(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029666
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】輪荷重推定装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 5/18 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
G01L5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132044
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】徳田 一真
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠輔
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA01
(57)【要約】
【課題】簡易な装備で精度よく輪荷重を推定することができる輪荷重推定装置を提供する。
【解決手段】輪荷重推定装置は、車輪速取得部と、周波数特性比算出部と、荷重比算出部と、輪荷重算出部とを備える。車輪速取得部は、車輪速センサから各車輪の車輪速情報を取得する。周波数特性比算出部は、前輪に作用する荷重と後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後ゲイン比と、左輪に作用する荷重と右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右ゲイン比とを、2以上の特定の周波数においてそれぞれ算出する。荷重比算出部は、2以上の前後ゲイン比及び2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前後荷重比及び左右荷重比を算出する。輪荷重算出部は、前後荷重比及び左右荷重比に基づいて、少なくとも1つの車輪に対し、相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の輪荷重を推定する輪荷重推定装置であって、
前記車両に装備されている車輪速センサから前記車両に含まれる各車輪の車輪速情報を取得する車輪速取得部と、
前記車輪速情報に基づいて、前記車両の前輪に作用する荷重と前記車両の後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後周波数特性比と、前記車両の左輪に作用する荷重と前記車両の右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右周波数特性比とを算出する周波数特性比算出部と、
前記前後周波数特性比及び前記左右周波数特性比に基づいて、前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出する荷重比算出部と、
前記前後荷重比及び前記左右荷重比に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪に対し、前記車両に含まれる車輪間での相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出する輪荷重算出部と
を備え、
前記周波数特性比算出部は、
前記前後周波数特性比として、前記前輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記後輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するとともに、前記左右周波数特性比として、前記左輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記右輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出し、
前記荷重比算出部は、
前記算出された2以上の前後ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記前後荷重比を算出するとともに、前記算出された2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記左右荷重比を算出する、
輪荷重推定装置。
【請求項2】
走行中の前記車両の総重量を算出する総重量算出部
をさらに備え、
前記輪荷重算出部は、前記特定された車両の総重量と前記輪荷重比とに基づいて、前記輪荷重を算出する、
請求項1に記載の輪荷重推定装置。
【請求項3】
前記輪荷重算出部は、前記車両に含まれる各車輪に対し、前記輪荷重比を算出する、
請求項1または2に記載の輪荷重推定装置。
【請求項4】
前記周波数特性比算出部は、前記前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数帯において算出するとともに、前記左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数帯において算出する、
請求項1または2に記載の輪荷重推定装置。
【請求項5】
1または複数のコンピュータにより実行される、車両の輪荷重を推定する輪荷重推定方法であって、
前記車両に装備されている車輪速センサから前記車両に含まれる各車輪の車輪速情報を取得するステップと、
