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特開2024-29661カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置
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  • 特開-カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置 図1
  • 特開-カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置 図2
  • 特開-カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029661
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/04 20060101AFI20240228BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240228BHJP
   C22B 3/16 20060101ALI20240228BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20240228BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240228BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240228BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C22B7/04 B
C01B32/50 ZAB
C22B3/16
C22B26/20
B01D53/62
B01D53/78
B01D53/92 240
B01D53/92 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132038
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】村上 和希
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達弥
【テーマコード(参考)】
4D002
4G146
4K001
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA05
4D002EA13
4D002FA02
4G146JA02
4G146JC22
4K001AA36
4K001BA12
4K001BA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、スラグの微粉が発生することを抑制しつつスラグ中のカルシウムを効率的に抽出したカルシウム抽出液に二酸化炭素を容易に固定でき、かつ二酸化炭素を固定した後の溶媒及び炭酸塩の純度を向上できる二酸化炭素固定方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る二酸化炭素固定方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程と、上記流通工程による上記スラグ層への上記溶媒の通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気工程と、上記曝気工程によって得られる混合液から析出した析出物を固液分離する分離工程とを備え、上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程を備え、
上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させるカルシウムの抽出方法。
【請求項2】
カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程と、
上記流通工程による上記スラグ層への上記溶媒の通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気工程と、
上記曝気工程によって得られる混合液から析出した析出物を固液分離する分離工程と
を備え、
上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる二酸化炭素固定方法。
【請求項3】
上記分離工程で分離された分離液を上記流通工程における上記溶媒の少なくとも一部として再利用する再利用工程をさらに備える請求項2に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項4】
上記流通工程で、上記スラグ層を流通する上記溶媒の圧力損失が14kPa/m以下になるように上記溶媒を流通させる請求項2に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項5】
