(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029659
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】製造システム及びメタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/12 20060101AFI20240228BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240228BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20240228BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20240228BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C07C1/12
B01J23/63 Z
B01J23/83 Z
C07C9/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132034
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 長寿
(72)【発明者】
【氏名】渡部 綾
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC09A
4G169BC10A
4G169BC16A
4G169BC40A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC51A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC74A
4G169BC75A
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD05A
4G169CC22
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC29
4H006BA23
4H006BA55
4H006BE20
4H006BE30
4H006BE41
4H039CA19
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】メタン製造時のランニングコストを低減できる製造システムが提供される。
【解決手段】本開示の製造システムは、二酸化炭素及び水素からメタン化反応によってメタンを製造するための製造システムであって、前記メタン化反応の触媒を有する反応装置と、前記反応装置に二酸化炭素ガス及び水素ガスを供給する原料ガス供給部と、前記反応装置への酸素ガスの供給と前記供給の停止とを切り替え可能な酸素ガス供給部と、反応装置の少なくとも一部に被覆された、前記触媒の熱を保持するための断熱材と、を備える。前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及び水素からメタン化反応によってメタンを製造するための製造システムであって、
前記メタン化反応の触媒を有する反応装置と、
前記反応装置に二酸化炭素ガス及び水素ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記反応装置への酸素ガスの供給と前記供給の停止とを切り替え可能な酸素ガス供給部と、
反応装置の少なくとも一部に被覆された、前記触媒の熱を保持するための断熱材と、
を備え、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含む、製造システム。
【請求項2】
前記触媒は、構造体触媒であり、
前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層と、を有し
前記触媒層は、前記触媒金属を含む、請求項1に記載の製造システム。
【請求項3】
前記反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、
前記熱保持基材が、前記少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、
前記触媒層が、前記複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着している、請求項2に記載の製造システム。
【請求項4】
前記熱保持基材の1平方インチ当たりの前記複数の貫通孔の数は、50cpsi~1200cpsiである、請求項3に記載の製造システム。
【請求項5】
前記熱保持基材は、前記セラミックスを含む、請求項2又は請求項3に記載の製造システム。
【請求項6】
前記触媒層は、前記触媒金属が担持された担体を更に含み、
前記担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、請求項2又は請求項3に記載の製造システム。
【請求項7】
前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、
複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、
前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、請求項1に記載の製造システム。
【請求項8】
二酸化炭素及び水素からメタンを生成するメタン化反応の触媒を有する反応装置の前記触媒に、外部の熱源から熱を供給して、前記触媒を室温(20℃)以上に昇温することと、
前記外部の熱源からの熱の供給を停止することと、
温度が室温(20℃)以上の前記触媒に、少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給することと、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から第1所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止することと、
を含み、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含み、
前記反応装置の少なくとも一部に、前記触媒の熱を保持するための断熱材が被覆されている、メタンの製造方法。
【請求項9】
前記酸素ガスの供給を停止することの後に、継続運転操作を少なくとも1回繰り返し実施することを含み、
前記継続運転操作は、
二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止して、前記触媒に不活性ガスを供給することと、
前記不活性ガスの供給を開始した時点から第2所定時間が経過した後に、前記触媒に少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給することと、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から第3所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止することと、
を含む、請求項8に記載のメタンの製造方法。
【請求項10】
前記触媒は、構造体触媒であり、
前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層と、を有し、
前記触媒層は、前記触媒金属を含む、請求項9に記載のメタンの製造方法。
【請求項11】
前記反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、
前記熱保持基材が、前記少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、
前記触媒層が、前記複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着している、請求項10に記載のメタンの製造方法。
【請求項12】
前記熱保持基材の1平方インチ当たりの前記複数の貫通孔の数は、50cpsi~1200cpsiである、請求項11に記載のメタンの製造方法。
【請求項13】
前記熱保持基材は、前記セラミックスを含む、請求項10又は請求項11に記載のメタンの製造方法。
【請求項14】
前記触媒層は、前記触媒金属が担持された担体を更に含み、
前記担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、請求項10又は請求項11に記載のメタンの製造方法。
【請求項15】
前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、
複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、
前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、請求項8に記載のメタンの製造方法。
【請求項16】
