミラーに当たり、反射されて光軸上に線状に集まる。この線状に集まった光に被露光物Mが一致するように被露光物Mを保持する被露光物保持部40で調整する。調整が完了したら、光源からレジストの感光波長である光を照明する。
【0044】
別方法としては、被露光物とは異なる位置決め用の被露光物を用いて予め位置決めを実施した後に、被露光物Mに変更して露光するという方法もある。
【0045】
被露光物Mの位置決めが完了したところで、レジストの感光波長を持つ露光光源にて、所定の時間にて露光を行う。被露光物Mは露光後に現像処理を行うことにより、レジストパターンを形成する。ポジ型レジストを用いた場合は、光が当たったところのレジストが除去され、ネガ型レジストを用いた場合は、光が当たったところが構造物として残る。
【0046】
<光拡散部材支持部>
光拡散部材支持部は光拡散部材を下方から支持する。
光拡散部材支持部は、光拡散部材の位置や向きを動かす移動機構(光拡散部材移動機構)別体で又は一体で備えることが好ましい。
【0047】
図1(a)に示す光拡散部材支持部60は載置台1に載置されている。光拡散部材20は、載置台1に載置された光拡散部材支持部60によって支持されている。光拡散部材支持部60は、光拡散部材20を支持する支持部60aと、支持部60aが載置され、z方向に並進移動可能なz軸並進移動ステージ60bと、z軸並進移動ステージ60bが載置され、y軸に対して回転移動可能なy軸回転ステージ60cと、y軸回転ステージ60cが載置され、x軸(光軸)方向に並進移動可能なx軸並進移動ステージ60dとを備えている。
【0048】
露光パターン(レジストパターン)の大きさや密度は、光拡散部材20から被露光部Mの外面Maまでの光路長Lに依存する。
図1(a)に示す露光装置100では、光拡散部材支持部60がx軸並進移動ステージ60dを有するため、x軸並進移動ステージ60dを用いて光拡散部材20を被露光物Mに対して相対的にx軸(光軸)方向に並進移動させることによって、レジストパターンの大きさや密度を変えることや調整することができる。
図1(a)に示す露光装置100では、被露光物保持部40のx軸並進移動ステージ40eや反射ミラー支持部50のx軸並進移動ステージ50cを用いても、光拡散部材20から被露光部Mの外面Maまでの光路長Lを変えてレジストパターンの大きさや密度を変えることや調整することができる。
図1(a)に示す露光装置100では、光拡散部材支持部60のx軸並進移動ステージ60d、被露光物保持部40のx軸並進移動ステージ40e及び反射ミラー支持部50のx軸並進移動ステージ50cのいずれかを用いて、あるいは、それらのうち、2つ以上を用いて、光拡散部材20から被露光部Mの外面Maまでの光路長Lを変えてレジストパターンの大きさや密度を変えることや調整することができる。
【0049】
<光源支持部>
光源支持部は光源を下方から支持する。
光源支持部は、光源の位置や向きを動かす移動機構(光源移動機構)別体で又は一体で備えることが好ましい。
【0050】
図1(a)に示す光源支持部70は載置台1に載置されている。光源10は、載置台1に載置された光源支持部70によって固定台2を介して支持されている。光源支持部70は、z軸に対して回転移動可能なz軸回転ステージ70aと、z軸回転ステージ70aが載置され、z方向(xy面に対して垂直な方向)に並進移動可能なz軸並進移動ステージ70bと、z軸並進移動ステージ70bが載置され、y軸に対して回転移動可能なy軸回転ステージ70cと、回転ステージy軸回転ステージ70cが載置され、x軸(光軸)方向に並進移動可能なx軸並進移動ステージ70dとを備えている。
光源支持部70はさらに、y方向(水平面内で、x方向に直交する方向)に並進移動可能なy軸並進移動ステージ、x軸に対して回転移動可能なx軸回転ステージを備えてもよい。
【0051】
図2に示す光源支持部70Aも光源支持部70と同様に載置台1に載置されている。光源10及び照明光学系11は、載置台1に載置された光源支持部70Aによって固定台2を介して支持されている。光源支持部70Aは、z軸に対して回転移動可能なz軸回転ステージ70Aaと、z軸回転ステージ70Aaが載置され、z方向(xy面に対して垂直な方向)に並進移動可能なz軸並進移動ステージ70Abと、z軸並進移動ステージ70Abが載置され、y軸に対して回転移動可能なy軸回転ステージ70Acと、回転ステージy軸回転ステージ70Acが載置され、x軸(光軸)方向に並進移動可能なx軸並進移動ステージ70Adとを備えている。
