IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーシーシー上島珈琲株式会社の特許一覧

特開2024-2987神経突起伸長用組成物および認知機能改善用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002987
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】神経突起伸長用組成物および認知機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20231228BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231228BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 36/74 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A61P25/28
A61P43/00 105
A61K31/353
A61K36/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103793
(22)【出願日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2022101185
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006600
【氏名又は名称】ユーシーシー上島珈琲株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】森本 栞
(72)【発明者】
【氏名】岩井 和也
(72)【発明者】
【氏名】有木 真吾
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 那月
(72)【発明者】
【氏名】光實 利貴人
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD57
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG17
4B117LK06
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZB21
4C086ZC41
4C088AB14
4C088AC04
4C088BA10
4C088CA08
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZB21
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】健全な神経細胞の神経突起を伸長させる神経突起伸長用又は認知機能改善用として用いる組成物を提供する。
【解決手段】プロシアニジンB1、又は、プロシアニジンB3、の何れかを有効成分として含む組成物は、神経機能を向上させ、神経突起伸長用又は認知機能改善用として用いることができる。また、コーヒーチェリー果皮抽出物を有効成分として含む組成物も、神経機能を向上させ、神経突起伸長用又は認知機能改善用として用いることができる。さらに、コーヒーチェリー果皮由来のプロシアニジンB1、プロシアニジンB2、又は、プロシアニジンB3、の何れかを有効成分として含む組成物も、神経機能を向上させ、神経突起伸長用又は認知機能改善用として用いることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかを有効成分として含む神経突起伸長用組成物。
【請求項2】
コーヒーチェリー果皮抽出物を有効成分として含む神経突起伸長用組成物。
【請求項3】
前記有効成分が、プロシアニジン類である請求項2の神経突起伸長用組成物。
【請求項4】
前記プロシアニジン類が、プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかである請求項3の神経突起伸長用組成物。
【請求項5】
前記プロシアニジン類が、プロシアニジンB2である請求項3の神経突起伸長用組成物。
【請求項6】
プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかを有効成分として含む認知機能改善用組成物。
【請求項7】
コーヒーチェリー果皮抽出物を有効成分として含む認知機能改善用組成物。
【請求項8】
前記有効成分が、プロシアニジン類である請求項7の認知機能改善用組成物。
【請求項9】
前記プロシアニジン類が、プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかである請求項8の認知機能改善用組成物。
【請求項10】
前記プロシアニジン類が、プロシアニジンB2である請求項8の認知機能改善用組成物。
【請求項11】
飲料、食品、サプリメント又は医薬品の形態である、請求項1~10の何れかの組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健全な神経細胞の神経突起を伸長させ、また、認知機能を改善させる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオ豆抽出物について、プロシアニジンを用いた神経機能の維持または回復用組成物が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、プロシアニジンの神経突起伸長に関する記載がある。
