(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029751
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマー、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/22 20060101AFI20240228BHJP
C08G 65/44 20060101ALI20240228BHJP
C08G 61/02 20060101ALI20240228BHJP
C12N 9/08 20060101ALN20240228BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240228BHJP
A61K 31/775 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C12P7/22
C08G65/44
C08G61/02
C12N9/08
C12N9/02
A61K31/775
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120265
(22)【出願日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022131900
(32)【優先日】2022-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】外波 弘之
【テーマコード(参考)】
4B064
4C086
4J005
4J032
【Fターム(参考)】
4B064AC16
4B064CA21
4B064CB11
4B064CD20
4C086AA02
4C086AA04
4C086FA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC20
4J005AA26
4J005BB01
4J005BB02
4J032CA04
4J032CB01
4J032CD00
4J032CE03
4J032CE22
(57)【要約】
【課題】低コストで簡便にかつ短時間で大量合成でき、保存安定性が良好な、抗体医薬のような、標的分子に特異的に結合して、それにより機能を発揮し得る物質を提供する。
【解決手段】本発明は、鋳型となる標的分子の存在下で、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の酸化重合を行う工程を含む、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーの製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型となる標的分子の存在下で、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の酸化重合を行う工程を含む、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項2】
酸化重合が、酵素触媒を用いて行われる、請求項1記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項3】
酸化重合が、鋳型となる標的分子の存在下、溶媒中、酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)を触媒として、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分を酸化剤と作用させることにより行われる、請求項1記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項4】
酸化還元酵素が酸化酵素(オキシダーゼ)であり、かつ酸化剤が酸素である、請求項3記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項5】
酸化還元酵素が過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)であり、かつ酸化剤が過酸化水素である、請求項3記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項6】
標的分子がタンパク質である、請求項3記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項7】
タンパク質が可溶性タンパク質である、請求項6記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項8】
タンパク質が等電点4~11のタンパク質である、請求項7記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項9】
タンパク質が単量体または二量体のタンパク質である、請求項7記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項10】
芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物が、フェノール性化合物である、請求項3記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項11】
フェノール性化合物が、式(I):
【化1】
[式中、n個のR
1は、独立してそれぞれ、アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;アラルキル基;ヒドロキシ基;アルコキシ基;アルケニルオキシ基;アルキニルオキシ基;アリールオキシ基;アラルキルオキシ基;カルボキシ基;アルコキシカルボニル基;アリールオキシカルボニル基;アラルキルオキシカルボニル基;アルキルカルボニル基;アミノ基;モノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基;アルキルカルボニルアミノ基;シアノ基;ハロゲン原子;ホルミル基;アミノ基、モノ-C
1-6アルキルアミノ基、ジ-C
1-6アルキルアミノ基、C
1-6アルキル-カルボニルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C
1-6アルコキシ-カルボニル基、C
6-10アリールオキシ-カルボニル基、C
7-13アラルキルオキシ-カルボニル基、ヒドロキシ基、C
1-6アルコキシ基、ベンゾイルオキシ基、シアノ基およびハロゲン原子から選ばれる置換基でそれぞれ置換された、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基もしくはアルキルカルボニルアミノ基;アミノ酸残基;糖残基;または核酸残基;を示し、ここで、当該アミノ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基は、保護されていてもよく、nは、0~4の整数を示す。但し、2位、4位および6位の少なくとも1つは無置換である。]
で表される化合物である、請求項10記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項12】
フェノール性化合物が、式(Ia)または式(Ib):
【化2】
[式中、R
1aおよびR
1bは、独立してそれぞれ、式(I)におけるR
1と同義である。]
で表される化合物である、請求項10記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項13】
標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーが、極性溶媒に可溶である、請求項10~12のいずれかに記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項14】
極性溶媒が水である、請求項13記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項15】
フェノール性化合物が、p-メトキシフェノール、m-クレゾール、チラミン、p-ヒドロキシフェニル酢酸、p-tert-ブチルフェノールおよびチロソールから選択される、請求項10記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項16】
酸化重合工程後、標的分子を除去する工程をさらに含む、請求項3記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項17】
標的分子がタンパク質であり、かつ標的分子の除去が、酸処理またはプロテアーゼ処理により行われる、請求項16記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項18】
酸処理が、塩酸を用いて加熱下で行われる、請求項17記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【請求項19】
請求項1~3のいずれかに記載の方法で得られる、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマー。
【請求項20】
水に可溶である、請求項19記載の芳香族ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマー、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病関連のタンパク質を抗原とする抗体は、抗体医薬として近年益々利用されている。しかしながら人工的に作製されるこのような抗体は、化学的に合成される医薬品と比較すると高コストであり短時間での大量合成が困難である。また、保存安定性も低く、その管理運用には各種リソースを必要としている。