光源支持部70Aはさらに、y方向(水平面内で、x方向に直交する方向)に並進移動可能なy軸並進移動ステージ、x軸に対して回転移動可能なx軸回転ステージを備えてもよい。
【0052】
<パターン形成の原理>
レーザー等のコヒーレント光が光拡散部材により散乱すると、光の特性によりスペックル光という空間に極所的で不規則な光強度分布を持つ斑点模様が生じる。このスペックル光は光源の波長、光拡散部材の照明領域、光拡散部材の粗さ特性、光拡散部材から投影面までの距離によって模様の大きさや密度が異なる。このため、この光の特性を利用したスペックル光リソグラフィ技術で作られたレジストパターンは、露光波長(λ)、照明領域(A)、光拡散部材から被露光物までの距離(L)、光拡散部材の表面の粗さ特性(X)、露光時間(t)により、大きさ(B)やパターン密度(D)が変化する。小さい形状のレジストパターンを製作したい場合は、露光波長を短く、照明領域を大きく、光拡散部材から被露光物までの距離を短くするために回転軸対称反射ミラーの半径(R)を小さく、または、被露光物の半径(r)を大きくする、光拡散部材の表面粗さは小さくする。露光時間に関しては、ネガ型レジストを用いる場合は短くするとレジストパターンは小さくなる。ポジ型レジストを用いる場合は、露光時間を短くすると、点状の穴パターンが小さくなる。
この関係を、図3及び図4を用いて詳細に説明する。以下は、従来の像を形成する結像光学系では成り立たない作用効果であり、スペックル光という光の干渉・回折現象により生じる光の極所的な強度分布を利用した本発明ならではの作用効果である。
【0053】
図3を参照して、レジストパターンの大きさ(B)及びパターン密度(D)と、露光波長(λ)、照明領域(A)、光拡散部材から被露光物の露光表面までの光路長(L)、光拡散部材の表面の粗さ(X)及び露光時間(t)とは以下の式(2)が成立する。
【0054】
【数2】
・・・(2)
【0055】
式(2)で、回転軸対称反射ミラーの曲率半径(R)を変更すると、光路長(L)が変化する。このため、光路長(L)は反射ミラーの曲率半径(R)の関数である。
また、光路長(L)は被露光物の半径(r)にも影響し、半径(r)が大きくなれば光路長(L)が短くなる。
【0056】
さらに、図4を参照して、遮光部材(後述)等がなく、また遮光部材があっても広めの散乱角度θinがミラーに入射する場合は、回転軸対称反射ミラーの曲率半径Rにより光がθoutのように集光することから、パターンの大きさや密度は次の式(3)ように変化する。つまり、θoutが大きいほどパターンは微細化する。θoutは、回転軸対称反射ミラーの形状によっても変化する。
【0057】
【数3】
・・・(3)
【0058】
レジストの塗布方法としてはスピンコート法、スプレー法など公知の方法を用いることができる。簡易に実施する場合は、柱状または筒状の被露光物の場合はレジスト液に被露光物を漬けてから引き抜くというディップ法を用いる。引き抜き速度を変化させる事で円柱状または筒状の被露光物の表面に塗布されるレジスト膜厚を制御することができる。
【0059】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
第2実施形態に係る露光装置は、光拡散部材と被露光物との間の光軸上に配置し、光拡散部材で発生したスペックル光の進行を妨げる遮光部材を備える点が、第1実施形態に係る露光装置との主な差異である。
以下、第1実施形態に係る露光装置と共通する構成要素については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0060】
