(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029632
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240228BHJP
B60W 40/112 20120101ALI20240228BHJP
B60W 40/114 20120101ALI20240228BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20240228BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/112
B60W40/114
B60W40/105
F02D9/02 315F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131996
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】出口 宏海
(72)【発明者】
【氏名】柳田 祥之
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩二
(72)【発明者】
【氏名】岡村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】持山 博俊
【テーマコード(参考)】
3D241
3G065
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC04
3D241BC05
3D241CA12
3D241CC02
3D241DA13Z
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DB13Z
3D241DB14Z
3D241DB15Z
3G065BA01
3G065CA10
3G065DA04
3G065FA11
(57)【要約】
【課題】鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウォブルを抑制して中高速走行時における直進安定性の低下を抑える。
【解決手段】鞍乗型車両の走行を制御する走行制御装置1は、車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ車両のヨー方向の振動であり、かつ基準周波数範囲内の周波数の振動である被検振動の振幅が制御開始基準振幅を超えた場合に、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う速度抑制部22と、速度抑制部22により速度抑制制御が開始された後、車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、速度抑制制御を停止する速度抑制停止部23とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、
制御ユニットと、
前記車両の走行速度を検出する車速検出部と、
前記車両のヨー方向またはロール方向の振動であり、かつ基準周波数範囲内の周波数を有する振動である被検振動を検出する振動検出部とを備え、
前記制御ユニットは、
前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が制御開始基準振幅を超えた場合に、前記車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う速度抑制部と、
前記速度抑制部により前記速度抑制制御が開始された後、前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、前記速度抑制制御を停止する速度抑制停止部とを備えていることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記速度抑制部は、前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が制御開始基準振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達した場合に、前記速度抑制制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記目標制限速度は、前記制御開始基準速度以下の所定の速度であることを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が開始された後、前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が制御停止基準振幅以下になった時点において前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度よりも所定量低い速度を前記目標制限速度として設定することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が開始された後、前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が連続的に制御停止基準振幅以下になった回数が制御停止基準回数に達した時点において前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度よりも所定量低い速度を前記目標制限速度として設定することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項6】
前記制御開始基準速度以下の所定の速度である目標制限速度初期値が前記目標制限速度として設定され、
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が開始された後、前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が制御停止基準振幅以下になった時点において前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度よりも所定量低い速度を目標制限速度候補値として算出し、前記目標制限速度候補値が前記目標制限速度初期値よりも大きい場合には前記目標制限速度の設定を前記目標制限速度初期値から前記目標制限速度候補値に変更し、前記目標制限速度候補値が前記目標制限速度初期値以下である場合には前記目標制限速度初期値が前記目標制限速度として設定されている状態を維持することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項7】
前記制御開始基準速度以下の所定の速度である目標制限速度初期値が前記目標制限速度として設定され、
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が開始された後、前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が連続的に制御停止基準振幅以下になった回数が制御停止基準回数に達した時点において前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度よりも所定量低い速度を目標制限速度候補値として算出し、前記目標制限速度候補値が前記目標制限速度初期値よりも大きい場合には前記目標制限速度の設定を前記目標制限速度初期値から前記目標制限速度候補値に変更し、前記目標制限速度候補値が前記目標制限速度初期値以下である場合には前記目標制限速度初期値が前記目標制限速度として設定されている状態を維持することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項8】
前記制御停止基準振幅は、前記制御開始基準振幅よりも小さい所定の振幅であることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかに記載の走行制御装置。
【請求項9】
アクセル開度を検出するアクセル開度検出部と、
スロットル開度を目標スロットル開度に一致させるようにスロットルバルブを駆動するスロットルバルブ駆動部とを備え、
前記制御ユニットは、前記速度抑制制御または速度復帰制御が行われていない間において、前記アクセル開度検出部により検出されたアクセル開度に対応した目標非制限開度を前記目標スロットル開度として設定することにより前記車両の走行速度を制御する速度制御部を有し、
前記速度抑制部は、前記目標スロットル開度として設定する開度値を、前記車両の速度が前記制御開始基準速度を超えたときのスロットル開度から、前記車両の走行速度を前記目標制限速度とするための目標制限開度へ徐々に減少させることにより前記速度抑制制御を行い、