しかしながら、特許文献1の神経機能の維持または回復用組成物では、カカオ豆抽出物のカカオポリフェノールについて、カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB2に神経機能を維持・回復する効果があるとする内容である。また、特許文献1に開示される技術では、疲弊状態の神経細胞において細胞生存性回復率および神経突起伸長回復率の数値を改善するものであり、健全な神経細胞の神経突起を伸長させるものとは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2019/054461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、健全な神経細胞の神経突起を伸長させる神経突起伸長用または認知機能改善用として用いる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明の第1の観点によれば、組成物は、神経突起伸長用または認知機能改善用で、プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかを有効成分として含むものであり、健全な神経機能を向上させることを特徴とする。プロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかを有効成分として含むことにより、神経細胞において、情報伝達に重要な役割を担う神経突起を伸長させることが可能となり、また、認識したり、記憶したり、判断したりする能力、すなわち、認知機能を改善することができる。
【0006】
本発明の第2の観点によれば、組成物は、神経突起伸長用または認知機能改善用で、コーヒーチェリー果皮抽出物を有効成分として含み、神経機能を向上させることを特徴とする。コーヒーチェリー果皮抽出物を有効成分として含むことにより、神経細胞において、情報伝達に重要な役割を担う神経突起を伸長させることが可能となり、また、認知機能を改善できる。
【0007】
本発明の第2の観点における組成物では、有効成分は、コーヒーチェリー果皮由来のプロシアニジン類であり、特に、プロシアニジン類がプロシアニジンB1とプロシアニジンB3の少なくとも何れかであることが好ましい。或いは、コーヒーチェリー果皮由来のプロシアニジン類がプロシアニジンB2であってもよい。
コーヒーチェリー果皮由来のプロシアニジンB1、B2又はB3を有効成分として含む組成物とすることにより、従来、廃棄されることが多かったコーヒーチェリーの果皮を有効利用でき、環境保全にも役立つ。
なお、本発明の第1及び第2の観点の組成物は、飲料、食品、サプリメント又は医薬品の形態として提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物によれば、生物の神経系を構成する神経細胞(ニューロン)の情報伝達を担う神経突起を伸長させ、また、認知症患者の認知機能改善だけでなく、健常者の認知症予防機能が期待できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】コーヒーチェリー果皮抽出物のLC-MS/MS定性分析結果
図2】実施例Aの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図3】実施例Bの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図4】実施例Cの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図5】実施例Dの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図6】実施例Aの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図7】実施例Bの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図8】実施例Cの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図9】実施例Dの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像
図10】未処置対照及び陽性対照の画像
図11-1】神経突起の伸長を示す顕微鏡像(1)
図11-2】神経突起の伸長を示す顕微鏡像(2)
図12】ニューロンの形態とはたらきを示す模式図
図13】老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験におけるStep-through型受動的回避反応試験結果
図14】老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験におけるBDNF(大脳皮質)の発現レベルを示すグラフ
図15】老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験における海馬Aβ染色陽性面積を示すグラフ
図16】通常モデルマウスを用いた肥満誘発性の認知機能試験における体重変化を示すグラフ
