(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029693
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】電磁機器
(51)【国際特許分類】
H01F 21/08 20060101AFI20240228BHJP
H01F 38/00 20060101ALI20240228BHJP
H01F 27/245 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01F21/08
H01F38/00
H01F27/245 157
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132095
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大日向 敬
(72)【発明者】
【氏名】有松 健司
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB04
5E070BA20
5E070CA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の目的は、無効電力を連続的に制御可能であり、無効電力の制御範囲を拡大すると共に、装置を小型化することができる電磁機器を提供すること。
【解決手段】本発明の1つの実施形態に係る電磁機器は、第1基部磁心21と一対の第1脚磁心22、23と主巻線25とを有する第1鉄心20と、第2基部磁心11と一対の第2脚磁心12、13と制御巻線15とを有する第2鉄心10と、制御巻線に制御電流を供給する制御装置と、を有し、第1及び第2脚磁心の配列方向が相互に直交した状態で、一対の第1及び第2脚磁心の先端が接触し、第1又は第2鉄心における制御巻線15が発生する磁束の磁路にバイアス磁石30が、制御巻線が発生する磁束とバイアス磁石の磁極面が交差するように設けられ、制御装置は、制御巻線15に供給する制御電流を正負に変化させることにより、インダクタンスを連続的に制御することを特徴とする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基部磁心から同一方向に延びる一対の第1脚磁心を有し、主巻線が巻回された積層鋼板からなる第1鉄心と、
第2基部磁心から同一方向に延びる一対の第2脚磁心を有し、制御巻線が巻回された積層鋼板からなる第2鉄心と、
前記制御巻線に制御電流を供給してインダクタンスを制御する制御装置と、
を有し、
前記第1脚磁心の配列方向と前記第2脚磁心の配列方向とが直交した状態で、一対の前記第1脚磁心の先端と一対の前記第2脚磁心の先端とが接触し、
前記第1鉄心又は前記第2鉄心のいずれか一方における前記制御巻線が発生する磁束の磁路にバイアス磁石が、前記制御巻線が発生する磁束と前記バイアス磁石の磁極面が交差するように設けられ、
前記制御装置は、制御巻線に供給する制御電流を正負に変化させることにより、インダクタンスを連続的に制御することを特徴とする電磁機器。
【請求項2】
前記制御電流が零の時に、無効電力が正の初期値を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁機器。
【請求項3】
前記制御電流を負の電流である下限値から正の電流である上限値まで増大させるのに伴い、無効電力が連続的に増加する特性を有することを特徴とする請求項2に記載の電磁機器。
【請求項4】
前記第1鉄心の積層鋼板の積層方向が、前記主巻線の発生する磁束方向と直交しており、
前記接触面における前記第1脚磁心の積層鋼板の積層方向と、前記第2脚磁心の積層鋼板の積層方向とが、同じ方向に整列していることを特徴とする請求項1に記載の電磁機器。
【請求項5】
前記バイアス磁石が、
一対の前記第1脚磁心のそれぞれに、
一対の前記第2脚磁心のそれぞれに、又は、
前記第2基部磁心に、
前記主巻線の発生する磁束が前記バイアス磁石を通過することが無い位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の電磁機器。
【請求項6】
無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上であり、
無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広いことを特徴とする請求項5に記載の電磁機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーの導入拡大が進みつつあり、これら再生可能エネルギーの導入拡大によって、特に配電線を中心とした電力系統において、発電出力の変動に伴う系統電圧の変動や、発電出力が電力系統の需要を上回ることで異なる電力潮流(逆潮流)を発生させ、系統電圧の上昇の要因となる等、電力系統の電力品質低下の要因となっている。このため、電力品質を維持する、低コストで効果的な電圧調整装置が求められている。
【0003】
例えば電力系統に対して電圧調整装置として可変インダクタを並列に接続して無効電力を調整することで、配電線の長さに応じたインピーダンス成分に無効電力を作用させて電圧を調整することができる。可変インダクタとしては、機械的な接点を持たずに、制御電流の調整により主巻線のインダクタンスを連続的に制御する機能を持つ、例えば、特許文献1のような本出願人が先に提案したインダクタンスを可変できる電磁機器が挙げられる。
【0004】
特許文献1の電磁機器は、主巻線と制御巻線をそれぞれ巻回した一対のU形状の鉄心の両脚端面を、互いに90度捩って接触させた構造になっており、主巻線で形成される主磁束と制御巻線で形成される制御磁束が通る磁気回路が直交しており、互いに一方の巻線の磁束は他方の巻線と鎖交しないという特徴を有する。制御磁束は一対の鉄心の接触部で共通の磁路を形成しているため、制御巻線に直流電流または交流電流を流すことにより共通磁路の透磁率を調整でき、他方の主巻線の磁束を制御できる。
【0005】
すなわち、制御巻線へ印加する電圧を制御すると、制御巻線を流れる制御電流による制御磁束が変化するため、主巻線による主磁束の磁路の磁気抵抗が変化し、主巻線を流れる主電流の値が変わる。このため、特許文献1の電磁機器は、主巻線のインダクタンスを可変にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
再生可能エネルギーの発電出力の変動に伴う系統電圧の変動を調整する電圧調整装置に適用する電力用可変インダクタには、無効電力容量を大きくすることが求められる。特許文献1によれば、U形カットコアからなる鉄心の両脚端面を互いに90度捩って接触させた構造によって小型化することができるので、無効電力容量を大きくし易くなる。しかしながら、特許文献1の電磁機器では、主巻線のインダクタンスを可変できる範囲を大きくするためには、鉄心を大きくする、あるいは、制御巻線を流れる制御電流を大きくする必要があるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、無効電力を連続的に制御可能であり、無効電力の可変範囲を拡大すると共に、装置を小型化することができるインダクタンス変化が可能な電磁機器を提供することである。