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が停止した時点において前記アクセル開度検出部により検出されたアクセル開度に対応した目標非制限開度が、前記速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度よりも大きい場合には、前記目標スロットル開度として設定する開度値を、前記速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度から、前記速度抑制制御が停止した時点において前記アクセル開度検出部により検出されたアクセル開度に対応した目標非制限開度へ徐々に増加させる前記速度復帰制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項10】
前記制御ユニットは、前記車両の走行速度を上限速度以下に制限する速度上限制御部を有し、
前記車両において前記速度抑制制御が初めて行われる前においては、前記上限速度として所定の上限速度初期値が設定されており、
前記速度抑制停止部は、前記速度抑制制御が行われた場合には、前記上限速度の設定を前記上限速度初期値から前記目標制限速度に変更することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両の走行を制御する走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、車体やステアリングがおよそ1Hz~10Hzの周波数で振動することがある。この現象は、一般に、ウィーブ現象またはウォブル現象と呼ばれている。詳しく述べると、ウィーブ現象は、鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、ヨーとロールが連成した方向の振動が鞍乗型車両に発生する現象である。また、ウォブル現象は、鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、鞍乗型車両のステアリングの操舵軸が振動する現象である。また、ウィーブ現象における振動の周波数はおよそ1Hz~4Hzであり、ウォブル現象における振動の周波数はおよそ5Hz~10Hzである。ウィーブ現象およびウォブル現象はいずれも鞍乗型車両の直進安定性を低下させる要因となる。以下、ウィーブ現象における振動とウォブル現象における振動とを包括した概念を「ウォブル」ということとする。
【0003】
下記の特許文献1には、車速および振れ状態が一定以上に達した場合に、車両の操縦性を向上させるためにキャスタ角を大きくする二輪車用キャスタ角可変装置が記載されている。この二輪車用キャスタ角可変装置は、キャスタ角を変えるために、二輪車の前輪ホークを変位させるアクチュエータを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鞍乗型車両の中高速走行時の直進安定性を低下させないようにするために、ウォブルを抑制することが望まれる。しかしながら、ウォブルを抑制するために、鞍乗型車両が大型化し、または重量化することは好ましくない。例えば、ウォブルを抑制するために、上記特許文献1に記載されたキャスタ角可変装置を鞍乗型車両に適用した場合には、前輪ホークを変位させるためのアクチュエータを鞍乗型車両に追加することによって、鞍乗型車両が大型化し、または重量化する可能性がある。
【0006】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウォブルを抑制して中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる鞍乗型車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、制御ユニットと、前記車両の走行速度を検出する車速検出部と、前記車両のヨー方向またはロール方向の振動であり、かつ基準周波数範囲内の周波数を有する振動である被検振動を検出する振動検出部とを備え、前記制御ユニットは、前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ前記振動検出部により検出された前記被検振動の振幅が制御開始基準振幅を超えた場合に、前記車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う速度抑制部と、前記速度抑制部により前記速度抑制制御が開始された後、前記車速検出部により検出された前記車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、前記速度抑制制御を停止する速度抑制停止部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウォブルを抑制して中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施例の走行制御装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施例の走行制御装置における被検振動に係る信号を示すグラフであり、(A)は被検振動を示す信号を示し、(B)は被検振動の全振幅を示す信号を示している。
【
図3】本発明の第1の実施例の走行制御装置において、速度抑制制御が開始され、その後、速度抑制制御が停止し、その後、速度復帰制御が行われた間における被検振幅の全振幅、走行速度、目標制限速度、バンク角の絶対値、アクセル開度に対応した目標非制限開度、および目標スロットル開度を示す説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施例の走行制御装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施例の走行制御装置における速度抑制制御を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施例の走行制御装置における速度復帰制御を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施例の走行制御装置を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施例の走行制御装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の走行制御装置は、鞍乗型の車両の走行を制御する装置であり、制御ユニットと、車両の走行速度を検出する車速検出部と、車両のヨー方向またはロール方向の振動であり、かつ基準周波数範囲内の周波数を有する振動である被検振動を検出する振動検出部とを備えている。また、制御ユニットは、速度抑制部および速度抑制停止部を備えている。
【0011】
速度抑制部は、車速検出部により検出された車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ振動検出部により検出された被検振動の振幅が制御開始基準振幅を超えた場合に、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う。
【0012】
速度抑制停止部は、速度抑制部により速度抑制制御が開始された後、車速検出部により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、速度抑制制御を停止する。
【0013】
本発明の実施形態の走行制御装置によれば、車両の走行速度が制御開始基準速度を超えたか否か、および被検振動の振幅が制御開始基準振幅を超えたか否かを判断することにより、車両にウォブルが発生したことを高精度に検出することができる。また、車両にウォブルが発生した場合に、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行うことにより、車両に発生したウォブルを抑制することができる。これにより、中高速走行時における車両の直進安定性の低下を抑えることができる。
【0014】
また、速度抑制制御が開始された後、車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に速度抑制制御を停止することにより、ウォブルが抑制された後に速度抑制制御が不必要に継続されることを防止することができる。
【0015】
また、本実施形態の走行制御装置は、車両の走行速度を減少させることによってウォブルを抑制することができるので、ウォブルを抑制するために、キャスタ角可変装置を車両に搭載するなど、機械的な装置や構造物を車両に追加しなくてもよい。したがって、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウォブルを抑制することができる。
【実施例0016】
(走行制御装置)
