(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029761
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】低損失インダクタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240228BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240228BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240228BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240228BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/153 108
H01F41/02 C
H01F41/04 B
H01F27/255
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133004
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】111131577
(32)【優先日】2022-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】523313942
【氏名又は名称】鴻達電能科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HONG DANG TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】5F., NO. 88, BAOZHONG RD., XINDIAN DIST., NEW TAIPEI CITY 231, TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】王 慶文
【テーマコード(参考)】
5E041
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E041BD03
5E041CA03
5E062AA02
5E062FF02
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA07
5E070BB03
5E070DA13
(57)【要約】
【課題】損失が低減して変換効率が向上する低損失インダクタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】低損失インダクタは主磁心10と、主磁心10に環装されたコイル20と、主磁心10を一体的に覆い且つコイル20を部分的に覆う残留磁性体30とを備える。主磁心10は非晶質鉄基材料粉末及びニッケル基材料粉末を含む主磁心10粉末を用いて製造され、残留磁性体30は磁性体粉末及び軟磁性粉末を含む残留磁性体粉末を用いて製造される。軟磁性粉末は鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主磁心と、
前記主磁心に環装されたコイルと、
前記主磁心を一体的に覆い且つ前記コイルを部分的に覆う残留磁性体と、を備える低損失インダクタであって、
前記主磁心は主磁心粉末を含み、前記主磁心粉末は、
質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む非晶質鉄基材料粉末と、
質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む非晶質ニッケル基材料粉末と、を含み、
前記残留磁性体は残留磁性体粉末を含み、前記残留磁性体粉末は、
質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)及び0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む磁性体粉末と、
鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む軟磁性粉末と、を含み、
前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む、低損失インダクタ。
【請求項2】
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70~90%であり、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10~30%であり、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は59~67%であり、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は33~41%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17~33%であり、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は67~83%である、請求項1に記載の低損失インダクタ。
【請求項3】
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、92.35%の鉄(Fe)、4%のケイ素(Si)、3.5%のホウ素(B)、0.05%のりん(P)及び0.1%の炭素(C)を含み、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は30%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は59%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、83.7%の鉄(Fe)、8%のニッケル(Ni)、3%のコバルト(Co)、3%のケイ素(Si)、2%のホウ素(B)、0.2%のりん(P)及び0.1%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は41%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5%の鉄(Fe)、6.5%のケイ素(Si)及び3%のクローム(Cr)を含み、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は83%である、請求項2に記載の低損失インダクタ。
【請求項4】
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は90%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、89.7%の鉄(Fe)、5%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.5%のりん(P)及び0.8%の炭素(C)を含み、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、67.7%のニッケル(Ni)、25%の鉄(Fe)、3.5%のホウ素(B)、3.5%のケイ素(Si)及び0.3%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は67%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、72.7%の鉄(Fe)、11%のニッケル(Ni)、5%のコバルト(Co)、6%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.8%のりん(P)及び0.5%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は33%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は33%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、93.5%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)及び2%のクローム(Cr)を含み、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は67%である、請求項2に記載の低損失インダクタ。
【請求項5】