前記車輪速情報に基づいて、前記車両の前輪に作用する荷重と前記車両の後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後周波数特性比を算出するステップと、
前記車輪速情報に基づいて、前記車両の左輪に作用する荷重と前記車両の右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右周波数特性比とを算出するステップと、
前記前後周波数特性比及び前記左右周波数特性比に基づいて、前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップと、
前記前後荷重比及び前記左右荷重比に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪に対し、前記車両に含まれる車輪間での相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出するステップと
を含み、
前記前後周波数特性比を算出するステップは、前記前輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記後輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、
前記左右周波数特性比を算出するステップは、前記左輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記右輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、
前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップは、前記算出された2以上の前後ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記前後荷重比を算出するとともに、前記算出された2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記左右荷重比を算出するステップである、
輪荷重推定方法。
【請求項6】
車両の輪荷重を推定する輪荷重推定プログラムであって、
前記車両に装備されている車輪速センサから前記車両に含まれる各車輪の車輪速情報を取得するステップと、
前記車輪速情報に基づいて、前記車両の前輪に作用する荷重と前記車両の後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後周波数特性比を算出するステップと、前記車両の左輪に作用する荷重と前記車両の右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右周波数特性比を算出するステップと、
前記前後周波数特性比及び前記左右周波数特性比に基づいて、前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップと、
前記前後荷重比及び前記左右荷重比に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪に対し、前記車両に含まれる車輪間での相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出するステップと
を1または複数のコンピュータに実行させ、
前記前後周波数特性比を算出するステップは、前記前輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記後輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、
前記左右周波数特性比を算出するステップは、前記左輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記右輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、
前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップは、前記算出された2以上の前後ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記前後荷重比を算出するとともに、前記算出された2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記左右荷重比を算出するステップである、
輪荷重推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に含まれる車輪の輪荷重を推定する輪荷重推定装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を適切に走行させるために、車両には各種制御システムが搭載されている。このような制御システムにおいては、各車輪の輪荷重が制御パラメータとして使用されることがあるため、これらを精度よく推定することが求められることがある。例えば、ブレーキ自動制御システムでは、各車輪の輪荷重に応じて、適当な制動力を配分するものがある。
【0003】