【0003】
フェノールポリマーは、下式に示されるように、ベンゼン環を構成する炭素原子が直接結合(C-C結合)したフェニレンユニットと、ベンゼン環が酸素原子を介して結合(C-O結合)したオキシフェニレンユニットを主鎖骨格としてもつ高分子材料であり、パラ位に種々の官能基(R)を導入できる。
【0004】
【0005】
フェノールポリマーを合成する方法は従来から研究されており、そのうち、ペルオキシダーゼなどの酵素触媒によりフェノール類を重合させる方法はいくつか報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。これまでの研究例を見ると、芳香族ポリマーとして合成フェノールポリマーをとらえ、構造材料や電子部品材料としての応用を意図したものが主流であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromol. Chem. Phys. 1999, 200, 1998-2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低コストで簡便にかつ短時間で大量合成でき、保存安定性が良好な、抗体医薬のような、標的分子に特異的に結合して、それにより機能を発揮し得る物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記物質の材料として、低分子フェノール類からin vitroで化学的な方法で製造できるフェノールポリマーに代表される芳香族ポリマーに着目した。合成芳香族ポリマーは、構造材料や電子部品材料として期待される性質の他に、その分子としての性質が、タンパク質と類似していると考えた。合成芳香族ポリマーがタンパク質と類似する性質として、(i) 主鎖骨格が硬い(rigid);(ii) 側鎖にアルキル基、芳香環、ヒドロキシ基、カルボキシ基などをランダムに導入できるので、多様でより複雑な高次構造を有し得る;という2つの性質が主に挙げられる。異なる性質として、(iii) 主鎖骨格を構成する結合が1種類ではなくC-C結合とC-O結合からなるので、さらに多様な構造を有し得、その結合の比は製造条件によりコントロール可能である;という性質が挙げられる。本発明者は、このようなこの3つの性質に着目し、このような性質を利用すれば、抗体医薬のような、ある特定の標的分子と特異的に結合し、それにより何らかの機能を発揮し得る芳香族ポリマーを製造できるのではないか、という推測に基づいて、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。このような芳香族ポリマーに対するアプローチは独自のものであり、これまでに研究例がない。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 鋳型となる標的分子の存在下で、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の酸化重合を行う工程を含む、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーの製造方法。
[2] 酸化重合が、酵素触媒を用いて行われる、上記[1]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[3] 酸化重合が、鋳型となる標的分子の存在下、溶媒中、酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)を触媒として、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分を酸化剤と作用させることにより行われる、上記[1]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[4] 酸化還元酵素が酸化酵素(オキシダーゼ)であり、かつ酸化剤が酸素である、上記[3]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[5] 酸化還元酵素が過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)であり、かつ酸化剤が過酸化水素である、上記[3]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【0011】
[6] 標的分子がタンパク質である、上記[3]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[7] タンパク質が可溶性タンパク質である、上記[6]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[8] タンパク質が等電点4~11のタンパク質である、上記[7]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[9] タンパク質が単量体または二量体のタンパク質である、上記[7]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【0012】
[10] 芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物が、フェノール性化合物である、上記[3]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[11] フェノール性化合物が、式(I):
【0013】
【0014】
[式中、n個のR1は、独立してそれぞれ、アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;アラルキル基;ヒドロキシ基;アルコキシ基;アルケニルオキシ基;アルキニルオキシ基;アリールオキシ基;アラルキルオキシ基;カルボキシ基;アルコキシカルボニル基;アリールオキシカルボニル基;アラルキルオキシカルボニル基;アルキルカルボニル基;アミノ基;モノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基;アルキルカルボニルアミノ基;シアノ基;ハロゲン原子;ホルミル基;アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、C1-6アルキル-カルボニルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリールオキシ-カルボニル基、C7-13アラルキルオキシ-カルボニル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、ベンゾイルオキシ基、シアノ基およびハロゲン原子から選ばれる置換基でそれぞれ置換された、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基もしくはアルキルカルボニルアミノ基;アミノ酸残基;糖残基;または核酸残基;を示し、ここで、当該アミノ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基は、保護されていてもよく、nは、0~4の整数を示す。但し、2位、4位および6位の少なくとも1つは無置換である。]
で表される化合物である、上記[10]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[12] フェノール性化合物が、式(Ia)または式(Ib):
【0015】
【0016】
[式中、R1aおよびR1bは、独立してそれぞれ、式(I)におけるR1と同義である。]
で表される化合物である、上記[10]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[13] 標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーが、極性溶媒に可溶である、上記[10]~[12]のいずれかに記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[14] 極性溶媒が水である、上記[13]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[15] フェノール性化合物が、p-メトキシフェノール、m-クレゾール、チラミン、p-ヒドロキシフェニル酢酸、p-tert-ブチルフェノールおよびチロソールから選択される、上記[10]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【0017】
[16] 酸化重合工程後、標的分子を除去する工程をさらに含む、上記[3]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[17] 標的分子がタンパク質であり、かつ標的分子の除去が、酸処理またはプロテアーゼ処理により行われる、上記[16]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
[18] 酸処理が、塩酸を用いて加熱下で行われる、上記[17]記載の芳香族ポリマーの製造方法。
【0018】
[19] 上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法で得られる、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマー。
