(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002978
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】移送方法、冷凍方法、冷凍システム及び冷凍システム用ホース
(51)【国際特許分類】
F25B 41/40 20210101AFI20231228BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20231228BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20231228BHJP
F16L 11/08 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F25B41/40 C
F25B1/00 396Z
F16L11/04
F16L11/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102833
(22)【出願日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022101028
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】味岡 将平
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】神谷 幸紀
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111BA12
3H111CC02
3H111DA26
3H111DB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷凍システム又は空調システムにおいて、フルオロエチレンを安定的に移送することができる方法及び冷凍方法を提供する。
【解決手段】冷凍システム又は空調システム内での伝熱流体を移送する方法であって、システムの1つ又はそれ以上のホースAを通して伝熱流体を循環させる工程を含み、伝熱流体がフルオロエチレンを含み、ホースAは樹脂で形成され、フルオロエチレンがトリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍システム又は空調システム内での伝熱流体を移送する方法であって、
前記システム内の1つ又はそれ以上のホースを通して伝熱流体を循環させる循環工程を含み、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは樹脂で形成されている、伝熱流体の移送方法。
【請求項2】
前記フルオロエチレンがトリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の移送方法。
【請求項3】
前記フルオロエチレンは、E体の1,2-ジフルオロエチレンを含む、請求項2に記載の移送方法。
【請求項4】
前記循環工程は、
圧縮機の出口と凝縮器の入口との間に接続された前記ホースから前記伝熱流体を循環させる工程、
凝縮器の出口と蒸発器の入口との間に接続された前記ホースを通して前記伝熱流体を循環させる工程、及び、
蒸発器の出口と圧縮機の入口との間に接続された前記ホースを通して伝熱流体を循環させる工程
からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の移送方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の移送方法を使用して冷凍を行う工程を備える、冷凍方法。
【請求項6】
伝熱流体を循環させるホースを備える冷凍システムであって、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは樹脂で形成されている、冷凍システム。
【請求項7】
前記フルオロエチレンがトリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の冷凍システム。
【請求項8】
前記フルオロエチレンは、E体の1,2-ジフルオロエチレンを含む、請求項6に記載の冷凍システム。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の冷凍システムに用いられる、冷凍システム用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移送方法、冷凍方法、冷凍システム及び冷凍システム用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高圧流体を取り扱うことができ、かつ、エアコンおよび冷凍システムにおける透過損失に対するバリアを提供することができる可撓性ホースの使用に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、冷凍システム又は空調システムにおいて、フルオロエチレンを安定的に移送することができる方法及び移送方法、冷凍方法、冷凍システム及び冷凍システム用ホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本開示は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
冷凍システム又は空調システム内での伝熱流体を移送する方法であって、
前記システム内の1つ又はそれ以上のホースを通して伝熱流体を循環させる循環工程を含み、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは樹脂で形成されている、伝熱流体の移送方法。
項1´
冷凍システム又は空調システム内での伝熱流体を移送する方法であって、
前記システム内の1つ又はそれ以上のホースを通して伝熱流体を循環させる循環工程を含み、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは金属で形成されている、伝熱流体の移送方法。
項2
前記フルオロエチレンがトリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、項1に記載の移送方法。