図1は本発明の第1の実施例の走行制御装置1を示している。走行制御装置1は、例えば自動二輪車等の鞍乗型車両(以下、これを「車両」という。)の走行を制御する装置であり、車両に設けられている。また、本実施例における車両には、走行の動力源としてエンジン(内燃機関)が設けられ、また、燃料噴射弁を電子的に制御して燃料の噴射を制御する電子制御燃料噴射方式が採用され、また、アクセル開度等に基づいてスロットル開度を電子的に制御する電子制御スロットルが採用されている。
【0017】
走行制御装置1は、
図1に示すように、アクセルポジションセンサ2、エンジン回転センサ3、車速センサ4、スロットルポジションセンサ5、傾斜角センサ6、慣性計測装置7、スロットルバルブ駆動モータ8、スロットルバルブ制御部9、表示部10、およびECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)11を備えている。
【0018】
アクセルポジションセンサ2は、アクセル開度を検出するセンサである。エンジン回転センサ3は、エンジン回転数を検出するセンサである。車速センサ4は、車両の走行速度を検出するセンサである。スロットルポジションセンサ5は、スロットル開度を検出するセンサである。傾斜角センサ6は、水平に対する車両の左右方向における傾斜角、すなわちバンク角を検出するセンサである。慣性計測装置7は、三次元空間における3軸の各方向の並進運動(加速度)および回転運動(角速度)を検出する装置である。慣性計測装置7は、車両における前後方向、左右方向および上下方向の加速度を検出する加速度センサ、および車両における上下方向の軸回り、前後方向の軸回りおよび左右方向の軸回りの角速度(ヨー角速度、ロール角速度およびピッチ角速度)を検出するジャイロまたは角速度センサを有している。なお、慣性計測装置7は、後述するようにウォブルの検出に用いられるが、慣性計測装置7は車両のバンク角の検出にも用いることができる。スロットルバルブ駆動モータ8は、スロットルバルブを駆動するモータである。スロットルバルブ制御部9は、スロットルバルブ駆動モータ8を制御する装置である。表示部10は、車両のメータに設けられたランプまたはディスプレイである。
【0019】
ECU11は、車両を電気・電子的に制御するユニットであり、CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)12、記憶部13、および信号処理部14を有している。CPU12は、例えば記憶部13に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより、後述する速度制御部21、速度抑制部22、および速度抑制停止部23として機能する。記憶部13はプログラムおよびデータ等を記憶する記憶装置である。信号処理部14はフィルタ15および全振幅演算部16を有している。フィルタ15は例えばデジタル回路により形成されたローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである。全振幅演算部16は交流信号の全振幅を算出する回路または装置である。
【0020】
なお、アクセルポジションセンサ2は「アクセル開度検出部」の具体例であり、車速センサ4は「車速検出部」の具体例である。また、慣性計測装置7および信号処理部14は「振動検出部」の具体例である。また、スロットルバルブ駆動モータ8およびスロットルバルブ制御部9は「スロットルバルブ駆動部」の具体例である。また、ECU11は「制御ユニット」の具体例である。
【0021】
(ウォブルの検出)
走行制御装置1は、車両にウォブルが発生した場合に、そのウォブルを迅速に除去または軽減する機能を有している。この機能を実現するために、慣性計測装置7および信号処理部14はウォブルの検出を行う。
【0022】
上述したように、「ウォブル」は、ウィーブ現象における振動とウォブル現象における振動とを包括した概念を指す。ウィーブ現象における振動はヨーとロールが連成した方向の振動であるが、この点は、ウォブル現象における振動も同じである。
【0023】
ウォブルは、車両のヨー方向またはロール方向の振動を検出することにより認識することができる。本実施例では、車両のヨー方向の振動を検出することによりウォブルを認識する。慣性計測装置7は、車両のヨー角速度の周期的変化、すなわち、車両のヨー方向の振動を検出し、車両のヨー方向の振動を示す検出信号を信号処理部14に出力する。
【0024】
また、ウォブルは、およそ1Hz~10Hzの周波数を有する振動である。すなわち、ウィーブ現象における振動の周波数はおよそ1Hz~4Hzであり、ウォブル現象における振動の周波数はおよそ5Hz~10Hzであるので、ウォブルの周波数範囲は、ウィーブ現象における振動の周波数のうち、最も低い周波数である1Hzから、ウォブル現象における振動の周波数のうち、最も高い周波数である10Hzまでの範囲と考えることができる。
【0025】
車両のヨー方向の振動には、ウォブルの他に様々な周波数の振動が含まれているので、ウォブルを検出するために、車両のヨー方向の振動から、およそ1Hz~10Hzの周波数を有する振動を抽出する。本実施例では、信号処理部14のフィルタ15がこの抽出処理を行う。すなわち、信号処理部14のフィルタ15は、慣性計測装置7から出力された検出信号から、基準周波数範囲内の周波数を有する振動を抽出する。基準周波数範囲は、およそ1Hz~10Hzに設定されている。なお、ウォブルの周波数はおよそ1Hz~10Hzであるが、厳密には、ウォブルの周波数は車両の種類、または個々の車両ごとに若干異なる。したがって、車両の種類または個々の車両ごとにウォブルの周波数を予測または測定し、その結果に応じて、基準周波数範囲を、車両の種類または個々の車両ごとに調整することが好ましい。
【0026】
また、ウォブルは、車両の直進安定性を低下させる程度の振幅を有する振動である。走行制御装置1は、車両のヨー方向の振動であり、かつ基準周波数範囲内の周波数を有する振動(以下、これを「被検振動」という。)の振幅が車両の直進安定性を低下させる程度に大きくなったことを、ウォブル発生の1つの判断基準としている。具体的には、走行制御装置1の速度抑制部22は、後述するように、被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達したか否かを判断する。そこで、信号処理部14の全振幅演算部16は、被検振動の全振幅を算出する。すなわち、慣性計測装置7から出力され、フィルタ15を通過した信号が、被検振動を示す信号である。この信号はフィルタ15から全振幅演算部16に入力される。全振幅演算部16はこの被検振動を示す信号の全振幅を被検振動の全振幅として算出する。
【0027】
図2(A)は、慣性計測装置7から出力され、フィルタ15を通過した信号、すなわち被検振動を示す信号を示している。
図2(B)は、全振幅演算部16から出力された信号、すなわち、被検振動の全振幅を示す信号を示している。全振幅演算部16は、被検振動を示す信号のプラス側のピークを検出し、プラス側のピーク値を記憶する。また、全振幅演算部16は、プラス側のピークを検出するごとに、プラス側のピーク値の記憶を更新する。また、全振幅演算部16は、被検振動を示す信号のマイナス側のピークを検出し、マイナス側のピーク値を記憶する。また、全振幅演算部16は、マイナス側のピークを検出するごとに、マイナス側のピーク値の記憶を更新する。
図2(A)中の破線は、被検振動を示す信号のプラス側のピークが検出されるごとに記憶更新されていくプラス側のピーク値の軌跡、および被検振動を示す信号のマイナス側のピークが検出されるごとに記憶更新されていくマイナス側のピーク値の軌跡を示している。また、全振幅演算部16は、被検振動を示す信号のプラス側のピーク値を更新したタイミング、および被検振動を示す信号のマイナス側のピーク値を更新したタイミングのそれぞれにおいて、被検振動を示す信号のプラス側のピーク値とマイナス側のピーク値との差、すなわち、被検振動を示す信号の全振幅を算出する。例えば、
図2(A)中の被検振動を示す信号が全振幅演算部16に入力された場合、
図2(B)中の被検振動の全振幅を示す信号が全振幅演算部16から出力される。
【0028】
(通常速度制御)
走行制御装置1は、車両にウォブルが発生した場合に、そのウォブルを除去または軽減するために、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う。その速度抑制制御を説明する前に、走行制御装置1による車両の走行速度の通常の制御について説明する。以下、走行制御装置1による車両の走行速度の通常の制御を「通常速度制御」という。通常速度制御は、車両の走行中において、速度抑制制御および速度復帰制御がいずれも行われていない間に行われる。
【0029】
