(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029623
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】直翅目昆虫加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240228BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20240228BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20240228BHJP
A23L 13/40 20230101ALN20240228BHJP
A23L 13/60 20160101ALN20240228BHJP
A23L 11/00 20210101ALN20240228BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23L27/10 B
A23L23/00
A23L13/40
A23L13/60 Z
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131979
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】522333730
【氏名又は名称】株式会社BugMo
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】相良 昌寛
【テーマコード(参考)】
4B020
4B035
4B036
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B020LB19
4B020LG01
4B020LK13
4B035LC01
4B035LC03
4B035LG41
4B035LP01
4B036LC01
4B036LF01
4B036LH42
4B042AC03
4B042AC05
4B042AD20
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK14
4B047LB02
4B047LE01
4B047LF04
4B047LF08
4B047LG50
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、直翅目昆虫本来の味及び風味を維持し、直翅目昆虫特有の外骨格による不快な食感が改良され、かつ、食品に添加することで旨味成分等の直翅目昆虫由来の味の持続をしっかりと感じられる直翅目昆虫加工食品を提供することである。
【解決手段】直翅目昆虫の0.5mm2以下の外骨格存在割合が10%以上であり、湿式加熱された直翅目昆虫加工食品。さらに、直翅目昆虫の0.1mm2以下の外骨格存在割合が50%以下である、直翅目昆虫加工食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直翅目昆虫が湿式で加熱処理された直翅目昆虫加工食品であって、
前記直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が10%以上である、直翅目昆虫加工食品。
【請求項2】
前記直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が70%以上である、請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品。
【請求項3】
さらに、直翅目昆虫における0.1mm2以下の外骨格の存在割合が50%以下である、請求項2に記載の直翅目昆虫加工食品。
【請求項4】
水分量が、70~90%である、請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品。
【請求項5】
請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、調理製品。
【請求項6】
請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、旨味向上剤。
【請求項7】
請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、旨味の持続性向上剤。
【請求項8】
請求項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、素材の香味向上剤。
【請求項9】
直翅目昆虫を湿式で加熱する湿式加熱工程、
水添加工程、及び、
破砕工程を備え、
直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が10%以上である、直翅目昆虫加工食品の製造方法。
【請求項10】
前記水添加工程が、直翅目昆虫100質量部に対して、25~100質量部の水を添加することを特徴とする、請求項9に記載の直翅目昆虫加工食品の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の製造方法から得られた直翅目昆虫加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直翅目昆虫加工食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2022年の世界の人口は、79億人を超えており、1900年の人口(約15億人)と比べて5倍以上増加している。世界の人口はさらに増え続け、2055年には100億人を超えると予想されている。このような人口増加が続けば、将来的に必ず食糧不足に陥り、タンパク質供給が追い付かなくなると言われている。
そこで、獣肉(食用肉)に代わる代替タンパク質として、大豆ミート等の植物肉(ベジタブルミート)が注目されている。
しかしながら、大豆ミートから、例えば、ハンバーグを製造した場合、風味又は食感が、獣肉由来のものにはほど遠く、さらに大豆独特の臭い(青臭さ)が残るという問題があった。このように、大豆をタンパク源にするには、味及び食感に問題があることが知られている。
そこで、近年、タンパク源の一つとして、動物性のタンパク質である、昆虫が注目されている。
【0003】
もともと日本においては、古くから、イナゴ、蜂の子等の昆虫を食べる(昆虫食)文化があり、例えば、イナゴの佃煮のように、昆虫の姿のままで味付け加工した食品も知られている。
また、近年、養殖効率の良さからコオロギ等の直翅目昆虫が、世界的に、昆虫食の候補として注目を集めている。
例えば、ベトナムをはじめとする東南アジアでは、コオロギの素揚げ等を料理として提供している。これは、他の獣肉では味わえない、コオロギ本来の味を感じられる料理といえる。
また、イスラム教には、生活に関わるすべてのモノ及び行動に戒律があり、食べ物に関しても「食べることが許されているもの(ハラル)」と「食べることが禁じられているもの(ハラム)」が細かく定められている。ハラルフードとは、イスラム教において食べることが許されている食品又は料理のことであるが、コオロギ、バッタ等は、一部ハラル認定を受けている食材である。
そして、肉、乳製品、卵、その他の動物性製品等を購入したり、食べたりしない人のことを指す、ベジタリアン、ビーガン(完全菜食主義者)の一部は、必須ビタミンであるビタミンB12不足になることが問題とされている。これらベジタリアン、ビーガンの一部は、昆虫食を食べてもよいとする者もいる。コオロギ等の昆虫には、ビタミンB12が豊富に含まれていることから、昆虫食が注目を集めている。
しかしながら、多くの昆虫は、外骨格が硬いので口に残る等の不快な食感が問題となっている。さらに、見た目、イメージ、飼育方法、生産効率、安全性(寄生虫、ウイルス、細菌等)等の様々な問題があることから、日本では昆虫食はあまり普及していないのが現状である。
見た目及び食感の問題点を無くす目的として、粉末、濃縮液等の昆虫の形がない原料形態にすることで、幅広い食品へ添加、混合等をすることができる。
【0004】
しかしながら、粉末、濃縮液等の形態にした場合、粉末化するための乾燥加熱工程で、昆虫特有の臭みが濃縮され、不快な風味となるという課題も発生する。
そこで、昆虫由来食材の脱臭方法が開発されてきている。例えば、特許文献1には、乾燥状態の直翅目昆虫の原料素材が高圧下で水液通過処理を受けて、タンパク質残留率90%以上でかつ脱臭された粉末とされていることを特徴とする適食化処理された直翅目昆虫由来食材が記載されている。
しかしながら、特許文献1の手法では、脱臭のための製造プロセスが煩雑であり、製造コストが高くなるものと考えられる。
【0005】
また、一般的に、コオロギ等の昆虫を粉末化した乾燥粉末は、乾燥加熱工程で内容成分が加熱変性するため、加熱劣化臭等が発生し、不要な風味まで粉末に付与され、味が劣化する等のコオロギ本来の味及び風味が損なわれるという問題点があった。
【0006】
そこで、加熱劣化臭等の不要な風味が抑制され、素材の本来の味及び風味を感じることができる直翅目昆虫加工食品が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、直翅目昆虫本来の味及び風味を維持し、かつ、食品に添加することで旨味成分等の直翅目昆虫由来の味の持続をしっかりと感じられる直翅目昆虫加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法で得られた直翅目昆虫加工食品が、加熱劣化臭等の不要な風味が抑制され素材本来の味及び風味を維持され、かつ、食感が改良されることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0011】
項1.