特許文献1は、各車輪の車輪速情報に基づいて各車輪の輪荷重を推定する技術を開示する。特許文献1によれば、回転する車輪の加速度の周波数スペクトルのゲインは、輪荷重の変化に伴って変化する。同じ積載条件下では、前輪二輪のゲイン積分値と後輪二輪のゲイン積分値とは概ね線形関係にあり、両者の比(前後周波数特性比)は、概ね一定となる。一方で、輪荷重は、前後周波数特性比に依存する。また、車両の左右輪についても同様の関係が成り立つ。特許文献1は、このことを利用して、前後輪の周波数スペクトルのゲイン積分値の比、左右輪の周波数スペクトルのゲイン積分値の比に基づいて前後荷重比及び左右荷重比を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らによれば、車輪の加速度の周波数スペクトルのゲインは、輪荷重の変化に対し、全周波数帯において一律に変化するわけではない。すなわち、周波数スペクトルのゲインは、周波数帯によっては輪荷重の変化に対して比較的変化が小さかったり、輪荷重の変化に対して他の周波数帯とは逆の方向に変化したりする場合がある。特許文献1ではこの点が考慮されていないため、輪荷重推定の精度向上の余地が残されている。
【0006】
本発明は、簡易な装備で精度よく輪荷重を推定することができる輪荷重推定装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点に係る輪荷重推定装置は、車両の輪荷重を推定する輪荷重推定装置であって、車輪速取得部と、周波数特性比算出部と、荷重比算出部と、輪荷重算出部とを備える。車輪速取得部は、前記車両に装備されている車輪速センサから前記車両に含まれる各車輪の車輪速情報を取得する。周波数特性比算出部は、前記車輪速情報に基づいて、前記車両の前輪に作用する荷重と前記車両の後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後周波数特性比と、前記車両の左輪に作用する荷重と前記車両の右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右周波数特性比とを算出する。荷重比算出部は、前記前後周波数特性比及び前記左右周波数特性比に基づいて、前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出する。輪荷重算出部は、前記前後荷重比及び前記左右荷重比に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪に対し、前記車両に含まれる車輪間での相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出する。前記周波数特性比算出部は、前記前後周波数特性比として、前記前輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記後輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するとともに、前記左右周波数特性比として、前記左輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記右輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出する。前記荷重比算出部は、前記算出された2以上の前後ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記前後荷重比を算出するとともに、前記算出された2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記左右荷重比を算出する。
【0008】
本発明の第2観点に係る輪荷重推定装置は、第1観点に係る輪荷重推定装置であって、走行中の前記車両の総重量を特定する総重量算出部をさらに備え、前記輪荷重算出部は、前記特定された車両の総重量と前記輪荷重比とに基づいて、前記輪荷重を算出する。
【0009】
本発明の第3観点に係る輪荷重推定装置は、第1観点または第2観点に係る輪荷重推定装置であって、前記輪荷重算出部は、前記車両に含まれる各車輪に対し、前記輪荷重比を算出する。
【0010】
本発明の第4観点に係る輪荷重推定装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係る輪荷重推定装置であって、前記周波数特性算出部は、前記前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数帯において算出するとともに、前記左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数帯において算出する。
【0011】
本発明の第5観点に係る輪荷重推定方法は、1または複数のコンピュータにより実行される車両の輪荷重を推定する輪荷重推定方法であって、以下のステップを含む。また、本発明の第6観点に係る輪荷重推定プログラムは、車両の輪荷重を推定する輪荷重推定プログラムであって、以下のステップを1または複数のコンピュータに実行させる。
(1)前記車両に装備されている車輪速センサから前記車両に含まれる各車輪の車輪速情報を取得するステップ
(2)前記車輪速情報に基づいて、前記車両の前輪に作用する荷重と前記車両の後輪に作用する荷重との比である前後荷重比の変化に伴って変化する前後周波数特性比を算出するステップ
(3)前記車輪速情報に基づいて、前記車両の左輪に作用する荷重と前記車両の右輪に作用する荷重との比である左右荷重比の変化に伴って変化する左右周波数特性比とを算出するステップ
(4)前記前後周波数特性比及び前記左右周波数特性比に基づいて、前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップ
