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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029864
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】分光計測用基準器
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
G01J3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132293
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏道
(72)【発明者】
【氏名】門奈 瑛樹
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA03
2G020AA04
2G020CD03
2G020CD36
2G020CD37
2G020CD39
(57)【要約】
【課題】計測対象に関する所定の定量値の高精度な取得を可能とする分光計測用基準器を提供する。
【解決手段】分光計測用基準器1は、対象物に照射される照射光を出射すると共に、照射光の照射に応じて対象物において生じた計測光が入射するヘッド部12を備える分光計測装置10に用いられる。分光計測用基準器1は、ヘッド部12が配置される開口20を有する保持部2と、開口20に臨むように設定された対象領域Rに配置されており、照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収性を有する吸収部3と、開口20内に対して着脱可能な状態で開口20内に配置されており、対象領域Rに対する照射光の照射状態を調整する調整部4と、を備える。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に照射される照射光を出射すると共に、前記照射光の照射に応じて前記対象物において生じた計測光が入射するヘッド部を備える分光計測装置に用いられる分光計測用基準器であって、
前記ヘッド部が配置される開口を有する保持部と、
前記開口に臨むように設定された対象領域に配置されており、前記照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収性を有する吸収部と、
前記開口内に対して着脱可能な状態で前記開口内に配置されており、前記対象領域に対する前記照射光の照射状態を調整する調整部と、を備える、分光計測用基準器。
【請求項2】
前記調整部は、第1調整層と、前記第1調整層とは異なる厚さを有する第2調整層を含む、請求項1に記載の分光計測用基準器。
【請求項3】
前記第1調整層及び前記第2調整層は、前記所定の波長帯の光に対して透過性を有する、請求項2に記載の分光計測用基準器。
【請求項4】
前記調整部は、前記開口内において前記照射光の透過領域を調整する、請求項1に記載の分光計測用基準器。
【請求項5】
前記保持部は、前記吸収部を収容している筐体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の分光計測用基準器。
【請求項6】
前記ヘッド部のサイズに応じて前記開口に配置されるスペーサを更に備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の分光計測用基準器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光計測装置に用いられる分光計測用基準器に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に照射される照射光を出射すると共に、照射光の照射に応じて対象物において生じた計測光が入射するヘッド部12を備える分光計測装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような分光計測装置は、対象物に含まれる計測対象(例えば、食肉に含まれる脂肪等)が特定の波長帯の光を吸収しやすいという性質を利用して、計測対象に関する所定の定量値(例えば、脂肪量、脂肪率等)を取得するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-070550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような分光計測装置では、計測光のスペクトルデータに基づいて所定の定量値を演算するための演算式において、演算係数を取得したり、演算係数を較正したりすることが、所定の定量値を精度良く取得する上で重要である。
