IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特開2024-29707物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム
<>
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図1
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図2
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図3
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図4
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図5
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図6
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図7
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図8
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図9
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図10
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図11
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図12
  • 特開-物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029707
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/50 20060101AFI20240228BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20240228BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20240228BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240228BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240228BHJP
   G06T 7/20 20170101ALI20240228BHJP
   G06V 10/62 20220101ALI20240228BHJP
【FI】
G01S17/50
B60W40/02
G01S17/931
G08G1/16 C
G06T7/00 650B
G06T7/20 300Z
G06V10/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132120
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】李 明宇
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
5J084
5L096
【Fターム(参考)】
3D241BA49
3D241CE04
3D241CE06
3D241DB01Z
3D241DC25Z
3D241DC46Z
3D241DC50Z
5H181AA01
5H181CC02
5H181CC03
5H181CC14
5H181FF04
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL09
5J084AA02
5J084AA04
5J084AA05
5J084AA07
5J084AA10
5J084AA13
5J084AB01
5J084AC02
5J084CA28
5J084CA31
5J084EA05
5L096AA09
5L096BA04
5L096CA18
5L096FA16
5L096HA03
(57)【要約】
【課題】LiDARを用いた移動体の検出処理に要する時間を短縮する。
【解決手段】LiDAR11により検出される測定点群に対して設定される所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンLSの変化に基づいて物体を検出する処理を実行する物体検出装置100は、測定点群に対して所定パターンLSを設定し、設定した所定パターンLSのうち、第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターンLS1の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理と、第1の所定パターンLS1を設定した第1測定点群以外の測定点群に対して、第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターンLS2を設定し、第2の所定パターンLS2の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理とを実行する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiDAR(11)により検出される測定点のうち隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターン(LS)を設定し、設定した前記所定パターン(LS)の変化に基づいて物体を検出する処理を実行する物体検出装置(100)において、
前記測定点群に対して所定パターン(LS)を設定し、設定した前記所定パターン(LS)のうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターン(LS1)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理と、
前記第1の所定パターン(LS1)を設定した第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターン(LS2)を設定し、前記第2の所定パターン(LS2)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理と、
を実行する、物体検出装置。
【請求項2】
前記第2検出処理において、
前記第1の所定パターン(LS1)を設定した前記第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前回の処理サイクルまでに計測されて前記所定パターン(LS)が設定された前記測定点群とともに三次元速度計測処理を実行し、
ゼロを超える速度ベクトル(v)を有し、前記測定点群を構成するすべての測定点を包含するとともに前記速度ベクトル(v)に直交する辺を有する最小のボックス領域(BB)を設定し、
