(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029663
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】全周回転装置、及びケーシングチューブの建込み方法
(51)【国際特許分類】
E02D 11/00 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
E02D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132041
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】500109674
【氏名又は名称】株式会社大枝建機工業
(71)【出願人】
【識別番号】515166347
【氏名又は名称】川口 聖
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大枝 守
(72)【発明者】
【氏名】川口 聖
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA01
2D050DA03
2D050DB01
(57)【要約】
【課題】設置するためのスペースが大きくなるのを抑制できること。
【解決手段】全周回転装置100は、既設杭P1に固定可能な固定部1と、前記固定部1よりも上側に配置され、ケーシングチューブ6の内周面に接触した状態で前記ケーシングチューブ6を保持する保持部2と、前記既設杭P1の中心軸に沿う回転軸を中心に、前記固定部1に対して前記保持部2を回転させる回転駆動部4と、保持部2を、回転軸に沿う方向の上から下に向かって移動可能に構成された昇降駆動部5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭に対して固定可能な固定部と、
前記固定部よりも上側に配置され、ケーシングチューブの内周面に接触した状態で前記ケーシングチューブを保持する保持部と、
前記既設杭の中心軸に沿う回転軸を中心に、前記固定部に対して前記保持部を回転させる回転駆動部と、
前記保持部を、前記回転軸に沿う方向の上から下に向かって移動可能に構成された昇降駆動部と、
を備える、
全周回転装置。
【請求項2】
前記固定部は、
前記既設杭の外周面に対向するチャックと、
前記チャックを前記既設杭に向かって押し付ける固定フレームと、
を有し、
前記回転軸に沿う方向において前記保持部が前記固定部から離れる方向に力を受けると、前記固定フレームから前記チャックに向かって押し付ける力が強くなるように構成されている、
請求項1に記載の全周回転装置。
【請求項3】
前記保持部は、
前記ケーシングチューブの内周面に接触する保持位置と、前記内周面から離れる開放位置との間で可動な可動体と、
前記可動体を、前記保持位置と前記開放位置とのいずれかに切り替える駆動装置と、
を有する、
請求項1に記載の全周回転装置。
【請求項4】
前記昇降駆動部は、前記保持部を、前記回転軸に沿う方向のうちの上から下に向かう方向と下から上に向かう方向とに移動可能に構成される、
請求項3に記載の全周回転装置。
【請求項5】
前記昇降駆動部は、前記回転軸に沿う方向において、前記可動体と前記固定部との間の距離を可変とする伸縮ロッドを有する、
請求項4に記載の全周回転装置。
【請求項6】
既設杭に沿ってケーシングチューブを建て込むケーシングチューブの建込み方法であって、
前記ケーシングチューブの内周面を保持し、前記既設杭を基点として前記ケーシングチューブを回転させながら地中に下降させる、
ケーシングチューブの建込み方法。
【請求項7】
請求項1に記載の全周回転装置の固定部を、前記既設杭に対して固定する工程と、
前記ケーシングチューブの中心軸が前記既設杭の中心軸に沿うように、前記ケーシングチューブを配置する工程と、
前記全周回転装置の保持部を前記ケーシングチューブの内周面に接触させ、前記ケーシングチューブを前記全周回転装置に保持させる工程と、
前記ケーシングチューブを、前記ケーシングチューブの中心軸を中心に回転させながら、前記中心軸に沿う方向の地中側に移動させる工程と、
をこの順で行う、
請求項6に記載のケーシングチューブの建込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全周回転装置、及びケーシングチューブの建込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の全周回転装置が開示されている。特許文献1に記載の全周回転装置は、地面に設置される装置本体と、反力ウエイトと、を備えている。装置本体は、平面視中央において、上下方向に貫通する上下貫通円孔を有しており、上下貫通円孔に、掘削用の円筒体が通される。全周回転装置は、上下貫通円孔に掘削用の円筒体が通された状態において、掘削用の円筒体に対し、回転方向と垂直方向との力を加えることで、掘削用の円筒体を地中に圧入する。
【0003】
全周回転装置は、掘削用の円筒体を地中に圧入する際、地面からの反力に対抗するために反力ウエイトが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1に記載の全周回転装置は、平面視中央に上下貫通円孔が形成された構造であるため、必然的に、平面視において円筒体の直径よりも大きくなる。このため、特許文献1の全周回転装置では、全周回転装置の設置スペースが大きく必要であり、例えば、建築物に隣接した設置現場等のように、設置現場によっては、使用することができない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、設置するためのスペースが大きくなるのを抑制できる全周回転装置、及びケーシングチューブの建込み方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の全周回転装置は、既設杭に対して固定可能な固定部と、前記固定部よりも上側に配置され、ケーシングチューブの内周面に接触した状態で前記ケーシングチューブを保持する保持部と、前記既設杭の中心軸に沿う回転軸を中心に、前記固定部に対して前記保持部を回転させる回転駆動部と、前記保持部を、前記回転軸に沿う方向の上から下に向かって移動可能に構成された昇降駆動部と、を備える。
