(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029877
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】高純度スメクタイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/40 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
C01B33/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132316
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】諸留 章二
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA03
4G073BA05
4G073BA10
4G073BA11
4G073BA36
4G073BA48
4G073BA52
4G073BA57
4G073BB45
4G073BD13
4G073BD21
4G073CM14
4G073FA07
4G073FB29
4G073FD01
4G073FD21
4G073FD25
4G073GA27
4G073GA30
4G073GA36
(57)【要約】
【課題】スメクタイトスラリーを、凝集剤を使用して脱水処理に付すことにより、乾燥処理のエネルギーコストを削減しながら、得られる高純度スメクタイトの再分散性を、分散剤を添加せずとも十分に高めることができ、かつ、この再分散液の導電率も抑えて再分散後の分散安定性も十分に高めることができる、高純度スメクタイトの製造方法を提供する。
【解決手段】水簸処理及び/若しくは遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリー、又は、スメクタイトの水熱合成反応液であるスメクタイトスラリーと、キトサンとを混合し、スメクタイトの凝集物を生じた混合物を脱水して脱水ケーキを得て、得られた脱水ケーキを乾燥して粉砕することを含む、高純度スメクタイトの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水簸処理及び/若しくは遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリー、又は、スメクタイトの水熱合成反応液であるスメクタイトスラリーと、キトサンとを混合し、スメクタイトの凝集物を生じた混合物を脱水して脱水ケーキを得て、得られた脱水ケーキを乾燥して粉砕することを含む、高純度スメクタイトの製造方法。
【請求項2】
前記キトサンの混合量が、スメクタイトスラリーの固形分量100質量部に対して0.5~10.0質量部である、請求項1に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【請求項3】
前記キトサンを、酸性溶媒中に溶解してなるキトサン溶液として混合する、請求項1に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【請求項4】
前記スメクタイトがモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる、請求項1に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【請求項5】
前記脱水ケーキの乾燥を加熱乾燥処理により行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【請求項6】
前記脱水をろ過処理により行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度スメクタイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトは、非常に高い膨潤性、増粘性等の特有の性質を有する粘土鉱物である。含スメクタイト鉱石の破砕物を水と混合してスラリー(分散液)とし、このスラリーを水簸処理や遠心分離処理に付すことで夾雑物を除去して、純度の高い精製スメクタイトを得ることができる。
水簸処理や遠心分離処理によってスラリー中の夾雑物を効率的に除去するためには、スラリー中の固形分濃度を低くしてスラリーを低粘度化する必要がある。したがって、水簸処理や遠心分離処理を経たスメクタイトスラリーを市場に流通する乾燥粉末状とするためには、スメクタイトスラリーの大部分を占める水分を除去する必要あるが、スメクタイトの膨潤性、増粘性等の性質より、例えば濾過により水分を除去することは困難である。そのため、スメクタイトの乾燥粉末を得るためには、このようなスラリーを乾燥処理に付して十分に乾燥させて粉砕する必要があり、この乾燥処理ではかなりのエネルギーを消費する。
【0003】