図5に示す露光装置200は、スペックル光SLを用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光源10と被露光物Mとの間に配置する光拡散部材20と、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹状形状とされた反射面30Aを有する回転軸対称反射ミラー30と、被露光物Mを光軸AXに沿って延在するように保持可能な被露光物保持部40と、光拡散部材20と被露光物Mとの間の光軸AX上に配置し、光拡散部材20で発生したスペックル光の進行を妨げる遮光部材90を備える。
図5に示す露光装置200では、図2に示した露光装置100Aと同様に、照明光学系11を備えるが、図1に示した露光装置100と同様に、照明光学系11を備えない構成とすることもできる。
【0061】
<遮光部材>
遮光部材90は、光拡散部材20と被露光物Mとの間の光軸AX上に配置する。
遮光部材90の形状としては例えば、円板状の遮光板とすることができる。
遮光部材90の材料としては例えば、黒色の植毛紙や微細構造が付与された光吸収材料とすることができるが、光を反射あるいは吸収できる材料であれば特に制限はない。
遮光部材90は、回転軸対称反射ミラー30内に位置している。すなわち、光軸AXに直交するy軸方向から視て、遮光部材90は回転軸対称反射ミラー30の外周30Pより出口開口30ao側に配置するが、これに限定されず、回転軸対称反射ミラー30外に位置してもよい。
【0062】
図6は、光拡散部材における散乱光の放射角度の光強度分布と遮光部材90による遮光領域の概念図である。横軸は光軸に対する散乱角度(deg.)であり、縦軸は散乱光強度(a.u.)である。図6に示すように、光強度は光軸(グラフ中の点線)において最大で散乱角度が大きくなるにつれて大幅に低減する。光軸近傍の強度が強い光(例えば、図中のSwの範囲)は露光による加工パターンの制御が難しいため、被露光物Mの前に遮光部材90を配置し、強度が強い光を遮光部材90で反射又は吸収することによって、露光に関与させないものとする。
【0063】
遮光部材90の大きさは、遮光部材90と光拡散部材20との距離L3と、光拡散部材20の散乱光強度分布により決まる。中心の光強度分布の強いところを遮光するため、図6に示すように、遮光したい角度Swを決め、Swを満たす遮光部材の直径dcを下記式(4)より求めて設置する。
【0064】
【数4】
【0065】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
第3実施形態に係る露光装置は、光拡散部材と被露光物との間の光軸上に配置し、光拡散部材で発生したスペックル光のうち、光強度分布の強いところを遮光する遮光部材を備える点は第2実施形態に係る露光装置と共通するが、第3実施形態に係る露光装置が備える遮光部材は、光強度分布の強いところを遮光する部分以外に、回転軸対象反射ミラーに入射する散乱角度を制限する部分を有する点が、第2実施形態に係る露光装置との主な差異である。
以下、第1実施形態に係る露光装置と共通する構成要素については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図7に示す露光装置300は、スペックル光SLを用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光源10と被露光物Mとの間に配置する光拡散部材20と、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹面状とされた反射面30Aを有する回転軸対称反射ミラー30と、被露光物Mを光軸AXに沿って延在するように保持可能な被露光物保持部40と、光拡散部材20と被露光物Mとの間の光軸AX上に配置し、同心円状に離間して配置する遮光部91a、91bを有する遮光部材91を備える。
図7に示す露光装置300は、図2に示した露光装置100Aや図5に示した露光装置200と同様に、照明光学系11を備える構成であるが、図1に示した露光装置100と同様に、照明光学系11を備えない構成とすることもできる。
【0067】
<遮光部材>