図17】通常モデルマウスを用いた肥満誘発性の認知機能試験におけるY字迷路試験結果
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0011】
ラット副腎褐色細胞腫由来のPC12細胞は、神経成長因子(NGF:nerve growth factor)の添加によって神経突起を伸長させ、交感神経細胞様に分化することから、神経細胞のモデル細胞として用いることができる。本実施例では、このPC12細胞を用いて、神経突起伸長作用を評価した。
【0012】
試験試料としては、4種類の試料、すなわち、コーヒーチェリー果皮抽出物(実施例A)、プロシアニジンB1(実施例B)、プロシアニジンB2(実施例C)、プロシアニジンB3(実施例D)を用いた。プロシアニジンB1(CAS No. 20315-25-7)、プロシアニジンB2(CAS No.
29106-49-8)、およびプロシアニジンB3(CAS No. 20315-25-7)は何れもCayman Chemical社製である。
ここで、実施例Aのコーヒーチェリー果皮抽出物は、以下の方法を用いて調製した。まず、インドネシア産(カネフォラ種)のコーヒーチェリーの表面を水で洗浄し、果皮と種子に分離し、その後、直ぐに果皮を凍結乾燥し、乾燥物をミキサーで粉砕した。コーヒーチェリー果皮凍結乾燥粉砕物50gと50v/v%エタノール500mLをフラスコに入れ、3時間スターラーで攪拌抽出した。得られた抽出液を遠心分離した後、7μmのペーパーフィルターで濾過し、濾液を凍結乾燥してコーヒーチェリー果皮抽出物を得た。
得られたコーヒーチェリー果皮抽出物の総プロシアニジン類含有量は、該粉末全体重量中20質量%であった(バニリン塩酸法によってエピカテキン当量として算出)。更に、コーヒーチェリー果皮抽出物をLC-MS/MS定性分析に供したところ、図1(1)に示す分析結果を得た。インドネシア産(カネフォラ種)のコーヒーチェリー果皮抽出物の分析結果として、プロシアニジンB1及びプロシアニジンB3のピークが検出された。
参考までに、ベトナム産(アラビカ種)のコーヒーチェリー果皮抽出物について、同条件で抽出し、LC-MS/MS定性分析を行った結果を図1(2)に示す。ベトナム産(アラビカ種)のコーヒーチェリー果皮抽出物では、プロシアニジンB2の大きなピークが検出された。このように、実施例Aとして用いたコーヒーチェリー果皮抽出物とは異なるが、プロシアニジンB2を多く含有するコーヒーチェリーもあり、後述するとおり、実施例Cとして試薬ベースでもプロシアニジンB2の神経突起伸長作用を確認している。なお、LC条件、MS/MS条件を下記表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
実施例A~Dの試料を、50vol%エタノールに溶解し、実施例Aの試料を100(mg/mL)、実施例B~Dの試料を25(mmol/L)に調製し、試験用原液とした。これらの試験用原液を50vol%のエタノールで希釈し、実施例Aの試料を2、5、及び10(mg/mL)、実施例B~Dの試料をそれぞれ0.5、2、及び5(mmol/mL)の溶液とした。これら溶液を分化培地でさらに希釈し、実施例Aの試料については、2、5、及び10(μg/mL)、実施例B~Dの試料については、それぞれ0.5、2、及び5(μmol/L)の試験液を調製した(試験液中のエタノール濃度は0.05vol%である)。
【0015】
試験操作としては、まず、PC12細胞を、コラーゲンコートの24ウェルプレートに播種し、1日間培養後、各試験液を添加した。具体的には、実施例Aの試料については、2、5、及び10(μg/mL)、実施例B~Dの試料については、それぞれ0.5、2、及び5(μmol/L)の各試験液を分化培地中に添加した。3日間培養後、培養上清を新たに調製した各試験液を含む分化培地に交換し、さらに3日間培養した。3日間及び6日間培養後のPC12細胞を、倒立型位相差顕微鏡にて観察し撮影した。また、0.05vol%のエタノール含有の分化培地のみを加えたものを未処置対照として同様に試験を行った。陽性対照には、NGF(神経成長因子)(50ng/mL)を添加した分化培地を同様にして用いた。
図10(1)は未処置対照の顕微鏡像、図10(2)は陽性対照の顕微鏡像を示している。主な試験条件を下記表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
実施例A~Dの試料を添加後、3日間培養したときのPC12細胞の顕微鏡像を、図2図5に示し、6日間培養したときのPC12細胞の顕微鏡像を図6図9に示す。
図2は、実施例Aの試料を添加後、3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示す。また、図6は、実施例Aの試料を添加後、6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示す。図2図6のそれぞれにおいて、(1)は2μg/mL、(2)は5μg/mL、(3)は10μg/mLを示している。図2及び図6に示すように、実施例Aの試料は、2、5及び10(μg/mL)のそれぞれの濃度で神経突起が樹状に伸長し、繋がっている箇所が確認された。但し、10μg/mLではわずかに毒性が見られ、PC12細胞が減少している箇所が確認された。
【0018】