【0008】
本発明に係る一態様のケーシングチューブの建込み方法は、既設杭に沿ってケーシングチューブを建て込む方法であって、前記ケーシングチューブの内周面を保持し、前記既設杭を基点として前記ケーシングチューブを回転させながら地中に下降させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様によれば、設置するためのスペースが大きくなるのを抑制できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の全周回転装置の正面模式図である。
【
図2】
図2(A)は、実施形態の全周回転装置の平面模式図である。
図2(B)は、
図1のB-B線断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の全周回転装置の保持部の拡大図である。
【
図5】
図5(A)(B)は、実施形態の支持部の拡大図である。
【
図6】
図6(A)から(D)は、実施形態の全周回転装置を用いた施工方法を説明する模式図である。
【
図7】
図7(A)から(D)は、実施形態の全周回転装置を用いた施工方法を説明する模式図である。
【
図8】
図8(A)から(D)は、実施形態の全周回転装置を用いた施工方法を説明する模式図である。
【
図9】
図9は、実施形態に使用される杭把持装置の概略平面図である。
【
図10】
図10は、変形例に係る全周回転装置の正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
本実施形態に係る全周回転装置100は、地中に埋め込まれた杭(以下、「既設杭P1」という場合がある)を利用して、ケーシングチューブ6を地中に建て込む装置である。全周回転装置100は、ケーシングチューブ6を建て込む際、地面を足場にするのではなく、既設杭P1を足場にして、ケーシングチューブ6の内部からケーシングチューブ6を回転させる。このため、本実施形態に係る全周回転装置100によれば、全周回転装置100を設置するためのスペースを省くことができる。しかも、全周回転装置100は、既設杭P1に固定することができるため、ウエイトも不要である。
【0012】
また、本実施形態に係る全周回転装置100は、地中に建て込んだケーシングチューブ6を利用して、既設杭P1を引き上げることもできる。全周回転装置100は、既設杭P1を引き上げる際、既設杭P1を保持した状態で、建て込んだケーシングチューブ6の内周面に突っ張って支持しながら、ケーシングチューブ6の軸方向の上側に移動する。これにより、本実施形態に係る全周回転装置100によれば、既設杭P1を引き上げる際にも、全周回転装置100を設置するためのスペースを省くことができる。
【0013】
全周回転装置100は、
図1に示すように、固定部1と、保持部2と、支持部3と、回転駆動部4と、昇降駆動部5と、を備える。
【0014】
以下の全周回転装置100の説明では、地面に直交する方向を「上下方向」とし、上下方向に直交する方向を「径方向」として定義する。径方向において、ケーシングチューブ6の中心軸に向かう方向を「径方向の内側」とし、その反対方向を「径方向の外側」として定義する。また、本実施形態では、地面を水平面として説明するが、例えば、地面は傾斜面であってもよい。
【0015】
(固定部1)
固定部1は、既設杭P1に固定される部分である。固定部1は、本実施形態では、既設杭P1の上端部に対して固定される。固定部1は、
図1に示すように、固定フレーム11と、複数のチャック12と、チャック駆動部13(
図2)と、連結具14(
図2)と、を備える。
【0016】
固定フレーム11は、チャック12を既設杭P1に向かって押し付けるフレームである。固定フレーム11は、有蓋円筒状に形成されている。固定フレーム11の内周面は、
図2に示すように、既設杭P1の外周面よりも大きく形成されている。固定フレーム11の内周面は、テーパ状に形成されており、下方にいくほど、径方向の内側にいくように既設杭P1の外周面に対して傾斜している。固定フレーム11の内周面に対して、相対的に、チャック12を押し下げることで、固定フレーム11は、チャック12を、既設杭P1の外周面に向かって押し付けることができる。
【0017】
本実施形態では、既設杭P1に対して固定された固定フレーム11に対して、チャック12を下方に移動させることで、チャック12を既設杭P1の外周面に向かって押し付けたが、固定フレーム11を上方に移動させることで、チャック12を既設杭P1の外周面に向かって押し付けてもよい。
【0018】
固定フレーム11の外径は、
図1に示すように、ケーシングチューブ6の内径よりも小さく形成されている。固定フレーム11の外周面は、特に制限はないが、ケーシングチューブ6の内周面に略平行に形成されている。
【0019】
固定フレーム11の天面部111には、
図2に示すように、チャック駆動部13の少なくとも一部が通る複数の貫通孔112が形成されている。チャック駆動部13のロッド132は、貫通孔112を通して、固定フレーム11内に差し込まれる。
【0020】
チャック12は、既設杭P1の外周面に対向するようにして配置される。チャック12の内周面及び外周面は、上方から見て(以下、平面視)、略円弧状に形成されている。チャック12の内周面には、滑り止め部121が形成されている。滑り止め部121は、既設杭P1の外周面に対する滑りを抑制する。滑り止め部121としては、例えば、複数の突起、凹凸形状、微細な凹凸、複数の突条、粘着性材料、複数のピン等が挙げられる。