前記第1所定時間が10秒~20000秒である、請求項8又は請求項9に記載のメタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造システム及びメタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素化及びカーボンニュートラルの要望から、火力発電所や鉄鋼産業などの工業プロセスで排出される二酸化炭素の処理技術の開発が、国内外で強く求められている。このような二酸化炭素の処理技術として、メタネーション反応(以下、「メタン化反応」ともいう。)が注目されている。
メタン化反応は、下記反応式(I)に示すように、二酸化炭素ガス及び水素ガスから、メタンガス及び水を生成する発熱反応である。
反応式(I):CO2+4H2→CH4+2H2O
【0003】
特許文献1は、メタン化反応を利用したメタンの製造方法を開示している。特許文献1に開示の製造方法は、第1工程及び第2工程を含み、この順に実行される。
第1工程では、反応器及び前記反応器内に設けられた触媒を有する反応装置の前記反応器に、二酸化炭素、水素及び酸素を含有する原料ガスを導入しながら、前記反応器を、外部の熱源から熱を供給することにより所定の温度以上に加熱し、それにより前記反応器中で二酸化炭素をメタンに転化するメタン化反応を開始させる。
第2工程では、前記熱源の温度を前記所定の温度よりも低い温度まで低下させ、その状態で前記メタン化反応を継続させる。
前記触媒は、担体及び該担体に担持された触媒金属を含む。前記担体は、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属酸化物を含有する。前記触媒金属は、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メタン化反応を進行させるためには、熱エネルギー(通常、反応温度は250℃~330℃)が必要である。特許文献1では、原料ガスは水素ガス及び酸素ガスを含むため、メタン化反応に加えて、下記反応式(II)に示す燃焼反応が進行する。燃焼反応は、水素ガスと酸素ガスとから水を生成する大きな発熱反応である。
反応式(II):H2+1/2O2→H2O
【0006】
特許文献1に記載の発明は、二酸化炭素、水素及び酸素を含有する原料ガスを触媒に導入し続けることにより、燃焼反応の反応熱によってメタン化反応を起動(着火)させ、燃焼反応及びメタン化反応による内部加熱によって、外部の熱源(例えば、電気炉)から熱を触媒に供給しない状態(以下、「室温域」ともいう。)でも、メタン化反応を進行させることができる。
【0007】
一方で、メタン化反応を利用した二酸化炭素の処理の工業化にあたり、メタンを製造する際のランニングコストをより低減できる製造システム及びメタンの製造方法が求められている。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、メタン製造時のランニングコストを低減できる製造システム及びメタンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、意外にも、室温域において、水素ガスと酸素ガスとの燃焼反応によってメタン化反応を起動し、酸素ガスを供給しながらメタン反応及び燃焼反応を実施した後に、酸素ガスの供給を停止しても、メタン化反応が長く持続するとの知見を実験的に得た。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 二酸化炭素及び水素からメタン化反応によってメタンを製造するための製造システムであって、
前記メタン化反応の触媒を有する反応装置と、
前記反応装置に二酸化炭素ガス及び水素ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記反応装置への酸素ガスの供給と前記供給の停止とを切り替え可能な酸素ガス供給部と、
反応装置の少なくとも一部に被覆された、前記触媒の熱を保持するための断熱材と、
を備え、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含む、製造システム。
<2> 前記触媒は、構造体触媒であり、
前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層と、を有し
前記触媒層は、前記触媒金属を含む、前記<1>に記載の製造システム。
<3> 前記反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、
前記熱保持基材が、前記少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、
前記触媒層が、前記複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着している、前記<2>に記載の製造システム。
<4> 前記熱保持基材の1平方インチ当たりの前記複数の貫通孔の数は、50cpsi~1200cpsiである、前記<3>に記載の製造システム。
<5> 前記熱保持基材は、前記セラミックスを含む、前記<2>~<4>のいずれか1つに記載の製造システム。
<6> 前記触媒層は、前記触媒金属が担持された担体を更に含み、
前記担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、前記<2>~<5>のいずれか1つに記載の製造システム。
<7> 前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、
複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、
前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、前記<1>に記載の製造システム。
<8> 二酸化炭素及び水素からメタンを生成するメタン化反応の触媒を有する反応装置の前記触媒に、外部の熱源から熱を供給して、前記触媒を室温(20℃)以上に昇温することと、
前記外部の熱源からの熱の供給を停止することと、
温度が室温(20℃)以上の前記触媒に、少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給することと、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止することと、
を含み、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含み、
前記反応装置の少なくとも一部に、前記触媒の熱を保持するための断熱材が被覆されている、メタンの製造方法。
<9> 前記酸素ガスの供給を停止することの後に、継続運転操作を少なくとも1回繰り返し実施することを含み、
前記継続運転操作は、
二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止して、前記触媒に不活性ガスを供給することと、
前記不活性ガスの供給を開始した時点から所定時間が経過した後に、前記触媒に少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給することと、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止することと、
を含む、前記<8>に記載のメタンの製造方法。
<10> 前記触媒は、構造体触媒であり、
前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層と、を有し
前記触媒層は、前記触媒金属を含む、前記<9>に記載のメタンの製造方法。
<11> 前記反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、
前記熱保持基材が、前記少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、
前記触媒層が、前記複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着している、前記<10>に記載のメタンの製造方法。
<12> 前記熱保持基材の1平方インチ当たりの前記複数の貫通孔の数は、50cpsi~1200cpsiである、前記<11>に記載のメタンの製造方法。
<13> 前記熱保持基材は、前記セラミックスを含む、前記<10>~<12>のいずれか1つに記載のメタンの製造方法。
<14> 前記触媒層は、前記触媒金属が担持された担体を更に含み、
前記担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、前記<10>~<13>のいずれか1つに記載のメタンの製造方法。
<15> 前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、
複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、