(5)前記前後荷重比及び前記左右荷重比に基づいて、前記車両の少なくとも1つの車輪に対し、前記車両に含まれる車輪間での相対的な輪荷重を表す輪荷重比を算出するステップ。
なお、(2)前記前後周波数特性比を算出するステップは、前記前輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記後輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である前後ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、(3)前記左右周波数特性比を算出するステップは、前記左輪の加速度の周波数スペクトルのゲインと前記右輪の加速度の周波数スペクトルのゲインとの比である左右ゲイン比を、2以上の特定の周波数において算出するステップであり、(4)前記前後荷重比及び前記左右荷重比をそれぞれ算出するステップは、前記算出された2以上の前後ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記前後荷重比を算出するとともに、前記算出された2以上の左右ゲイン比を、互いに異なる重み付けで線形結合することにより前記左右荷重比を算出するステップである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な装備で精度よく輪荷重を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る輪荷重推定装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図2】輪荷重推定装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図3A】2つの荷重条件下での前輪の加速度の周波数スペクトルのグラフ。
【
図3B】2つの荷重条件下での後輪の加速度の周波数スペクトルのグラフ。
【
図4】2つの荷重条件下での加速度の周波数スペクトルのグラフの一例。
【
図5A】2つの荷重条件下で前輪二輪のゲイン積分値と後輪二輪のゲイン積分値との近似的な関係を示すグラフ。
【
図5B】2つの荷重条件下で左輪二輪のゲイン積分値と右輪二輪のゲイン積分値との近似的な関係を示すグラフ。
【
図6】前後(左右)周波数特性比と前後(左右)荷重比との近似的な関係を示すグラフ。
【
図7B】各周波数におけるゲインと、これに対応する重み係数の例を説明する図。
【
図8】輪荷重推定処理の流れを示すフローチャート。
【
図9A】FL輪について、実施例及び比較例に係る輪荷重推定の誤差を示すグラフ。
【
図9B】FR輪について、実施例及び比較例に係る輪荷重推定の誤差を示すグラフ。
【
図9C】RL輪について、実施例及び比較例に係る輪荷重推定の誤差を示すグラフ。
【
図9D】RR輪について、実施例及び比較例に係る輪荷重推定の誤差を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る輪荷重推定装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0015】
<1.輪荷重推定装置の構成>
図1は、本実施形態に係る輪荷重推定装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。輪荷重推定装置2は、これらの車輪FL,FR,RL,RRに作用する輪荷重を推定する機能を備える。推定された輪荷重のデータは、車両1の走行を補助する各種制御に利用される。例えば、推定された輪荷重のデータは、ブレーキ制御システムに送信され、ブレーキ制御に利用される。また、推定された輪荷重のデータは、車輪FL,FR,RL,RRに装着されているタイヤの空気圧監視システム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)等に送信され、タイヤの減圧判定に利用される。TPMSでは、推定された輪荷重のデータに基づいてタイヤの減圧が検出された場合に、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行うことができる。TPMSには、タイヤの動荷重半径の変化からタイヤの減圧を判定する方式があるが、タイヤの動荷重半径は、タイヤの減圧だけでなく、輪荷重の影響も受ける。従って、この方式が採用される場合、推定された輪荷重のデータに基づいて、タイヤの動荷重半径から輪荷重の影響をキャンセルすることにより、精度よくタイヤの減圧を判定することができる。また、推定された輪荷重のデータに基づいて車両1の過積載や偏積載を検出することもでき、これが検出された場合に、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行うことができる。過積載とは、車両1に許容積載量を超える荷重が積載されている状態であり、偏積載とは、車両1内の荷重が局所的に偏った状態を意味する。
【0016】
本実施形態では、車輪FL,FR,RL,RRに作用する輪荷重は、車輪FL,FR,RL,RRの車輪速(回転速度)に基づいて推定される。車輪FL,FR,RL,RRには、各々、車輪速センサ6が装備されており、車輪速センサ6は、所定のサンプリング周期ΔTで自身の取り付けられた車輪の車輪速を表す情報(以下、車輪速情報という)を検出する。車輪速センサ6は、輪荷重推定装置2に通信線5を介して接続されており、各車輪速センサ6で検出された車輪速情報は、リアルタイムに輪荷重推定装置2に送信される。