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成できる。すなわち、本発明の第1の態様の電磁機器は、第1基部磁心から同一方向に延びる一対の第1脚磁心を有し、主巻線が巻回された積層鋼板からなる第1鉄心と、第2基部磁心から同一方向に延びる一対の第2脚磁心を有し、制御巻線が巻回された積層鋼板からなる第2鉄心と、前記制御巻線に制御電流を供給してインダクタンスを制御する制御装置と、を有し、前記第1脚磁心の配列方向と前記第2脚磁心の配列方向とが直交した状態で、一対の前記第1脚磁心の先端と一対の前記第2脚磁心の先端とが接触し、前記第1鉄心又は前記第2鉄心のいずれか一方における前記制御巻線が発生する磁束の磁路にバイアス磁石が、前記制御巻線が発生する磁束と前記バイアス磁石の磁極面が交差するように設けられ、前記制御装置は、制御巻線に供給する制御電流を正負に変化させることにより、インダクタンスを連続的に制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の態様の電磁機器は、第1の態様の電磁機器において、前記制御電流が零の時に、無効電力が正の初期値を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の態様の電磁機器は、第2の態様の電磁機器において、前記制御電流を負の電流である下限値から正の電流である上限値まで増大させるのに伴い、無効電力が連続的に増加する特性を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の態様の電磁機器は、第1の態様の電磁機器において、前記第1鉄心の積層鋼板の積層方向が、前記主巻線の発生する磁束方向と直交しており、前記接触面における前記第1脚磁心の積層鋼板の積層方向と、前記第2脚磁心の積層鋼板の積層方向とが、同じ方向に整列していることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の態様の電磁機器は、第4の態様の電磁機器において、前記バイアス磁石が、一対の前記第1脚磁心のそれぞれに、一対の前記第2脚磁心のそれぞれに、又は、前記第2基部磁心に、前記主巻線の発生する磁束が前記バイアス磁石を通過することが無い位置に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第6の態様の電磁機器は、第5の態様の電磁機器において、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様の電磁機器によれば、制御装置によりインダクタンスを連続的に制御可能であり、インダクタンスの制御範囲を拡大すると共に、装置を小型化することができる。本発明の第1の態様の電磁機器は、第1鉄心又は第2鉄心のいずれか一方における制御巻線が発生する磁束の磁路にバイアス磁石が、制御巻線が発生する磁束とバイアス磁石の磁極面が交差するように設けられ、制御巻線に供給される制御電流を正負に変化させることにより、インダクタンスを連続的に制御することができると共に、インダクタンスの制御範囲を拡大することができる。制御範囲が拡大すれば、装置の単位重量当たりの出力の増加が可能となり、装置の軽量化につながる。
【0016】
また、制御巻線に正負の制御電流を供給する制御装置は、電流容量を小さく抑えることができるため、小型化が可能となる。また、第1鉄心又は第2鉄心からなる構造上の特徴と相まって、装置全体の小型化が可能である。バイアス磁石による磁束が、制御巻線の磁束に加えられるため、制御巻線の巻き数を低減することができる点でも、装置の小型・軽量化に寄与する。また、タップ式電圧調整機器のような機械的な接点を必要としない。さらには、主巻線の入出力電流に対して高次高調波が重畳されることが無いため高調波歪率が少ない。
【0017】
本発明の第2の態様の電磁機器によれば、制御電流が零の時に、無効電力が正の初期値を有することにより、すなわち、制御電流による磁束は、バイアス磁石による磁束と加算されるため、制御電流を低減することが可能となるので、制御装置の消費電力を低減し、制御装置を小型・軽量化することができる。
【0018】
本発明の第3の態様の電磁機器によれば、制御電流に対する無効電力の特性に応じて、制御電流の上限値と下限値を、制御電流を負の電流である下限値から正の電流である上限値まで増大させるのに伴い無効電力が連続的に増加する特性となるように選択されるため、無効電力の制御範囲を大きく設定でき、かつ、制御電流に対する無効電力の特性を直線状として、無効電力を滑らかに連続的に制御することができる。
【0019】
本発明の第4の態様の電磁機器によれば、接触面における第1脚磁心の積層鋼板の積層方向と、第2脚磁心の積層鋼板の積層方向とが、同じ方向に整列していることにより、接触面に絶縁フィルムを挿入する必要が無く、接触面における渦電流の発生を抑制することにより、漏れ磁束の低減や、鉄損の低減等の磁気特性が改善される。
【0020】
本発明の第5の態様の電磁機器によれば、バイアス磁石を選択的に、一対の第1脚磁心のそれぞれに、一対の第2脚磁心のそれぞれに、又は、第2基部磁心に配置することができ、バイアス磁石の配置の自由度を高めることができる。また、バイアス磁石が、主巻線の発生する磁束がバイアス磁石を通過することが無い位置に設けられているので、主巻線に交流磁束が通過し、例えば雷サージ等の想定以上の交流磁束が発生した場合にも、バイアス磁石を消磁・減磁させることを防ぐことができる。
【0021】
例えば、バイアス磁石を一対の第1脚磁心のそれぞれに配置する場合には、第1鉄心の積層鋼板の積層方向と合わせてバイアス磁石を積層配置することができるので、配置し易く、製造工程も簡略化できる。バイアス磁石を一対の第2脚磁心のそれぞれに配置する場合には、接触面からバイアス磁石を、主巻線の発生する磁束が通過する磁路分以上を離して配置することで、主巻線の発生する磁束がバイアス磁石を通過することのない位置にバイアス磁石を配置することができる。また、バイアス磁石を第2基部磁心に配置する場合には、バイアス磁石の数を1個とすることができ、また、主巻線の発生する磁束の磁路から最も遠い位置にバイアス磁石を配置することができる。
【0022】
本発明の第6の態様の電磁機器によれば、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広いというバイアス磁石の厚み等の条件を設定することによって、無効電力の制御範囲が大幅に拡大される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】積層コア内配置タイプ(第1タイプ)の電磁機器の斜視図である。
【
図1B】第1タイプの電磁機器の変形例の斜視図である。
【
図1C】第1タイプの電磁機器の変形例のIC-IC断面図である。
【
図2】制御電流に対するインダクタンスの特性の説明図である。
【
図3】制御電流に対する無効電力の特性の説明図である。
【
図4】カットコア上部タイプ(第2タイプ)の電磁機器の斜視図である