前記速度ベクトル(v)に直交する辺を含む前記第2の所定パターン(LS2)を設定し、前記第2の所定パターン(LS2)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記第2検出処理に続いて、
前記第1の所定パターン(LS1)を設定した前記第1測定点群及び前記第2の所定パターン(LS2)を設定した第2測定点群以外の前記測定点群に基づいて、前記測定点群を構成するすべての測定点を包含する凸包多角形(CH)を算出するとともに、前記凸包多角形(CH)に基づいて第3の所定パターン(LS3)を設定し、当該第3の所定パターン(LS3)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第3検出処理を実行する、
請求項2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記第1検出処理の前に、
前記LiDAR(11)により取得された測定点の位置データを三次元直交座標系(Cw)から球面座標系(Cs)に変換するとともに、前記球面座標系(Cs)上の前記測定点の位置データのハッシュテーブルを生成するハッシュテーブル生成処理と、
前記ハッシュテーブルに基づいて、前記測定点群を抽出するクラスタリング処理と、
を実行する、請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記第1検出処理の前に、
前記測定点のデータうち、路面又は路上設置物に対応する測定点のデータを除外するフィルタリング処理を実行する、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項6】
LiDAR(11)により検出される測定点のうち隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターン(LS)を設定し、設定した前記所定パターン(LS)の変化に基づいて物体を検出する物体検出方法において、
前記測定点群に対して所定パターン(LS)を設定することと、
設定した前記所定パターン(LS)のうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターン(LS1)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理を実行することと、
前記第1の所定パターン(LS1)を設定した第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターン(LS2)を設定し、前記第2の所定パターン(LS2)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理を実行することと、
を含む、物体検出方法。
【請求項7】
LiDAR(11)により検出される測定点のうち、隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群を抽出するとともに、抽出した前記測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターン(LS)を設定することと、
設定した前記所定パターン(LS)のうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターン(LS1)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理を実行することと、
前記第1の所定パターン(LS1)を設定した第1測定点群(PC1)以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターン(LS2)を設定し、前記第2の所定パターン(LS2)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理を実行することと、
を含む処理をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体に適用される物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の移動体には、移動体の周囲環境を検出する測距センサを用いた物体検出装置が備えられている。例えば車両では、検出される周囲環境の情報に基づいて、先行車両との車間距離を目標車間距離に維持しながら自車両を自動で走行させるためのクルーズコントロール制御(ACC:Adaptive Cruise Control)や、先行車両を含む障害物等との衝突を回避あるいは衝突時の衝撃を軽減するための衝突安全機能が実行される。このような物体検出装置に用いられる測距センサの一つとして、レーザや赤外線等の光学波を利用したLiDAR(Light Detection And Ranging)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-163213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LiDARは、検出対象物までの距離や方向を測定することができる一方、同じく測距センサとして知られているレーダセンサのように検出対象物の速度を測定することができない。前回の処理サイクルで取得されたフレームに含まれる測定点と今回の処理サイクルで取得されたフレームに含まれる測定点とを比較することによって、検出されている物体の移動速度や移動方向を算出することは可能である。しかしながら、各フレームに含まれる測定点の数は膨大であり、すべての測定点について比較すると多大な時間を要し、車載の物体検出装置として適用できないおそれがある。
【0005】
本発明は、LiDARを用いた移動体の検出処理に要する時間を短縮可能な物体検出装置及び物体検出方法並びにコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
LiDARにより検出される測定点のうち隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンを設定し、設定した前記所定パターンの変化に基づいて物体を検出する処理を実行する物体検出装置であって、
前記測定点群に対して所定パターンを設定し、設定した前記所定パターンのうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理と、
前記第1の所定パターンを設定した第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターンを設定し、前記第2の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理と、
を実行する物体検出装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、
LiDARにより検出される測定点のうち隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンを設定し、設定した前記所定パターンの変化に基づいて物体を検出する物体検出方法であって、
前記測定点群に対して所定パターンを設定することと、