【0005】
本発明は、計測対象に関する所定の定量値の高精度な取得を可能とする分光計測用基準器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の分光計測用基準器は、[1]「対象物に照射される照射光を出射すると共に、前記照射光の照射に応じて前記対象物において生じた計測光が入射するヘッド部を備える分光計測装置に用いられる分光計測用基準器であって、前記ヘッド部が配置される開口を有する保持部と、前記開口に臨むように設定された対象領域に配置されており、前記照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収性を有する吸収部と、前記開口内に対して着脱可能な状態で前記開口内に配置されており、前記対象領域に対する前記照射光の照射状態を調整する調整部と、を備える、分光計測用基準器」である。
【0007】
上記[1]に記載の分光計測用基準器では、照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収部が吸収性を有しており、対象領域に対する照射光の照射状態が調整部によって調整される。これにより、対象領域を「第1所定値の定量値を有する対象物」に相当する領域としたり、対象領域を「第1所定値とは異なる第2所定値の定量値を有する対象物」に相当する領域としたりすることができる。したがって、照射光の照射状態が互いに異なる各対象領域について、開口に分光計測装置のヘッド部を配置して、対象領域に照射光を照射しつつ、対象領域において生じた計測光を分光して検出することで、計測光のスペクトルデータに基づいて所定の定量値を演算するための演算式において、演算係数を取得したり、演算係数を較正したりすることが可能となる。よって、上記[1]に記載の分光計測用基準器によれば、計測対象に関する所定の定量値の高精度な取得が可能となる。
【0008】
本発明の分光計測用基準器は、[2]「前記調整部は、第1調整層と、前記第1調整層とは異なる厚さを有する第2調整層を含む、上記[1]に記載の分光計測用基準器」であってもよい。当該[2]に記載の分光計測用基準器によれば、対象領域に対する照射光の照射状態を簡易な構成で調整することができる。
【0009】
本発明の分光計測用基準器は、[3]「前記第1調整層及び前記第2調整層は、前記所定の波長帯の光に対して透過性を有する、上記[2]に記載の分光計測用基準器」であってもよい。当該[3]に記載の分光計測用基準器によれば、調整層が照射光の特性に影響を及ぼすのを防止することができる。
【0010】
本発明の分光計測用基準器は、[4]「前記調整部は、前記開口内において前記照射光の透過領域を調整する、上記[1]に記載の分光計測用基準器」であってもよい。当該[4]に記載の分光計測用基準器によれば、対象領域に対する照射光の照射状態を簡易な構成で調整することができる。
【0011】
本発明の分光計測用基準器は、[5]「前記保持部は、前記吸収部を収容している筐体である、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の分光計測用基準器」であってもよい。当該[5]に記載の分光計測用基準器によれば、吸収部の劣化を抑制することができる。
【0012】
本発明の分光計測用基準器は、[6]「前記ヘッド部のサイズに応じて前記開口に配置されるスペーサを更に備える、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の分光計測用基準器」であってもよい。当該[6]に記載の分光計測用基準器によれば、分光計測装置においてヘッド部のサイズが変更された場合にも、吸収部が配置された領域に対してヘッド部の位置決めを適切に実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、計測対象に関する所定の定量値の高精度な取得を可能とする分光計測用基準器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の分光計測装置の側面図である。
図2図1に示される分光計測装置の正面図である。
図3】計測光のスペクトルを示す図である。
図4】照射光のスペクトルを決定する方法の工程を示す図である。
図5】照射光のスペクトルを決定する方法の工程を示す図である。
図6】照射光のスペクトルを示す図である。
図7】計測光のスペクトルの二次微分値を示す図である。
図8図1に示される演算装置の表示部における表示例を示す図である。
図9図1に示される演算装置の表示部における表示例を示す図である。
図10】一実施形態の分光計測用基準器の斜視図である。
図11図10に示される分光計測用基準器の断面図である。
