(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029884
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】絶縁劣化検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240229BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20240229BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132328
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501009665
【氏名又は名称】日本ファシリティ・ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145207
【弁理士】
【氏名又は名称】酒本 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】千林 暁
(72)【発明者】
【氏名】福永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽人
【テーマコード(参考)】
2G014
2G015
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AA23
2G014AB10
2G015AA15
2G015BA02
2G015BA04
2G015CA01
2G015CA05
(57)【要約】
【課題】ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設けることなく、電気設備において汚損による絶縁劣化の予兆を検出できる絶縁劣化検出装置を提供する。
【解決手段】絶縁劣化検出装置100は、模擬電極102と、交流電圧供給部106と、模擬電極に流れる高周波電流を表す第1データを検出する高周波電流検出部104と、模擬電極に流れる漏れ電流を表す第2データを検出する漏れ電流検出部106と、電気設備の絶縁劣化の程度を判定する制御部110とを含み、制御部は、模擬電極に交流電圧が印加された状態において、高周波電流検出部及び漏れ電流検出部による検出を繰返すことにより、所定のロギング期間における放電頻度及び代表値を算出し、放電頻度及び代表値をそれぞれのしきい値と比較することにより、電気設備の絶縁劣化の程度を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気設備に配置される絶縁劣化検出装置であって、
2つの電極を有する模擬電極と、
2つの前記電極間に交流電圧を印加する電圧供給手段と、
前記模擬電極に流れる高周波電流を表す第1データを検出する高周波電流検出手段と、
前記模擬電極に流れる漏れ電流を表す第2データを検出する漏れ電流検出手段と、
前記第1データ及び前記第2データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記第1データ及び前記第2データを用いて、前記電気設備の絶縁劣化の程度を判定する判定手段とを含み、
前記判定手段は、
前記電圧供給手段により2つの前記電極間に前記交流電圧が印加された状態において、前記高周波電流検出手段により前記第1データの検出を繰返すことにより前記記憶手段に記憶される複数の前記第1データから、所定のロギング期間における放電頻度を算出し、
前記電圧供給手段により2つの前記電極間に前記交流電圧が印加された状態において、前記漏れ電流検出手段により前記第2データの検出を繰返すことにより前記記憶手段に記憶される複数の前記第2データから、前記ロギング期間の代表値を算出し、
前記放電頻度と第1しきい値との比較、及び、前記代表値と第2しきい値との比較により、前記電気設備の絶縁劣化の程度を判定することを特徴とする絶縁劣化検出装置。
【請求項2】
前記ロギング期間は、前記ロギング期間が等間隔に分割された複数の区間により構成され、
前記放電頻度は、前記ロギング期間を構成する前記区間の総数に対する、前記区間における前記第1データの最大値が第3しきい値より大きい区間の数の割合であり、
前記代表値は、前記区間における複数の前記第2データを代表する区間代表値の、前記ロギング期間における平均値であるロギング期間平均値と、前記ロギング期間における複数の前記区間代表値の最大値であるロギング期間最大値とを含み、
前記区間代表値は、前記区間における複数の前記第2データの最大値、又は、前記区間における複数の前記第2データの中から大きい順に選択された所定個数の前記第2データの平均値であり、
前記第2しきい値は、前記ロギング期間平均値と比較される第4しきい値と、前記ロギング期間最大値と比較される第5しきい値とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項3】