高純度スメクタイトは水熱合成法によっても製造することができる。この水熱合成法では、水熱合成後の反応液(スメクタイトスラリー)を乾燥処理に付して水分を除去し、次いで粉砕して合成スメクタイト粉末が調製される。したがって、水熱合成法による高純度スメクタイトの調製においても、乾燥処理がエネルギーコスト低減の制約になる。
【0004】
上記のことから、エネルギーコストを抑えた高純度スメクタイトの製造方法が求められており、そのための技術が提案されてきている。
例えば特許文献1には、モンモリロナイト水簸液に対し、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムといった無機酸塩を凝結剤として添加し、撹拌することにより凝結物を生成させ、次に前記凝結物を濾過して脱水し、得られた濃縮物(濾過ケーキ、脱水ケーキ)に分散剤を混合し、次いで加熱乾燥して粉砕する、水簸ベントナイトの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような、無機塩類を凝結剤(凝集剤)としてモンモリロナイト水簸液に添加する方法では、生じたモンモリロナイト凝結物(凝集物、フロック)が凝集剤である無機塩類を含むものになる。したがって、この凝集物をろ過して脱水ケーキとし、次いで加熱乾燥処理に付し、その後粉砕して得られた水簸ベントナイトも凝集剤である無機塩類を含んでおり、そのまま水に再分散させても凝集が生じてしまう。それゆえ特許文献1記載の技術では、脱水ケーキを加熱乾燥処理に付す前に、例えばアルカリ金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、リン化合物塩、有機酸塩等の分散剤を添加している。しかし、分散剤を添加しても、得られる水簸ベントナイトの乾燥粉末には凝集剤及び分散剤由来のイオン等が含まれ導電率が高く、経時的なゲル化を生じるなど、品質の向上には制約がある。このように、特許文献1に記載の技術では加熱乾燥処理に伴うエネルギーコストは低減できるものの、分散剤の添加に伴い工程数や試薬コストが増し、さらに、得られる水簸ベントナイト(乾燥粉末)の再分散液は品質低下を引き起こしやすいものである。
【0007】
本発明は、高純度スメクタイトの製造方法であって、水簸処理や遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリーや、水熱合成の反応液であるスメクタイトスラリーを乾燥処理するに先立ち、これらのスラリーを、凝集剤を使用して脱水処理に付すことにより、乾燥処理のエネルギーコストを削減しながら、得られる高純度スメクタイト(乾燥粉末)の再分散性を、分散剤を添加せずとも十分に高めることができ、かつ、この再分散液の導電率も抑えて再分散後の分散安定性も十分に高める(液性変化を抑える)ことができる、高純度スメクタイトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、スメクタイトスラリーとキトサンとを混合してスメクタイトを凝集させ、これを脱水処理に付し、得られた脱水ケーキを加熱乾燥し、次いで粉砕して得られた粉末状スメクタイトが、その調製工程においてキトサン(凝集剤)を混合しているにもかかわらず優れた再分散性を示し、この再分散液は導電率も低く抑えられていることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0009】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
水簸処理及び/若しくは遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリー、又は、スメクタイトの水熱合成反応液であるスメクタイトスラリーと、キトサンとを混合し、スメクタイトの凝集物を生じた混合物を脱水して脱水ケーキを得て、得られた脱水ケーキを乾燥して粉砕することを含む、高純度スメクタイトの製造方法。
〔2〕
前記キトサンの混合量が、スメクタイトスラリーの固形分量100質量部に対して0.5~10.0質量部である、前記〔1〕に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
〔3〕
前記キトサンを、酸性溶媒中に溶解してなるキトサン溶液として混合する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の高純度スメクタイトの製造方法。
〔4〕
前記スメクタイトがモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の高純度スメクタイトの製造方法。
〔5〕
前記脱水ケーキの乾燥を加熱乾燥処理により行う、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の高純度スメクタイトの製造方法。
〔6〕