設定した前記所定パターンのうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出することと、
前記第1の所定パターンを設定した第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターンを設定し、前記第2の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出することと、
を含む物体検出方法が提供される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、
LiDARにより検出される測定点のうち、隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群を抽出するとともに、抽出した前記測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンを設定することと、
設定した前記所定パターンのうち、前記第1の部分の長さが所定の基準値以上の第1の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出することと、
前記第1の所定パターンを設定した第1測定点群以外の前記測定点群に対して、前記第1検出処理とは異なる処理により第2の所定パターンを設定し、前記第2の所定パターンの前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出することと、
を含む処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、LiDARを用いた移動体の検出処理に要する時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る移動体の一例としての車両の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る物体検出装置の構成例を示すブロック図である。
図3】同実施形態に係る物体検出装置による処理動作を示すフローチャートである。
図4】同実施形態に係る物体検出装置による移動体検出処理動作を示すフローチャートである。
図5】同実施形態に係る物体検出装置によるフィルタリング処理を示すフローチャートである。
図6】三次元直交座標系から球面座標系への変換処理を示す説明図である。
図7】同実施形態に係る物体検出装置によるフィルタリング処理を示す説明図である。
図8】同実施形態に係る物体検出装置によるフィルタリング処理を示す説明図である。
図9】同実施形態に係る物体検出装置による物体追跡処理を示すフローチャートである。
図10】RANSAC法により設定されるL字パターンを示す説明図である。
図11】RANSAC法により設定されるL字パターンを示す説明図である。
図12】同実施形態の第2検出処理による第2のL字パターンLS2の設定方法を示す説明図である。
図13】同実施形態の第3検出処理による第2のL字パターンLS3の設定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.移動体の構成例>
まず、本実施形態に係る物体検出装置を適用可能な移動体の構成例を説明する。
【0013】
本実施形態に係る物体検出装置は、四輪自動車や自動二輪車等の車両の他、船舶、航空機又はロボット等の種々の移動体に適用することができる。本実施形態では、移動体として四輪自動車に物体検出装置を適用した例を説明する。
【0014】
図1は、移動体の一例としての車両1の構成例を示す模式図である。図1に示した車両1は、内燃機関や駆動用モータ等の駆動力源20から出力される駆動トルクを左右の前輪へ伝達する二輪駆動の車両1として構成されている。車両1は、前後左右の車輪へ駆動力を伝達する四輪駆動の車両であってもよい。また、車両1が電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合、車両1には、駆動用モータへ供給される電力を蓄積する二次電池や、駆動用モータへ供給される電力及びバッテリに充電される電力を発電する発電機、駆動用モータの駆動を制御するインバータ装置等が搭載される。
【0015】
車両1は、車両1の走行を制御する機器として、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30を備えている。駆動力源20は、図示しない変速機や差動機構を介して車輪に伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源20や変速機の駆動は車両制御装置40により制御される。
【0016】
電動ステアリング装置25は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、車両制御装置40により制御されることによって左右の前輪の操舵角を調節する。車両制御装置40は、手動運転中には、ドライバによるステアリングホイールの操舵角に基づいて電動ステアリング装置25を制御する。また、車両制御装置40は、自動運転中には、演算により設定される目標操舵角に基づいて電動ステアリング装置25を制御する。
【0017】
ブレーキ液圧制御ユニット30は、それぞれの車輪に設けられたブレーキキャリパに供給する油圧を調節し、制動力を発生させる。ブレーキ液圧制御ユニット30の駆動は、車両制御装置40により制御される。車両1が電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の場合、ブレーキ液圧制御ユニット30は、駆動用モータによる回生ブレーキと併用される。
【0018】
車両制御装置40は、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する一つ又は複数の電子制御装置を含む。車両制御装置40は、物体検出装置50から送信される信号を取得可能に構成され、車両1の自動運転制御を実行可能に構成されている。なお、自動運転制御には、緊急ブレーキ制御やACC(Adaptive Cruise Control)を含むものとする。また、車両制御装置40は、車両1の手動運転時においては、ドライバの運転操作量の情報を取得し、駆動力源20、電動ステアリング装置25及びブレーキ液圧制御ユニット30の駆動を制御する。
【0019】
車両1は、LiDAR11及び位置検出センサ13を備えている。図1に示した車両1では、LiDAR11は車両1のフロント部分の中央に設置されている。LiDAR11は、照射軸を車長方向前方に向けて設置されている。LiDAR11は、例えば照射軸と照射軸に直交する軸の2軸が成す平面が車高方向に直交するようにアライメントされた状態で設置される。ただし、LiDAR11の設置位置及び照射軸の軸方向はこの例に限定されるものではなく、任意の位置に任意の方向へ向けて設置されてよい。また、車両1に搭載されるLiDAR11の数は一つに限られず、それぞれ所定の方向へ照射軸を向けて設置される。
【0020】