【0017】
車輪速センサ6としては、走行中の車輪FL,FR,RL,RRの車輪速を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、車輪速の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0018】
本実施形態では、一方の駆動輪である左前輪に、ホイールトルクセンサ(以下、WTセンサという)7が装備されている。WTセンサ7は、車両1のホイールトルクを検出する。WTセンサ7は、輪荷重推定装置2に通信線5を介して接続されており、WTセンサ7で検出されたホイールトルクの情報は、リアルタイムに輪荷重推定装置2に送信される。
【0019】
WTセンサ7としては、車両1の駆動輪のホイールトルクを検出できる限り、その構造も取り付け位置も特に限定されない。WTセンサとしては、様々な種類のものが市販されており、その構成については周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、WTセンサ7によらず、ホイールトルクを検出することも可能であり、例えば、エンジンの制御装置から得られるエンジントルクからホイールトルクを推定することもできる。
【0020】
図2は、輪荷重推定装置2の電気的構成を示すブロック図である。
図2に示されるとおり、輪荷重推定装置2は、車両1に搭載されている制御ユニット(車載コンピュータ)であり、I/Oインターフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインターフェース11は、車輪速センサ6、警報表示器3、WTセンサ7等の外部装置との通信を行うための通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9は、CD-ROM等の記憶媒体8からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に車輪速取得部21、トルク取得部22、総重量算出部23、周波数特性比算出部24、荷重比算出部25及び輪荷重算出部26として動作する。各部21~26の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0021】
警報表示器3は、タイヤの減圧や過積載、偏積載等が起きている旨をユーザに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子や液晶モニター等、任意の態様で実現することができる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(輪荷重推定装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0022】
<2.輪荷重推定の原理>
以下、図を参照しつつ、車輪FL,FR,RL,RRの輪荷重を推定するための輪荷重推定処理の原理について説明する。本処理による輪荷重の推定のアルゴリズムは、回転する車輪の周波数特性に基づく。より具体的に説明すると、回転する車輪の周波数特性は、車輪に作用する荷重、すなわち輪荷重の変化に伴って変化する。車輪の輪荷重が大きくなると、路面と接触する面積が増大し、車輪に装着されているタイヤが路面から受ける力が大きくなる。また、タイヤのサイドウォール部におけるバネの弾性エネルギーが増大する。一方、車輪の輪荷重が小さくなると、路面に接触する面積が減少し、タイヤが路面から受ける力は小さくなる。また、タイヤのサイドウォール部におけるバネの弾性エネルギーは減少する。車輪の周波数特性は、輪荷重の変化に伴う、このような現象により変化する。
【0023】
図3Aは、前輪の加速度(回転加速度)の周波数スペクトルのグラフであり、車両1にドライバー1名が乗車した場合(1名乗車)と、ドライバー1名の乗車に加えて車両1の後方に荷重を偏積した場合(後偏積)のゲインを示している。
図3Bは、後輪の加速度(回転加速度)の周波数スペクトルのグラフであり、1名乗車の場合及び後偏積の場合のゲインを示している。これらの図に示すように、輪荷重の変化によってゲインの大きさが変化する。ただし、この例はフロントエンジン車に関するものであるため、後偏積の条件は前輪のゲインに余り影響しない。
【0024】
これらの図は、輪荷重の大きい車輪に対応する周波数スペクトルは大きく、輪荷重の小さい車輪に対応する周波数スペクトルは小さくなる一般的傾向を示している。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、上記傾向が周波数帯によって変化し得ることを見出した。つまり、ある車輪の輪荷重が大きくなるような積載条件1と、同車輪の輪荷重が小さくなるような積載条件2とで、周波数スペクトル及びゲインは、全周波数帯において一律に変化しないことがある。
図4は、このことを説明する図である。
図4に示す例では、第1の周波数帯では積載条件2におけるゲインがより大きく、第2の周波数帯では積載条件1におけるゲインがより大きく、第3の周波数帯では積載条件によるゲインへの影響が少ない。このため、周波数スペクトルの全周波数帯でゲインを積分したゲイン積分値の変化は、実際には輪荷重の変化を適切に反映していない場合がある。
【0025】
従って、同じ積載条件下における前輪二輪のゲイン積分値と後輪二輪のゲイン積分値との間に仮定される近似的な線形関係(