【0021】
チャック12は上下方向に沿う断面において、下方ほど薄いくさび形に形成されている。チャック12の外周面は、固定フレーム11の内周面に略平行に形成されており、固定フレーム11の内周面に対向する。
【0022】
チャック駆動部13は、チャック12を、固定フレーム11の内周面に対して押し下げるように動かす。本実施形態に係るチャック駆動部13は、チャック12を上下方向に沿って移動させる。チャック駆動部13としては、例えば、シリンダ装置、ソレノイド、直動式アクチュエータ等が挙げられる。シリンダ装置としては、油圧、電動、空圧のいずれであってもよいが、本実施形態では、油圧式シリンダが用いられる。
【0023】
チャック駆動部13は、固定フレーム11の上方に設置されている。チャック駆動部13のシリンダチューブ131は、例えば、天面部111に対して、ねじ止め等により固定されている。チャック駆動部13のロッド132は、上述したように、固定フレーム11の天面部111の貫通孔112を通して、チャック12に連結される。ロッド132とチャック12とは、連結具14を介して連結されている。
【0024】
連結具14は、チャック駆動部13のロッド132とチャック12とを連結する部材である。本実施形態に係る連結具14は、1つ又は2つ以上のプレートで構成されている。連結具14は、チャック駆動部13のロッド132に対して、ピン接合されている。また、連結具14は、ロッド132とのピン接合部分から離れた位置で、チャック12に対してピン接合されている。連結具14は、ロッド132に対して、回転可能に接合されており、またチャック12に対して回転可能に接合されている。連結具14のロッド132との接合部分における回転軸と、チャック12との接合部分における回転軸とは互いに略平行である。
【0025】
チャック駆動部13のロッド132がシリンダチューブ131から突き出る方向に移動すると、連結具14はロッド132の移動に従って移動し、これに応じてチャック12が下方に押し下げられる。下方に押し下げられたチャック12は、固定フレーム11の内周面に沿って移動し、既設杭P1の外周面に対して、押し付けられる。一方、チャック駆動部13のロッド132がシリンダチューブ131に引き込む方向に移動すると、連結具14はロッド132の移動に従って移動し、これに応じてチャック12が上方に移動する。上方に移動したチャック12は、固定フレーム11の内周面から受ける力が緩まり、既設杭P1の外周面から離れ得る。
【0026】
ところで、ケーシングチューブ6を地中に建て込む際、反力によって、ケーシングチューブ6から、保持部2、回転駆動部4、昇降駆動部5及び固定フレーム11に対して、上方向への外力が加わる。このとき、固定フレーム11及びチャック駆動部13についても上方向への外力が加わるが、チャック駆動部13とチャック12とは連結具14を介して接続されているため、チャック12は、チャック駆動部13によって引き上げられることなく、固定フレーム11の内周面から上方向に向かう力を受ける。
【0027】
このとき、チャック12に対し固定フレーム11から径方向の内側に向かう力も加わるため、チャック12は、より強固に既設杭P1の外周面に対して押し付けられる。すなわち、本実施形態に係る固定部1は、回転軸に沿う方向において保持部2が固定部1から離れる方向(すなわち上方向)に力を受けると、固定フレーム11からチャック12に向かって押し付ける力が強くなるように構成されている。
【0028】
(保持部2)
保持部2は、ケーシングチューブ6の内周面に接触した状態でケーシングチューブ6を保持する。本実施形態に係る保持部2は、ケーシングチューブ6の内周面に圧接することで、ケーシングチューブ6を保持する。保持部2は、
図1に示すように、ベースフレーム21と、回転体22と、複数の押し当て体23と、昇降フレーム24と、可動体25と、駆動装置26と、連結体27と、を備える。
【0029】
ベースフレーム21は、保持部2においてベースとなるフレームである。ベースフレーム21は、固定部1に対して、間隔をおいて上方に配置されている。ベースフレーム21は、固定部1上において昇降駆動部5によって支持されている。ベースフレーム21は、円盤状の下ベース211と、下ベース211から上方に離れた円盤状の上ベース212と、下ベース211と上ベース212とをつなぐ内連結部213と、で構成されている。下ベース211、上ベース212及び内連結部213は、溶接により一体に形成されている。
【0030】
回転体22は、ベースフレーム21に対して、回転可能に支持されている。回転体22の回転軸は、既設杭P1の中心軸の延長線上に位置しており、既設杭P1の中心軸に沿うように配置される。回転体22は、リング状に形成されており、内連結部213の外周を回転する。回転体22は、下ベース211と上ベース212との間に組み付けられることで、ベースフレーム21に対して支持される。
【0031】
回転体22の外周面には、複数の押し当て体23が接続されている。回転体22の外周面から、径方向の外側に突き出るようにして複数のアーム221が設けられており、各アーム221に押し当て体23が取り付けられている。複数の押し当て体23は、回転体22の周方向において、一定の間隔をおいて配置されている。本実施形態に係る複数の押し当て体23は、平面視において、90°ごとに配置されている。
【0032】
押し当て体23の外周面は、径方向の外側に向かって突き出た平面視略円弧状に形成されており、かつ下方ほど径方向の外側にいくように、テーパ状に形成されている。これにより、押し当て体23の外周面と、ケーシングチューブ6の内周面との間の距離は、下方ほど短くなっている。ただし、押し当て体23の外周面は、円弧状の曲面でなくてもよく、鉛直面に対して傾斜した平面であってもよい。