前記脱水をろ過処理により行う、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の高純度スメクタイトの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高純度スメクタイトの製造方法によれば、水簸処理や遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリーや、水熱合成の反応液であるスメクタイトスラリーを乾燥処理するに先立ち、これらのスラリーを、凝集剤を使用して脱水処理に付すことにより、乾燥処理のエネルギーコストを削減しながら、得られる高純度スメクタイト(乾燥粉末)の再分散性を、分散剤を添加せずとも十分に高めることができ、かつ、この再分散液の導電率も抑えて再分散後の分散安定性も十分に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の高純度スメクタイトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)では、水簸処理や遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリーや、水熱合成の反応液であるスメクタイトスラリーを、乾燥して粉末状とするに当たり、当該スラリーにキトサンを混合することによりスメクタイトを凝集させて凝集物(フロック)を形成し、これを脱水処理に付して、得られた脱水ケーキを乾燥処理に付すため、乾燥に必要なエネルギーコストを大幅に削減することができる。さらに、得られる高純度スメクタイト(乾燥粉末)は、その調製において凝集剤であるキトサンを用いているにもかかわらず、再分散性に優れ、また、再分散液は導電率が低く分散安定性にも優れている。本発明において単に「高純度スメクタイト」という場合、スメクタイトの含有量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることがさらに好ましく、94質量%以上であることがさらに好ましく、96質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明の製造方法では、スメクタイトスラリーとキトサンとの混合工程、及び凝集物を脱水して脱水ケーキを得る脱水工程を含むこと以外は、スメクタイトの精製ないし合成において通常行われている工程を適用して、乾燥粉末状の高純度スメクタイトを得ることができる。以下に、本発明の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
【0013】
<混合工程>
(スメクタイト)
本発明の製造方法に用いるスメクタイトの種類は特に限定されず、天然のスメクタイトであってもよく、合成スメクタイトであってもよい。本発明の製造方法に用いるスメクタイトとしては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトが挙げられる。
スメクタイトは、厚みが約1nmの薄い板状結晶が積み重なった層状構造を形成しており、結晶同士の間である層間には、一般的にアルカリ金属やアルカリ土類金属などのカチオンが存在する。原料となるスメクタイトの結晶層間に存在するカチオンに特に限定はない。例えば、Na(ナトリウム)型、Li(リチウム)型、K(カリウム)型、NH4(アンモニウム)型、Ca(カルシウム)型、Mg(マグネシウム)型、Ba(バリウム)型、Al(アルミニウム)型、Fe(鉄)型、Cu(銅)型、及びZn(亜鉛)型の各スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上のスメクタイトを用いることができる。前記スメクタイトは水分散性の高いスメクタイトであることが好ましく、Na型、Li型であることがより好ましい。
【0014】
(スメクタイトスラリー)
本発明において、キトサンと混合するスメクタイトスラリーは、一実施形態では水簸処理及び/若しくは遠心分離処理によって夾雑物を除去したスメクタイトスラリーである。また、別の実施形態では、キトサンと混合するスメクタイトスラリーは、スメクタイトの水熱合成反応液である。これらのスラリーの液媒体は、後述する水性媒体である。なお、本発明ないし本明細書において「スメクタイトの水熱合成反応液」とは、水熱合成反応により生成したスメクタイトを含む液であれば特に制限されない。例えば、水熱合成反応後の液を用いることもでき、当該反応液を希釈、洗浄、又は遠心分離処理等の操作を行った液であってもよい。
得られる高純度スメクタイトを、より高純度品とする観点から、キトサンと混合するスメクタイトスラリーの固形分中(水性媒体を除いた成分中)に占めるスメクタイトの割合が、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることがさらに好ましく、94質量%以上であることがさらに好ましく、96質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。また、スメクタイトスラリーの固形分のすべてがスメクタイトであることも好ましい。