上記流通工程で、上記スラグ層を流通する上記溶媒の空塔速度が0.4mm/s以下になるように上記溶媒を流通させる請求項2又は請求項4に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項6】
上記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物である請求項2又は請求項3に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項7】
上記ジオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される1又は2以上のものである請求項6に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項8】
上記トリオール化合物が、グリセリンである請求項6に記載の二酸化炭素固定方法。
【請求項9】
カルシウムを含むスラグを充填してスラグ層を形成するための容器と、
この容器にポリオール化合物を含む溶媒を供給する供給部と、
上記溶媒の供給量を上記スラグ層が流動しない速度になるように調整するための調整部と、
上記スラグ層を通過して上記容器から排出されるカルシウム抽出液を貯留する貯留部と、
この貯留部に貯留した上記抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気部と、
上記曝気部による曝気によって得られる混合液中の析出物を固液分離する分離部と
を備える二酸化炭素固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムの抽出方法、二酸化炭素固定方法、及び二酸化炭素固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による気候変動が問題となっている。大気中の二酸化炭素(CO)は温室効果ガスの一つであり、地球温暖化の主要因と考えられている。このため、COの排出削減などが求められている。
【0003】
COの排出を削減する手段の一つとして、COを固定する技術がある。COを固定する対象として、スラグ等のアルカリ土類金属含有物質を用いたCO固定化方法が知られている(特開2005-097072号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-097072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、第一の反応容器に入れた弱塩基及び強酸の塩を含む水溶液中に上記アルカリ土類金属含有物質を投入して攪拌し、塩化カルシウム(CaCl)を含む攪拌後の水溶液を第二の反応容器に移して炭酸ガスの曝気をすることで炭酸カルシウム(CaCO)を生成してCOを固定し、同時に炭酸塩を得ている。
【0006】
特許文献1では、攪拌を行っているため、水溶液中に上記アルカリ土類金属含有物質の微粉が混在することがある。上記炭酸ガスの曝気をした後の水溶液及び得られた炭酸塩は、上記微粉が混入して純度が低下し、使用用途が限定されるおそれがある。また、上記攪拌と上記曝気とを異なる反応容器で行っているため、二酸化炭素を固定する作業が煩雑になるおそれがある。
【0007】
このような事情に鑑み、本発明は、スラグの微粉が発生することを抑制しつつスラグ中のカルシウムを溶媒に効率的に抽出することができるカルシウムの抽出方法、及びこの抽出方法で抽出したカルシウム抽出液に二酸化炭素を容易に固定でき、かつ二酸化炭素を固定した後の溶媒及び炭酸塩の純度を向上できる二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様に係るカルシウムの抽出方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程を備え、上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【0009】
上記課題を解決する本発明の別の一態様に係る二酸化炭素固定方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程と、上記流通工程による上記スラグ層への上記溶媒の通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気工程と、上記曝気工程によって得られる混合液から析出した析出物を固液分離する分離工程とを備え、上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【0010】
