(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029640
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】回転子
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240228BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132009
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 学
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA02
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA13
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP03
(57)【要約】
【課題】トルクリプルが抑制された同期電動機の回転子を提供する。
【解決手段】埋込磁石形同期電動機の回転子3であって、複数の極を備える。複数の極の各々は、主磁石3a~3dを有し、隣接する極の間において、主磁石3a~3dの端部側に補助磁石3e~3lが設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋込磁石形同期電動機の回転子であって、
複数の極を備え、
前記複数の極の各々は、主磁石を有し、
隣接する前記極の間において、前記主磁石の端部側に補助磁石が設けられていることを特徴とする、回転子。
【請求項2】
前記主磁石によって構成された回転子磁極の中心をd軸、前記回転子磁極の磁極間をq軸としたとき、前記補助磁石の磁化方向はq軸に対して-45°から+45°の範囲内である、請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記回転子は複数のコアシートが軸方向に積層されて構成されており、
軸方向に隣り合う前記コアシートを前記軸方向から透視的に見たときに、少なくとも一部の前記コアシートに前記補助磁石が設けられている、請求項1に記載の回転子。
【請求項4】
前記回転子は複数のコアシートが軸方向に積層されて構成されており、
軸方向に隣り合う前記コアシートを前記軸方向から透視的に見たときに、少なくとも一部の前記コアシートに前記補助磁石が設けられている、請求項2に記載の回転子。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の回転子と、
固定子と、を備える電動機または発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機のトルクリプルは,制御性能の悪化や振動・騒音の増加などさまざまな問題を引き起こす。このリプルの原因は主に回転子に埋め込まれた永久磁石の起磁力高調波が一つの要因であり,磁石の配置によって発生する高調波成分が変化する。例えば、非特許文献1に、磁極の中心から円弧上にスリット穴を設けて、その中に永久磁石を埋め込んだ、同期電動機の回転子が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「磁束集中IPMモータの技術開発」、日本AEM学会、Vol.24、No.4(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示されている回転子は、SPMSM(表面磁石型同期電動機)構造、およびIPMSM(埋め込み磁石同期電動機)構造であり、複数の永久磁石の配置を変化させることで、回転子の起磁力を変化させている。永久磁石の周辺にフラックスバリアが配置されているため、複数の永久磁石の配置に制限がかかり、ギャップ磁束密度の高調波成分を低減させることが困難な場合がある。
【0005】
本発明は、トルクリプルが抑制された同期電動機の回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る埋込磁石形同期電動機の回転子であって、
複数の極を備え、
前記複数の極の各々は、主磁石を有し、
隣接する前記極の間において、前記主磁石の端部側に補助磁石が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、埋込磁石形同期電動機における回転子の永久磁石を、磁極中心だけでなく、極間にも起磁力を与えるように配置することで、高調波リプル成分を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】参考例に係る同期電動機の水平方向断面図である。
【
図2】参考例に係る同期電動機の回転子の水平方向断面図である。
【
図3】参考例に係る同期電動機の回転子におけるトルク波形を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る同期電動機の回転子の水平方向断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る同期電動機の回転子におけるトルク波形を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る同期電動機の回転子の模式図である。