直翅目昆虫が湿式で加熱処理された直翅目昆虫加工食品であって、
前記直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が10%以上である、直翅目昆虫加工食品。
項2.
前記直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が70%以上である、項1に記載の直翅目昆虫加工食品。
項3.
さらに、直翅目昆虫における0.1mm2以下の外骨格の存在割合が50%以下である、項2に記載の直翅目昆虫加工食品。
項4.
水分量が、70~90%である、項1に記載の直翅目昆虫加工食品。
項5.
項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、調理製品。
項6.
項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、旨味向上剤。
項7.
項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、旨味の持続性向上剤。
項8.
項1に記載の直翅目昆虫加工食品を含む、素材の香味向上剤。
項9.
直翅目昆虫を湿式で加熱する湿式加熱工程、
水添加工程、及び、
破砕工程を備え、
直翅目昆虫における0.5mm2以下の外骨格の存在割合が10%以上である、直翅目昆虫加工食品の製造方法。
項10.
前記水添加工程が、直翅目昆虫100質量部に対して、25~100質量部の水を添加することを特徴とする、項9に記載の直翅目昆虫加工食品の製造方法。
項11.
項9又は10に記載の製造方法から得られた直翅目昆虫加工食品。
項12.
E型粘度計で測定した粘度が、1000~10000mPa・sである、項1に記載の直翅目昆虫加工食品。
【0012】
なお、本発明のうち、製造工程で規定された直翅目昆虫加工食品は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直翅目昆虫本来の味及び風味を維持し、かつ、食品に添加することで旨味成分等の直翅目昆虫由来の味の持続をしっかりと感じられる直翅目昆虫加工食品を提供することができる。
また、本発明によれば、直翅目昆虫特有の外骨格による不快な食感が改良された直翅目昆虫加工食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、試料1の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図3】
図3は、試料2の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試料3の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図7】
図7は、試料3の1.3mm
2以下の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図8】
図8は、試料3(1.3mm
2以下)の写真及び画像である。
【
図9】
図9は、試料4の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図11】
図11は、試料4の1.3mm
2以下の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図12】
図12は、試料4(1.3mm
2以下)の写真及び画像である。
【
図13】
図13は、試料5の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図15】
図15は、試料5の1.3mm
2以下の外骨格の粒子サイズごとの存在割合を示すグラフである。
【
図16】
図16は、試料5(1.3mm
2以下)の写真及び画像である。
【
図17】
図17は、試料3、4及び5の外観の写真、及びドリップ量を説明する写真である。
【
図18】
図18は、試料4、6、7及び8の遊離アミノ酸総量(pmol)の抽出回数による推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
直翅目昆虫加工食品
本発明の直翅目昆虫加工食品について詳細に説明する。
【0016】
本発明の直翅目昆虫加工食品は、バッタ目とも称される直翅目昆虫を含んでいる。直翅目昆虫としては、特に限定はなく、例えば、バッタ、コオロギ、キリギリス、ケラ、カマドウマ等が挙げられる。中でも、直翅目昆虫しては、低コストで、大量確保及び供給できる点で、コオロギ科昆虫が好ましい。
コオロギ科昆虫としては、特に限定はなく、例えば、現在特に食用として飼育されているヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギが属するGryllinae(コオロギ亜科)等が挙げられる。
【0017】
成虫の大きさは、特に限定はなく、平均で10~40mmである。日本国外の直翅目昆虫には、50mmを超える種類も存在している。
成虫の体色は、黒、茶色等の暗褐色である。幼虫の体色は、半透明であるものが多い。
直翅目昆虫の成虫は、脚の付け根が太く、ジャンプ力に優れている。脚全体には、トゲが生えていて、尾には2つ感覚器官がある。敵が襲ってきた時にこの感覚器官で危険を察知し、トゲのある脚で蹴って身を守る。直翅目昆虫は、多くの種類が翅(はね)をもっているが、羽ばたくだけで飛ぶことができない。
直翅目昆虫幼虫は、草、虫等を食べ、大きくなるまでに何回も脱皮する。大きくなった幼虫は、小さな羽を持っているものもある。オスの成虫は羽を震わせて音出して鳴く。上記バッタ、コオロギ等の直翅目昆虫は、それぞれ同じような昆虫独特の味、香り及び風味を有している。
【0018】
直翅目昆虫加工食品の水分量としては、通常70~90%であり、好ましくは73~87%であり、より好ましくは76~85%である。
【0019】
直翅目昆虫加工食品の粘度としては、通常1000~10000mPa・sであり、好ましくは2500~7000mPa・sであり、より好ましくは3000~5000mPa・sである。前記粘度は、E型粘度計(東京計器株式会社の型式:VISCONIC EHD)を用いて測定した。
【0020】
直翅目昆虫加工食品は、直翅目昆虫の外骨格部分(硬い部分)と、身(軟らかい部分)を含んでいる。
【0021】
直翅目昆虫加工食品の製造方法
