(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029712
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】トンネル掘削支援システム及びトンネル掘削支援方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20240228BHJP
G06T 19/00 20110101ALI20240228BHJP
【FI】
E21D9/00 C
G06T19/00 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132127
(22)【出願日】2022-08-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年8月17日 建設ロボット研究連絡協議会の第20回建設ロボットシンポジウム事務局が運営する「ダウンロードサイト(https://ccrr.jp/event/symposium/2022/download/index.html)」にて頒布
(71)【出願人】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】包 躍
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥三
(72)【発明者】
【氏名】横山 稔
(72)【発明者】
【氏名】浅田 祐樹
【テーマコード(参考)】
5B050
【Fターム(参考)】
5B050AA03
5B050BA11
5B050DA02
5B050FA05
5B050FA06
(57)【要約】
【課題】掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することで、当り取りの精度向上と時間短縮を可能にするトンネル掘削支援システムを提供する。
【解決手段】トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援システムである。
そして、位置情報及び姿勢情報を取得するとともに、掘削対象の点群データ及びRGB画像を取得するカメラユニット1と、位置情報及び姿勢情報から特定される設計データと点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき点群データを顕在化させる処理用PC部13と、RGB画像に基づく画像に、顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる重機用モニタ51とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援システムであって、
位置情報及び姿勢情報を取得するとともに、掘削対象の点群データ及びRGB画像を取得する撮影部と、
前記位置情報及び姿勢情報から特定される設計データと前記点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき前記点群データを顕在化させる抽出処理部と、
前記RGB画像に基づく画像に、顕在化された前記点群データを同一視点で重ねて表示させる表示部とを備えたことを特徴とするトンネル掘削支援システム。
【請求項2】
前記点群データは距離画像カメラによって取得するとともに、前記距離画像カメラと前記RGB画像を取得するカラーカメラとの相対的な位置関係が既知であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項3】
前記距離画像カメラ及び複数の前記カラーカメラを固定するカメラ保持具と、
前記カメラ保持具を搭載する移動手段部とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項4】
前記カメラ保持具には、3個以上の測量ターゲットがそれぞれアームを介して取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項5】
前記点群データ及び前記設計データに基づいて余掘り量を算出する余掘り量算出部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項6】
前記表示部は、裸眼立体表示装置であって、複数の前記カラーカメラによって視差画像が生成されることを特徴とする請求項3又は4に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項7】
前記視差画像は、撮影範囲が異なる複数が生成されて繋ぎ合わされることを特徴とする請求項6に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項8】