図3は、実施例Bの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示している。また、図7は、実施例Bの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示している。同様に、図4は実施例Cの試料を添加後3日間培養時、図5は実施例Dの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示し、図8は実施例Cの試料を添加後6日間培養時、図9は実施例Dの試料を添加後6日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像を示している。図3~5、7~9においては、それぞれ(1)0.5μmol/L(2)2μmol/L(3)5μmol/Lを示している。
図3~5、7~9に示すように、実施例B~Dの試料を添加した検体は、0.5、2、及び5(μmol/L)のそれぞれの濃度で神経突起が樹状に伸長し、繋がっている箇所が見られた。実施例B~Dのいずれの試料を添加した検体においても5μmol/Lでわずかに毒性が見られ、PC12細胞が少なくなっている部分があった。
【0019】
以上から、コーヒーチェリー果皮抽出物、プロシアニジンB1、プロシアニジンB2、プロシアニジンB3の全てについて、有効性が認められた。それぞれのプロシアニジンの構造と作用の関係で比較した場合、B1、B2,B3で顕著な差は認められず、いずれも用量依存的に神経突起伸長作用が認められた。一方で、細胞の増殖への影響を比較した場合、プロシアニジン類を試薬としてそれぞれ単独で用いた場合には、5μmol/Lの高用量側で僅かに細胞毒性が見られたが、コーヒーチェリー果皮抽出物では10μg/mL以下の用量範囲で細胞毒性は認められず、神経突起伸長効果も添加量とともにより顕著になる傾向が認められた。
【0020】
図11-1及び図11-2は、神経突起の伸長を示す顕微鏡像である。図11-1(1)は未処置対照、図11-1(2)と図11-2(1)及び(2)は、実施例Aの試料を添加後3日間培養時におけるPC12細胞の顕微鏡像であり、それぞれ図11-1(2)は2μg/mL、図11-2(1)は5μg/mL、図11-2(2)は10μg/mLを示す。
また、図12は、ニューロンの形態とはたらきを示す模式図(和田勝、“基礎から学ぶ生物学・細胞生物学”、第2版、羊土社、2014年、249頁、図11-8を引用)を示す。
【0021】
未処置対照と比較して、実施例Aの試料を添加した検体を添加後3日間培養時におけるPC12細胞では、目視により確認したところ、2μg/mL、5μg/mL、又は10μg/mLの何れについても、図中の矢印で指し示す箇所の様に神経突起の伸長が確認できた。したがって、例えば、図12の模式図に示すニューロンの情報伝達を担う神経突起(樹状突起)の伸長が観察され、情報伝達機能が向上し、それに伴って認知機能の改善が期待される。コーヒーチェリー果皮抽出物であるAの効果は、神経細胞の伸長を促進する効果が認められた。
【0022】
(老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験)
まず、通常のマウスより早く老化が進むマウスを用いて認知機能試験を行った。具体的には、コーヒーチェリー果皮抽出物を12週間反復経口投与し、老化促進モデルマウス(SAMP8)の認知機能を評価した。
【0023】
図13は、老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験におけるStep-through型受動的回避反応試験結果を示している。なお、図13~15において、それぞれの数値は、12例の平均値±標準誤差を表す。Step-through型受動的回避反応試験とは、明室及び暗室から成る実験箱を用いて、マウスが明室から暗室に入った時に通電刺激を与えるタイプの受動的回避試験のことである。具体的には、まず、明室から暗室に入るまでの時間、すなわち反応潜時を測定する。マウスが明室から暗室に入ると電気ショックが与えられ、これを獲得試行という。獲得試行から一定時間経過後に、再生試行を行うが、ここでは通電刺激を与えず、反応潜時を測定する。認知機能が低下していると、明室から暗室に入るまでの反応潜時が短くなる。
【0024】
比較例Eは正常対照、比較例Fは病態対照であり認知機能が低下したもの、実施例Gは病態対照であり認知機能が低下したものにコーヒーチェリー果皮抽出物由来プロシアニジン類素材を摂取させたものを示している。正常対照の比較例Eには、老化速度が通常のモデルマウス(SAMR1)を使用した。実施例Gの試料の具体的な組成については、下記表3に示す通りである。
【0025】
【表3】
【0026】
ここで、コーヒーチェリー果皮抽出物由来プロシアニジン類素材中の総プロシアニジン類量はバニリン塩酸法で算出し、プロシアニジンB1、プロシアニジンB2、プロシアニジンB3はHPLC―FL(蛍光検出器)を用いて定量分析を行った。クロロゲン酸類は3種CQAs(3-CQA、5-CQA,4-CQA)、3種FQAs(3-FQA,5-FQA,4-FQA)、及び3種di―CQAs(3,5-di―CQA、3,4-di―CQA、4,5-di―CQA)の計9種クロロゲン酸類の総称であり、カフェイン、トリゴネリンと共にHPLC-PDA(フォトダイオードアレイ検出器)を用いて定量分析を行った。それぞれの定量分析方法については表4,5に示す。