通常速度制御は、走行制御装置1の速度制御部21により行われる。速度制御部21は、通常速度制御として、アクセルポジションセンサ2により検出されたアクセル開度に対応した目標非制限開度を目標スロットル開度として設定する。詳細には、目標非制限開度は基本的にアクセル開度およびエンジン回転数により定まる。記憶部13には、アクセル開度と、エンジン回転数と、スロットル開度との対応関係を記述したスロットル開度制御マップが記憶されている。速度制御部21は、通常速度制御として、アクセルポジションセンサ2により検出されたアクセル開度と、エンジン回転センサ3により検出されたエンジン回転数と、スロットル開度制御マップを用いて、目標非制限開度を決定し、決定した目標制限開度を目標スロットル開度として設定する。
【0030】
目標スロットル開度はECU11からスロットルバルブ制御部9に出力される。スロットルバルブ制御部9は、スロットル開度を、ECU11から出力された目標スロットル開度に一致させるように、スロットルバルブ駆動モータ8を制御し、スロットルバルブを駆動する。これにより、通常速度制御が行われている間は、スロットル開度がアクセル開度に追従して変化し、その結果、車両の走行速度がアクセル開度に追従して変化する。
【0031】
(速度抑制制御)
走行制御装置1は、車両にウォブルが発生した場合に、そのウォブルを除去または軽減するために、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御を行う。速度抑制制御は、走行制御装置1の速度抑制部22により行われる。
【0032】
車両の走行中、速度抑制部22は、車速センサ4により検出された車両の走行速度が制御開始基準速度を超えたか否かを判断する。また、速度抑制部22は、慣性計測装置7および信号処理部14により検出された被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達したか否かを判断する。また、速度抑制部22は、傾斜角センサ6または慣性計測装置7により検出された車両のバンク角の絶対値が基準バンク角以下か否かを判断する。そして、速度抑制部22は、これらの判断の結果、車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達し、かつ車両のバンク角の絶対値が基準バンク角以下である場合に速度抑制制御を行う。
【0033】
制御開始基準速度は、鞍乗型の車両にウォブルが発生し得る走行速度の下限値を考慮して設定する。ウォブルは、鞍乗型車両の大きさまたは具体的な構造等によって異なるのであるが、多くの鞍乗型車両において、走行速度が100km/h~130km/hを超えたときに発生する。また、制御開始基準速度は、ウォブルを、鞍乗型車両の走行時に発生する他の振動、例えば、低速シミー現象による振動等から識別することを考慮して設定する。低速シミー現象は、鞍乗型車両の大きさまたは種類等により異なるのであるが、一般的には、鞍乗型車両の走行速度が30km/h以上100km/h未満の低速域において発生する。以上の点を考慮したとき、制御開始基準速度は、およそ100km/h~130km/hの範囲に含まれる一の値に設定することが好ましい。また、制御開始基準速度は、車両の種類または個々の車両ごとにウォブルの発生し易い走行速度の下限値を予測または測定し、車両の種類または個々の車両ごとに異なる値に設定してもよい。本実施例において、制御開始基準速度は例えば120km/hに設定されている。
【0034】
制御開始基準全振幅は、車両にウォブルが発生してから、そのウォブルを早期かつ迅速に除去または軽減するために、車両にウォブルが発生した初期の段階における被検振動の全振幅に相当する値に設定することが好ましい。具体的には、制御開始基準全振幅は、車両のヨー角速度が例えば0.26rad/s~0.33rad/sのときの被検振動の全振幅に相当する値に設定することが好ましい。また、制御開始基準全振幅についても車両の種類または個々の車両ごとに異なる値を設定してもよい。本実施例において、制御開始基準全振幅は、車両のヨー角速度が例えば0.29rad/sのときの被検振動の全振幅に相当する値に設定されている。
【0035】
制御開始基準回数は、急なハンドル操作による衝撃または振動、あるいはキックバックによる衝撃または振動等、車両に単発的に加わる衝撃または発生後瞬時に収束する振動と、連続的な振動であるウォブルとを識別することを考慮して設定する。制御開始基準回数は3~5回程度に設定することが好ましい。制御開始基準回数についても、車両の種類または個々の車両ごとに異なる値を設定してもよい。本実施例において、制御開始基準回数は例えば4回に設定されている。
【0036】
基準バンク角は、車両が旋回していることを認識するために、例えば、旋回時の車両のバンク角の絶対値の下限値に設定する。本実施例では、車両の旋回時に車両を減速させると、車両の旋回軌跡が車両の操縦者の意図しないものとなって車両の操縦がやり難くなることが考えられるため、車両の旋回時には速度抑制制御を行わないこととしている。
【0037】
速度抑制部22は、速度抑制制御として、目標スロットル開度として設定する開度値を、車両の速度が制御開始基準速度を超えたときのスロットル開度から、車両の走行速度を目標制限速度とするための目標制限開度へ徐々に減少させる制御を行う。
【0038】
目標制限速度は、速度抑制制御の開始時には目標制限速度初期値に設定されているが、速度抑制制御の実行中に変更されることがある。目標制限速度が変更される点については、後述することとし、ここでは、目標制限速度初期値について説明する。目標制限速度初期値は、鞍乗型の車両に発生したウォブルを確実に除去することができ、または鞍乗型の車両に発生したウォブルを車両の直進安定性を低下させない程度に確実に軽減することができる速度に設定する。車両に発生したウォブルを確実に除去することができ、または車両に発生したウォブルを車両の直進安定性を低下させない程度に確実に軽減することができる速度は、車両の種類または個々の車両ごとに異なる場合がある。それゆえ、目標制限速度初期値は車両の種類または個々の車両ごとに適切な値に設定することが好ましい。具体的には、車両に設定する目標制限速度初期値は、当該車両に設定された制御開始基準速度以下に設定することが好ましく、当該車両に設定された制御開始基準速度よりも低い値に設定することがより好ましい。本実施例において、目標制限速度初期値は100km/hに設定されている。目標制限速度初期値は記憶部13に記憶されている。なお、目標制限開度の決定方法など、速度抑制制御の詳細については後述する。
【0039】
また、速度抑制制御が行われている間においても、スロットルバルブ制御部9は、通常速度制御が行われている間と同様に、スロットル開度を、ECU11から出力された目標スロットル開度に一致させるように、スロットルバルブ駆動モータ8を制御し、スロットルバルブを駆動する。速度抑制制御が行われている間においては、速度抑制部22が、目標スロットル開度として設定される開度値を、車両の速度が制御開始基準速度を超えたときのスロットル開度から目標制限開度に向けて徐々に減少させるので、車両の操縦者のアクセル操作によりアクセル開度が増加しても、そのアクセル開度の増加に拘わらず、スロットル開度は徐々に減少する。その結果、車両の走行速度は徐々に減少する。
【0040】
図3中のK1、K2、K3、K4、K5、K6は、速度抑制制御が開始され、その後、速度抑制制御が停止し、その後、速度復帰制御が行われた間における被検振幅の全振幅、走行速度、目標制限速度、バンク角の絶対値、アクセル開度に対応した目標非制限開度、および目標スロットル開度をそれぞれ示している。
図3に示すように、時点t1において、走行速度K2が制御開始基準速度Cを超え、被検振動の全振幅K1が制御開始基準全振幅Aを連続的に超えた回数が制御開始基準回数である4回に達し、かつバンク角の絶対値K4が基準バンク角F以下である。その結果、時点t1において、速度抑制部22により速度抑制制御が開始され、走行速度の制御は、通常速度制御から速度抑制制御に移行している。時点t1後、目標スロットル開度K6は、速度抑制制御により、走行速度を目標制限速度とするための目標制限開度Gに向かって徐々に減少している。また、時点t1から時点t3までの間、アクセル開度に対応した目標非制限開度K5は車両の操縦者のアクセル操作により減少しているが、その減少の程度は、目標スロットル開度K6の減少の程度と比較して大幅に小さい。すなわち、時点t1から時点t3までの間は、速度抑制制御により目標スロットル開度が変化しており、この間の目標スロットル開度はアクセル開度には追従していない。また、速度抑制制御の結果、走行速度K2は、時点t1から時点t3にかけて減少している。
【0041】
(速度抑制制御の停止)
走行制御装置1の速度抑制停止部23は、速度抑制部22により速度抑制制御が開始された後、車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、速度抑制制御を停止する。
【0042】