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は80%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、91%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)、3.75%のホウ素(B)、0.35%のりん(P)及び0.4%の炭素(C)を含み、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は20%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は62.5%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、77.05%の鉄(Fe)、9.5%のニッケル(Ni)、4.5%のコバルト(Co)、5%のケイ素(Si)、3%のホウ素(B)、0.6%のりん(P)及び0.35%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は37.5%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は20%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、92%の鉄(Fe)、5.5%のケイ素(Si)及び2.5%のクローム(Cr)を含み、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は80%である、請求項2に記載の低損失インダクタ。
【請求項6】
前記残留磁性体は二酸化ケイ素を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の低損失インダクタ。
【請求項7】
前記残留磁性体は、前記残留磁性体の外表面に形成されている絶縁錆止め層を更に含む、請求項6に記載の低損失インダクタ。
【請求項8】
前記絶縁錆止め層はエポキシ樹脂及びナノメートルケイ素粉末を含み、
前記絶縁錆止め層における前記エポキシ樹脂の質量百分率は80%であり、
前記絶縁錆止め層における前記ナノメートルケイ素粉末の質量百分率は20%である、請求項7に記載の低損失インダクタ。
【請求項9】
前記主磁心は、柱部と中央柱を有し、
前記柱部の一端から台座が一体的に延出し、前記台座の対向する二つの縁部から凸部がそれぞれ突設され、
前記中央柱は、前記柱部内の上部に位置するように前記柱部によって一体的に覆われ、
前記コイルは、巻線部と、二つの末端部とを有し、
前記巻線部は前記主磁心の前記柱部に環装され
二つの前記末端部は、二つの電極を一体的に形成するように、それぞれ折り曲げられて前記台座の二つの前記凸部の両側に固定され、二つの前記電極の底部にはんだ層がそれぞれ形成され、二つの前記電極及び前記はんだ層は前記残留磁性体から露出している、請求項8に記載の低損失インダクタ。
【請求項10】
前記絶縁錆止め層の厚さは10~20μmであり、前記はんだ層の厚さは15~25μmである、請求項9に記載の低損失インダクタ。
【請求項11】
主磁心を用意し、残留磁性体複合材料粉末を調製するステップ(a)と、
前記主磁心にコイルを環装するステップ(b)と、
前記コイルが環装された前記主磁心と、前記残留磁性体複合材料粉末とを、前記残留磁性体複合材料粉末により前記主磁心が覆われ且つ前記コイルが部分的に覆われるように、第1の金型内に配置するステップ(c)と、
前記第1の金型内で前記残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を一体的に形成するステップ(d)と、
前記残留磁性体を前記第1の金型から離脱させてインダクタを得るステップ(e)と、を含み、
前記ステップ(a)において、
前記主磁心は主磁心粉末を含み、前記主磁心粉末は、
質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む非晶質鉄基材料粉末と、
質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む非晶質ニッケル基材料粉末と、を含み、
前記残留磁性体複合材料粉末は残留磁性体粉末を含み、前記残留磁性体粉末は、
質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)及び0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む磁性体粉末と、
鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む軟磁性粉末と、を含み、
前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む、低損失インダクタの製造方法。
【請求項12】
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70~90%であり、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10~30%であり、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は59~67%であり、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は33~41%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17~33%であり、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は67~83%である、請求項11に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項13】
前記ステップ(a)において、
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、92.35%の鉄(Fe)、4%のケイ素(Si)、3.5%のホウ素(B)、0.05%のりん(P)及び0.1%の炭素(C)を含み、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は30%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は59%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、83.7%の鉄(Fe)、8%のニッケル(Ni)、3%のコバルト(Co)、3%のケイ素(Si)、2%のホウ素(B)、0.2%のりん(P)及び0.1%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は41%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5%の鉄(Fe)、6.5%のケイ素(Si)及び3%のクローム(Cr)を含み、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は83%である、請求項12に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(a)において、
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は90%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、89.7%の鉄(Fe)、5%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.5%のりん(P)及び0.8%の炭素(C)を含み、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、67.7%のニッケル(Ni)、25%の鉄(Fe)、3.5%のホウ素(B)、3.5%のケイ素(Si)及び0.3%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は67%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、72.7%の鉄(Fe)、11%のニッケル(Ni)、5%のコバルト(Co)、6%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.8%のりん(P)及び0.5%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は33%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は33%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、93.5%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)及び2%のクローム(Cr)を含み、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は67%である、請求項12に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項15】
前記ステップ(a)において、