前記カメラ保持具には、位置及び姿勢の情報が把握された撮影範囲が異なる複数の前記距離画像カメラが取り付けられていて、それぞれの前記距離画像カメラにより取得された点群データが絶対座標系に変換されて、繋ぎ合わされることを特徴とする請求項3又は4に記載のトンネル掘削支援システム。
【請求項9】
トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援方法であって、
撮影部の位置情報及び姿勢情報を取得するとともに、前記撮影部によって掘削対象の点群データ及びRGB画像を取得するステップと、
前記位置情報及び姿勢情報から特定される設計データと前記点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき前記点群データを顕在化させるステップと、
前記RGB画像に基づく画像に、顕在化された前記点群データを同一視点で重ねて表示させるステップとを備えたことを特徴とするトンネル掘削支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援システム及びトンネル掘削支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工におけるトンネル掘削は、掘削や発破後にずり出しを行い、掘削が足りない箇所の当り取りを行ったのちに、支保工を建て込み、吹付けコンクリートを吹き付けるという一連のサイクルを繰り返して前進する。
【0003】
現状では、発破後に設計断面と比較して、掘削不足の箇所を切羽近傍の作業員がレーザーマーカで照射し、重機のオペレータがブレーカで叩き落すこと(当り取り)が行われているが、切羽近傍の作業となるため危険を伴う。また、掘削地点で行われている詳細な切羽観察は、不安定な状態の切羽周辺で行われるため安全性や効率性に課題があった。
【0004】
一方、特許文献1などに開示されているように、最近では3Dスキャナで掘削後のトンネル断面を計測し、設計断面と比較して、当り取りや発破パターンの更新に活かすシステムも開発されている。
【0005】
詳細には、特許文献1では、当り取りを行うブレーカ付きの重機に搭載した3Dスキャナで切羽と掘削断面を計測し、設計モデルと計測結果とを比較して、設計よりもトンネル内空側に突出している箇所や引っ込んでいる箇所に対して、設計モデルに色付けをしてタブレット端末上などに二次元で表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、重機のオペレータが見るタブレット端末には、設計データと3Dスキャナによる計測結果との差異のみが二次元の画面で表示されるだけで実写の画像がないので、当り取りをしなければならない注目箇所が実際の掘削対象のどの位置に該当するのかを、オペレータが短時間のうちに認識することは難しい。
【0008】
そこで、本発明は、掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することで、当り取りの精度向上と時間短縮を可能にするトンネル掘削支援システム及びトンネル掘削支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のトンネル掘削支援システムは、トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援システムであって、自身の位置情報及び姿勢情報を取得するとともに掘削対象の点群データ及びRGB画像を取得する撮影部と、前記位置情報及び姿勢情報から特定される設計データと前記点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき前記点群データを顕在化させる抽出処理部と、前記RGB画像に基づく画像に、顕在化された前記点群データを同一視点で重ねて表示させる表示部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記点群データは距離画像カメラによって取得するとともに、前記距離画像カメラと前記RGB画像を取得するカラーカメラとの相対的な位置関係が既知であることが好ましい。
【0011】
また、前記距離画像カメラ及び複数の前記カラーカメラを固定するカメラ保持具と、前記カメラ保持具を搭載する移動手段部とを備えた構成とすることができる。さらに、前記カメラ保持具には、3個以上の測量ターゲットがそれぞれアームを介して取り付けられている構成とすることもできる。
【0012】
また、前記点群データ及び前記設計データに基づいて余掘り量を算出する余掘り量算出部を備えた構成とすることができる。さらに、前記表示部は、裸眼立体表示装置であって、複数の前記カラーカメラによって視差画像が生成される構成であることが好ましい。また、前記視差画像は、撮影範囲が異なる複数が生成されて繋ぎ合わされる構成とすることもできる。
【0013】
一方、前記カメラ保持具には、位置及び姿勢の情報が把握された撮影範囲が異なる複数の前記距離画像カメラが取り付けられていて、それぞれの前記距離画像カメラにより取得された点群データが絶対座標系に変換されて、繋ぎ合わされる構成とすることもできる。