上記課題を解決する本発明のさらに別の一態様に係る二酸化炭素固定装置は、カルシウムを含むスラグを充填してスラグ層を形成するための容器と、この容器にポリオール化合物を含む溶媒を供給する供給部と、上記溶媒の供給量を上記スラグ層が流動しない速度になるように調整するための調整部と、上記スラグ層を通過して上記容器から排出されるカルシウム抽出液を貯留する貯留部と、この貯留部に貯留した上記抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気部と、上記曝気部による曝気によって得られる混合液中の析出物を固液分離する分離部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカルシウムの抽出方法は、スラグの微粉が発生することを抑制しつつスラグ中のカルシウムを溶媒に効率的に抽出することができる。本発明の二酸化炭素固定方法及び二酸化炭素固定装置は、上記抽出方法で抽出したカルシウム抽出液に二酸化炭素を容易に固定でき、かつ二酸化炭素を固定した後の溶媒及び炭酸塩の純度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定装置を示す概念図である。
図2図2は、本発明の実施例で用いた試験装置を示す概念図である。
図3図3は、図2の試験装置の容器内に形成されたスラグ層を流通する溶媒の空塔速度と圧力損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様に係るカルシウムの抽出方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程を備え上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【0014】
当該カルシウムの抽出方法(以下、「当該抽出方法」ともいう)は、カルシウム(Ca)を含むスラグのスラグ層にポリオール化合物を含む溶媒を流通して接触させている。このため、上記溶媒中に上記カルシウムをカルシウムイオンとして効率的に抽出することができる。上記溶媒の流通は、上記スラグ層が流動しない速度で行われるため、上記溶媒中で上記スラグ同士が衝突などをすることによって発生する微粉(スラグ片)を抑制することができる。
【0015】
本発明の別の一態様に係る二酸化炭素固定方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程と、上記流通工程による上記スラグ層への上記溶媒の通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気工程と、上記曝気工程によって得られる混合液から析出した析出物を固液分離する分離工程とを備え、上記流通工程で、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【0016】
当該二酸化炭素固定方法は、抽出工程でスラグ中のカルシウムを効率的に抽出できるため、より多くの二酸化炭素を上記カルシウムに固定することができる。また、上記抽出工程で、スラグ片の発生を抑制できるため、二酸化炭素を固定した後の溶媒の純度、及び二酸化炭素を固定することで得られる炭酸塩の純度が低下することを抑制できる。
【0017】
当該二酸化炭素固定方法が、上記分離工程で分離された分離液を上記流通工程における上記溶媒の少なくとも一部として再利用する再利用工程をさらに備えるとよい。このように、溶媒を循環して再利用することで、当該二酸化固定方法を低コストで行うことができる。
【0018】
上記流通工程で、上記スラグ層を流通する上記溶媒の圧力損失が14kPa/m以下になるように上記溶媒を流通させるとよい。このようにすることで、スラグ片の発生をより抑制できる。
【0019】
上記流通工程で、上記スラグ層を流通する上記溶媒の空塔速度が0.4mm/s以下になるように上記溶媒を流通させるとよい。このようにすることで、スラグ片の発生をさらに抑制できる。
【0020】
上記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物であるとよい。このようにすることで、上記スラグ中のカルシウムをカルシウムイオンとしてより効率的に抽出することができる。
【0021】
上記ジオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される1又は2以上のものであるとよい。このようにすることで、上記スラグ中のカルシウムをカルシウムイオンとしてさらに効率的に抽出することができる。
【0022】
上記トリオール化合物が、グリセリンであるとよい。このようにすることで、上記スラグ中のカルシウムをカルシウムイオンとしてさらに効率的に抽出することができる。
【0023】
本発明のさらに別の一態様に係る二酸化炭素固定装置は、カルシウムを含むスラグを充填してスラグ層を形成するための容器と、この容器にポリオール化合物を含む溶媒を供給する供給部と、上記溶媒の供給量を上記スラグ層が流動しない速度になるように調整するための調整部と、上記スラグ層を通過して上記容器から排出されるカルシウム抽出液を貯留する貯留部と、この貯留部に貯留した上記抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気部と、上記曝気部による曝気によって得られる混合液中の析出物を固液分離する分離部とを備える。
【0024】
当該二酸化炭素固定装置は、上記スラグ層に供給する上記溶媒の供給量を上記スラグが流動しない量に調整する調整部を備えるため、スラグ片の発生を抑制でき、かつ効率的に二酸化炭素を固定することができる。