遮光部材91は、同心円状に離間して配置する中央部91aと外側環状部91bとを有する。中央部91aは、図5に示した遮光部材90と同様に、光軸近傍の強度が強い光を遮光することができる。また、遮光部材91は中央部91aと外側環状部91bとの間の透過部T以外の散乱光を遮光し、透過部Tだけで散乱光を通す。このように、回転軸対称反射ミラー30内に入る散乱光の散乱角度を制限することによって、光が当たる反射面30Aの範囲を制限し、その結果、被露光物Mに当たる光の角度を制御することができる。
【0068】
図8(a)に、光拡散部材における散乱光の放射角度の光強度分布と遮光部材91による遮光領域の概念図を示す。横軸は光軸に対する散乱角度(deg.)であり、縦軸は散乱光強度(a.u.)である。図8(b)は、遮光部材91を光軸AX方向から視た平面模式図である。
【0069】
図8(a)に示すように、光強度は光軸(グラフ中の点線)において最大で散乱角度が大きくなるにつれて大幅に低減する。光軸近傍の強度が強くて急峻に強度が変化する光は露光による加工パターンの制御が難しいため、被露光物Mの前に遮光部材91の中央部91aを配置し、強度が強い光を遮光部材91の中央部91aで反射又は吸収することによって、強度が強い光を露光に関与させないものとする点は、遮光部材90と同様である。
【0070】
さらに、光強度分布の入射する散乱角度を制限するために、図8(a)のように遮光したい角度Siを決め、Siを満たす透過部Tの直径diを下記式(5)より求め設定する。中央部91aの直径dcや出口開口30aoの直径doは、前述の実施形態と同じ算出方法で設定する。
【0071】
【数5】
【0072】
図8(b)に示すような遮光部材91を用いることの1つめの効果は、露光パターン製作に不要な光をカットすることが可能となり、精度の良いパターンを形成することが可能となる。
【0073】
図8(b)に示すような遮光部材91を用いたことの2つめの効果を、図9を用いて説明する。図9(a)は、被露光物Mへの光の入射角度とスペックルの光強度の空間分布を概念的に示す図であり、(b)は(a)で示した被露光物Mへの光の入射角度のときの露光パターンの方向性を概念的に示す図であり、(c)はネガ型レジストへのスペックル光の露光結果を示す写真である。ネガ型レジストはMICROCHEM社製 SU-8を用い、厚さ50μmに塗布した被露光物に対して、垂直に光を入れた場合の露光パターンである。
【0074】
図9(a)に示すように被露光物Mへの光の入射角度が被露光物Mの外面に対して角度θのとき、図9(b)に示すように被露光物Mに形成される露光パターンの方向も被露光物Mの外面に対して角度θ程度になり、図9(c)に示したような露光パターンを得ることができる。これは図9(a)に示すように、スペックル光がランダムな特性を持ちつつ奥行き方向に伸びた光強度を持っているという特性からなるものである。このように光の入射方向を制御することで、立体的なパターンの方向性を変化させることができる。
【0075】
図10を用いて、3つめの効果を説明する。
符号xは光拡散部材20と遮蔽部材91との距離、符号dは光軸AXと外側環状部91bの光軸AX側端面との距離(透過部Tの半径)、符号dは光軸AXと中央部91aの光軸AXから遠い側の端面との距離(中央部91aの半径)、符号θは回転軸対称反射ミラー30内への散乱光の入射可能な最大散乱角であり、符号θは回転軸対称反射ミラー30内へ散乱光の入射可能な最小散乱角であり、符号Lは光拡散部材20から回転軸対称反射ミラー30までの光路長であり、符号Lは光拡散部材20から回転軸対称反射ミラー30までの光路長である。符号θinは回転軸対称反射ミラー30内へ入射可能な散乱光の散乱角範囲であり、符号θoutは被露光物Mの外面へ入射する光(露光に寄与する光)の角度範囲である。
これらのパラメータは以下の関係を有する。
【0076】
【数6】
【0077】
図8において、透過部Tの直径を変える等によって散乱角範囲θinを変えることによって、θoutを制御することにより、パターンの寸法を制御することができる。θoutが大きくなるほど製作するパターン寸法は小さくなり、θoutが小さくなるほど製作するパターン寸法は大きくなる。
【0078】
図11(b)に示すように、遮光部材を、遮光部材91における透過部Tに透過率を変化させることのできるフィルターFを備えた構成とすることができる。このような構成の遮光部材92を用いると、上記の効果に加えて、被露光物に入射する光の強度分布を均一化することができるために、均一なパターンを製作することができる。