[20] 水に可溶である、上記[19]記載の芳香族ポリマー。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法で製造される芳香族ポリマーは、既存の抗体医薬などのタンパク質とは分子構造が全く異なるものであるが、主鎖骨格の硬さから、タンパク質と同様に、標的分子と特異的な相互作用が生じる可能性がある。これは、パラ位に官能基(R)を有するフェノールポリマーを例に挙げると、下式に示されるように、ビフェニル結合(C-C結合)の回転に制限がかかることから期待されるものであり、このビフェニル結合の回転の制限は、ペプチド結合のC-N結合がもつ部分的な二重結合性(回転の制限)に対応する。
【0020】
【0021】
このように、芳香族ポリマーはタンパク質と分子構造が類似していることから、本発明の方法、すなわち標的分子を用いた鋳型重合により製造される芳香族ポリマーでは、標的分子の高次構造に対応する構造が形成され得、この構造を有する部位が標的分子に特異的に結合し得る部位となる。また、主鎖骨格の硬さに起因して、鋳型である標的分子を除去した後でも、芳香族ポリマーは室温でその高次構造が維持される。従って、上記部位の構造も硬く維持されているので、当該標的分子(鋳型重合に使用した標的分子)と特異的に再結合が可能となる。
よって、このような芳香族ポリマーは、標的分子に特異的に結合することにより機能を発揮することが期待できる。例えば、抗体医薬のように、標的分子(抗原)に特異的に結合して、生理的機能を発揮し得る「人工抗体」となり得る。
【0022】
また、本発明の方法で製造される芳香族ポリマーは、上述したように、主鎖骨格の硬さから、室温で高次構造を維持できるので、分子インプリンティング法で製造される、主鎖骨格が硬くないビニルポリマーに比べて、低分子量(分子量数百以下)で機能発現でき、また、各種置換基の導入により所望の特性(溶解性等)を付与できるので、適用可能な用途が広範である。
【0023】
さらに、本発明によれば、特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーを、抗体医薬とは異なり動物や細胞培養等を必要としないin vitroで化学的な方法で製造できるので、低コストで簡便にかつ短時間で大量合成できる。また、芳香族ポリマー自体は従来から構造材料や電子部品材料に利用されていることから、本発明の方法で製造される、特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーも保存安定性に優れる。
【0024】
このように製造される特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーは、従来の化学合成による「低分子医薬品」、抗体医薬などの「バイオ医薬品」とは異なる、新たなカテゴリーの医薬品として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、モノマー成分が標的分子と相互作用しながら酸化重合が進行することを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1-1で得られたaPMP(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、塩酸による洗浄の代わりにエタノールによる洗浄でアルブミン除去して得られたaPMPのIRスペクトル、PMP(エタノール洗浄)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルを示す。
【
図3】
図3は、実施例2-1で得られたaPMC(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、塩酸による洗浄の代わりにエタノールによる洗浄でアルブミン除去して得られたaPMCのIRスペクトル、PMCのIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、実施例3-2で得られたpePHA(塩酸洗浄でペプシン除去)のIRスペクトル、PHAのIRスペクトル、およびペプシンのIRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、実施例4-2で得られたaPT(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、塩酸による洗浄の代わりにエタノールによる洗浄でアルブミン除去して得られたaPTのIRスペクトル、PTのIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルを示す。
【
図6】
図6は、実施例1で得られた各種PMPのUVスペクトルを示す。
【
図7】
図7は、実施例2で得られた各種PMCのUVスペクトルを示す。
【
図8-1】
図8-1は、実施例3-3で得られたaPHAのUVスペクトルを示す。
【
図8-2】
図8-2は、実施例3-5で得られたgPHAのUVスペクトルを示す。
【
図8-3】
図8-3は、実施例3-2で得られたpePHAのUVスペクトルを示す。
【
図8-4】
図8-4は、実施例3-4で得られたtPHAのUVスペクトルを示す。
【
図8-5】
図8-5は、実施例3-6で得られたαPHAのUVスペクトルを示す。
【
図9】
図9は、実施例4で得られた各種PTのUVスペクトルを示す。
【
図10】
図10は、実施例5で得られたaPMP(ラッカーゼ触媒使用)(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、PMP(ラッカーゼ触媒使用)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルを示す。
【
図11】
図11は、実施例5で得られたaPMP(ラッカーゼ触媒使用)のUVスペクトル、およびPMP(ラッカーゼ触媒使用)のUVスペクトルを示す。
【
図12】
図12は、実施例6で得られたaPBP(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、PBPのIRスペクトル、アルブミンのIRスペクトル、およびPBPとアルブミンの混合物のIRスペクトルを示す。
【
図13】
図13は、実施例6で得られたaPBPのUVスペクトル、およびPBPのUVスペクトルを示す。
【
図14】
図14は、実施例7で得られたaP(BP/TS)(塩酸洗浄でアルブミン除去)のIRスペクトル、P(BP/TS)のIRスペクトル、アルブミンのIRスペクトル、およびP(BP/TS)とアルブミンの混合物のIRスペクトルを示す。を示す。
【
図15】
図15は、実施例7得られたaP(BP/TS)のUVスペクトル、およびP(BP/TS)のUVスペクトルを示す。
【
図16】
図16は、各種PMPとアルブミンとが結合しているかどうかを蛍光顕微鏡で観察した図である。
【
図17】
図17は、各種PMPとセルラーゼとが結合しているかどうかを蛍光顕微鏡で観察した図である。
【
図18】
図18は、各種PMCとセルラーゼとが結合しているかどうかを蛍光顕微鏡で観察した図である。
【
図19】
図19は、各種PMCとトリプシンとが結合しているかどうかを蛍光顕微鏡で観察した図である。
【
図20】
図20は、実施例5で得られたaPMPのアルブミンへの結合を評価するグラフである。
【
図21】
図21は、実施例6で得られたaPBPのアルブミンへの結合を評価するグラフである。
【
図22】
図22は、実施例7得られたaP(BP/TS)のアルブミンへの結合を評価するグラフである。
【
図23】
図23は、ペプシンまたはセルラーゼと各種PHAを混合したときの電気泳動の結果を示す図である。
【
図24】
図24は、アルブミンと各種PTを混合したときの電気泳動の結果を示す図である。
【
図25】
図25は、パパインと各種PTを混合したときのパパインの酵素活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を詳細に説明する。
以下、本明細書中で用いられる各置換基の定義について詳述する。特記しない限り各置換基は以下の定義を有する。
【0027】
本明細書中、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。
【0028】
本明細書中、「アルキル基」とは、直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル等が挙げられ、なかでも、C1-6アルキル基が好ましい。
【0029】
本明細書中、「アルケニル基」とは、少なくとも1つの二重結合を有する、直鎖状または分岐鎖状の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、5-ヘキセニル等が挙げられ、なかでも、C2-6アルケニル基が好ましい。
【0030】
本明細書中、「アルキニル基」とは、少なくとも1つの三重結合を有する、直鎖状または分岐鎖状の不飽和炭化水素基を意味し、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニル、4-メチル-2-ペンチニル等が挙げられ、なかでも、C2-6アルキニル基が好ましい。
【0031】
本明細書中、「アリール基」とは、芳香族性を有する炭化水素基を意味し、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル等が挙げられ、なかでも、C6-10アリール基が好ましく、フェニルが特に好ましい。
【0032】
本明細書中、「アラルキル基」とは、「アリール基」で置換された「アルキル基」を意味し、例えば、ベンジル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、(1-ナフチル)メチル、(2-ナフチル)メチル等が挙げられ、なかでも、C7-13アラルキル基(C6-10アリール基で置換されたC1-3アルキル基)が好ましく、ベンジルが特に好ましい。
【0033】