前記主磁心粉末における前記非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は80%であり、前記非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、91%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)、3.75%のホウ素(B)、0.35%のりん(P)及び0.4%の炭素(C)であり、
前記主磁心粉末における前記非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は20%であり、前記非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記磁性体粉末の質量百分率は62.5%であり、前記磁性体粉末は、質量百分率で、77.05%の鉄(Fe)、9.5%のニッケル(Ni)、4.5%のコバルト(Co)、5%のケイ素(Si)、3%のホウ素(B)、0.6%のりん(P)及び0.35%のニオブ(Nb)を含み、
前記残留磁性体粉末における前記軟磁性粉末の質量百分率は37.5%であり、
前記軟磁性粉末における前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は20%であり、前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、92%の鉄(Fe)、5.5%のケイ素(Si)及び2.5%のクローム(Cr)であり、
前記軟磁性粉末における前記カルボニル鉄粉末の質量百分率は80%である、請求項12に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項16】
前記ステップ(a)において、前記主磁心は、
前記主磁心粉末を接着剤及び溶剤と混合して主磁心グルーを形成するステップ(a1)と、
前記主磁心グルーを第2の金型内に充填して主磁心ブランクを一体的に形成するステップ(a2)と、
前記主磁心ブランクを210℃の温度下で5~10分間乾燥させて前記溶剤を除去し、前記主磁心ブランクを更に硬化させて前記主磁心を形成するステップ(a3)と、により製造される、請求項11から15のいずれか一項に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項17】
前記ステップ(a)において、前記残留磁性体複合材料粉末は、
前記残留磁性体粉末を有機樹脂及び溶剤と混合して残留磁性体懸濁液を形成するステップ(a4)と、
前記残留磁性体懸濁液を乾燥させて前記溶剤を除去し、前記残留磁性体複合材料粉末を得るステップ(a5)と、
気相二酸化ケイ素及びシランカップリング剤を前記残留磁性体複合材料粉末内に混合し、前記残留磁性体複合材料粉末の表面に二酸化ケイ素被覆層を形成するステップ(a6)と、により調製され、
前記残留磁性体複合材料粉末における前記気相二酸化ケイ素の質量百分率は0.05~0.2%であり、
前記残留磁性体複合材料粉末における前記シランカップリング剤の質量百分率は0.1~0.5%である、請求項16に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項18】
前記ステップ(a1)において、前記接着剤は、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含み、前記溶剤はシクロヘキサノン及びアセトンを含み、
前記主磁心グルーにおける前記不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.1~0.3%であり、
前記主磁心グルーにおける前記ビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.8~1.2%であり、
前記主磁心グルーにおける前記4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.2~0.4%であり、
前記主磁心グルーにおける前記シクロヘキサノン及び前記アセトンの質量百分率はそれぞれ5~10%であり、
前記ステップ(a2)においては、前記第2の金型内で、500~900MPaの圧力下で前記主磁心グルーをプレスすることで前記接着剤を硬化させて前記主磁心ブランクを一体的に成形し、
前記ステップ(a4)において、前記有機樹脂は不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含み、前記溶剤はシクロヘキサノン及びアセトンを含み、
前記残留磁性体懸濁液における前記不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.05~0.15%であり、
前記残留磁性体懸濁液における前記ビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.5~0.7%であり、
前記残留磁性体懸濁液における前記4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.1~0.2%であり、
前記残留磁性体懸濁液における前記シクロヘキサノンの質量百分率は7~15%であり、
前記残留磁性体懸濁液における前記アセトンの質量百分率は2~5%である、請求項17に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項19】
前記ステップ(d)においては、前記第1の金型内で、150~300MPaの圧力下及び100~150℃の温度下で前記残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして前記残留磁性体を一体的に形成する、請求項18に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項20】
前記ステップ(e)の後に行われるステップ(f)を更に含み、
前記ステップ(f)においては、前記インダクタの前記残留磁性体の外表面に絶縁塗料を塗布すると共に、前記絶縁塗料を乾燥させて絶縁錆止め層を形成する、請求項19に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項21】
前記絶縁塗料は、質量百分率で、90~95%のN-メチル-2-ピロリドン、4~8%のエポキシ樹脂及び1~2%のナノメートルケイ素粉末を含む、請求項20に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項22】
前記主磁心粉末中の前記非晶質鉄基材料粉末の粒度は5~15μmであり、
前記主磁心粉末中の前記非晶質ニッケル基材料粉末の粒度は10~20μmであり、
前記残留磁性体粉末中の前記磁性体粉末の粒度は15~25μmであり、
前記残留磁性体粉末中の前記軟磁性粉末の粒度は1~3μmであり、
前記気相二酸化ケイ素の粒度は15~30nmであり、
前記ナノメートルケイ素粉末の粒度は80~120nmである、請求項21に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項23】
前記ステップ(a2)においては、更に、前記第1の金型内の上部に位置するように中央柱を前記第1の金型内に配置し、前記中央柱を前記主磁心グルーによって一体的に覆い、
前記ステップ(b)においては、前記コイルの巻線部を前記主磁心の柱部に環装すると共に、前記コイルの二つの末端部を折り曲げて前記主磁心の台座に固定して二つの電極を形成する、請求項22に記載の低損失インダクタの製造方法。
【請求項24】
前記ステップ(f)の後に行われるステップ(g)を更に含み、
前記ステップ(g)においては、二つの前記電極の底部に、厚さが15~25μmであるはんだ層をそれぞれ形成する、請求項23に記載の低損失インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタ及びその製造方法に関し、特に低損失インダクタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変化し続ける技術的要求に伴い、主にオンオフスイッチとして回路に配置されるインダクタには、より低損失でより高い変換効率が求められている。従来のインダクタには、磁石合金複合材料からなり、金型内に配置されて高圧でプレスされて成形されたものが知られている。しかし、従来のインダクタは、外部マグネットを形成するための加圧成形過程において、外部マグネットによって覆われているコイルも高圧で加圧されるため、コイルが変形したり破損したりして短絡が発生する虞がある。そのため、従来のインダクタにおいては、強度を向上させて変形や破損を防止するためにコイルのターン数を増加させる必要があった。ところで、コイルのターン数を増加させると、それに応じて直流抵抗が増加して全体的な損失が増加するという問題がある。
【0003】
また、従来のインダクタには、二種類の磁石合金複合材料を使用し、二つの異なる金型で二次成形して製造されたものも知られている。このようなインダクタの場合、部分的な磁石密度を向上させることができるが、二種類の磁石合金複合材料の透磁率が大きく異なり、磁気漏れが発生する可能性があるため、交流抵抗がさらに増加し、全体の損失が依然として過大である。
【0004】