前記スメクタイトスラリーの固形分において、スメクタイトを除いた残部を構成し得る成分としては、例えば、石英、クリストバライト、沸石、長石、方解石等の随伴鉱物や、水熱合成法に用いる化合物等が挙げられる。
前記スメクタイトスラリーの固形分量(水性媒体以外の成分含有量)に特に制限はなく、1~20質量%であってもよく、1~10質量%であってもよい。
【0015】
前記スメクタイトスラリーにおける前記水性媒体は、通常は水である。また、水と混和する水溶性媒体を含んでもよい。水溶性媒体として、例えば、アルコール、多価アルコール、エーテル等を含むことができる。水性媒体が水とともに水溶性媒体を含む場合、水性媒体中の水の含有量は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
(キトサン)
キトサンとは、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチン(ポリ-β1→4-N-アセチル-D-グルコサミン)をアルカリ処理により脱アセチル化することで得ることができる、主としてD-グルコサミン単位からなる高分子化合物である。1回のアルカリ処理により、D-グルコサミン単位の割合は70~95%程度まで上昇し、また酸性溶液に可溶となる。本発明の製造方法に用いるキトサンは、スメクタイトの凝集剤として作用すれば特に制限されない。このキトサンの脱アセチル化の割合(脱アセチル化度)は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
本発明の製造方法に用いるキトサンは、商業的に入手可能である。キトサンの市販品としては、例えば、甲陽ケミカル社製のキトサン(商品名:コーヨーフローナックN-1000)や、富士エンジニアリング社製のキトサン(商品名:フジクリーン、型番:KT-250)が挙げられる。
【0017】
キトサンの混合量は、混合するスメクタイトスラリーの固形分量等に応じて適宜決定することができる。スメクタイトをより確実に凝集させる観点から、キトサンの混合量は、スメクタイトスラリーの固形分量100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましい。また、得られる高純度スメクタイトをより高純度品とする観点から、当該混合量は、スメクタイトスラリーの固形分量100質量部に対して、10.0質量部以下であることが好ましく、8.0質量部以下であることがより好ましく、6.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0018】
キトサンは酸性液に可溶性であるため、本発明の製造方法に用いるキトサンは、無機酸や有機酸水溶液等の酸性溶媒中に溶解したキトサン溶液として用いることができる。前記無機酸や有機酸としては、例えば、塩酸、酢酸、ギ酸、硫酸、硝酸、リン酸、などが挙げられる。
また、前記スメクタイトスラリーと前記キトサン溶液とを混合する場合、スメクタイトスラリーのpHが高い場合(例えばpH11以上であるとき)には、スメクタイトスラリーに酸性溶液を添加して当該分散液のpHを5~10に調整した後に、キトサン溶液を混合することが好ましく、pHを5~9に調整した後にキトサン溶液を混合することがより好ましい。前記分散液のpHを上記好ましい範囲に調整することにより、フロックの形成に必要なキトサンの混合量を低減させることができる。
【0019】
前記スメクタイトスラリーと前記キトサン溶液とを混合する場合、混合液が酸性となり、混合液中のスメクタイトが酸性白土化することがある。そのため、当該混合液のpHが7未満である場合は、水酸化ナトリウム等の塩基性溶液を添加し、pHを7以上に中和することが好ましい。
【0020】
<脱水工程>
上記混合工程によって得られたフロックを含む混合液は、次いで脱水処理に付される。本発明において「脱水」処理とは、水性媒体の量を減じる処理を意味する。したがって、水性媒体が水以外の媒体を含む場合、水以外の媒体を含む水性媒体全体の量を減じる処理を意味する。混合液を脱水処理に付すことにより、水性媒体とその溶解成分をフロックと分離することができ、残留したフロックを脱水ケーキとして取り出すことができる。
上記脱水処理により、得られる脱水ケーキ中の水性媒体の含有量を、95質量%以下とすることが好ましく、92質量%以下とすることがより好ましく、90質量%以下とすることがさらに好ましい。上記脱水ケーキ中の水性媒体の含有量は、通常は50質量%以上であり、60質量%以上とすることが実際的である。
上記脱水処理の方法は特に制限されず、常法によって脱水することができる。例えば遠心分離等によってフロックを沈殿させ上清を除去することにより脱水ケーキを得ることもできるし、ろ布等を用いて、荷重をかけたり吸引したりしてろ過処理により脱水し、脱水ケーキを得てもよい。例えば実施例に記載の方法で脱水を行うことができる。