【0025】
ここで、「ポリオール化合物」とは、複数のアルコール性水酸基(脂肪族炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(-OH)で置換した基)を有する有機化合物をいう。同様に、「ジオール化合物」とは、二の上記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいい、「トリオール化合物」とは、三の上記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいう。
【0026】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しながら本発明を詳説する。なお、図面は説明用の図であり、各構成(各部材)は概念的に描かれたものであって、形状、縮尺などは、実際のものと異なることがあり、液体(後述の溶媒など)を移送させるためのポンプ、又は液体を適切なタイミングで移送させるための弁等の部材は省略しているものがある。また、本明細書では、本発明の構成の数値範囲として複数の上限値と複数の下限値とを記載していることがある。これら複数の上限値と複数の下限値とは、それぞれのうちの一つを任意に選択することができ、又は任意に組み合わせることができるものとして記載されている。
【0027】
[二酸化炭素固定方法]
当該二酸化炭素固定方法は、カルシウムを含むスラグを容器内に充填して形成されたスラグ層に、ポリオール化合物を含む溶媒を流通させる流通工程と、上記流通工程による上記スラグ層への上記溶媒の通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスを曝気する曝気工程と、上記曝気工程によって得られる混合液から析出した析出物を固液分離する分離工程とを主に備える。上記流通工程では、上記スラグ層が流動しない速度で上記溶媒を流通させる。
【0028】
当該二酸化炭素固定方法は、上記分離工程で分離された分離液を上記流通工程における上記溶媒の少なくとも一部として再利用する再利用工程をさらに備える。当該二酸化炭素固定方法は、図1で示すような二酸化炭素固定装置を用いて行う。
【0029】
<二酸化炭素固定装置>
当該二酸化炭素固定装置は、カルシウムを含むスラグを充填してスラグ層Sを形成するための容器1と、この容器1にポリオール化合物を含む溶媒Mを供給する供給部2と、上記溶媒Mの供給量をスラグ層Sが流動しない速度になるように調整するための調整部3と、上記スラグ層Sを通過して上記容器1から排出されるカルシウム抽出液M1を貯留する貯留部4と、この貯留部4に貯留した上記抽出液M1に二酸化炭素を含むガスCを曝気する曝気部5と、上記曝気部5による曝気によって得られる混合液M2中の析出物Dを固液分離する分離部6とを主に備える。
【0030】
当該二酸化炭素固定装置は、分離部6で析出物Dを分離した分離液M3を供給部2に循環する循環部7をさらに備える。
【0031】
<スラグ>
スラグとしては、カルシウムを含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ、セメント、コンクリート廃材、ガラス廃材、石炭灰、汚泥焼却灰が挙げられる。上記高炉スラグとは、製銑の過程で生じるスラグであり、上記製鋼スラグとは、転炉スラグ又は電気炉スラグといった製鋼の過程で生じるスラグである。これらのスラグにおいてカルシウムは、例えば、酸化カルシウム(CaO)の形態で存在している。
【0032】
<溶媒>
溶媒Mは、ポリオール化合物を含む。上記ポリオール化合物は、上記スラグからカルシウムを抽出するための媒体である。上記ポリオール化合物は、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物である。アルコール性水酸基は、脂肪族炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基であり、芳香環を構成する炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基(例えば、フェノールのヒドロキシ基)は含まれない。
【0033】
上記ポリオール化合物としては、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、ジオール化合物又はトリオール化合物が好ましい。
【0034】
上記ジオール化合物としては、二のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、又はジエタノールアミンが挙げられる。これらのうち、上記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される一種又は二種以上が好ましい。
【0035】
例えば、エチレングリコールに対するカルシウムの溶解度は、水に対する溶解度の10倍程度であることが一般に知られている。つまり、ジオール化合物に対するカルシウムの溶解度は水に対する溶解度よりも遥かに大きい。よって、ジオール化合物が上記群から選択される一種又は二種以上のものであることで、スラグ層Sからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0036】