以上説明したように、従来のインダクタは、磁気漏れと損失を低減するために改良される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、材料の透磁率が同等でないことにより損失が増加するという上記従来のインダクタの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、損失が低減して変換効率が向上するように改良された低損失インダクタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記発明の目的を達成するために提供される本発明に係る低損失インダクタは、
主磁心と、
前記主磁心に環装されたコイルと、
前記主磁心を一体的に覆い且つ前記コイルを部分的に覆う残留磁性体と、を備える低損失インダクタであって、
前記主磁心は主磁心粉末を含み、前記主磁心粉末は、
質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む非晶質鉄基材料粉末と、
質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む非晶質ニッケル基材料粉末と、を含み、
前記残留磁性体は残留磁性体粉末を含み、前記残留磁性体粉末は、
質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)及び0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む磁性体粉末と、
鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む軟磁性粉末と、を含み、
前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む点に特徴がある。
【0007】
非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末を含む主磁心粉末を用いて製造された主磁心は、非晶質材料の損失が比較的に低いであることから、透磁率を高く維持しながら、損失を低減させることができる。また、主磁心を一体的に覆い且つコイルを部分的に覆う残留磁性体を、軟磁性粉末及び磁性体粉末を含む残留磁性体粉末を用いて製造することで、主磁心の透磁率と残留磁性体の透磁率とを同等にすることができ、これにより、磁気漏れを回避してインダクタの交流抵抗を低下させることができる。したがって、本発明に係る低損失インダクタは、品質係数(Q)が高く、動作時の損失が確実に低減し、変換效率が向上する。
【0008】
上記発明の目的を達成するために提供される本発明に係る低損失インダクタの製造方法は、
主磁心を用意し、残留磁性体複合材料粉末を調製するステップ(a)と、
前記主磁心にコイルを環装するステップ(b)と、
前記コイルが環装された前記主磁心と、前記残留磁性体複合材料粉末とを、前記残留磁性体複合材料粉末により前記主磁心が覆われ且つ前記コイルが部分的に覆われるように、第1の金型内に配置するステップ(c)と、
前記第1の金型内で前記残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を一体的に形成するステップ(d)と、
前記残留磁性体を前記第1の金型から離脱させてインダクタを得るステップ(e)と、を含み、
前記ステップ(a)において、
前記主磁心は主磁心粉末を含み、前記主磁心粉末は、
質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む非晶質鉄基材料粉末と、
質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む非晶質ニッケル基材料粉末と、を含み、
前記残留磁性体複合材料粉末は残留磁性体粉末を含み、前記残留磁性体粉末は、
質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)及び0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む磁性体粉末と、
鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む軟磁性粉末と、を含み、
前記鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む点に特徴がある。
【0009】
以上の説明から分かるように、非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末は損失が低いため、これらの非晶質材料を用いて低損失の主磁心を製造することができ、また、主磁心粉末の組成を調整することで、主磁心の透磁率を高く維持することができる。更に、コイルが環装された主磁心と、軟磁性粉末及び磁性体粉末を含む残留磁性体複合材料粉末とを第1の金型内に配置することで、主磁心と同等の透磁率を有し且つ主磁心を一体的に覆う残留磁性体を形成することができ、この構成により、磁気漏れを回避することができる。したがって、本発明に係る製造方法によれば、品質係数(Q)が高く、損失が更に低減して変換效率が向上したインダクタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る低損失インダクタを示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る低損失インダクタを示す分解斜視図である。
【
図3】
図1に示す低損失インダクタの断面図である。
【
図4】本発明に係る低損失インダクタの製造方法に含まれるステップを示すフローチャートである。
【
図5】本発明に係る低損失インダクタの製造方法に含まれるステップを示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係る低損失インダクタの製造方法に含まれるステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を用いて図面を参照しながら、本発明に係る低損失インダクタ及びその製造方法について説明する。
【0012】
図1及び
図2に示すように、本発明に係る低損失インダクタは、一実施形態において、主磁心10と、コイル20と、残留磁性体(residual magnet)30とを備える。
【0013】
主磁心10は柱部11を有している。本実施形態において、柱部11の一端から台座111が一体的に延出している。台座111は略矩形のものであり、台座111の対向する二つの縁部から凸部112がそれぞれ突設されている。ある実施形態において、主磁心10は、柱部11内の上部に位置するように柱部11によって一体的に覆われている中央柱12を更に有している。
【0014】
主磁心10は、非晶質鉄基材料粉末と非晶質ニッケル基材料粉末とを混合してなった主磁心粉末を主に含む。主磁心粉末における非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70~90%であり、非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む。主磁心粉末における非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10~30%であり、非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む。本実施形態において、主磁心10は、熱硬化性樹脂に主磁心粉末を混合したものによって製造される。本実施形態において、熱硬化性樹脂は、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンによって熱架橋された不飽和ポリエステル樹脂によって製造されたものであって良いが、熱硬化性樹脂の組成はこれに限定されない。
【0015】
コイル20は、金属裸線を巻回して形成されたものであり、主磁心10に環装されている。本実施形態において、コイル20は、主磁心10の柱部11に環装されている巻線部21と、二つの電極22とを有している。本実施形態において、金属裸線は平たい形状のものであり、コイル20の巻線部21のターン数は9であるが、これらに限定されない。コイル20の二つの末端部は、二つの電極22を一体的に形成するように、折り曲げられて主磁心10の台座111に固定されている。ある実施形態において、低損失インダクタは、二つの電極22の底部に厚さが15~25μmであるはんだ層221がそれぞれ形成されている表面実装部品(Surface mount device)であって良いが、これに限定されない。
【0016】
残留磁性体30は、主磁心10を一体的に覆い、且つコイル20を部分的に覆っている。具体的には、
図3に示すように、残留磁性体30は、主磁心10と、コイル20の巻線部21とを一体的に覆い、且つ、コイル20の二つの電極22及びそのはんだ層221がいずれも残留磁性体30から露出するように、巻線部21の二つの末端部を部分的に覆っている。本実施形態において、残留磁性体30は、その外表面に形成されている絶縁錆止め層31を更に有している。また、本実施形態において、絶縁錆止め層31はエポキシ樹脂及びナノメートルケイ素粉末を含む。絶縁錆止め層31におけるエポキシ樹脂の質量百分率は80%である。絶縁錆止め層31におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率は20%である。また本実施形態において、絶縁錆止め層31の厚さT1は10~20μmである。