前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、前記<8>に記載のメタンの製造方法。
<16> 前記所定時間が10秒~20000秒である、前記<8>~<15>のいずれか1つに記載のメタンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、メタン製造時のランニングコストを低減できる製造システム及びメタンの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例1の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図3】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例2の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図4】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例3の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図5】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例3の構造体触媒の入口温度及び構造体触媒の出口温度の各々の温度を示すグラフである。
【
図6】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例4の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図7】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例4の充填層触媒の入口温度及び構造体触媒の出口温度の各々の温度を示すグラフである。
【
図8】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例5の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図9】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例5の充填層触媒の入口温度及び触媒の出口温度の各々の温度を示すグラフである。
【
図10】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例6の二酸化炭素転化率(%)を示すグラフである。
【
図11】反応開始時点からの経過時間(分)に対する、実施例6のメタン選択率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
(1)製造システム
本開示の製造システムは、
二酸化炭素及び水素からメタン化反応によってメタンを製造するための製造システムであって、
前記メタン化反応の触媒(以下、単に「触媒」ともいう。)を有する反応装置と、
前記反応装置に二酸化炭素ガス及び水素ガスを供給する原料ガス供給部と、
前記反応装置への酸素ガスの供給と前記供給の停止とを切り替え可能な酸素ガス供給部と、
反応装置の少なくとも一部に被覆された、前記触媒の熱を保持するための断熱材と、
を備え、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含む。
【0015】
本開示の製造システムは、上記の構成を有するので、メタン製造時のランニングコストを低減できる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
本開示の製造システムを用いれば、室温域から、水素ガスと酸素ガスとの燃焼反応による反応熱によってメタン化反応を起動(着火)し、酸素ガスを供給しながらメタン反応及び燃焼反応(以下、まとめて「オートメタン化反応」ともいう。)を実施してから、酸素ガスの供給を停止して(すなわち、燃焼反応を停止して)、通常のメタン化反応に切り替えることができる。オートメタン化反応から通常のメタン化反応に切り替えることができるのは、メタン化反応が発熱反応であることと、断熱材によってメタン化反応の触媒の熱が保持されやすいことと、触媒が、メタン化反応及び燃焼反応の少なくとも一方で発せられる熱(すなわち、メタン化反応の進行に必要な熱エネルギー)を保持しやすいこととが主要因であると推測される。
具体的には、本開示の製造システムを用いれば、触媒に外部の熱源から熱を供給して触媒を特定温度(例えば、200℃以上)に昇温させ、外部の熱源からの熱の供給を停止した後、第1ガス(二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを含む)を触媒に供給し、第1ガスの供給を開始した時点(以下、「反応開始時点」ともいう。)から所定時間(例えば、1分~600分)が経過した後、酸素ガスの供給を停止し、第2ガス(二酸化炭素ガス及び水素ガスを含み、かつ酸素ガスを含まない)を供給し続けて、メタン化反応を継続させることができる。
つまり、本開示の製造システムを用いれば、従来よりも酸素と水素の供給量を少なくしても、二酸化炭素からメタンを製造することができる。これにより、本開示の製造システムは、メタン製造時のランニングコストを低減できると推測される。
【0016】
(1.1)反応装置
本開示の製造システムは、反応装置を備える。
反応装置では、メタン化反応及び燃焼反応が実施される。
【0017】
(1.1.1)メタン化反応の触媒
反応装置は、メタン化反応の触媒を有する。触媒の作用によって、メタン化反応の進行は促進される。
【0018】
メタン化反応の触媒は、メタン化反応の進行を促進すれば特に限定されず、例えば、構造体触媒、充填層触媒等が挙げられる。中でも、メタン化反応の触媒は、構造体触媒、又は充填層触媒であることが好ましい。
以下、構造体触媒及び充填層触媒をこの順で説明する。
【0019】
「構造体触媒」(Structured catalyst)とは、化学反応場と熱エネルギーの伝熱場とを一体化した触媒を示し、通常の粒状触媒と比較して,エネルギーの交換や物質移動の制御性に優れ,高い原料処理能力と迅速な応答性を有する。
【0020】
(1.1.1.1)構造体触媒
メタン化反応の触媒は、構造体触媒であり、
前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層とを有し、
前記触媒層は、前記触媒金属を含むことが好ましい。
【0021】
「熱保持基材」とは、熱を保持しやすい基材を示す。
【0022】
メタン化反応の触媒が構造体触媒である場合、構造体触媒に含まれる熱保持基材は、メタン化反応及び燃焼反応の少なくとも一方で発せられる熱(すなわち、メタン化反応の進行に必要な熱エネルギー)を保持しやすい。これにより、オートメタン化反応を実施してから燃焼反応を停止しても、通常のメタン化反応はより進行しやすくなる。その結果、本開示の製造システムは、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
【0023】
(1.1.1.1.1)熱保持基材
熱保持基材は、触媒層を支持し、触媒層に伝熱するとともに、メタン化反応及び燃焼反応の反応熱を保持する。
【0024】
熱保持基材は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む。
セラミックスとしては、特に限定されず、例えば、コージェライト、シリカ、アルミナ、ムライト、及び炭化ケイ素等が挙げられる。
金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金(ステンレス、真鍮、リン青銅等)等が挙げられる。
中でも、熱保持基材は、セラミックスを含むことが好ましい。これにより、熱保持基材は、熱保持基材が金属を含む場合よりも熱を保持しやすい。その結果、本開示の製造システムは、室温域から、燃焼反応でメタン化反応を起動し、オートメタン化反応を実施してから、酸素ガスの供給を停止しても、通常のメタン化反応の進行をより長く持続させることができる。
【0025】
熱保持基材の構造は、ガスを通過し、かつ熱を保持しやすい構造であれば特に限定されず、例えば、ハニカム型(換言すると、モノリス型)、スパイラル型、ガーゼ型、グリッド型、発泡(フォーミング)型等が挙げられる。
「ハニカム型」は、互いに平行な多数の貫通孔(以下、「セル」ともいう。)を有する基材を示す。ハニカム型は、フロースルーであってもよいし、ウォールスルーであってもよい。「スパイラル型」とは、ねじれた長尺の板状の基材を示す。「ガーゼ型」とは、ワイヤーをシート状に織り込んだ基材を示す。
なかでも、熱をより保持しやすくする観点から、熱保持基材の構造は、ハニカム型であることが好ましい。
【0026】
以下、ハニカム型の熱保持基材を「ハニカム型熱保持基材」ともいう。
【0027】