上記トリオール化合物としては、三のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、グリセリンが好ましい。グリセリンを用いることで、スラグ層Sからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0037】
スラグ層Sに流通させる溶媒M中の上記ポリオール化合物濃度の上限値としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。上記ポリオール化合物濃度が上記上限値を超えると、後述する曝気工程における析出物(炭酸塩)の析出が低減するおそれがある。すなわち、二酸化炭素を固定する効率性が低減するおそれがある。上記流通工程における溶媒M中の上記ポリオール化合物濃度の下限値としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記ポリオール化合物濃度が上記下限値に満たないと、スラグ層Sから溶媒M中に十分な量のカルシウムが溶出しないおそれがある。
【0038】
溶媒Mは、水をさらに含むことが好ましい。ジオール化合物及びトリオール化合物は、通常、常温常圧で液状であるため、比較的容易に上記水と混合してスラグ層Sを流通することができる。上記水は、二酸化炭素をイオン化(炭酸イオン化)するためのプロトン(H)の供給源となる。また、後述する流通工程では、上記ポリオール化合物によって抽出したカルシウムイオンが水に移行(拡散)し、この水に二酸化炭素が炭酸イオン(CO 2-)として溶解する。その結果、この水を反応の場としてカルシウムイオンと炭酸イオンとが反応し、炭酸カルシウムとして析出する。このような水としては、上述のように触媒的に機能するものであれば特に限定されず、例えば、純水が挙げられる。
【0039】
〔流通工程〕
流通工程では、カルシウムを含むスラグを容器1内に充填して形成されたスラグ層Sに、ポリオール化合物を含む溶媒Mを流通させる。容器1としては、スラグを充填してスラグ層Sを形成でき、このスラグ層Sにポリオール化合物を含む溶媒Mを流通させることができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0040】
流通工程では、スラグ層Sが流動しない速度で溶媒Mを流通させる。すなわち、スラグ層Sにおけるスラグが容器1内で相互に移動し、衝突などをしない流通速度で溶媒Mを流通させる。溶媒Mが流通することによってスラグ同士が衝突などをすると、その破片(スラグ片)が容器1から排出される溶媒M中に混入する。溶媒M中に上記スラグ片が混入することで、二酸化炭素の固定処理をした後の溶媒Mは、純度が低下し、利用の用途、若しくは再利用の用途が制限されるおそれがある。また、容器1から排出された溶媒Mからは、二酸化炭素の固定処理によって炭酸塩が得られるが、この炭酸塩にも上記スラグ片が混入することで、純度が低下し、利用の用途が制限されるおそれがある。容器1から排出された溶媒Mの純度を向上するためには、上記スラグ片を取り除く処理が必要になり、容器1から排出された溶媒M及び上記炭酸塩の利用又は再利用をするためのコストが増大するおそれがある。
【0041】
当該二酸化炭素固定装置は、溶媒Mを供給する供給部2と、溶媒Mの供給量を調整するための調整部3とを有する。調整部3は、供給部2が容器1に供給する溶媒Mの流量を調整し、容器1内における溶媒Mの流速をスラグ層Sが流動しないように制御する。供給部2としては、特に限定されるものではなく、例えば、液体用のポンプである。調整部3としては、特に限定されるものではなく、例えば、開口径を可変できる調整バルブである。調整部3は、容器1と供給部2とを連通する溶媒供給管P1に配設される。
【0042】
流通工程では、スラグ層Sを流通する溶媒Mの圧力損失が14kPa/m以下になるように溶媒Mを流通させることが好ましい。スラグ層Sを流通する溶媒Mの圧力損失の上限値としては、12kPa/mがより好ましく、10kPa/mがさらに好ましく、6kPa/mが特に好ましい。スラグ層Sを流通する溶媒Mの圧力損失が上記上限値を超えると、スラグ層Sにおけるスラグが容器1内で相互に移動し、衝突などをするおそれがある。
【0043】
また、流通工程では、スラグ層Sを流通する溶媒Mの空塔速度が0.4mm/s以下になるように溶媒Mを流通させることが好ましい。スラグ層Sを流通する溶媒Mの空塔速度の上限値としては、0.3mm/sがより好ましい。スラグ層Sを流通する溶媒Mの空塔速度が上記上限値を超えると、スラグ層Sにおけるスラグが容器1内で相互に移動し、衝突などをするおそれがある。スラグ層Sを流通する溶媒Mの空塔速度の下限値としては、特に限定されるものではないが、例えば、0.08mm/sである。
【0044】