【0033】
昇降フレーム24は、ベースフレーム21に対し、駆動装置26によって、上下方向に移動可能に支持されている。昇降フレーム24は、上方向に移動することで、可動体25を開放位置に移動させ、下方向に移動することで、可動体25を保持位置に移動させることができる。ここでいう「開放位置」とは、可動体25がケーシングチューブ6の内周面から離れた位置を意味する。また「保持位置」とは、可動体25がケーシングチューブ6の内周面に接触する位置を意味する。
【0034】
昇降フレーム24は、下支持フレーム241と、上支持フレーム242と、内連結フレーム(不図示)と、リングギア243と、ガイド柱244と、を備える。
【0035】
下支持フレーム241は、円盤状に形成されており、リングギア243を支持する。下支持フレーム241の下面には、駆動装置26の上端部が取り付けられている。上支持フレーム242は、下支持フレーム241に対して上方に離れている。上支持フレーム242は、円盤状に形成されている。上支持フレーム242には、後述の回転駆動部4のモータ41を設置するための複数の取付穴245が形成されている。内連結フレームは、上支持フレーム242と下支持フレーム241とをつなぐ。
【0036】
リングギア243は、内周面に歯車が形成されたリング状の部材である(
図3(B))。リングギア243は、下支持フレーム241と上支持フレーム242との間に配置されており、下支持フレーム241に対して回転可能に支持されている。リングギア243の回転軸は、既設杭P1の中心軸の延長線上に位置している。リングギア243は、回転駆動部4によって、回転軸を中心に回転する。リングギア243の外周部には、連結体27を介して、可動体25が取り付けられる。
【0037】
ガイド柱244は、上支持フレーム242、下支持フレーム241及びリングギア243の上下方向の移動をガイドする。ガイド柱244は、上下方向に延びている。ガイド柱244の上端部は下支持フレーム241に固定され、ガイド柱244の下端部は、ベースフレーム21に対して移動可能に接続されている。ガイド柱244としては、例えば、シャフトとリニアブッシュで構成されてもよいし、複数の筒からなるテレスコピック構造で構成されてもよい。
【0038】
可動体25は、リングギア243の外周面に対して、連結体27を介して取り付けられている。可動体25は、押し当て体23に対応する位置に配置されている。可動体25の内周面は、押し当て体23に対向する。可動体25の外周面は、ケーシングチューブ6の内周面に対向する。可動体25の外周面には、滑り止め部251が形成されている。滑り止め部251は、ケーシングチューブ6の内周面に対する滑りを抑制する。滑り止め部251としては、例えば、複数の突起、凹凸形状、微細な凹凸、複数の突条、粘着性材料、複数のピン等が挙げられる。
【0039】
連結体27は、リングギア243の外周部から突き出たブラケットに対して、ピン接合されている。また、連結体27は、ブラケットとのピン接合部分から離れた位置で、可動体25に対してピン接合されている。連結体27は、ブラケットの外周部に対して、回転可能に接合されており、また可動体25に対して回転可能に接合されている。リングギア243との接合部分における回転軸と、可動体25との接合部分における回転軸とは互いに略平行である。
【0040】
駆動装置26は、可動体25を、保持位置と開放位置とのいずれかに切り替える。駆動装置26は、本実施形態では、昇降フレーム24を上昇させることで可動体25を開放位置に切り替え、昇降フレーム24を下降させることで可動体25を保持位置に切り替える。駆動装置26は、複数のシリンダ装置261を備える。複数のシリンダ装置261は、昇降フレーム24とベースフレーム21とをつないでおり、ガイド柱244の周囲に一定の間隔をおいて配置されている。各シリンダ装置261は、シリンダチューブが昇降フレーム24に取り付けられ、シリンダロッドがベースフレーム21に対して取り付けられている。ただし、シリンダ装置261は、シリンダチューブがベースフレーム21に取り付けられてもよい。
【0041】
図4に示すように、複数のシリンダ装置261において、シリンダロッドがシリンダチューブに引き込む方向に移動すると、昇降フレーム24が下降し、可動体25は、保持位置に切り替えられる。すると、可動体25は、ケーシングチューブ6の内周面に対して押し当てられる。可動体25がケーシングチューブ6の内周面に圧接することにより、保持部2は、ケーシングチューブ6を内面から突っ張って保持することができる。一方、複数のシリンダ装置261において、シリンダロッドがシリンダチューブから突き出る方向に移動すると、昇降フレーム24が上昇し、可動体25は、開放位置に切り替えられる。すると、可動体25は、ケーシングチューブ6の内周面に対する圧接状態を解除する。
【0042】
(回転駆動部4)
回転駆動部4は、既設杭P1の中心軸に沿う回転軸を中心に、固定部1に対して保持部2を回転させる。本実施形態に係る回転駆動部4は、
図3(A)に示すように、複数のモータ41を備える。複数のモータ41は、リングギア243の回転軸の周囲に一定の間隔をおいて配置されている。各モータ41の出力軸に取り付けられたピニオン411は、
図3(B)に示すように、リングギア243の歯車に噛み合う。各モータ41の出力軸が回転すると、ピニオン411がリングギア243を回転させる。これにより、保持部2は、ケーシングチューブ6の中心軸を回転軸として、ケーシングチューブ6を回転させることができる。
【0043】
モータ41としては、例えば、油圧モータ、水圧モータ、電動モータ、空圧モータのいずれであってもよい。また、本実施形態では、回転駆動部4は、4つのモータ41を備えるが、1つのモータ41であってもよいし、2つ又は3つのモータ41であってもよいし、5つ以上のモータ41を備えてもよい。