速度抑制制御が開始された時点においては、目標制限速度として目標制限速度初期値が設定されている。速度抑制制御が開始された後、速度抑制停止部23は、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えたか否かを判断する。そして、車両の走行速度が目標制限速度(目標制限速度初期値)以下になる前に、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた場合には、その時点における車両の走行速度よりも所定の余裕設定量低い速度を目標制限速度候補値として算出する。そして、速度抑制停止部23は、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値よりも大きい場合には目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更し、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値以下である場合には目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されている状態を維持する。
【0043】
目標制限速度候補値が目標制限速度初期値よりも大きい場合に、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更する目的は、車両の走行速度が目標制限速度初期値に達する前に、車両に発生したウォブルが消失し、または車両に発生したウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に減少した場合に、車両の走行速度が目標制限速度初期値に達するのを待たずに速度抑制制御を停止することによって、車両に発生したウォブルが除去または十分に軽減されたにもかかわらず速度抑制制御が継続するといった不都合を防止するためである。この目的から、制御停止基準全振幅は、ウォブルが消失したと考えられ、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に減少したと考えられる被検振動の全振幅に相当する値に設定する。制御停止基準全振幅は、制御開始基準全振幅よりも小さい値に設定する。具体的には、制御停止基準全振幅は、車両のヨー角速度が例えば0.18rad/s~0.25rad/sのときの被検振動の全振幅に相当する値に設定することが好ましい。また、制御停止基準全振幅についても車両の種類または個々の車両ごとに異なる値を設定してもよい。本実施例において、制御停止基準全振幅は、車両のヨー角速度が例えば0.22rad/sのときの被検振動の全振幅に相当する値に設定されている。
【0044】
また、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が制御停止基準全振幅以下になった時点における車両の走行速度ではなく、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いる目的は、ウォブルが確実に消失し、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に確実に減少しているときの車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いるためである。例えば、車両にウォブルが発生している間に他の振動が発生し、当該他の振動によりウォブルが一瞬相殺されることが起こり得る。このようにウォブルが一瞬相殺されたときの車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いた場合には、速度抑制制御によってウォブルが除去または軽減される前に速度抑制制御を停止してしまうおそれがある。このような不都合を防止するために、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いる。この目的から、制御停止基準回数は、ウォブルが確実に消失したこと、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に確実に減少したことを保証し得る回数、具体的には、2~5回程度に設定すること好ましい。本実施例において、制御停止基準回数は例えば3回に設定されている。
【0045】
また、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度そのものではなく、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度よりも所定の余裕設定量低い速度を目標制限速度候補値として算出する目的は、ウォブルが確実に消失した後、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に確実に減少した後に速度抑制制御を停止させるためである。例えば、車両の走行速度が目標制限速度よりも高い間においては、ある走行速度でウォブルが一旦消失したものの、その後に走行速度が僅かに減少したときに、ウォブルが再発することが考えられる。それゆえ、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度そのものを目標制限速度候補値として算出し、その目標制限速度候補値を目標制限速度として設定した場合には、速度抑制制御の停止後にウォブルが直ちに再発してしまうおそれがある。このような不都合を防止するために、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度よりも所定の余裕設定量低い速度を目標制限速度候補値として算出する。この目的から、余裕設定量は、目標制限速度候補値を、一旦消失したウォブルが確実に再発しない速度とするための余裕値、具体的には、3km/h~10km/hであることが好ましい。本実施例において、余裕設定量は5km/hに設定されている。
【0046】
また、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値以下である場合に、目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されている状態を維持するのは、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値以下である場合には、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更するよりも、目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されている状態を維持する方が、車両に発生したウォブルを確実に除去または軽減しつつ、速度抑制制御を早期に停止することができるからである。
【0047】
図3において、車両の走行速度K2が、目標制限速度初期値Dに設定されている目標制限速度K3に達する前の時点t2で、被検振動の全振幅K1が制御停止基準全振幅Bを連続的に超えた回数が制御停止基準回数である3回に達している。これは、車両の走行速度K2が目標制限速度初期値Dに達する前に、車両に発生したウォブルが消失し、または車両の直進安定性を低下させない程度に減少したことを意味する。これに応じ、時点t2における車両の走行速度K2よりも所定の余裕設定量低い速度が目標制限速度候補値Eとして算出され、その目標制限速度候補値Eが目標制限速度初期値Dよりも大きかったため、目標制限速度K3の設定が目標制限速度初期値Dから目標制限速度候補値Eに変更されている。その後、時点t3において、走行速度K2が、目標制限速度候補値Eに変更された目標制限速度K3に達しているので、時点t3において、車両の走行速度K2が目標制限速度初期値Dよりも高い速度であるにも拘わらず、速度抑制制御が停止している。なお、後述するように、速度抑制停止部23は、速度抑制制御の実行中に目標制限速度が目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更された場合には、速度抑制制御を停止した直後に、目標制限速度を目標制限速度候補値から目標制限速度初期値に戻す。
図3中の時点t3において速度抑制制御が停止した直後に、目標制限速度K3が目標制限速度候補値Eから目標制限速度初期値Dに戻っているのは、そのためである。
【0048】
(速度復帰制御)
速度抑制停止部23は、速度抑制制御が停止した時点においてアクセルポジションセンサ2により検出されたアクセル開度に対応した目標非制限開度が、速度抑制制御が停止した時点においてスロットルポジションセンサ5により検出されたスロットル開度よりも大きい場合には、目標スロットル開度として設定する開度値を、速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度から、速度抑制制御が停止した時点におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度へ徐々に増加させる速度復帰制御を行う。
【0049】