本発明の直翅目昆虫加工食品の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、下記(1)~(6)の工程:(1)収穫工程、(2)冷凍工程、(3)洗浄工程、(4)湿式加熱工程、(5)水添加工程、及び(6)破砕工程等を備えることができる。これらの工程の順番としては、特に限定はない。
【0022】
(1)収穫工程
収穫の方法としては、特に限定はなく、例えば、8齢幼虫から成虫にかけて収穫することができる。
本発明において、直翅目昆虫は、成虫を用いるが、成虫だけでなく、幼虫を用いることもでき、必要に応じて、卵も用いることができる。
【0023】
(2)冷凍工程
冷凍の方法としては、特に限定はなく、生きた直翅目昆虫又は死んだ直翅目昆虫に対して、冷凍できる温度に冷却する方法等があり、例えば、-15℃以下、好ましくは-18℃以下に冷凍する方法が挙げられる。冷凍することで、直翅目昆虫を保存することができる。冷凍時間としては、特に限定はなく、冷凍装置によって異なるが、通常、30分~12時間程度であり、好ましくは1~5時間程度であり、より好ましくは1時間半~3時間程度である。例えば、通常の家庭用冷凍庫で冷凍する場合、約2時間程度で、直翅目昆虫の中心温度(品温)が、-15℃以下に保持できる。なお、冷凍工程の前に下記(3)で示すような洗浄工程を行うこともできる。
【0024】
(3)洗浄工程
洗浄の方法としては、特に限定はなく、例えば、(3-1)生きたままの、又は、死んだ直翅目昆虫を水等の洗浄剤で洗浄する方法;(3-2)冷凍した直翅目昆虫を、例えば、ザル等に移し、解凍しながら、直翅目昆虫を、水等の洗浄剤で洗浄する方法等が挙げられる。ここでいう洗浄工程として、(3-2)の場合、解凍工程と言い換えることができる。洗浄工程で用いる水等の洗浄剤としては、特に限定はなく、例えば、水道水、食品用洗剤を含む水溶液等が挙げられる。水の温度としては、特に限定はなく、通常の水道水の温度である、10~20℃程度等が挙げられる。食品用洗剤としては、特に限定はなく、野菜用等の公知の洗剤(ヤシノキ由来、グレープフルーツ由来等の植物成分を含む洗剤)等が挙げられる。洗浄工程は、直翅目昆虫に付着した砂、フン等の異物を除去することができる。
ここで、具体的な洗浄工程(解凍工程)としては、例えば、ザルに入れた直翅目昆虫を2~3回水で洗浄し、洗浄水の濁り、不要な固形物等を取り除けたことを確認するまで行う方法等が挙げられる。解凍時間としては、特に限定はなく、例えば、1洗浄あたり、3~5分程度である。
【0025】
(4)湿式加熱工程
加熱の方法としては、湿式方式であれば特に限定はなく、例えば、煮沸、蒸煮(スチーム)、マイクロ波等の方法が挙げられる。中でも好ましい湿式加熱方法としては、煮沸及び蒸煮である。
加熱の温度としては、特に限定はなく、例えば、50~140℃、好ましくは、60~120℃、より好ましくは80~100℃である。
加熱の時間としては、特に限定はなく、例えば、煮沸の場合は、5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上である。蒸煮の場合は、10分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上、さらに好ましくは30分以上である。加熱時間の上限は、特に限定されず、煮沸及び蒸煮のいずれの場合も、3時間以下、好ましくは、2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
この加熱の目的は、直翅目昆虫に存在するウイルス、細菌(易熱菌)等を死滅させることである。直翅目昆虫の体内の中心温度が、90℃以上に1分以上とすることで、大腸菌等の易熱菌等は死滅するものと推察される。
【0026】
(5)水添加工程
本発明において、水を添加する場合(以下、「水添加」ということもある。)、その水添加の方法としては、特に限定はなく、例えば、冷水、温水等を、直翅目昆虫100質量部に対して、20~100質量部、好ましくは30~80質量部、より好ましくは20~50質量部添加することができる。
この水添加は、次の破砕工程において、直翅目昆虫の量が少ない場合に、破砕しやすくする役割がある。水としては、水道水、蒸留水、上記(3)洗浄工程、又は(4)湿式加熱工程で用いた水、煮汁(加熱工程で得られた煮汁)等を用いることができる。
添加する水の温度としては、特に限定はなく、冷水、又は、温水でもよく、例えば、0~100℃、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~40℃である。
添加する水の量としては、特に限定はなく、例えば、通常直翅目昆虫100質量部に対して、1~10000質量部、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは50~150質量部である。
【0027】
(6)破砕工程
破砕する方法としては、特に限定はなく、例えば、ミキサー、フードプロセッサー、ミンサー等を用いることができる。ミキサーを用いる場合、その回転数としては、特に限定はなく、例えば、1000~20000rpm/分、好ましくは3000~15000rpm/分、より好ましくは5000~9000rpm/分、である。
上記(5)の水添加によって、破砕数量が少ない場合は水を添加することで、破砕しやすくなる。破砕工程は、粗粉砕なども含めて複数回に分けて行ってもよい。
この破砕工程により、破砕したのちの外骨格の粒子の内、0.5mm2以下の大きさの外骨格存在割合が10%以上とし、直翅目昆虫の外骨格の不快な食感を感じさせなくするためには、破砕したのちの外骨格の粒子の内、0.5mm2以下の大きさの外骨格存在割合が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
また、単純に粒子径を細かくするのみだと過剰破砕となりコオロギの味及び風味を維持している筋肉細胞が破砕されすぎドリップの量が多くなってしまう。そのため破砕上限としては、破砕した外骨格の粒子0.1mm2以下の存在割合が50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。
【0028】
本発明の直翅目昆虫加工品の製造方法としては、上記(1)~(6)の工程以外にも、その他の任意工程を備えていてもよい。
