(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029789
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ロボット、軌道計画装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240229BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G05D1/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132166
(22)【出願日】2022-08-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「同調と主張に基づく接近・接触状態での人共存型モビリティの協調移動技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】亀▲崎▼ 允啓
(72)【発明者】
【氏名】金田 太智
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 絵梨子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 喬介
(72)【発明者】
【氏名】濱田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 重樹
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA10
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD01
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG14
5H301HH01
5H301HH02
5H301LL01
5H301LL02
5H301LL03
5H301LL06
5H301LL11
(57)【要約】
【課題】能動的働きかけを駆使する前進的行動と、戦略的な待機や迂回を伴う後退的行動とを必要に応じて適切に選択する軌道計画を可能にすること。
【解決手段】本発明のロボット10は、障害物の位置情報及び速度情報を検出する検出装置12と、検出装置12の検出結果から障害物との干渉可能性を推定して自律移動を制御する制御装置13とを備えている。制御装置13は、周囲の状況に応じてロボット10をゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部33と、各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して実行軌道とする最適軌道選択部34とを含む。候補軌道探索部33は、前進的行動を行うための通常軌道を候補軌道として生成する通常軌道生成部36と、後退的行動を行うための戦略的軌道を候補軌道として生成する戦略的軌道生成部37とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲に存在する障害物を避けながら自律移動するロボットにおいて、
前記障害物の位置情報及び速度情報を検出する検出装置と、当該検出装置の検出結果から、前記障害物との干渉可能性を推定して前記自律移動を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、現在地からゴール地点までの間の前記ロボットの軌道計画を行う軌道計画部と、当該軌道計画部での軌道計画によって特定された実行軌道に沿って前記ロボットを移動させるように動作指令する動作指令部とを備え、
前記軌道計画部は、周囲の状況に応じて前記ロボットを前記ゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部と、前記各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して前記実行軌道とする最適軌道選択部とを備え、
前記候補軌道探索部は、前記ゴール地点に向かって前進し続ける前進的行動を行うための通常軌道を前記候補軌道として生成する通常軌道生成部と、前記通常軌道に対して前記ゴール地点から一旦遠ざかる後退的行動を行うための戦略的軌道を前記候補軌道として生成する戦略的軌道生成部とを備え、
前記戦略的軌道生成部は、前記通常軌道から外れた地点で前記障害物との干渉が予想されないサブゴールを設定し、当該サブゴールに移動して一旦待機した後で前記ゴール地点に向かう待機軌道を前記戦略的軌道として生成する待機軌道生成部と、前記サブゴールを設定し、当該サブゴールを経由して前記ゴール地点に向かう迂回軌道を前記戦略的軌道として生成する迂回軌道生成部とを備えたことを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記最適軌道選択部では、前記候補軌道探索部で生成された全ての前記候補軌道に対し、それらの移動効率と周囲の人間に与える影響とを定量化した軌道コストを予め設定された数式から算出し、当該軌道コストが最小となる前記候補軌道を前記最適軌道として選択することを特徴とする請求項1記載のロボット。