図12図10に示される分光計測用基準器の使用例を示す図である。
図13】スペーサを備える分光計測用基準器の斜視図である。
図14】変形例の調整部の斜視図である。
図15】変形例の調整部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[分光計測装置の構成]
【0016】
図1に示される分光計測装置10は、対象物Sに照射光を照射し、照射光の照射に応じて対象物Sにおいて生じた計測光(例えば、反射光、散乱光等)を分光して検出する装置である。分光計測装置10は、対象物Sに含まれる計測対象(例えば、食肉に含まれる脂肪等)が特定の波長帯の光を吸収しやすいという性質を利用して、計測対象に関する所定の定量値(例えば、脂肪量、脂肪率等)を取得するために、計測光の検出信号を外部の演算装置100に出力する。演算装置100は、計測光の検出信号に基づいて所定の定量値を算出する。演算装置100は、本体部101と、ディスプレイ等の表示部102と、キーボード及びマウス等の入力部103と、を備えるコンピュータ装置である。本体部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等によって構成された演算部である。
【0017】
図1及び図2に示されるように、分光計測装置10は、本体部11と、ヘッド部12と、ケーブル13と、複数の光源14と、分光器15と、を備えている。本体部11は、分光計測装置10の各部を制御する制御部(図示省略)を含んでいる。当該制御部は、ケーブル13によって演算装置100の本体部101と電気的に接続されている。本体部11は、操作者が握るグリップ部としても機能する。
【0018】
ヘッド部12は、対象物Sに照射される照射光を出射すると共に、照射光の照射に応じて対象物Sにおいて生じた計測光が入射する部分である。図2に示されるように、ヘッド部12は、筒状の本体部材121と、板状の保持部材122と、管状の導光部材123と、板状の光透過部材124と、を有している。保持部材122は、本体部材121の内側に取り付けられている。導光部材123は、保持部材122の中心部分を貫通した状態で保持部材122に固定されている。光透過部材124は、本体部11(図1参照)とは反対側の本体部材121の開口部分に取り付けられている。
【0019】
複数の光源14は、保持部材122に形成された複数の開口に配置された状態で、配線基板(図示省略)を介してヘッド部12に取り付けられている。複数の光源14は、導光部材123を包囲するように配置されている。各光源14は、例えば、LED(light emitting diode)である。一例として、計測対象が脂肪である場合、複数の光源14は、脂肪が吸収しやすい920~940nmの波長帯に中心波長を有する光を出射する光源と、当該特定の波長帯よりも短い波長帯に中心波長を有する光を出射する光源と、を含んでいる。分光計測装置10では、複数の光源14から出射される光によって照射光が生成され、当該照射光が光透過部材124を介して対象物Sに照射される。
【0020】
分光器15は、導光部材123と向かい合った状態で、本体部11に取り付けられている。分光器15は、光透過部材124を介して導光部材123に入射して導光部材123によって導光された計測光を分光して検出する。一例として、分光器15は、計測光を入射させる光入射部を有する筐体と、入射した計測光を筐体内において分光する回折格子と、分光された計測光を筐体内において検出する光検出素子と、を有している。
【0021】
分光計測装置10では、本体部11(図1参照)側の本体部材121の開口部分が、本体部11に着脱可能に接続されている。これにより、分光計測装置10では、ヘッド部12及び複数の光源14によって構成されたユニットが、本体部11に対して着脱可能となっている。したがって、分光計測装置10では、ヘッド部12及び複数の光源14によって構成されたユニットを、別の種類のユニットに交換することができる。ヘッド部12及び複数の光源14によって構成されたユニットの交換が必要なのは、計測に適した「照射光のスペクトル」及び「導光部材123と各光源14との位置関係」等が計測対象及び計測位置等によって変わるからである。なお、分光計測装置10では、分光器15がヘッド部12に取り付けられており、ヘッド部12、複数の光源14、及び分光器15によって構成されたユニットが、本体部11に対して着脱可能となっていてもよい。
[照射光のスペクトルを決定する方法]
【0022】