【
図5】カットコア側部配置タイプ(第3タイプ)の電磁機器の斜視図である。
【
図7A】第1タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図7B】第1タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図7C】第1タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図8A】第2タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図8B】第2タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図8C】第2タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図9A】第3タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図9B】第3タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図9C】第3タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。
【
図10】第1タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
【
図11B】
図10の永久磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性である。
【
図11C】
図10の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性である。
【
図12】第2タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
【
図13B】
図12の永久磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性である。
【
図13C】
図12の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性である。
【
図14】第3タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
【
図15B】
図14の永久磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性である。
【
図15C】
図14の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る電磁機器を説明する。但し、以下に示す実施形態は本発明の技術思想を具体化するための電磁機器を例示するものであって、本発明をこれらに特定するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0025】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る電磁機器について、
図1~
図11を参照して説明する。
図1Aは、積層コア内配置タイプ(以下「第1タイプ」という。)の電磁機器の斜視図である。
【0026】
第1タイプの電磁機器は、第1鉄心20及び第2鉄心10を含んでいる。第1鉄心20は略コ字型の鉄心であり、第1基部磁心21、第1基部磁心21から同一方向に延びる一対の第1脚磁心22,23を有する積層鋼板からなる。一対の第1脚磁心の一方22には、主巻線25が巻回されている。端子間には電圧e1が印加され、電流i1が流れる。主巻線25の両端子は電力系統に対して並列に接続されるので、電圧e1としては、電力系統の交流電圧が印加される。主巻線25に電流i1が供給されることによって、第1鉄心20及び第2鉄心10には、磁束φ1が生成される。
【0027】
本実施形態の電磁機器は、電力系統に対して電圧調整装置として使用することができる。本実施形態の電磁機器を電力系統に並列に接続して無効電力を調整することで、配電線の長さに応じたインピーダンス成分に無効電力を作用させて電圧を調整することができる。これによって、再生可能エネルギーの導入拡大によって、特に配電線を中心とした電力系統において、発電出力の変動に伴う系統電圧の変動を調整することができる。本実施形態の電磁機器は、単相分について説明しているが、三相交流系統に対しては、本実施形態の電磁機器を各相に1個、合計3個設けることができる。
【0028】
第1鉄心20の積層鋼板の積層方向は、
図1Aにおける電流i1の矢印の向きとなっており、第1鉄心20の積層鋼板の積層方向は、主巻線25の発生する磁束方向と直交している。一対の第1脚磁心22,23のそれぞれには、第1鉄心20の積層鋼板の積層方向の中央部に、それぞれバイアス磁石として、長方形状で薄板状の永久磁石30が、第1鉄心20の積層鋼板の積層方向と永久磁石30の着磁方向が一致するように設けられている。永久磁石30によって、第1鉄心20及び第2鉄心10には、磁束φPMが生成される。永久磁石30の磁極面は、制御巻線15が発生する磁束φ2と交差するように設けられ、永久磁石30が発生する磁束φPMは、制御巻線15が発生する磁束φ2に加えられるように永久磁石30は配置されている。
【0029】
バイアス磁石としての永久磁石30は、主巻線25の発生する磁束φ1が永久磁石30を通過することが無い位置に設けられている。これにより、永久磁石30が、主巻線25の発生する磁束φ1が永久磁石30を通過することが無い位置に設けられているので、主巻線25に交流磁束が通過し、例えば雷サージ等の想定以上の交流磁束が発生した場合にも、永久磁石30を消磁・減磁させることを防ぐことができる。
【0030】
第2鉄心10は略U字状の鉄心であり、第2基部磁心11、第2基部磁心11から同一方向に延びる一対の第2脚磁心12,13を有する積層鋼板、特に限定されるものではないが例えばカットコアからなる。なお、カットコアは、特に製法を限定するものではないが、例えば、鋼板を矩形、丸形等任意の形状に巻き取って焼鈍後、接着剤で固め任意の箇所を切断・研磨加工することに形成された鉄心である。一対の第2脚磁心の一方12には、制御巻線15が巻回されている。制御巻線15の端子間には電圧e2が印加され、制御電流i2が流れる。制御巻線15には、図示されていない制御装置から、制御電流としての直流電流が供給されている。制御巻線15に制御電流i2が供給されることにより、第1鉄心20及び第2鉄心10に磁束φ2が生成される。
【0031】
第1鉄心20における第1脚磁心22,23の配列方向と、第2鉄心における第2脚磁心12,13の配列方向とが直交した状態で、一対の第1脚磁心22,23の先端と一対の第2脚磁心12,13の先端とが接触しており、この各接触面における第1脚磁心22,23の積層鋼板の積層方向と、第2脚磁心12,13の積層鋼板の積層方向とは、同じ方向に整列している。このように、各接触面において、両者の積層鋼板の積層方向が同じ方向に整列していることにより、接触面に絶縁フィルムを挿入する必要が無く、接触面における渦電流の発生を抑制することにより、漏れ磁束の低減や、鉄損の低減等の磁気特性が改善される。