脱水処理は、脱水ケーキの洗浄処理を含んでもよい。すなわち、脱水ケーキを水性媒体と混合してから再度脱水処理に付したり、ろ過しながら脱水ケーキに通水したりして、脱水ケーキを洗浄することができる。
【0021】
<乾燥・破砕工程>
本発明の製造方法では、上記脱水工程後、乾燥し、次いで破砕することで、粉末状に加工された高純度スメクタイトが得られる。乾燥処理は、加熱乾燥処理が好ましい。この乾燥処理によって、得られる高純度スメクタイトの含水率を10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。また、乾燥温度は80~120℃とすることが好ましく、100~110℃とすることがより好ましい。乾燥時間は、スメクタイト量と乾燥温度によって適宜設定することができるが、2~48時間とすることができ、2~24時間とすることもでき、2~12時間とすることもできる。また、この乾燥時間は10時間以下としてもよく、8時間以下としてもよく6時間以下としてもよい。本発明の製造方法では、乾燥処理の対象が脱水ケーキであるため、このような比較的短時間の乾燥処理でも十分に乾燥させることが可能である。例えば、実施例に記載の方法により乾燥させることもできる。
乾燥処理により得られた乾燥物を、粉砕機によって破砕することで、粉末状の高純度スメクタイトを得ることができる。当該粉砕処理では、粉砕後の高純度スメクタイトを、目開き100μmのメッシュの通過率が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上となるように粉砕することが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法により得られる高純度スメクタイト(乾燥粉末)は、水性媒体に対する分散性に優れる。本発明の製造方法により得られる高純度スメクタイトが、キトサンの除去処理を経ていないにも関わらず分散性に優れる理由は定かでないが、乾燥、粉砕過程においてキトサンが分解され低分子化し、スメクタイトに対する凝集能が低下、又は喪失するためと考えられる。
【0023】
本発明の製造方法により得られる高純度スメクタイトは、3.0質量%の濃度で水に分散させたスラリー(20℃)の導電率が1000μS/cm以下であることが好ましく、900μS/cm以下であることがより好ましく、800以下μS/cmであることがより好ましい。
【実施例0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
<調製例1~3> 脱水ケーキの調製
各調製例に用いたスメクタイトスラリー(分散液)は、以下の通りである。
分散液1:ベントナイト粘土の分散液。分散液1は、精製ベントナイトの製造工程における、水簸・遠心分離工程後、乾燥工程前の工程抜取り品である、上澄み液である。
分散液2:合成スメクタイトの分散液。分散液2は、合成スメクタイトの製造工程における、水熱合成後、乾燥工程前の工程抜取り品である、水熱合成反応液である。
分散液3:合成スメクタイトの分散液。分散液3は、別の合成スメクタイトの製造工程における、水熱合成後、乾燥工程前の工程抜取り品である、水熱合成反応液である。
これらの分散液における固形分量(質量%)は、分散液を乾燥して得られた固形分量を計測することにより算出した。
下記に、分散液1の水簸・遠心分離条件、並びに分散液2及び3の水熱合成法の条件を示す。
<水簸・遠心分離条件>
ベントナイト原鉱石を水中に固形分量が約8%となるように投入して十分に攪拌後に静置させ、得られた上澄み液をさらに遠心分離処理に付すことにより、スメクタイト以外の夾雑鉱物を除去した。
<水熱合成法の条件>
ケイ酸ソーダ、水ガラス、硫酸Mg等を混合することによりゲル状の沈殿物を得、当該沈殿物をろ過洗浄した後、アルカリ溶液によりpHを調整し、150~180℃程度で水熱合成を行った。
【0026】
上記各分散液について、pH、導電率、粘度をそれぞれ測定した。結果を下記表1に示す。なお、pHはパーソナルpHメーター(型番:SPH71、三商社製)、導電率は電気伝導率計(型番:ES-51、堀場製作所社製)、粘度はBrookfield型粘度計(型番:B8M、東京計器社製、スピンドルサイズ:ローターNo.3、No.4)によって、20℃条件下でそれぞれ測定した。
また、pHが11を超える分散液2及び3は、酢酸を1ml加えて中和してから下記の脱水ケーキの調製に用いた。中和後のpHを併せて下記表1に示す。
【0027】
【0028】