また、速度復帰制御が行われている間においても、スロットルバルブ制御部9は、通常速度制御が行われている間と同様に、スロットル開度を、ECU11から出力された目標スロットル開度に一致させるように、スロットルバルブ駆動モータ8を制御し、スロットルバルブを駆動する。これにより、速度復帰制御が行われている間は、車両の操縦者が一定のアクセル開度を維持している場合でも、スロットル開度が徐々に増加し、車両の走行速度が徐々に増加する。
【0050】
速度抑制制御が停止した時点におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度が、速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度よりも大きいときに、仮に、速度抑制制御から、通常速度制御に直接移行した場合には、スロットル開度が、速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度から、速度抑制制御が停止した時点におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度に急激に変化し、その結果、車両が急加速するおそれがある。速度復帰制御によれば、このような車両の急加速を抑制することができる。速度復帰制御の詳細については後述する。
【0051】
図3において、時点t3におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度K5は、時点t3における目標スロットル開度K6よりも大きい。スロットルバルブ制御部9の制御によりスロットル開度は目標スロットル開度に追従しているので、時点t3における目標スロットル開度K6は、時点t3におけるスロットル開度と同一視することができる。とすると、時点t3におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度K5はスロットル開度よりも大きい。それゆえ、時点t3において、速度復帰制御が開始されている。速度復帰制御により、目標スロットル開度K6は時点t3から徐々に増加しており、それに伴って、走行速度K2は時点t3から徐々に増加している。また、速度復帰制御により目標スロットル開度K6が徐々に増加した後、時点t4において、目標スロットル開度K6が、アクセル開度に対応した目標非制限開度K5と一致している。この時点t4において、速度復帰制御は停止し、走行速度の制御は速度復帰制御から通常速度制御に移行している。
【0052】
(処理の具体的な流れ)
図4は、走行制御装置1における処理の具体的な流れを示している。
図4において、車両の走行中、速度制御部21により通常速度制御が行われている間、速度抑制部22は、車速センサ4により検出された車両の走行速度が制御開始基準速度を超えたか否かを判断する(ステップS1)。
【0053】
車速センサ4により検出された車両の走行速度が制御開始基準速度を超えた場合には(ステップS1:YES)、速度抑制部22は、慣性計測装置7および信号処理部14により検出された被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達したか否かを判断する(ステップS2)。
【0054】
慣性計測装置7および信号処理部14により検出された被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達した場合には(ステップS2:YES)、速度抑制部22は、傾斜角センサ6または慣性計測装置7により検出された車両のバンク角の絶対値が基準バンク角以下か否かを判断する(ステップS3)。
【0055】
傾斜角センサ6または慣性計測装置7により検出された車両のバンク角の絶対値が基準バンク角以下である場合には(ステップS3:YES)、速度制御部21は速度抑制制御を開始する(ステップS4)。
【0056】
図5は、ステップS4で行われる速度抑制制御の開始時の処理の流れを示している。
図5において、速度抑制部22は、速度抑制制御の実行を示す信号を表示部10に出力し、速度抑制制御が実行されていることを車両の操縦者に知らせる(ステップS21)。例えば、表示部10が車両のメータに設けられたランプである場合には、速度抑制制御の実行を示す信号に基づいてそのランプが点灯または点滅する。また、表示部10が車両のメータに設けられたディスプレイである場合には、速度抑制制御の実行を示す信号に基づいて、速度抑制制御の実行を示すマーク、アイコン、画像または文字列等がディスプレイ中に表示される。
【0057】
続いて、速度抑制部22は、速度抑制制御開始時において車速センサ4により検出された車両の走行速度と、目標制限速度との偏差である車速偏差を算出する(ステップS22)。速度抑制制御開示時において、目標制限速度は目標制限速度初期値に設定されている。したがって、車速偏差は、速度抑制制御開始時における車両の走行速度と、目標制限速度初期値との偏差となる。
【0058】
続いて、速度抑制部22は、車速偏差に基づいて、車両の走行速度を車速偏差分減少させるための目標減速度を決定する(ステップS23)。例えば、記憶部13には、車速偏差と目標減速度との対応関係を記述したルックアップテーブルが記憶されている。速度抑制部22は、ステップS22で算出した車速偏差と、上記ルックアップテーブルを用いて目標減速度を決定する。
【0059】
続いて、速度抑制部22は、ステップS23で決定した目標減速度に基づいて、エンジンブレーキにより車両の走行速度を車速偏差分減少させるためのクランク軸のトルクの目標値である目標トルクを算出する(ステップS24)。例えば、速度抑制部22は、ステップS23で決定した目標減速度、車両重量および走行抵抗推定値等から目標荷重を算出し、算出した目標荷重、タイヤ径および車両の動力伝達機構における減速比等から目標トルクを算出する。
【0060】
続いて、速度抑制部22は、ステップS24で算出した目標トルク、および速度抑制制御開始時においてエンジン回転センサ3により検出されたエンジン回転数に基づいて、目標制限開度を決定する(ステップS25)。例えば、記憶部13には、スロットル開度と、エンジン回転数と、クランク軸のトルクとの対応関係を記述したエンジン制御マップが記憶されている。速度抑制部22は、ステップS24で算出した目標トルク、検出されたエンジン回転数、およびエンジン制御マップを用いて、目標制限開度を決定する。
【0061】
続いて、速度抑制部22は、速度抑制制御開始時においてスロットルポジションセンサ5により検出されたスロットル開度から目標制限開度へ目標スロットル開度を徐々に減少させる徐変処理を開始する(ステップS26)。
【0062】
一方、
図4において、車速センサ4により検出された車両の走行速度が制御開始基準速度を超えていない場合(ステップS1:NO)、慣性計測装置7および信号処理部14により検出された被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達していない場合(ステップS2:NO)、または、傾斜角センサ6もしくは慣性計測装置7により検出された車両のバンク角の絶対値が基準バンク角以下でない場合には(ステップS3:NO)、速度抑制制御は開始されず、処理はステップS1に戻る。
【0063】
さて、ステップS4で速度抑制制御が開始された後、速度抑制停止部23が、現時点において車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になったか否かを判断する(ステップS5)。
【0064】
車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下でない場合には(ステップS5:NO)、続いて、速度抑制停止部23は、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えたか否かを判断する(ステップS6)。
【0065】
被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えない場合には(ステップS6:NO)、処理はステップS5に戻る。そして、車両の走行速度が目標制限速度以下になり、または被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になるまで、速度抑制停止部23は、ステップS5およびS6の判断を繰り返す。この間、速度抑制制御における徐変処理(
図5中のステップS26を参照)が進行する。その結果、目標スロットル開度が目標制限開度に向かって徐々に減少し、それに伴い、スロットル開度が目標制限開度に向かって徐々に減少し、それに伴い、車両の走行速度が目標制限速度に向かって徐々に減少する。
【0066】
車両の走行速度が目標制限速度以下になる前に、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた場合には(ステップS6:YES)、速度抑制停止部23は、現時点において車速センサ4により検出された車両の走行速度よりも余裕設定量低い速度を目標制限速度候補値として算出する(ステップS7)。