【0032】
図1Bは、第1タイプの電磁機器の変形例の斜視図である。
図1Bに示された第1タイプの電磁機器の変形例は、
図1Aに示された第1タイプの電磁機器と比べると、第1鉄心20の一対の第1脚磁心22,23に対して、それぞれ主巻線25,26が巻回されていると共に、第2鉄心10の一対の第2脚磁心12,13に対して、それぞれ制御巻線15,16が巻回されている点で相違している。その他の点では、
図1Bに示された第1タイプの電磁機器の変形例は、
図1Aに示された第1タイプの電磁機器と同様であるので、同様の構成に対しては、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0033】
図1Cは、
図1Bの第1タイプの電磁機器の変形例のIC-IC断面図である。
図1Cにおいて、
図1A及び
図1Bと同様の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図1Cにおいては、一対の永久磁石30,31の形状が示されている。第1鉄心20の一対の一対の第1脚磁心22,23に設けられた一対の永久磁石30,31の形状は、
図1Cに示されたとおり、第1鉄心20に沿う形状であるため、
図1Cの断面図においても、一対の永久磁石30,31は、第1鉄心20と完全に重なって描かれている。
【0034】
なお、永久磁石30,31は、制御巻線15,16が発生する磁束φ2と一対の永久磁石30,31の磁極面がそれぞれ交差するように設けられている限りにおいて、永久磁石30,31の形状、大きさは
図1Cに示されたものに限定されるものではなく、例えば永久磁石30,31の角を面取りしたような形状、永久磁石30,31の大きさが第1鉄心20の外径寸法よりも小さくしたもの、永久磁石30,31の高さ方向の寸法が第1鉄心20よりも小さくもの等でもよい。
【0035】
永久磁石30,31は、制御巻線15,16が発生する磁束φ2と一対の永久磁石30,31の磁極面がそれぞれ交差するように設けられていればよいため、第1鉄心20の第1基部磁心21における永久磁石30と永久磁石31との間の部分は積層鋼板が設けられているが、一対の永久磁石30,31の間の積層鋼板の部分は、永久磁石30,31により発生された磁束φPMの磁路とはならず、また、制御巻線15,16により発生された磁束φ2の磁路ともならない。
【0036】
永久磁石30,31を一対の第1脚磁心22,23のそれぞれに配置する場合には、第1鉄心20の積層鋼板の積層方向と合わせて永久磁石30,31を積層配置することができるので、配置し易く、製造工程も簡略化できる。ここでは、
図1Cを変形例として説明したが、
図1Aの永久磁石30,31についても、
図1Cと同様の配置・形状となっている。
【0037】
永久磁石としては、特に限定されるものではないが、ネオジウム焼結磁石、ネオジウムボンド磁石、又はフェライト磁石等を用いることができ、保磁力が高く、さらに電磁振動による衝撃に耐えられるだけの強度を有することが求められる。特に限定されるものではないが、永久磁石の保磁力の範囲を例示する。
ネオジウム焼結磁石(Nd-Fe-B焼結磁石)の保磁力
保磁力HcJ最小値 876~2786kA/m
保磁力HcB最小値 716~1035kA/m
(https://www.san-s-separator.co.jp/sans/products/neodymium/参照)
ネオジウム射出成形磁石の磁気特性の保磁力
保磁力HcJ最小値 480~1035A/m
保磁力HcB最小値 120~335kA/m
(http://www.chaosgro.com/Japanese/user_data/bonded_neodymium_property.asp参照)
ネオジウム圧縮成形磁石の磁気特性
保磁力HcJ最小値 520~1190A/m
保磁力HcB最小値 285~445kA/m
(http://www.chaosgro.com/Japanese/user_data/bonded_neodymium_property.asp参照)
フェライト磁石の磁気特性
保磁力HcJ最小値 238~279A/m
保磁力HcB最小値 143~175kA/m
(http://www.tp-mag.com/jishaku.html参照)
【0038】
図2は、制御電流に対するインダクタンス(主コイル25の両端間のインダクタンス、以下同様)の特性の説明図である。バイアス磁石を備えていない従来の電磁機器では、制御電流を例えば零から正方向に増やしていくと、インダクタンスが減少するので、インダクタンスをL0の範囲で制御していた。これに対して、本実施形態の電磁機器では、制御装置によって制御電流を正負にわたって制御することにより、主巻線25のインダクタンスの制御範囲は従来よりも広いL1の範囲とすることができる。
【0039】
図3は、制御電流に対する無効電力(主コイル25の両端間における無効電力、以下同様)の特性の説明図である。本実施形態の電磁機器の主巻線25の両端子を電力系統に対して並列に接続し、電力系統の電圧変動を調整する場合について説明する。破線が従来のバイアス磁石無しの電磁機器の無効電力特性、実線がバイアス磁石を有する本実施形態の電磁機器の無効電力特性である。従来のバイアス磁石無しの電磁機器の無効電力特性では、制御電流は零から正方向に増やされ、それに応じてインダクタンスがL0の範囲で減少するのに連れて、無効電力はP0の範囲で増大していく。制御電流が零の時、無効電力C0は、ほぼ零である。
【0040】
これに対して本実施形態では、バイアス磁石としての永久磁石30を有しているため、制御電流が零において、無効電力は正の初期値C1を有している。このため、制御電流による磁束は、バイアス磁石による磁束と加算されるため、制御電流を低減することが可能となるので、制御装置の消費電力を低減し、制御装置を小型・軽量化することができる。
【0041】
制御電流が負の場合には、制御巻線15から永久磁石30の磁束を打ち消す方向の磁束が発生するので、制御電流が零からI0に向けて減少する(負方向の制御電流が増加する)につれて、インダクタンスが大きくなり、無効電力は減少する。制御電流が零の場合には、永久磁石30の磁束に相当する分だけインダクタンスが低減され、相当する無効電力となる初期値C1となる。また、制御電流が正の場合には、制御巻線15から永久磁石30の磁束を強める方向の磁束が発生するので、制御電流が零から上限値Imaxに向けて増大する(正方向の制御電流が大きくなる)につれてインダクタンスは小さくなり、無効電力が大きくなる。
【0042】
制御電流は負の電流である下限値I0から、制御電流が零を通り、正の電流である上限値Imaxまで増大させるのに伴い、無効電力が連続的に、直線状に増加する特性を有している。下限値I0において無効電力は、ほぼ零であり、制御電流が零において無効電力は初期値C1を有しており、制御電流の上限値Imaxにおいて無効電力はP1となるので、無効電力の制御範囲P1はバイアス磁石を有していない従来例の場合の制御範囲P0よりも拡大される。
【0043】