本明細書中、「アルコキシ基」とは、式R11O-(ここで、R11は、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、ペンチルオキシ、へキシルオキシ等が挙げられ、なかでも、C1-6アルコキシ基が好ましい。
【0034】
本明細書中、「アルケニルオキシ基」とは、式R12O-(ここで、R12は、アルケニル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、エテニルオキシ、1-プロペニルオキシ、2-プロペニルオキシ、1-ブテニルオキシ、2-ブテニルオキシ、1-ペンテニルオキシ、2-ペンテニルオキシ、1-ヘキセニルオキシ、3-ヘキセニルオキシ、5-ヘキセニルオキシ等が挙げられ、なかでも、C2-6アルケニルオキシ基が好ましい。
【0035】
本明細書中、「アルキニルオキシ基」とは、式R13O-(ここで、R13は、アルキニル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、エチニルオキシ、1-プロピニルオキシ、2-プロピニルオキシ、1-ブチニルオキシ、2-ブチニルオキシ、1-ペンチニルオキシ、2-ペンチニルオキシ、1-ヘキシニルオキシ、3-ヘキシニルオキシ、5-ヘキシニルオキシ等が挙げられ、なかでも、C2-6アルキニルオキシ基が好ましい。
【0036】
本明細書中、「アリールオキシ基」とは、式R14O-(ここで、R14は、アリール基を表す。)で表される基を意味し、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、2-ナフチルオキシ等が挙げられ、なかでも、C6-10アリールオキシ基が好ましく、フェノキシが特に好ましい。
【0037】
本明細書中、「アラルキルオキシ基」とは、式R15O-(ここで、R15は、アラルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、ベンジルオキシ、1-フェニルエチルオキシ、2-フェニルエチルオキシ、3-フェニルプロピルオキシ、4-フェニルブチルオキシ、(1-ナフチル)メチルオキシ、(2-ナフチル)メチルオキシ等が挙げられ、なかでも、C7-13アラルキルオキシ基が好ましく、ベンジルオキシが特に好ましい。
【0038】
本明細書中、「アルコキシカルボニル基」とは、式R11OC(=O)-(ここで、R11は、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec-ブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、へキシルオキシカルボニル等が挙げられ、なかでも、C1-6アルコキシ-カルボニル基が好ましい。
【0039】
本明細書中、「アリールオキシカルボニル基」とは、式R14OC(=O)-(ここで、R14は、アリール基を表す。)で表される基を意味し、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、2-ナフチルオキシカルボニル等が挙げられ、なかでも、C6-10アリールオキシ-カルボニル基が好ましく、フェノキシカルボニルが特に好ましい。
【0040】
本明細書中、「アラルキルオキシカルボニル基」とは、式R15OC(=O)-(ここで、R15は、アラルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、ベンジルオキシカルボニル、1-フェニルエチルオキシカルボニル、2-フェニルエチルオキシカルボニル、3-フェニルプロピルオキシカルボニル、4-フェニルブチルオキシカルボニル、(1-ナフチル)メチルオキシカルボニル、(2-ナフチル)メチルオキシカルボニル等が挙げられ、なかでも、C7-13アラルキルオキシ-カルボニル基が好ましく、ベンジルオキシカルボニルが特に好ましい。
【0041】
本明細書中、「アルキルカルボニル基」とは、式R11C(=O)-(ここで、R11は、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2-メチルプロパノイル、ペンタノイル、2-メチルブタノイル、2,2-ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル等が挙げられ、なかでも、C1-6アルキル-カルボニル基が好ましく、アセチルが特に好ましい。
【0042】
本明細書中、「モノアルキルアミノ基」とは、式R11NH-(ここで、R11は、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、ペンチルアミノ、へキシルアミノ等が挙げられ、なかでも、モノ-C1-6アルキルアミノ基が好ましい。
【0043】
本明細書中、「ジアルキルアミノ基」とは、式R11
2N-(ここで、2つのR11は、それぞれ独立して、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、N-エチル-N-メチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジsec-ブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノ、ジペンチルアミノ、ジへキシルアミノ等が挙げられ、なかでも、ジ-C1-6アルキルアミノ基が好ましい。
【0044】
本明細書中、「アルキルカルボニルアミノ基」とは、式R11C(=O)NH-(ここで、R11は、アルキル基を表す。)で表される基を意味し、例えば、アセチルアミノ、プロパノイルアミノ、ブタノイルアミノ、2-メチルプロパノイルアミノ、ペンタノイルアミノ、2-メチルブタノイルアミノ、2,2-ジメチルプロパノイルアミノ、ヘキサノイルアミノ等が挙げられ、なかでも、C1-6アルキル-カルボニルアミノ基が好ましく、アセチルアミノが特に好ましい。
【0045】
本明細書中、「アミノ酸残基」とは、アミノ酸から任意の1個の水素原子を除いた基(側鎖の水素原子を除いた基も含む)を意味する。当該「アミノ酸残基」におけるアミノ酸としては、アミノ基とカルボキシ基を有する限り特に限定されず、天然型(L型)でも非天然型(D型)でもよく、また人工アミノ酸であってもよい。また、上記アミノ酸は、α-アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、チロシン、トリプロファン、プロリン)、β-アミノ酸(β-アラニン)、γ-アミノ酸(γ-アミノ酪酸)等のいずれでもよい。上記アミノ酸は、オリゴペプチドであってもよい。「アミノ酸残基」としては、例えば、-CH2C(NH2)-COOHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書中、「糖残基」とは、糖から任意の1個の水素原子を除いた基を意味する。当該「糖残基」における糖としては、例えば、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース)、二糖類(スクロース、ラクトース、マルトース)、オリゴ糖(単糖が3~10個程度結合した糖類)、多糖類(でんぷん、デキストリン)、糖アルコール(キシリトール、マルチトール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書中、「核酸残基」とは、核酸から任意の1個の水素原子を除いた基を意味する。当該「核酸残基」における核酸としては、例えば、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)に加えて、2’-OMe、2’-MOE、2’-F、LNA(Locked Nucleic Acid、2’,4’-BNA)、ENA(Ethylene-bridged Nucleic Acid)、モルフォリノ核酸、ペプチド核酸(PNA)、セリノール核酸(SNA)等の任意の人工核酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
以下、本発明の、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーの製造方法について説明する。
標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーにおいて、標的分子に特異的に結合し得る部位とは、当該標的分子との特異的結合能を発揮し得る部位(当該標的分子と親和性が高い部位)であり、本発明においては、そのような部位を有する芳香族ポリマーは、当該標的分子を用いた鋳型重合により形成される。
本発明において、芳香族ポリマーとは、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の酸化重合により得られるポリマーをいう。
すなわち、標的分子に特異的に結合し得る部位を有する芳香族ポリマーは、鋳型となる標的分子の存在下で、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の酸化重合を行う工程により製造される。
【0049】
酸化重合は、
図1に示されるように、標的分子における、モノマー成分または成長反応中の成分と親和性がある部位において、モノマー成分が標的分子と相互作用(例えば、水素結合、ファンデルワールス力等)しながら進行し、その結果、標的分子の高次構造に対応する構造が形成されて、この構造を有する部位が標的分子に特異的に結合し得る部位となる。すなわち、標的分子と、生成した芳香族ポリマーにおける標的分子に特異的に結合し得る部位は、鍵と鍵穴の関係にある。また、主鎖骨格の硬さに起因して、鋳型である標的分子を除去した後でも、芳香族ポリマーは室温でその高次構造が維持される。従って、上記部位の構造も硬く維持されているので、当該標的分子(鋳型重合に使用した標的分子)と特異的に再結合が可能となる。