【請求項3】
前記待機軌道生成部では、前記サブゴールとして、前記障害物との干渉が予想されない待機位置候補領域の境界線から、前記ロボットが移動可能で、且つ、前記ゴール地点に最も近い位置に設定されることを特徴とする請求項1記載のロボット。
【請求項4】
前記迂回軌道生成部では、前記サブゴールとして、前記ロボットと前記障害物を結ぶ直線と、当該障害物との干渉が予想されない迂回成立領域の境界線とが交わる位置に設定されることを特徴とする請求項1記載のロボット。
【請求項5】
周囲に存在する障害物の位置情報及び速度情報に基づき、現在地からゴール地点までの間で前記障害物を避けながらロボットを自律移動させるための実行軌道を生成する軌道計画装置において、
周囲の状況に応じて前記ロボットを前記ゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部と、前記各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して前記実行軌道とする最適軌道選択部とを備え、
前記候補軌道探索部は、前記ゴール地点に向かって前進し続ける前進的行動を行うための通常軌道を前記候補軌道として生成する通常軌道生成部と、前記通常軌道に対して前記ゴール地点から一旦遠ざかる後退的行動を行うための戦略的軌道を前記候補軌道として生成する戦略的軌道生成部とを備え、
前記戦略的軌道生成部は、前記通常軌道から外れた地点で前記障害物との干渉が予想されないサブゴールを設定し、当該サブゴールに移動して一旦待機した後で前記ゴール地点に向かう待機軌道を前記戦略的軌道として生成する待機軌道生成部と、前記サブゴールを設定し、当該サブゴールを経由して前記ゴール地点に向かう迂回軌道を前記戦略的軌道として生成する迂回軌道生成部とを備えたことを特徴とすることを特徴とする軌道計画装置。
【請求項6】
周囲に存在する障害物の位置情報及び速度情報に基づき、現在地からゴール地点までの間で前記障害物を避けながらロボットを自律移動させるための実行軌道を生成する軌道計画装置のプログラムにおいて、
周囲の状況に応じて前記ロボットを前記ゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部と、前記各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して前記実行軌道とする最適軌道選択部としてコンピュータを機能させ、
前記候補軌道探索部は、前記ゴール地点に向かって前進し続ける前進的行動を行うための通常軌道を前記候補軌道として生成する通常軌道生成部と、前記通常軌道に対して前記ゴール地点から一旦遠ざかる後退的行動を行うための戦略的軌道を前記候補軌道として生成する戦略的軌道生成部とを備え、
前記戦略的軌道生成部は、前記通常軌道から外れた地点で前記障害物との干渉が予想されないサブゴールを設定し、当該サブゴールに移動して一旦待機した後で前記ゴール地点に向かう待機軌道を前記戦略的軌道として生成する待機軌道生成部と、前記サブゴールを設定し、当該サブゴールを経由して前記ゴール地点に向かう迂回軌道を前記戦略的軌道として生成する迂回軌道生成部とを備えたことを特徴とすることを特徴とする軌道計画装置のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在地から目的地までの間に存在する各障害物との将来的な干渉を回避するための軌道計画を適切に行いながら目的地に向かって自律移動するロボットと、当該ロボットに適用される軌道計画装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時において、人間との共存環境下で自律的に移動可能となる様々な自律移動ロボットが出現し、当該自律移動ロボットについて、周囲の障害物を避けながら目的地に移動させるための軌道計画が盛んに研究されている。これまで本発明者らは、人間への意図的な接近や双腕アームによる接触等の働きかけを含む近接移動と、進路示唆により相互に譲り合う回避移動を合わせた統合的軌道計画システムを提案している(特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-84641号公報
【特許文献2】特開2020-46759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記統合的軌道計画システムにあっては、人間に対する接近、接触等の能動的働きかけを駆使し、何とかして目的地に向かい、前進し続ける前進的行動を行うことを基本原理としている。しかしながら、例えば、
図4の左右の各場面に示されるように、目的地Gに向かって自律移動するロボットRと人間Hとが共存する環境下において、前記統合的軌道計画システムで計画された前進的行動による通常軌道N(同各図中実線)よりも、戦略的に待機や迂回をして、一旦、目的地Gから遠ざかる行動である後退的行動による戦略的軌道D(同各図中破線)を採ることが有用となるケースもある。つまり、例えば、