計測対象が脂肪である場合を例として、照射光のスペクトルを決定する方法について説明する。例えば、脂肪率が互いに異なる複数の対象物Sが用意され、一般的なハロゲンランプから出射された光が照射光として各対象物Sに照射されると、図3に示されるように、550~1100nmという広い波長範囲において、計測光のスペクトルが脂肪率ごとに取得される。ここで、図3に示される各スペクトルでは、脂肪が吸収しやすい920~940nmの波長帯を含む狭い波長範囲Wにおいて、プロファイルの変化が顕著に現れている。
【0023】
そこで、まず、図4の(a)に示されるように、波長範囲Wを含む波長範囲において各スペクトルが抽出される。波長範囲Wでは、脂肪率が高くなるほど、スペクトルのプロファイルが大きく「下に凸」となるため、図4の(a)及び(b)に示されるように、脂肪率が例えば80%を超えている場合の各スペクトルに基づいて平均スペクトルBPが生成される。続いて、図5の(a)に示されるように、例えば、所定の強度値から平均スペクトルBPが減算されることで、逆波形パターンIPが生成される。続いて、図5の(b)に示されるように、逆波形パターンIPに近似されたプロファイルを有する照射光のスペクトルSP1が生成される。
【0024】
つまり、対象物Sに含まれる計測対象が吸収しやすい波長帯を含む波長範囲において、所定の定量値が互いに異なる複数の対象物Sについて、計測光のスペクトルが定量値ごとに取得され、当該波長範囲において、定量値が所定値を超えている場合の各スペクトルに基づいて平均スペクトルBPが生成され、平均スペクトルBPに基づいて、平均スペクトルBPとは反対側に凸のプロファイルを有する照射光のスペクトルSP1が生成される。これにより、計測光の検出信号の強度値の分散範囲を狭くして、分光計測装置10において計測光を検出する光検出素子のダイナミックレンジを当該分散範囲に割り当てることができるため、計測光の検出においてS/N比及び分解能を向上させることが可能となる。
【0025】
図6は、照射光のスペクトルを示す図である。図6に示されるように、一般的なハロゲンランプから出射される光のスペクトルSP0は、脂肪が吸収しやすい920~940nmの波長帯を含む波長範囲Wよりも短い波長にピークを有しており、490~1100nmの広い波長範囲に広がっている。それに対し、上述した方法によって決定された照射光のスペクトルSP1は、脂肪が吸収しやすい920~940nmの波長帯に含まれる波長にピークを有しており、波長範囲Wの長波長側において波長範囲Wの短波長側よりも急峻に変化している。
[計測対象に関する所定の定量値を算出する方法]
【0026】
計測対象が脂肪である場合を例として、計測対象に関する所定の定量値を算出する方法について説明する。演算装置100は、分光計測装置10から計測光の検出信号を取得すると、当該検出信号に基づいて計測光のスペクトルデータを波長に関して二次微分する。図7は、計測光のスペクトルの二次微分値を示す図である。図7には、脂肪量が比較的少ない対象物Sについて算出された二次微分値R1、脂肪量が比較的多い対象物Sについて算出された二次微分値R3、及び脂肪量が中間値の対象物Sについて算出された二次微分値R2が示されている。このように、830~950nmの波長範囲では、二次微分値が脂肪量に応じて大きく変化することになる。
【0027】
演算装置100は、850nmを含む波長帯Δλ1の二次微分値の代表値x1、920nmを含む波長帯Δλ2の二次微分値の代表値x2、及び950nmを含む波長帯Δλ3の二次微分値の代表値x3を求め、「演算式:f(x)=a・x1+b・x2+c・x3+d」を用いて、脂肪に関する定量値(脂肪量、脂肪率等)を算出する。ここで、上記演算式中のa,b,c,dは、予め回帰演算によって算出されて演算装置100に記憶されている演算係数である。なお、各代表値x1,x2,x3は、各波長帯Δλ1,Δλ2,Δλ3における二次微分値の平均値、最大値、最小値又は中心値のいずれであってもよい。
【0028】
演算装置100に記憶される演算係数a,b,c,dは、次のように取得される。まず、対象物Sの脂肪量がソックスレー法等の化学分析によって取得される。続いて、当該対象物Sについて分光計測装置10による計測が実施され、計測光のスペクトルの二次微分値が算出される。続いて、演算装置100において、化学分析による脂肪量のデータ及び二次微分値のデータが用いられた回帰分析が実行されることで、演算係数a,b,c,dが取得される。回帰分析は、重回帰分析、PLS分析等によって、化学分析による脂肪量のデータ及び二次微分値のデータの関連付けが実施されることで、実行される。
【0029】
演算装置100は、脂肪に関する定量値(脂肪量、脂肪率等)を算出すると、図8及び図9に示されるように、表示部102に算出結果を表示する。図8に示される例では、「単位体積当たりの脂肪量:111.3mg/cm3」及び「クラス:A」が表示されている。図9に示される例では、計測光のスペクトルの二次微分値が表示されている。入力部103を介して「Disp」をクリックすることで、表示を切り替えることができる。