【0044】
(支持部3)
支持部3は、
図1に示すように、可動体25とは別に、ケーシングチューブ6の内周面に圧接し得る部分であり、ケーシングチューブ6内で全周回転装置100を支持することができる。支持部3は、可動体25よりも下方において、ケーシングチューブ6の内周面に圧接可能に構成される。本実施形態では、支持部3は、固定フレーム11よりも上方に位置している。
【0045】
支持部3は、固定フレーム11の天面部111上に固定されたベース板31と、起立部32と、ベース板31に取り付けられた複数の支持駆動部33と、支持駆動部33により駆動する支持体34と、を備える。ベース板31は、円盤状に形成されている。ベース板31と固定フレーム11の天面部111との固定は、例えば、溶接、ねじ止め、ピン止め、リベット、ボルト・ナット等により実現される。
【0046】
起立部32は、円筒状に形成されており、ベース板31の中央部から上方に突き出ている。起立部32は、ベース板31に一体に形成されており、ベース板31に対して固定されている。
【0047】
支持駆動部33は、
図5(A)(B)に示すように、支持位置と解除位置との間で、支持体34を径方向に移動させる。各支持駆動部33は、例えば、例えば、シリンダ装置、ソレノイド、直動式アクチュエータ等が挙げられる。シリンダ装置としては、油圧、水圧、電動、空圧のいずれであってもよいが、本実施形態では、支持駆動部33の一例として、油圧式シリンダが挙げられる。
【0048】
複数の支持駆動部33は、ケーシングチューブ6の中心軸を中心として、シリンダロッドが放射状に伸縮可能に配列されている。シリンダロッドの先端は起立部32に取り付けられている。シリンダチューブは、シリンダロッドが伸縮することで、ベース板31及び起立部32に対して、径方向に沿って移動可能し得る。支持駆動部33のシリンダチューブは、スライドガイド35によって移動が案内される。
【0049】
支持体34は、ケーシングチューブ6の内周面に接触又は離間し得る部材である。支持体34は、支持駆動部33に固定されており、支持駆動部33のシリンダロッドがシリンダチューブから突き出る方向に移動することで、ケーシングチューブ6の内周面に接触する。一方、支持体34は、支持駆動部33のシリンダロッドがシリンダチューブに引き込む方向に移動することで、ケーシングチューブ6の内周面から離れる。
【0050】
各支持体34は、2つの部材に分割されている。支持体34は、2つの部材として、ケーシングチューブ6の内周面に当たる第1部材341と、支持駆動部33に固定された第2部材342と、を備える。第2部材342の外周面は、下方ほどケーシングチューブ6から離れるように鉛直面に対して傾斜した平面である。また、第1部材341の内周面は、第2部材342の外周面に対向する。第1部材341は、上方ほど薄くなるようにくさび状に形成されている。第1部材341の外周面は、径方向の外側に突き出る断面円弧状の曲面であり、ケーシングチューブ6の内周面に対向している。第1部材341と第2部材342とは、複数の留め輪343によって、一定の範囲で移動可能に連結されている。
【0051】
支持体34が支持位置に切り替えられた状態では、保持部2が開放位置にあっても、ケーシングチューブ6の内周面に対して、全周回転装置100を支持することができる。
【0052】
(昇降駆動部5)
昇降駆動部5は、固定部1に対し、回転軸に沿って保持部2を移動させる。昇降駆動部5は、
図1に示すように、昇降シリンダ装置51と、カバー52と、を備える。
【0053】
昇降シリンダ装置51は、ベースフレーム21に取り付けられたシリンダチューブ511と、先端部が支持部3のベース板31に取り付けられた伸縮ロッド512と、を備える。昇降シリンダ装置51としては、油圧、水圧、電動、空圧のいずれであってもよいが、本実施形態では、一例として、油圧式シリンダが挙げられる。
【0054】
シリンダチューブ511は、ベースフレーム21に取り付けられており、ベースフレーム21に固定されている。シリンダチューブ511は、伸縮ロッド512の引き込みと突き出しとを切り替えることで、伸縮ロッド512を、伸長位置と収縮位置との間で移動させる(伸縮させる)。
【0055】
伸縮ロッド512は、ケーシングチューブ6の回転軸に沿う方向において、可動体25と支持部3との間の距離を可変とする。すなわち、伸縮ロッド512は、収縮位置に切り替えられると、可動体25を支持部3に近づく方向に移動させ、伸長位置に切り替えられると、可動体25を支持部3から離れる方向に移動させる。言い換えると、伸縮ロッド512は、ケーシングチューブ6の回転軸に沿う方向において、可動体25と固定部1との間の距離を可変とする。
【0056】
なお、昇降駆動部5としては、固定部1に対し、ケーシングチューブ6の回転軸に沿って保持部2を移動させることができればよく、例えば、シリンダチューブ511を固定フレーム11に固定し、伸縮ロッド512の先端部をベースフレーム21に固定してもよい。
【0057】
カバー52は、昇降シリンダ装置51を保護する。カバー52は、筒状に形成されている。カバー52としては、角筒、円筒のいずれであってもよい。また、カバー52としては、テレスコピック構造を採用してもよい。
【0058】
<施工方法>
次に、
図6から
図8を用いて、本実施形態に係る全周回転装置100を用いた施工方法について説明する。本実施形態に係る施工方法は、ケーシングチューブ6の建込み工程(以下、単に「建込み工程」という)と、既設杭P1の引上げ工程(以下、単に「引上げ工程」という)と、を備える。本実施形態に係る施工方法は、地面に対して交差する方向に延びるように埋め込まれた既設杭P1を地中から撤去する際に用いられる工法である。
【0059】
(建込み工程)