これにより、制御電流に対する無効電力の特性に応じて、制御電流の上限値と下限値を、制御電流を負の電流である下限値I0から正の電流である上限値Imaxまで増大させるのに伴い、無効電力がP1の範囲で連続的に増加する特性となるように選択されるため、無効電力の制御範囲P1を大きく設定でき、かつ、制御電流に対する無効電力の特性を直線状として、無効電力を滑らかに連続的に制御することができる。
【0044】
図4は、カットコア上部タイプ(以下「第2タイプ」という。)の電磁機器の斜視図である。
図4の第2タイプの電磁機器は、
図1Aの第1タイプの電磁機器と比べると、バイアス磁石としての永久磁石50の配置が、カットコア上部である点で相違している。
図4において、
図1Aと同様の構成には同じ符号を用い、その説明を省略する。永久磁石50は、第2鉄心10の第2基部磁心11の中央部に、永久磁石50の磁極面が制御巻線15が発生する磁束φ2と交差するように設けられている。
【0045】
永久磁石50が発生する磁束φPMは、制御巻線15が発生する磁束φ2に加えられるように永久磁石50は配置されている。また、第2タイプにおいても、永久磁石50は、主巻線25の発生する磁束φ1が永久磁石50を通過することが無い位置に設けられている。
【0046】
図4では、永久磁石50は、第2基部磁心11の断面積と同じ寸法として示されているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば永久磁石50の角を面取りしたような形状、永久磁石50の大きさが第2基部磁心11の断面寸法よりも小さくしたもの等でもよい。また、永久磁石50を第2基部磁心11に配置する場合には、永久磁石50の数を1個とすることができ、また、主巻線25の発生する磁束φ1の磁路から最も遠い位置にバイアス磁石を配置することができる。
【0047】
図5は、カットコア側部配置タイプ(以下「第3タイプ」という。)の電磁機器の斜視図である。
図5の第3タイプの電磁機器は、
図1Aの第1タイプの電磁機器と比べると、バイアス磁石としての永久磁石40,41の配置が、それぞれ一対のカットコア側部である点で相違している。
図5において、
図1Aと同様の構成には同じ符号を用い、その説明を省略する。永久磁石40,41は、第2鉄心10の第2脚磁心12,13に、それぞれ永久磁石40,41の磁極面が制御巻線15が発生する磁束φ2と交差するように設けられている。
【0048】
永久磁石40,41が発生する磁束φPMは、制御巻線15が発生する磁束φ2に加えられるように各永久磁石40,41は配置されている。また、第3タイプの電磁機器においても、永久磁石40,41は、主巻線25の発生する磁束φ1が永久磁石40,41を通過することが無い位置に設けられている。
【0049】
図5では、一対の永久磁石40,41は、それぞれ第2脚磁心12,13の断面積と同じ寸法として示されているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば永久磁石40,41の角を面取りしたような形状、永久磁石40,41の大きさがそれぞれ第2脚磁心12,13の断面寸法よりも小さくしたもの等でもよい。永久磁石40,41を一対の第2脚磁心12,13のそれぞれに配置する場合には、接触面から永久磁石40,41を、主巻線25の発生する磁束φ1が通過する磁路分以上を離して配置することで、主巻線25の発生する磁束φ1が永久磁石40,41を通過することのない位置に永久磁石40,41を配置することができる。
【0050】
図1A、
図4、
図5に示すように、バイアス磁石を選択的に、一対の第1脚磁心のそれぞれに、一対の第2脚磁心のそれぞれに、又は、第2基部磁心に配置することができ、バイアス磁石の配置の自由度を高めることができる
【0051】
図6は、実験モデルの説明図である。
図7Aから
図11Cまでの実験には、
図6の実験モデルを使用した。各部の寸法は次のとおりである。
h1=115mm
h2=100mm
h3=h4=70mm
w2=w4=w6=w8=30mm
w3=w7=40mm
w1=w5=100mm
【0052】
主巻線のターン数=296ターン
制御巻線のターン数=320ターン
主巻線の印加電圧e1=200V、周波数50Hz
電磁機器の容量=1.67kVA
制御電流は、DC -10Aから10A
【0053】
図3で示したように実際には制御装置は、制御電流を負の電流である下限値I0と、正の電流である上限値Imaxとの間で制御しているが、以下
図7Aから
図11Cの実験においては、無効電力の制御電流の変化に対する特性を検討するために、実際に制御装置が使う範囲外の制御電流の範囲外についても測定して、本実施形態の電磁機器の特性を求めた。
【0054】
本実施形態の実験で用いたネオジウム焼結磁石、ネオジウムボンド磁石、及びファライト磁石の特性は、次のとおりである。
ネオジウム焼結磁石(N42H)
保磁力Hc=950kA/m
残留磁束密度Br=1.31T
非透磁率μr=1.10
ネオジウムボンド磁石(NEOBM-9)
保磁力Hc=420kA/m
残留磁束密度Br=0.675T
非透磁率μr=1.28
フェライト磁石(Y30BH)
保磁力Hc=229kA/m
残留磁束密度Br=0.385T
非透磁率μr=1.34
【0055】
図7Aは、第1タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図7Bは、第1タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図7Cは、第1タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。各グラフとも横軸は制御電流であり、縦軸は無効電力であり、永久磁石の厚み(40mm,30mm,20mm,10mm,5mm,2mmなど)を変化させたときの特性図である。
【0056】
図7Aのネオジウム焼結磁石を使用した第1タイプ(積層コア内配置タイプ)の電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となり、
図7Bのネオジウムボンド磁石を使用した第1タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが5mmの場合が好適となり、
図7Cのフェライト磁石を使用した第1タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが10mmの場合が好適となった。
【0057】
好適値の条件としては、最大無効電力が大きいこと、無効電力制御幅が広いこと、及び、無効電力制御倍率(最大無効電力を最小無効電力で除した値)が大きいこと等が挙げられる。これらの好適値の条件について、
図7A、
図7B及び
図7Cにおいて比較すると、表1のようになり、第1タイプの場合には、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmが、最大無効電力が最も大きく、無効電力制御幅が最も広く、かつ、無効電力制御倍率が最も大きいことから、最適であることが分かる。
【表1】
【0058】
第1タイプで、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmのものを採用した場合は、