LiDAR11は、所定の角度範囲(角度解像度)に向けてレーザや赤外線等の光学波を送信するとともに当該光学波の反射波を受信し、送信波及び受信波の情報に基づいて反射点(以下「測定点」という)の位置を算出する。測定点の位置の情報は、LiDAR11から測定点までの距離の情報、及び、LiDAR11の照射軸に対して測定点の位置する方向が成す角度(以下、「方位角」ともいう)の情報を含む。各測定点の位置の情報は、LiDAR11の位置を原点とする三次元直交座標系上の位置情報として現わされる。
【0021】
具体的に、LiDAR11は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとに、照射軸を中心とする所定の角度範囲に対して光学波を照射するとともに反射波を受信する。例えばLiDAR11は、水平方向に向けて所定の角度範囲を成すように設けられた複数のレーザ射出機を垂直方向に走査するようにして光学波を照射する。あるいはLiDAR11は、垂直方向に向けて所定の角度範囲を成すように設けられた複数のレーザ射出機を水平方向に走査するようにして光学波を照射してもよい。
【0022】
LiDAR11は、光学波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて、測定点までの距離を算出する。また、LiDAR11は、測定点の受信方向に基づいて、測定点の方位角を算出する。LiDAR11は、各処理サイクルにおいて受信したすべての反射波について、従来公知の処理を実行して測定点の位置及び速度を算出し、各測定点の位置情報を算出する。測定点の位置情報は、LiDAR11の位置を原点とする三次元直交座標系であるセンサ座標系上での位置座標として現わされる。センサ座標系は、LiDAR11の照射軸をX軸、車幅方向に沿った軸をY軸、車両1の高さ方向に沿った軸をZ軸とする三次元直交座標系として示される。LiDAR11は、測定点がプロットされたフレーム画像を、各測定点の位置情報とともに物体検出装置50へ送信する。
【0023】
位置検出センサ13は、例えばGPS(Global Positioning System)センサに代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System)センサであり、衛星から送信される衛星信号を受信し、世界座標系上での位置検出センサ13の経度及び緯度の位置情報を取得する。位置検出センサ13は、取得した位置情報と、位置検出センサ13に設定されている基準方向の情報とを位置データとして物体検出装置50へ送信する。基準方向は、位置検出センサ13の設置位置を原点とする車両座標系の一つの軸を規定する方向であり、例えば車両1の車長方向前方に一致する方向に設定されている。
【0024】
物体検出装置50は、LiDAR11から送信されるフレーム画像に含まれる測定点のデータに基づいて車両1の周囲に存在する物体を検出する処理を実行する。特に、本実施形態に係る物体検出装置50は、速度の情報を含まないLiDAR11の測定点のデータに基づいて、所定の速度で移動する移動体を検出可能に構成されている。以下、本実施形態に係る物体検出装置50について詳細に説明する。
【0025】
<2.物体検出装置>
物体検出装置50は、LiDAR11から送信されるフレーム画像に含まれる測定点のデータに基づいて、所定の速度で移動する移動体を検出する処理と、停止しあるいは固定又は設置されて速度を持たない静止物を検出する処理とを実行可能に構成されている。なお、LiDAR11から送信される測定点のデータは、センサ座標系上での測定点の位置座標のデータを含む。
【0026】
(2-1.構成例)
図2は、物体検出装置50の構成例を示すブロック図である。物体検出装置50は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を含むマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等として構成されている。これらの装置の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
物体検出装置50は、通信部51、処理部53及び記憶部55を備える。通信部51は、LiDAR11、位置検出センサ13及び車両制御装置40と信号あるいはメッセージを送受信するためのインタフェースであり、CAN(Controller Area Network)又はLIN(Local Inter Net)等の一つ又は複数の通信プロトコルの規格に適合する構成を有する。処理部53は、演算処理装置を含んで構成され、種々の演算処理を実行する。
【0028】
記憶部55は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記録媒体を含んで構成される。記憶部55は、処理部53により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、LiDAR11及び位置検出センサ13から取得された情報、処理部53による演算処理結果等のデータを記憶する。
【0029】
以下、処理部53の機能を簡単に説明した後に処理部53の具体的な動作例を説明する。
【0030】
処理部53は、取得部61及び物体検出処理部63を備える。取得部61及び物体検出処理部63の一部又は全部は、演算処理装置によるプログラムの実行により実現される機能である。
【0031】
取得部61は、LiDAR11及び位置検出センサ13から送信されるデータを取得する。具体的に、取得部61は、所定の時間間隔に設定された処理サイクルごとにLiDAR11から送信されるフレーム画像のデータと、位置検出センサ13から送信される位置データを取得する。
【0032】
物体検出処理部63は、取得部61により取得されたフレーム画像に含まれる測定点のデータに基づいて車両1の周囲の物体を検出する処理を実行する。具体的に、物体検出処理部63は、測定点のうち隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある測定点群を抽出するとともに測定点群に対して所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンを設定し、設定した所定パターンの変化に基づいて物体を追跡する処理を実行する。物体検出処理部63は、検出した物体の情報を車両制御装置40へ送信する。車両制御装置40は、受信した物体の情報に基づいて車両1の自動運転制御を実行し、物体との衝突を回避し、あるいは、衝突時の衝撃を緩和する。
【0033】
(2-2.動作例)
続いて、本実施形態に係る物体検出装置50により実行される制御処理の具体的な動作例を説明する。なお、以下の説明においては、所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンとして、所定の方向へ延びる一つの辺(第1の部分)と、他の方向へ延びる他の一つの辺(第2の部分)を含むL字形状のパターンであるL字パターンを用いる例を説明する。L字パターンのうち、長辺の部分が第1の部分に該当し、短辺の部分が第2の部分に該当する。所定パターンとしてL字パターンを適用する構成では、例えばL字パターンの長辺と短辺が接続する部分に基づいて物体の角部を推定することができ、物体の外形を検出する精度を向上させることができる。