【0067】
続いて、速度抑制停止部23は、ステップS7で算出した目標制限速度候補値が、目標制限速度初期値よりも大きいか否かを判断する(ステップS8)。
【0068】
ステップS7で算出した目標制限速度候補値が、目標制限速度初期値よりも大きい場合には(ステップS8:YES)、速度抑制停止部23は、目標制限速度の設定を、目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更する(ステップS9)。一方、ステップS7で算出した目標制限速度候補値が、目標制限速度初期値以下である場合(ステップS8:NO)、速度抑制停止部23は、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更する処理を行わない。その結果、目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されている状態が維持される。
【0069】
続いて、速度抑制停止部23は、現時点において車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になったか否かを判断する(ステップS10)。
【0070】
車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下でない場合には(ステップS10:NO)、速度抑制停止部23は、車両の走行速度が目標制限速度以下になるまで、ステップS10の判断を繰り返す。この間、速度抑制制御における徐変処理(
図5中のステップS26を参照)が進行する。その結果、目標スロットル開度が目標制限開度に向かって徐々に減少し、それに伴い、スロットル開度が目標制限開度に向かって徐々に減少し、それに伴い、車両の走行速度が徐々に減少する。
【0071】
車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合には(ステップS10:YES)、速度抑制停止部23は速度抑制制御を停止する(ステップS11)。具体的には、速度抑制停止部23は
図5中のステップS26の徐変処理を停止する。
【0072】
また、ステップS5で車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合にも、速度抑制停止部23は速度抑制制御を停止する。なお、ステップS5において、車速センサ4により検出された車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合とは、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超える前に、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下になった場合である。上述したように、目標制限速度初期値は、鞍乗型の車両に発生したウォブルを確実に除去することができ、または鞍乗型の車両に発生したウォブルを車両の直進安定性を低下させない程度に確実に軽減することができる速度に設定されており、制御停止基準全振幅は、ウォブルが消失したと考えられ、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に減少したと考えられる被検振動の全振幅に相当する値に設定されている。それゆえ、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超える前に、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下になるといったことは起こり難い。しかしながら、次の場合には、このようなことが起こる可能性がある。第1の場合は、車両の操縦者が車輪のブレーキをかけるなどして短時間のうちに車両が減速した場合である。すなわち、ウォブルの周波数は低いため、ウォブルの周期は長い(例えばウォブルの周波数が1Hzの場合には、ウォブルの周期は1秒になる)。そのため、例えば、速度抑制制御の開始直後に、車両の操縦者が車輪のブレーキをかけた場合には、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超える前に、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下になることが起こる可能性がある。もちろん、この場合には、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下になることにより、ウォブルは消失し、または車両の直進走行性を低下させない程度に減少する。第2の場合は、例えば路面のうねりなどのために車両が揺れ、その揺れの周波数がウォブルの周波数と偶然に一致した場合である。この場合には、車両が減速しても路面のうねりなどによる車両の揺れが治まらず、その結果、被検振動の振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超える前に、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下になることが起こる可能性がある。
【0073】
また、速度抑制停止部23は、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更する処理(ステップS9)を実行した場合には、速度抑制制御を停止した直後、目標制限速度の設定を目標制限速度候補値から目標制限速度初期値に戻す(ステップS12)。
【0074】
続いて、速度抑制停止部23は速度復帰制御を行う(ステップS13)。
図6は、ステップS13で行われる速度復帰制御の流れを示している。
図6において、速度抑制停止部23は、速度抑制制御停止時においてアクセルポジションセンサ2により検出されたアクセル開度に対応する目標非制限開度を求める(ステップS31)。続いて、速度抑制停止部23は、ステップS31で求めた目標非制限開度が、速度抑制制御停止時においてスロットルポジションセンサ5により検出されたスロットル開度よりも大きいか否かを判断する(ステップS32)。ステップS31で求めた目標非制限開度が速度抑制制御停止時においてスロットルポジションセンサ5により検出されたスロットル開度よりも大きい場合には(ステップS32:YES)、速度抑制停止部23は、速度抑制制御停止時のスロットル開度から、速度抑制制御停止時のアクセル開度に対応する目標非制限開度へ目標スロットル開度を徐々に増加させる徐変処理を実行する(ステップS33)。この徐変処理の結果、スロットル開度が、速度抑制制御停止時のアクセル開度に対応する目標非制限開度に向かって徐々に増加し、それに伴い、車両の走行速度が徐々に増加する。
【0075】
一方、ステップS31で求めた目標非制限開度が、速度抑制制御停止時においてスロットルポジションセンサ5により検出されたスロットル開度以下である場合には(ステップS32:NO)、ステップS33の徐変処理を行わなくても車両が急加速することがないので、速度抑制停止部23はステップS33の徐変処理を行わない。
【0076】
ステップS33の徐変処理が終了した後、またはステップS32でステップS33の徐変処理を行わない旨の判断を行った後、速度抑制停止部23は、速度抑制制御の実行を示す信号の表示部10への出力を停止する(ステップS34)。これにより、速度抑制制御の実行を示すランプが消灯し、または速度抑制制御の実行を示すマーク等がディスプレイ中から消える。
【0077】
速度復帰制御が終了した後、処理は
図4中のステップS1に戻る。また、速度復帰制御が終了した後、車両における走行速度の制御は通常速度制御に移行する。
【0078】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例の走行制御装置1は、車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達し、かつ車両のバンク角が基準バンク角以下である場合に、速度抑制制御を行って、車両の走行速度を減少させる。これにより、ウォブルを抑制することができ、例えば時速およそ100km以上の中高速走行時における車両の直進安定性の低下を抑えることができる。また、本実施例の走行制御装置1は、車両の走行速度を減少させることによってウォブルを抑制することができるので、ウォブルを抑制するために、キャスタ角可変装置を車両に搭載するなど、機械的な装置や構造物を車両に追加しなくてもよい。したがって、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウォブルを抑制することができる。
【0079】