例えば、破砕工程、水添加工程、湿式加熱工程等の工程時に、調味料等を添加して味付けを施す調味工程等が挙げられる。
【0029】
本発明の直翅目昆虫加工品は、直翅目昆虫のみ又はこれに水を含むものを意味している。
【0030】
調理前食品
本発明の直翅目昆虫加工品は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、野菜、乳製品、調味料、食用肉(例えば、牛肉、豚肉、鶏肉等)、食用油脂(例えば、ラード、植物油等)、直翅目昆虫以外の昆虫等が挙げられる。
野菜としては、特に限定はなく、例えば、豆類(大豆ミート等)、玉ねぎ、じゃがいも、人参葉物(キャベツ、ホウレンソウ)等が挙げられる。野菜の形態としては、野菜そのまま、カット野菜、ペースト等が挙げられる。
乳製品としては、特に限定はなく、例えば、牛乳、バター、チーズ等が挙げられる。
調味料としては、特に限定はなく、例えば、塩、コショウ、香辛料、味噌、砂糖、酢、醤油等が挙げられる。
【0031】
本発明の直翅目昆虫加工品は、直翅目昆虫そのものの加工品だけでなく、調理した後の加工品(以下、調理製品ともいう)も含んでいる。
【0032】
調理製品
調理後の加工品としては、特に限定はなく、例えば、スープ、ハンバーグ等が挙げられる。本発明の直翅目昆虫加工品は、日本料理、西洋料理(フランス料理、イタリア料理等)、中華料理等に用いることができる。
【0033】
旨味向上剤及び旨味の持続性向上剤
本発明の旨味向上剤は、上記製造方法によって得られた直翅目昆虫加工品を含んでいる。
旨味の成分としては、グルタミン酸をはじめとする遊離アミノ酸が挙げられる。
本発明の旨味向上剤によれば、遊離アミノ酸量を向上させることができる。
また、本発明の旨味の持続性向上剤は、上記製造方法によって得られた直翅目昆虫加工品を含んでいる。
本発明の旨味の持続性向上剤によれば、遊離アミノ酸による旨味の持続性を向上させることができる。
【0034】
素材の香味向上剤
本発明の素材の香味向上剤は、上記製造方法によって得られた直翅目昆虫加工品を含んでいる。
本明細書において、香味とは、香り(匂い)、味、及び風味の少なくとも1種を意味している。
香り(匂い)は、通常の一般的な嗅感覚、又は吸気に伴う感覚である。外部から鼻を通して感じる香気であり、オルトネーザル(orthonasal、鼻腔香気)、たち香等とも呼ばれることもある。
風味は、口中香又は呼気に伴う風味の感覚である。口又は喉を経て感じる香気であり、レトロネーザル(retronasal、口腔香気)、戻り香、あと香等とも呼ばれることもある。
本発明素材の香味向上剤によれば、直翅目昆虫本来の香り(匂い)、味、及び風味の少なくとも1種を向上させることができる。ここで、直翅目昆虫本来の香り、味、及び風味とは、大豆等の植物性食品には無い動物性食品独特の香り、味、及び風味と言い換えることもできる。
【実施例0035】
以下、製造例、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0036】
比較例1(比較製品1)
市販のコオロギパウダー(株式会社BugMo製、粒子径60メッシュ、水分量5%以下)を用いた。
【0037】
製造例1
下記の工程を経て、本発明の直翅目昆虫加工品1(試料1)を得た。
(1)収穫工程:ヨーロッパイエコオロギ(8齢幼虫~成虫:飼育期間約5週間)を約150匹(100g)収穫した。
(2)冷凍工程:収穫したコオロギを-18℃にて冷凍し、3日間保存した。
(3)洗浄工程:冷凍したコオロギ約150匹(100g)をザルに入れて、流水で解凍しながら、糞等の異物を取り除いた。その後、水を切った。
(4)加熱工程:洗浄後のコオロギ約150匹(100g)を100℃で15分蒸煮した。
(5)水添加工程:蒸煮後、コオロギを容器に入れた。その後、静置し、コオロギの品温を室温に戻した。そして、コオロギ100gに対して、水50gを加えた。
(6)破砕工程:水添加したコオロギをミキサー(タイガー株式会社製、型番:SKT-A100、使用時回転数:9000rpm/分)で1分程度破砕し、試料1を得た。
【0038】
(写真撮影)
下記の各試料について、粒子が重ならないように、ろ紙上に広げて、デジタルカメラ(機種:iphone8 1200万画素 メーカー:Aplle)、又は、株式会社ハイロックスジャパン製の「デジタルマイクロスコープ/KH-7700」を用いて写真撮影を行った。
(画像解析)
<二値化処理法>
二値化の処理方法としては、具体的に、下記の方法により算出する。
(1)「File」→「Open」を開き、対象となるデジタルカメラ又はマイクロスコープ撮影写真を開く。
(2)線選択ツール「Straight」を用いて画像中にある既知の距離を測定。
(3)測定した距離をもとに「Analyze」→「Set Scale」で基準となる距離を設定する。
(4)「Image」→「Color」→「Split Channels」から、三原色の分離を行い、画像解析に適した青色光の画像を選定。
(5)「Image」→「Adjust」→「Threshold」から外骨格のみが区別できる閾値を設定し、2値化処理を行う。本解析では、デジタルカメラ写真の場合:閾値60~100の範囲、マイクロスコープ写真の場合:閾値110~150の範囲で調整することで、外骨格のみが識別できる画像を得た。(細かい諸条件に関しては、各資料の調整手順に記載。)
(6)「Rectangle」により外骨格測定部分を指定、「Image」→「Crop」により指定範囲を切り出す。
(7)「Process」→「Binary」→「Fill Holes」にて、外骨格が完全に着色されていない部分の穴埋めを行う。
(8)「Analyze」→「Analyze Particles」により外骨格の面積の測定を行う。この時、閾値の調整の程度により意図的にノイズを発生させ、粒度の小さい外骨格の多い有意な結果を算出することが可能になってしまうため、「Analyze Particles」の設定として、算出面積のSizeを「0.05~Infinity」とすることで、ノイズの除去、及び、意図的な改ざんが不可能である条件を設定した。
【0039】
<試料1の写真撮影及び画像解析>
試料1について、粒子が重ならないように、ろ紙上に広げて、上述の写真撮影の方法(デジタルカメラ(機種:iphone8 1200万画素 メーカー:Aplle)を用いて写真撮影を行った。