前記模擬電極よりも熱容量が大きく、前記模擬電極に接触した部材をさらに含み、
隣接する前記ロギング期間の間には、前記電圧供給手段により2つの前記電極間に前記交流電圧が印加されない期間である休止期間が設けられる、請求項1又は2に記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項4】
前記模擬電極に向かう空気の流れを形成する送風手段とをさらに含み、
前記高周波電流検出手段による前記第1データの検出、及び、前記漏れ電流検出手段による前記第2データの検出は、前記送風手段により前記模擬電極に向かう空気の流れが形成された状態で行われる、請求項3に記載の絶縁劣化検出装置。
【請求項5】
電気設備に配置される絶縁劣化検出装置であって、
2つの電極を有する模擬電極と、
2つの前記電極間に交流電圧を印加する電圧供給手段と、
前記模擬電極に流れる漏れ電流を表すデータを検出する漏れ電流検出手段と、
前記漏れ電流検出手段により検出された前記データを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記データを用いて、前記電気設備の絶縁劣化の程度を判定する判定手段とを含み、
前記判定手段は、前記電圧供給手段により2つの前記電極間に前記交流電圧が印加された状態において、前記漏れ電流検出手段により前記データの検出を繰返すことにより前記記憶手段に記憶される複数の前記データから、所定のロギング期間の代表値を算出し、
前記ロギング期間は、前記ロギング期間が等間隔に分割された複数の区間により構成され、
前記代表値は、前記区間における複数の前記データを代表する区間代表値の、前記ロギング期間における平均値であるロギング期間平均値と、前記ロギング期間における複数の前記区間代表値の最大値であるロギング期間最大値とを含み、
前記区間代表値は、前記区間における複数の前記データの最大値、又は、前記区間における複数の前記データの中から大きい順に選択された所定個数の前記データの平均値であり、
前記判定手段はさらに、前記ロギング期間平均値及び前記ロギング期間最大値をそれぞれα及びβとし、K及びLを所定の定数として、β-K・α-L>0であるか否かにより、前記電気設備の絶縁劣化の予兆の有無を判定することを特徴とする絶縁劣化検出装置。
【請求項6】
前記α及び前記βの各々は、ミリアンペア単位で表される電流値であり、
前記Kは、2以上4以下の実数であり、
前記Lは、0より大きく0.5以下の実数であることを特徴とする、請求項5に記載の絶縁劣化検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電盤及びパワーエレクトロニクス機器等の電気設備において汚損による絶縁劣化の予兆を検出するための絶縁劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気設備(配電盤及びパワーエレクトロニクス機器等)において、外部から塵埃が飛来して堆積すると、電気設備の動作不良、絶縁劣化のリスクが高まる。電気設備の正常動作を担保するためには、定期的に清掃を行う等の処置を実施する必要がある。
【0003】
塵埃の付着程度を評価する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、電子装置等からプリント配線板を抜き取って破壊検査をすることなく、使用環境の有害度に応じたプリント配線板の劣化を早期に検出し、システム等のダウンを未然に防止できる劣化検出装置が開示されている。この劣化検出装置は、劣化の検出対象である電子回路の一部に、電子回路を構成する導体とは独立に劣化検出用電極導体が形成されており、劣化検出用電極導体で測定した電気特性(絶縁抵抗、電気抵抗)の時間的変化から、電子回路を構成する導体の劣化を検出する。
【0004】
下記特許文献2には、より簡単に電気機器の部分放電を診断できる部分放電診断装置が開示されている。この部分放電診断装置は、電気機器の放電によって生じた電気信号を電気信号取得部(センサ、アンテナ、高周波CT等)により取得し、ノイズを除去して電気機器の部分放電を表すパルス波形を生成する。そして、部分放電診断装置は、生成したパルス波形の形状の特徴を表す特徴情報(極値点の個数、周波数成分等)に基づいて、部分放電の診断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-358429号公報
【特許文献2】特開2020-12767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1を参照して、電気設備は現場における使用期間の経過に伴い、(1)~(6)に示すように絶縁性能が低下し、絶縁劣化に至る。即ち、設置環境に存在する塵埃及び塩分等の汚損物が電気設備の絶縁物の表面に付着し、大気中の水分は、絶縁物の表面に付着した汚損物に吸着される。これにより、漏れ電流の発生、絶縁物の絶縁抵抗の低下、閃絡電圧の低下等、絶縁物の絶縁性能が低下する。漏れ電流によるジュール熱の発生によって絶縁物の乾燥が進み、これにより絶縁物の抵抗値が上昇し、ドライバンドが形成される。ドライバンドが形成されると、その部分でコロナ放電又は微小アーク放電等の微小発光放電(シンチレーション)が発生する。それにより、絶縁物の一部において炭化が進み、電流が流れ易い経路が形成され(炭化導電路形成)、トラッキングが発生する状態へと進み、絶縁劣化に至る。絶縁劣化に至るまでの期間は、電気設備が設置された場所の環境に依存する。したがって、絶縁劣化に至る前に、微小発光放電を含む絶縁劣化の予兆を検出できれば好ましい。