図7Aより、制御電流を-4Aから10Aまで変化させることにより、無効電力を0.06kVarから2.4kVarまで制御することができる。
【0059】
図8Aは、第2タイプ(カットコア上部タイプ)のネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図8Bは、第2タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図8Cは、第2タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。各グラフとも横軸は制御電流であり、縦軸は無効電力であり、永久磁石の厚み(40mm,30mm,20mm,10mm,5mm,2mmなど)を変化させたときの特性図である。
【0060】
図8Aのネオジウム焼結磁石を使用した第2タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となり、
図8Bのネオジウムボンド磁石を使用した第2タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが5mmの場合が好適となり、
図8Cのフェライト磁石を使用した第2タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となった。
【0061】
好適値の条件について、
図8A、
図8B及び
図8Cにおいて比較すると、表2のようになり、第2タイプの電磁機器の場合には、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmが、最大無効電力が最も大きく、無効電力制御幅が最も広く、かつ、無効電力制御倍率が最も大きいことから、最適であることが分かる。
【表2】
【0062】
第2タイプで、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmのものを採用した場合には、
図8Aより、制御電流を-6Aから10Aまで変化させることにより、無効電力を0.06kVarから2.2kVarまで制御することができる。
【0063】
図9Aは、第3タイプ(カットコア側部配置タイプ)のネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図9Bは、第3タイプのネオジウムボンド磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性であり、
図9Cは、第3タイプのフェライト磁石を用いた電磁機器の無効電力制御特性である。各グラフとも横軸は制御電流であり、縦軸は無効電力であり、永久磁石の厚み(35mm,30mm,20mm,10mm,5mm,2mmなど)を変化させたときの特性図である。
【0064】
図9Aのネオジウム焼結磁石を使用した第3タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となり、
図9Bのネオジウムボンド磁石を使用した第3タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となり、
図9Cのフェライト磁石を使用した第3タイプの電磁機器においては、永久磁石の厚みが2mmの場合が好適となった。
【0065】
好適値の条件について、
図9A、
図9B及び
図9Cにおいて比較すると、表3のようになり、第3タイプの電磁機器の場合には、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmが、最大無効電力が最も大きく、無効電力制御幅が最も広いので、好適であることが分かる。
【0066】
ただし、第3タイプの電磁機器の場合には、ネオジウムボンド磁石では最小無効電力が0.08kVarであり、無効電力制御倍率が最も大きい(無効電力最小値が零に近い)観点から見ると好適であるといえるので、後述のとおり、永久磁石の種類と磁石厚の設定には、最大無効電力が最も大きいという観点に加え、最小無効電力が零に近いという観点から、例えば、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広いこと等の条件が挙げられる。
【表3】
【0067】
第3タイプで、ネオジウム焼結磁石の磁石厚み2mmのものを採用した場合には、
図9A及び表3より、制御電流を-10Aから10Aまで変化させることにより、無効電力を0.3kVarから2.7kVarまで制御することができる。
【0068】
図7A~
図9Cまでの結果について、第1タイプ、第2タイプ及び第3タイプを比較すると、
図7Aの第1タイプにおいてネオジウム焼結磁石の厚み2mmを用いた場合が、制御電流を-4A~10Aまで変化させることにより、無効電力を0.06kVar~2.4kVarまで制御することができ、好適値の条件として、最大無効電力が大きいこと、無効電力制御幅が広いこと、及び、無効電力制御倍率(最大無効電力を最小無効電力で除した値)が大きいことを考慮すると、最も好ましい特性であることが分かる。
【0069】
次に、
図7A~
図9Cまでの結果から、最も好ましい特性であった
図7Aのネオジウム焼結磁石の厚み2mmを用いた場合について、
図10~
図11Cでは、磁石厚み2mm近傍でより詳細に最適値について検討した。
図10は、第1タイプ(積層コア内配置タイプ)のネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
図10において、縦軸は無効電力、横軸は制御電流であり、ネオジウム焼結磁石の厚みを変化させた場合の特性が示されている。
【0070】
図11Aは、
図10の無効電力変化量特性であり、無効電力制御幅を示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図11Bは、
図10のバイアス磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性であり、バイアス磁石無しの場合を基準として、無効電力制御幅がどの程度拡大したかを示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図11Cは、
図10の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性であり、制御電流を-10Aから10Aまでの間で変化させたときの無効電力の上限値を、無効電力の下限値で除した値を示しており、値が大きい方が好ましい特性となる。
【0071】
図11A、
図11B及び
図11Cから最適な特性が得られる永久磁石厚みを検討する。
図11A及び
図11Bで数値が大きい範囲が好ましいので、バイアス磁石なしの場合を基準としたときの無効電力制御幅の増加分は10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上(すなわち
図11Bの1.2以上)を判断基準とする。例えば、20%以上とすると、永久磁石厚みは2mm~5mmが好適値の候補となる。また、