建込み工程は、ケーシングチューブ6を既設杭P1が埋め込まれた地盤に対して、ケーシングチューブ6を建て込む工程である。ケーシングチューブ6は、上記実施形態に係る全周回転装置100を用いて、既設杭P1に沿って、既設杭P1と同軸上に建て込まれる。
【0060】
本明細書でいう「同軸上」は、対応する2つ以上の軸が、一致する場合はもちろん、略平行ではあるが僅かにずれている場合も含む。ここでは、既設杭P1に対して、本実施形態に係る全周回転装置100を設置した状態において、全周回転装置100を囲むようにケーシングチューブ6を設置できれば、既設杭P1とケーシングチューブ6とは「同軸上」にある範疇である。
【0061】
ケーシングチューブ6は、筒状の鋼管である。ケーシングチューブ6は、中心軸方向に1つのものであってもよいが、本実施形態のように、分割されたケーシングチューブ6を中心軸方向に継いでいくものであってもよい。ケーシングチューブ6の下端には、地盤の掘削が可能な複数の掘削刃61が設けられている。
【0062】
建込み工程は、ケーシングチューブ6の内周面を保持し、既設杭P1の上端部を基点としてケーシングチューブ6を回転させながら地中に下降させる工程である。建込み工程は、装置設置工程と、ケーシングチューブ下降工程と、を順に行うことで実行される。
【0063】
装置設置工程は、
図6(a)に示すように、既設杭P1の上端部に対して、全周回転装置100の固定部1を固定する。装置設置工程では、例えば、クレーンによって全周回転装置100を吊り下げ、全周回転装置100を既設杭P1の上端に載せた上で、チャック12によって既設杭P1の上端部を挟む。これによって、既設杭P1の上端部に対して、全周回転装置100の固定部1を固定することができる。
【0064】
ケーシングチューブ下降工程は、
図6(b)に示すように、ケーシングチューブ6を回転させながら下降させて、地中に埋め込む工程である。ケーシングチューブ下降工程では、クレーンによってケーシングチューブ6を吊り下げ、ケーシングチューブ6の中心軸が既設杭P1の中心軸に沿うようにケーシングチューブ6を地面上に配置する。この状態で、全周回転装置100の保持部2を動作させて、可動体25を保持位置に切り替え、可動体25をケーシングチューブ6の内周面に圧接させる。そして、回転駆動部4を作動することで、可動体25を回転させ、ケーシングチューブ6を中心軸回りに回転させることができる。
【0065】
全周回転装置100は、可動体25の回転と同時に、昇降駆動部5を作動し、伸縮ロッド512を収縮位置に切り替えることで、可動体25を下方に移動させる。伸縮ロッド512が収縮位置に移動したら、可動体25を開放位置に切り替え、伸縮ロッド512を再び伸長位置に切り替える。そして、可動体25を保持位置に切り替えると共に、伸縮ロッド512を収縮位置に切り替える。これを繰り返すことにより、ケーシングチューブ6を回転させながら下降させ、地中に埋め込んでゆくことができる。
【0066】
1つのケーシングチューブ6を埋め込んだ後、
図6(c)に示すように、別のケーシングチューブ6aを、既に埋め込まれたケーシングチューブ6の上端部に接続し、
図6(d)に示すように、再び、ケーシングチューブ6を回転させながら下降させる。これを繰り返すことで、ケーシングチューブ6の下端部は、既設杭P1の下端部に対応する位置まで到達し、既設杭P1とその周囲の地盤との縁が切れ、その結果、既設杭P1および周辺の地盤がケーシングチューブ6と供回りする。ここでいう「縁が切れる」とは、既設杭P1の周辺の地盤が、その周囲の地盤から分断されることを意味する。
【0067】
(引上げ工程)
引上げ工程は、建込み工程の後に行われる工程である。引上げ工程では、既設杭P1の上端部を保持した装置100を、ケーシングチューブ6の内周面に支持させながら、ケーシングチューブ6の中心軸に沿って移動させる。引上げ工程は、ケーシングチューブ継ぎ足し工程と、上昇工程と、を備える。
【0068】
ケーシングチューブ継ぎ足し工程は、地中に建て込まれたケーシングチューブ6の上端部に、別のケーシングチューブ6aを接続する工程である。ケーシングチューブ継ぎ足し工程では、建て込まれたケーシングチューブ6の上端部に、杭把持装置7を設置し、杭把持装置7の上に、別のケーシングチューブ6aを接続する。
【0069】
杭把持装置7は、全周回転装置100によって引き上げられた既設杭P1を、任意の位置で把持する装置である。杭把持装置7を作動させることで、ケーシングチューブ6に対して、既設杭P1を移動しないように把持することができる。杭把持装置7は、
図9に示すように、既設杭P1の外周に巻き回されて先端間が離れた略C字状の把持部71と、把持部71の先端間の距離を変えるシリンダ装置72とを備える。シリンダ装置72によって、把持部71の先端間が短くなることで、既設杭P1が把持される。
【0070】
ケーシングチューブ継ぎ足し工程の後、上昇工程が実施される。上昇工程は、
図7(b)に示すように、既設杭P1が固定部1に固定された状態で全周回転装置100を上昇させる工程である。全周回転装置100は、伸縮ロッド512が伸長位置に切り替えられた状態で、保持部2の可動体25が保持位置に切り替えられる。この状態で、伸縮ロッド512が収縮位置に向かって移動すると、既設杭P1を引き上げることができる。
【0071】
伸縮ロッド512が収縮位置に切り替えられると、全周回転装置100は、支持部3を作動し、支持体34をケーシングチューブ6の内面に圧接させる。これにより、上昇した全周回転装置100は、その位置において、支持部3によって、ケーシングチューブ6に支持される。
【0072】
次に、支持部3によるケーシングチューブ6の内周面への圧接を保ったまま、可動体25を開放位置に切り替えて、保持部2によるケーシングチューブ6の内周面への圧接を解除し、伸縮ロッド512を伸長位置に切り替える。そして、再度、保持部2を作動し、可動体25を保持位置に切り替えて可動体25をケーシングチューブ6の内周面に圧接させる。これを繰り返すことによって、全周回転装置100は、既設杭P1を引き上げることができる。