図5A参照)と、これらゲイン積分値の比と前後荷重比(本実施形態では、前輪二輪の輪荷重の和と、後輪二輪の輪荷重の和との比)との間に仮定される近似的な線形関係(
図6参照)とを利用して輪荷重比を推定する方法では、輪荷重推定の精度が低下する可能性がある。以上のことは、同じ積載条件下における左輪二輪のゲイン積分値と右輪二輪のゲイン積分値との間に仮定される近似的な線形関係(
図5B参照)と、これらゲイン積分値の比と左右荷重比(本実施形態では、左輪二輪の輪荷重の和と、右輪二輪の輪荷重の和との比)との間に仮定される近似的な線形関係とを利用して輪荷重比を推定する場合にも当てはまる。なお、本発明者らの検討によれば、輪荷重変化に伴う周波数スペクトルの変化度合いは、同じタイヤであっても、車輪速や車両1が走行する路面によっても変化し得る。
【0026】
発明者らは、上記課題に対処すべく、各輪の輪荷重が判明している場合に、様々な路面を走行して取得された車輪速の多数のデータに基づいて、輪荷重の変化に伴う変化がより顕著である(つまり、輪荷重推定により適した)加速度の周波数スペクトルの周波数帯を特定した。より詳細には、まず、車両1に装備された各輪の車輪速センサ6の車輪速情報に基づき、所定時間(30秒)分の車輪速情報について、10秒間隔ごとに高速フーリエ変換(FFT)を行い、加速度の周波数スペクトルを導出した。続いて、各輪の周波数スペクトルから0.2Hzごとにゲインを算出し、これらのゲインに基づいて、前輪二輪のゲインと後輪二輪のゲインとの比である前後ゲイン比、ならびにFL輪のゲインとFR輪のゲインとの比、及びRL輪のゲインとRR輪のゲインとの比である2種類の左右ゲイン比(以下、これら左右ゲイン比を第1左右ゲイン比及び第2左右ゲイン比とも称する)を、0.2Hzごとに算出した(
図7A参照)。
【0027】
さらに、前後ゲイン比ならびに第1及び第2左右ゲイン比のそれぞれについて主成分分析を行い、前後ゲイン比については前後荷重比との、第1及び第2左右ゲイン比については、それぞれFL輪とFR輪との荷重比である第1左右荷重比及びRL輪とRR輪との荷重比である第2左右荷重比との相関がより強いと考えられる2つの周波数帯を特定した(
図7B参照)。つまり、0.2Hz刻みの各周波数における前後ゲイン比について、主成分を構成する前後ゲイン比の重みの絶対値が最も大きい周波数が含まれる2つの周波数帯F1及びF2を特定した。同様に、0.2Hz刻みの各周波数における第1左右ゲイン比について、主成分を構成する第1左右ゲイン比の重みの絶対値がピークとなる周波数が含まれる周波数帯F3及びF4を、0.2Hz刻みの各周波数における第2左右ゲイン比について、主成分を構成する第2左右ゲイン比の重みの絶対値がピークとなる周波数が含まれる周波数帯F5及びF6を、それぞれ特定した。これにより、前後ゲイン比、第1左右ゲイン比及び第2左右ゲイン比のそれぞれについて、
図4における第1の周波数帯及び第2の周波数帯に対応する、少なくとも2つの周波数帯が特定される。
【0028】
ここで、周波数帯F1における前輪二輪のゲイン積分値と、後輪二輪のゲイン積分値との比を前後ゲイン比R1、周波数帯F2における前輪二輪のゲイン積分値と、後輪二輪のゲイン積分値との比を前後ゲイン比R2とする(以下、前後ゲイン比R1,R2をまとめて前後周波数特性比と称することがある)。前後周波数特性比及び前後荷重比L1との多数のデータセットに基づき、前後荷重比L1を目的変数、前後ゲイン比R1,R2を共に説明変数として重回帰分析を行うと、輪荷重推定に最適化された前後ゲイン比R1,R2の重み付けの係数a,bが特定される。すなわち、以下のように、前後荷重比L1を、互いに異なる重み付けをされた前後ゲイン比R1,R2の線形結合で表すことができる。
L1=a・R1+b・R2 (1)
【0029】
なお、前輪二輪、後輪二輪のゲイン積分値とは、それぞれ、前輪二輪、後輪二輪の加速度のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値の平均または和としても、前輪二輪、後輪二輪の平均車輪速の加速度のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値としても、前輪二輪の車輪速の差のゲイン、及び後輪二輪の車輪速の差のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値としてもよい。
【0030】
同様に、周波数帯F3におけるFL輪のゲイン積分値と、FR輪のゲイン積分値との比を左右ゲイン比R3、周波数帯F4におけるFL輪のゲイン積分値と、FR二輪のゲイン積分値との比を左右ゲイン比R4とする。同様に、周波数帯F5におけるRL輪のゲイン積分値と、RR輪のゲイン積分値との比を左右ゲイン比R5、周波数帯F6におけるRL輪のゲイン積分値と、RR輪のゲイン積分値との比を左右ゲイン比R6とする(以下、左右ゲイン比R3,R4,R5及びR6をまとめて左右周波数特性比と称することがある)。左右周波数特性比R3,R4及び第1左右荷重比L2との多数のデータセットに基づき、第1左右荷重比L2を目的変数、左右ゲイン比R3,R4を共に説明変数として重回帰分析を行うと、輪荷重推定に最適化された左右ゲイン比R3,R4の重み付けの係数c,dが特定される。また、左右周波数特性比R5,R6及び第2左右荷重比L3との多数のデータセットに基づき、第2左右荷重比L3を目的変数、左右ゲイン比R5,R6を共に説明変数として重回帰分析を行うと、輪荷重推定に最適化された左右ゲイン比R5,R6の重み付けの係数e,fが特定される。すなわち、以下のように、第1左右荷重比L2を、互いに異なる重み付けをされた左右ゲイン比R3,R4の線形結合で表し、第2左右荷重比L3を、互いに異なる重み付けをされた左右ゲイン比R5,R6の線形結合で表すことができる。