【0017】
残留磁性体30は、磁性体粉末(magnet powder)と軟磁性粉末(soft magnet powder)とを混合してなった残留磁性体粉末を主に含む。残留磁性体粉末における磁性体粉末の質量百分率は59~67%であり、磁性体粉末は、質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)及び0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む。残留磁性体粉末における軟磁性粉末の質量百分率は33~41%であり、軟磁性粉末は、鉄-ケイ素-クロム合金粉末及びカルボニル鉄粉末を含む。ここで、軟磁性粉末における鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17~33%であり、鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む。一方、軟磁性粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は67~83%である。本実施形態において、残留磁性体30は、熱硬化性樹脂に残留磁性体粉末を混合したものによって製造される。本実施形態において、熱硬化性樹脂は不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含み、不飽和ポリエステル樹脂がビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンによって熱架橋されることにより熱硬化性樹脂が形成されるが、熱硬化性樹脂の組成はこれに限定されない。
【0018】
本実施形態において、残留磁性体30は二酸化ケイ素を更に含む。具体的には、二酸化ケイ素は、熱硬化性樹脂にシランカップリング剤を介して気相二酸化ケイ素を混合したものである。
【0019】
本発明に係る低損失インダクタの構造及びその材料について説明した。以下、低損失インダクタの製造方法について説明する。
図4及び
図6に示すように、本発明に係る低損失インダクタの製造方法は、ステップS100からS500を主に含み、ステップS600及びS700を更に含んでもよい。
【0020】
図4に示すように、ステップS100においては、主磁心を用意し、残留磁性体複合材料粉末を調製する。主磁心は、非晶質鉄基材料粉末と非晶質ニッケル基材料粉末とを混合してなった主磁心粉末を含む。主磁心粉末における非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70~90%であり、非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、89.7~92.35%の鉄(Fe)、4~5%のケイ素(Si)、3.5~4%のホウ素(B)、0.05~0.5%のりん(P)及び0.1~0.8%の炭素(C)を含む。一方、主磁心粉末における非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10~30%であり、非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5~67.7%のニッケル(Ni)、25~28%の鉄(Fe)、3.5~5%のホウ素(B)、3.5~5%のケイ素(Si)及び0.3~1.5%のりん(P)を含む。本実施形態において、非晶質鉄基材料粉末の粒度は5~15μmであり、非晶質ニッケル基材料粉末の粒度は10~20μmである。
【0021】
また、ステップS100において、残留磁性体複合材料粉末は、磁性体粉末と軟磁性粉末とを混合したなった残留磁性体粉末を含む。ここで、残留磁性体粉末における磁性体粉末の質量百分率は59~67%であり、磁性体粉末は、質量百分率で、72.7~83.7%の鉄(Fe)、8~11%のニッケル(Ni)、3~5%のコバルト(Co)、3~6%のケイ素(Si)、2~4%のホウ素(B)、0.2~0.8%のりん(P)、0.1~0.5%のニオブ(Nb)を含む。一方、残留磁性体粉末における軟磁性粉末の質量百分率は33~41%であり、軟磁性粉末は、鉄-ケイ素-クロム合金粉末とカルボニル鉄粉末とを含む。ここで、軟磁性粉末における鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17~33%であり、鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5~93.5%の鉄(Fe)、4.5~6.5%のケイ素(Si)及び2~3%のクローム(Cr)を含む。一方、軟磁性粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は67~83%である。本実施形態において、磁性体粉末の粒度は15~25μmであり、軟磁性粉末の粒度は1~3μmである。
【0022】
本実施形態において、ステップS100は、以下のステップS111~S113及びステップS121~S123を含む。ここで、ステップS111~S113は、主磁心を用意するステップである。一方、ステップS121~S123は残留磁性体複合材料粉末を調製するステップである。
【0023】
図5に示すように、ステップS111においては、主磁心粉末を接着剤及び溶剤と混合させて主磁心グルー(glue)を形成する。本実施形態において、接着剤は不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含むものであって良い。しかし、接着剤の材料は上記のものに限定されない。主磁心グルーにおける接着剤中の不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.1~0.3%であり、主磁心グルーにおける接着剤中のビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.8~1.2%であり、主磁心グルーにおける4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.2~0.4%である。ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンは、不飽和ポリエステル樹脂を架橋させて硬化させるための熱架橋剤として用いられる。また、本実施形態において、溶剤としてはシクロヘキサノン及びアセトンが用いられるが、これに限定されない。主磁心グルーにおけるシクロヘキサノン及びアセトンの質量百分率は、それぞれ5~10%である。シクロヘキサノン及びアセトンは、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを溶解させてこれらに主磁心粉末を分散させ、これにより、主磁心粉末を接着剤によって粘着して被覆し、主磁心グルーを形成するためのものである。
【0024】
ステップS112においては、主磁心グルーを主磁心金型内に充填して主磁心ブランクを一体的に成形する。本実施形態においては、主磁心は高圧をかけることによって成形される。すなわち、主磁心金型内において500~900MPaの圧力下で主磁心グルーを加圧し、接着剤中のビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンにより不飽和ポリエステル樹脂が架橋されることで熱硬化性樹脂が形成され、これにより、主磁心グルーが徐々に硬化し、主磁心ブランクを一体的に形成する。また、ある実施形態においては、更に、主磁心金型内の上部に位置するように中央柱を主磁心金型内に配置し、中央柱を主磁心グルーによって覆うことで主磁心ブランクを形成する。
【0025】
ステップS113においては、主磁心ブランクを210℃で5~10分間乾燥させて溶剤を除去し、主磁心ブランクを更に硬化させて主磁心を形成する。
【0026】
そして、
図6に示すように、ステップS121においては、残留磁性体粉末を有機樹脂及び溶剤と混合させて残留磁性体懸濁液を形成する。本実施形態において、有機樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含むものであって良い。しかし、有機樹脂を構成する材料はこれらに限定されない。残留磁性体懸濁液における有機樹脂中の不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.05~015%であり、残留磁性体懸濁液におけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.5~0.7%であり、残留磁性体懸濁液における4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.1~0.2%である。有機樹脂中のビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンもまた、不飽和ポリエステル樹脂を架橋させて硬化させ、熱硬化性樹脂を形成するための熱架橋剤として用いられる。本実施形態において、溶剤としては同様にシクロヘキサノン及びアセトンが用いられるが、これに限定されない。残留磁性体懸濁液における溶剤中のシクロヘキサノンの質量百分率は7~15%であり、残留磁性体懸濁液におけるアセトンの質量百分率は2~5%である。同様に、シクロヘキサノン及びアセトンは、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを溶解させてこれらに残留磁性体粉末を分散させ、これにより、残留磁性体粉末を有機樹脂によって粘着させて被覆し、残留磁性体懸濁液を形成するためのものである。