蒸留水にキトサン(商品名:コーヨーフローナックN-1000、甲陽ケミカル社製)4.0gを添加し、さらに酢酸溶液(特級、関東化学社製)を40ml添加して撹拌し、その後蒸留水で1000mlまでメスアップしてキトサン溶液(pH3程度)を得た。上記の各スメクタイト分散液(分散液1~3)に対し、前記キトサン溶液を、スメクタイトとキトサンによる凝集物(フロック)が形成されるまで加えて撹拌した。フロックが形成されるのに必要なキトサン溶液の配合量(最小添加量)、及び、当該最小添加量から算出した、スメクタイト分散液の固形分量に対する添加したキトサンの固形分量の値を、下記表2に併せて示す。
キトサン溶液添加後(最小添加量を添加後)の混合液に対して1Nの水酸化ナトリウムを下記表2に記載の配合量で加えて中和した。中和後のpHを下記表2に示す。
中和後、フロックが形成された各混合液を、吸引ろ過器(商品名:MT印 ろ紙適合吸引ロート、品番:No.10、マルミヤセラミックス社製)で一晩全量ろ過し、調製例1~3の脱水ケーキを得た。ろ紙は硬質ろ紙 No.4A(アドバンテック東洋社製)を使用した。得られた脱水ケーキの含水率は、脱水ケーキの一部を105℃の乾燥機で一晩乾燥して乾燥前後の重量をそれぞれ測定し、乾燥後の脱水ケーキの含水率を0質量%と推定して計算により求めた。結果を下記表2に示す。
【0029】
なお、上記分散液1~3に対し、キトサン以外のポリマー系凝集剤として、高分子凝集剤であるダイヤフロックAP122(商品名、濃度0.4%、三菱ケミカル社製)を、固形分量が3.5質量%になるように添加し、かつ多価カチオンを添加しなかった場合には、上記分散液1~3においてスメクタイトが凝集せず、フロックが形成できなかった。
【0030】
【0031】
<試験例1> 脱水ケーキの乾燥・粉砕処理による高純度スメクタイトの調製と再分散性試験
[試験例1-1]
上記調製例1の脱水ケーキを105℃で4時間乾燥後、粉砕機(商品名:実験用振動カップミル p-9、FRITSCH社製)により回転数700rpmで90秒間粉砕して粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。当該粉砕物を、目開き100μmメッシュ(SANPO社製)に通して通過した粉砕物の重量を測定し、通過率(質量%)を算出した。結果を下記表3に示す。
当該粉砕物の固形分量が3質量%となるように蒸留水を加えて撹拌し、さらに超音波分散処理(周波数:26kHz、商品名:USC-400Z26S、超音波工業社製)を10分間行い、高純度スメクタイトを水に再分散させた再分散液を得た。得られた再分散液を100ml容量のガラス瓶に60ml移し入れ、浸透機(型番:SA300、ヤマト科学社製)を用いて100rpmで一晩攪拌した。攪拌後、一晩静置して沈殿物の有無、及び水浮き(高純度スメクタイトが分散しなかった上清)の有無を目視により観察した。結果を下記表3に示す。
また、得られた再分散液について、上記と同様にpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0032】
[試験例1-2]
上記調製例1の脱水ケーキを105℃で4時間乾燥後、粉砕機(商品名:実験用振動カップミル p-9、FRITSCH社製)により回転数700rpmで270秒間粉砕した粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0033】
[参考例1-1]
前記分散液1(ベントナイトの上澄み液、濃度3.5質量%)を、分散液中の固形分量が3.0質量%となるように蒸留水で希釈した。当該希釈液について、上記と同様に沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0034】
[参考例1-2]
前記分散液1(ベントナイトの上澄み液、濃度3.5質量%)を、乾燥機により105℃で24時間乾燥させた。得られた乾燥物(高純度スメクタイトの粉末)を試験例1-1と同様にして粉砕して粉砕物(高純度スメクタイト)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0035】
【0036】
試験例1-1及び1-2では、脱水ケーキは105℃で4時間乾燥させれば水分を十分に除去でき乾燥状態とすることができた。また、試験例1-1及び1-2における再分散液は、製造工程において凝集剤であるキトサンを混合しているにもかかわらず、いずれも水浮きや沈殿物が観察されず、高純度スメクタイトが均一分散した安定な再分散液であることが明らかとなった。また試験例1-1及び1-2の再分散液の導電率も、参考例と比較して低く抑えられることが明らかとなった。これは、フロックを形成することで夾雑物を含んだ水性媒体を除去することができたためであると考えられる。さらに実施例1-1及び1-2における再分散液は、参考例1-1及び1-2の再分散液と同程度の粘度を有していた。
【0037】
一方で、キトサンを含有しない参考例1-1及び1-2における再分散液も、水浮きや沈殿物が見られなかったが、導電率が比較的高い結果となった。また、参考例1-2では脱水工程を経ずに乾燥しているため、105℃で4時間の乾燥では乾燥状態に到達せず、より厳しい乾燥条件を設定する必要があった。