【0073】
この後、
図7(c)に示すように、杭把持装置7を作動し、既設杭P1を把持させる。この状態で、全周回転装置100を既設杭の上端部から取り外す。そして、最上部のケーシングチューブ6をすぐ下のケーシングチューブ6から外し、掴み装置8を既設杭P1の上端部に取り付ける。この状態で、例えば、バンドソー73を用いて、ケーシングチューブ6から突き出た既設杭P1において、ケーシングチューブ6の上端よりも所定寸法上方の位置を切断する。この後、
図7(d)に示すように、切断した部分よりも上方の既設杭P2を撤去する。このように、本実施形態によれば、既設杭P1の一部(既設杭P2)を切断して撤去するため、多滑車を用いた大型クレーンを用いなくても、既設杭P1を撤去することができる。
【0074】
次いで、
図8(a)に示すように、ケーシングチューブ6から突き出た既設杭P1の上端部に、全周回転装置100を再び設置する。この後、
図8(b)に示すように、別のケーシングチューブ6を、建て込まれたケーシングチューブ6の上端部に接続し、全周回転装置100を用いて、既設杭P1を引き上げる。
【0075】
この後、杭把持装置7で既設杭P1を把持し、全周回転装置100及び最上部のケーシングチューブ6を外した上で、掴み装置8を用いて、既設杭P1を撤去する。最後に、建て込まれたケーシングチューブ6を、例えば、全周回転機9を用いて地中から撤去することができる。
【0076】
このように、本実施形態に係る施工方法によれば、既設杭P1を足場にして、ケーシングチューブを建て込むため、ケーシングチューブ6を建て込むための装置の設置スペースが大きくなるのを抑制できる。しかも、既設杭P1を引き上げる際、建て込まれたケーシングチューブ6を用いて、既設杭P1を引き上げることができるため、ケーシングチューブ6を建て込むための装置の設置スペースが大きくなるのを抑制できる。また、既設杭P1を引き上げる際、万が一、既設杭P1が落下しても、ケーシングチューブ6内で落下するため、重大な事故につながるのを防止できる。
【0077】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の1つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0078】
固定部1は、上記実施形態に係る固定部1の構造に限らず、例えば、
図10に記載された構造であってもよい。一変形例に係る固定部1は、平面視円弧状に形成された一対の殻状体15と、殻状体15の周方向の隣り合う端部を上方に引き上げる一対の第1アーム17と、一対の第1アーム17の上端部を連結した状態で引き上げる第2アーム16と、を備える。第2アーム16には、図示しない駆動装置(例えば、シリンダ装置)が連結されている。
【0079】
各殻状体15は、上側の縁部に複数の刃を備える。各殻状体15は、平面視における周方向の中間部分において回転可能に支持される。殻状体15の回転軸C1は、既設杭P1の中心軸に直交し、かつ既設杭P1の外周面近傍に位置する。第2アーム16を下方に伸ばすと、殻状体15は、回転軸C1を中心に回転する((A)→(B))。殻状体15が回転すると、既設杭P1に対して、殻状体15が食い込む。これによって、固定部1は、既設杭P1に対して固定される。
【0080】
また、上記実施形態では、施工方法として、ケーシングチューブ6の建込み工程と、既設杭P1の引上げ工程と、を備えたが、本発明では、ケーシングチューブ6の建込み工程と、既設杭P1の引上げ工程とのいずれか一方のみを本実施形態に係る全周回転装置100を用いて行い、他方の工程を一般的な工法を用いて行ってもよい。すなわち、本明細書において「ケーシングチューブ6の建込み方法」とは、少なくとも、本実施形態の全周回転装置100を用いたケーシングチューブ6の建込み工程を含む施工方法を意味する。同様に、「ケーシングチューブ6の建込み方法」とは、少なくとも、本実施形態の全周回転装置100を用いた既設杭P1の引上げ工程を含む施工方法を意味する。
【0081】
また、上記実施形態では、保持部2は、ケーシングチューブ6の内周面に圧接することでケーシングチューブ6を保持したが、本発明では圧接に限らない。保持部2としては、例えば、電磁石によってケーシングチューブ6を磁着したり、真空吸着したりしてもよい。また、ケーシングチューブ6の内周面に突起を設け、当該突起に対して保持部2を引っ掛けてもよい。
【0082】
上記実施形態では、既設杭P1を持ち上げる際、掴み装置8を用いたが、掴み装置8を用いずに、既設杭P1にワイヤーを巻き回してもよい。
【0083】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0084】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0085】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係る全周回転装置100は、既設杭P1に対して固定可能な固定部1と、固定部1よりも上側に配置され、ケーシングチューブ6の内周面に接触した状態でケーシングチューブ6を保持する保持部2と、既設杭P1の中心軸に沿う回転軸を中心に、固定部1に対して保持部2を回転させる回転駆動部4と、保持部2を、回転軸に沿う方向の上から下に向かって移動可能に構成された昇降駆動部5と、を備える。
【0086】
この態様によれば、全周回転装置100を、ケーシングチューブ6の内側に設置して、ケーシングチューブ6に対して、ケーシングチューブ6の内側から回転方向と鉛直方向への力を加えることができるため、設置するためのスペースが大きくなるのを抑制できる。しかも、既設杭P1に対して固定部1が固定されるため、本態様の全周回転装置100によれば、反力ウエイトを有さなくても、反力に対して対抗することができる。この結果、本態様の全周回転装置100によれば軽量化を図ることもできる。