項3
前記フルオロエチレンは、E体の1,2-ジフルオロエチレンを含む、項2に記載の移送方法。
項4
前記循環工程は、
圧縮機の出口と凝縮器の入口との間に接続された前記ホースから前記伝熱流体を循環させる工程、
凝縮器の出口と蒸発器の入口との間に接続された前記ホースを通して前記伝熱流体を循環させる工程、及び、
蒸発器の出口と圧縮機の入口との間に接続された前記ホースを通して伝熱流体を循環させる工程
からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程を備える、項1~3のいずれか1項に記載の移送方法。
項5
項1~3のいずれか1項に記載の移送方法を使用して冷凍を行う工程を備える、冷凍方法。
項6
伝熱流体を循環させるホースを備える冷凍システムであって、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは樹脂で形成されている、冷凍システム。
項6´
伝熱流体を循環させるホースを備える冷凍システムであって、
前記伝熱流体がフルオロエチレンを含み、
前記ホースは金属で形成されている、冷凍システム。
項7
前記フルオロエチレンがトリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の冷凍システム。
項8
前記フルオロエチレンは、E体の1,2-ジフルオロエチレンを含む、項6に記載の冷凍システム。
項9
項6~8のいずれか1項に記載の冷凍システムに用いられる、冷凍システム用ホース。
【発明の効果】
【0006】
本開示の移送方法は、フルオロエチレンを安定的に移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の移送方法で使用するホースの断面の一例を示す概略図である。
【
図2】本開示の伝熱流体の移送方法を利用した冷凍システム又は空調システムを模式的に表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(以下、HFO-1132(E)と表記する)に代表されるフルオロエチレンは、新規冷媒として期待されている。斯かるフルオロエチレンを移送するために各種材料で形成されたホースを使用するにあたり、フルオロエチレンのホースへの適合性及び透過性等はこれまで一切検討されていない。すなわち、現時点において、冷凍システム又は空調システム等の各種システムにおいて、フルオロエチレンを安定的に移送する方法は確立されていない。
【0009】
本発明者らは、かかる事情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、フルオロエチレンを含む伝熱流体を安定的に移送することができる移送方法を見出した。
【0010】
本開示において、「伝熱流体(フルオロエチレン)を安定的に移送する」とは、伝熱流体の圧力によって冷凍システム及び冷凍システム用ホースが壊れないで伝熱流体を移送できること(すなわち、耐圧性があること)、伝熱流体によって冷凍システム及び冷凍システム用ホースに使用されている材料を劣化させずに移送できること、及び、冷凍システム及び冷凍システム用ホースからの伝熱流体の透過が抑制されつつ移送できること、を包含する。
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を夫々最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。
【0013】
1.伝熱流体の移送方法
本開示の伝熱流体の移送方法は、冷凍システム又は空調システム内での伝熱流体を移送する方法であって、前記システム内の1つ又はそれ以上のホースを通して伝熱流体を循環させる工程を含み、前記伝熱流体がフルオロエチレンを含む。前記ホースは樹脂で形成されていることが好ましい。
【0014】
本開示の伝熱流体の移送方法によれば、伝熱流体の移送にあたっての冷媒損失を抑制することができ、フルオロエチレンを含む伝熱流体を安定的に移送することができる。
【0015】
(伝熱流体)
本開示の移送方法で移送させる伝熱流体は、フルオロエチレンを含む。フルオロエチレンは、少なくとも1個のフッ素を有するエチレン化合物である。前記伝熱流体に含まれるフルオロエチレンは、少なくとも2個のフッ素を有することが好ましい。
【0016】
中でも、前記フルオロエチレンは、トリフルオロエチレン、1,1-ジフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。フルオロエチレンをより安定的に移送しやすい点で、前記フルオロエチレンは、1,2-ジフルオロエチレンを含むことがさらに好ましい。前記フルオロエチレンは、トリフルオロエチレン、1,1-ジフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のみからなるものであっても良いし、また、1,2-ジフルオロエチレンのみからなるものであっても良い。
【0017】
斯かる1,2-ジフルオロエチレンには二種類の異性体(E体、Z体)が存在し、具体的には、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及びシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))の二種類が存在する。本開示において、1,2-ジフルオロエチレンは、いずれか一方の異性体のみであってもよいし、両方の異性体の混合物であってもよい。つまり、前記伝熱流体に含まれる1,2-ジフルオロエチレンは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とすることができる。
【0018】
中でも1,2-ジフルオロエチレンは、少なくともE体の1,2-ジフルオロエチレン、すなわち、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))を含むことが好ましい。より具体的には、1,2-ジフルオロエチレンは、1,2-ジフルオロエチレンの全質量に対してHFO-1132(E)を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。1,2-ジフルオロエチレンは、HFO-1132(E)のみからなるものであっても良い。