【0014】
また、本発明のトンネル掘削支援方法では、トンネルの掘削状況を表示させるトンネル掘削支援方法であって、撮影部の位置情報及び姿勢情報を取得するとともに、前記撮影部によって掘削対象の点群データ及びRGB画像を取得するステップと、前記位置情報及び姿勢情報から特定される設計データと前記点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき前記点群データを顕在化させるステップと、前記RGB画像に基づく画像に、顕在化された前記点群データを同一視点で重ねて表示させるステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように構成された本発明のトンネル掘削支援システムでは、撮影部によって取得される掘削対象の点群データを設計データと比較することで注目すべき点群データを顕在化させるとともに、RGB画像に基づく画像に顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる表示部を備えている。
【0016】
RGB画像に基づく画像は実物の掘削状況をそのまま示す実写画像となるため、重機のオペレータなどの作業員は、その画像に重ね合わされた顕在化された点群データを見ることで、掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することができるようになる。この結果、当り取りの精度向上と時間短縮を図ることができる。
【0017】
また、点群データを距離画像カメラによって取得するのであれば、3Dスキャナによって点群データを取得する場合と比べて、掘削対象の三次元の点群データを極めて短い時間で取得することができるようになる。この結果、掘削状況の表示までの時間が短縮され、作業の効率化を図ることができる。
【0018】
さらに、複数のカラーカメラを使用することで、立体的な実写画像を表示させ、奥行きを感じさせることで、より容易に掘削すべき箇所が把握できるようになる。また、距離画像カメラ及びカラーカメラを固定するカメラ保持具が移動手段部に搭載されていれば、発破後に迅速に最適な位置に移動して撮影を行うことができるようになるうえに、振動の大きい重機に撮影部を搭載する場合と比べて、振動の影響(測定誤差、耐久性)を抑えることができる。
【0019】
また、カメラ保持具に3個以上の測量ターゲットがアームを介して取り付けられていれば、距離画像カメラ及びカラーカメラとの幾何学的な既知の位置関係に基づいて、撮影部の位置情報及び姿勢情報を精度よく計測することができる。
【0020】
さらに、余掘り量算出部によって三次元の点群データと設計データとを比較して余掘り量を算出させることで、施工管理の負担を軽減することができるようになる。また、表示部が裸眼立体表示装置であれば、重いヘッドマウントディスプレイを装着したり、特殊な眼鏡をかけることなく容易に立体視できるため、重機のオペレータの疲労や不快感を軽減することができる。また、重機のオペレータの視野が狭められないため、周囲の危険を察知しやすく安全である。
【0021】
そして、カメラ保持具に複数の撮影範囲が異なる距離画像カメラを取り付けて、それぞれの絶対座標系に変換された点群データをつなぎ合わせることで、撮影範囲の拡大が可能になるので、撮影すべき掘削対象が広い場合にも対応できるようになる。
【0022】
また、本発明のトンネル掘削支援方法では、掘削対象の点群データを設計データと比較することで注目すべき点群データを顕在化させるとともに、RGB画像に基づく画像に顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる。
【0023】
このように、実物の掘削状況をそのまま示す実写画像に顕在化された点群データが重ね合わされていれば、重機のオペレータは、掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することができるようになり、当り取りの精度向上と時間短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態のトンネル掘削支援システムの利用状況を例示した説明図である。
【
図2】本実施の形態のトンネル掘削支援システムの構成を示した説明図である。
【
図3】カメラユニットの構成を説明する斜視図である。
【
図4】カメラユニットの位置情報及び姿勢情報の求め方の説明図である。
【
図5】本実施の形態のトンネル掘削支援システムの処理の流れを示した説明図である。
【
図6】RGB画像に基づく画像に顕在化された点群データを重ねて表示させた合成画像を例示した説明図である。
【
図7】点群データをサーフェス化するトンネル掘削支援システムの処理の流れを示した説明図である。
【