具体的には、光拡散部材20から発生した照射したレーザ光は、図11(a)に示すように中心ほど光強度が強く、散乱角度が大きくなるほど光強度が弱くなるような散乱光強度分布がある。この散乱光強度分布を考慮して、利用する散乱角度の光強度が均一になるように、透過率を濃淡分布により変化させたフィルターFを用いることで、散乱光の角度依存性を低減して、より均一な光にすることが可能である。
フィルターFとしては例えば、グレースケールのグラデーションマスクや段階的に変化するフォトマスクなど、ドットの配置比率によって濃淡を変化させるものを用いることができる。
【0079】
(第4実施形態)
図12は、第4実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
第4実施形態に係る露光装置は、回転軸対象反射ミラーが球体である点が、第1実施形態から第3実施形態に係る露光装置との主な差異である。回転軸対象反射ミラーが球体であり、光拡散部材20発生した散乱光が回転軸対象反射ミラー内に入る入口開口の大きさによって、散乱光の回転軸対象反射ミラー内への入射角度範囲を制限することができる。
以下、第1実施形態に係る露光装置と共通する構成要素については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0080】
図12に示す露光装置300は、スペックル光SLを用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光源10と被露光物Mとの間に配置する光拡散部材20と、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹面状とされた部分を有する球面状反射面31Aを備える回転軸対称反射ミラー31と、被露光物Mを光軸AXに沿って延在するように保持可能な被露光物保持部40と、回転軸対称反射ミラー31内の、光拡散部材20と被露光物Mとの間の光軸AX上に配置し、光拡散部材20で発生したスペックル光の進行を妨げる遮光部材90を備える。
図12に示す露光装置300は、図2に示した露光装置100Aや図5に示した露光装置200と同様に、照明光学系11を備える構成であるが、図1に示した露光装置100と同様に、照明光学系11を備えない構成とすることもできる。
【0081】
球面状の反射面31Aを有する回転軸対称反射ミラー31は、入口開口31aiを光源10側に向け、出口開口31aoを光源10の反対側に向けて配置し、その球中心は光軸AXに一致するように配置している。入口開口31aiは円であり、その直径はdiである。出口開口31aoも円であり、その直径はdoである。入口開口31ai及び出口開口31aoは散乱分布が円形に広がっていることから露光のばらつきを低減する観点で円であることが好ましいが、円に限定されない。回転軸対称反射ミラーが四角錘形状の場合は入口開口及び出口開口は四角であることが好ましい。
【0082】
遮光部材90は、回転軸対称反射ミラー31内のほぼ中心に配置して、強度が強い光を遮光部材90で反射又は吸収することによって、強度が強い光で被露光物Mが直接露光されることを防止している。
【0083】
入口開口31aiの大きさや、光拡散部材20と入口開口31aiとの間の距離L4によって、光拡散部材20で散乱した光の回転軸対称反射ミラー31内の反射面31Aに入射する角度を調整することができる。
【0084】
図12に示す露光装置300において、遮光部材90は球体である回転軸対称反射ミラー31の中心よりも被露光物M寄りに配置して、強度が強い光を遮光部材90で反射又は吸収することによって、強度が強い光を露光に関与させないものとしている。
【0085】
本実施形態の露光装置においては、回転軸対象反射ミラーが球体である構成を採用することによって、被露光物に当たる光の角度を制御する。
図12に示す露光装置300においては、球体状の回転軸対称反射ミラー31が入口開口31aiを備えることによって、光拡散部材20で散乱した光の最大角度を制限する。