【
図7】
図6に示す回転子3’のうち、第一コアシート31Aを含む領域におけるトルク波形を示す図である。
【
図8】
図6に示す回転子3’のうち、第一コアシート31Bを含む領域におけるトルク波形を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る同期電動機の回転子におけるトルクの合成波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、説明の便宜上、その説明は省略する。また、本図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0010】
図1は、参考例に係る同期電動機10の水平方向断面図である。
図1に示すように、同期電動機10は、円筒状のハウジング1に固定された固定子2と、固定子2に対して相対的に回転可能な回転子300と、を備えている。
【0011】
固定子2は、回転軸方向に複数の電磁鋼板が積層されて形成されたリング形状のステータコア21を備えている。ステータコア21は、内周面側に複数のステータコイル22を有している。複数のステータコイル22は、環状に配置されており、外部から交流電流が印加される構成となっている。
【0012】
回転子300は、回転軸方向に複数の電磁鋼板が積層されて形成されたロータコア231を備えている。ロータコア231は円筒状に形成されており、その径方向中央部には、シャフト取付孔31aが形成されている。シャフト取付孔31aには図示しない駆動シャフトが固定され、駆動シャフトはハウジング1によって回転可能に支承されている。
【0013】
回転子300は、ロータコア231に、4個のロータ磁石203a~203dを有する。ロータ磁石203a~203dは、永久磁石で構成されている。ロータ磁石203a~203dがスロット内部に埋め込まれていることで、ロータ磁石203a~203dが強固に固定されている。ロータ磁石203a~203dは、それぞれ極性の異なる1極を構成している。
【0014】
本実施形態に係る同期電動機100の詳細を説明するために、比較対象として、
図2、3を用いて、参考例に係る同期電動機10の回転子300について説明する。
図2は、参考例に係る同期電動機10の回転子300の水平方向断面図である。
図2に示すように、回転子300は、回転軸方向に複数の電磁鋼板が積層されて形成されたロータコア231を備えている。ロータコア231は、4個のロータ磁石203a~203dを有する。ロータコア231の外周部33および内周部35は、回転中心Oを中心とした円形状を有する。ロータ磁石203a~203dは、永久磁石で構成されており、ロータコア231のスリット内部に埋め込まれている。
ロータ磁石203a~203dは、それぞれ円柱状に形成されており、大きさ、材質または組成が略同一である。また、ロータ磁石203a~203dは、回転中心Oを中心とした円周上に、当該円周の各接線に沿って等間隔に配置されている。したがって、それぞれのロータ磁石203a~203dに起因するステータコイルに対する起磁力は略同一である。また、ロータ磁石203a~203dの各々の両端部には、径方向外側に延びる空隙部32a~32dが設けられている。
【0015】
図3は、参考例に係る同期電動機10の回転子300におけるトルク波形を示す図であり、横軸に角度を、縦軸にトルクを示す。
図3に示す符号T1は、トルク波形のトルクリプルの大きさを表す。なお、
図3のトルク波形の測定に用いられた回転子300を含む同期電動機10は、10極12スロット、集中巻線のIPMSM(埋め込み磁石同期電動機)構造である。
【0016】
一般的に、電動機において、トルクの6次高調波リプル成分が発生することが知られており、6次高調波リプル成分はモータ制御性の悪化や振動・騒音の要因となり得る。
トルクリプルの発生要因は、主に(1)電機子の回転磁界に重畳する高調波である回転磁界高調波、(2)回転子の磁石起磁力(形状,配置)などにより発生する起磁力高調波である界磁起磁力高調波、(3)電機子巻線の配置に起因する高調波である相帯高調波、(4)電機子の巻線スロットに起因するギャップのパーミアンス変動による高調波であるスロット高調波、の4つの磁束密度高調波成分である。このうち(1)~(3)は、主にギャップ磁束密度の5次または7次高調波成分として現れることが知られている。また、トルクの6次高調波リプル成分は、ギャップ磁束密度の5次または7次高調波成分に起因していることが知られている。
【0017】
ここで発明者は、埋込磁石形同期モータにおける回転子の永久磁石を、磁極中心だけでなく、極間にも起磁力を与えるように配置することで、トルクリプルの主要な成分である6次高調波リプル成分を抑制することに着目した。極間にも起磁力を与えることにより、トルクの6次高調波リプル成分の要因である、ギャップ磁束密度の5次または7次高調波、およびその倍数次高調波の、振幅および位相を変化させる。これらの高調波成分の振幅を低減することで、トルクリプルの脈動を低減することが可能となる。またこれらの高調波成分の位相を反転させることで,トルクリプルの位相を変転させることが可能である。