図11Cの数値が大きい方が好ましいので、好適値の判断基準として変化比率は30以上として、0.5mm~2mmが好適値の候補となる。なお、
図11Cの数値は大きい方が好ましいので、好適値の判断基準は例えば30以上とすることができ、より好ましくは40以上とすることができる。好適値の判断基準を40以上とした時には、1.5mm~2.0mmが好適値の候補となる。
【0072】
したがって、
図11A、
図11B及び
図11Cの全ての特性から、好適値を選択すると、2mm~5mm(無効電力制御幅の増加分20%以上)かつ0.5mm~2mm(変化比率30以上)となるため、最適な永久磁石厚みは2mmとなることが分かる。永久磁石厚みは2mmにおいては、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が40倍以上であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも20%以上広いというバイアス磁石の厚み等の条件を設定することによって、無効電力の制御範囲が大幅に拡大される。このように、最適な永久磁石厚みは2mmとなることが分かったが、好適な永久磁石の厚みの範囲はもう少し幅広く設定でき、例えば、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上(変化比率30以上)であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広い(無効電力制御幅の増加分10%以上)として設定してもよく、この基準で選択すると、永久磁石の厚みの範囲は、1mm~2mmとなる。
【0073】
ここでは、
図11A及び
図11Bから好適値を求める基準の一例として、永久磁石なしの場合を基準としたときの無効電力制御幅の増加分が20%以上と設定し、
図11Cから好適値を求める基準として、最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率として、30倍以上と設定したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、
図11Bにおける好適値を求める基準を、特性グラフの最大値から求めるための閾値係数を設定しておき、仮に閾値係数を0.8とした場合には、
図11Bから好適値を求める基準は、
最大値25%×閾値係数0.8=20%(すなわち、1.2)
となる。また、
図11Cから好適値を求める基準を、特性グラフの最大値から求めるための閾値係数を設定しておき、仮に閾値係数を0.8とした場合には、
図11Cから好適値を求める基準は、
最大値43.0×閾値係数0.8=34.4
となる。
図11Bで20%以上増加しているのは、磁石厚み2mm~5mmの範囲であり、また、
図11Cで34.4以上であるのは、磁石厚み0.5mm~2mmの範囲であるから、両者を満たす好適値の範囲は2mmとなり、閾値係数によって求めた好適値の範囲は、先に個別に設定された好適値の基準による求め方で求めた好適地値の範囲と一致する。したがって、閾値係数を用いれば、
図11A及び
図11Cの特性から演算によって、好適な永久磁石の厚みを求めることができるので、好適な永久磁石の厚みなどの選定を自動化することが可能である。
【0074】
なお、本実施形態で閾値係数は0.8に限定されるものではないが、好適な範囲を設定するという観点からは例えば0.5以上とすることが望ましい。閾値係数が0.5の時には、
図11Bから好適値を求める基準は、
最大値25%×閾値係数0.5=12.5%(すなわち、1.125)
となる。また、
図11Cから好適値を求める基準は、
最大値43.0×閾値係数0.5=21.5
となる。また、
図11Bから好適値を求めるための閾値係数と、
図11Cから好適値を求める閾値係数とは異なる値とすることもできる。さまざまな閾値係数が想定できるが、前述のとおり、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上(変化比率30以上)であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広い(無効電力制御幅の増加分10%以上)として設定した範囲が好適値の一つの基準となる。
【0075】
以上、本実施形態によれば、制御装置により無効電力を連続的に制御可能であり、無効電力の制御範囲を拡大すると共に、装置を小型化することができる。本実施形態の電磁機器は、第1鉄心20又は第2鉄心10のいずれか一方における制御巻線15が発生する磁束φ2の磁路にバイアス磁石30,31,40,41,50が、制御巻線15が発生する磁束φ2とバイアス磁石30,31,40,41,50の磁極面が交差するように設けられ、制御巻線15に供給される制御電流i2を正負に変化させることにより、無効電力を連続的に制御することができると共に、無効電力の制御範囲を拡大することができる。制御範囲が拡大すれば、装置の単位重量当たりの出力の増加が可能となり、装置の軽量化につながる。
【0076】
また、制御巻線に正負の制御電流を供給する制御装置は、電流容量を小さく抑えることができるため、小型化が可能となる。また、第1鉄心20又は第2鉄心10からなる構造上の特徴と相まって、装置全体の小型化が可能である。バイアス磁石30,31,40,41,50による磁束が、制御巻線15の磁束φ2に加えられるため、制御巻線15の巻き数を低減することができる点でも、装置の小型・軽量化に寄与する。また、タップ式電圧調整機器のような機械的な接点を必要としない。さらには、主巻線25の入出力電流に対して高次高調波が重畳されることが無いため高調波歪率が少ない。
【0077】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る電磁機器について、
図12~
図13Cを参照して説明する。
図1~11Cと同様の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。第2実施形態では、第2タイプ(カットコア上部配置タイプ)の最適な永久磁石の種類と磁石厚について説明する。
【0078】
表2及び
図8Aより、第2タイプでは、ネオジウム焼結磁石を用いた場合で、磁石厚2mmの場合が好適であることが分かっているので、磁石厚2mmの近傍で最適値について説明する。
【0079】
図12は、第2タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
図12において、縦軸は無効電力、横軸は制御電流であり、ネオジウム焼結磁石の厚みを変化させた場合の特性が示されている。
【0080】
図13Aは、
図12の無効電力変化量特性であり、無効電力制御幅を示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図13Bは、
図12のバイアス磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性であり、バイアス磁石無しの場合を基準として、無効電力制御幅がどの程度拡大したかを示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図13Cは、