【0007】
しかし、特許文献1によっては、汚損による漏れ電流の増加を検出できるが、トラッキング劣化の直接的原因である微小発光放電を検出できず、絶縁劣化の監視精度が十分ではない問題がある。特許文献2では、電気設備から発生するノイズ及び部分放電(微小発光放電)信号の両方を測定するので、部分放電信号を分離する必要がある。しかし、パワーコンディショナー等のインバータを用いた電気設備においては、部分放電と類似したノイズが発生するため、測定信号から部分放電を分離することは容易ではなく、高価な機器が必要となる問題がある。
【0008】
したがって、本発明は、ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設けることなく、電気設備において汚損による絶縁劣化の予兆を検出できる絶縁劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面に係る絶縁劣化検出装置は、電気設備に配置される絶縁劣化検出装置であって、2つの電極を有する模擬電極と、2つの電極間に交流電圧を印加する電圧供給部と、模擬電極に流れる高周波電流を表す第1データを検出する高周波電流検出部と、模擬電極に流れる漏れ電流を表す第2データを検出する漏れ電流検出部と、第1データ及び第2データを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された第1データ及び第2データを用いて、電気設備の絶縁劣化の程度を判定する判定部とを含み、判定部は、電圧供給部により2つの電極間に交流電圧が印加された状態において、高周波電流検出部により第1データの検出を繰返すことにより記憶部に記憶される複数の第1データから、所定のロギング期間における放電頻度を算出し、電圧供給部により2つの電極間に交流電圧が印加された状態において、漏れ電流検出部により第2データの検出を繰返すことにより記憶部に記憶される複数の第2データから、ロギング期間の代表値を算出し、放電頻度と第1しきい値との比較、及び、代表値と第2しきい値との比較により、電気設備の絶縁劣化の程度を判定する。これにより、実際に設置された電気設備において、汚損による絶縁劣化の予兆を検出できる。漏れ電流の発生と、微小発光放電の両方による電気信号(電圧又は電流)を計測するので、絶縁劣化の監視精度が向上する。
【0010】
好ましくは、ロギング期間は、ロギング期間が等間隔に分割された複数の区間により構成され、放電頻度は、ロギング期間を構成する区間の総数に対する、区間における第1データの最大値が第3しきい値より大きい区間の数の割合であり、代表値は、区間における複数の第2データを代表する区間代表値の、ロギング期間における平均値であるロギング期間平均値と、ロギング期間における複数の区間代表値の最大値であるロギング期間最大値とを含み、区間代表値は、区間における複数の第2データの最大値、又は、区間における複数の第2データの中から大きい順に選択された所定個数の第2データの平均値であり、第2しきい値は、ロギング期間平均値と比較される第4しきい値と、ロギング期間最大値と比較される第5しきい値とを含む。これにより、絶縁劣化の予兆を精度よく検出できる。なお、ロギング期間平均値及びロギング期間最大値はそれぞれ、電圧に関するロギング期間電圧平均値及びロギング期間電圧最大値、又は、電流値に関するロギング期間電流平均値及びロギング期間電流最大値を意味する。
【0011】
より好ましくは、絶縁劣化検出装置は、模擬電極よりも熱容量が大きく、模擬電極に接触した部材をさらに含み、隣接するロギング期間の間には、電圧供給部により2つの電極間に交流電圧が印加されない期間である休止期間が設けられる。これにより、模擬電極への汚損を顕著にし、絶縁劣化を促進させることができ、絶縁劣化の予兆を、より精度よく検出できる。また、電気設備において、通常環境より結露が顕著であるような特定の場所における、進行が速い絶縁劣化の予兆を検出できる。
【0012】
さらに好ましくは、絶縁劣化検出装置は、模擬電極に向かう空気の流れを形成する送風部をさらに含み、高周波電流検出部による第1データの検出、及び、漏れ電流検出部による第2データの検出は、送風部により模擬電極に向かう空気の流れが形成された状態で行われる。これにより、電気設備において、通常環境より塵埃の堆積が顕著であるような特定の場所における、進行が速い絶縁劣化の予兆を検出できる。
【0013】