図8】本実施の形態のトンネル掘削支援システムを使用して行われるトンネル掘削の工程を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態のトンネル掘削支援システムの利用状況を例示した説明図である。
図2は、本実施の形態のトンネル掘削支援システムの構成を示した説明図である。
【0026】
本実施の形態のトンネル掘削支援システムは、トンネルの掘削状況を表示させるために使用される。山岳トンネルなどのトンネルの掘削現場では、掘削や発破後に切羽などの掘削断面の掘削状況の確認を行い、掘削不足の箇所に対しては、ブレーカなどの掘削機5で追加掘削(当り取り)が行われる。
【0027】
そこで、本実施の形態のトンネル掘削支援システムによって、設計データと比較した現在のトンネルの掘削状況を表示させることで、安全かつ効率的に当り取りなどの掘削作業が行えるようにする。
【0028】
本実施の形態のトンネル掘削支援システムは、
図1,2に示すように、切羽及び隣接するトンネル周壁などの掘削対象を撮影する撮影部となるカメラユニット1と、各種演算処理を行うコンピュータ(処理用PC部13、管理用PC部6)と、撮影及び演算処理結果を表示させる表示部(重機用モニタ51、裸眼立体表示装置61)とを備えている。
【0029】
図3は、カメラユニット1の構成を示した説明図である。カメラユニット1は、掘削対象の点群データを取得するための距離画像カメラとなるToFカメラ11と、RGB画像を取得するためのカラーカメラ12とを備えている。
【0030】
ToFカメラ11は、赤外光などの照射光が被写体に反射して戻ってくるまでの時間(Time-of-Flight)を測定することで、被写体までの距離を計測することができるカメラである。ToFカメラ11は、光の照射範囲を拡散して、カメラのように画素毎の明るさの情報を得るだけでなく、距離情報をも得ることができる。要するに、ToFカメラ11で撮影することによって、掘削対象となる範囲の三次元の点群データを得ることができる。
【0031】
ToFカメラ11は、ステレオカメラに比べて距離演算負荷が少なく、暗所でも撮影(計測)ができるという特徴がある。また、レーザーを照射しながら360度回転して計測を行う3Dスキャナによって点群データを得ようとすれば、1回の計測に数十秒から数分の計測時間がかかるが、ToFカメラ11であれば、1秒程度の撮影時間で点群データを得ることができる。
【0032】
ToFカメラ11は、1台でも対象物の三次元点群データを取得することができるが、本実施の形態のカメラユニット1には、広い画角を得るために、2台のToFカメラ11が搭載されている。要するに、2台のToFカメラ11で取得される点群データを繋ぎ合わせることで、掘削対象が径の大きなトンネルの切羽等であっても、一度に撮影することができるようになる。
【0033】
一方、カラーカメラ12は、立体画像を生成させるためには、複数台がカメラユニット1に搭載される。本実施の形態のカメラユニット1には、4台のカラーカメラ12が搭載されている。
【0034】
間隔を置いて配置された2台のカラーカメラ12で同時に撮影して2枚のRGB画像を取得して視差画像を生成すれば、被写体の立体画像を作成することができる。さらに、3台以上のカラーカメラ12で撮影を行うことで、3枚以上の視差画像を作成することができるようになり、オペレータなど作業員の視点が表示部からずれた場合にも対応することができるようになる。
【0035】
カメラユニット1によって取得される点群データ及び視差画像は、後の処理で設計データと比較したり、点群データと視差画像とを重ね合わせたりするために、各々のカメラの視点(どこから見ているか)と姿勢(どこを向いているか)、すなわち位置情報(三次元座標)と姿勢情報(三次元ベクトル)を取得しておく必要がある。
【0036】
本実施の形態のカメラユニット1は、
図3に示すようなカメラ保持具2に固定されており、ToFカメラ11とカラーカメラ12との相対的な位置関係は、既知の情報となる。さらに、カメラ保持具2は3本以上のアーム21を有しており、それぞれのアーム21の先端には、測量ターゲットとなるプリズム41が取り付けられている。
【0037】
プリズム41は、カメラユニット1の位置情報及び姿勢情報を検出するためにカメラ保持具2に取り付けられる。このため、3個のプリズム41の位置とToFカメラ11及びカラーカメラ12との相対的な位置関係も、既知の情報となる。
【0038】
カメラユニット1の位置情報及び姿勢情報は、外部からトータルステーション4によって3個以上のプリズム41の位置を測量することで算出される。3個以上のプリズム41は、それぞれシャッターを有してトータルステーション4と連携して開閉し、順番に計測するものを使用すれば、自動計測が可能となる。またこの際、プリズム41どうしの距離は、大きいほど位置及び姿勢の計測精度が高くなる。カメラ保持具2は、移動手段部となる撮影車両3に搭載されるので、車両の幅に収まる最大の長さのアーム21の先端に取り付けることで、距離を確保するのが望ましい。
【0039】