【0034】
図3は、物体検出装置50による処理動作のフローチャートを示す。なお、以下説明する処理は、車両1のシステム起動中に常時実行されてもよく、運転開始から運転終了までの間に常時実行されてもよい。
【0035】
まず、取得部61は、LiDAR11及び位置検出センサ13から送信されるデータを取得する(ステップS1)。具体的に、取得部61は、LiDAR11から送信されるフレーム画像のデータ、及び、位置検出センサ13から送信される位置データを取得する。フレーム画像のデータは、LiDAR11が検出した測定点の位置情報のデータを含む。測定点の位置情報は、LiDAR11の位置を原点とするセンサ座標系C(0,X,Y,Z)上での測定点の位置座標(x,y,z)の情報を含む。また、位置データは、固定座標系Cw(0,X,Y,Z)上での位置検出センサ13の位置情報(x,y,z)、及び、車両座標系上で位置検出センサ13の基準方向Lの情報を含む。
【0036】
本実施形態では、固定座標系C(0,X,Y,Z)は、車両1のシステム起動時に位置検出センサ13から取得される、システム起動時の位置検出センサ13の位置を原点(x,y,z=0)とし、世界地図上の経度に沿う方向をX軸、緯度に沿う方向をY軸とする三次元直交座標系として設定されている。ただし、固定座標系C(0,X,Y,Z)は、緯度に沿う方向をX軸、経度に沿う方向をY軸とするものであってもよい。また、X軸及びY軸は、車両1の移動にかかわらず不変とできるものであれば経度及び緯度に関連付けられることなく任意に設定されてよい。例えば車両1のシステム起動時の位置検出センサ13の基準方向Lで示される車両1の車長方向をX軸とし、車幅方向をY軸としてもよい。
【0037】
次いで、物体検出処理部63は、LiDAR11から取得した測定点のデータのそれぞれの測定点の位置座標(x,y,z)を、固定座標系C(0,X,Y,Z)の位置座標(x,y,z)に変換する処理を実行する(ステップS3)。つまり、車両1とともに移動するLiDAR11の位置を原点とするセンサ座標系C(0,X,Y,Z)の位置座標(x,y,z)を、LiDAR11の位置にかかわらず原点が維持される固定座標系C(0,X,Y,Z)の位置座標(x,y,z)に変換する。
【0038】
物体検出装置50の記憶部55には、あらかじめ位置検出センサ13の設置位置とLiDAR11の設置位置との相対関係を示す情報が記録されている。本実施形態では、位置検出センサ13の設置位置を原点とし、車長方向、車幅方向及び車両の高さ方向を直交三軸とする車両座標系C(0,X,Y,Z)上での、LiDAR11の設置位置の座標(x,y,z)の情報が記憶部55に記録されている。また、記憶部55には、LiDAR11の照射軸(X軸)と車両座標系C(0,X,Y,Z)の一軸との成す角度の情報が記録されている。
【0039】
また、固定座標系C(0,X,Y,Z)上での位置検出センサ13の位置座標(x,y,z)及び基準方向Lは、常時位置検出センサ13から取得される。したがって、物体検出処理部63は、LiDAR11により測定された測定点のセンサ座標系C(0,X,Y,Z)上での位置座標(x,y,z)を車両座標系C(0,X,Y,Z)上の位置座標(x,y,z)に変換した上で、さらにC(0,X,Y,Z)上の位置座標(x,y,z)を固定座標系C(0,X,Y,Z)上の位置座標(x,y,z)に変換することができる。
【0040】
次いで、物体検出処理部63は、固定座標系の座標に変換した測定点のデータに基づいて移動体を検出する処理を実行する(ステップS5)。図4は、移動体を検出する処理の具体的なフローチャートを示す。
【0041】
本実施形態に係る物体検出装置50は、移動体を検出する処理(ステップS5)において、路面区分処理(ステップSS11)、フィルタリング処理(ステップS15)、移動体追跡処理(ステップS19)及び移動体生成処理(ステップS23)を順次実行する。以下、各ステップの処理を詳しく説明する。
【0042】
(路面区分処理)
まず、物体検出処理部63は、LiDAR11により検出された測定点のデータmptsから路面により反射された測定点を区別する路面区分処理を実行する(ステップS11)。路面区分処理は、例えば「A Fast Ground Segmentation Method for 3D Point Cloud」等の従来公知のソフトウェアを用いて実行されてよい。物体検出処理部63は、ステップS11において除外した測定点のデータを、路面凹凸としてラベリングして記録する(ステップS13)。路面区分処理を実行することにより、物体検出処理には不要な測定点があらかじめ除外され、物体の誤検出を抑制することができる。また、以降の演算処理の対象となる測定点を減らすことができ、演算処理の負荷を軽減できるとともに演算処理に要する時間を短縮することができる。
【0043】
(フィルタリング処理)
次いで、物体検出処理部63は、測定点のデータmptsから非移動体測定点群を除外するフィルタリング処理を実行する(ステップS13)。物体検出処理部63は、測定点のデータmptsから、隣り合う測定点間の距離が所定の距離内にある一つ又は複数の測定点群を抽出する。物体検出処理部63は、抽出した一つ又は複数の測定点群のうち、いずれかの方向の長さが所定の長さ閾値以上の測定点群を非移動体測定点群として、測定点のデータから除外する。所定の長さ閾値は、移動体として想定される最大長さを超える値に設定され、当該所定の長さ閾値以上のサイズの測定点群を非移動体測定点群として特定し、以降の処理対象から除外する。これにより、物体の誤検出を抑制することができる。また、以降の演算処理の対象となる測定点を減らすことができ、演算処理の負荷を軽減できるとともに演算処理に要する時間を短縮することができ、物体が途絶することを防ぐことができる。
【0044】
図5は、本実施形態によるフィルタリング処理のフローチャートを示す。本実施形態では、フィルタリング処理において、ハッシュテーブル生成処理(ステップS31)、クラスタリング処理(ステップS33)及び非移動体判定処理(ステップS35)が順次実行される。
【0045】
まず、物体検出処理部63は、測定点の位置座標を三次元直交座標系から球面座標系に変換し、球面座標系上の測定点の位置データのハッシュテーブルを生成するハッシュテーブル生成処理を実行する(ステップS31)。具体的に、物体検出処理部63は、固定座標系C(0,X,Y,Z)上での測定点の位置座標(x,y,z)を、下記式(1)~(3)により球面座標系C(0,r,θ,φ)上での位置座標(r,θ,φ)に変換する。
【0046】
r=√(x +y +z ) …(1)
θ=tan-1(y/x) …(2)
φ=tan-1{√(x +y )/z} …(3)
【0047】
図6に示すように、球面座標系C(0,r,θ,φ)上での位置座標(r,θ,φ)はそれぞれ以下を示す。
r…原点0からの距離
θ…Z軸に対して原点0から測定点を結ぶベクトルが成す角度
φ…X軸に対して原点0から測定点のX,Y座標を結ぶベクトルが成す角度
【0048】