ハニカム型熱保持基材の1平方インチ当たりの複数の貫通孔の数は、特に限定されず、構造体触媒に熱をより保持しやすくする観点から多ければ多いほど好ましく、好ましくは50cpsi(cells per square inch)~1200cpsi、より好ましくは100cpsi~800cpsi、さらに好ましくは200cpsi~400cpsiである。
ハニカム型熱保持基材の外形が円柱形である場合、ハニカム型熱保持基材の長さは、特に限定されず、反応装置の規模等に応じて適宜選択され、例えば、10mm~2000mmであり、ハニカム型熱保持基材の直径は、特に限定されず、好ましくは5mm~2000mmである。
【0028】
(1.1.1.1.2)触媒層
触媒層は、触媒金属を含む。触媒金属は、メタン化反応の進行を促進させる触媒として機能する。触媒層は、熱保持基材の表面の全面を覆っていてもよいし、熱保持基材の表面の一部のみを覆っていてもよい。触媒層は、熱保持基材の内部に形成されていてもよい。
触媒金属は、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。
触媒金属は、熱保持基材に直接的に付着していてもよいし、後述する担体を介して熱保持基材に間接的に付着していてもよい。
【0029】
触媒層は、触媒金属が担持された担体を更に含み、担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含むことが好ましい。これにより、本開示の製造システムは、触媒金属が熱保持基材に直接的に付着している場合よりもコスト的に優れる。
以下、ルテニウムが担持された酸化セリウムを「触媒粒子(Ru/CeO2)」ともいい、ニッケルが担持された酸化セリウムを「触媒粒子(Ni/CeO2)」ともいう。
【0030】
触媒層が担体を更に含む場合、触媒層は、メタン化反応の進行をより促進させる観点から、触媒粒子(Ru/CeO2)、及び触媒粒子((Ni/CeO2))の少なくとも一方を含むことが好ましく、触媒粒子(Ru/CeO2)を含むことがより好ましい。
触媒層が担体を更に含む場合、触媒金属の含有量は、特に限定されず、担体の質量に対して、0.01質量%~50質量%である。
触媒層が担体を更に含む場合、触媒層における担体及び触媒金属の合計の含有量は、構造体触媒の質量に対して、好ましくは10質量%~100質量%、より好ましくは20質量%~100質量%、さらに好ましくは30質量%~100質量%、特に好ましくは40質量%~100質量%である。
【0031】
構造体触媒1本当たりの触媒層の付着量は、特に限定されず、触媒層の付着量が多いほどメタン化反応による発熱を促進する傾向にあり、好ましくは10mg~10g、より好ましくは100mg~8gである。
触媒層の付着量は、熱保持基材の表面を基準として、0.01mg/mm2~100mg/mm2であってもよい。
【0032】
(1.1.1.2)充填層触媒
前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、
複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、
前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含むことが好ましい。
【0033】
メタン化反応の触媒が充填層触媒である場合、充填層触媒に含まれる複数の触媒粒子は、メタン化反応及び燃焼反応の少なくとも一方で発せられる熱(すなわち、メタン化反応の進行に必要な熱エネルギー)を保持しやすい。これにより、オートメタン化反応を実施してから燃焼反応を停止しても、通常のメタン化反応はより進行しやすくなる。その結果、本開示の製造システムは、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
【0034】
充填層触媒が反応管内に固定される場合、充填層触媒は、両端が石英ウールで固定されていてもよい。換言すると、充填層触媒は、一対の石英ウールの間に、複数の触媒粒子が充填されることにより構成されていてもよい。
充填層触媒のサイズは、製造システムのサイズに応じて、適宜選択すればよい。
【0035】
触媒粒子の粒径は、特に限定されず、好ましくは100μm~1000μm、より好ましくは200μm~800μm、さらに好ましくは300μm~600μmである。
触媒粒子の粒径の測定方法は、粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した。詳しくは、被測定物を分散媒に分散させ、粒子径分布測定装置を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた体積基準の積算粒子径分布の値が50% に相当する粒子径を粒径とした。
【0036】
触媒粒子の触媒金属の含有量は、特に限定されず、担体粒子の質量に対して、0.01質量%~50質量%である。
【0037】
充填層触媒は、複数の触媒粒子に加えて、希釈材が含んでもよい。希釈材は、充填層触媒の過度の発熱を防止する。希釈材としては、例えば、石英砂、アルミナボール、上記触媒粒子の担体粒子等が挙げられる。
充填層触媒が希釈材を含む場合、複数の触媒粒子の含有量は、触媒金属の種類等に応じて適宜選択され、充填層触媒の質量に対して、好ましくは30質量%~100質量%、より好ましくは40質量%~100質量%、さらに好ましくは50質量%~100質量%、特に好ましくは60質量%~100質量%である。
【0038】
充填層触媒1本当たりの複数の触媒粒子の質量は、特に限定されず、複数の触媒粒子の質量が多いほどメタン化反応による発熱を促進する傾向にあり、好ましくは1g~10000g、より好ましくは10g~1000gである。
充填層触媒が反応管内に固定される場合、複数の触媒粒子の充填量は、反応管の断面積の表面を基準として、0.01mg/mm2~10mg/mm2であってもよい。
【0039】
(1.1.2)反応管
反応装置は、少なくとも1つの反応管を更に備えていてもよい。1本の反応管の内部には、少なくとも1つのメタン化反応の触媒が配置される。反応管の長さは、例えば、100mm~100000mmであってもよい。反応管の内径は、例えば、5mm~1000mmであってもよい。反応管の材質は、特に限定されず、石英等が挙げられる。
【0040】
メタン化反応の触媒が構造体触媒である場合、反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、熱保持基材が、少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、触媒層が、複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着していることが好ましい。これにより、熱保持基材は、熱をより保持しやすく、かつメタン化反応は効率的に進行しやすい。その結果、本開示の製造システムは、室温域から、燃焼反応でメタン化反応を起動し、オートメタン化反応を実施してから、酸素ガスの供給を停止しても、通常のメタン化反応の進行をより長く持続することができる。
少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有する熱保持基材としては、上述したハニカム型熱保持基材等が挙げられる。
【0041】
(1.1.3)断熱材
反応装置は、メタン化反応の触媒の熱を保持するための断熱材を更に備える。断熱材は、反応装置の少なくとも一部に被覆されている。断熱材は、メタン化反応の触媒の熱放散を抑制する。反応装置が少なくとも1つの反応管を備える場合、メタン化反応の触媒の熱放散をより抑制する観点から、断熱材は、メタン化反応の触媒が配置されている反応管の部位の外壁を覆っていることが好ましく、少なくとも1つの反応管の全体を覆っていることがより好ましい。断熱材の材質は、公知の材質であればよく、例えば、ガラスウールやロックウール、ウッドファイバー等が挙げられる。
【0042】
(1.2)原料ガス供給部
本開示の製造システムは、原料ガス供給部を備える。
原料ガス供給部は、反応装置に二酸化炭素ガス及び水素ガスを供給する。原料ガス供給部は、反応装置よりも上流側に配置される。反応ガス供給部は、二酸化炭素ガス及び水素ガスに加えて、不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)を反応装置に供給してもよい。
原料ガス供給部は、反応装置に二酸化炭素ガスを供給する二酸化炭素ガス供給部と、反応装置に水素ガスを供給する水素ガス供給部と、反応装置に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部とを有してもよい。
原料ガス供給部は、公知のものであってもよい。
【0043】
(1.3)酸素ガス供給部
本開示の製造システムは、酸素ガス供給部を備える。酸素ガス供給部は、反応装置よりも上流側に配置される。
酸素ガス供給部は、反応装置への酸素ガスの供給と、反応装置への酸素ガスの供給の停止とを切り替え可能である。酸素ガス供給部は、公知のものであればよい。
【0044】
(1.4)外部の熱源