[分光計測用基準器]
【0030】
図10及び図11に示される分光計測用基準器1は、上記演算式における演算係数a,b,c,dを較正するために、分光計測装置10に用いられる基準器である。分光計測用基準器1は、保持部2と、吸収部3と、調整部4と、備えている。以下、後述する開口20が開口している方向をZ方向という。
【0031】
図10及び図11に示されるように、保持部2は、吸収部3を収容している。保持部2は、遮光性を有する筐体である。保持部2は、開口20を有している。より具体的には、保持部2は、板状の第1壁部23と、板状の第2壁部24と、筒状の第3壁部25と、を有している。第1壁部23は、Z方向における一方の側の第3壁部25の開口部分に取り付けられている。第2壁部24は、Z方向における他方の側の第3壁部25の開口部分に取り付けられている。開口20は、第1壁部23に形成されている。開口20には、分光計測装置10のヘッド部12が配置される。開口20は、ヘッド部12を位置決めする機能を有している。
【0032】
吸収部3は、開口20に臨むように設定された対象領域Rに配置されている。対象領域Rは、Z方向における開口20の一方の側(筐体である保持部2の内側)に設定された領域である。吸収部3は、分光計測装置10から出射される照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収性を有している。当該所定の波長帯は、対象物Sに含まれる計測対象が吸収しやすい波長帯である。一例として、計測対象が脂肪である場合、当該所定の波長帯は、脂肪が吸収しやすい920~940nmの波長帯である。その場合、吸収部3の材料は、例えば、固体硬化油脂である。
【0033】
調整部4は、開口20内に対して着脱可能な状態で開口20内に配置されている。調整部4は、対象領域Rに対する照射光の照射状態を調整する。対象領域Rに対する照射光の照射状態とは、対象領域Rにおける照射光の照射範囲の状態、対象領域Rにおける照射光の強度の状態等を意味する。
【0034】
図12の(a)及び(b)に示されるように、調整部4は、第1調整層4Aと、第1調整層4Aとは異なる厚さを有する第2調整層4Bと、を含んでいる。第1調整層4Aは、開口20の側面20a及び吸収部3の表面3aに接触した状態で開口20内に配置されている。第2調整層4Bは、開口20の側面20a及び吸収部3の表面3aに接触した状態で開口20内に配置されている。表面3aは、開口20内に露出している吸収部3の表面である。
【0035】
第1調整層4A及び第2調整層4Bは、分光計測装置10から出射される照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して透過性を有している。第1調整層4Aが所定の波長帯の光に対して透過性を有するとは、第1調整層4Aを当該光が透過する場合に、第1調整層4Aの厚さが変化しても、第1調整層4Aから出射された当該光の強度プロファイルが、第1調整層4Aに入射する当該光の強度プロファイルと略同一であることを意味する。同様に、第2調整層4Bが所定の波長帯の光に対して透過性を有するとは、第2調整層4Bを当該光が透過する場合に、第2調整層4Bの厚さが変化しても、第2調整層4Bから出射された当該光の強度プロファイルが、第2調整層4Bに入射する当該光の強度プロファイルと略同一であることを意味する。一例として、計測対象が脂肪である場合、第1調整層4A及び第2調整層4Bのそれぞれの材料は、例えば、テフロン(登録商標)である。
【0036】
分光計測用基準器1では、第1調整層4Aの厚さが第2調整層4Bの厚さよりも大きい。これにより、開口20内に第1調整層4Aが配置された状態での「開口20内の空間と吸収部3との間の距離」が、開口20内に第2調整層4Bが配置された状態での「開口20内の空間と吸収部3との間の距離」よりも大きくなる。一例として、計測対象が脂肪である場合、開口20内に第1調整層4Aが配置された状態での対象領域Rは、第1所定値の脂肪率を有する対象物Sに相当し、開口20内に第2調整層4Bが配置された状態での対象領域Rは、第1所定値よりも高い第2所定値の脂肪率を有する対象物Sに相当する。
【0037】
以上のように構成された分光計測用基準器1は、次のように用いられる。まず、図12の(a)に示されるように、開口20内に第1調整層4Aが配置される。その状態で、開口20に分光計測装置10のヘッド部12が配置される。より具体的には、第1調整層4Aにヘッド部12の端面12aが接触し且つ開口20の側面20aにヘッド部12の側面12bが接触するように、開口20にヘッド部12が配置される。ヘッド部12の端面12aは、照射光が出射され且つ計測光が入射するヘッド部12の表面である。開口20にヘッド部12が配置された状態で、分光計測装置10が、対象領域Rに照射光を照射しつつ、対象領域Rにおいて生じた計測光を分光して検出し、当該計測光の検出信号を演算装置100に出力する。