次いで、物体検出処理部63は、すべての測定点の球面座標系C(0,r,θ,φ)上での位置座標(r,θ,φ)のハッシュテーブルを構築する(ステップS33)。ハッシュテーブルは、測定点を識別する値を標識(キー)とし、球面座標系C(0,r,θ,φ)上での位置座標(r,θ,φ)を値として構築される。ハッシュテーブルを構築する処理は、従来公知の任意の方法が用いられてよい。
【0049】
次いで、物体検出処理部63は、ハッシュテーブルに基づいて、隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある複数の測定点を一つのまとまりとして測定点群を抽出するクラスタリング処理を実行する(ステップS35)。具体的に、物体検出処理部63は、ハッシュマップを参照し、それぞれの測定点について、各座標(r,θ,φ)の値があらかじめ設定された差分内にある測定点を検索する。そして、物体検出処理部63は、隣り合う測定点同士の間の距離が所定の距離内にある複数の測定点の連なりを一つのまとまりとして測定点群を抽出する。このように、球面座標のハッシュテーブルを用いることにより、膨大な数の測定点から測定点群を抽出する処理に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0050】
次いで、物体検出処理部63は、抽出した一つ又は複数の測定点群のうち、いずれかの方向の長さが所定の長さ閾値以上の測定点群を非移動体測定点群として、測定点のデータから除外する非移動体判定処理を実行する(ステップS37)。例えば物体検出処理部63は、抽出した一つ又は複数の測定点群のそれぞれについて、適宜の方向に沿う最大長さを算出する。適宜の方向は、三次元空間上のどの方向に沿う方向であってもよい。そして、物体検出処理部63は、求めた最大長さが、移動体として想定される最大長さを超える値に設定された所定の長さ閾値以上の測定点群を非移動体測定点群として特定し、非移動体測定点群を構成する測定点を測定点のデータmptsから除外する。所定の長さ閾値は、例えばバスやトラック等、検出車両として想定される最大長さを超える値であってよいが、検出される移動体のサイズに応じて任意に設定されてよい。所定の長さ閾値は、例えば10~12mの範囲内の値に設定されてよい。
【0051】
図7図8は、ステップS15のフィルタリング処理を示す説明図である。図7は、車両1の前後左右に複数のLiDARが設けられている場合に検出された測定点のデータの二次元画像を示している。図8は、非移動体測定点群を構成する測定点を除外した測定点のデータを示している。物体検出処理部63は、測定点群のうち、最大長さが所定の長さ閾値以上の測定点群を非移動体測定点群として測定点のデータから除外する。
【0052】
ステップS15で除外された非移動体測定点群は、縁石等の路面凹凸や、ガードレール等の路上設置物と考えられ、移動体を検出する対象の測定点とはしない。したがって、物体検出処理部63は、ステップS15において除外した非移動体測定点群を、路面凹凸又は路上設置物としてラベリングして記録する(ステップS17)。
【0053】
なお、路面凹凸又は路上設置物に対応する測定点群を除外するための非移動体判定処理は上記の例に限定されるものではなく、他の方法で実行されてもよい。また、路面凹凸又は路上設置物に対応する測定点群を除外する移動体判定処理は省略されてもよい。ただし、明らかに移動体により反射された測定点群ではない非移動体測定点群を除外することにより、以降の演算処理の負荷を軽減できるとともに演算処理に要する時間を短縮することができる。
【0054】
(物体追跡処理)
図4に戻り、次いで、物体検出処理部63は、移動体追跡処理(ステップS19)を実行する。移動体追跡処理は、前回の処理サイクルにおいて検出されていた移動体と今回の処理サイクルにおいて検出された移動体とを関連付けて、当該移動体の動きを追跡する処理である。
【0055】
図9は、本実施形態による移動体追跡処理のフローチャートを示す。本実施形態では、移動体追跡処理において、第1検出処理(ステップS41)、第2検出処理(ステップS43)及び第3検出処理(ステップS45)が順次実行される。
【0056】
-第1検出処理-
まず、物体検出処理部63は、非移動体測定点群を除外した測定点群に対してL字パターンを設定し、設定したL字パターンのうち、長辺(第1の部分)の長さが所定の基準値以上の第1のL字パターンの前回の処理サイクルからの変換に基づいて移動体を検出する第1検出処理を実行する(ステップS41)。第1検出処理では、例えばRANSAC(RANdom Sample Consensus)法を利用して測定点群に対してL字パターンを設定する。LiDAR11は、対象物により反射された測定点を検出することから、LiDAR11により他の車両が検出される場合、他の車両を真正面から捉えていない限り計測される測定点はL字状となる。第1検出処理では、物体検出処理部63は、RANSAC法を適用して測定点群の数学モデル(近似曲線)にL字パターンを設定する。LiDAR11と他の車両との距離が近いほど、特に奥行き方向の測定点が多くなるために、RANSAC法を適用することで、実際の他の車両の外形に近いL字パターンを設定することができる。
【0057】
図10及び図11は、RANSAC法により設定されるL字パターンを示す説明図である。図10は、LiDAR11から他の車両90までの距離が近い場合の例を示し、図11は、LiDAR11から他の車両90までの距離が遠い場合の例を示す。
【0058】
LiDAR11から他の車両90までの距離が近い場合、他の車両90により反射されて計測される測定点の数が多く、また、他の車両90の奥行き方向の長さを測定することができる。このため、RANSAC法により設定されるL字パターンLSは他の車両90の向きに沿った辺を含むものとなる。一方、LiDAR11から他の車両90までの距離が遠い場合、他の車両90により反射されて計測される測定点の数が少なく、また、他の車両90の奥行き方向の長さの測定精度が低下する。このため、RANSAC法により設定されるL字パターンLSの向きと、実際の他の車両90の向きとの間に大きな誤差が生じ得る。このため、第1検出処理では、RANSAC法により設定したL字パターンLSのうち、長辺の長さが所定の基準値以上のL字パターンLSのみを第1のL字パターンLS1として前回の処理サイクルからの変化を算出する。
【0059】
物体検出処理部63は、例えば以下のようにして第1のL字パターンLS1の前回の処理サイクルからの変化を算出する。まず、物体検出処理部63は、今回の処理サイクルで設定した第1のL字パターンLS1と、前回の処理サイクルで移動体としてラベリングされたL字パターンとの関連付けを行うマッチング処理を実行する。
【0060】
「今回の処理サイクルで設定した第1のL字パターンLS1と、前回の処理サイクルで移動体としてラベリングされたL字パターンとを関連付ける」ことは、第1L字パターンLS1の中から、すでに移動体としてラベリングされたL字パターンと同一の移動体を検出した第1のL字パターンを特定して記録することを示す。例えば前回の処理サイクルまでに所定の移動速度及び移動方向を推定した情報とともに個々の移動体を識別する識別情報をラベル付けされたL字パターンが記録されていた場合、今回の処理サイクルで設定された第1L字パターンLS1のうち記録済みのL字パターンと同一の移動体を検出した第1L字パターンLS1を特定し、同じ識別情報をラベル付けして移動速度及び移動方向の情報とともに記録する処理が実行される。