[第1実施形態]
【0018】
以下、
図4、5を用いて、第1実施形態の同期電動機100の回転子3について詳細に説明する。
図4は、第1実施形態の同期電動機100の回転子3の水平方向断面図である。
図4に示すように、回転子3は、
図2に示す参考例に係る同期電動機10の回転子300と異なり、補助磁石としてロータ磁石3a~3dの両端部側にロータ磁石3e~3lが設けられている。ロータ磁石3e~3lは、それぞれ、空隙部32a~32dに埋め込まれている。これにより、ロータ磁石3e~3lが強固に固定されている。
なお、ロータ磁石3e~3lは、それぞれ、極と極の間に設けられていればよい。
図4の例示では、ロータ磁石3e~3lが、それぞれ、ロータ磁石3a~3dの端部から長手方向に延長された位置に設けられているが、これに限定されるものではない。また、
図4の例示では、ロータ磁石3e~3lは円筒状に形成されているが、これに限定されるものではない。
【0019】
図4に示すように、主磁石であるロータ磁石3a~3dによって構成された回転子磁極の中心をd軸、隣り合う回転子磁極の磁極間をq軸とする。補助磁石であるロータ磁石3e~3lの磁化方向Mは、q軸に対してなす角θが-45°から+45°の範囲内であるのが望ましい。なお、
図4では、複数の主磁石であるロータ磁石3a~3dのうち、ロータ磁石3a、3bについて、回転子磁極におけるd軸、q軸、補助磁石3gの磁化方向Mがq軸に対してなす角θを明示している。
【0020】
図5は、第1実施形態に係る同期電動機100の回転子3におけるトルク波形を示す図であり、横軸に角度を、縦軸にトルクを示す。なお、
図5のトルク波形の測定に用いられた回転子3を含む同期電動機100は、4極24スロット、分布巻線のIPMSM(埋め込み磁石同期電動機)構造である。
【0021】
図5に示すように、第1実施形態に係る同期電動機100の回転子3におけるトルクリプルT2は、ロータ磁石3a~3dの両端部側に補助磁石であるロータ磁石3e~3lを設けて、磁極中心だけでなく、極間にも起磁力を与えることで、
図3に示す参考例に係る同期電動機10の回転子300のトルクリプルT1と比較して低減される。したがって、振動・騒音が低減するなど電動機の性能を改善することできる。
[第2実施形態]
【0022】
以下、
図6~9を用いて、第2実施形態の同期電動機100の回転子について詳細に説明する。
図6は、第2実施形態の同期電動機100の回転子3’の模式図である。回転子3’は、参考例に係る同期電動機10の回転子300と第1実施形態の同期電動機100の回転子3を組み合わせた構成である。
回転子3’のロータコアは、複数の第一コアシート31A、31Bが回転軸方向Lに積層された構成である。軸方向に隣り合う第一コアシート31A、31Bを軸方向から透視的に見たときに、少なくとも一部の第一コアシート(
図6の例示では、第一コアシート31A)に補助磁石であるロータ磁石3e~3lが設けられている。
【0023】
図7は、
図6に示す回転子3’のうち、第一コアシート31Aを含む領域におけるトルク波形を示す図である。
図8は、
図6に示す回転子3’のうち、第一コアシート31Bを含む領域におけるトルク波形を示す図である。
図7、8は、横軸に角度を、縦軸にトルクを示す。
図7、8を比較すると、第一コアシート31Aを含む領域におけるトルク波形の位相と第一コアシート31Bを含む領域におけるトルク波形の位相が、互いに反転している。
【0024】
図9は、
図6に示す第2実施形態に係る回転子3’を備えた同期電動機全体におけるトルク波形を示す図であり、横軸に角度を、縦軸にトルクを示す。
図9に示すトルク波形は、
図7に示すトルク波形と
図8に示すトルク波形の合成波形である。なお、
図9のトルク波形の測定に用いられた回転子3’を含む同期電動機100は、10極12スロット、集中巻線のIPMSM構造である。
【0025】
図7に示すトルク波形の位相と
図8に示すトルク波形の位相が、互いに反転しているため、同期電動機全体としては2つのトルクが合成されることで、リップルが相殺され、トルクリプルT3の高調波成分が低減される。したがって、振動・騒音が低減するなど電動機の性能を改善することできる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【0027】
本発明の実施形態では、同期電動機の回転子として説明しているが、同期発電機の回転子にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10、100 同期電動機
1 ハウジング
2 固定子
3、3’、300 回転子
3a~3d ロータ磁石(主磁石)
3e~3l ロータ磁石(補助磁石)
21 ステータコア
22 ステータコイル
31、231 ロータコア
31a シャフト取付孔
33 外周部
35 内周部
T1、T2、T3 トルクリプル
O 回転中心