図4中左側の図の場面のように、狭い通路や人間Hが多く存在する混雑環境下では、ロボットRが地点Cで止まって人間Hの進路を空け、人間Hを先に通すような後退的行動の方が効率的にロボットRを移動できるケースがあり得る。また、同図中右側の図の場面のように、ロボットRが、能動的働きかけを伴う通常軌道Nにより、目的地G方向を塞いている人間Hを連続して移動させるよりも、ロボットRが後方に下がって大回りする戦略的軌道Dに沿って目的地Gを目指す後退的行動を行う方が、人間Hに与える影響が少なく、人間Hを移動させるための時間を含めると目的地Gへの到着時間が早くなるケースもあり得る。一方、状況によっては、人間Hに対するロボットRの近接移動や能動的働きかけを行う前進的行動が有効となるケースも当然ある。しかしながら、これまで、前進的行動と後退的行動を同一指標で評価し、効率面や周囲の人間に与える影響等から、前進的行動と後退的行動の何れかに基づく最適な軌道を選択する統合的軌道計画システムは未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、能動的働きかけを駆使する前進的行動と、戦略的な待機や迂回を伴う後退的行動とを必要に応じて適切に選択する軌道計画を可能にするロボット、軌道計画装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、周囲に存在する障害物を避けながら自律移動するロボットにおいて、前記障害物の位置情報及び速度情報を検出する検出装置と、当該検出装置の検出結果から、前記障害物との干渉可能性を推定して前記自律移動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、現在地からゴール地点までの間の前記ロボットの軌道計画を行う軌道計画部と、当該軌道計画部での軌道計画によって特定された実行軌道に沿って前記ロボットを移動させるように動作指令する動作指令部とを備え、前記軌道計画部は、周囲の状況に応じて前記ロボットを前記ゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部と、前記各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して前記実行軌道とする最適軌道選択部とを備え、前記候補軌道探索部は、前記ゴール地点に向かって前進し続ける前進的行動を行うための通常軌道を前記候補軌道として生成する通常軌道生成部と、前記通常軌道に対して前記ゴール地点から一旦遠ざかる後退的行動を行うための戦略的軌道を前記候補軌道として生成する戦略的軌道生成部とを備え、前記戦略的軌道生成部は、前記通常軌道から外れた地点で前記障害物との干渉が予想されないサブゴールを設定し、当該サブゴールに移動して一旦待機した後で前記ゴール地点に向かう待機軌道を前記戦略的軌道として生成する待機軌道生成部と、前記サブゴールを設定し、当該サブゴールを経由して前記ゴール地点に向かう迂回軌道を前記戦略的軌道として生成する迂回軌道生成部とを備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、周囲の障害物の状況に応じて、前進的行動、後退的行動のそれぞれに基づく候補軌道が生成され、その中から、移動効率やロボットの移動に際して障害となる周囲の人間への影響とが考慮された最適軌道を決定することができる。これにより、ロボットが、人間と同じ場面に立った時に人間のような考えによる移動判断を行うことが可能になり、ロボットと人間との調和やロボットに対する社会性の獲得が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るロボットの動作制御に関連する構成のみを概略的に表したブロック図である。
【
図2】待機軌道生成部での待機軌道の生成を説明するための概念図である。
【
図3】迂回軌道生成部での迂回軌道の生成を説明するための概念図である。
【
図4】ロボットの前進的行動と後退的行動を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1には、本実施形態に係るロボットの動作制御に関連する構成のみを概略的に表したブロック図が示されている。本実施形態のロボット10は、現在地から予め設定された目的地となるゴール地点に向かって自律的に移動する自律移動ロボットとして機能し、移動途中で周囲に存在する障害物との干渉が予想される場合、当該干渉を避けるための各種動作を行いながら移動するようになっている。
【0011】
図1に示されるように、前記ロボット10には、各種動作を可能に構成された機構や機器からなる動作部11と、ロボット10の周囲の環境情報を検出する検出装置12と、検出装置12の検出結果に基づき、動作部11の動作を制御する制御装置13とが設けられている。
【0012】
前記動作部11は、モータ等の駆動装置を動力源としてロボット10を移動させるための台車等を含む移動機構15と、所定の音声を発するスピーカー16と、所定空間内で動作可能なアーム17とを含む。これら移動機構15、スピーカー16及びアーム17は、全て公知の部材、機構、装置類等からなり、本発明の本質部分でないため、各構成についての詳細な図示説明を省略する。