【0050】
本発明で使用される標的分子としては、モノマー成分と相互作用し得る分子であれば特に限定されず、タンパク質、核酸、糖、脂質等が挙げられる。タンパク質としては、特に限定されず、例えば、生体由来タンパク質(例えば、抗原、抗体、酵素、受容体)、病原性微生物由来タンパク質(例えば、ウイルスのスパイクタンパク質)等が挙げられる。
1つの態様として、標的分子はタンパク質が好ましい。
タンパク質を標的とする場合、当該タンパク質は、酸化重合条件下で可溶であることが好ましい。例えば、後述の酵素触媒を用いた酸化重合において、水性条件下で酸化重合が行われる場合は、水系溶媒下、好ましくは、水と、水と相溶する有機溶媒の混合溶媒下で可溶なタンパク質であることが好ましい。さらには、水系溶媒に良好に溶解できる点から、等電点(pi)が4~11のタンパク質および/または単量体または二量体のタンパク質であることがさらに好ましい。このようなタンパク質として、例えば、アルブミン(pi:4.7)、アミラーゼ(pi:4~11)、セルラーゼ(pi:4~6)、グロブリン(pi:4~11)、トリプシン(pi:10)、パパイン(pi:8.8)、ペプシン(pi:1)等が挙げられる。
【0051】
上記芳香族ポリマーの製造に適した酸化重合としては、酵素触媒を用いた酸化重合、銅/ピリジン触媒、銅/ジアミン触媒等の錯体触媒を用いた酸化重合等が挙げられ、なかでも、高い触媒活性、特異性、生分解性、温和な反応条件で行えることから、酵素触媒を用いた酸化重合が好適である。
酵素触媒を用いた酸化重合は、具体的には、鋳型となる標的分子の存在下、溶媒中、酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)を触媒として、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分を酸化剤と作用させることにより行われる。
【0052】
上記酸化重合で使用される酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)は、酸化還元反応を触媒する酵素であり、その好適な具体例としては、酸化酵素(オキシダーゼ)、過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)等が挙げられる。上記酸化重合で使用される酸化剤は、酸化還元酵素の種類により決定される。
【0053】
酸化酵素(オキシダーゼ)は、分子状酸素を電子受容体(酸化剤)として酸化反応を触媒する酵素である。酸化酵素としては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属由来ラッカーゼ等が挙げられる。
【0054】
過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)は、過酸化物を電子受容体(酸化剤)として酸化反応を触媒する酵素である。過酸化酵素としては、例えば、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)、大豆由来ペルオキシダーゼ(SBP)等が挙げられる。なかでも、基質特異性が広い点から、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼが好ましい。
【0055】
酸化還元酵素の使用量は触媒量であり、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分1モルに対して、例えば、酸化酵素(オキシダーゼ)や過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)の場合、通常0.05~20g、好ましくは0.1~10gである。
【0056】
本発明で使用される、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物としては、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素環、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン等の6員芳香族複素環、チオフェン、フラン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール等の5員芳香族複素環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、フェノール性化合物、すなわち、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素環上にヒドロキシ基を有する化合物が好ましい。
1つの態様として、フェノール性化合物は、以下の式(I):
【0057】
【0058】
[式中、n個のR1は、独立してそれぞれ、アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;アラルキル基;ヒドロキシ基;アルコキシ基;アルケニルオキシ基;アルキニルオキシ基;アリールオキシ基;アラルキルオキシ基;カルボキシ基;アルコキシカルボニル基;アリールオキシカルボニル基;アラルキルオキシカルボニル基;アルキルカルボニル基;アミノ基;モノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基;アルキルカルボニルアミノ基;シアノ基;ハロゲン原子;ホルミル基;アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、ジ-C1-6アルキルアミノ基、C1-6アルキル-カルボニルアミノ基、ホルミル基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、C6-10アリールオキシ-カルボニル基、C7-13アラルキルオキシ-カルボニル基、ヒドロキシ基、C1-6アルコキシ基、ベンゾイルオキシ基、シアノ基およびハロゲン原子から選ばれる置換基でそれぞれ置換された、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基もしくはアルキルカルボニルアミノ基;アミノ酸残基;糖残基;または核酸残基;を示し、ここで、当該アミノ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基は、保護されていてもよく、nは、0~4の整数を示す。但し、2位、4位および6位の少なくとも1つは無置換である。]
で表されるフェノール性化合物(以下、フェノール性化合物(I)ともいう)がより好ましい。
【0059】
1つの態様として、フェノール性化合物は、以下の式(Ia)または式(Ib):
【0060】
【0061】
[式中、R1aおよびR1bは、独立してそれぞれ、式(I)におけるR1と同義である。]
で表されるフェノール性化合物(以下、フェノール性化合物(Ia)またはフェノール性化合物(Ib)ともいう。)がさらに好ましい。
【0062】
1つの態様として、n個のR1は、好ましくは、独立してそれぞれ、アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;ヒドロキシ基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ハロゲン原子;ホルミル基;アミノ基、モノ-C1-6アルキルアミノ基、C1-6アルキル-カルボニルアミノ基、カルボキシ基、C1-6アルコキシ-カルボニル基、ヒドロキシ基およびベンゾイルオキシ基から選ばれる置換基でそれぞれ置換された、アルキル基またはアルケニル基;糖残基;である。
【0063】
別の態様として、n個のR1は、好ましくは、独立してそれぞれ、アルキル基;アルコキシ基;アミノ基、カルボキシ基およびヒドロキシ基から選ばれる置換基で置換されたアルキル基;である。
【0064】
具体的なフェノール性化合物(I)としては、例えば、フェノール、p-メトキシフェノール、m-クレゾール、チラミン、p-ヒドロキシフェニル酢酸、p-tert-ブチルフェノール、チロソール、p-ヒドロキシフェニルベンゾエート、m-エチルフェノール、m-イソプロピルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、m-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、m-メトキシフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、m-フェノキシフェノール、p-フェノキシフェノール、p-ビニルフェノール、チロシン、チロシンメチルエステル、チロシンエチルエステル、アセチルチロシン、アルブチン、ウルシオール、p-ヒドロキシ桂皮酸、m-ヒドロキシフェニルアセチレン、カテコール、レゾルシノール、コニフェリルアルコール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、コーヒー酸、フェルラ酸、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、ドーパ、バニリン、バニリン酸、およびそれらの2種以上の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。1つの態様として、p-メトキシフェノール、m-クレゾール、チラミン、p-ヒドロキシフェニル酢酸、p-tert-ブチルフェノール、チロソールおよびそれらの2種以上の組合せが挙げられる。
また、フェノール性化合物(I)以外のフェノール性化合物として、クロロゲン酸、セサモール、クルクミン、カテキン、アントシアニン、カルダノール等が挙げられる。
【0065】