L2=c・R3+d・R4 (2)
L3=e・R5+f・R6 (3)
【0031】
以上の手法によれば、前後荷重比、及び左右荷重比それぞれの変化に伴って、より顕著に変化する前後周波数特性比及び左右周波数特性比を用いて前後荷重比及び左右荷重比を推定することができ、また、輪荷重の増加に対して負の相関がある場合をも考慮することができる。なお、上記で特定される周波数帯F1~F6は、主成分を構成する前後ゲイン比及び左右ゲイン比の重みの絶対値がピークとなる周波数とすることもできる。しかし、輪荷重推定の安定性の観点からは、F1~F6を所定の幅を持った周波数帯と定めることが好ましい。また、上記例では左右周波数特性比及び左右ゲイン比の関係を、FL輪及びFR輪の組、ならびにRL輪及びRR輪の組について区別して特定したが、左右周波数特性比及び左右ゲイン比の関係を前後で区別せずに特定してもよい。反対に、上記例では前後周波数特性比及び前後ゲイン比の関係を左右で区別することなく特定したが、前後周波数特性比及び前後ゲイン比の関係を、FL輪及びRL輪の組、ならびにFR輪及びRR輪の組について、それぞれ特定してもよい。さらに、FL輪及びRR輪の組、ならびにFR輪及びRL輪の組について、左右周波数特性比及び左右ゲイン比の関係ならびに前後周波数特性比及び前後ゲイン比の関係を特定してもよい。以下、これらの知見に基づく輪荷重推定処理のアルゴリズムについて説明する。
【0032】
なお、左右周波数特性比及び左右ゲイン比の関係を前後で区別せずに特定する場合、左右ゲイン比は、左輪二輪、右輪二輪のゲイン積分値の比となる。左輪二輪、右輪二輪のゲイン積分値とは、それぞれ、左輪二輪、右輪二輪の加速度のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値の平均または和としても、左輪二輪、右輪二輪の平均車輪速の加速度のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値としても、左輪二輪の車輪速の差のゲイン、及び右輪二輪の車輪速の差のゲインを所定の周波数帯で積分した積分値としてもよい。
【0033】
<3.輪荷重推定処理>
図8は、車輪FL,FR,RL,RRの輪荷重を推定するための輪荷重推定処理の流れを示すフローチャートである。
図8に示す輪荷重推定処理は、例えば、車両1の走行が開始したときに開始し、走行が停止したときに終了する。以下の処理のため周波数帯F1~F4を特定する情報及び重み係数a~dは、車両1について、予め多数のデータセットに基づいて特定され、記憶装置15またはROM13に保存されているものとする。
【0034】
まず、車輪速取得部21が、車輪速センサ6から車輪速情報を取得する(ステップS1)。車輪速取得部21は、取得した車輪速情報をRAM14に一時保存するまたは記憶装置15に保存する。また、車輪速取得部21は、車輪速情報を、それぞれ車輪FL,FR,RL,RRの車輪速であるV1~V4に換算する。
【0035】
続いて、トルク取得部22が、WTセンサ7の出力信号を取得する(ステップS2)。トルク取得部22は、取得したWTセンサ7の出力信号をRAM14に一時保存するまたは記憶装置15に保存する。また、トルク取得部22は、WTセンサ7の出力信号をホイールトルクに換算する。
【0036】
続いて、総重量算出部23が、現在の車両1の総重量(重量)Mを算出する(ステップS3)。本実施形態では、以下の運動方程式に基づいて、総重量Mが算出される。下式中、WTは、ステップS2で導出されたホイールトルクである。αは、車両1の加速度であり、車輪速V1~V4から算出される。gは、重力加速度であり、θは、路面勾配である。θは、例えば、車両1に搭載されているGPS(位置測位センサー)のデータから算出することができる。
WT=Mα+Mg・sinθ
【0037】
なお、車両1の総重量Mの推定方法については様々な方法が知られているため、ここではこれ以上の詳細な説明は省略するが、より理解を深めるためには、例えば、本出願人の特許5346659号、特許4926258号等を参照することができる。
【0038】
続いて、周波数特性比算出部24が、車輪速V1~V4の波形信号のフィルタリングを行う(ステップS4)。具体的には、周波数特性比算出部24は、車輪速V1~V4の時系列データを所定の周波数成分を通過させるフィルタに通し、各々の時系列データから所定の周波数帯F1及びF2の周波数成分を抽出する。同様に、周波数特性比算出部24は、車輪速V1~V4の時系列データを所定の周波数成分を通過させるフィルタに通し、各々の時系列データから所定の周波数帯F3~F6の周波数成分を抽出する。このフィルタリング処理は、車輪速V1~V4の時系列データをそれぞれ時間微分した、加速度A1~A4の時系列データについて行われてもよい。A1~A4は、それぞれ車輪FL,FR,RL,RRの回転加速度である。
【0039】