【0013】
前記検出装置12は、ロボット10の周囲に存在する障害物の位置情報及び速度情報の検出処理を実行可能とするコンピュータ及び各種機器類等からなる。この検出装置12は、障害物の位置情報を検出する位置検出部19と、位置検出部19での検出結果に基づき、障害物の速度情報を検出する速度検出部20とを備えており、所定の時間毎に前記位置情報及び前記速度情報を取得可能となっている。ここでの障害物としては、環境内で常時静止した状態となっている静止体である壁等の固定障害物と、環境内で移動している動作体である人間、他のロボット、動物等の移動障害物とがある。なお、以下においては、歩行中の人間(歩行者)を移動障害物として説明する。
【0014】
前記位置検出部19は、特に限定されるものではないが、公知のレーザレンジファインダ等の測域センサの他に、カメラ情報を利用する深度センサを含む公知のセンサ類により構成される。これらセンサ類により、検出時刻における人間や物体等の位置座標が取得されるとともに、時系列データに基づき同一の障害物か否かが判定される。その中で同一の歩行者については、取得した時系列の位置情報の変化から、速度検出部20で速度情報が求められることになる。
【0015】
前記速度検出部20では、本発明者らが既に提案した手法(特開2020-91235号公報)等により、ロボット10周囲の歩行者の位置情報を取得した時刻毎に、当該位置情報から歩行者の速度情報が算出される。なお、当該速度情報を導出するアルゴリズムについては、本発明の本質要素ではないため、詳細な説明を省略する。
【0016】
なお、前記検出装置12としては、前述の態様に限定されるものではなく、ロボット10の周囲の動作体及び静止体の位置情報や速度方法を検出できる限りにおいて、様々なセンサ類、装置類、或いはシステム類等を適用することもできる。
【0017】
以上のように、ロボット10周囲の所定範囲内に存在する障害物について、位置情報及び速度情報が、所定時間毎に検出装置12で逐次検出され、その検出タイミングで制御装置13に伝送されるとともに、当該検出タイミング毎に制御装置13での以下の各処理が行われる。
【0018】
この制御装置13は、ロボット10に一体的に或いは別体として設けられており、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成されている。当該コンピュータには、以下の各部として機能させるためのプログラムがインストールされている。
【0019】
前記制御装置13では、ロボット10が、周囲の環境状況に応じ、あたかも人間のような行動判断を伴って各種の障害物との干渉を回避しながらゴール地点に自律移動できるように、ゴール地点に向かうロボット10の位置と時刻を対応させた移動経路である軌道を計画し、当該計画後の実行軌道に沿ってロボット10が移動するように動作部11に対して動作指令が行われる。従って、この制御装置13は、周囲に存在する障害物の位置情報及び速度情報に基づき、現在地からゴール地点までの間で障害物を避けながらロボット10を自律移動させるための実行軌道を生成する軌道計画装置として機能する。
【0020】
なお、障害物に対する干渉回避のためのロボット10の各種動作としては、本発明者らが特開2020-46759号公報等で既に提案しているように、種々の状況等に応じて適宜選択される。当該各種動作としては、人間の干渉回避動作を期待せずに、ロボット10のみが行う干渉回避のための移動の他に、干渉回避のために人間の移動を促すことを意図して、ロボット10から人間に働きかけを行う働きかけ行動が含まれる。この働きかけ行動としては、ある程度の干渉回避行動を人間にも期待するように、人間に対して何等かの主張を行う主張行動が挙げられる。この主張行動としては、ロボット10の進行方向を人間に気付かせる進路示唆等を行う移動の他に、人間に対して回避を促す音声をスピーカー16から発する声掛けの行動や、アーム17により人間に意図的に接触する行動等がある。
【0021】
前記制御装置12は、ロボット10の現在地から予め設定されたゴール地点までの間の直線経路において、障害物との干渉を判定する干渉判定部22と、現在時刻において、歩行者との相対位置及び相対速度に応じて設定される複数の領域のどこにロボット10が存在するかを特定する現存領域特定部23と、干渉判定部22及び現存領域特定部23での処理結果に基づき、現在地からゴール地点までの間でのロボット10の働きかけ行動を含む軌道計画を行う軌道計画部24と、軌道計画部24での軌道計画によりロボット10を自律移動させるように動作部11に動作指令する動作指令部25と、を備えている。
【0022】
前記干渉判定部22では、前述の特開2020-46759号公報等で既に提案しているように、検出装置12での検出結果による歩行者の現在の位置情報及び速度情報から、歩行者の移動状況を取得し、ロボット10が将来的に歩行者に干渉する可能性の有無が判定される。ここでは、ロボット10と歩行者の周囲に、所定のサイズのパーソナルエリアが設定され、将来的に、これらパーソナルエリア同士が少なくとも一部でも重なり合うと予測される場合には、干渉の可能性が有ると判定され、そうでない場合には、干渉の可能性が無いと判定される。
