(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029842
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/08 20060101AFI20240229BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240229BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08J9/08 CFD
B29C44/00
B29C44/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132252
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000177380
【氏名又は名称】三和化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】竹本 昌史
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA03
4F074AA66
4F074AA74
4F074AC26
4F074AD09
4F074AG01
4F074AG11
4F074BA03
4F074BB02
4F074CA23
4F074DA02
4F074DA24
4F214AA25
4F214AB02
4F214AB03
4F214AR15
4F214UA07
4F214UB01
4F214UF01
(57)【要約】
【課題】基材としてポリブチレンサクシネートを用いつつ、ポリブチレンサクシネートをブロック発泡させることにより、土壌中で分解可能な発泡体を製造できるようにすることを図る。
【解決手段】基材であるポリブチレンサクシネート50~100重量部に架橋剤、及び発泡剤である炭酸水素ナトリウム3~15重量部を添加した架橋性発泡性組成物を密閉容器中に充填し、加圧下で加熱した後、除圧する工程を含む発泡体の製造方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材であるポリブチレンサクシネート50~100重量部に架橋剤、及び発泡剤である炭酸水素ナトリウム3~15重量部を添加した架橋性発泡性組成物を密閉容器中に充填し、加圧下で加熱した後、除圧する工程を含む発泡体の製造方法。
【請求項2】
充填剤を5~100重量部添加する工程を含む請求項1記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
基材として、ポリブチレンサクシネート以外に、ポリブチレンアジペート・テレフタラート、ポリブチレンアジベート、又はポリ乳酸を5~50重量部を含む請求項1又は2記載の発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンサクシネートを主原料とする発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境に配慮し、生分解性樹脂を用いて発泡体を製造することが考えられてきている。生分解性樹脂は、自然界に流出しても分解するため、マイクロプラスチックによる環境汚染の解決手段として、使用が拡大している。
【0003】
ここで、発泡体の製造に基材として用いられる生分解性樹脂の一例として、ポリブチレンサクシネートが挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。ポリブチレンサクシネートは、土壌中で分解可能であるという特長を有する。ポリブチレンサクシネートを用いて発泡体を製造する場合、ポリ乳酸等他の生分解性樹脂と混練させることが多い。しかし、ポリ乳酸は土壌中では分解しないため、ポリブチレンサクシネートを単独で、又は他の土壌中で分解可能な生分解性樹脂と混合したものを主原料として発泡体を製造することが試みられている。
【0004】
しかして、ポリブチレンサクシネートの発泡性組成物を密閉容器中に充填して発泡させるブロック発泡により発泡体を製造しようとすると、樹脂の劣化が起こり、形状を保持できないという不具合が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上に着目してなされたもので、基材としてポリブチレンサクシネートを用いつつ、ポリブチレンサクシネートをブロック発泡させることにより、土壌中で分解可能な発泡体を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る発泡体の製造方法は、基材であるポリブチレンサクシネート50~100重量部に架橋剤、及び発泡剤である炭酸水素ナトリウム3~15重量部を添加した架橋性発泡性組成物を密閉容器中に充填し、加圧下で加熱した後、除圧する工程を含む。
【0008】
このような製造方法によれば、従来発泡剤として多く使われてきていたADCAに代えて炭酸水素ナトリウムを発泡剤として用いることにより、ブロック発泡によって土壌中で分解可能な発泡体を製造できる。
【0009】
このような発泡体の製造方法の有効な実施の態様の一つとして、充填剤を5~100重量部添加する工程を含む請求項1記載の発泡体の製造方法。
【0010】
このような発泡体の製造方法の有効な実施の態様の他の一つとして、基材として、ポリブチレンサクシネート以外にポリブチレンアジベート又はPLAを5~50重量部を含む請求項1又は2記載発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材としてポリブチレンサクシネートを用いつつ、発泡剤である炭酸水素ナトリウム3~15重量部を添加しブロック発泡させることにより、土壌中で分解可能な発泡体を製造できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の発泡体の土壌中における生分解率の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態は、基材であるポリブチレンサクシネート(又はポリブチレンサクシネートとポリブチレンアジペート・テレフタラートとの混合物)に発泡剤である炭酸水素ナトリウム、架橋剤等を添加して混練することにより架橋性発泡性組成物を得、その組成物を密閉容器中に充填し、加圧下で加熱し発泡させることにより発泡体を得るものである。
【0014】
ここで、架橋性発泡性組成物は、基材であるポリブチレンサクシネート50~100重量部、望ましくは80~100重量部、発泡剤である炭酸水素ナトリウム3~15重量部、望ましくは6~15重量部、及び架橋剤を少なくとも含む。
【0015】
架橋剤は、ポリブチレンサクシネート(又はポリブチレンサクシネートとポリブチレンアジペート・テレフタラートとの混合物)中において少なくともポリブチレンサクシネートの流動開始温度以上の分解温度を有するものであって、加熱により分解され、遊離ラジカルを発生してその分子間もしくは分子内に架橋結合を生じせしめるラジカル発生剤であるところの有機過酸化物である。その具体例としては、ジクミルパーオキサイド、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、1,1-ジターシャリーブチルパーオキサイド、1,1-ジターシャリーブチルパーオキシー3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルー2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチルー2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン、α,α―ジターシャリーブチルパーオキシイソプロピルベンゼン、ターシャリーブチルパーオキシケトン、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等を挙げることができる。但し、原料の樹脂に応じて、最適な有機過酸化物を選択する必要がある。
【0016】
なお、架橋性発泡性組成物の物性の改良または価格の低下を目的として、架橋結合に著しい悪影響を与えない配合剤(充填剤)、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等の金属酸化物や、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、各種染料、顔料、デンプン(コーンスターチ)並びに蛍光物質、その他常用のゴム及びプラスチック配合剤等を必要に応じて添加することができる。さらに、ステアリン酸等の滑剤、カルボジライト等の改質剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0017】