図12の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性であり、制御電流を-10Aから10Aまでの間で変化させたときの無効電力の上限値を、無効電力の下限値で除した値を示しており、値が大きい方が好ましい特性となる。
【0081】
図13A、
図13B及び
図13Cから最適な特性が得られる永久磁石厚みを検討する。
図13A及び
図13Bで数値が大きい範囲が好ましいので、バイアス磁石なしの場合を基準としたときの無効電力制御幅の増加分として、例えば10%以上(すなわち
図13Bの1.1以上)を判断基準とすると、永久磁石厚みは2mm~5mmが好適値の候補となる。また、
図13Cの数値が大きい方が好ましいので、好適値の判断基準として変化比率として例えば30以上とすると、2mmが好適値の候補となる。以上のことから、本実施形態では、永久磁石厚みは2mmが最適値であることが分かる。
【0082】
また、好適値を求めるための判断基準としては、例えば、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上(変化比率30以上)であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広い(無効電力制御幅の増加分10%以上)として設定した範囲が好適値の一つの基準となる。
【0083】
第1実施形態で述べた閾値係数を用いた好適値の判断基準を検討する。例えば閾値係数を0.5とした場合、
図13Bから好適値を求める基準は、
最大値10%×閾値係数0.5=0.5%(すなわち、1.05)
となり、磁石厚は2mm~5mmとなる。また、
図13Cから好適値を求める基準は、
最大値34.9×閾値係数0.5=17.45
となり、磁石厚0.5mm~2mmとなる。両者を満たす磁石厚として、2mmが最適値となる。
【0084】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る電磁機器について、
図14~
図15Cを参照して説明する。
図1~13Cと同様の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。第3実施形態では、第3タイプ(カットコア側部配置タイプ)の最適な永久磁石の種類と磁石厚について検討する。
【0085】
表3及び
図9Aより、第3タイプでは、ネオジウム焼結磁石を用いた場合で、磁石厚2mmの場合が好適であることが分かっているので、磁石厚2mmの近傍で最適値について検討する。
【0086】
図14は、第3タイプのネオジウム焼結磁石を用いた電磁機器の磁石厚み毎の無効電力制御特性である。
図14において、縦軸は無効電力、横軸は制御電流であり、ネオジウム焼結磁石の厚みを変化させた場合の特性が示されている。
【0087】
図15Aは、
図14の無効電力変化量特性であり、無効電力制御幅を示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図15Bは、
図14のバイアス磁石無しを基準とする無効電力の変化比率特性であり、バイアス磁石無しの場合を基準として、無効電力制御幅がどの程度拡大したかを示したものであり、値が大きい方が好ましい特性となる。
図15Cは、
図14の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率特性であり、制御電流を-10Aから10Aまでの間で変化させたときの無効電力の上限値を、無効電力の下限値で除した値を示しており、値が大きい方が好ましい特性となる。
【0088】
図15A、
図15B及び
図15Cから最適な特性が得られる永久磁石厚みを検討する。
図15A及び
図15Bで数値が大きい範囲が好ましいので、バイアス磁石なしの場合を基準としたときの無効電力制御幅の増加分として、例えば10%以上(すなわち
図15Bの1.1以上)を判断基準とすると、永久磁石厚みは1mm~2mmが好適値の候補となる。また、
図13Cの数値が大きい方が好ましいので、好適値の判断基準として変化比率として例えば30以上とすると、1.5mmが好適値の候補となる。以上のことから、本実施形態では、永久磁石厚みは1.5mmが最適値であることが分かる。
【0089】
また、好適値を求めるための判断基準としては、例えば、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上(変化比率30以上)であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広い(無効電力制御幅の増加分10%以上)として設定した範囲が好適値の一つの基準となる。
【0090】
第1実施形態で述べた閾値係数を用いた好適値の判断基準を検討する。例えば閾値係数を0.5とした場合、
図15Bから好適値を求める基準は、
最大値29%×閾値係数0.5=14.5%(すなわち、1.145)
となり、磁石厚は1mm~2mmとなる。また、
図15Cから好適値を求める基準は、
最大値32×閾値係数0.5=16
となり、磁石厚0.5mm~1.5mmとなる。両者を満たす磁石厚として、1.0mm~1.5mmの範囲が好適値となる。
【0091】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る電磁機器について説明する。本実施形態では、第1~第3実施形態に共通する電磁機器について、好適値の判断基準について説明する。いずれの実施形態においても、無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率が30倍以上(変化比率30以上)であり、無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも10%以上広い(無効電力制御幅の増加分10%以上)という基準を適用することができる。
【0092】
また、いずれの実施形態においても閾値係数Thを用いた好適値の判断基準を用いることができる。次の2つの判断条件を両方満たす磁石厚が好適値として判断される。
(無効電力の制御範囲の最大無効電力を最小無効電力で除した変化比率の最大値)×Th
(無効電力の制御範囲が、バイアス磁石が無い場合よりも広い割合[%])×Th
ここで、閾値係数は例えば、Th≧0.5として決定できる。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態における本発明の技術思想を具体化するための電磁機器を例示するものであって、本発明をこれらに特定するものではなく、その他の実施形態のものにも等しく適用し得るものであり、また、これらの実施形態の一部を省略、追加、変更することや、各実施形態の態様を組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
10・・・第2鉄心
11・・・第2基部磁心
12,13・・・第2脚磁心
15・・・制御巻線
20・・・第1鉄心
21・・・第1基部磁心
22,23・・・第1脚磁心
25・・・主巻線
30,31・・・永久磁石
40,41・・・永久磁石
50・・・永久磁石