流通工程によってカルシウムが取り除かれたスラグは、例えば、スラグが製鋼スラグである場合、容器1から取り出して乾燥させることで、路盤材(道路用材料)、肥料などの資源として利用することができる。
【0045】
〔曝気工程〕
曝気工程では、上記流通工程によるスラグ層Sへの溶媒Mの通過よって得られたカルシウム抽出液に二酸化炭素を含むガスCを曝気する。具体的には、容器1から排出された溶媒(カルシウム抽出液)M1を貯留部4に貯留し、この貯留されたカルシウム抽出液M1中に二酸化炭素を含むガスCを曝気する。貯留部4は、抽出液供給管P2を介して容器1から供給されたカルシウム抽出液M1を貯留する槽である。曝気部5は、貯留部4に貯留されたカルシウム抽出液M1中にガスCを曝気する。曝気部5としては、特に限定されるものではなく、例えば、公知のガス吹き込み装置である。曝気部5によるガスCの曝気は、貯留部4内のカルシウム抽出液M1を攪拌しつつ行うことが好ましい。
【0046】
ポリオール化合物を含む溶媒Mは、上記スラグに接触したことで、多くのカルシウムイオン(Ca2+)を含んだカルシウム抽出液M1として容器1から排出される。このカルシウム抽出液M1に二酸化炭素を含むガスCを曝気することで、カルシウム抽出液M1中に二酸化炭素が炭酸イオンとして溶解する。上記カルシウムイオンと上記炭酸イオンとが反応すると、炭酸塩(炭酸カルシウム:CaCO)が析出物として析出する。当該二酸化炭素固定方法は、カルシウム抽出液M1に多くのカルシウムイオンを含んでいるため、多くの二酸化炭素を固定することができる。
【0047】
上記二酸化炭素を含むガスCとしては、工場、発電所、輸送などの産業活動で排出される二酸化炭素を含む排ガスを用いることが好ましい。ガスC中の二酸化炭素の濃度としては、特に限定されなるものでなく、大気中又は上記排ガス中の二酸化炭素の濃度と同様な濃度であってもよく、これらを希釈又は濃縮した濃度であってもよい。ガスCは、二酸化炭素のみからなるガスであってもよい。
【0048】
〔分離工程〕
分離工程は、上記曝気工程によって得られる混合液M2から析出した析出物Dを固液分離する。具体的には、混合液供給管P3を介して供給される上記曝気工程後のカルシウム抽出液(混合液)M2を、分離部6で固体(析出物D)と液体(分離液M3)とに固液分離する。分離部6としては、特に限定されるものでなく、例えば、公知の遠心分離器である。
【0049】
分離部6で分離された析出物D及び分離液M3は、スラグ片の混入が抑制されているため純度が高く、広範な用途に利用又は再利用することができる。分離液M3は、例えば、後述するように、上記流通工程における溶媒Mの一部として再利用することができる。析出物D(炭酸塩)は、例えば、樹脂のフィラーとして利用することができる。
【0050】
〔再利用工程〕
再利用工程では、分離された分離液M3を上記流通工程における溶媒Mの少なくとも一部として再利用する。分離液M3は、循環部7で供給部2に循環されて、スラグ層Sに接触する溶媒混合液の一部として用いられる。循環部7は、分離液供給管P4を含む。循環される分離液M3は、スラグ片の混入が抑制され、かつ上記分離工程で析出物Dが取り除かれているため、スラグ層Sに接触する前の溶媒Mと同等の品質を有する。
【0051】
〔利点〕
当該二酸化炭素固定方法は、流通工程でカルシウムを含むスラグにポリオール化合物を含む溶媒を流通させているため、上記スラグ中のカルシウムを効率的に抽出することができる。このため、上記溶媒が流通した後のスラグは、カルシウムの含有量が低減され、効率的に利用又は再利用をすることができ、上記スラグに接触した後の溶媒は、多くのカルシウムを含み、二酸化炭素を含むガスの曝気をすることで、効率的に二酸化炭素を固定することができる。また、当該二酸化炭素固定方法は、上記流通工程で上記スラグが流動しない速度で上記溶媒を流通させているため、上記スラグのスラグ片が流通後の溶媒に混入することを抑制できる。このため、上記曝気によって析出する析出物及び上記曝気後の溶媒の純度が高く、低コストかつ広範な用途で上記析出物及び上記曝気後の溶媒の利用又は再利用をすることができる。
【0052】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
上述の実施形態では、当該二酸化炭素固定装置が供給部と調整部とを含むもので説明したが、供給部が調整部を内蔵するものであってもよい。すなわち、調整部が一体化された供給部を用いてもよい。
【0054】
溶媒は、ポリオール化合物、水以外の他の溶液、添加剤をスラグ中のカルシウム抽出効率を阻害しない範囲で含んでいてもよい。他の溶液としては、例えば、親水性溶液などである。親水性溶液としては、エタノール、又はメタノール等が挙げられる。また、流通工程では、ポリオール化合物と、溶剤以外の添加剤を水に溶解させた水溶液との混合液として用いてもよい。
【0055】
上記再利用工程は、当該二酸化炭素固定方法の必須の工程ではなく、分離液は他の用途に用いてもよい。
【0056】
当該二酸化炭素固定装置の容器にスラグを充填する方法としては、スラグを容器に充填した後に溶媒の供給を開始してもよいし、スラグと溶媒とを同時に容器内に供給(充填)してもよい。
【0057】