モノマー成分の選択により、側鎖にアルキル基、芳香環、ヒドロキシ基、カルボキシ基などをランダムに導入できることから、多様な構造の芳香族ポリマーの製造が可能となる。例えば、所望の特性(溶解性等)を付与することが可能となる。また、鋳型重合に使用する標的分子に適したモノマー成分を適宜選択することにより、より精密な形状(標的分子の高次構造によりフィットした形状)の、標的分子に特異的に結合し得る部位を形成できる可能性がある。
【0066】
芳香族ポリマーのためのモノマー成分は、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物以外のモノマー成分を含んでいてもよいが、すべてのモノマー成分が芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物であることが好ましい。1つの態様として、すべてのモノマー成分がフェノール性化合物(I)であることが好ましい。
【0067】
芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分の使用量は、標的分子1gに対して、通常0.1~1000g、好ましくは0.1~100gである。
【0068】
酸化重合により製造される芳香族ポリマーは、例えば、フェノール性化合物(I)をモノマー成分とする場合は、下式に示すように、ベンゼン環を構成する炭素原子が直接結合(C-C結合)したフェニレンユニットと、ベンゼン環が酸素原子を介して結合(C-O結合、2位または4位)したオキシフェニレンユニットを主鎖骨格として有するフェノールポリマーである。
【0069】
【0070】
(式中、pは重合度を示し、その他の記号は前記と同義である。)
pは、2以上であり、溶解性の点から、好ましくは100以下、より好ましく2~50程度である。
【0071】
所望の用途に使用するには、上記芳香族ポリマーは、溶媒、特に、極性溶媒に可溶であることが望ましい。ここで、極性溶媒とは、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、酢酸、アセトニトリル、メタノール、アセトン、ジオキサン、メチルエチルケトン、エタノール、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール、およびこれらの混合溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。
上記芳香族ポリマーの溶解性は、主にモノマーの種類に依存する。例えば、フェノール性化合物(I)をモノマー成分として用いた酸化重合により製造される芳香族ポリマーは、上記のいずれかの極性溶媒に可溶であり、特にジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶である。
特に、生体に関連する用途に使用するには、上記芳香族ポリマーは、ジメチルスルホキシド、水およびその混合溶媒に可溶であることが好ましく、水に可溶であることが特に好ましい。フェノール性化合物(I)のうち、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基(1個のフェノール性ヒドロキシ基に加えて)等の親水性基を有するフェノール性化合物を、モノマー成分として用いた酸化重合により製造される、親水性基を有する芳香族ポリマーは、水に可溶である。親水性基を有する芳香族ポリマーは、予め、保護されたアミノ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するフェノール性化合物を、モノマー成分として用いて酸化重合した後、脱保護して得られたものでもよい。ここで、アミノ基の保護基としては、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル等が挙げられ、カルボキシ基の保護基としては、メチル、エチル、フェニル、ベンジル等が挙げられ、ヒドロキシ基の保護基としては、ベンジル、ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。
親水性基を有するフェノール性化合物としては、例えば、チラミン、p-ヒドロキシフェニル酢酸、チロソール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本発明において、「可溶」とは、芳香族ポリマー1mgが溶媒1mLに室温(25℃)で溶解できることをいう。
【0073】
酵素触媒を用いた酸化重合で使用される酸化剤は、酸化酵素(オキシダーゼ)を使用する場合は、分子状酸素であり、過酸化酵素(ぺルオキシダーゼ)を使用する場合は、過酸化物、好ましくは過酸化水素である。過酸化水素は、通常、溶液の形態で使用される。
酸化剤の使用量は、分子状酸素の場合、通常は酸素雰囲気下(例えば、大気下)で重合を行うが、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分1モルに対して、0.5モル以上あればよい。過酸化物の場合、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分1モルに対して、通常0.1~10モル、好ましくは0.5~2モルである。
酸化重合は、モノマー成分である芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物の酸化により発生するラジカルによって進行するので、酸化剤の使用量により、得られる芳香族ポリマーの重合度を制御することができる。
酸化剤は、標的分子、酸化還元酵素、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分を含む溶液に、添加、特に、10分~5時間、好ましくは30分~2時間かけて滴下することが好ましい。
【0074】
酵素触媒を用いた酸化重合は、溶媒下で行われる。
溶媒としては、標的分子や、芳香環上にヒドロキシ基を有する芳香族化合物を含むモノマー成分を溶解でき、酸化重合を阻害しない限り、特に限定されない。モノマー成分や標的分子の種類によって適宜選択されるが、例えば、水系溶媒であり、水と、水と相溶する有機溶媒の混合溶媒が好ましい。水と相溶する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;およびそれらの混合溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。水は蒸留水でもよいが、緩衝液でもよい。緩衝液を用いる場合にはpH3から10の範囲で、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
反応系が溶液状態でないと重合はほとんど進行しないので、生成した芳香族ポリマーが重合溶媒に不溶になった時点で重合はそれ以上進行しない。従って、重合溶媒の選択により、得られる芳香族ポリマーの重合度を制御することもできる。
【0075】
フェノールポリマーの場合、水と、水と相溶する有機溶媒の混合比により、その構成単位である上記したフェニレンユニット(C-C結合)とオキシフェニレンユニット(C-O結合、2位または4位)の構成比を任意に変化させることもできる。水と、水と相溶する有機溶媒の混合比は、任意の比率でよいが、体積比率で5:95~100:0の範囲が好ましい。上記したフェニレンユニット(C-C結合)とオキシフェニレンユニット(C-O結合、2位または4位)の構成比は任意に変化させることができる。上記混合比を選択して、上記ユニットの構成比を変化させることにより、多様な構造のフェノールポリマーの製造が可能となる。また、鋳型重合に使用する標的分子に適した上記混合比を適宜選択することにより、より精密な形状(標的分子の高次構造によりフィットした形状)の、標的分子に特異的に結合し得る部位を形成できる可能性がある。
【0076】
酵素触媒を用いた酸化重合は、使用する酸化還元酵素の種類、モノマー成分の種類や量等にもよるが、通常0~50℃の温度範囲内、好ましくは10~40℃の温度範囲内で行われる。
重合時間は、重合温度にもよるが、通常10分~5時間、好ましくは30分~2時間である。
【0077】
酸化重合終了後、生成した芳香族ポリマーが沈殿している場合は、沈殿物をろ過、遠心分離等により単離し、必要により洗浄する。生成した芳香族ポリマーが溶解している場合は、貧溶媒を加える、pHを変化させる等の方法により、沈殿させる。
単離された沈殿物は、鋳型として使用した標的分子が結合している芳香族ポリマーであるので、次の工程で当該標的分子を除去する。
標的分子の除去方法は、芳香族ポリマーに悪影響を与えずに標的分子を除去できれば特に限定されないが、標的分子がタンパク質の場合は、酸処理またはプロテアーゼ処理により行うことが好ましい。
酸処理は、塩酸等の酸を用いて、通常、室温~加熱下で行われる。緩衝液の存在下で行ってもよい。
プロテアーゼ処理は、プロテアーゼを用いて、通常0~40度の温度範囲で、中性条件下で行われる。
タンパク質の除去を比較的短時間で行える点から、酸処理が好ましく、塩酸を用いた加熱下(好ましくは60~120℃で)で処理することが好ましく、この場合、5~15時間の処理でタンパク質を除去できる。酸処理は、必要により加圧下で行ってもよい。
上記の処理後、ろ過、遠心分離等により単離後、蒸留水で洗浄し、乾燥させることにより、芳香族ポリマーを取得することができる。
【0078】
このようにして得られた芳香族ポリマーは、標的分子に特異的に結合し得る部位を有しているので、標的分子を適宜選択して製造することにより、得られた芳香族ポリマーを種々の用途に適用することが期待できる。例えば、標的分子に特異的に結合して所望の機能を発揮することが期待できる分子、例えば、抗体;酵素阻害剤;受容体アゴニスト又はアンタゴニスト;抗菌剤;抗ウイルス剤;抗がん剤等の医薬;転写因子;腫瘍マーカー等の検出薬;精製のための試薬;触媒等として適用することが期待できる。