得られた写真を、上記画像解析方法に記載したオープンソース画像解析ソフトウエアである「ImageJ」を用いて解析を行った。具体的な処理操作としては、画像で撮影したスケールの大きさをもとに画像内での長さの基準を設定し、外骨格粒子が識別しやすいよう3原色の青色の部分を抽出した。その後、2値化処理を行い(閾値範囲:64)、認識された各粒子径の面積を設定した基準の長さをもとに算出した。
その結果を表1及び
図1に示す。また、
図2には、画像解析に使用した写真(
図2a)及び画像(
図2b)も併せて示す。
【0040】
【0041】
表1及び
図1より、試料1は、0.5mm
2以下の外骨格存在割合が12%であった。
【0042】
製造例2
製造例1の破砕工程の破砕時間を3分程度に変更した以外は同様の方法で、本発明の直翅目昆虫加工品2(試料2)を得た。
試料2について、E型粘度計(東京計器株式会社の型式:VISCONIC EHD)を用いて試料温度を冷却水で一定に保持した状態(20℃)で粘度を測定した。3回測定を行い、その平均値は、5905mPa・sであった。
【0043】
<試料2の写真撮影及び画像解析>
試料2について、製造例1と同様の方法(閾値範囲:100)で粒子の大きさを測定し、結果を表2及び
図3に示す。また、
図4には、画像解析に使用した写真(
図4a)及び画像(
図4b)も併せて示す。
【0044】
【0045】
表2及び
図3より、試料2は、0.5mm
2以下の外骨格存在割合が50%であった。
【0046】
製造例3
製造例1の破砕工程の破砕時間を4分程度に変更した以外は同様の方法で、本発明の直翅目昆虫加工品3(試料3)を得た。製造例2と同様にして測定した試料3の粘度は、3499mPa・sであった。
【0047】
<試料3の写真撮影及び画像解析>
試料3について、製造例1と同様の方法(閾値範囲:93)で粒子の大きさを測定し、結果を表3及び
図5に示す。また、
図6には、画像解析に使用した写真(
図6a)及び画像(
図6b)も併せて示す。
【0048】
【0049】
表3及び
図5より、試料3は、0.5mm
2以下の外骨格存在割合が77%であった。
【0050】
<試料3の中の1.3mm
2以下の粒子について:写真撮影及び画像解析>
さらに、試料3の中の1.3mm
2以下の粒子について、通常のデジタルカメラの解像度では画像処理が不可能であったため、株式会社ハイロックスジャパン製の「デジタルマイクロスコープ/KH-7700」を用いて画像を撮影した。その後、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて製造例1と同様の解析方法(閾値範囲:146)で1.3mm
2以下の粒子径における面積を算出した。その結果を表4及び
図7に示す。また、
図8には、画像解析に使用した写真(
図8a)及び画像(
図8b)も併せて示す。
【0051】
【0052】
表4及び
図7より、試料3は、0.1mm
2以下の外骨格存在割合が約32%であった。
【0053】
製造例4
製造例1の破砕工程の破砕時間を6分程度に変更した以外は同様の方法で、本発明の直翅目昆虫加工品4(試料4)を得た。製造例2と同様にして測定した試料4の粘度は、3328mPa・sであった。
<試料4の写真撮影及び画像解析>
また、試料4について、製造例1と同様の方法(閾値範囲:90)で粒子の大きさを測定し、結果を表5及び
図9に示す。また、
図10には、画像解析に使用した写真(
図10a)及び画像(
図10b)も併せて示す。
【0054】
【0055】
表5及び
図9より、試料4は、0.5mm
2以下の外骨格存在割合が94%であった。
【0056】
<試料4の中の1.3mm
2以下の粒子について:写真撮影及び画像解析>
さらに、試料4の中の1.3mm
2以下の粒子について、製造例3と同様の方法(閾値範囲:110)で、粒子の大きさを測定した。その結果を表6及び
図11に示す。また、
図12には、画像解析に使用した写真(
図12a)及び画像(
図12b)も併せて示す。
【0057】
【0058】
表6及び
図11より、試料4は、0.1mm
2以下の外骨格存在割合が40%であった。
【0059】
製造例5
製造例1の破砕工程の破砕時間を10分程度に変更した以外は同様の方法で、本発明の直翅目昆虫加工品5(試料5)を得た。製造例2と同様にして測定した試料5の粘度は、2560mPa・sであった。
<試料5の写真撮影及び画像解析>
また、試料5について、製造例1と同様の方法(閾値範囲:61)で粒子の大きさを測定し、結果を表7及び
図13に示す。また、
図14には、画像解析に使用した写真(
図14a)及び画像(
図14b)も併せて示す。
【0060】
【0061】
表7及び
図13より、試料5は、0.5mm
2以下の外骨格存在割合が98%であった。
【0062】
<試料5の中の1.3mm
2以下の粒子について:写真撮影及び画像解析>
さらに、試料5の中の1.3mm
2以下の粒子について、製造例3と同様の方法(閾値範囲:120)で、粒子の大きさを測定した。その結果を表8及び
図15に示す。また、
図16には、画像解析に使用した写真(
図16a)及び画像(
図16b)も併せて示す。
【0063】
【0064】
表8及び
図15より、試料5は、0.1mm
2以下の外骨格存在割合が56%であった。
【0065】
試験例1(スープ)
下記表9に示した組成のスープ(参考例1、対照調理製品1(対照スープ))を製造した。この対照スープに、上記比較製品1(コオロギパウダー)を100g添加して、比較調理製品1(比較例1、コオロギパウダー添加スープ)を製造した。
また、上記対照スープに、試料1を100g添加して、調理製品1(実施例1、試料1添加スープ)を製造した。
【表9】
【0066】
官能評価
5人の専門パネリスト(A~E)が、参考例1の対照調理製品1(対照スープ)、比較例1の比較調理製品1(比較例1のスープ)、及び、実施例1の調理製品1(実施例1のスープ)について試食を行った。味、香り及び風味に関して、対照スープを4点としたときの比較例1(比較調理製品1)及び実施例1(調理製品1)の評価を、下記の評点の7段階評価でそれぞれ評価した。
なお、本官能評価を行う前に、コオロギ本来の味及び風味を確認するため、ボイルしたコオロギを各専門パネリストが試食し、コオロギ本来の味及び風味を認識したうえで各スープの評価を行った。