【0027】
ステップS122においては、残留磁性体懸濁液を乾燥させて溶剤を除去する。主磁心グルーにおける接着剤の質量百分率と比べて、残留磁性体懸濁液における、不飽和ポリエステル樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンを含む有機樹脂の質量百分率はより低い。すなわち、残留磁性体懸濁液の粘度はより低い。そのため、残留磁性体懸濁液を乾燥させれば、残留磁性体粉末の表面に熱硬化性の有機樹脂が覆われた粉末状の残留磁性体複合材料、すなわち残留磁性体複合材料粉末が得られる。
【0028】
ステップS123においては、気相二酸化ケイ素及びシランカップリング剤を残留磁性体複合材料粉末内に混合して、残留磁性体複合材料粉末の表面に二酸化ケイ素被覆層を形成する。ここで、残留磁性体複合材料粉末における気相二酸化ケイ素の質量百分率は0.05~0.2%であり、気相二酸化ケイ素の粒度は15~30nmである。残留磁性体複合材料粉末におけるシランカップリング剤の質量百分率は0.1~0.5%である。本実施形態において、二酸化ケイ素被覆層の厚さは10~20nmである。残留磁性体複合材料粉末は、残留磁性体粉末が有機樹脂によって覆われた構造であるため、シランカップリング剤は、気相二酸化ケイ素及び有機樹脂を結合させて二酸化ケイ素被覆層と有機樹脂との間の異質接合(hetero-bonding)の強度を向上させ、二酸化ケイ素被覆層の崩壊を防ぐ役割を果たすのであって、気相二酸化ケイ素を有機樹脂から離脱させることはない。
【0029】
図4に示すように、ステップS200においては、コイルを主磁心に環装する。本実施形態においては、コイルの巻線部を主磁心の柱部に環装すると共に、コイルの二つの末端部を折り曲げて主磁心の台座に固定し、二つの電極を形成する。すなわち
図1に示すように、コイル20の二つの末端部はそれぞれ折り曲げられて台座111の二つの凸部112の両側に固定されている。また、本実施形態において、巻線部21の二つの末端部はそれぞれ、4回折り曲げられて四つの折り曲げ部を形成している。
図1に示されている、巻線部21の最も上方のターンの末端に接続している末端部を例にすると、当該末端部は、まず後方に延出した後、下方に折り曲げられて第1の折り曲げ部23を形成し、そして、主磁心10の台座111の下方において前方に折り曲げられて第2の折り曲げ部24を形成し、更に、台座111の前方において上方に折り曲げられて第3の折り曲げ部25を形成し、最後に、台座111の上方において後方に折り曲げられて第4の折り曲げ部26を形成し、これによってコイル20が主磁心10上に安定的に固定される。電極22は、第2の折り曲げ部24と第3の折り曲げ部25との間の部分によって構成される。
【0030】
ステップS300においては、コイルが環装された主磁心と、残留磁性体複合材料粉末とを、残留磁性体複合材料粉末により主磁心が覆われ且つコイルが部分的に覆われる(具体的には、コイルの巻線部が覆われ、コイルの二つの電極が露出する)ように、残留磁性体金型内に配置する。
【0031】
ステップS400においては、残留磁性体金型内で残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を一体的に形成する。本実施形態においては、残留磁性体金型内で、150~300MPaの圧力下及び100~150℃の温度下で残留磁性体複合材料粉末をホットプレスする。これにより、不飽和ポリエステル樹脂が有機樹脂中のビスフェノールAジグリシジルエーテル及び4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンによって架橋され、また、残留磁性体複合材料粉末とその外表面に形成されている二酸化ケイ素被覆層とが高圧によって互いに接合され、残留磁性体の絶縁性が向上する。
【0032】
ステップS500においては、残留磁性体を残留磁性体金型から離脱させて低損失インダクタを得る。
【0033】
ステップS600においては、インダクタの残留磁性体の外表面に絶縁塗料を塗布すると共に、絶縁塗料を乾燥させて
図3に示すような絶縁錆止め層31を形成する。本実施形態において、絶縁塗料は、N-メチル-2-ピロリドン、エポキシ樹脂及びナノメートルケイ素粉末を含む。ここで、絶縁塗料におけるN-メチル-2-ピロリドンの質量百分率は90~95%である。絶縁塗料におけるエポキシ樹脂の質量百分率は4~8%である。絶縁塗料におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率は1~2%であり、ナノメートルケイ素粉末の粒度は80~120nmである。絶縁錆止め層31の厚さは10~20μmである。本実施形態において、N-メチル-2-ピロリドンは、樹脂としてのエポキシ樹脂を溶解させてそこにナノメートルケイ素粉末を分散させるための溶剤として用いられる。しかし、絶縁塗料の組成はこれに限定されない。
【0034】
ステップS700においては、二つの電極の底部に
図3に示すようなはんだ層221をそれぞれ形成する。はんだ層221の厚さは15~25μmである。ある実施形態において、低損失インダクタは表面実装部品(Surface mount device)であり、この場合、はんだ層は、低損失インダクタを回路板における対応の接点に接合させるためのものである。
【0035】
本発明に係る低損失インダクタの材料、構造及びその製造方法は、上記実施形態について説明したとおりである。以下、本発明の材料及び製造方法に基づく低損失インダクタの三つの実験群を開示し、一つの対照群を開示する。対照群のインダクタにおける主磁心及び残留磁性体は、従来の材料及び製造方法によって製造されたものである。本発明の三つの実験群のいずれにおいても、同一のステップS122、S200、S300及びS500が行われていた。以下ではその説明を省略する。
【0036】
以下、本発明の実験群1について説明する。
【0037】
実験群1において、主磁心粉末における非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は70%であり、非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、92.35%の鉄(Fe)、4%のケイ素(Si)、3.5%のホウ素(B)、0.05%のりん(P)及び0.1%の炭素(C)を含んでいた。一方、主磁心粉末における非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は30%であり、非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含んでいた。非晶質鉄基材料粉末の粒度は5~15μmであり、非晶質ニッケル基材料粉末の粒度は10~20μmであった。
【0038】
また、実験群1において、残留磁性体粉末における磁性体粉末の質量百分率は59%であり、磁性体粉末は、質量百分率で、83.7%の鉄(Fe)、8%のニッケル(Ni)、3%のコバルト(Co)、3%のケイ素(Si)、2%のホウ素(B)、0.2%のりん(P)及び0.1%のニオブ(Nb)を含んでいた。一方、残留磁性体粉末における軟磁性粉末の質量百分率は41%であり、軟磁性粉末は、鉄-ケイ素-クロム合金及びカルボニル鉄粉末を含んでいた。ここで、軟磁性粉末における鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は17%であり、鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、90.5%の鉄(Fe)、6.5%のケイ素(Si)及び3%のクローム(Cr)を含んでいた。一方、軟磁性粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は83%であった。磁性体粉末の粒度は15~25μmであり、軟磁性粉末の粒度は1~3μmであった。
【0039】
ステップS100:前述した主磁心粉末を用いて主磁心を製造し、前述した残留磁性体粉末を用いて残留磁性体複合材料粉末を調製した。
【0040】