また、容器への溶媒の供給は、一定の流量で供給してもよく、流量が変化するように供給してもよい。また、溶媒は、連続的に供給してもよく、断続的に供給するようにしてもよい。
【0058】
容器内には、溶媒が直線的に流通することを妨げるための障害物を設けてもよい。すなわち、溶媒を容器内で部分的又は全体的に乱流させるための障害物が、容器内に設けてもよい。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
図2で示す試験装置を用いて以下の比較試験を行った。スラグとして、篩で10mm以下の粒径に調整した製鋼スラグ450gを、内径42mm、高さ230mmの容器11に充填してスラグ層S1を形成した。
【0061】
上記スラグの性状はf-CaOが13質量%である。ここで、f-CaOとは、未反応の酸化カルシウム(CaO)及び未反応の水酸化カルシウム(Ca(OH))である。上記スラグの成分含有率を表1に示す。含有率の小数点3桁以下は、四捨五入している。
【0062】
【表1】
【0063】
ポリオール化合物を含む溶媒M11として、グリセリン(富士フィルム和光純薬株式会社製、純度99.5%超)を濃度40質量%になるように水と混合したものを用意した。後述する表2の試験例1及び試験例2では、上記溶媒M11を容器11に供給して上記スラグ層S1に流通させてカルシウムを抽出した。上記溶媒M11は、溶剤容器12に貯留し、この溶剤容器12内に窒素ガスNで圧力をかけることで容器11に供給した。試験例1及び試験例2では、上記溶剤M1の流速(供給速度)を上記窒素ガスNの供給量で制御し、異なる空塔速度とした。上記窒素ガスNの供給量は、流量計13で確認しつつバルブVで調整した。
【0064】
スラグ層S1が形成された容器11から排出される溶媒(カルシウム抽出液)M12を所定時間間隔で分取し、溶液中のカルシウムイオン濃度を測定することでカルシウムの抽出率Eを計算した。カルシウムの抽出率E[%]は、下記式1を用いて算出した。
E=B/S×100 ・・・・(1)
ここで、Bは、カルシウム抽出液中のカルシウム[mol]、Sは、スラグ中のカルシウム[mol]である。
【0065】
試験例3では、400gの上記溶媒M11と、40gの上記スラグとを他の容器(ビーカ)に投入し、攪拌することでカルシウムを抽出した。攪拌は、室温、窒素雰囲気の条件下で、撹拌機によって300rpmで1.5時間行った。攪拌後の溶媒(カルシウム抽出液)に減圧濾過(濾材:濾紙 5種A)を行い、濾液中のカルシウム濃度を定量し、抽出率を算出した。
【0066】
試験例1、試験例2及び試験例3におけるカルシウム抽出液中の微粉(スラグ片)の有無は、カルシウム抽出液の濁り具合として目視で確認した。試験例1、試験例2及び試験例3の評価を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
試験例3では、カルシウム抽出率は試験例1と同等であるが、カルシウム抽出液中に微粉があるため、このカルシウム抽出液を利用又は再利用するためには、上記微粉を取り除く処理が必要になる。一方、試験例1及び試験例2では、カルシウム抽出液中の微粉がごくわずかであるため、微粉を取り除く処理を行うことなく、このカルシウム抽出液を溶剤に還元して利用又は再利用することができる。
【0069】
次に、試験例4として、空塔速度以外は、試験例1と同一の条件で試験を行った。空塔速度は、0mm/s超1.4mm/s以下で変化させながら試験を行った。試験は、比較的速い空塔速度のrun1と、比較的遅い空塔速度のrun2とで行った。容器11における溶媒の圧力損失をマノメータで測定した。圧力損失は、マノメータの液中がスラグ層S1の上端を超えた高さを測定して換算し、その変化を読み取った。図3に、溶媒の空塔速度の変化と、圧力損失の変化との関係を示す。
【0070】
図3より、空搭速度0.4mm/sで圧力損失の屈曲点があることが分かる。すなわち、空搭速度0.4mm/sを超えるとスラグの流動が開始したことが分かる。よって、図3から、スラグ層S1を流通する溶剤M11の空搭速度を0.4mm/s以下、圧力損失では14kPa/m以下とするのがよいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、低コストで効率的に二酸化炭素を固定することができるため、カルシウムを含むスラグの有効利用が図れると共に、二酸化炭素を固定した後の溶剤及びこの溶剤中の析出物の純度を高くすることができるため、上記溶剤及び上記析出物の利用又は再利用が容易にできる。よって、本発明は、二酸化炭素の固定に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0072】
1,11 容器
2 供給部
3 調整部
4 貯留部
5 曝気部
6 分離部
7 循環部
11 容器
12 溶剤容器
13 流量計
D 析出物
M,M11 溶媒
M1,M12 カルシウム抽出液
M2 混合液
M3 分離液
N 窒素ガス
P1 溶媒供給管
P2 抽出液供給管
P3 混合液供給管
P4 分離液供給管
S,S1 スラグ層
V バルブ
図1
図2
図3