本開示の製造システムは、外部の熱源を備えていてもよい。外部の熱源は、反応装置に配置される。反応装置が少なくとも1つの反応管を有する場合、外部の熱源は、少なくとも1つの反応管の外壁に配置されてもよい。外部の熱源は、燃焼反応を進行させるための熱の供給と、触媒層への熱の供給の停止とを切り替え可能である。燃焼反応は、通常、室温(20℃)以上で進行しやすく、50℃以上でより進行しやすい。メタン化反応は、250℃以上(通常、250℃~330℃)で進行しやすい。外部の熱源は、特に限定されず、公知のものであればよく、例えば、電気炉等が挙げられる。
【0045】
(1.5)その他の構成
本開示の製造システムは、必要により、その他の構成を更に備えていてもよい。その他の構成としては、メタン回収部等が挙げられる。メタン回収部は、反応装置から流出する生成物ガスからメタンを回収する。メタン回収部は、反応装置より下流側に配置される。
【0046】
本開示の製造システムは、例えば、二酸化酸素を含有する排ガスを排出する発電プラント等の各種プラントに接続される。この場合、排ガスが原料ガスとして反応装置に導入される。
【0047】
(2)メタンの製造方法
本開示のメタンの製造方法は、
二酸化炭素及び水素からメタンを生成するメタン化反応の触媒を有する反応装置の前記構造体触媒に、外部の熱源から熱を供給して、前記触媒を室温(20℃)以上に昇温すること(以下、「昇温工程」ともいう。)と、
前記外部の熱源からの熱の供給を停止すること(以下、「昇温停止工程」ともいう。)と、
温度が室温(20℃)以上の前記触媒に、少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給すること(以下、「オートメタン化反応工程」ともいう。)と、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点(つまり、反応開始時点)から第1所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止すること(以下、「酸素供給停止工程」ともいう。)と、
を含み、
前記触媒が、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト、鉄、カリウム、カルシウム、ナトリウム及びイリジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒金属を含み、
前記反応装置の少なくとも一部に、前記触媒の熱を保持するための断熱材が被覆されている。
【0048】
本開示のメタンの製造方法は、上記の構成を有するため、従来よりも酸素の供給量を少なくしても、二酸化炭素からメタンを製造することができる。その結果、本開示のメタンの製造方法は、メタン製造時のランニングコストを低減できる。
【0049】
本開示のメタンの製造方法では、昇温工程、昇温停止工程、オートメタン化反応工程、及び酸素供給停止工程は、この順で実行される。
以下、「昇温工程」、「昇温停止工程」、「オートメタン化反応工程」及び「酸素供給停止工程」をまとめて「自立起動操作」ともいう。
【0050】
本開示のメタンの製造方法では、上述した本開示の製造システムを用いることができる。そのため、本開示の製造システムと重複する部分の説明は省略する。
【0051】
(2.1)自立起動操作
(2.1.1)昇温工程
昇温工程では、メタン化反応の触媒に、外部の熱源から熱を供給して、メタン化反応の触媒を室温(20℃)以上に昇温する。メタン化反応の触媒の温度が室温(20℃)以上であれば、水素ガス及び酸素ガスがメタン化反応の触媒に接触すると、燃焼反応を効率良く進行させることができる。
【0052】
メタン化反応の触媒を昇温する温度は、室温(20℃)以上であればよく、室温(20℃)~300℃の範囲の任意の温度、例えば、20℃、40℃、60℃、80℃、100℃、140℃、180℃、200℃、250℃、又は300℃であってもよい。メタン化反応の触媒の温度の測定方法は、実施例に記載の触媒中央の温度の測定方法と同様である。
外部の熱源の設定温度の上限は、特に限定されず、好ましくは400℃、より好ましくは350℃である。外部の熱源としては、公知のものであれば特に限定されず、電気炉等が挙げられる。
【0053】
(2.1.2)昇温停止工程
昇温停止工程では、外部の熱源からの熱の供給を停止する。つまり、反応装置を室温域にする。これにより、外部の熱源からメタン化反応の触媒に熱を供給し続ける場合よりも、メタン製造時のランニングコストを低減することができる。
【0054】
(2.1.3)オートメタン化反応工程
オートメタン化反応工程では、温度が室温(20℃)以上のメタン化反応の触媒に、少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給する。これにより、水素ガスと酸素ガスとの燃焼反応が進行し、燃焼反応の反応熱によってメタン化反応が起動するとともに、オートメタン化反応の反応熱によって、外部の熱源から熱をメタン化反応の触媒に供給しない状態でも、メタン化反応の進行は継続する。
【0055】
(2.1.4)酸素供給停止工程
酸素供給停止工程では、反応開始時点から第1所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止する。これにより、燃焼反応は停止する。本開示では、燃焼反応の反応熱によらずとも、通常のメタン化反応は継続する。通常のメタン化反応が継続するのは、メタン化反応が発熱反応であることと、断熱材によってメタン化反応の触媒の熱が保持されやすいことと、メタン化反応の触媒が、メタン化反応及び燃焼反応の少なくとも一方で発せられる熱(すなわち、メタン化反応の進行に必要な熱エネルギー)を保持しやすいこととが主要因であると推測される。その結果、本開示のメタンの製造方法は、従来よりも酸素と水素の供給量を少なくしても、二酸化炭素からメタンを製造することができる。
【0056】
第1所定時間は、特に限定されず、反応装置の規模等に応じて適宜選択され、メタン化反応の触媒を十分に昇温させる観点から、好ましくは10秒~20000秒、さらに好ましくは60秒~8000秒である。
【0057】
(2.2)継続運転操作
本開示のメタンの製造方法は、
前記酸素ガスの供給を停止することの後に、継続運転操作を少なくとも1回繰り返し実施することを含み、
前記継続運転操作は、
二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止して、前記触媒に不活性ガスを供給すること(以下、「オートメタン化反応停止工程」ともいう。)と、
前記不活性ガスの供給を開始した時点から第2所定時間が経過した後に、前記触媒に少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給すること(以下、「オートメタン化反応工程(継続運転)」ともいう。)と、
二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から第3所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止すること(以下、「酸素供給停止工程(継続運転)」ともいう。)と、
を含むことが好ましい。
【0058】
つまり、本開示のメタンの製造方法は、自立起動操作を実施した後に、継続運転操作を少なくとも1回繰り返し実施することを含むことが好ましい。これにより、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
詳しくは、自立起動操作を一度実施すると、オートメタン化反応の進行を停止させ、再度オートメタン化反応を進行させる際に、メタン化反応の触媒の温度を昇温しなくても(例えば、メタン化反応の触媒の温度が室温(20℃)と同じ温度であっても)、水素ガス及び酸素ガスをメタン化反応の触媒に供給するだけで、燃焼反応は進行する。そのため、継続運転操作を繰り返し実施することで、外部の熱源から熱をメタン化反応の触媒に供給しなくても、長期にわたってメタン化反応を繰り返し進行させることができる。その結果、本開示のメタンの製造方法は、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
【0059】
継続運転操作の実施回数は、特に限定されず、反応装置の規模等に応じて、適宜選択すればよい。
継続運転操作では、オートメタン化反応停止工程、オートメタン化反応工程(継続運転)、及び酸素供給停止工程(継続運転)は、この順で実施される。
【0060】
(2.2.1)オートメタン化反応停止工程
オートメタン化反応停止工程では、二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止して、前記触媒に不活性ガスを供給する。
二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止することで、オートメタン化反応の進行は停止し、メタン化反応の触媒の温度は、低下する。例えば、メタン化反応の触媒の温度は、室温(20℃)と同程度の温度となってもよい。