ステップS111:主磁心グルーにおける不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.1%であった。主磁心グルーにおけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は1.2%であった。主磁心グルーにおける4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.4%であった。主磁心グルーにおけるシクロヘキサノンの質量百分率は10%であった。主磁心グルーにおけるアセトンの質量百分率は5%であった。
【0041】
ステップS112:主磁心金型において900MPaの圧力下で主磁心グルーをプレスし、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させて主磁心ブランクを形成した。
【0042】
ステップS113:主磁心ブランクを210℃の温度下で5分間乾燥させてシクロヘキサノン及びアセトンを除去し、主磁心を更に硬化させた。
【0043】
ステップS121:残留磁性体懸濁液における不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.15%であった。残留磁性体懸濁液におけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.7%であった。残留磁性体懸濁液における4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.2%であった。残留磁性体懸濁液におけるシクロヘキサノンの質量百分率は15%であった。残留磁性体懸濁液におけるアセトンの質量百分率は5%であった。
【0044】
ステップS123:残留磁性体複合材料粉末における気相二酸化ケイ素の質量百分率は0.2%であり、気相二酸化ケイ素の粒度は30nmであった。残留磁性体複合材料粉末におけるシランカップリング剤の質量百分率は0.5%であった。本実験群において、二酸化ケイ素被覆層の厚さは20nmであった。
【0045】
ステップS400:残留磁性体金型内で、150MPaの圧力下及び100℃の温度下で残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を形成した。
【0046】
ステップS600:絶縁塗料におけるN-メチル-2-ピロリドンの質量百分率は95%であり、絶縁塗料におけるエポキシ樹脂の質量百分率は4%であり、絶縁塗料におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率は1%であり、ナノメートルケイ素粉末の粒度は80nmであった。本実験群において、絶縁錆止め層の厚さは20μmであった。
【0047】
ステップS700:二つの電極の底部にそれぞれ形成されているはんだ層の厚さは25μmであった。
【0048】
以下、本発明の実験群2について説明する。
【0049】
実験群2において、主磁心粉末における非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は90%であり、非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、89.7%の鉄(Fe)、5%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.5%のりん(P)及び0.8%の炭素(C)を含んでいた。一方、主磁心粉末における非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は10%であり、非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、67.7%のニッケル(Ni)、25%の鉄(Fe)、3.5%のホウ素(B)、3.5%のケイ素(Si)及び0.3%のりん(P)を含んでいた。非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末の粒度は、実験群1について説明した非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末の粒度と同一であった。
【0050】
また、実験群2において、残留磁性体粉末における磁性体粉末の質量百分率は67%であり、磁性体粉末は、質量百分率で、72.7%の鉄(Fe)、11%のニッケル(Ni)、5%のコバルト(Co)、6%のケイ素(Si)、4%のホウ素(B)、0.8%のりん(P)及び0.5%のニオブ(Nb)を含んでいた。残留磁性体粉末における軟磁性粉末の質量百分率は33%であり、軟磁性粉末は、鉄-ケイ素-クロム合金及びカルボニル鉄粉末を含んでいた。ここで、軟磁性粉末における鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は33%であり、鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、93.5%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)及び2%のクローム(Cr)を含んでいた。一方、軟磁性粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は67%であった。磁性体粉末及び軟磁性粉末の粒度は、実験群1について説明した磁性体粉末及び軟磁性粉末の粒度と同一であった。
【0051】
ステップS100:本実験群について前述した主磁心粉末を用いて主磁心を製造し、本実験群について前述した残留磁性体粉末を用いて残留磁性体複合材料粉末を調製した。
【0052】
ステップS111:主磁心グルーにおける不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.3%であった。主磁心グルーにおけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.8%であった。主磁心グルーにおける4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.2%であった。主磁心グルーにおけるシクロヘキサノンの質量百分率は5%であった。主磁心グルーにおけるアセトンの質量百分率は10%であった。
【0053】
ステップS112:主磁心金型内で、500MPaの圧力下で主磁心グルーをプレスし、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させて主磁心ブランクを形成した。
【0054】
ステップS113:主磁心ブランクを210℃の温度下で10分間乾燥させてシクロヘキサノン及びアセトンを除去し、主磁心を更に硬化させた。
【0055】
ステップS121:残留磁性体懸濁液における不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.15%であった。残留磁性体懸濁液におけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.5%であった。残留磁性体懸濁液における4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.1%であった。残留磁性体懸濁液におけるシクロヘキサノンの質量百分率は7%であった。残留磁性体懸濁液におけるアセトンの質量百分率は2%であった。
【0056】
ステップS123:残留磁性体複合材料粉末における気相二酸化ケイ素の質量百分率は0.05%であり、気相二酸化ケイ素の粒度は15nmであった。残留磁性体複合材料粉末におけるシランカップリング剤の質量百分率は0.1%であった。本実験群において、二酸化ケイ素被覆層の厚さは10nmであった。
【0057】
ステップS400:残留磁性体金型内で、300MPaの圧力下及び150℃の温度下で残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を一体的に形成した。
【0058】
ステップS600:絶縁塗料におけるN-メチル-2-ピロリドンの質量百分率は90%であり、絶縁塗料におけるエポキシ樹脂の質量百分率は8%であり、絶縁塗料におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率は2%であり、ナノメートルケイ素粉末の粒度は120nmであった。本実験群において、絶縁錆止め層の厚さは10μmであった。
【0059】
ステップS700:二つの電極の底部にそれぞれ形成されているはんだ層の厚さは15μmであった。
【0060】
以下、本発明の実験群3について説明する。
【0061】
実験群3において、主磁心粉末における非晶質鉄基材料粉末の質量百分率は80%であり、非晶質鉄基材料粉末は、質量百分率で、91%の鉄(Fe)、4.5%のケイ素(Si)、3.75%のホウ素(B)、0.35%のりん(P)及び0.4%の炭素(C)を含んでいた。一方、主磁心粉末における非晶質ニッケル基材料粉末の質量百分率は20%であり、非晶質ニッケル基材料粉末は、質量百分率で、60.5%のニッケル(Ni)、28%の鉄(Fe)、5%のホウ素(B)、5%のケイ素(Si)及び1.5%のりん(P)を含んでいた。非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末の粒度は、実験群1及び2について前述した非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末の粒度と同一であった。