【0038】
<試験例2> 脱水ケーキの乾燥・粉砕処理による高純度スメクタイトの調製と再分散性試験
[試験例2-1]
上記調製例2の脱水ケーキを用いた以外は、試験例1-1と同様にして粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表4に示す。
【0039】
[試験例2-2]
上記調製例2の脱水ケーキを用いた以外は、試験例1-2と同様にして粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表4に示す。
【0040】
[参考例2-1]
前記分散液2(合成スメクタイトの水熱合成反応液、濃度3.5質量%)を、分散液中の固形分量が3.0質量%となるように蒸留水で希釈した。当該希釈液について、上記と同様に沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表4に示す。
【0041】
[参考例2-2]
前記分散液2(合成スメクタイトの水熱合成反応液、濃度3.5質量%)を、乾燥機により105℃で24時間乾燥させた。得られた乾燥物(高純度スメクタイトの粉末)を試験例1-1と同様にして粉砕して粉砕物(高純度スメクタイト)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表4に示す。
【0042】
【0043】
試験例2-1及び2-2では、脱水ケーキは105℃で4時間乾燥させれば水分を十分に除去でき乾燥状態とすることができた。また、試験例2-1及び2-2における再分散液も、試験例1-1及び1-2における再分散液と同様に、製造工程においてキトサンを混合しているにもかかわらず、いずれも水浮きやスメクタイトの沈殿物が観察されず、高純度スメクタイトが均一分散した安定な再分散液であることが明らかとなった。また試験例2-1及び2-2における再分散液の導電率も、参考例と比較して低く抑えることができることが明らかとなった。さらに試験例2-1及び2-2における再分散液は、参考例2-1及び2-2の再分散液と同程度の粘度を有していた。
【0044】
一方で、キトサンを含有しない参考例2-1及び2-2における再分散液も、水浮きや沈殿物が見られなかったが、導電率が比較的高い結果となった。また、参考例2-2では脱水工程を経ずに乾燥しているため、105℃で4時間の乾燥では乾燥状態に到達せず、より厳しい乾燥条件を設定する必要があった。
【0045】
<試験例3> 脱水ケーキの乾燥・粉砕処理による高純度スメクタイトの調製と再分散性試験
[試験例3-1]
上記調製例3の脱水ケーキを用いた以外は、試験例1-1と同様にして粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表5に示す。
【0046】
[試験例3-2]
上記調製例3の脱水ケーキを用いた以外は、試験例1-2と同様にして粉砕物(高純度スメクタイトの粉末)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表5に示す。
【0047】
[参考例3-1]
前記分散液3(合成スメクタイトの水熱合成反応液、濃度3.1質量%)を、分散液中の固形分量が3.0質量%となるように蒸留水で希釈した。当該希釈液について、上記と同様に沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表5に示す。
【0048】
[参考例3-2]
前記分散液3(合成スメクタイトの水熱合成反応液、濃度3.1質量%)を、乾燥機により105℃で24時間乾燥させた。得られた乾燥物(高純度スメクタイトの粉末)を試験例1-1と同様にして粉砕して粉砕物(高純度スメクタイト)を得た。その後、試験例1-1と同様にして通過率を測定した。また、試験例1-1と同様にして再分散液を得て、試験例1-1と同様にして沈殿物の有無、及び水浮きの有無を目視により観察し、またpH、導電率及び、粘度を測定した。結果を下記表5に示す。
【0049】
【0050】
試験例3-1及び3-2では、脱水ケーキは105℃で4時間乾燥させれば水分を十分に除去でき乾燥状態とすることができた。また、試験例3-1及び3-2における再分散液も、上記試験例1-1及び1-2における再分散液と同様に、製造工程においてキトサンを混合しているにもかかわらず、いずれも水浮きやスメクタイトの沈殿物が観察されず、高純度スメクタイトが均一分散した安定な再分散液であることが明らかとなった。また試験例3-1及び3-2における再分散液の導電率も、参考例と比較して低く抑えることができることが明らかとなった。
【0051】
一方で、キトサンを含有しない参考例3-1及び3-2における再分散液も、水浮きや沈殿物が見られなかったが、導電率が比較的高い結果となった。また、参考例3-2では脱水工程を経ずに乾燥しているため、105℃で4時間の乾燥では乾燥状態に到達せず、より厳しい乾燥条件を設定する必要があった。