5人の平均点を算出し、その結果を表10に示す。
【0067】
<官能評価1(コオロギの味)>
7点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの味が強くする。
6点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギに近い味がする。
5点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギ味がわずかにする。
4点:対照スープの味がする。
3点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味が少しする。
2点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味がする。
1点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味が強くする。
【0068】
<官能評価2(コオロギの香り:オルソネーザル)>
7点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギとほぼ同等の良い香りがする。
6点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギに近い良い香りがする。
5点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの香りがわずかにする。
4点:対照スープの香りがする。
3点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いがわずかにする。
2点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いがする。
1点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いが強い。
【0069】
<官能評価3(コオロギの風味:レトロネーザル)>
7点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味が強い。
6点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味がかなりする。
5点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味がわずかにする。
4点:対照スープの風味がする。
3点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味がわずかにする。
2点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味がかなりする。
1点:対照スープと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味が強い。
【0070】
【0071】
<結果>
実施例1のスープ(試料1を添加した調理製品)は、比較例1のスープ(比較調理製品1(コオロギパウダーを添加した調理製品))に比べて、ボイルしたコオロギに近い風味を感じ、加熱劣化で生じると思われる乾燥臭等の不快な臭いを感じず、ボイルしたコオロギに近い風味が臭いがすることがわかった。
【0072】
試験例2(ハンバーグ)
下記表11に示した組成のハンバーグ(比較例2、比較調理製品2(対照ハンバーグ、コオロギ:鶏の比率が0:2))を製造した。
この対照ハンバーグの鶏ひき肉の半分の量を試料1に代えて、調理製品2(実施例2、コオロギ:鶏の比率が1:1のハンバーグ)を製造した。
また、この対照ハンバーグの鶏ひき肉の全量を試料1に代えて、調理製品3(実施例3、コオロギ:鶏の比率が2:0のハンバーグ)を製造した。
【表11】
【0073】
官能評価
5人の専門パネリスト(A~E)が、コオロギ:鶏の比率が1:1のハンバーグ(実施例2(調理製品2))、コオロギ:鶏の比率が2:0のハンバーグ(実施例3(調理製品3))、及び、コオロギ:鶏の比率が0:2の対照ハンバーグ(比較例2(対照調理製品2))について試食を行った。味、香り及び風味に関して、対照ハンバーグを4点としたときの実施例2及び3の点数を、下記の評点の7段階評価でそれぞれ評価した。
なお、本試食を行う前にコオロギ本来の味及び風味を確認するため、ボイルしたコオロギを各専門パネリストが試食し、コオロギ本来の味及び風味を認識したうえで各ハンバーグの評価を行った。
5人の平均点を算出し、その結果を表12に示す。
【0074】
<官能評価4(コオロギの味)>
7点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの味が強くする。
6点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギに近い味がする。
5点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの味がわずかにする。
4点:対照ハンバーグの味がする。
3点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味が少しする。
2点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味がする。
1点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの味ではない不快な味が強くする。
【0075】
<官能評価5(コオロギの香り:オルソネーザル)>
7点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギとほぼ同等の良い香りがする。
6点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギに近い良い香りがする。
5点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの香りがわずかにする。
4点:対照ハンバーグの香りがする。
3点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いがわずかにする。