【0061】
なお、前回の処理サイクルで記録されたL字パターンとは、前回の処理サイクルで第1検出処理で設定されたL字パターンに限られるものではなく、後で説明する第2検出処理及び第3検出処理で設定されたL字パターンも含まれる。
【0062】
マッチング処理は、既存のマッチング技術により行われてよい。例えば物体検出処理部63は、第1L字パターンLS1と、前回の処理サイクルまでに移動体としてラベル付けされているL字パターンとを用いて、記録済のL字パターンに関連付け可能な第1L字パターンLS1を探索する。このとき、物体検出処理部63は、記録済みのL字パターンが有する速度に応じて、記録済みのL字パターンから所定の距離内にある第1L字パターンLS1を対象として関連付け可能な第1L字パターンLS1を探索してもよい。
【0063】
そして、物体検出処理部63は、第1L字パターンLS1と、当該第1L字パターンLS1に関連付けされたL字パターンとを比較し、移動距離をサンプリング時間で割ることにより、第1L字パターンLS1が設定された移動体の速度を求める。また、物体検出処理部63は、第1L字パターンLS1と、当該第1L字パターンLS1に関連付けされたL字パターンとを比較し、第1L字パターンLS1が設定された移動体の移動方向を求める。物体検出処理部63は、第1L字パターンLS1に対して、算出した移動速度及び移動方向をラベル付けして記録する。
【0064】
以上のように、第1検出処理では、RANSAC法により設定したL字パターンLSのうち、長辺の長さが所定の基準値以上の第1のL字パターンLS1について前回の処理サイクルからの変化を算出する。これにより、比較的簡単な手法で、精度よく、前回の処理サイクルで検出されていたL字パターンに対応する第1のL字パターンLS1を特定し、検出済みの移動体を追跡することができる。なお、長辺の長さが所定の基準値未満のL字パターンLSについては、実際の他の車両の向きを正確に表していない可能性があるため、当該L字パターンLSが設定された測定点群についてはRANSAC法以外の手法によるL字パターンの設定を試みる。
【0065】
-第2検出処理-
次いで、物体検出処理部63は、ステップS41において第1のL字パターンLS1を設定した第1測定点群を除外した残りの測定点群に対して、第1検出処理とは異なる処理により第2のL字パターンLS2を設定し、当該第2のL字パターン(LS2)の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理を実行する(ステップS43)。
【0066】
具体的に、物体検出処理部63は、第1のL字パターンLS1を設定した第1測定点群以外の測定点群に対して、前回の処理サイクルまでに計測されてL字パターンLSが設定された測定点群ととともに三次元速度計測処理を実行する。また、物体検出処理部63は、ゼロを超える速度ベクトルvを有し、測定点群を構成するすべての測定点を包含するとともに速度ベクトルvに直交する辺を有する最小のボックス領域BBを設定する。さらに、物体検出処理部63は、ボックス領域BBの四辺のうち、速度ベクトルvに直交する辺と速度ベクトルvに沿った辺とにより構成される第2のL字パターンLS2を設定し、当該第2のL字パターンLS2を記録する。
【0067】
図12は、第2検出処理による第2のL字パターンLS2の設定方法を示す説明図である。
三次元速度計測処理は、従来公知のソフトウェアを用いて実行される三次元速度計測処理であってよい。三次元速度計測処理は、測定点群の時間変化に基づいて、測定点のデータを、それぞれゼロを超える速度ベクトルv1,v2を有する測定点群に分割することができる。物体検出処理部63は、分割されたそれぞれの測定点群に対して、測定点群を構成するすべての測定点を包含するとともに速度ベクトルv1,v2に直交する辺を有する最小のボックス領域BB1,BB2を設定する。そして、物体検出処理部63は、ボックス領域BBの四辺のうち、速度ベクトルvに直交する辺と速度ベクトルvに沿った辺とにより構成される第2のL字パターンLS2を設定する。物体検出処理部63は、こうして得られた第2のL字パターンLS2に対して、算出された移動速度及び移動方向をラベル付けして記録する。
【0068】
三次元速度計測処理により得られる測定点群に基づいて第2のL字パターンLS2を設定することで、RANSAC法に比べて演算負荷が高くなるものの、RANSAC法により設定されるL字パターンLSの精度が低い測定点群に対しても移動速度や移動方向の精度の高いL字パターンを設定することができる。ただし、三次元速度計測処理では、駐車車両等の静止している物体に対してL字パターンを設定することができない。このため、本実施形態では、さらに第3検出処理が実行される。
【0069】
-第3検出処理-
次いで、物体検出処理部63は、第1のL字パターンLS1を設定した第1測定点群及び第2のL字パターンLS2を設定した第2測定点群以外の測定点群に基づいて、測定点群を構成するすべての測定点を包含する凸包多角形CHを算出するとともに、凸包多角形CHに基づいて第3のL字パターンLS3を設定し、当該第3のL字パターンLS3を記録する第3検出処理を実行する(ステップS45)。
【0070】
凸包多角形CHに基づく第3のL字パターンLS3の設定処理は、公知の手法を用いて実行されてよい。例えばKaiqi Liu及びJianqiang Wangによる論文”Fast Dynamic Vehicle Detection in Road Scenarios Based on Pose Estimation with Convex Hull Model”記載された手法に準じて、凸包多角形CHに基づく第3のL字パターンLS3の設定処理が実行される。簡単に説明すると、N個の測定点を含む測定点群に対して、すべての測定点を包含するように設定可能な凸包多角形CHは最大でN-1個存在し得る。物体検出処理部63は、それぞれの凸包多角形CHに対して、図13に示すように、4本の直線LN1~LN4を引き、凸包多角形CHを包含する矩形のバウンディングボックスを設定する。
【0071】
具体的に、物体検出処理部63は、測定点群のうち隣接する任意の二つの測定点P1,P2を選択し、二つの測定点P1,P2を通る直線LN1を求める。次いで、物体検出処理部63は、直線LN1から最も遠い位置にある測定点P3を選択し、当該測定点P3を通り、直線LN1に平行な直線LN4を求める。さらに、物体検出処理部63は、直線LN1に直交しそれぞれ測定点群の左右の最も外側に位置する測定点を通る直線LN3,LN4を求める。これにより、凸包多角形CHを包含する矩形のバウンディングボックスが設定される。物体検出処理部63は、測定点群の中の隣接する二つの測定点を順次選択肢、それぞれ直線LN1~LN4を求めてバウンディングボックスを設定する。
【0072】
物体検出処理部63は、設定したそれぞれのバウンディングボックスを下記式(1)に基づいて四つの因子(A,D,M,θ)を重み付けして評価し、最適なバウンディングボックスを選択する。
【0073】
【数1】
…(1)
【0074】
:各因子