本発明の第2の局面に係る絶縁劣化検出装置は、電気設備に配置される絶縁劣化検出装置であって、2つの電極を有する模擬電極と、2つの電極間に交流電圧を印加する電圧供給部と、模擬電極に流れる漏れ電流を表すデータを検出する漏れ電流検出部と、漏れ電流検出部により検出されたデータを記憶する記憶部と、記憶部に記憶されたデータを用いて、電気設備の絶縁劣化の程度を判定する判定部とを含み、判定部は、電圧供給部により2つの電極間に交流電圧が印加された状態において、漏れ電流検出部によりデータの検出を繰返すことにより記憶部に記憶される複数のデータから、所定のロギング期間の代表値を算出し、ロギング期間は、ロギング期間が等間隔に分割された複数の区間により構成され、代表値は、区間における複数のデータを代表する区間代表値の、ロギング期間における平均値であるロギング期間平均値と、ロギング期間における複数の区間代表値の最大値であるロギング期間最大値とを含み、区間代表値は、区間における複数のデータの最大値、又は、区間における複数のデータの中から大きい順に選択された所定個数のデータの平均値であり、判定部はさらに、ロギング期間平均値及びロギング期間最大値をそれぞれα及びβとし、K及びLを所定の定数として、β-K・α-L>0であるか否かにより、電気設備の絶縁劣化の予兆の有無を判定する。これにより、微小発光放電等の放電を検出するための回路(瞬間的に発生する高周波電流の検出回路)等を設けることなく、電気設備において、汚損による絶縁劣化の予兆を検出できる。なお、ロギング期間平均値及びロギング期間最大値はそれぞれ、電圧に関するロギング期間電圧平均値及びロギング期間電圧最大値、又は、電流値に関するロギング期間電流平均値及びロギング期間電流最大値を意味する。
【0014】
好ましくは、α及びβの各々は、ミリアンペア単位で表される電流値であり、Kは、2以上4以下の実数であり、Lは、0より大きく0.5以下の実数である。これにより、絶縁劣化の予兆を精度よく検出できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設けることなく安価な装置として、電気設備において汚損による絶縁劣化の予兆を検出できる絶縁劣化検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、電気設備が絶縁劣化に至るまでの経過を時系列的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る絶縁劣化検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した絶縁劣化検出装置の具体的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3に示したピークホールド回路を示す回路図である。
【
図5】
図5は、模擬電極における高周波電流の発生に伴い観測される電圧の変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5に示したグラフが時間軸方向に伸長された状態を示すグラフである。
【
図7】
図7は、
図3に示した絶縁劣化検出装置において、時間経過に伴う模擬電極の絶縁性の低下と、それに対応する測定電圧の変化とを示す図である。
【
図8】
図8は、
図3に示した絶縁劣化検出装置により実行される絶縁劣化の予兆を検出する方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第1変形例に係る絶縁劣化検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した絶縁劣化検出装置の模擬電極が収容部に配置された状態を示す鉛直断面図である。
【
図11】
図11は、
図9に示した絶縁劣化検出装置において、時間経過に伴う測定電圧の変化を示す図である。
【
図12】
図12は、
図9に示した絶縁劣化検出装置により実行される絶縁劣化の予兆を検出する方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2変形例に係る絶縁劣化検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、
図14に示した絶縁劣化検出装置により実行される絶縁劣化の予兆を検出する方法を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、
図3に示した絶縁劣化検出装置による測定データを解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0018】
(絶縁劣化検出装置の構成)
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る絶縁劣化検出装置100は、模擬電極102、高周波電流検出部104、漏れ電流検出部106、制御部110及び交流電圧供給部108を含む。絶縁劣化検出装置100全体又はその一部は監視対象の電気設備内に配置される。少なくとも模擬電極102が、監視対象の電気設備内に配置されていればよく、模擬電極102以外のどの構成要素が監視対象の電気設備内に配置されるかは任意である。また、絶縁劣化検出装置100は、各部がその機能を実現するために必要となる電力を供給するための電源(図示せず)を含む。