本実施形態における発泡体の製造の手順は、基本的に既存の発泡体の製造におけるそれと同様である。即ち、基材であるポリオレフィン系樹脂に発泡剤、架橋剤等を添加して混練した後、これを加熱し発泡させて発泡体を得るのである。なお、本実施形態の実施例2及び5では、混練物に1段階目の発泡を行わせる工程、1段階目の発泡を行った後の中間体を取り出す1次取出し工程、中間体に2段階目の発泡を行わせる工程、2段階目の発泡を行った後の発泡体を取り出す2次取出し工程を行う。
【0018】
表1及び表2に、本実施形態の具体的な実施例を示す。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。また、表2に、本実施形態の比較例を示す。表1及び表2において、数字は主原料であるポリブチレンサクシネート(又はポリブチレンサクシネートとポリブチレンアジペート・テレフタラートとの混合物)を合計100重量部とした場合の各成分の重量比である。
【0019】
【0020】
【0021】
<実施例1>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)9重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.7重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、103kg/m3となった。
【0022】
<実施例2>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)9重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.7重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱した後、さらに160℃、30分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、88kg/m3となった。
【0023】
<実施例3>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)9重量部、ジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.7重量部、及びコーンスターチ(デンプン、充填剤)30重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、108kg/m3となった。
【0024】
<実施例4>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)6重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.6重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、140kg/m3となった。
【0025】
<実施例5>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.6重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱した後、さらに160℃、30分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、57.4kg/m3となった。
【0026】
<実施例6>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、ジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.6重量部、及び炭酸カルシウム(充填剤)50重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、110kg/m3となった。
【0027】
<実施例7>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、ジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.3重量部、及びカルボジライト(改質剤)2重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、91kg/m3となった。
【0028】
<実施例8>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)15重量部、パーヘキシン25B-40(架橋剤)1.2重量部、及びコーンスターチ(デンプン、充填剤)50重量部からなる組成物を混練し、その練和物を160℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、105kg/m3となった。
【0029】
<実施例9>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、パーヘキサV-40(架橋剤)1.5重量部、及びステアリン酸(滑剤)0.7重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、95kg/m3となった。
【0030】
<実施例10>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)80重量部、ポリブチレンアジペート・テレフタラート(PBAT、商品名:エコフレックズ、Basfジャパン株式会社製)20重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.6重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、96kg/m3となった。
【0031】
<実施例11>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)80重量部、ポリブチレンアジペート・テレフタラート(PBAT、商品名:エコフレックズ、Basfジャパン株式会社製)20重量部、炭酸水素ナトリウム(重曹、発泡剤)12重量部、ジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.3重量部、及びカルボジライト(改質剤)2重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させた。出来上がった発泡体の見かけ上の密度は、90kg/m3となった。
【0032】
<比較例>ポリブチレンサクシネート(PBS、商品名:FZ91B、三菱ケミカル株式会社製)100重量部、アゾジカルボンアミド(ADCA、発泡剤)1重量部、及びジクミルパーオキサイド(DCP、架橋剤)0.3重量部からなる組成物を混練し、その練和物を150℃、50分間加圧下で加熱することで、発泡剤及び架橋剤を分解して発泡させたが、形状を保つことができなかった。
【0033】
また、ポリブチレンサクシネート(PBS)を基材として用いた本実施形態の発泡体の土壌中生分解度試験の結果を、試験日数に対する生分解率を示すグラフである
図1を参照しつつ以下に示す。この試験は、JIS K 6955:2017に準拠して行われた。本実施形態の発泡体は、実験開始から180日経過時点で48.9~67.8%、平均すると約54%分解した。日本バイオプラスチック協会が「生分解性プラスチック」として認める基準である180日60%以上の分解に届かないが、一部原料をコーンスターチ等に置き換えることで基準をクリアできることが予想される。
【0034】
以上に述べたように、発泡剤として炭酸水素ナトリウム(重曹)を使用した実施例1~11記載のものは、ブロック発泡の工程を行った後も発泡体として形状を保つことができた。
【0035】
これに対し、比較例に記載のものは、ブロック発泡の工程を行った後、発泡体として形状を保つことができなかった。
【0036】
以上に述べたように、本実施形態に係る発泡体は、土壌中において、180日経過時時点で54%以上分解し、180日時点でも分解速度は衰えておらず、さらに分解が進むことが予想され、マイクロプラスチックによる環境汚染の解決に貢献することができる。
【0037】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
【0038】
例えば、基材であるポリブチレンサクシネートの配合割合は50~100重量部、望ましくは80~100重量部の範囲で任意に設定してよい。また、発泡剤である炭酸水素ナトリウムの配合割合は3~15重量部、望ましくは6~15重量部の範囲で任意に設定してよい。
【0039】
加えて、基材として、ポリブチレンサクシネート以外に、ポリブチレンアジペート・テレフタラート、ポリブチレンアジベート、又はポリ乳酸を5~50重量部の範囲で任意に配合してよい。
【0040】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。