プリズム41の個数は、カメラユニット1の位置と姿勢を三次元空間で一意に特定するために3個以上が必要となるが、計測値のばらつきを低くするためには、個数は多いほどよい。反面、個数が多くなると、トータルステーション4で計測する時間が増加することになるので、そのバランスを考慮する必要はある。
【0040】
カメラユニット1は、トンネル内の粉塵や湧水による水滴といった環境にさらされ、不陸を走行する撮影車両3に搭載して使用するため、振動、粉塵、水滴などの影響を受けにくい構成にしておく必要がある。ToFカメラ11は防塵性及び防滴性を備えたものを選択し、カラーカメラ12は防塵及び防滴性能のあるケースに収め、防振ゴム等を介在させてカメラ保持具2に取り付けることができる。また、カメラユニット1を固定するカメラ保持具2ごと防振雲台22に取り付けることで、振動の影響を抑えることもできる。
【0041】
防振雲台22は、撮影車両3の荷台に設けられた架台23の上に取り付けられる。架台23に載せることによって、例えばカメラユニット1の高さを、掘削機5のオペレータの視点の高さと同程度になるようにする。
【0042】
撮影は、撮影車両3を不陸のある坑内で停車して行われるため、車両の停止位置や角度によっては、必要な撮影範囲がToFカメラ11やカラーカメラ12の画角に収まらない場合がある。このため、カメラユニット1のパンやチルトを、遠隔操作や自動制御で行えるように構成することが望ましい。
【0043】
図4は、カメラユニット1の位置情報及び姿勢情報の求め方の説明図である。カメラユニット1には、カラーカメラ12が4台と、ToFカメラ11が2台と、トータルステーション4で測定するためのプリズム41が3個とが装着されている。ToFカメラ11とカラーカメラ12とプリズム41との間の幾何学的な位置関係は既知のため、これらの既知パラメータと、トータルステーション4の測定値とを用いて、カメラユニット1の位置と姿勢を計算する。
【0044】
ここで、3個のプリズム41の間の重心42から、それぞれのプリズム41までのベクトルを、vga,vgb,vgcと定義する。vga,vgb,vgcは、それぞれ三次元ベクトルで、xyz座標を持つ。また、カメラユニット1の中の着目する1台のカメラ(ここではToFカメラ11)の重心42からのベクトルを、vgcamと定義する。x軸とy軸の正方向をそれぞれ北向きと東向きとする左手座標系において、カメラユニット1が水平面でx軸の正方向を向いている状態を初期状態と定義すると、上記ベクトルの初期値vga0,vgb0,vgc0,vgcam0は既知パラメータのみから決定される。
【0045】
そして、カメラユニット1が初期状態とは異なるときの重心42からそれぞれのプリズム41までの各々のベクトルは、回転行列Qを用いて次式で示すことができる。
v*=Qv*0
ここに、*にはga,gb,gc,gcamが入る。
【0046】
ここで、qを単位クォータニオンとし、q=q
0+q
1i+q
2j+q
3kで表されるとすると、回転行列Qは以下の式で表すことができる。
【数1】
【0047】
トータルステーション4による測量によって、それぞれのプリズム41の座標Pa,Pb,Pcが得られ、重心42の座標Pgは、Pg=(Pa+Pb+Pc)/3と表されることから、未知の姿勢においてもベクトルvga(=Pa-Pg),vgb(=Pb-Pg),vgc(=Pc-Pg)が求められる。
【0048】
こうして求められた3つのベクトルvga,vgb,vgcのそれぞれに対して、上記した式v*=Qv*0が成り立つことから、Σ(v*-Qv*0)を最小とするようなq0,q1,q2,q3を最小二乗法により求める。
【0049】
以上により、初期状態に対する計測時のカメラユニット1の重心42周りの回転量(q)が求まり、そのときのカメラ位置の座標はPcam=Pg+Qvgcam0と表すことができる。ToFカメラ11により測定される点群データは、ToFカメラ11の位置を原点とする相対座標系で得られる。さらに、絶対座標系で表された設計データと比較するために、点群データに回転行列Qを乗じ、上記で求められたカメラ位置の座標Pcamに平行移動させることで、点群データを絶対座標系に変換する。
【0050】
このようなカメラユニット1の位置情報及び姿勢情報の取得のための演算処理や座標変換の演算処理は、例えば撮影車両3に搭載された処理用PC部13で行われる(
図2参照)。
【0051】
また、この処理用PC部13には、設計データと点群データとを比較して、設定された条件を満たす注目すべき点群データを顕在化させる抽出処理部も設けられる。要するに、ToFカメラ11の位置情報及び姿勢情報が特定されると、点群データの絶対座標も明らかになるので、抽出処理部では、撮影によって得られた掘削対象の点群データを、同じ絶対座標で表される設計データと比較する。
【0052】