【0038】
続いて、開口20内から第1調整層4Aが外され、図12の(b)に示されるように、開口20内に第2調整層4Bが配置される。その状態で、開口20に分光計測装置10のヘッド部12が配置される。より具体的には、第2調整層4Bにヘッド部12の端面12aが接触し且つ開口20の側面20aにヘッド部12の側面12bが接触するように、開口20にヘッド部12が配置される。開口20にヘッド部12が配置された状態で、分光計測装置10が、対象領域Rに照射光を照射しつつ、対象領域Rにおいて生じた計測光を分光して検出し、当該計測光の検出信号を演算装置100に出力する。
【0039】
演算装置100は、開口20内に第1調整層4Aが配置された状態での対象領域Rの定量値に関するデータ、及び開口20内に第2調整層4Bが配置された状態での対象領域Rの定量値に関するデータを記憶している。開口20内に第1調整層4Aが配置された状態での対象領域Rの定量値に関するデータとは、対象領域Rが「第1所定値の定量値を有する対象物S」に相当することを示すデータである。開口20内に第2調整層4Bが配置された状態での対象領域Rの定量値に関するデータとは、対象領域Rが「第1所定値よりも高い第2所定値の定量値を有する対象物S」に相当することを示すデータである。演算装置100は、記憶している対象領域Rの定量値に関するデータ、並びに、取得した対象領域Rの計測光の検出信号に基づいて、上記演算式における演算係数a,b,c,dを較正する。
【0040】
なお、上述したように、分光計測装置10では、ヘッド部12及び複数の光源14によって構成されたユニットを、別の種類のユニットに交換することができる。そのため、分光計測用基準器1は、図13に示されるように、ヘッド部12のサイズに応じて開口20に配置されるスペーサ5を更に備えていてもよい。スペーサ5は、開口20と嵌まり合うリング状の本体部51を有している。開口20にスペーサ5が配置されている状態では、調整部4にヘッド部12の端面12aが接触し且つ本体部51の側面51aにヘッド部12の側面12bが接触するように、開口20にヘッド部12が配置される。
【0041】
以上説明したように、分光計測用基準器1では、照射光に含まれる所定の波長帯の光に対して吸収部3が吸収性を有しており、対象領域Rに対する照射光の照射状態が調整部4によって調整される。これにより、対象領域Rを「第1所定値の定量値を有する対象物S」に相当する領域としたり、対象領域Rを「第1所定値とは異なる第2所定値の定量値を有する対象物S」に相当する領域としたりすることができる。したがって、照射光の照射状態が互いに異なる各対象領域Rについて、開口20に分光計測装置10のヘッド部12を配置して、対象領域Rに照射光を照射しつつ、対象領域Rにおいて生じた計測光を分光して検出することで、計測光のスペクトルデータに基づいて所定の定量値を演算するための演算式において、演算係数を取得したり、演算係数を較正したりすることが可能となる。よって、分光計測用基準器1によれば、計測対象に関する所定の定量値の高精度な取得が可能となる。
【0042】
分光計測用基準器1では、調整部4が、第1調整層4Aと、第1調整層4Aとは異なる厚さを有する第2調整層4Bを含んでいる。これにより、対象領域Rに対する照射光の照射状態を簡易な構成で調整することができる。
【0043】
分光計測用基準器1では、第1調整層4A及び第2調整層4Bが、所定の波長帯の光に対して透過性を有している。これにより、調整層が照射光の特性に影響を及ぼすのを防止することができる。
【0044】
分光計測用基準器1では、保持部2が、吸収部3を収容している筐体である。これにより、吸収部3の劣化を抑制することができる。
【0045】
分光計測用基準器1では、ヘッド部12のサイズに応じて開口20にスペーサ5が配置される。これにより、分光計測装置10においてヘッド部12のサイズが変更された場合にも、吸収部3が配置された領域に対してヘッド部12の位置決めを適切に実施することができる。
[変形例]
【0046】
本発明は、上述した各実施形態に限定されない。例えば、調整部4は、対象領域Rに対する照射光の照射状態を調整するものであればよい。したがって、開口20内に第1調整層4A及び第2調整層4Bの一方のみが配置された状態で分光計測装置10による計測が実施され、開口20内に第1調整層4A及び第2調整層4Bのいずれも配置されていない状態で分光計測装置10による計測が実施されてもよい。