メタン化反応の触媒の触媒性能は、水と接触すると、低下するおそれがある。メタン化反応の触媒に不活性ガスを供給することで、メタン化反応の触媒が水(例えば、大気中の水分)と接触することを防止することができる。その結果、メタン化反応の触媒の触媒性能の劣化は、メタン化反応の触媒が大気に開放される場合よりも抑制される。
不活性ガスの供給量は、特に限定されず、メタン化反応の触媒の雰囲気を不活性ガスで置換できる供給量であればよい。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0061】
(2.2.2)オートメタン化反応工程(継続運転)
オートメタン化反応工程(継続運転)では、不活性ガスの供給を開始した時点から第2所定時間が経過した後に、メタン化反応の触媒に少なくとも二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスを供給する。これにより、メタン化反応の触媒を外部の熱源によって昇温しなくても、水素ガスと酸素ガスとの燃焼反応が進行し、燃焼反応の反応熱によってメタン化反応が起動するとともに、オートメタン化反応の反応熱によって、外部の熱源から熱をメタン化反応の触媒に供給しない状態でも、メタン化反応の進行は継続する。
【0062】
第2所定時間は、特に限定されず、反応装置の規模等に応じて適宜選択される。第2所定時間は、メタン化反応の触媒の温度が室温(20℃)になる時間であってもよい。
【0063】
(2.2.3)酸素供給停止工程(継続運転)
酸素供給停止工程(継続運転)では、二酸化炭素ガス、水素ガス及び酸素ガスの供給を開始した時点から第3所定時間が経過した後に、酸素ガスの供給を停止する。本開示では、燃焼反応の反応熱によらずとも、通常のメタン化反応は継続する。その結果、本開示のメタンの製造方法は、従来よりも酸素の供給量を少なくしても、二酸化炭素からメタンを製造することができる。
【0064】
第3所定時間は、特に限定されず、反応装置の規模等に応じて適宜選択され、第1所定時間で例示した時間であればよい。第3所定時間は、第1所定時間と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
(2.3)メタン化反応の触媒
メタン化反応の触媒は、メタン化反応の進行を促進すれば特に限定されず、例えば、構造体触媒、充填層触媒等が挙げられる。中でも、メタン化反応の触媒は、構造体触媒、又は充填層触媒であることが好ましい。
以下、構造体触媒及び充填層触媒をこの順で説明する。
【0066】
(2.3.1)構造体触媒
本開示のメタンの製造方法では、前記触媒は、構造体触媒であり、前記構造体触媒は、金属及びセラミックスの少なくとも一方を含む熱保持基材と、前記熱保持基材に付着した触媒層と、を有し、前記触媒層は、前記触媒金属を含むことが好ましい。これにより、本開示の製造システムは、上述したように、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
【0067】
本開示のメタンの製造方法は、前記反応装置が、少なくとも1つの反応管を更に備え、前記熱保持基材が、前記少なくとも1つの反応管の内部に配置されており、かつ前記少なくとも1つの反応管の延在方向に沿って延在する複数の貫通孔を有し、前記触媒層が、前記複数の貫通孔の内壁面の少なくとも一部に付着していることが好ましい。これにより、熱保持基材は、熱をより保持しやすく、かつメタン化反応は効率的に進行しやすい。その結果、本開示の製造システムは、室温域から、燃焼反応でメタン化反応を起動し、オートメタン化反応を実施してから、酸素ガスの供給を停止しても、通常のメタン化反応の進行をより長く持続することができる。
【0068】
本開示のメタンの製造方法では、熱保持基材の1平方インチ当たりの前記複数の貫通孔の数は、50cpsi~1200cpsiであることが好ましい。これにより、構造体触媒は、熱をより保持しやすくなる。
【0069】
本開示のメタンの製造方法では、熱保持基材は、セラミックスを含むことが好ましい。これにより、熱保持基材は、熱保持基材が金属を含む場合よりも熱を保持しやすい。その結果、本開示の製造システムは、室温域から、燃焼反応でメタン化反応を起動し、メタン反応及び燃焼反応を実施してから、酸素ガスの供給を停止しても、メタン化反応の進行をより長く持続することができる。
【0070】
本開示のメタンの製造方法では、
前記触媒層は、前記触媒金属が担持された担体を更に含み、
前記担体が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含むことが好ましい。これにより、本開示のメタンの製造方法は、触媒金属が熱保持基材に直接的に付着している場合よりもコスト的に優れる。
【0071】
(2.3.2)充填層触媒
本開示のメタンの製造方法では、前記触媒は、複数の触媒粒子を含む充填層触媒であり、複数の触媒粒子の各々は、担体粒子と、前記担体粒子に担持された前記触媒金属と、を有し、前記担体粒子の材質が、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、アルミニウム、ケイ素、及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属酸化物を含む、ことが好ましい。これにより、本開示のメタンの製造方法は、上述したように、メタン製造時のランニングコストをより低減できる。
【実施例0072】
以下、実施例に基づいて本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0073】
[1]実施例1
[1.1]構造体触媒の準備
[1.1.1]触媒粒子(Ru/CeO2)粉末
下記の担体及び触媒金属の前駆体を準備した。
<担体>
酸化セリウム(IV)粒子(JRC-CEO-2、第一希元素化学工業株式会社製)
<触媒金属の前駆体>
Ru(NO3)3溶液(田中貴金属工業株式会社製、Ru含有率:50g/L)
【0074】
担体 3.0gを蒸留水 40ml中に浸漬して真空引きしながら室温で12時間攪拌した。これにより、担体の細孔内を蒸留水で満たした。次いで、触媒金属の前駆体 6.71mlを加え、さらに常温及び常圧で2時間攪拌した。得られた懸濁液をホットプレートで80℃に加熱しながら攪拌して水を蒸発させた。残った固形物をマッフル炉で焼成処理(500℃まで50分で昇温、500℃で3時間保持)して、触媒粒子(Ru/CeO2)の粉末を得た。触媒粒子(Ru/CeO2)は、酸化セリウム(IV)及びこれに担持されたルテニウムを含む。
触媒粒子(Ru/CeO2)の粉末におけるRuの担持量は、触媒全体の質量に対して、10質量%であった。
【0075】
[1.1.2]構造体触媒
下記の第1熱保持基材を準備した。
<第1熱保持基材>
フロースルー型ハニカム基材(製品、材質:コージェライト、サイズ:直径:20mm、長さ:50mm、セル密度:200cpsi、セル形状:四角形)
【0076】
100mLビーカーに、触媒粒子(Ru/CeO2)の粉末 2g、及び蒸留水 10mlを投入して、2時間攪拌して、触媒スラリーを調製した。
第1熱保持基材を0.8Mの水酸化ナトリウム水溶液に5分間浸漬して、脱脂処理を行った後、蒸留水中に3分間の超音波洗浄を行った。次いで、25体積%の塩酸中に常温(25℃)で基板を4分間浸漬し、第1熱保持基材の活性化処理(熱保持基材の表面の粗面化)を施した。
次いで、第1熱保持基材を触媒スラリーに浸漬し、引き上げて乾燥させる操作(wash-coat)を繰り返して、第1熱保持基材に触媒層を付着させた。これにより、構造体触媒1Aを得た。触媒層は、触媒粒子の凝集体からなる。
1本の第1熱保持基材に付着した触媒層の付着量は、1.0gであった。
【0077】
[1.2]製造システム
製造システムとして、
図1に示す製造システム100を用いた。製造システム100は、反応装置10と、原料ガス供給部20と、酸素ガス供給部30と、氷冷トラップ40と、サンプリングポート50と、石鹸膜流量計60とを備える。これらは、配管Pによって、接続されている。なお、製造システム100は、本開示の製造システムの一例である。
【0078】
反応装置10は、
図1に示すように、構造体触媒1Aと、反応管11と、温度測定装置(図示せず)と、電気炉(図示せず)とを備える。
反応管11は、円筒形(内径:20mm、外径:22mm、長さ:600mm)の透明石英管である。構造体触媒1Aは、反応管11の内部に1つ配置されている。構造体触媒1Aに含まれる第1熱保持部材の複数の貫通孔は、反応管11の延在方向(すなわち、長さ方向)に沿って延在していた。
温度測定装置は、K型熱電対であり、構造体触媒1Aの入口側先端、構造体触媒1Aの延在方向の中央部に対応する反応管11の外壁、及び構造体触媒1Aの出口側端の各々に配置されている。これにより、構造体触媒1Aの入口温度、構造体触媒1Aの中央温度、及び構造体触媒1Aの出口温度の各々が測定される。
電気炉は、PID(Proportional Integral Differential)コントローラ(株式会社アサヒ理化製作所製、AMF-9P-III)で制御される3ゾーン式管状電気炉(株式会社アサヒ理化製作所製、ARF3-600-30KC)であり、反応管11の外壁と接触するように配置されている。