【0019】
伝熱流体は、フルオロエチレン以外の成分を含むことができ、例えば、フルオロエチレン以外の冷媒を含むこともできる。ここでいう「フルオロエチレン以外の冷媒」とは、ISO817(国際標準化機構)で定められた、冷媒の種類を表すRで始まる冷媒番号(ASHRAE番号)が付された化合物が少なくとも含まれ、更に冷媒番号が未だ付されていないとしても、それらと同等の冷媒としての特性を有するものが含まれる。斯かる冷媒は、化合物の構造の面で、「フルオロカーボン系化合物」と「非フルオロカーボン系化合物」とに大別される。「フルオロカーボン系化合物」には、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及びハイドロフルオロカーボン(HFC)が含まれる。「非フルオロカーボン系化合物」としては、プロパン(R290)、プロピレン(R1270)、ブタン(R600)、イソブタン(R600a)、二酸化炭素(R744)及びアンモニア(R717)等が挙げられる。
【0020】
フルオロエチレン以外の冷媒としては、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、HFC-32、R290(プロパン)、R744(二酸化炭素)、R1234ze、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1,1-ジフルオ口エタン(HFC-152a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、フルオ口エタン(HFC-161)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3,3,3-へプタフルオロプロパン(HFC-227ea)を挙げることができ、中でもフルオロエチレン以外の冷媒は、HFC-32、HFC-152a、HFO-1234yf、R744及びR290からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。伝熱流体の一態様として、前記フルオロエチレンと、HFO-1234yf及び/又はHFC-32とを含む混合物が挙げられる。
【0021】
伝熱流体が、HFO-1234yfを含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン及びHFO-1234yfの全質量に対し、HFO-1234yfを40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上で含むことがさらに好ましい。熱流体は、前記フルオロエチレン及びHFO-1234yfの全質量に対し、HFO-1234yfを90質量%以下含むことが好ましく、85質量%以下含むことより好ましい。
【0022】
上記伝熱流体が、さらに、HFC-32を含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32の全質量に対し、HFC-32の含有割合が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。伝熱流体は、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32の全質量に対し、HFC-32の含有割合が80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、22質量%以下であることが特に好ましい。
【0023】
伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfを含むことが特に好ましい。伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfのみからなるものであっても良い。
【0024】
伝熱流体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、公知の方法で製造したフルオロエチレンを用いて伝熱流体を得ることができる。また、伝熱流体がHFO-1234yfを含む場合は、斯かるHFO-1234yfも公知の方法で得ることができる。また、伝熱流体がフルオロエチレン及びフルオロエチレン以外の冷媒の混合物である場合は、例えば、両者を適宜の混合比で混合することで、伝熱流体を得ることができる。
【0025】
伝熱流体は、冷媒以外の成分を含むこともできる。冷媒以外の成分としては、水、冷凍機油等を挙げることができる。伝熱流体が冷媒以外の成分を含む場合、その含有割合は特に限定されず、例えば、伝熱流体中の冷媒の全質量に対し、冷媒以外の成分の含有割合は、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下とすることができる。
【0026】
(ホース)
本開示の移送方法では、ホースを通じて伝熱流体の移送を行う。斯かるホースを形成するための材料及び構造は特に限定されず、例えば、公知のホースを広く適用することができる。中でも、本開示の移送方法使用する前記ホースは樹脂又は金属で形成されていることが好ましく、樹脂で形成されていることがより好ましい。この場合、より安定的にフルオロエチレンを移送することができる。樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムを挙げることができ、これらの2種以上を含むものであってもよい。すなわち、ホースは、例えば、熱可塑性樹脂とゴムとを含むものであってもよい。
【0027】
フルオロエチレンを含む伝熱流体の透過が特に抑制されやすい点で、ホースを形成する樹脂中のエチレン含有率(mol%)は、樹脂の全量に対し、20~50mol%であることが好ましく、20~30mol%であることがより好ましい。樹脂中のエチレン含有率は、EVOHの融点から計測することができる。
【0028】
本開示の移送方法で使用できるホースの一態様として、例えば、特開2002-370273号公報に開示されているような、コア層を備えるホースAを挙げることができる。
【0029】