また、本実施例の走行制御装置1によれば、車両の走行速度が制御開始基準速度を超えたこと、被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達したこと、および車両のバンク角が基準バンク角以下であることという3つの条件が満たされた場合に、車両にウォブルが発生したと認識し、速度抑制制御を行う。これにより、車両にウォブルが発生したことを高精度に認識することができ、速度抑制制御を適切に行うことができる。具体的は、車両にウォブルが発生していることを認識することができずに速度抑制制御を実行し損なうことや、車両に発生した他の振動を誤ってウォブルと認識してしまい、車両にウォブルが発生していないにも拘わらず速度抑制制御を実行してしまうことなどを抑制することができる。
【0080】
また、本実施例の走行制御装置1は、速度抑制制御が開始された後、車両の走行速度が目標制限速度以下になった場合に、速度抑制制御を停止する。また、速度抑制制御の開始時には、制御開始基準速度以下の所定の速度である目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されており、速度抑制制御が開始された後には、走行制御装置1は、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数に達した時点における車両の走行速度よりも所定量低い速度を目標制限速度候補値として算出し、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値よりも大きい場合には目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更し、目標制限速度候補値が目標制限速度初期値以下である場合には目標制限速度初期値が目標制限速度として設定されている状態を維持する。これにより、車両に発生したウォブルが消失し、または車両の直進安定性を低下させない程度に減少した場合に、速度抑制制御を迅速に停止することができる。これにより、ウォブルが消失し、または車両の直進安定性を低下させない程度に減少したにも拘わらず速度抑制制御が継続することによって、車両が不必要に減速してしまうことや、車両の操縦者のアクセル操作による車両の加速の機会を無駄に奪ってしまうことを抑制することができる。
【0081】
また、本実施例の走行制御装置1は、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いている。これにより、ウォブルが確実に消失し、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に確実に減少しているときの車両の走行速度を目標制限速度候補値の算出に用いることができる。もし、ウォブルが消失しておらず、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に減少していないときの車両の走行速度が目標制限速度候補値の算出に用いられた場合には、速度抑制制御によってウォブルが除去または十分に軽減される前に速度抑制制御が止まってしまう。本実施例によれば、これを防止することができる。
【0082】
また、本実施例の走行制御装置1は、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数を超えた時点における車両の走行速度よりも余裕設定量低い速度を目標制限速度候補値として算出する。これにより、ウォブルが消失する前に、またはウォブルが車両の直進安定性を低下させない程度に減少する前に速度抑制制御が止まってしまうことを防ぐことができる。
【0083】
また、本実施例の走行制御装置1は、速度抑制制御が停止した時点におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度が、速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度よりも大きい場合には、目標スロットル開度として設定する開度値を、速度抑制制御が停止した時点におけるスロットル開度から、速度抑制制御が停止した時点におけるアクセル開度に対応した目標非制限開度へ徐々に増加させる速度復帰制御を行う。これにより、速度抑制制御によって、スロットル開度が、アクセル開度に対応した目標非制限開度よりも大幅に小さくなった場合でも、速度抑制制御停止時に、車両が急加速することを抑制することができる。
上限速度が目標制限速度初期値または目標制限速度候補値になった場合、速度上限制御部34により、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下または目標制限速度候補値以下に制限される。これにより、今後、車両にウォブルが発生しなくなる。もっとも、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下または目標制限速度候補値以下に制限されるため、車両の操縦者は車両の操縦に不自由を感じることが考えられる。上限速度が目標制限速度初期値または目標制限速度候補値になった場合には、その後、短期間のうちに、車両を検査してウォブルが発生する原因を突き止め、その原因を除去すべく車両の修理等を行うことが望ましい。なお、例えば、車両の点検者または修理者がECU11をリセットまたは初期化することにより、上限速度が上限速度初期値に戻るようになっている。
また、速度抑制停止部35は、速度抑制制御が停止した後、速度抑制制御の実行を示す信号の表示部10への出力を停止させない。これにより、速度抑制制御の実行を示すランプが点灯または点滅している状態、あるいは速度抑制制御の実行を示すマーク等がディスプレイ中に表示された状態が継続するので、車両の操縦者は、車両の走行速度が目標制限速度初期値以下または目標制限速度候補値以下に制限されている状態であること(車両の上限速度が通常よりも低いこと)を知ることができる。
なお、上記各実施例において、速度抑制停止部23は、速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が連続的に制御停止基準全振幅以下になった回数が制御停止基準回数に達した時点における車両の走行速度よりも所定量低い速度を目標制限速度候補値として算出するが、本発明はこれに限らない。速度抑制制御が開始された後、被検振動の全振幅が制御停止基準全振幅以下になった時点における車両の走行速度よりも所定量低い速度を目標制限速度候補値として算出してもよい。
また、上記各実施例において、速度抑制停止部23は、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更した場合、速度抑制制御の停止後に、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値に戻すが、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値から目標制限速度候補値に変更した場合、その後、目標制限速度の設定を目標制限速度初期値に戻さないようにしてもよい。また、目標制限速度の設定を、常時、目標制限速度初期値としてもよい。
また、上記各実施例において、速度抑制部22は、車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を連続的に超えた回数が制御開始基準回数に達した場合に速度抑制制御を行うが、車両の走行速度が制御開始基準速度を超え、かつ被検振動の全振幅が制御開始基準全振幅を超えた場合に速度抑制制御を行うようにしてもよい。
また、上記各実施例では、被検振動の全振幅に基づいて速度抑制制御を行うか否かの判断等を行っているが、被検振動のプラス側またはマイナス側の振幅に基づいて速度抑制制御を行うか否かの判断等を行ってもよい。
また、速度抑制部22が速度抑制制御を行う条件から、車両のバンク角が基準バンク角以下であることという条件を外してもよい。また、速度抑制部22が速度抑制制御を行う条件に、車両が加速していることという条件を追加してもよい。
また、上記各実施例では、ウォブルを車両のヨー方向の振動に基づいて検出しているが、本発明はこれに限らず、ウォブルを車両のロール方向の振動、またはヨー方向の振動およびロール方向の振動に基づいて検出してもよい。
また、速度抑制制御中、または速度復帰制御中に、車両の操縦者が車両を大幅に減速させるアクセル操作をした場合には、速度抑制制御、または速度復帰制御を直ちに停止するようにしてもよい。車両の操縦者が車両を大幅に減速させるアクセル操作をしたことは、例えば、アクセルポジションセンサ2によりアクセル開度を検出することによって認識することができる。
また、本発明は、自動二輪車以外の鞍乗型車両にも適用することができる。また、本発明は、走行の動力源としてエンジン(内燃機関)以外の動力源を有する鞍乗型車両にも適用することができる。
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う走行制御装置もまた本発明の技術思想に含まれる。