続いて、周波数特性比算出部24が、ステップS4で抽出された周波数帯F1~F6の各時系列データの周波数解析を行い、周波数帯F1~F6におけるゲイン積分値を算出する(ステップS5)。まず、周波数特性比算出部24は、ステップS4でフィルタリングされた後の各時系列データについて、パーセバルの定理を適用し、周波数帯F1~F6に対するゲインを導出する。この導出は、ステップS4を省略した車輪速V1~V4の時系列データに対する高速フーリエ変換処理、自己回帰モデルによる時系列推定、及び時系列データの分散等から行うこともできる。続いて、周波数特性比算出部24は、周波数帯F1における前輪二輪のゲイン積分値及び後輪二輪のゲイン積分値、周波数帯F2における前輪二輪のゲイン積分値及び後輪二輪のゲイン積分値を算出する。また、周波数帯F3におけるFL輪のゲイン積分値及びFR輪のゲイン積分値、周波数帯F4におけるFL輪のゲイン積分値及びFR輪のゲイン積分値、周波数帯F5におけるRL輪のゲイン積分値及びRR輪のゲイン積分値、及び周波数帯F6におけるRL輪のゲイン積分値及びRR輪のゲイン積分値をそれぞれ算出する。
【0040】
続いて、周波数特性比算出部24が、ステップS5で算出された12のゲイン積分値に基づき、前後周波数特性比として前後ゲイン比R1,R2を、前後周波数特性比として左右ゲイン比R3~R6を、それぞれ算出する(ステップS6)。
【0041】
続いて、荷重比算出部25が、記憶装置15またはROM13から係数a~fを読み出し、既に説明した(1)~(3)に基づいて、前後荷重比L1、第1左右荷重比L2及び第2左右荷重比L3を算出する(ステップS7)。
【0042】
続いて、輪荷重算出部26が、前軸荷重比x及び後軸荷重比yを算出し、x及びyに基づいて輪荷重比LFL、LFR、LRL、LRRを算出する(ステップS8)。前軸荷重比xとは、前輪二輪の輪荷重の和が車両1の総重量Mに占める割合である。後軸荷重比yは、後輪二輪の輪荷重の和が車両1の総重量Mに占める割合である。x及びyは、以下の式により算出される。
x=1/(1+L1)
y=1-x=L1/(1+L1)
【0043】
また、ここで算出される輪荷重比LFL、LFR、LRL、LRRとは、それぞれ車輪FL,FR,RL,RR間での相対的な輪荷重を表す指標である。本実施形態の輪荷重比LFL、LFR、LRL、LRRは、それぞれ車輪FL,FR,RL,RRの輪荷重が車両1の総重量Mに占める割合として定義され、下式に従って算出される。
LFL=x/(1+L2)
LFR==x-LFL
LRL=y/(1+L3)
LRR==y-LRL
【0044】
続いて、輪荷重算出部26が、輪荷重比LFL、LFR、LRL、LRRと車両1の総重量Mとにより、下式に従って、車輪FL,FR,RL,RRの輪荷重を算出する(ステップS9)。
FL輪:M×LFL
FR輪:M×LFR
RL輪:M×LRL
RR輪:M×LRR
【0045】
以上により、輪荷重推定処理は終了する。しかし、輪荷重推定装置2は、ステップS8で算出された輪荷重比及びステップS9で算出された輪荷重の少なくとも一方に基づいて、過積載や偏積載が生じていないかをさらに判定してもよい。過積載及び偏積載の少なくとも一方が生じていると判定される場合、輪荷重推定装置2は、警報を生成し、警報表示器3を介してこれを出力するように構成されてもよい。
【0046】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0047】
(1)
上記実施形態では、輪荷重比LFL、LFR、LRL、LRR及び車両1の総重量Mを用いて各車輪の輪荷重を算出したが、輪荷重比のみが必要とされる場合は、ステップS2,S3及びS9を省略することもできる。
【0048】
(2)
上記実施形態に係るタイヤの輪荷重推定装置は、四輪車両において駆動方式に限られることはなく、FF車両、FR車両、MR車両、4WD車両のいずれにも適用することができる。さらに、四輪車両に限られず、三輪車両又は六輪車両などにも適用することができる。
【0049】
(3)
上記実施形態では、輪荷重比及び輪荷重を各車輪に対して算出したが、これらを車輪FL,FR,RL,RRの一部に対してのみ算出してもよい。
【0050】
(4)
上記実施形態では、特定の周波数帯を2つ決定したが、特定の周波数帯は3つ以上であってもよく、前後荷重比L1、第1左右荷重比L2及び第2左右荷重比L3を算出する式(1)~(3)の少なくとも1つにおいて、3つ以上の係数が予め特定されてもよい。
【実施例0051】
<実験条件>
ガソリンハイブリッド式で、サイズ205/50R17のサマータイヤが搭載されたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)四輪車を、表1の様々な積載条件下でアスファルトの路面を走行させた。なお、表1の車両の総重量及び各輪の輪荷重は、タイヤの下に敷いた輪重計により計測した値である。
【表1】
【0052】
<実験結果>
以上の走行時のサンプリングデータに基づいて、上記実施形態に係る輪荷重推定処理により、車両の総重量及び各輪の輪荷重を推定したところ、表2の結果が得られた。表2の各欄の下段には、表1の値に対する推定値との誤差の割合を示す。
【表2】
【0053】
また、同じ荷重条件下で、特許文献1に開示の方法(比較例に係る方法)により車両の総重量及び各輪の輪荷重を推定したところ、表3の結果が得られた。車両の総重量は、実施例と比較例とで共通のアルゴリズムにより推定しているため、データは同一となる。表3の各欄の下段には、表1の値に対する推定値との誤差の割合を示す。
【表3】
【0054】
図9A~9Dは、車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれについて、実施例に係る輪荷重推定結果の誤差と、比較例に係る輪荷重推定結果の誤差とを示すグラフである。以上の結果からは、実施例に係る輪荷重推定処理のアルゴリズムの精度の総合的な高さが確認された。