前記ホースAは、コア層(最内層)と、該コア層を被覆する被覆層(外層)とで形成され得る。前記コア層(最内層)及び被覆層(外層)との間にはゴム層(内層)を有することもできる。前記コア層は、例えば、各種樹脂で形成され、具体的には、EVOH(エバール)、ポリアミド樹脂等で形成される。コア層は、内層コア及びこの外側に配置される外層コアからなる構造を有することができ、斯かる構造は、例えば、共押出で成形することができる。この場合において、内層コア及び外層コアは、異なる樹脂で形成することができる。ゴム層(内層)は、各種ゴムで形成することができ、例えば、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化―ニトリルーブタジエンゴム(HNBR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、エピクロルヒドリンゴム(CHR、CHC)、アクリルゴム(ACM)及びクロロプレンゴム(CR)からなる群より選ばれる1種以上のゴム材料で形成することができ、中でもブチルゴム(IIR)及びエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0030】
前記ホースAにおいて、被覆層(外層)は、例えば、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化―ニトリルーブタジエンゴム(HNBR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、エピクロルヒドリンゴム(CHR、CHC)、アクリルゴム(ACM)及びクロロプレンゴム(CR)からなる群より選ばれる1種以上のゴム材料で形成することができる。
【0031】
図1は、前記ホースAの断面の一例を示す概略説明図である。
図1で示されるホースAは、コア層10と、該コア層10を被覆する被覆層20とを備え、コア層10及び被覆層20との間にはゴム層30を有する。
図1に示されるように、コア層10は、前述したとおり、内層コア11及び該内層コア11を被覆する外層コア12を有して形成されていてもよい。もちろん、コア層10は、ただ1層のみで形成されていてもよい。コア層10の内部は空洞50が形成されている。
【0032】
ホースAは前記コア層及び前記被覆層(外層)のみで形成することができ、あるいは、
図1に示されるように、必要に応じてホースAは、前記コア層(最内層)及び被覆層(外層)との間には前記ゴム層(内層)を設けることもできる。斯かるゴム層(内層)は、いわゆる摩擦層及び/又は強化層である。例えば、ホースAは、前記コア層が前記摩擦層により被覆され、前記摩擦層が前記強化層により被覆され、前記強化層が前記被覆層により被覆された構造を有することができる。ゴム層(内層)と被覆層(外層)との間にさらに補強層を設けることもできる。補強層は、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アラミド樹脂等の樹脂で形成される。なお、
図1では補強層を省略している。
【0033】
前記ホースAにおいて、前記摩擦層は、例えば、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエンとアクリロニトリルのコポリマー、ブタジエンとスチレンのコポリマー、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、エチレン-プロピレンコポリマー、EPDM、例えばエチレン-プロピレン-ノルボルネンターポリマー、エチレン-プロピレン-1,4-ヘキサジエンターポリマー、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエンターポリマー等のポリマー材料で形成することができる。
【0034】
前記強化層は、ホースを強化させるために用いられる材料を広く適用することができ、例えば、各種繊維で形成され得る。例えば、ヤーンを編組、螺旋巻き、編み、または螺旋編みすることにより、強化層が形成され得る。
【0035】
ホースAは、EVOH(エバール)を含むコア層を備えることが好ましく、中でも、ポリアミド6(PA6)からなる内層コア及びこれを被覆するEVOHからなる外層コアとで形成されるコア層を備えることがより好ましい。この場合、フルオロエチレンを含む伝熱流体の透過をより抑制できるので、特に安定的にフルオロエチレンを移送することができ、とりわけ、1,2-ジフルオロエチレンの透過を特に顕著に抑制することができる。
【0036】
EVOH(エバール)の種類は特に限定されず、公知のEVOH(エバール)を広く適用することができる。
【0037】
フルオロエチレンを含む伝熱流体の透過をより抑制しやすくする点で、EVOH(エバール)は、自由体積が30~100Å3であることが好ましく、30~50Å3であることがより好ましい。EVOH(エバール)の自由体積は、シート状に形成したEVOHシートを陽電子消滅法によって計測することができる。
【0038】
フルオロエチレンを含む伝熱流体の透過が特に抑制されやすい点で、EVOH(エバール)中のエチレン含有率(mol%)は、EVOHの全量に対し、20~50mol%であることが好ましく、20~30mol%であることがより好ましいEVOH(エバール)中のエチレン含有率は、EVOHの融点から計測することができる。
【0039】
ホースAは、例えば、コア層(最内層)と、ゴム層(内層)と、補強層と、被覆層(外層)とがこの順に積層されて構成されるホース(例えば、ブリヂストン製「ホースフレキシブルハイ(92490-4BC0A)」)が挙げられる。また、ホースAは、内層コア及び外層コアで形成されるコア層(最内層)と、ゴム層(内層)と、補強層と、被覆層(外被覆層)とがこの順に積層されて構成されるホース(例えば、ContiTech製)が挙げられる。
【0040】