そして、設計データよりトンネルの内空側に突出している点群データについては、当り取りの対象とするために、突出している程度に応じた着色をして顕在化させる。要するに、設計ラインを超えるという条件を満たす注目すべき点群データには、重機のオペレータにとって目立つ、例えば赤色や黄色の着色を行う。他方、設計データより引っ込んでいる箇所については、掘削対象とはならないので、重機のオペレータにとって目立たない、例えば青色や緑色に着色する。
【0053】
処理用PC部13は、
図2に示すように、撮影車両3に搭載された無線ルータなどの無線伝送装置15やモニタ14などと接続されており、トータルステーション4による計測結果を受け取ることができる。
【0054】
また、処理用PC部13による演算処理結果は、無線伝送装置15を介して、掘削機5の無線伝送装置52や施工管理を行う事務所に設置された無線伝送装置62に送られる。なお、事務所の無線伝送装置62は例示であって、トンネル掘削現場と事務所との通信は、トンネル内の無線中継装置を介して有線を加えて行うこともできる。
【0055】
掘削機5には、RGB画像に基づいて生成された視差画像に、顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる表示部となる重機用モニタ51が設置される。重機用モニタ51は、PC(パーソナルコンピュータ)に接続される液晶モニタなどであってもよいし、タブレット端末などのモニタであってもよい。
【0056】
また、重機用モニタ51に裸眼立体モニタを使用すれば、複数の視差画像を表示することで裸眼によって容易に画像を立体視することが可能になる。立体視により重機のオペレータは奥行き感を得られるようになるため、掘削すべき突出箇所の把握が容易になる。
【0057】
一方、事務所に設置される管理用PC部6にも、処理用PC部13による演算処理結果が送られる。管理用PC部6では、余掘り量算出部において、点群データと設計データとに基づいて、余掘り量を算出させることができる。例えば、点群データの各点の設計面からの距離に単位面積を乗ずることで、1掘削サイクル分など指定範囲の余掘り量となる体積を算出する。そして、管理用PC部6に接続されたモニタには、処理用PC部13による演算処理結果や、余掘り量算出部の算出結果などを表示させることができる。
【0058】
また、管理用PC部6には、裸眼立体表示装置61を接続することもできる。裸眼立体表示装置61は、裸眼立体モニタ、又はスクリーン611とプロジェクタ612とによって構成される装置で、ヘッドマウントディスプレイや特殊な眼鏡などを装着しなくても、裸眼によって容易に画像を立体視することが可能になる。また、観察者が左右に頭部をずらしても立体視が可能である。詳細については、特開2022-59898号公報に開示されている。
【0059】
次に、本実施の形態のトンネル掘削支援システムの処理の流れについて、
図2及び
図5を参照しながら説明する。
カメラユニット1の位置と姿勢の計測は、撮影車両3を停止し、カメラユニット1を被写体に向けた後に行われる。例えば、カメラ保持具2に固定された3個の開閉式のプリズム41を、トータルステーション4によって自動測量させる。トータルステーション4は、
図1に例示したように、例えば坑壁に設置されていて、測量ターゲットとなるプリズム41の位置を自動で測量させることができる。
【0060】
自動測量された絶対座標系のプリズム41の座標は、無線伝送によって処理用PC部13に送られ、カメラユニット1の位置と姿勢の算出が行われる。一方、カメラユニット1のToFカメラ11とカラーカメラ12とによって、切羽やその周辺などの掘削対象となる箇所の撮影が行われる。
【0061】
ToFカメラ11による1回の撮影は、短時間(例えば1秒程度)で終了する。また、2台のToFカメラ11が配置されていることで、切羽の全幅を一度に撮影することができる。こうしたToFカメラ11の撮影によって、掘削対象の点群データを取得することができる。撮影によって取得された点群データは、カメラユニット1の位置情報及び姿勢情報に基づいて、絶対座標に変換される。
【0062】
絶対座標に変換された点群データは、CIM(Construction Information Modeling)などの三次元の設計データと比較される。そして、設計データと比較し、差の方向と程度に基づいて、点群の色分けがされる。例えば、設計ラインよりトンネル内側に突出している点は暖色系に着色され、トンネル外側に引っ込んでいる点は寒色系に着色される。
【0063】
一方、複数台(
図5では4台)のカラーカメラ12においても、掘削対象の撮影が行われ、各カメラのRGB画像から複数の視点の視差画像(実写画像)が生成される。そして、着色された点群データについても、複数台のカラーカメラ12の位置情報及び姿勢情報に基づいて、それぞれの視点から見た色分けされた点群データの視差画像(点群画像)が生成される。
【0064】
図6の左側には、同一視点の点群画像M1と実写画像M2とを例示している。この点群画像M1は、1掘削サイクルに該当する1リング分(トンネル軸方向の長さで、例えば1mから1.2m程度)だけが表示されている。そして、点群画像M1と実写画像M2とを指定の透過率で重ね合わせることで、