ω:各因子の重み
A:バウンディングボックスの面積
D:バウンディングボックスから各測定点までの最小距離の和
M:バウンディングボックスから各測定点までの最小距離の最大値
θ:前回の処理サイクルで記録済みのL字パターンの移動方向とのずれ角
【0075】
物体検出処理部63は、測定点群に対する最適なバウンディングボックスに対して、LiDAR11から見て手前側にある2辺により形成されるL字を第3のL字パターンLS3として記録する。
【0076】
以降、物体検出処理部63は、第1検出処理と同様の手順で、今回の処理サイクルで設定した第3のL字パターンLS3と、前回の処理サイクルで移動体としてラベリングされたL字パターンとの関連付けを行うマッチング処理を実行する。また、物体検出処理部63は、第3L字パターンLS3と、当該第3L字パターンLS3に関連付けされたL字パターンとを比較し、第3L字パターンLS3が設定された移動体の速度及び移動方向を求める。物体検出処理部63は、第3L字パターンLS3に対して、算出した移動速度及び移動方向をラベル付けして記録する。
【0077】
凸包多角形を用いた第3検出処理は、L字パターンの長辺が検出されている場合RANSAC法による第1の検出処理よりも精度が劣るが、物体までの距離が遠い場合にはRANSAC法に比べて高精度で移動速度及び移動方向を特定することができる。このため、本実施形態では、第1検出処理においてRANSAC法により検出可能な測定点群と、高精度に移動速度及び移動方向を特定可能な第2検出処理により検出可能な測定点群と以外の測定点群に対して第3検出処理が実行されるように構成される。
【0078】
以上の第1検出処理、第2検出処理及び第3検出処理により、前回の処理サイクルで記録されていたL字パターンLSに関連付けされてL字パターン(第1~第3L字パターン)が記録される(ステップS21)。一方、第1検出処理、第2検出処理及び第3検出処理により、前回の処理サイクルで記録されていたL字パターンLSに関連付けできなかったL字パターンについては、新たに検出された移動体として記録される(移動体生成処理:S23)。
【0079】
(移動体生成処理)
物体検出処理部63は、記録済みのL字パターンLSに関連付けできなかったL字パターンLSについて、新たな移動体として検出済移動体データを生成し、記録する(ステップS23)。新たに生成された検出済移動体データは、次の処理サイクル以降、マッチング処理で用いられる。
【0080】
物体検出処理部63は、ステップS11~ステップS23までの処理を各処理サイクルごとに繰り返し、LiDAR11により検出された測定点のデータから抽出される測定点群に基づいて移動体を追跡するともに新たな移動体のデータを生成する。そして、物体検出処理部63は、演算処理の結果の情報を車両制御装置40へ送信する。これにより、車両制御装置40では、取得した情報に基づいて、物体との衝突を回避したり、衝突時の衝撃を軽減したりするための自動運転制御が実行される。
【0081】
このように、本実施形態では、物体検出処理部63は、測定点群に対してL字パターンLSを設定し、設定したL字パターンLSのうち、長辺の長さが所定の基準値以上の第1のL字パターンLS1の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第1検出処理と、第1のL字パターンLS1を設定した第1測定点群以外の測定点群に対して、第1検出処理とは異なる処理により第2のL字パターンLS2を設定し、第2のL字パターンLS2の前回の処理サイクルからの変化に基づいて移動体を検出する第2検出処理とを実行する。
【0082】
したがって、RANSAC法により高精度にL字パターンを設定可能な測定点群については、簡易な手法で高精度に移動体追跡処理を実行することができる。一方、RANSAC法により高精度にL字パターンを設定できない測定点群については、高精度にL字パターンを設定可能な異なる手法により移動体追跡処理が実行され、移動体の検出精度を補完することができる。これにより、移動体を検出する処理に要する時間を短縮できるとともに移動体の検出精度を保証することができる。
【0083】
また、本実施形態では、第2検出処理において、三次元速度計測処理により高精度に移動体追跡処理が実行される。これにより、RANSAC法に比べて演算処理の負荷が高くなるものの、移動体の検出精度を補完することができ、移動体の誤検出や途絶を防ぐことができる。
【0084】
また、本実施形態では、第2検出処理に続いて、凸包多角形を用いた第3検出処理が実行される。これにより、第2検出処理によっても記録済みのL字パターンに関連付けできない測定点群に対して、さらに第3のL字パターンを設定し、記録済みのL字パターンに関連付けを試みる。したがって、三次元速度計測処理では検出しづらい停車中の車両や、LiDARから離れた位置に存在する物体の検出精度を補完することができる。
【0085】
また、本実施形態では、測定点の位置データを三次元直交座標系から球面座標系に変換するとともに球面座標のハッシュテーブルを生成し、ハッシュテーブルに基づいて測定点群を抽出するクラスタリング処理が実行される。これにより、膨大な数の測定点に対するクラスタリング処理の実行時間を短縮することができ、移動体を検出する処理に要する時間を短縮することができる。
【0086】
また、本実施形態では、測定点のデータのうち、路面又は路上設置物に対応する測定点のデータをあらかじめ除外するフィルタリング処理を実行した後で物体追跡処理が実行される。したがって、移動体を検出する処理の対象とする測定点があらかじめ減らすことができ、移動体を検出する処理に要する時間を短縮することができる。
【0087】
物体検出装置による上記効果は、物体検出方法及び物体検出処理を実行させるコンピュータプログラムによっても同様の効果を奏することができる。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが本発明はこのような例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0089】
例えば上記実施形態では、LiDARが測定点の位置及び速度を算出し、算出した位置及び速度の情報を物体検出装置へ送信していたが、LiDARが測定点の位置を算出するとともに算出した位置の情報を物体検出装置へ送信し、物体検出装置が測定点の速度の情報を算出してもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、所定の第1方向へ延びる第1の部分を有する所定パターンとしてL字パターンを用いていたが、所定パターンはL字パターンに限定されるものではない。例えば所定の方向に延びる一つの辺(第1の部分)以外の他の部分が直線状でない形状のパターンであってもよく、検出される物体の外形の少なくとも一部を推定可能になっていればよい。
【符号の説明】
【0091】
1:車両、11:LiDAR、17:位置検出センサ、40:車両制御装置、50:物体検出装置、51:通信部、53:処理部、55:記憶部、61:取得部、63:物体検出処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13