2点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いがする。
1点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの香りではない不快な匂いが強い。
【0076】
<官能評価6(コオロギの風味:レトロネーザル)>
7点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味が強い。
6点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味がかなりする。
5点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの良い風味がわずかにする。
4点:対照ハンバーグの風味がする。
3点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味がわずかにする。
2点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味がかなりする。
1点:対照ハンバーグと比較して、ボイルしたコオロギの風味ではない不快な風味が強い。
【0077】
【0078】
<結果>
実施例2の調理製品2(コオロギ:鶏の比率が1:1のハンバーグ)は、鶏ひき肉だけの対照ハンバーグと比べて、コオロギ本来の味及び風味を感じられることがわかった。さらに、コオロギミンチの比率が高い(コオロギ:鶏の比率が2:0の)ハンバーグ(実施例3)のほうが、ボイルしたコオロギとほぼ同等の味が得られることがわかった。
【0079】
試験例3(大豆ミートハンバーグ)
下記表13の組成を有する参考例(対照)の大豆ミートを含む対照ハンバーグ(比較例3、対照調理製品3(コオロギ:大豆ミートの比率が0:2のハンバーグ))を製造した。
この対照ハンバーグの大豆ミートの半分の量を試料2に代えて、調理製品4(実施例4、試料2:大豆ミートの比率が1:1のハンバーグ)を製造した。また、対照ハンバーグの大豆ミートの半分の量を試料3に代えて、調理製品5(実施例5、試料3:大豆ミートの比率が1:1のハンバーグ)を製造した。
【表13】
【0080】
官能評価
5人の専門パネリスト(A~E)により、試料2及び大豆ミートを含むハンバーグ(実施例4)、試料3及び大豆ミートを含むハンバーグ(実施例5)、及び大豆ミートを含む対照ハンバーグ(比較例3)について試食を行った。味、香り及び風味に関しては、対照ハンバーグを4点としたときの実施例4及び5の点数を、上記官能評価4~6と同様の評点の7段階評価で、不快な食感に関しては下記の評点の4段階評価でそれぞれ評価した。
なお、本試食を行う前にコオロギ本来の味及び風味を確認するため、ボイルしたコオロギを各専門パネリストが試食し、コオロギ本来の味及び風味を認識したうえで各ハンバーグの評価を行った。
5人の平均点を算出し、その結果を表14に示す。
【0081】
<官能評価7(不快な食感(外骨格の口残り))>
4点:コオロギの外骨格が口の中に全く残らず、対照ハンバーグの食感と同じである。
3点:コオロギの外骨格が口の中にわずかに残り、少し不快である。
2点:コオロギの外骨格が口の中にかなり多く残り、不快である。
1点:コオロギの外骨格が口の中に多く残り、大変不快である。
【0082】
【0083】
<結果>
味、香り及び風味に関しては、試料2及び大豆ミートを含むハンバーグ(実施例4)、及び、試料3及び大豆ミートを含むハンバーグ(実施例5)は、大豆ミートを含む対照ハンバーグと比べて、ボイルしたコオロギに近い味、香り及び風味がしっかりと感じられることがわかった。
したがって、本発明における、直翅目昆虫本来の味及び風味を維持し、かつ、食品に添加することで旨味成分等の直翅目昆虫由来の味の持続をしっかりと感じられる直翅目昆虫加工食品の提供という上記課題を解決できた。
なお、当初意図していた効果だけでなく、本発明の付随的な効果として、実施例5のハンバーグは、実施例4のハンバーグに比べて、口触りがよく、大豆ミートを含む対照のハンバーグと同等程度まで口触りが向上することがわかった。
【0084】
次に、コオロギミンチの外骨格の大きさをさらに小さくし、外骨格の大きさがコオロギミンチに与える影響について検討する。
【0085】
試験例4(外観)
試料3、試料4、及び、試料5について、各試料を5gずつキッチンペーパーの上に載せ、5分間放置した後のドリップ量を測定した。その結果を表15に示す。また、各試料を5gずつキッチンペーパーの上に載せた後の外観写真(A)、及び、各試料を取り除いた後のドリップの写真(B)を
図17に示す。
【0086】
【0087】
<結果>
図17に示すように、外骨格の粒子径を細かくしすぎると、コオロギの筋肉が細かくなりすぎるため、外観も水っぽくだれてしまうような変化が起こることがわかった。
加えて、ドリップ量の検証においても、ミンチからのドリップ量が段階的に増えてしまい、食感への影響及びうま味に影響する成分が流出してしまう可能性があることがわかった。
【0088】
試験例5(ハンバーグ)
下記表16の組成を有する参考例(対照)の大豆ミートを含むハンバーグ(対照ハンバーグ)を製造した。この対照ハンバーグの大豆ミートの半分の量を、本発明の試料4に代えて実施例6を製造した。また、対照ハンバーグの大豆ミートの半分の量を、本発明の試料5に代えて実施例7を製造した。
【表16】
【0089】
官能評価
5人の専門パネリスト(A~E)が、実施例6(調理製品6)、実施例7(調理製品7)、及び、大豆ミートを含む対照ハンバーグについて試食を行った。味、香り及び風味に関しては、対照ハンバーグを4点としたときの実施例6(調理製品6)、及び、実施例7(調理製品7)の点数を、上記官能評価4~6及び下記の評点の7段階評価で、それぞれ評価した。
食感に関しては、上記官能評価7に、さらに、実施例7(調理製品7)にあるように過剰破砕によるドリップの増加による、ハンバーグとしての食感への影響も評価項目に加えて、下記の評点の4段階評価で評価を行った。
5人の平均点を算出し、その結果を表17に示す。
【0090】
<官能評価8(ハンバーグの食感)>
4点:対照ハンバーグと同等の食感である。
3点:対照ハンバーグよりも若干柔らかい食感である。
2点:対照ハンバーグよりもかなり柔らかい食感である。
1点:対照ハンバーグよりも非常に柔らかい食感である。
【0091】