入口開口31aiの大きさ(直径)diは、入口開口31aiと光拡散部材20との間の距離L4、及び、光拡散部材20の散乱光強度分布により決まる。
【0086】
図13は、光拡散部材における散乱光の放射角度の光強度分布と遮光部材90による遮光領域の概念図である。横軸は光軸に対する散乱角度(deg.)であり、縦軸は散乱光強度(a.u.)である。
【0087】
光強度分布の入射する角度を制限するために、図12に示すように遮光したい角度Siを決め、Siを満たす入口開口の直径diを下記式より求め設定する。遮光部材の直径dc及び出口開口の直径doは、前述の実施形態と同じ算出方法で設定する。
【0088】
【数7】
【0089】
本実施形態では、簡易的に回転軸対称反射ミラーの形状を球体にすることで入口開口を設置した構成としたが、入口開口を設置できれば球体であることに限定されない。例えば、上記実施形態のような半球型の回転軸対称反射ミラーを用いた場合でも、回転軸対称反射ミラーとは別の部品を用いて入口開口を設定する構成でもよい。
【0090】
(第5実施形態)
図14は、第5実施形態に係る露光装置の概略構成を示す断面模式図である。
第5実施形態に係る露光装置は、回転軸対象反射ミラーの反射面が円錐面状である点が、第1実施形態から第4実施形態に係る露光装置との主な差異である。円錐面状とすることで曲面状に対して集光・拡散効果を抑えて、ネガ型の厚膜レジストに対して図9(b)で示した立体的なパターンを作り出しやすくなる。
以下、第1実施形態に係る露光装置と共通する構成要素については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0091】
図14に示す露光装置400は、スペックル光SLを用いて被露光物Mの外面Maを露光する露光装置であって、コヒーレント光を発する光源10と、光源10と被露光物Mとの間に配置する光拡散部材20と、光軸AXに対して回転軸対称でありかつ光源10から視て凹面の円錐面状の反射面32Aを備える回転軸対称反射ミラー32と、被露光物Mを光軸AXに沿って延在するように保持可能な被露光物保持部40とを備える。
図14に示す露光装置400は、図2に示した露光装置100Aや図5に示した露光装置200と同様に、照明光学系11を備える構成であるが、図1に示した露光装置100と同様に、照明光学系11を備えない構成とすることもできる。
【0092】
(露光方法)
本発明に係る露光装置を用いて、以下の工程すなわち、
・光源からの光を光拡散部材に当てる工程、
・光拡散部材で散乱した光を、回転軸対称反射ミラーを用いて光軸上に直線状に集める工程、
・感光性物質を塗布した柱状又は筒状の被露光物を光軸の直線状に集まった光の位置に設置する工程、
所定時間、被露光物に散乱光を当てて露光する工程、
と、を実施して被露光物を露光できる。
【0093】
露光面積を増やす場合は、柱状又は筒状の被露光物を光軸方向に移動させる工程と、
移動後に光源を点灯して露光を開始する工程と、それらの工程を繰り返し所定の露光面積になるまで繰り返すステップ露光工程と、を実施する。
レジストパターンの形状を変える場合は、光拡散部材と被露光物の間に、同心円状に開口部を制限した遮光部と透過部とを持つ遮光部材(図8(b)の遮光部材91、図11(b)の遮光部材92参照)を設置する工程と、光源を点灯し露光する工程とを有する。
【0094】
(露光の手順)
図15のフロー図を用いて、一例としてステップ露光の手順を説明する。
まず準備工程として、ステップS1では、被露光物に感光性物質を付着させる。感光性物質はレジストと呼ばれ、特定の波長帯域の光が当たると反応する樹脂である。例えばSU-8等のネガ型のレジストを用いると光が当たったところだけが感光して、現像処理により光が当たったところのレジストパターンが残る。THMR-iP3300等のポジ型のレジストを用いると光が当たったところだけが感光して、現状処理により光が当たったところのレジストパターンが除去される。塗布方法は、感光性物質を噴霧または感光性物質に漬けてから引き抜く方法(ディップコート法)により被露光物の内面に均一に付着することができる。膜の厚みは1μmから数100μmと任意に調整可能である。