図6の右側に示したような合成画像M3を作成する。この合成画像M3は、視差画像の数に応じて作成される。要するに、4枚の視差画像(M1、M2)があれば、4枚の合成画像M3が作成される。
【0065】
このようにして作成された複数枚の合成画像M3は、無線伝送によって送られ、掘削機5のオペレータが操作中に見られる位置に設置された重機用モニタ51に表示される。オペレータは、実際に目視できる切羽等と、重機用モニタ51に表示された合成画像M3とを見比べながら、掘削作業を行うことになる。
【0066】
一方、設計データと比較された点群データは、無線伝送や有線伝送によって、現場事務所などに設置された管理用PC部6に送られ、余掘り量の計算などに利用される。また、カラーカメラ12の撮影によって得られた実写画像は、管理用PC部6に送られ、それに接続された裸眼立体表示装置61によって立体的に表示される。
【0067】
ところで、
図5では、点群データをそのまま利用する処理の流れを説明したが、点群から面を作成してから、その面を色分けなどによって顕在化させる処理にすることもできる。
図7は、点群データをサーフェス化するトンネル掘削支援システムの処理の流れを示した説明図である。
【0068】
サーフェス化する場合は、座標変換された点群データから、掘削面を表すサーフェスデータを生成し、設計データによって生成された設計モデルのサーフェス(トンネル内周面)との比較を行う。そして、設計ラインに対する現況の凹凸の度合いに応じて、サーフェスが色分けされる。
【0069】
次に、本実施の形態のトンネル掘削支援システムを使用したトンネル掘削の各工程について、
図8を参照しながら説明する。
以下では、発破を使用するNATM工法による山岳トンネルの掘削工事の施工を例に説明する。
【0070】
まず、発破の工程から説明を開始すると、発破後に、ホイールローダやバックホウ等の重機によってずり出しを行う。続いて、カメラユニット1を搭載した撮影車両3を、掘削箇所(切羽)から数mまでの位置に移動させ、停車させる。
【0071】
そして、カメラユニット1を掘削対象(掘削部)に向けた状態で、トータルステーション4によってカメラユニット1の位置と姿勢を計測させる。カメラユニット1による掘削部の撮影は、ToFカメラ11とカラーカメラ12とによって同時に行われ、掘削部の点群データと実写画像とが取得される。
【0072】
点群データについては、ToFカメラ11の位置情報及び姿勢情報に基づいて座標変換が行われ、設計データと比較される。そして、設計ラインに対する現況の凹凸の度合いに応じて、各点が色分けされる。
【0073】
実写画像M2と色付けされた点群画像M1とは、同一視点で重ね合わせが行われ、重ね合わされた合成画像M3は、掘削機5に無線伝送され、搭載された重機用モニタ51に表示される。要するに重機用モニタ51には、当り取り箇所が、目立つ着色がされた点群として実写画像の上に表示されている。そこで、オペレータは、重機用モニタ51を見ながら、掘削機5のブレーカなどによって当り取りを実施する。
【0074】
実写画像は、事務所にも伝送されるので、裸眼立体表示装置61によって遠隔から立体視で切羽観察を行うことができる。また、点群データも事務所に伝送されるので、設計との比較から、余掘り量(体積)を算出することができる。
【0075】
トンネルの掘削現場では、当り取り後に、必要に応じて支保工の建込みが行われる。続いて、掘削箇所と切羽には、コンクリートの吹付けとロックボルトの打設が行われる。一方、事務所では、切羽観察結果と余掘り量の算出結果などを参照しながら、次回の発破計画の策定が行われる。
【0076】
要するに、余掘り量算出部による余掘り量の算出結果と、複数のカラーカメラ12による視差画像を用いて遠隔からの切羽の詳細観察を行うことで、次回の発破計画に活かすことができる。例えば、発破の結果に基づいて算出される余掘り量(掘削不足又は掘削過多)と、切羽の岩盤の状態(良し悪し、目の方向等)から、当初予定していた次回の発破計画(装薬の配置や量など)を一部修正して、より精度の高い発破を行えるようにする。このようにして策定された計画に基づいて、次回の発破のための削孔と装薬が行われ、発破からの工程が繰り返される。
【0077】
次に、本実施の形態のトンネル掘削支援システム及びトンネル掘削支援方法の作用について説明する。
このように構成されたトンネル掘削支援システムでは、カメラユニット1によって取得される掘削対象の点群データを設計データと比較することで注目すべき点群データを顕在化させるとともに、実写画像に顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる重機用モニタ51を備えている。
【0078】