【0047】
また、調整部4は、第1調整層4A及び第2調整層4Bを含むものに限定されず、開口20内において照射光の透過領域を調整するものであってもよい。その場合にも、対象領域Rに対する照射光の照射状態を簡易な構成で調整することができる。
【0048】
一例として、図14に示されるように、調整部4は、光透過部材41と、開口42aを有する円板状の第1遮光部材42と、開口43aを有する円板状の第2遮光部材43と、を含むものであってもよい。図14に示される調整部4では、光透過部材41は、円板部411及び円環部412によって構成されている。円環部421は、円板部411の表面411aに設けられている。円板部411の中心には、開口411bが形成されている。第1遮光部材42は、表面411a上において円環部412の内側に嵌められる。第2遮光部材43は、表面411a上において円環部412の外側に嵌められる。光透過部材41及び第2遮光部材43は、保持部2の開口20と嵌まり合う。図14に示される調整部4によれば、「光透過部材41及び第1遮光部材42」、「光透過部材41及び第2遮光部材43」、「光透過部材41、第1遮光部材42及び第2遮光部材43」というように組合せを選択することで、開口20内において照射光の透過領域を調整することができ、対象領域Rに対する照射光の照射状態を調整することが可能となる。また、円環部412の幅が互いに異なる複数の光透過部材41を用意してもよい。その場合にも、円環部412の幅の違いにより、開口20内において照射光の透過領域を調整することができる。なお、開口411b及び開口42aは、計測光を通過させるための開口である。
【0049】
また、図15の(a)及び(b)に示されるように、調整部4は、複数の開口44a及び一つの開口44bを有する円板状の遮光部材44であってもよい。遮光部材44は、保持部2の開口20と嵌まり合う。複数の開口44aは、開口44bを包囲するように開口44bの周囲に形成されている。開口44bは遮光部材44の中心に形成されている。複数の開口44aは、照射光を通過させための開口である。開口44bは、計測光を通過させための開口である。図15の(a)及び(b)に示される調整部4によれば、遮光部材44の有無を選択したり、複数の開口44aの数、形状等が異なる遮光部材44を選択したりすることで、開口20内において照射光の透過領域を調整することができ、対象領域Rに対する照射光の照射状態を調整することが可能となる。
【0050】
また、保持部2は、開口20を有していれば、吸収部3を収容している筐体を構成していなくてもよい。また、保持部2は、複数の開口20を有していてもよい。
【0051】
また、各分光計測用基準器1は、上記演算式における演算係数a,b,c,dを較正するためだけでなく、上記演算式における演算係数a,b,c,dを取得するために、分光計測装置10に用いられてもよい。その場合、実サンプルである対象物Sについて所定の定量値をソックスレー法等の化学分析によって取得することが不要となる。
【0052】
また、分光計測装置10は、対象物Sに照射される照射光を出射すると共に、照射光の照射に応じて対象物Sにおいて生じた計測光が入射するヘッド部12を備えるものであれば、上述した構成を有するものに限定されない。計測対象も脂肪に限定されず、他の物質であってもよい。一例として、計測対象が水である場合には、水が吸収しやすい波長帯が950~970nmであるため、当該波長帯を含む波長範囲の照射光を出射する分光計測装置10が用いられ、各分光計測用基準器1では、当該波長帯の光に対して吸収性を有する吸収部3が用いられる。また、計測対象がクロロフィルである場合には、クロロフィルが吸収しやすい波長帯が670~690nmであるため、当該波長帯を含む波長範囲の照射光を出射する分光計測装置10が用いられ、各分光計測用基準器1では、当該波長帯の光に対して吸収性を有する吸収部3が用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1…分光計測用基準器、2…保持部、3…吸収部、4…調整部、5…スペーサ、10…分光計測装置、12…ヘッド部、20…開口、4A…第1調整層、4B…第2調整層、R…対象領域、S…対象物。
図1
図2
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図4
図5
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図8
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図10
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図15