ホースAのさらなる一態様として、ポリアミド6(PA6)からなる内層コア及びこれを被覆するEVOH(エバール)からなる外層コアとで形成されるコア層(最内層)と、ブチルゴム(IIR)及びエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)からなるゴム層(内層)と、ポリエチレンテレフタラート(PET)からなる補強層と、ブチルゴム(IIR)及びエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)からなる被覆層(外層)とで構成されることが特に好ましい。この場合、フルオロエチレンを含む伝熱流体のホース透過性を抑制しやすく、特に安定に伝熱流体を移送しやすい。
【0041】
ホースからの伝熱流体の透過量をさらに抑制するには、ホースの構成材料の樹脂(高分子)の自由体積を小さくすることが好適である。斯かる樹脂として、EVOH(エバール);PA6、PA66、株式会社クラレのジェネスタ(PA9T)、三井化学のアーレン(PA6T)、三菱ガス化学のレニーなどのポリアミド樹脂;が挙げられる。すなわち、ホースを形成する樹脂は、EVOH(エバール)及びポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、前記コア層が、EVOH(エバール)及びポリアミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
樹脂の自由体積を小さくする方法、例えば、ポリアミド樹脂の自由体積を小さくする方法としては、分子間相互作用を強くして分子の動きやすさを低下させることが有効である。分子間相互作用としては、双極子相互作用、水素結合、Londonの分散力などが挙げられ、中でも、Londonの分散力の一つであるπ―π相互作用を高めることが有効である。上記のπ―π相互作用を持つ構造として例えば芳香族を分子鎖に持つポリアミドが挙げられる。芳香族はアミン成分の分子構造中にあっても良いし、カルボン酸成分の分子構造中にあっても良い。芳香族を分子鎖に持つポリアミドとして、株式会社クラレのジェネスタ(PA9T)、三井化学のアーレン(PA6T)、三菱ガス化学のレニーなどが挙げられ、特にクラレのジェネスタが好ましい。
【0043】
本開示の移送方法で使用できるホースの他の一態様として、例えば、特開2006-29443号公報に開示されているような、ゴム層(内層)と、この該周面に形成された補強層と、さらにこの補強層の外周面に形成された被覆層(外層)とを備えるホースBを挙げることができる。
【0044】
ホースBにおいて、ゴム層(内層)は、(A)ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムの少なくとも一方のゴムと、(B)ポリブテンと、(C)白色充填剤とを含む材料で形成され得る。(C)白色充填剤とは、例えば、タルク、マイカ、セリサイト、モンノリロナイト、シリカ、クレー等である。
【0045】
ホースBにおいて、前記補強層は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),アラミド,ポリアミド(ナイロン),ビニロン,レーヨン,金属ワイヤ等の補強糸を、スパイラル編組,ニット編組,ブレード編組等によって編組することにより構成することができる。
【0046】
ホースBにおいて、前記被覆層(外層)は、例えば、ブチルゴム(IIR),塩素化ブチルゴム(Cl-IIR),臭素化ブチルゴム(Br-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、アクリルゴム、シリコンゴム、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、ウレタンゴム等のゴム材料に、加硫剤、カーボンブラック等を適宜に配合した材料で形成され得る。また、前記外層として、アクリル系,スチレン系,オレフィン系,ジオレフィン系,塩化ビニル系,ウレタン系,エステル系,アミド系,フッ素系,シリコン系等の熱可塑性エラストマー(TPE)や、熱収縮チューブ等を用いることも可能である。
【0047】
本開示の移送方法で使用できるホースのさらなる他の一態様として、例えば、国際公開第2017/010335号に開示されているような、ゴム層(内層)と、補強層と、被覆層(外層)とをこの順で有するホースCを挙げることができる。
【0048】
前記ホースCにおいて、前記ゴム層(内層)は、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム、ブチル系ゴム及び塩素化ポリエチレン系ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むゴム成分と、液状ブチルゴムとを含有するゴム組成物で形成されることが好ましい。
【0049】
前記ホースCにおいて、前記補強層は、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリケトン繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維のような繊維材料;ブラスメッキが施されたワイヤ、亜鉛メッキワイヤーのような硬鋼線(例えば、等)などの金属材料で形成され得る。補強層の形状は、例えば、ブレード状、スパイラル状とすることができる。
【0050】
前記ホースCにおいて、前記被覆層(外層)は、例えば、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムで形成することができる。
【0051】
本開示の移送方法において、ホースを二以上使用する場合、各ホースは全て同一であっても良いし、一部または全部が異なっていても良い。
【0052】
本開示の伝熱流体の移送方法は、1つ又はそれ以上の前記ホースを通して前記伝熱流体を循環させる循環工程を具備する。斯かる循環工程を具備する限り、本開示の伝熱流体の移送方法は特に限定されない。
【0053】
前記循環工程は、下記の工程1、工程2、工程3からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程を備えることができる。
工程1;圧縮機の出口と凝縮器の入口との間に接続されたホースから前記伝熱流体を循環させる工程。
工程2;凝縮器の出口と蒸発器の入口との間に接続されたホースを通して前記伝熱流体を循環させる工程。
工程3;蒸発器の出口と圧縮機の入口との間に接続されたホースを通して伝熱流体を循環させる工程
【0054】