【0062】
また、実験群3において、残留磁性体粉末における磁性体粉末の質量百分率は62.5%であり、磁性体粉末は、質量百分率で、77.05%の鉄(Fe)、9.5%のニッケル(Ni)、4.5%のコバルト(Co)、5%のケイ素(Si)、3%のホウ素(B)、0.6%のりん(P)及び0.35%のニオブ(Nb)を含んでいた。残留磁性体粉末における軟磁性粉末の質量百分率は37.5%であり、軟磁性粉末は、鉄-ケイ素-クロム合金及びカルボニル鉄粉末を含んでいた。ここで、軟磁性粉末における鉄-ケイ素-クロム合金粉末の質量百分率は20%であり、鉄-ケイ素-クロム合金粉末は、質量百分率で、92%の鉄(Fe)、5.5%のケイ素(Si)及び2.5%のクローム(Cr)を含んでいた。一方、軟磁性粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は80%であった。磁性体粉末及び軟磁性粉末の粒度は、実験群1及び2について前述した磁性体粉末及び軟磁性粉末の粒度と同一であった。
【0063】
ステップS100:本実験群について前述した主磁心粉末を用いて主磁心を製造し、本実験群について前述した残留磁性体粉末を用いて残留磁性体複合材料粉末を調製した。
【0064】
ステップS111:主磁心グルーにおける不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.2%であった。主磁心グルーにおけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は1%であった。主磁心グルーにおける4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.3%であった。主磁心グルーにおけるシクロヘキサノンの質量百分率は7%であった。主磁心グルーにおけるアセトンの質量百分率は7%であった。
【0065】
ステップS112:主磁心金型内で、700MPaの圧力下で主磁心グルーをプレスし、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させて主磁心ブランクを形成した。
【0066】
ステップS113:主磁心ブランクを210℃の温度下で7分間乾燥してシクロヘキサノン及びアセトンを除去し、主磁心を更に硬化させた。
【0067】
ステップS121:残留磁性体懸濁液における不飽和ポリエステル樹脂の質量百分率は0.1%であった。残留磁性体懸濁液におけるビスフェノールAジグリシジルエーテルの質量百分率は0.6%であった。残留磁性体懸濁液における4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタンの質量百分率は0.15%であった。残留磁性体懸濁液におけるシクロヘキサノンの質量百分率は12%であった。残留磁性体懸濁液におけるアセトンの質量百分率は3%であった。
【0068】
ステップS123:残留磁性体複合材料粉末における気相二酸化ケイ素の質量百分率は0.15%であり、気相二酸化ケイ素の粒度は20nmであった。残留磁性体複合材料粉末におけるシランカップリング剤の質量百分率は0.25%であった。本実験群において、二酸化ケイ素被覆層の厚さは15nmであった。
【0069】
ステップS500:残留磁性体金型内で、250MPaの圧力下及び120℃の温度下で残留磁性体複合材料粉末をホットプレスして残留磁性体を一体的に形成した。
【0070】
ステップS600:絶縁塗料におけるN-メチル-2-ピロリドンの質量百分率は92.5%であり、絶縁塗料におけるエポキシ樹脂の質量百分率は6%であり、絶縁塗料におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率は1.5%であり、ナノメートルケイ素粉末の粒度は100nmであった。本実験群において、絶縁錆止め層の厚さは15μmであった。実験群1~3における絶縁塗料の組成から分かるように、ナノメートルケイ素粉末の含有量に応じて絶縁塗料の粘度が変わる。絶縁塗料の粘度が高いほど、形成された絶縁錆止め層の厚さが薄くなる。したがって、絶縁塗料におけるナノメートルケイ素粉末の質量百分率を調節することにより、絶縁錆止め層の厚さを調節可能である。なお、ナノメートルケイ素粉末は抵抗が高いため、絶縁の効果を有する。
【0071】
ステップS700:二つの電極の底部にそれぞれ形成されているはんだ層の厚さは15μmであった。
【0072】
以下、本発明の対照群について説明する。
【0073】
対照群において、主磁心は、第1の磁性体材料粉末及びカルボニル鉄粉末を含む磁心粉末を用いて製造した。ここで、磁心粉末における第1の磁性体材料粉末の質量百分率は59%であり、第1の磁性体材料粉末は、質量百分率で、91%の鉄(Fe)、3.5%のケイ素(Si)、5%のホウ素(B)及び0.5%の炭素(C)を含み、第1の磁性体材料粉末の粒度は25μmであった。磁心粉末におけるカルボニル鉄粉末の質量百分率は41%であり、カルボニル鉄粉末の粒度は4μmであった。
【0074】
磁心粉末は、更に、エポキシ樹脂と混合して磁心造粒粉末を形成し、磁心造粒粉末における磁心粉末の質量百分率は98.4%であった。磁心造粒粉末におけるエポキシ樹脂の質量百分率は1.6%であった。その後、磁心造粒粉末を主磁心金型内に配置し、主磁心金型内で、700MPaの圧力下でプレスして主磁心ブランクを形成し、更に、180℃の温度下で10分間乾燥して硬化させ、主磁心を形成した。
【0075】
対照群において、残留磁性体は前述した第1の磁性体材料粉末及びカルボニル鉄粉末を含む残留磁性体粉末を用いて製造した。残留磁性体粉末の組成は磁心粉末の組成と同一であったので、その説明を省略する。
【0076】
残留磁性体粉末は、更に、エポキシ樹脂と混合して残留磁性体造粒粉末を形成し、ここで、残留磁性体造粒粉末における残留磁性体粉末の質量百分率は99%であった。残留磁性体造粒粉末におけるエポキシ樹脂の質量百分率は1%であった。その後、残留磁性体造粒粉末と、コイルが環装された主磁心とを残留磁性体金型内に配置し、残留磁性体金型内で、300MPaの圧力下及び100~150℃の温度下でホットプレスし、残留磁性体を形成すると同時にインダクタを形成した。
【0077】
対照群においては、インダクタを180℃の温度下で4時間保持し、インダクタを更に硬化させた。その後、インダクタの残留磁性体の外表面に絶縁塗料を塗布して乾燥させ、インダクタの二つの電極にはんだ層を形成した。
【0078】
表1は、実験群1~3及び対照群の主磁心及び残留磁性体について、その透磁率及び損失を測定した結果である。損失は、動作周波数が1MHzであり、磁束密度が50mTである条件下で測定した。
【0079】
【0080】
表2は、実験群1~3の低損失インダクタ及び対照群のインダクタについて、そのインダクタンス、飽和電流、品質係数及び交流抵抗を測定した結果である。
【0081】
【0082】
表1から分かるように、三つの実験群の低損失インダクタのいずれも、その主磁心に非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末が含まれているので、従来の磁性体材料を用いて製造された対照群と比べて、主磁心の磁化及び消磁が容易であり、主磁心の損失を大幅に低減させることができる。また、本発明に係る主磁心粉末を用いて製造された主磁心の透磁率と、本発明に係る残留磁性体粉末を用いて製造された残留磁性体の透磁率とが同等である。従来の材料を用いて製造されたインダクタと比べて、インダクタの損失を低減させることができ、且つ表2に示すように、交流抵抗を大幅に低減させることができる。したがって、表2から分かるように、本発明に係る主磁心粉末及び残留磁性体粉末を用いて製造された低損失インダクタは、従来のインダクタよりも高い品質係数Qを有し、損失が確かに大幅に低減し、変換効率が向上している。
【0083】
以上の説明から分かるように、主磁心の製造に使用された主磁心粉末に非晶質鉄基材料粉末及び非晶質ニッケル基材料粉末が含まれており、これらの非晶質材料粉末は従来の磁性材料よりも磁化及び消磁が容易であるので、低損失という特徴を有している。したがって、主磁心粉末の組成を調整することで、主磁心の透磁率を高く維持しながら主磁心の損失を低減させることができる。また、磁性体粉末及び軟磁性粉末の組成を調整した残留磁性体粉末を用いれば、主磁心と同等の透磁率を有する残留磁性体を製造することが可能であり、これにより、透磁率が同等でないことによる磁気漏れを回避し、インダクタの損失を更に低減させることができるので、低損失インダクタの変換效率を更に向上させることができる。
【0084】
本発明を上記実施形態により説明したが、本発明はこれら開示された実施形態に限定されず、当業者であれば、本発明の技術的思想を逸脱することなく、様々な変更および修飾を加えて均等物とすることができる。したがって、上記実施形態に変更、改変および修飾を加えた内容もまた、本発明の技術的思想に含まれるものである。
【外国語明細書】