【0023】
前記現存領域特定部23では、前記特開2020-46759号公報等で既に提案している手法により、現時刻において、移動中の歩行者とロボット10の相対距離に基づいて、ロボット10のみで緊急的に干渉回避行動を行う必要がある接近状態か、そうでない非接近状態の何れかが判断される。つまり、ロボット10が、現時点で歩行者と近い距離にあって、当該歩行者の干渉回避行動を期待せずに歩行者の動きに合せてロボット10のみで干渉回避を行う同調行動がなされる同調行動領域に存在する場合、接近状態とされる。
【0024】
前記軌道計画部24は、干渉判定部22で歩行者との干渉可能性が無いと判定された際の軌道計画を行う非干渉時計画部27と、干渉判定部22で干渉可能性が有ると判定された際の軌道計画を行う干渉時計画部28とからなる。
【0025】
前記非干渉時計画部27では、現時点において、歩行者との干渉が想定されない状態であることから、動作部11で実行される実行軌道として、前のタイミングで決定された軌道がそのまま採用される。
【0026】
前記干渉時計画部28は、現存領域特定部23で接近状態と判定された際の軌道計画を行う接近時計画部30と、現存領域特定部23で非接近状態と判定された際の軌道計画を行う非接近時計画部31とからなる。
【0027】
前記接近時計画部30では、前記特開2020-46759号公報等で提案している手法により、前記同調行動領域におけるロボット10の実行軌道が生成される。
【0028】
前記非接近時計画部31は、周囲の状況に応じてロボット10をゴール地点に移動させるための軌道の候補となる候補軌道を複数生成する候補軌道探索部33と、候補軌道探索部33で生成された各候補軌道の中から最適となる最適軌道を選択して実行軌道とする最適軌道選択部34とを備えている。
【0029】
前記候補軌道探索部33は、ゴール地点に向かって前進し続ける前進的行動を行う通常軌道を候補軌道として生成する通常軌道生成部36と、通常軌道に対してゴール地点から一旦遠ざかる後退的行動を行う戦略的軌道を候補軌道として生成する戦略的軌道生成部37とを備えている。
【0030】
前記通常軌道生成部36では、本発明者らが既に提案した特開2020-46759号公報等に開示された手法であるDynamic Waypoint Navigation法(DWN法)を用い、前述した働きかけ行動を適宜伴いながら、ロボット10の通常軌道を複数生成するようになっている。すなわち、干渉判定部22での判定により歩行者との間での干渉が将来的に生じ得る場合には、対象となる歩行者の左右両側となる横に、当該歩行者との干渉を回避する経路の通過点(Way Point:以下、「WP」と称する)が設定される。更に、当該WPとゴール地点とを直線で結んだ別の直線経路上において、他の歩行者との間での干渉が将来的に生じ得る場合に、当該他の歩行者の左右両側となる横に同様にして次のWPが設定され、この処理が繰り返し行われる。最後に、このような手順で設定された各WPを順に通過する通常軌道が複数生成される。
【0031】
前記戦略的軌道生成部37は、通常軌道から外れた地点で各障害物との干渉が予想されないサブゴールを設定し、当該サブゴールに移動して一旦待機した後で前記ゴール地点に向かう待機軌道を戦略的軌道として生成する待機軌道生成部39と、前記サブゴールを設定し、当該サブゴールを経由してゴール地点に向かう迂回軌道を戦略的軌道として生成する迂回軌道生成部40とを備えている。
【0032】
前記待機軌道生成部39では、ロボット10をサブゴールに一旦移動させて、干渉回避の対象となる歩行者がサブゴールの横を通り過ぎるまで待機させ、その後、ゴール地点に向かう待機軌道が生成される。
【0033】
ここでのサブゴールは、ロボット10の待機位置であり、当該待機位置は、以下の手順で特定される。すなわち、干渉判定部22でロボット10と歩行者との干渉が予測されたときに、ロボット10はその歩行者を待機対象者とし、待機位置を探索する。先ず、検出装置12の速度検出部20で取得した待機対象者の速度ベクトルを延長させ、ロボット10が停止した際に、
図2に示されるように、ロボット10と待機対象者Tとのお互いのパーソナルスペースPが干渉しない待機対象非干渉領域A1(同図中1点鎖線の枠内)が探索される。次に、待機対象非干渉領域A1から、待機対象者T以外の静止した人間HのパーソナルスペースP、壁等のその他の障害物Sに対して、ロボット10のパーソナルスペースPが重複しない範囲となる待機位置候補領域A2(同図中黒色塗潰し部分)が算出される。そして、待機位置候補領域A2におけるロボット10側の境界線Bのうち、待機のために待機対象者Tと干渉しないロボット10の移動が成立し、且つ、待機後の元の実行軌道への効率的な復帰を容易にするように、最もゴール地点Gに近い位置が待機位置であるサブゴールSGとされる。その後、ロボット10の現在位置からサブゴールSGまでの距離とロボット10の速度とから、サブゴールSGまでのロボット10の移動時間が求められるとともに、検出装置12での検出結果から待機対象者TがサブゴールSGの横を通り過ぎるまでの移動時間が算出される。そして、これら移動時間の差が、ロボット10がサブゴールSGで待機する待機時間となり、当該待機時間を含む待機軌道が生成される。ここでの待機軌道は、ロボット10の現在地からサブゴールSGまでの第1の軌道と、待機時間を経て、サブゴールSGからゴール地点Gまでの第2の軌道からなり、これら第1及び第2の軌道は、通常軌道生成部36で軌道生成と同様に前述のDWN法により生成され、各軌道の目的地までの通常軌道として生成されるが、他の待機対象者Tが存在する場合には、同様の手順により別のサブゴールSGが設定される。また、