例えば、本開示の伝熱流体の移送方法において、前記循環工程は、前記工程1、工程2及び工程3をこの順に備えることができる。
【0055】
図2は前記工程1~3を備える移送方法を模式的に表す概略図であって、特には冷凍システム又は空調システムを模式的に表す概略図である。本開示の伝熱流体の移送方法では、
図2に示すように、蒸発器1、圧縮機2、凝縮器3および膨張デバイス4を含むことができる。
【0056】
図2に示すように、蒸発器1からの伝熱流体は、ホース6を通って圧縮機2の入口に流入した後、放出される。蒸発器1及び圧縮機2の種類は特に限定されず、例えば、冷凍システム又は空調システムにおいて使用され得る公知の蒸発器及び圧縮機を本開示の移送方法でも使用することができる。
【0057】
圧縮機によって圧縮された伝熱流体は、圧縮機出口およびホース6を通って凝縮器3に流れる。ホース6中には、適宜、圧力調整バルブ5が設けられてもよい。圧縮された伝熱流体は凝縮器3で凝縮し、熱を放出することができる。凝縮器洗浄伝熱流体(液体冷媒)は、膨張デバイス4を通ってホース6を通じ、冷房モードの場合はパッセンジャー・コンパートメントに配置されている蒸発器1に流れる。この蒸発器1で、液体冷媒は気化し、冷却を提供することができる。暖房モードの場合、圧縮機2で圧縮された気体状態の冷媒は、パッセンジャー・コンパートメントに配置されている凝縮器3に流れる。この凝縮器3で、冷媒は液化し、暖気を提供することができる。本開示の伝熱流体の移送方法では、以上のようなサイクルが起こり、冷凍システム又は空調システムが構築される。
【0058】
ホース6は、前述のホースA、ホースB、ホースC等を適用することが好ましく、ホースを二以上使用する場合、各ホースは全て同一であっても良いし、一部または全部が異なっていても良い。
【0059】
本開示の伝熱流体の移送方法は、各種冷凍システム又は空調システムに適用することができ、例えば、建物等に固定式冷凍またはエアコン、あるいは、車両等の移動式冷凍またはエアコン等の用途に適用することができる。
【0060】
(冷凍方法)
また、本開示の伝熱流体の移送方法は、冷凍方法にも適用することができる。従って、本開示の冷凍方法は、本開示の伝熱流体の移送方法を使用して冷凍を行う工程を備えることができる。言い換えれば、本開示の冷凍方法は、本開示の移送方法によって移送される伝熱流体によって冷凍を行うものである。よって、本開示の冷凍方法は、1つ又はそれ以上の前記ホースを通して前記伝熱流体を循環させる循環工程を含み、前記伝熱流体がフルオロエチレンを含むものである。本開示の冷凍方法は本開示の移送方法を含むので、伝熱流体の移送にあたっての冷媒損失を抑制することができ、フルオロエチレンを含む伝熱流体を安定的に移送することができるので、優れた冷凍能力を提供することが可能となる。
【0061】
2.装置
本開示の装置は、一つ又はそれ以上のホースおよび伝熱流体を有し、上記ホースを通して上記伝熱流体を循環させるものであって、前記伝熱流体がフルオロエチレンを含むものである。
【0062】
本開示の装置において、ホースの種類は特に限定されず、例えば、公知のホースを広く適用することができ、例えば、樹脂又は金属製のホースが挙げられ、樹脂製のホースであることが好ましく、中でも、前述のホースA、ホースB、ホースC等を適用することがより好ましく、ホースAが特に好ましい。本開示の装置が、ホースを二以上使用する場合、各ホースは全て同一であっても良いし、一部または全部が異なっていても良い。
【0063】
本開示の装置において循環される伝熱流体は、前述の本開示の移送方法で循環させる伝熱流体と同様である。従って、本開示の装置で循環させる伝熱流体に含まれるフルオロエチレンは、トリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、1,2-ジフルオロエチレンを含むことがさらに好ましい。前記フルオロエチレンは、トリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のみからなるものであっても良いし、また、1,2-ジフルオロエチレンのみからなるものであっても良い。
【0064】
また、本開示の装置においても、1,2-ジフルオロエチレンは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))を含むことが好ましい。より具体的には、1,2-ジフルオロエチレンは、1,2-ジフルオロエチレンの全質量に対してHFO-1132(E)を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。1,2-ジフルオロエチレンは、HFO-1132(E)のみからなるものであっても良い。
【0065】
本開示の装置において、伝熱流体は、フルオロエチレン以外の成分を含むことができ、斯かる成分は、例えば、本開示の移送方法で使用するフルオロエチレン以外の成分と同様とすることができる。従って、フルオロエチレン以外の冷媒としては、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、HFC-32、R290(プロパン)、R744(二酸化炭素)R1234ze、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1,1-ジフルオ口エタン(HFC-152a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、フルオ口エタン(HFC-161)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3,3,3-へプタフルオロプロパン(HFC-227ea)を挙げることができ、中でもフルオロエチレン以外の冷媒は、HFC-32、HFC-152a、 HFO-1234yf、R744及びR290からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。伝熱流体の一態様として、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32を含む混合物が挙げられる。
【0066】