RGB画像に基づく視差画像は実物の掘削状況をそのまま示す実写画像であるため、掘削機5のオペレータは、実写画像に重ね合わされた着色された点群データを見ることで、掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することができるようになる。この結果、当り取りの精度向上と時間短縮を図ることができる。
【0079】
また、点群データをToFカメラ11によって取得するのであれば、3Dスキャナによって点群データを取得する場合(数十秒から数分)と比べて、掘削対象の三次元の点群データを極めて短い時間(1秒程度)で取得することができるようになる。この結果、掘削状況の表示までの時間が短縮され、掘削に迅速に取り掛かることができるようになったり、トンネル掘削のサイクルタイムが短くなったりして、作業の効率化を図ることができる。
【0080】
また、複数のカラーカメラ12を使用することで、立体的な実写画像を表示させれば、奥行きを感じることで凹凸の状態をよりリアルに把握することができるようになり、容易に掘削すべき箇所を把握することが可能になる。さらに、カメラ保持具2に複数のToFカメラ11を取り付けることで、撮影すべき掘削対象が広い場合にも対応できるようになる。
【0081】
また、ToFカメラ11及びカラーカメラ12を固定するカメラ保持具2が撮影車両3に搭載されていれば、発破後に迅速に最適な位置に移動して撮影を行うことができるようになるうえに、振動の大きい掘削機5に撮影部を搭載する場合と比べて、振動の影響(測定誤差、耐久性)を抑えることができる。
【0082】
また、カメラ保持具2の3本以上のアーム21にそれぞれプリズム41が取り付けられていれば、ToFカメラ11及びカラーカメラ12との幾何学的な既知の位置関係に基づいて、カメラユニット1の位置情報及び姿勢情報を、短時間で精度よく計測することができる。
【0083】
さらに、余掘り量算出部によって三次元の点群データと設計データとを比較して余掘り量を算出させることで、施工管理の負担を軽減することができるようになる。また、管理用PC部6に裸眼立体表示装置61が接続されていれば、重いヘッドマウントディスプレイを装着したり特殊な眼鏡をかけたりすることなく、容易に実写画像を立体視できるようになる。
【0084】
また、重機用モニタ51も裸眼立体モニタなどの裸眼立体表示装置となっていれば、作業員は疲労や不快感を感じることなく、容易に実写画像を立体視することができる。また、作業員の視野が狭められないため、周囲の危険を察知しやすく安全である。
【0085】
また、本実施の形態のトンネル掘削支援方法では、掘削対象の点群データを設計データと比較することで注目すべき点群データを着色によって顕在化させるとともに、実写画像に顕在化された点群データを同一視点で重ねて表示させる。
【0086】
このように、実物の掘削状況をそのまま示す実写画像に顕在化された点群データが重ね合わされていれば、作業員は、掘削すべき箇所を直感的かつ正確に把握することができるようになり、当り取りの精度向上と時間短縮を図ることができる。
【0087】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0088】
例えば、前記実施の形態では、複数のカラーカメラ12によって視差画像を生成して立体画像を表示させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、立体画像を生成しない場合は、撮影部のカラーカメラ12は1台であってもよい。
【0089】
また、前記実施の形態では、点群データの取得をToFカメラ11で行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば3Dスキャナ、ステレオカメラなどによって点群データを取得させることもできる。
【0090】
また、前記実施の形態では、既存の車両を撮影車両3として利用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、遠隔操作や自動走行が行える専用車両を移動手段部にすることもできる。
【0091】
さらに、前記実施の形態では、抽出処理部によって注目すべき箇所を暖色系の色で着色する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば注目不要な箇所を非表示にするような処理であってもよい。
【0092】
また、前記実施の形態では、山岳トンネルの発破による掘削作業を例に説明したが、これに限定されるものではなく、発破を使用せずに掘削をおこなうトンネルにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 :カメラユニット(撮影部)
11 :ToFカメラ(距離画像カメラ)
12 :カラーカメラ
13 :処理用PC部
2 :カメラ保持具
21 :アーム
3 :撮影車両(移動手段部)
41 :プリズム(測量ターゲット)
51 :重機用モニタ(表示部)
61 :裸眼立体表示装置
M1 :点群画像
M2 :実写画像
M3 :合成画像