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
なお、9種クロロゲン酸類は標品である5-CQAのピーク面積値を基準として、それぞれのRelative Response Factor(RRF)を乗じて定量値を算出し、トリゴネリンは標品として用いたトリゴネリン塩酸塩当量とした。HPLC―PDAの標品はそれぞれ終濃度5,10,50,100,500mg/Lとなるように、MilliQ水に溶解し、HPLC-FLの標品はそれぞれ終濃度0.1,0.5,1,5,10mg/Lとなるように、水:メタノール:酢酸=50:50:1(v/v/v)の希釈溶媒に溶解して検量線を作成した。それぞれの分析に供するコーヒーチェリー果皮抽出物由来プロシアニジン類素材は、同溶媒を用いて検量線内の成分濃度となる任意の倍率で希釈を行った。
【0030】
図13に示すように、病態対照である比較例Fでは、正常対照である比較例Eよりも反応潜時が短くなっており、認知機能が低下している。これに対して、病態対照であり認知症が進行したものにプロシアニジン類を摂取させた実施例Gでは、比較例Fよりも反応潜時が長くなった。
【0031】
図14は、老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験におけるBDNF(大脳皮質)の発現レベルを示すグラフを示している。BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)とは、脳由来神経栄養因子と呼ばれ、主に脳の海馬に発現する神経性因子であり、神経細胞の成長や再生を促す物質として知られている。図14(1)はグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、図14(2)はβ-アクチン(ACTB)に対するBDNFの発現レベルを示している。
図14(1)及び(2)において、病態対照である比較例Fでは、正常対照である比較例EよりもBDNFの発現レベルが低下している。これに対して、病態対照であり認知機能が低下したものに、プロシアニジン類を摂取させた実施例Gでは、比較例FよりもBDNFの発現レベルが上昇することが分かった。
【0032】
図15は、老化促進モデルマウスを用いた認知機能試験における海馬Aβ染色陽性面積を示すグラフを示している。Aβ(アミロイドβ)は、アルツハイマー型認知症の発症に大きく関わっていると考えられているたんぱく質である。図15のグラフでは、左脳海馬CA1領域について測定を行った。
海馬CA1領域において、病態対照である比較例Fでは、正常対照である比較例Eよりも陽性率が上昇しているが、病態対照であり認知機能が低下したものに、プロシアニジン類を摂取させた実施例Gでは、比較例FよりもBDNFの陽性率が低下していることが分かった。
【0033】
以上のことから、老化促進に伴い呈する病態に対しては、BDNF(大脳皮質)の産生促進、海馬CA1領域におけるAβ蓄積抑制など、一定の抑制効果が示唆された。
【0034】
(通常モデルマウスを用いた肥満誘発性の認知機能試験)
次に、通常の動物モデルを用いて肥満による認知機能の低下が改善するかについて試験を行った。これは老化モデルで低用量(100mg/kg/day)の場合に効果を確認できたため、更に用量を増やして(150又は300mg/kg/day)、通常モデルで用量依存性を見たものである。具体的には、コーヒーチェリー果皮抽出物を16週間反復経口投与し、食事誘発性肥満モデルマウス(C57BL/6J)の認知機能を評価した。
【0035】
図16は、通常モデルマウスを用いた肥満誘発性の認知機能試験における体重変化を示すグラフである。比較例Hは通常食を摂取させたもの、比較例Iは高脂肪食を摂取させたもの、実施例Jは高脂肪食と低用量のプロシアニジン類を同時に摂取させたもの、また実施例Kは高脂肪食と高用量のプロシアニジン類を同時に摂取させたものを示している。低用量群(実施例J)と高用量群(実施例K)の試料の違いについては、下記表6に示す通りである。表6に記載の分析値に関しても、上記表4,5に示す分析方法に準じて実施している。図16に示すように、高脂肪食と高用量のプロシアニジン類を同時に摂取させた実施例Kでは、効果的に体重の増加が抑制されることが分かった。
【0036】
【表6】
【0037】
図17は、通常モデル認知機能試験におけるY字迷路試験結果を示している。Y字迷路試験とは、自発的交替行動を測定し短期記憶を評価する試験である。具体的には、Y迷路内探索において、マウスが直前に進入したアームとは異なったアームに入ろうとする習性を利用し、かかる自発的交替行動を行う確率(交替率)を測定する。
通常食を摂取させた比較例Hと比べて、高脂肪食を摂取させた比較例Iでは、自発的交替行動を行う確率(交替率)が低下しているが、高脂肪食と低用量のプロシアニジン類を同時に摂取させた実施例Jでは交替率が上昇し、高脂肪食と高用量のプロシアニジン類を同時に摂取させた実施例Kでは交替率がさらに上昇しており、プロシアニジン類を同時に摂取させることで、認知機能が改善することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、神経突起伸長剤、認知機能改善剤として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図15
図16
図17