伝熱流体が、HFO-1234yfを含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン及びHFO-1234yfの全質量に対し、HFO-1234yfを40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。熱流体は、前記フルオロエチレン及びHFO-1234yfの全質量に対し、HFO-1234yfを90質量%以下含むことが好ましく、85質量%以下含むことより好ましい。
【0067】
上記伝熱流体が、さらに、HFC-32を含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32の全質量に対し、HFC-32の含有割合が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。伝熱流体は、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32の全質量に対し、HFC-32の含有割合が80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であること特に好ましい。
【0068】
伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfを含むことが特に好ましい。伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfのみからなるものであっても良い。
【0069】
本開示の装置によれば、フルオロエチレンを含む伝熱流体を循環させる際の冷媒損失を抑制することができ、フルオロエチレンを安定的に移送することができる。従って、本開示の装置は、各種冷凍機及び各種空調機器に好適に使用することができ、例えば、建物等に固定式冷凍またはエアコン、あるいは、車両等の移動式冷凍またはエアコン等の用途に適用することができる。
【0070】
3.冷凍システム及び冷凍システム用ホース
本開示の冷凍システムは、伝熱流体を循環させるホースを備えるものであって、前記伝熱流体がフルオロエチレンを含む。
【0071】
本開示の冷凍システムにおいて循環させる伝熱流体は、前述の本開示の移送方法で循環させる伝熱流体と同様である。従って、本開示の冷凍システムで循環させる伝熱流体に含まれるフルオロエチレンは、トリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、1,2-ジフルオロエチレンを含むことがさらに好ましい。前記フルオロエチレンは、トリフルオロエチレン及び1,2-ジフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のみからなるものであっても良いし、また、1,2-ジフルオロエチレンのみからなるものであっても良い。
【0072】
また、本開示の冷凍システムにおいても、1,2-ジフルオロエチレンは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))を含むことが好ましい。より具体的には、1,2-ジフルオロエチレンは、1,2-ジフルオロエチレンの全質量に対してHFO-1132(E)を50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。1,2-ジフルオロエチレンは、HFO-1132(E)のみからなるものであっても良い。
【0073】
本開示の冷凍システムにおいて、伝熱流体は、フルオロエチレン以外の成分を含むことができ、斯かる成分は、例えば、本開示の移送方法で使用するフルオロエチレン以外の成分と同様とすることができる。従って、フルオロエチレン以外の冷媒としては、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、HFC-32、R290(プロパン)、R744(二酸化炭素)R1234ze、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1,1-ジフルオ口エタン(HFC-152a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、フルオ口エタン(HFC-161)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa)1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236ea)、1,1,1,2,3,3,3-へプタフルオロプロパン(HFC-227ea)を挙げることができ、中でもフルオロエチレン以外の冷媒は、HFC-32、HFC-152a、 HFO-1234yf、R744及びR290からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。伝熱流体の一態様として、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32を含む混合物が挙げられる。
【0074】
伝熱流体が、HFO-1234yfを含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン及びHFO-1234yfの全質量に対し、HFO-1234yfを40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0075】
本開示の冷凍システムにおいて、上記伝熱流体が、さらに、HFC-32を含む場合、その含有割合は特に限定されない。例えば、伝熱流体は、前記フルオロエチレン、HFO-1234yf及びHFC-32の全質量に対し、HFC-32の含有割合が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。
【0076】
本開示の冷凍システムにおいて、伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfを含むことが特に好ましい。伝熱流体は、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfのみからなるものであっても良い。
【0077】