【実施例0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0080】
実施例1-1 アルブミンを鋳型としたポリ(p-メトキシフェノール)(aPMP)の合成
p-メトキシフェノール(MP)2mmol(0.25g)と標的タンパク質として等重量のアルブミン(a)を分析天秤を用いて秤取し、ナスフラスコ(50mL)中で、エタノール(和光純薬工業株式会社99.5v/v%)4mLとリン酸緩衝液16mLの混合溶媒に溶解した。これとは別に、西洋ワサビ由来ペルオキシターゼ(HRP)(和光純薬工業株式会社)をリン酸緩衝液で1mg/mLに調製し、そのうち1mLを上記溶液に加えた。次に、5%過酸化水素溶液(溶媒組成は、エタノール4mLとリン酸緩衝液16mLの混合溶媒)1.36mLを、1時間かけて室温で滴下した。沈殿が生じたので、その懸濁液を遠心分離して、沈殿物を単離した。これに、塩酸(和光純薬工業株式会社)2mLとリン酸緩衝液18mLを加え、沈殿物を粉砕して洗浄し、再び遠心分離を行った。同様の作業を2回繰り返して洗浄した後、塩酸とリン酸緩衝液の混合溶液に懸濁させた状態で、80℃で8時間加熱した。遠心分離後、蒸留水で洗浄し乾燥して、ポリ(p-メトキシフェノール)(aPMP)を得た。
【0081】
実施例1-2~1-5 各種タンパク質を鋳型としたポリ(p-メトキシフェノール)の合成
アルブミン(a)の代わりに、表1に示す標的タンパク質を使用した以外は、上記実施例1-1と同様の方法で、各種ポリ(p-メトキシフェノール)を得た。
【0082】
実施例2-1~2-4 各種タンパク質を鋳型としたポリ(m-クレゾール)の合成
p-メトキシフェノール(MP)の代わりに、m-クレゾール(MC)を使用し、アルブミン(a)の代わりに表1に示す標的タンパク質を使用した以外は、上記実施例1-1と同様の方法で、各種ポリ(m-クレゾール)を得た。
【0083】
実施例3-1 セルラーゼを鋳型としたポリ(p-ヒドロキシフェニル酢酸)(cPHA)の合成
p-ヒドロキシフェニル酢酸(HA,純正化学株式会社)1mmol(152mg)を秤取し、ナスフラスコ(50mL)に入れた。そこに酢酸緩衝液(pH4.0)20mL、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)(和光純薬工業株式会社)1mg、標的タンパク質としてセルラーゼ(c)をp-ヒドロキシフェニル酢酸と等重量の152mg添加した。5分間攪拌して溶解させ、酢酸緩衝液で6倍希釈した30%の過酸化水素水(和光純薬工業株式会社)(希釈後5%)をマイクロシリンジポンプ(IC3200)を用いて、0.68mL/hの条件で1時間かけて滴下した。その後、ナスフラスコの溶液を遠心管(50mL)に移し入れ、1M塩酸(和光純薬工業株式会社)を20mL加え、沈殿させて遠心分離(25℃、8000rpm、10min)を行った。上澄み液を捨てて、1M塩酸20mLを加え超音波洗浄機で粉砕させ洗浄し、再び遠心分離(25℃、8000rpm、10分)を行った。同様の作業を2回行った。その後、2M塩酸を20mL加えて80℃の恒温槽(EYELA OSB-2100)で8時間加熱した。その後、遠心分離(25℃、8000rpm、10min)を行い、上澄みを捨てて、蒸留水20mLを加えて超音波洗浄機で粉砕させ洗浄し、再び遠心分離(25℃、8000rpm、10分)を行った。沈殿を減圧乾燥して、ポリ(p-ヒドロキシフェニル酢酸)(cPHA)の粉末を得た。
【0084】
実施例3-2~3-6 各種タンパクを鋳型としたポリ(p-ヒドロキシフェニル酢酸)の合成
セルラーゼ(c)の代わりに、表1に示す標的タンパク質を使用した以外は、上記実施例3-1と同様の方法で、各種ポリ(p-ヒドロキシフェニル酢酸)を得た。
【0085】
実施例4-1~4-7 各種タンパクを鋳型としたポリチラミンの合成
チラミン(東京化成工業)0.025mmol(3.4mg)と、表1に示す標的タンパク質3.4mgを、1mol/L塩酸25μL(和光純薬工業株式会社)とリン酸緩衝液(PB)(1/15mol/L、pH7.0、和光純薬工業株式会社)450μLの混合液に加えて溶解させた。また、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)(和光純薬工業株式会社)1mgをリン酸緩衝液1mLに溶解して調製し、これを25μL加えた。次に、5.0%過酸化水素水を調製し、6分毎に1.7μL加えて、ピペッティングを行った。過酸化水素の添加を10回行った後、8000rpm、10分、25℃で遠心分離を行い、エタノール(和光純薬工業株式会社、99.5v/v%)をタンパク質の溶解性に合わせて適量加えて、ポリチラミンを沈殿させた。遠心分離(8000rpm、10分、25℃)を行い、ポリチラミンを単離した。そして洗浄のためエタノールと水の混合溶媒を加えて遠心分離を行った。その後、上澄み液を捨てて、1M塩酸を500μL加え、80℃で8時間加熱した。次にpHを7付近に合わせるために、pH試験紙(アズワン株式会社)で確認しながら炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク株式会社)で中和した。再びエタノール(和光純薬工業株式会社、99.5v/v%)を適量加えて、ポリチラミンを沈殿させた。遠心分離(8000rpm、10分、25℃)を行い、ポリチラミンを単離した。そして洗浄のためエタノールと水の混合溶媒を加えて遠心分離を行った。沈殿を減圧乾燥して、各種ポリチラミンの粉末を得た。
【0086】
モノマーとして使用したフェノール性化合物と標的タンパク質、並びに得られたフェノールポリマーを表1に示す。
MP:p-メトキシフェノール
MC:m-クレゾール
HA:p-ヒドロキシフェニル酢酸
T:チラミン
a:アルブミン(ウシ血清由来、ナカライテスク)
c:セルラーゼ(MP Biomedicals,LLC)
g:グロブリン(γ-グロブリン、ヒト血清由来、富士フイルム和光純薬)
t:トリプシン(ブタ膵臓由来、富士フイルム和光純薬)
p:パパイン(富士フイルム和光純薬)
pe:ペプシン(ブタ胃粘膜由来、富士フイルム和光純薬)、
α:アミラーゼ(α-アミラーゼ、富士フイルム和光純薬)
PMP:ポリ(p-メトキシフェノール)
PMC:ポリ(m-クレゾール)
PHA:ポリ(p-ヒドロキシフェニル酢酸)
PT:ポリチラミン
フェノールポリマーの前に記した記号は、使用した標的タンパク質を示す。例えば、「aPMP」は標的タンパク質としてアルブミンを用いて鋳型重合し、その後、アルブミンを除去して得られたポリ(p-メトキシフェノール)を意味する。
【0087】
【0088】
aPMP(実施例1-1)のIRスペクトルを
図2に示す。また、酸化重合後に得られた沈殿物に対して、エタノール洗浄を行って得られたaPMPのIRスペクトルも
図2に示す。さらに、PMP(アルブミンなしで酸化重合、エタノール洗浄)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルも
図2に示す。
図2より、塩酸洗浄で得られたaPMP(実施例1-1)のIRスペクトルでは、アルブミン等のタンパク質に特徴的なピーク(1650cm
-1)が、エタノール洗浄で得られたaPMPのIRスペクトルと比較しても、ほとんど見られないことから、塩酸洗浄によりアルブミンが良好に除去されていることがわかる。
【0089】
aPMC(実施例2-1)のIRスペクトルを
図3に示す。また、酸化重合後に得られた沈殿物に対して、エタノール洗浄を行って得られたaPMCのIRスペクトルも
図3に示す。さらに、PMC(アルブミンなしで酸化重合)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルも
図3に示す。
図3より、塩酸洗浄で得られたaPMC(実施例2-1)では、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、アルブミンが良好に除去されていることがわかる。
【0090】
pePHA(実施例3-2)のIRスペクトルを
図4に示す。また、PHA(ペプシンなしで酸化重合)のIRスペクトル、およびペプシンのIRスペクトルも
図4に示す。
図4より、塩酸洗浄で得られたpePHA(実施例3-2)では、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、ペプシンが良好に除去されていることがわかる。
【0091】
aPT(実施例4-2)のIRスペクトルを
図5に示す。また、酸化重合後に得られた沈殿物に対して、エタノール洗浄を行って得られたaPTのIRスペクトルも
図5に示す。さらに、PT(アルブミンなしで酸化重合)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルも
図5に示す。
図5より、塩酸洗浄で得られたaPT(実施例4-2)では、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、アルブミンが良好に除去されていることがわかる。
【0092】
実施例で得られた各種PMP、PMC、PHAおよびPTのUVスペクトルを
図6~9に示す。
図6~9では、吸収帯が長波長側に広がっていることから、重合していることが確認できる。吸収帯は可視領域まで広がっているため着色が見られ、よって、重合していることが確認できる(モノマーは無色)。
【0093】
p-メトキシフェノール(MP)、m-クレゾール(MC)、p-ヒドロキシフェニル酢酸(HA)およびはチラミン(T)以外のフェノール性化合物(I)を用いても、上記実施例と同様の方法で、各種フェノールポリマーを得ることができる。