【0087】
しかも、本態様の全周回転装置100では、既設杭P1に対して固定部1が固定されるため、必ずしも、鉛直方向に延びた既設杭P1でなくてもよく、例えば、水平面に対して傾斜した傾斜杭に対しても適用することができる。
【0088】
第2の態様に係る全周回転装置100では、第1の態様において、固定部1は、既設杭P1の外周面に対向するチャック12と、チャック12を既設杭P1に向かって押し付ける固定フレーム11と、を有する。回転軸に沿う方向において保持部2が固定部1から離れる方向に力を受けると、固定フレーム11からチャック12に向かって押し付ける力が強くなるように構成されている。
【0089】
この態様によれば、ケーシングチューブ6を建て込む際、反力を受けた場合に、既設杭P1に対してより強固に固定される。
【0090】
第3の態様に係る全周回転装置100では、第1又は第2の態様において、保持部2は、ケーシングチューブ6の内周面に接触する保持位置と、内周面から離れる開放位置との間で可動な可動体25と、可動体25を保持位置と開放位置とのいずれかに切り替える駆動装置26と、を有する。
【0091】
この態様によれば、可動体25を保持位置と開放位置とに切り替えることで、ケーシングチューブ6の保持と解除とを行うことができる。
【0092】
第4の態様に係る全周回転装置100では、第3の態様において、昇降駆動部5は、保持部2を、回転軸に沿う方向のうちの上から下に向かう方向と下から上に向かう方向とに移動可能に構成される。
【0093】
この態様によれば、保持部2を保持位置にした状態で、保持部2を上から下に向かう方向に移動させて、ケーシングチューブ6を地中に向かって移動させた後、保持部2を開放位置に切り替えた状態で、保持部2を下から上に向かう方向に移動させる。この後、再び保持部2を保持位置に切り替え、保持部2をケーシングチューブ6と共に、地中に向かって移動させる。これを繰り返すことで、ケーシングチューブ6を地中に埋め込んでゆくことができる。
【0094】
第5の態様に係る全周回転装置100では、第4の態様において、昇降駆動部5は、回転軸に沿う方向において、可動体25と支持部3との間の距離を可変とする伸縮ロッド512を有する。
【0095】
この態様によれば、既設杭P1を固定部1で固定した状態で、ケーシングチューブ6内において保持部2により全周回転装置100を保持し、伸縮ロッド512を収縮させることで、既設杭P1を上昇させることができる。また、その後、支持部3によって全周回転装置100を支持させ、収縮ロッド132を伸長させたうえで、保持部2により全周回転装置100を保持させ、支持部3により支持を解除することで、再び、既設杭P1を上昇させることができる。これを繰り返すことで、既設杭P1を引き上げることができる。
【0096】
第6の態様に係るケーシングチューブ6の建込み方法は、既設杭P1に沿ってケーシングチューブ6を建て込むケーシングチューブ6の建込み方法であって、ケーシングチューブ6の内周面を保持し、既設杭P1の上端部を基点としてケーシングチューブ6を回転させながら地中に下降させる。
【0097】
この態様によれば、ケーシングチューブ6を建て込む際、足場を既設杭P1とすることができるため、ケーシングチューブ6を建て込むための装置の設置スペースが大きくなるのを抑制できる。
【0098】
第7の態様に係るケーシングチューブ6の建込み方法では、第5の態様において、第1の態様の全周回転装置100の固定部1を、既設杭P1に対して固定する工程と、ケーシングチューブ6の中心軸が既設杭P1の中心軸に沿うように、ケーシングチューブ6を配置する工程と、全周回転装置100の保持部2をケーシングチューブ6の内周面に接触させ、ケーシングチューブ6を全周回転装置100に保持させる工程と、ケーシングチューブ6を、ケーシングチューブ6の中心軸を中心に回転させながら、中心軸に沿う方向の地中側に移動させる工程と、をこの順で行う。
【0099】
この態様によれば、上記第6の態様の全周回転装置100を用いて、ケーシングチューブ6を建て込むことができる。
【0100】
第8の態様に係る既設杭P1の引上げ方法は、既設杭P1に沿ってケーシングチューブ6を建て込み、既設杭P1と地盤との縁を切った後に行われる既設杭P1の引上げ方法であって、既設杭P1の上端部を保持した装置を、ケーシングチューブ6の内周面に支持させながら、ケーシングチューブ6の中心軸に沿って移動させる。
【0101】
この態様によれば、既設杭P1を引き上げる際、建て込まれたケーシングチューブ6を用いて、既設杭P1を引き上げることができるため、ケーシングチューブ6を建て込むための装置の設置スペースが大きくなるのを抑制できる。
【0102】
第9の態様に係る既設杭P1の引上げ方法では、第8の態様において、第4の態様の全周回転装置100の固定部1が既設杭P1の上端部に固定され、かつ伸縮ロッド512が伸長した状態で、保持部2によってケーシングチューブ6を保持する工程と、全周回転装置100の伸縮ロッド512を縮めることで、既設杭P1を、既設杭P1の中心軸に沿う方向の上側に移動させる工程と、全周回転装置100の支持部3によってケーシングチューブ6を保持させ、ケーシングチューブ6に全周回転装置100を支持させる工程と、保持部2によるケーシングチューブ6の内周面への保持を解除し、伸縮ロッド512を伸長させた後、保持部2をケーシングチューブ6の内周面に保持させる工程と、をこの順で実行する。
【0103】
この態様によれば、上記第4の態様の全周回転装置100を用いて、既設杭P1を引き上げることができる。
【符号の説明】
【0104】
100 全周回転装置
1 固定部
2 保持部
25 可動体
3 支持部
4 回転駆動部
5 昇降駆動部
512 伸縮ロッド
6 ケーシングチューブ
P1 既設杭