本開示の冷凍システムにおいて、ホースの材料及び構造は特に限定されず、例えば、公知のホースを広く適用することができ、例えば、樹脂又は金属製のホースが挙げられ、樹脂製のホースであることが好ましく、中でも、前述のホースA、ホースB、ホースC等を適用することがより好ましく、ホースAが特に好ましい。
【0078】
本開示の冷凍システムによれば、フルオロエチレンを含む伝熱流体を循環させる際の冷媒損失を抑制することができ、フルオロエチレンを安定的に移送することができる。従って、本開示の本開示の冷凍システムは、各種冷凍機及び各種空調機器に好適に使用することができ、例えば、建物等に固定式冷凍またはエアコン、あるいは、車両等の移動式冷凍またはエアコン等の用途に適用することができる。
【0079】
本開示の冷凍システム用ホースは、前述のホースA、ホースB又はホースCを包含する。斯かる冷凍システム用ホースは、本開示の冷凍システムに好適に使用することができる。また、本開示の冷凍システム用ホースは、フルオロエチレンを含む前記伝熱流体を移送するためのホースとして好適に使用できる。
【0080】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
ポリアミド6(PA6)からなるコア層(最内層)と、ブチルゴム(IIR)及びエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)からなるゴム層(内層)と、ポリエチレンテレフタラート(PET)からなる補強層と、ブチルゴム(IIR)及びエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)からなる被覆層(外層)とで構成されるホース(ブリヂストン製「ホースフレキシブルハイ(92490-4BC0A)」)の両末端にスウェージ加工を行った。このホースの片末端をキャップすると共に、他方の末端にバルブを取り付けることで、試験用ホースを製作した。この試験用ホースに対する伝熱流体のホース透過速度(kg/m2/年)を、標準SAE J3062に概説される手順を参考に測定した。この試験では、伝熱流体として、HFO-1132(E)及びHFO-1234yfからなる混合物(HFO-1234yfを77質量%含有)を用い、斯かる伝熱流体を80℃において80容量%になるように試験用ホース内に充填した。伝熱流体が充填された試験用ホースを恒温槽に入れ、80℃で25日間保持させ、ホースを所定時間ごとに取り出して、各時間における重量を測定し、初期充填量からの伝熱流体の減少量を冷媒損失とした。最終的に試験終盤、すなわち試験期間の最後の5日間に24時間以上の間隔で5回重量を測定した。この試験終盤における減少量の合計を期間の日数(5日間)で割った値に、下記式(a)に定める係数Rをかけて、ホース透過速度(kg/m2/年)を計測した。
係数R=365.24/(π×D×L) (a)
上記(a)式において、365.24は年間日数(日)であり、Dは試験に使用したホースの内径(mm)、Lは試験に使用したホースのゴム部分の長さ(mm)を示す。
【0083】
(実施例1A)
ポリアミド6(PA6)からなる内層コア及びエバール(EVOH、エチレン含有率27mol%、自由体積40Å3)からなる外層コアで形成されるコア層(最内層)と、ブチルゴム(IIR)からなるゴム層(内層)と、アラミド繊維(AR)からなる補強層と、エチレンプロピレンゴム(EPM)からなる被覆層(外被覆層)とがこの順に積層されるホース(ContiTech製)を使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、ホース透過速度(kg/m2/年)を測定した。
【0084】
(参考例1)
伝熱流体をHFO-1234yf単体に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、ホース透過速度(kg/m2/年)を計測した。
【0085】
【0086】
表1から、実施例1のようにフルオロエチレン(HFO-1132(E))を含む伝熱流体であっても、ホース透過速度の値が小さいものであった。また、実施例1Aで使用したホースでは、さらにホース透過速度の値が小さいものであった。このことからフルオロエチレンを含む伝熱流体の移送に、前記ホースAを使用することで、移送時の冷媒損失を抑制することができ、フルオロエチレンを安定的に移送することができることがわかった。
【0087】
(ホースの材料安定性評価)
(実施例2~11)
基準SAE J2670に概説される手順を参考に各ホース材料に対する安定性を評価した。試験容器はオートクレーブを用い、容器内に冷凍機油、ホース材料、伝熱流体を充填して評価を行った。この試験では、冷凍機油としてND-OIL 11を使用した。ホースとしては、ホース材料のコア層(最内層)を実施例2,3ではEPDMに変更し、実施例4,5ではIIRに変更し、実施例6,7ではPA6に変更し、実施例8,9ではHNBRに変更したこと以外は実施例1と同様のホースを使用した。ホース材料の試験片(ダンベル状)としてJIS K7139の7号試験片を用い、厚みは2mmとした。伝熱流体はHFO-1132(E)及びHFO-1234yfからなる混合物(HFO-1234yfを77質量%含有)又はHFO-1234yfを用い、斯かる伝熱流体を150℃において3MPaの絶対圧力になるようにオートクレーブ内に充填した。なお、実施例2、4、6、8,10ではHFO-1234yfを、実施例3、5、7、9,11ではHFO-1132(E)及びHFO-1234yfからなる混合物(HFO-1234yfを77質量%含有)を伝熱流体として使用した。伝熱流体が充填されたオートクレーブを恒温槽に入れ、150℃で720hr(ホース材料がPA6である場合は200hr)保持させた。試験後、試験片を取り出し重量、厚み、破断ひずみの測定を行い、これらの測定前後の変化率を算出した。
【0088】
【0089】
表2-1~2-5に示されるように、実施例2,3の対比、実施例4,5の対比、実施例6,7の対比、実施例8,9の対比、及び、実施例10,11の対比から、HFO-1234yfに対する各ゴム材料の安定性、並びに、HFO-1132E及びHFO-1234yfの混合物に対する各ゴム材料に対する安定性(重量変化率、厚み変化率、破断ひずみ変化率)は同等であることがわかる。