【0079】
原料ガス供給部20は、
図1に示すように、反応装置10よりも上流に配置されている。原料ガス供給部20は、水素ガス供給部21と、二酸化炭素ガス供給部22と、窒素ガス供給部23とを備える。水素ガス供給部21は、反応装置10に水素ガスを供給する公知の装置である。二酸化炭素ガス供給部22は、反応装置10に二酸化炭素ガスを供給する公知の装置である。窒素ガス供給部23は、反応装置10に窒素ガスを供給する公知の装置である。
【0080】
酸素ガス供給部30は、反応装置10への酸素ガスの供給と、反応装置10への酸素ガスの供給の停止とを切り替え可能な公知の装置である。酸素ガス供給部30は、
図1に示すように、反応装置10よりも上流に配置されている。
【0081】
氷冷トラップ40は、メタン化反応で生成した水を回収する公知の装置である。氷冷トラップ40は、
図1に示すように、反応装置10よりも下流側に配置されている。
以下、メタン化反応で生成したガスのうち、氷冷トラップ40で回収されなかったガスを「生成物ガス」ともいう。
【0082】
サンプリングポート50は、生成物ガスを採取するための部位である。サンプリングポート50は、
図1に示すように、氷冷トラップ40よりも下流側に配置されている。サンプリングポート50から採取された生成物ガスは、オンラインガスクロマトグラフ51(Agilent, Micro GC 490)によって定量分析される。GCのカラムには、H
2、N
2、CH
4、O
2、及びCOの分析には「MS5A」(Varian社製)、CO
2の分析には「PPQ」(Varian社製)を用いた。
【0083】
石鹸膜流量計60は、石鹸膜を用いて、生成物ガスの流量を測定する。石鹸膜流量計60は、
図1に示すように、サンプリングポート50よりも下流側に配置されている。
【0084】
[1.3]メタン化特性の評価
[1.3.1]自立起動操作
[1.3.1.1]前処理
電気炉の設定温度を200℃にし、水素ガス供給部21から水素ガス(100ml/分)を反応装置10に1時間供給させて、構造体触媒1Aの水素還元を行った。構造体触媒1Aの水素還元を行うことで、オートメタン化工程において、構造体触媒1Aの水素還元を行わない場合よりも、メタン化反応の立ち上がりが早くなる。
その後、水素ガス供給部21からの水素ガスの供給を停止するとともに、電気炉の電源をオフにして、反応管11の温度を室温まで降温させた。
次いで、
図1に示すように、反応管11の全体を断熱材12で覆った。
【0085】
[1.3.1.2]昇温工程
電気炉の設定温度を200℃にし、構造体触媒1Aに、電気炉から熱を供給して、構造体触媒1Aの温度(すなわち、構造体触媒1Aの中央温度)を200℃に昇温した。
【0086】
[1.3.1.3]昇温停止工程
構造体触媒1Aの温度(構造体触媒1Aの中央温度)を200℃に達した時点で、電気炉の電源をオフにし、電気炉の構造体触媒1Aへの熱の供給を停止した。以後、電気炉の構造体触媒1Aへの熱の供給は停止されたままにした。
【0087】
[1.3.1.4]オートメタン化反応工程
構造体触媒1Aに、二酸化炭素ガス、水素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスを下記の初期流量で供給した。
【0088】
<初期流量>
二酸化炭素ガス:100mL/分
水素ガス :460mL/分
酸素ガス : 30mL/分
窒素ガス :410mL/分
【0089】
[1.3.1.5]酸素供給停止工程
オートメタン化反応工程を開始した時点(反応開始時点)から120分経過した後に、酸素ガスの供給を停止し、二酸化炭素ガス、水素ガス、窒素ガス、及び酸素ガスを下記の後期流量で供給した。
【0090】
<後期流量>
二酸化炭素ガス:100mL/分
水素ガス :400mL/分
酸素ガス : 0mL/分
窒素ガス :500mL/分
【0091】
反応開始時点から、反応装置10から流出した生成物ガスの二酸化炭素濃度を定量し、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、二酸化炭素ガスからメタンガスへの転化率(以下、「二酸化炭素転化率(%)」ともいう)を求めた。測定結果を
図2に示す。
二酸化炭素転化率(%)は、下記の算出式により求めた。
二酸化炭素転化率(%)=[(入口CO
2量―出口CO
2量)/入口CO
2量]×100
「入口CO
2量」とは、反応管11の入口(上流側口)に供給した二酸化炭素の流量(mL/分)を示す。「出口CO
2量」とは、反応管11の出口(下流側口)から排出された二酸化炭素の流量(mL/分)を示す。
【0092】
[1.4]検討
実施例1では、反応開始時点から120分経過した時点で、酸素ガスの供給を停止した。
図2に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、経過時間が120分の時点で急降下せず、経過時間が200分を経過する時点まで70%以上を維持し、経過時間が200分を経過すると急降下した。
これにより、外部の熱源から構造体触媒1Aに熱を供給せず、かつオートメタン化反応を実施した後に燃焼反応による反応熱がなくても、メタン化反応の進行は、しばらくの間、継続することがわかった。
【0093】
[2]実施例2
第1熱保持基材の代わりに下記の第2熱保持基材を用いたことの他は、実施例1と同様にして、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、二酸化炭素転化率(%)を求めた。測定結果を
図3に示す。
【0094】
<第2熱保持基材>
フロースルー型ハニカム基材(製品、材質:コージェライト、サイズ:直径:20mm、長さ:50mm、セル密度:260cpsi、セル形状:四角形)
【0095】
[2.1]検討
実施例2では、反応開始時点から120分経過した時点で、酸素ガスの供給を停止した。実施例2の第2熱保持基材のセル密度(260cpsi)は、実施例1の第1熱保持基材のセル密度(200cpsi)よりも高い。
図3に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、経過時間が350分を経過するまで二酸化炭素転化率(%)は80%以上を維持し、経過時間が400分を経過すると急降下した。
これにより、実施例2のメタン化反応の進行は、実施例1よりも長く継続することがわかった。換言すると、熱をより保持しやすい熱保持基材を用いることで、オートメタン化反応を実施した後に燃焼反応による反応熱がなくても、通常のメタン化反応をより長く持続させることができることがわかった。
【0096】
[3]実施例3
第1熱保持基材の代わりに実施例2の第2熱保持基材(260cpsi)を用いたこと、及び1本の熱保持基材に付着した触媒層の付着量を1.5gにしたことの他は、実施例1と同様にして、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、二酸化炭素転化率(%)を求めた。測定結果を
図4に示す。
更に、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、構造体触媒1Aの入口温度及び構造体触媒1Aの出口温度の各々の温度を求めた。測定結果を
図5に示す。
【0097】
[3.1]検討
実施例3では、反応開始時点から120分経過した時点で、酸素ガスの供給を停止した。実施例3の第2熱保持基材のセル密度(260cpsi)は、実施例1の第1熱保持基材のセル密度(200cpsi)よりも高い。実施例3の触媒層の付着量(1.5g)は、実施例1の触媒層の付着量(1.0g)よりも多い。
図4に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、経過時間が32時間の時点(データ採取を強制終了した時点)でも80%以上を維持しており、急降下する兆候は見られなかった。
図5に示すように、構造体触媒1Aの入口温度及び構造体触媒1Aの出口温度の各々は、経過時間が32時間の時点でも、経過時間が120分の時点の温度よりも高かった。
これにより、熱保持基材及び触媒層の付着量を適切に選択することで、オートメタン化反応を実施した後に燃焼反応による反応熱がなくても、メタン化反応を更に長く継続させることができることがわかった。
【0098】
[4]実施例4
[4.1]充填層触媒の準備
[4.1.1]触媒粒子(Ni/CeO2)粉末
下記の担体及び触媒金属の前駆体を準備した。
<担体>
酸化セリウム(IV)粒子(JRC-CEO-2、第一希元素化学工業株式会社製)
<触媒金属の前駆体>
Ni(NO3)3溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、硝酸ニッケル(II)六水和物)
【0099】