図2の例では、同図中左側に壁等の障害物があることから、同図右側にのみサブゴールSGを設けたが、ロボット10が待機可能となるスペースが存在すれば、左右それぞれにサブゴールSGが設けられる。
【0034】
前記迂回軌道生成部40では、ロボット10がゴール地点に到達するために、一旦ゴール地点に向かうことを行わずに、迂回しながらゴール地点を目指す迂回軌道が生成される。この迂回軌道としては、例えば、人間や物体等の障害物に周囲を囲まれている場所にロボット10が入り、そこから一旦脱出するような場面や、ロボット10が停止若しくは移動している最中に、人間等に突然囲まれる場面等が想定される。このような場面等においては、目的地となるゴール地点に向かって進む軌道ではなく、一旦、囲まれている状況からロボット10を離脱させるための軌道を迂回軌道として生成する必要がある。
【0035】
迂回軌道の生成に際しては、
図3に示されるように、ロボット10と周囲の障害物である人間HのパーソナルスペースPが干渉せず、且つ、周囲の人間Hの外側にサブゴールSGを設定する必要がある。ここでは、ロボット10と人間HのパーソナルスペースPが重複する重複領域A3(同図中黒色塗潰し部分)と、その外側で迂回が成立する迂回成立領域A4との境界線Bが特定される。そして、当該境界線B上で、ロボット10とそれぞれの人間Hを直線で結んだ交点となる位置がサブゴールSGとして設定される。そして、ロボット10の現在位置からロボット10に近い順に各サブゴールSGを通り、障害物Sを避けながらゴール地点SGに最短距離で向かう迂回軌道が生成される。なお、ここでの迂回軌道は、ロボット10の現在位置からゴール地点Gまで経由する各サブゴールSG間の軌道からなり、これら軌道も前述したDWN法により生成される。
【0036】
前記最適軌道選択部34では、候補軌道探索部33で生成された通常軌道及び戦略的軌道からなる各候補軌道について、移動効率と周囲の人間に与える影響である社会的受容性等を総合して定量化した軌道コストが算出され、当該軌道コストが最小となる候補軌道が、最適軌道として選択されて動作部11で実行される実行軌道となる。
【0037】
ここで、軌道コストは次のように算出される。
【0038】
つまり、候補軌道探索部33で導出された候補軌道それぞれについて、次の数式(コスト式)により軌道コストEが算出される。
【数1】
このコスト式では、次の第1~第3のパラメータに対応する各要素を総合して軌道コストEが求められる。すなわち、第1項の第1のパラメータとしては、前記DWN法で用いた前述の各WP区間(n=1,2・・・,N-1,N)におけるロボット10の速度変化V
Δnに基づく。また、第2項の第2のパラメータは、各WPの間のロボット10の所要時間T
nに対応する。更に、第3項の第3のパラメータとしては、ロボット10による人間への接触を伴う働きかけ行動時に、人間を移動させなければならない距離rに対応する。また、A、B、Cは、各要素における重み付け定数であり、予め所定値に設定される。
【0039】
上式における第1のパラメータに係る要素では、一定の速度で移動できることが最も効率的であるとして、直前のWPからの速度変化をコストとして加算している。また、第2のパラメータに係る要素では、現在位置からゴール地点までに必要となる時間をコストとして加算している。なお、待機軌道における待機時間もこのコストに含まれる。更に、第3のパラメータに係る要素では、社会的要素を定量化するために、ロボット10により接触される人間に与える影響を考慮し、当該接触により強制的に人間を移動させる観点から、人間の移動距離を接触のコストの基準としている。
【0040】
前記動作指令部25では、働きかけ行動を適宜伴いながら軌道計画部24で決定された実行軌道に沿ってロボット10が移動するように、動作部11の動作制御指令が行われる。
【0041】
なお、本発明の対象のロボットとしては、前記実施形態で説明したロボット10に限定されるものではなく、自動車両、船舶、飛行体等、所定の空間内を自律的に移動可能な移動体の他に、所定範囲の空間内で動作するロボットアーム等のマニピュレータとしても良い。
【0042】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 ロボット
12 検出装置
13 制御装置
24 軌道計画部
25 動作指令部
33 候補軌道探索部
34 最適軌道選択部
36 通常軌道生成部
37 戦略的軌道生成部
39 待機軌道生成部
40 迂回軌道生成部
A2 待機位置候補領域
A2 迂回成立領域
B 境界線
G ゴール地点
H 人間
S 障害物
SG サブゴール