【0095】
ステップS2では、あらかじめ被露光物と同等の形状のものを露光装置に設置して、被露光物、回転軸対称反射ミラー等の位置関係を調整する。
【0096】
ステップS3では、実際に露光を行う対象である被露光物を、被露光物を固定するためのチャック(不図示)に取り付ける。
ステップS4では、所望の光拡散部材を設置する。
ステップS5では、光源の電源をONして光拡散部材に所定の時間だけ光を照射して、被露光物への露光を開始する。
【0097】
ステップS6では、所定の露光量に達するまで露光を継続する。
ステップS7では、所定の露光量に達したら、光源の電源をOFFにする。
ステップS8では、被露光物の他の箇所の露光を行うか判断する。
ステップS9では、他の箇所の露光を行う場合は、被露光物を取り付けた状態で、被露光物を設置している被露光物保持部が備える移動機構を用いて、被露光物の軸方向および/または軸に対して回転する方向に移動させて、他の箇所への露光を開始する。露光を行う他の箇所がなくなったら、露光を終了する。
【0098】
ステップS10では、被露光物を着脱して現像処理を行う。現像処理により、所定の感光性物質のパターンが形成される。
ステップS11では、必要に応じて、エッチング処理やめっきを施す。感光性物質のパターンはエッチングのマスキング材として利用できるために被露光物から所定のパターンを除去することができる。また、めっきをすることで感光性物質のパターンで覆われているところにはめっきが直接付着せず、綺麗な所定の雄パターンを作ることができる。
【0099】
以上のステップでは、ベークやポストエクスポージャーベイクなどの一般的に露光で行われる詳細は省略している。
【0100】
感光性樹脂パターンを連続的に転写したい場合は、ステップS6において、光源の光を照射したまま連続的に被露光物を動かすスキャン露光を実施する。被露光物を光軸方向に水平移動させることで直線的なパターンを露光できる。
【0101】
以上のステップにより、被露光物の外面に一括して不規則なパターンを転写することができる。
【0102】
移動・回転しながら露光する場合、被露光物及び回転軸対称反射ミラーの一方だけを移動・回転してもよいし、被露光物及び回転軸対称反射ミラーの両方を相対的に移動して、回転軸対称反射ミラーと被露光物との相対位置が変わるように行ってもよい。
【実施例0103】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
[実施例1]
本発明に係る露光装置を用いて露光を行ってレジストパターンを製作した。
図16は、レジストにネガ型レジストとしてPMER CA3000(東京応化工業株式会社)を用い、ディップ法にて10μmの厚みに塗布した直径2mmのステンレスの円柱試料を用いて露光、現像処理した後の結果である。
【0105】
図16(a)は、レジストパターンが形成されたステンレスの円柱試料の写真である。左側のつやがあって光っている先端部は露光加工されていない部分である。(b)は拡大写真である。(c)はさらに拡大した電子顕微鏡(SEM)像である。10μm程度の径の不規則な形状の穴が形成されているのがわかる。
【0106】
本発明に係る露光装置を用いれば、以下のように、柱状又は筒状の被露光物の表面にレジストパターンを形成することができる。
コヒーレント光を光拡散部材に当て、スペックル光という散乱光による不規則な(ランダムな)配置でランダムな形状の光強度を発生させる。次いで、スペックル光に対向する方向に、回転軸対称反射ミラーと感光性物質を塗布した柱状又は筒状の被露光物を設置し、このスペックル光を、感光性物質を塗布した柱状又は筒状の被露光物の長手方向の軸に一致するように配置することで、柱状又は筒状の被露光物の外面の周方向及び長手方向に一括でスペックル光の光強度分布を転写することができる。
【符号の説明】
【0107】
10 光源
20 光拡散部材
30、31、32 回転軸対称反射ミラー
30A、31A、32A 反射面
40 被露光物保持部
100、100A、200、300、400、500 露光装置
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