担体 3.0gを蒸留水 40ml中に浸漬して真空引きしながら室温で12時間攪拌した。これにより、担体の細孔内を蒸留水で満たした。次いで、触媒金属の前駆体 6.71mlを加え、さらに常温及び常圧で2時間攪拌した。得られた懸濁液をホットプレートで80℃に加熱しながら攪拌して水を蒸発させた。残った固形物をマッフル炉で焼成処理(500℃まで50分で昇温、500℃で3時間保持)して、触媒粒子(Ni/CeO2)の粉末を得た。触媒粒子(Ni/CeO2)は、酸化セリウム(IV)及びこれに担持されたニッケルを含む。
触媒粒子(Ni/CeO2)の粉末におけるNiの担持量は、触媒全体の質量に対して、10質量%であった。
【0100】
[4.2]製造システム
製造システムとして、構造体触媒1Aの代わりに、両端を石英ウールで挟んで固体した充填型触媒1Bを用いたことの他は、実施例1と同様の製造システム100を用いた。充填型触媒1Bは、複数の酸化セリウム(IV)粒子が充填されてなる。充填型触媒1Bは、700mgであった。
【0101】
[4.3]メタン化特性の評価
酸素供給停止工程において、反応開始時点から60分経過した後に、酸素ガスの供給を停止したことの他は、実施例1と同様にして、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、二酸化炭素転化率(%)を求めた。測定結果を
図6に示す。
更に、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、構造体触媒1Aの入口温度及び構造体触媒1Aの出口温度の各々の温度を求めた。測定結果を
図7に示す。
【0102】
[4.4]検討
図6に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、経過時間が420分の時点(データ採取を強制終了した時点)でも80%以上を維持しており、急降下する兆候は見られなかった。更に、充填型触媒1Bでは、構造体触媒1Aと異なり、酸素ガスの供給を停止した後の二酸化炭素転化率(%)は、酸素ガスの供給を停止する前の二酸化炭素転化率(%)よりも高かった。
図7に示すように、充填型触媒1Bの入口温度及び充填型触媒1Bの出口温度の各々は、経過時間が0分の時点から420分の時点までほぼ同一であった。
これにより、充填型触媒であっても、オートメタン化反応を実施した後に燃焼反応による反応熱がなくても、メタン化反応を更に長く継続させることができることがわかった。
【0103】
[5]実施例5
充填型触媒1Bの代わりに下記の充填型触媒1Cを用いたことの他は、実施例4と同様にして、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、二酸化炭素転化率(%)を求めた。測定結果を
図8に示す。
更に、反応開始時点からの経過時間(分)に対する、構造体触媒1Aの入口温度及び構造体触媒1Aの出口温度の各々の温度を求めた。測定結果を
図9に示す。
【0104】
充填型触媒1Cは、実施例1の触媒粒子(Ru/CeO2)粉末 300mgと、石英砂 400mgとの混合粉末が充填されている。充填型触媒1Cは、700mgであった。
【0105】
[5.1]検討
実施例5の触媒金属はRuで、実施例4の触媒金属はNiであった。実施例5の触媒粒子の充填量が実施例4よりも少なかった。
図8に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、経過時間が420分の時点(データ採取を強制終了した時点)でも80%以上を維持しており、急降下する兆候は見られなかった。
図8に示すように、酸素ガスの供給を停止した後の充填型触媒1Cの二酸化炭素転化率(%)は、酸素ガスの供給を停止した後の充填型触媒1Bの二酸化炭素転化率(%)と同等であった。充填型触媒1Cでは、充填型触媒1Bと同様に、酸素ガスの供給を停止した後の二酸化炭素転化率(%)は、酸素ガスの供給を停止する前の二酸化炭素転化率(%)よりも高かった。
図9に示すように、充填型触媒1Bの入口温度及び充填型触媒1Bの出口温度の各々は、経過時間が0分の時点から420分の時点までほぼ同一であった。
これにより、充填型触媒において、RuはNiよりメタン化反応の触媒性能が高いことがわかった。
【0106】
[6]実施例6
[6.1]自立起動操作
酸素供給停止工程において、反応開始時点から60分経過した後に、酸素ガスの供給を停止したことの他は、実施例4と同様にして、前処理、昇温工程、昇温停止工程、オートメタン化反応工程、及び酸素供給停止工程を実施した。
【0107】
[6.2]継続運転操作
次いで、継続運転操作を繰り返し3回実施した。継続運転操作は、下記のオートメタン化反応工程(継続運転)、及び酸素供給停止工程(継続運転)が、この順で実施される操作を示す。
【0108】
[6.2.1]オートメタン化反応停止工程
酸素ガスの供給を停止した時点から8時間経過後に、二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止して、窒素ガスの供給を下記の継続流量で供給した。
【0109】
<継続流量(継続運転)>
二酸化炭素ガス: 0mL/分
水素ガス : 0mL/分
酸素ガス : 0mL/分
窒素ガス :1000mL/分
【0110】
[6.2.2]オートメタン化反応工程(継続運転)
オートメタン化反応停止工程を開始した時点(二酸化炭素ガス及び水素ガスの供給を停止した時点)から9時間経過後に、充填型触媒1Bに、二酸化炭素ガス、水素ガス、酸素ガス、及び窒素ガスを下記の初期流量(継続運転)で供給した。オートメタン化反応工程(継続運転)を実施する前の充填型触媒1Bの入口温度、充填型触媒1Bの中央温度、及び充填型触媒1Bの出口温度の各々は、室温(20℃)であった。
【0111】
<初期流量(継続運転)>
二酸化炭素ガス:100mL/分
水素ガス :460mL/分
酸素ガス : 30mL/分
窒素ガス :410mL/分
【0112】
[6.2.3]酸素供給停止工程(継続運転)
オートメタン化反応工程(継続運転)を開始した時点(継続運転操作の反応開始時点)から60分経過した後に、酸素ガスの供給を停止し、二酸化炭素ガス、水素ガス、及び窒素ガスを下記の後期流量(継続運転)で供給した。
【0113】
<後期流量(継続運転)>
二酸化炭素ガス:100mL/分
水素ガス :400mL/分
酸素ガス : 0mL/分
窒素ガス :500mL/分
【0114】
自立起動操作の反応開始時点からの経過時間(時)に対する、二酸化炭素メタンガス(%)を求めた。測定結果を
図10に示す。
図10中、「1
stcycle」は、自立起動操作を実施したことを示し、「2
nd cycle」、「3
rd cycle」及び「4
thcycle」の各々は、継続運転操作を実施したことを示す。
自立起動操作の反応開始時点からの経過時間(時)に対する、メタン選択率(%)を求めた。測定結果を
図11に示す。
図11中、「1
stcycle」は、自立起動操作を実施したことを示し、「2
nd cycle」、「3
rd cycle」及び「4
thcycle」の各々は、継続運転操作を実施したことを示す。
メタン選択率(%)は、下記の算出式より求めた。
メタン選択率(%)=[(生成メタン量)/全生成物の量]×100
【0115】
[6.3]検討
実施例6では、自立起動操作を1度行った後に、継続運転操作を3回繰り返し行った。
実施例6の自立起動操作では、
図10に示すように、実施例4と同様に(
図6参照)、酸素ガスの供給を停止した後の二酸化炭素転化率(%)は、酸素ガスの供給を停止する前の二酸化炭素転化率(%)よりも高く、80%以上を維持していた。
1回目の継続運転操作では、オートメタン化反応停止工程を実施すると、二酸化炭素転化率(%)は、80%から急降下し、0%を維持した。この際、充填型触媒1Bの温度が室温(20℃)であった。次いで、オートメタン化反応工程(継続運転)を実施すると、外部の熱源から熱を充填型触媒1Bに供給しなくても、二酸化炭素転化率(%)は、72%程度に急上昇し、72%を維持した。これは、充填型触媒1Bの温度が室温(20℃)であっても水素ガスと酸素ガスとの燃焼反応が進行し、この燃焼反応による反応熱によってメタン化反応を起動(着火)し、オートメタン化反応が進行したと推測される。次いで、酸素供給停止工程(継続運転)を実施すると、自立起動操作の酸素供給停止工程を実施したときに同様に、二酸化炭素転化率(%)は80%以上を維持していた。これは、通常のメタン化反応が継続したと推測される。
2回目及び3回目の継続運転操作では、
図10に示すように、二酸化炭素転化率(%)は、1回目の継続運転操作を実施したときと同様の挙動を示した。
このように自立起動操作を実施した後、継続運転操作を実施すると、実施例6の二酸化炭素転化率(%)の挙動は、自立起動操作の二酸化炭素転化率(%)と同様であることがわかった。
更に
図11に示すように、メタン選択率(%)は100%近いことがわかった。
これらの結果から、自立起動操作を一度実施すると、オートメタン化反応の進行を停止させ、再度オートメタン化反応を進行させる際に、メタン化反応の触媒の温度を昇温しなくても、水素ガス及び酸素ガスをメタン化反応の触媒に供給するだけで、燃焼反応は進行し、自立起動操作と同様に、メタン化反応の進行を促進することができることがわかった。