【0094】
実施例5 アルブミンを鋳型としたポリ(p-メトキシフェノール)(aPMP)の合成(ラッカーゼ触媒使用)
p-メトキシフェノール2mmol(248mg)をリン酸緩衝液(1/15mol/L,pH7.0)16mLとエタノール4mLの混合溶媒に溶解させた。ここに、Aspergillus sp.由来ラッカーゼ(2U)とアルブミン248mgを添加した。大気下で24時間撹拌して反応を進行させた。遠心分離により生成した沈殿を単離し、エタノールと蒸留水の混合溶媒で洗浄した後、1M塩酸20mL中に分散させて80℃で8時間加熱した。遠心分離して得られた沈殿を蒸留水で洗浄し、減圧下で乾燥させて粉末状のaPMPを得た。
【0095】
得られたaPMPのIRスペクトルを
図10に示す。また、PMP(アルブミンなしで酸化重合)のIRスペクトル、およびアルブミンのIRスペクトルも
図10に示す。
図10より、塩酸洗浄で得られたaPMPのIRスペクトルでは、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、アルブミンが良好に除去されていることがわかる。
また、得られたaPMPのUVスペクトル、およびPMPのUVスペクトルを
図11に示す。
図11では、吸収帯が長波長側に広がっていることから、重合していることが確認できる。吸収帯は可視領域まで広がっているため着色が見られ、よって、重合していることが確認できる(モノマーは無色)。
【0096】
実施例6 アルブミンを鋳型としたポリ(4-tert-ブチルフェノール)(aPBP)の合成
4-tert-ブチルフェノール(BP)1mmol(150mg)をリン酸緩衝液(1/15mol/L,pH7.0)11mLとエタノール9mLの混合溶媒に溶解させた。ここに、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)1mgをリン酸緩衝液1mLに溶解させたものとアルブミン150mgを添加した。さらに過酸化水素水(5%)0.68mLを1時間かけて滴下して反応を進行させた。遠心分離により生成した沈殿を単離し、1M塩酸で洗浄した後、1M塩酸20mL中に分散させて80℃で8時間加熱した。遠心分離して得られた沈殿を蒸留水で洗浄し、減圧下で乾燥させて粉末状のaPBPを得た。
【0097】
得られたaPBPのIRスペクトルを
図12に示す。また、PBP(アルブミンなしで酸化重合)のIRスペクトル、アルブミンのIRスペクトル、およびPBPとアルブミンの混合物のIRスペクトルも
図12に示す。
図12より、塩酸洗浄で得られたaPBPのIRスペクトルでは、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、アルブミンが良好に除去されていることがわかる。
また、得られたaPBPのUVスペクトル、およびPBPのUVスペクトルを
図13に示す。
図13では、吸収帯が長波長側に広がっていることから、重合していることが確認できる。吸収帯は可視領域まで広がっているため着色が見られ、よって、重合していることが確認できる(モノマーは無色)。
【0098】
実施例7 アルブミンを鋳型としたポリ(4-tert-ブチルフェノール/チロソール)[aP(BP/TS)]の合成
フェノール性化合物として、4-tert-ブチルフェノール(BP)1mmolの代わりに、BP0.5mmolとチロソール(TS)0.5mmolを用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で、粉末状のaP(BP/TS)を得た。
【0099】
得られたaP(BP/TS)のIRスペクトルを
図14に示す。また、P(BP/TS)(アルブミンなしで酸化重合)のIRスペクトル、アルブミンのIRスペクトル、およびP(BP/TS)とアルブミンの混合物のIRスペクトルも
図14に示す。
図14より、塩酸洗浄で得られたaP(BP/TS)のIRスペクトルでは、1650cm
-1にピークがほとんど見られないことから、アルブミンが良好に除去されていることがわかる。
また、得られたaP(BP/TS)のUVスペクトル、およびP(BP/TS)のUVスペクトルを
図15に示す。
図15では、吸収帯が長波長側に広がっていることから、重合していることが確認できる。吸収帯は可視領域まで広がっているため着色が見られ、よって、重合していることが確認できる(モノマーは無色)。
【0100】
試験例1 溶解性試験
溶解性は、フェノールポリマー1mgをDMSO、水またはリン酸緩衝液(pH7.0)1mLに室温(25℃)で加えて撹拌し、溶解するかどうかを目視により判断した。
+:溶解
±:部分溶解
-:溶解しない
フェノールポリマーの溶解性を表2に示す。
【0101】
【0102】
試験例2 タンパク質への再結合試験
aPMP(実施例1-1)、cPMP(実施例1-2)、cPMC(実施例2-2)およびtPMC(実施例2-3)が、酸化重合時に使用した標的タンパク質と結合できるかどうかを以下の方法により確認した。
Tween0.1%のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)-Tと標的タンパク質を添加し合成したポリマーを1mg/mLで混合し遠心分離(25℃、800rpm、10min)を行った。上清みを捨てブロッキング溶液(フィッシュゼラチン)を1mL添加した。10分間振盪を行い、蛍光標識した標的タンパク質溶液を10μl添加し、1時間振盪した。その後、遠心分離(25℃、800rpm、10min)を行い、上清みを捨ててPBSを1mL加え再び遠心分離(25℃、800rpm、10min)を行った。この作業を3回繰り返して洗浄した。比較として、添加した標的タンパク質と別の蛍光タンパク質を加えたもの、タンパク質を添加せず合成したポリマーにも同じ処理を行った。これらを、蛍光顕微鏡を用いて明視野および暗視野で観察し、その発光強度を比較した。
その結果を
図16~19に示す。
図16~19より、aPMPはアルブミンに、cPMPはセルラーゼに、cPMCはセルラーゼに、tPMCはトリプシンに、それぞれ再結合していることがわかる。
【0103】
また、実施例5で得られたaPMP、実施例6で得られたaPBP、および実施例7で得られたaP(BP/TS)についても、上記と同様に方法により、酸化重合時に使用した標的タンパク質(アルブミン)と結合できるかどうか確認した。なお、評価は、それぞれ、標的タンパク質(アルブミン)なしで合成した、PMP(実施例5)、PBP(実施例6)およびaP(BP/TS)(実施例7)に対する相対評価で行った。その結果を
図20~
図22に示す。
図20~
図22より、これらはいずれもアルブミンに再結合していることがわかる。
【0104】
試験例3 タンパク質への再結合試験(電気泳動)
フェノールポリマーを2mg/mL、標的タンパク質を2mg/mLに調製した。1:1で混合し、1時間静置した。反応後、各ウェルにアプライする溶液を調製した。サンプルバッファー(Bio-Rad,#1610738)9μLと1時間静置したサンプル溶液1μLを混合し、計10μLに調製した。ゲル(富士フイルム和光純薬、192-14961、スーパーセップTMエース、10%、17ウェル)を、電気泳動槽(富士フイルム和光純薬、292-36411、イージーセパレーター)のゲルホルダーに設置した。135Vで1時間泳動を行った。泳動終了後、トレイにゲルを移してガラスからゲルを分離し、蒸留水で5分間洗浄した。CBB染色液(タカラバイオ、T9320A)に浸し振とう機(タイテック株式会社)で室温1時間振とうさせながら染色した。1時間後CBB染色液を取り除きゲルを蒸留水に浸し、室温1時間脱色を行った。脱色終了後スポットの位置を確認し分析を行った。その結果を
図23および
図24に示す。
図23より、ペプシンとpePHAを混合した場合、およびセルラーゼとcPHAを混合した場合において、PHAバンド(下側)が薄くなっていることから、ペプシンとpePHA、およびセルラーゼとcPHAがそれぞれ再結合していることがわかる。
図24より、アルブミンとaPTを混合した場合において、上側(丸印)にバンドが見られることから、アルブミンとaPTが再結合していることがわかる。
【0105】
試験例4 PTのタンパク質(パパイン)への再結合試験(パパイン活性測定実験)
Amplite(登録商標)蛍光パパイン活性測定キット(コスモ・バイオ株式会社、品番13500)を使用して測定を行った。2Xアッセイバッファーを蒸留水で希釈し、1Xアッセイバッファーを調製した。パパイン基質を1Xアッセイバッファーで1:20に希釈した。96ウェルプレートには10μL/ウェルのパパイン基質溶液を使用した。パパインを1Xアッセイバッファーで500~1000nMの濃度に希釈した。各ウェルには10μLのパパイン希釈液を使用した。
溶液の準備が出来たら、96ウェルマイクロプレートに、SC=基質コントロール、PC=ポジティブコントロール、VC=ビイクルコントロール、TS=テストサンプルを作成した。各ウェルの試薬組成について表3にまとめた。
【0106】
【0107】
光から保護された状態で、室温約45分時間をおいた。そして、Ex/Em=490/525nmに設定し、蛍光プレートリーダー(BioTek,POWERSCAN HT)で蛍光強度(エンドポイント)の測定を3回行った。測定終了後データを確認し分析を行った。その結果を
図25に示す。
図25より、pPTの場合は、パパインの酵素活性が阻害されていることから、pPTとパパインが再結合していることがわかる。
本発明の方法で製造される芳香族ポリマーは、標的分子に特異的に結合し得る部位を有し、また溶解性に優れるので適用可能な用途が広範であり、さらに保存安定性に優れる。また、このような芳香族ポリマーを、in vitroで化学的な方法で製造できるので、低コストで簡便にかつ短時間で大量合成できる。