【0092】
<結果>
味、香り及び風味に関しては、実施例6(調理製品6)、及び、実施例7(調理製品7)は、大豆ミートを含む対照のハンバーグと比べて、コオロギに近い味、香り及び風味がしっかりと感じられることがわかった。
したがって、本発明における、直翅目昆虫本来の味及び風味を維持し、かつ、食品に添加することで旨味成分等の直翅目昆虫由来の味の持続をしっかりと感じられる直翅目昆虫加工食品の提供という上記課題を解決できた。
なお、当初意図していた効果だけでなく、本発明の付随的な効果として、実施例6(調理製品6)、及び、実施例7(調理製品7)は、大豆ミートを含む対照のハンバーグと比べて、口触りの悪さが解消され、大豆ミートを含む対照のハンバーグと同等程度まで口触りが向上し、対照ハンバーグと同等又は少し柔らかい食感になることがわかった。
試験例3及び5の結果から、0.5mm2以下の外骨格存在割合を70%以上にすることでコオロギの外骨格由来の不快な食感が改善することがわかった。
また、試験例2、3及び5の結果から、0.1mm2以下の外骨格存在割合を50%以下にすることで、過剰破砕によるドリップの低下を防ぎ、食品に添加した際のコオロギの味及び風味付与能力を向上させ、食感が水っぽくなってしまうことを防止することができることがわかった。
【0093】
試験例6 遊離アミノ酸分析による味の数値化
コオロギの味を明確に数値化及び分析することは難しいが、遊離アミノ酸の分析は、コオロギの味を数値化する上でとても重要である。
本試験では、コオロギを用いたハンバーグ様の試料を調製し、咀嚼によって、遊離アミノ酸組成がどのように変化するかについて、以下のような方法で分析を行った。
上記比較例1(比較製品1)を容器に10g計量し、そこに水を20g添加して、比較例5の試料を調製した。
上記製造例4で得られた試料4を容器に10g計量し、そこに水を20g添加して実施例8の試料を調製した。
治具を用いて、各試料を15回連続して押しつぶし、試料の水溶性成分を抽出し(咀嚼を再現)、上澄みを回収することにより抽出物を得た。
抽出物は、検出の検量線範囲内になるように100倍希釈を実施した。その後、Waters社製「AccQ Tag Ultra」のキットを用いて試料を調整し、Waters社の「ACQUITY UPLC H-Class PLUS システム」、及び、カラム「AccQ Tag Ultraカラム(2.1×100mmカラム)」によって遊離アミノ酸の解析を行った。
【0094】
実施例8(試料4)の遊離アミノ酸量の割合と比較例5(比較製品1)の遊離アミノ酸量の割合を比較することで、遊離アミノ酸組成がどのように変化しているかを確認した。
なお、しっかりとピークが分画でき、正確な値が産出されたと思われる15種の遊離アミノ酸に関する分析結果を下記表18に示した。本明細書における表中の記号は、下記のアミノ酸を示している。
His:ヒスチジン、Ser:セリン、Arg:アルギニン、Gly:グリシン、Asp:アスパラギン酸、Glu:グルタミン酸、Thr:トレオニン、Ala:アラニン、Pro:プロリン、Lys:リシン、Met:メチオニン、Val:バリン、Ile:イソロイシン、Leu:ロイシン、Phe:フェニルアラニン
【0095】
【0096】
<結果>
表18より、アミノ酸組成が、実施例8(試料4)と、比較製品1とでは、大きく異なることがわかった。特に、アルギニン、グリシン、グルタミン酸及びプロリンの量(組成)が大きく変化することがわかった。
このアミノ酸組成の違いが、試験例1の官能評価コメントでも示されていた比較例1(比較調理製品1)及び実施例1(調理製品1)の味の違いに大きく寄与しているものと考えられる。
なお、比較製品1(比較例5)は、コオロギをパウダー化する際の工程(加熱工程、乾燥工程、破砕工程等)を経ることでコオロギのアミノ酸組成が大きく変化し、呈味性アミノ酸の割合が変わることで味が変化したと考えられる。
【0097】
試験例7 遊離アミノ酸分析による大豆ミートを用いたハンバーグの分析(味の持続性)
下記表19の組成を有する試料6~8を調製した。(大豆ミートは、グリーンカルチャー株式会社製「Green Meat model H」を使用した。)
【0098】
【0099】
各試料を容器に10gずつ計量し、水を20g添加した。その後に、治具を用いて、試料を15回連続して、押し潰し、試料の水溶性成分を抽出(咀嚼を再現)し、上澄みを回収し、1回目の抽出物を得た。
さらに、味の持続性を確認するため、上記操作をさらに2回繰り返し、2回目、及び、3回目の抽出物を得た。
【0100】
抽出物は、検出の検量線範囲内になるように100倍希釈を実施した。その後、Waters社製「AccQ Tag Ultra」のキットを用いて試料を調整し、Waters社の「ACQUITY UPLC H-Class PLUS システム」、カラム「AccQ Tag Ultraカラム(2.1×100mmカラム)」によって遊離アミノ酸の解析を行った。
【0101】
比較例6(試料6)、実施例9(試料7)、及び、実施例10(試料8)の遊離アミノ酸の組成を、実施例8(試料4)の遊離アミノ酸組成とともに表20に示す。
【0102】
【0103】
<結果>
実施例8(試料4)、比較例6(試料6)、実施例9(試料7)、及び、実施例10(試料8)のアミノ酸組成を比較すると、グリシン、プロリン等の呈味性アミノ酸の組成比率が、コオロギ加工品(試料4)を含まない比較例6(試料6)よりも実施例9(試料7)の方が多く、それよりも実施例10(試料8)の方が多かった。これより、コオロギ加工品の配合量の増加とともに、呈味性アミノ酸の組成比率が増加することがわかる。このことから、本発明における昆虫加工食品は、しっかりと食品にコオロギの味を付与できることがわかった。
【0104】
実施例8(試料4)、比較例6(試料6)、実施例9(試料7)、及び、実施例10(試料8)の1~3回目の抽出物に関するアミノ酸総量(pmol)の結果を表21及び
図18に示す。
【0105】
【0106】
<結果>
この結果より、実施例8(試料4)の遊離アミノ酸総量が最も多く、比較例9(試料6)(大豆ミート)に対して試料4の配合割合を増やすほどアミノ酸総量が段階的に多くなることがわかった。
これらのことから、本発明により得られる加工食品を添加することで直翅目昆虫本来の味及び風味を付与することができ、付与された味及び風味を持続できることがわかった。