【0019】
交流電圧供給部108は、模擬電極102に所定の交流電圧(例えば、交流200V)を供給する。電気設備において絶縁性能の低下が発生すると、電気設備内に配置された模擬電極102においても同様に絶縁性能が低下し、模擬電極102において漏洩電流及び部分放電(微小発光放電等)が発生する。模擬電極102は、漏洩電流及び部分放電に応じた電気信号を発生し、高周波電流検出部104及び漏れ電流検出部106に出力する。高周波電流検出部104は、模擬電極102により検出された電気信号のうち、高周波電流を検出し、その検出信号を制御部110に出力する。漏れ電流検出部106は、模擬電極102により検出された電気信号のうち、漏れ電流を検出し、その検出信号を制御部110に出力する。制御部110は、高周波電流検出部104及び漏れ電流検出部106から入力されるアナログ信号を、サンプリングしデジタルデータを生成し、時系列データとして記憶する。制御部110は、記憶した時系列データを、後述するように処理して絶縁劣化の予兆を検出する。
【0020】
図3を参照して、より具体的に説明する。模擬電極102は、基板112と、基板112の上に配置された2つの電極114及び116とを含む。基板112は、エポキシ等の樹脂で形成された基板である。電極114及び116の各々は、鋭角の複数の突起を有している。電極114及び116は、対応する突起が間隔Dで離隔して対向するように、基板112の表面に配置されている。間隔Dは、模擬電極102に約200Vの交流電圧が印加される場合、例えば5mmに設定できる。模擬電極102は、例えば、所定の厚さの銅箔が表面に形成された基板をエッチングすることにより形成される。
【0021】
高周波電流検出部104は、コンデンサC1、抵抗R1及びピークホールド回路118を含む。コンデンサC1及び抵抗R1は直列接続され、コンデンサC1の抵抗R1に接続されていない一端は電極114に接続されている。抵抗R1のコンデンサC1に接続されていない一端は、後述するトランス(変圧器)122に接続されている。ピークホールド回路118は、入力端子が抵抗R1の両端子に接続されている。コンデンサC1及び抵抗R1は、高周波電流を通過させるハイパスフィルタとして機能する。後述するように、模擬電極102に部分放電が発生すると、200kHz~数MHzの高周波電流が発生し、抵抗R1の両端子には同じ周波数の電圧が発生する。したがって、コンデンサC1及び抵抗R1は、ハイパスフィルタの遮断周波数が、例えば10~50kHzになるように設定される。例えば、コンデンサC1の容量を2.3nFに設定し、抵抗R1の抵抗値を2.3kΩに設定すれば、遮断周波数は約30kHzとなり、模擬電極102に発生した部分放電による高周波信号を通過させることができる好ましいハイパスフィルタを実現できる。
【0022】
ピークホールド回路118には、抵抗R1の両端子間の電圧が入力される。ピークホールド回路118は、入力信号(電圧V1)のピークを所定の時間保持する機能を有し、これにより入力信号を時間軸方向に伸長して出力できる。ピークホールド回路118の出力端子は、後述するCPU(Central Processing Unit)124に接続されており、ピークホールド回路118の出力信号はCPU124に入力される。
【0023】
図4にピークホールド回路118の一例を示す。
図4を参照して、ピークホールド回路118は、オペアンプ(演算増幅器)130、ダイオード132、入力端子134、出力端子136、コンデンサC2及び抵抗R4を含む。オペアンプ130は、コンデンサC2への充電を促進するためのインピーダンス変換機能を担う。入力端子134に電圧V1が入力されると(電圧V1は接地と入力端子134との間の電圧)、オペアンプ130からダイオード132を介して電流Iが流れてコンデンサC2は充電され、入力信号のピーク電圧に応じた電荷がコンデンサC2に蓄積される。充電されたコンデンサC2は、抵抗R4により放電する。即ち、コンデンサC2に蓄積された電荷は抵抗R4を介して接地に流れ、コンデンサC2及び抵抗R4により定まる時定数でコンデンサC2は放電し、充電されていない状態にリセットされる。
【0024】
上記したように、模擬電極102に部分放電が発生すると、高周波の電圧V1が発生し、ピークホールド回路118の入力端子134には
図5に示すようなパルス状の信号が入力される。コンデンサC1及び抵抗R1によるハイパスフィルタの遮断周波数から、ピークホールド回路118に入力される信号(電圧)のパルス幅は数μsecである。入力された信号により、上記したように、コンデンサC2は充電された後、所定の時定数で放電する。時定数を適切に設定することにより、
図5に示した半値幅が2~3μsecでありピーク値Vpのパルス電圧V1から、
図6に示すように、半値幅が0.1~1secであり、同じピーク値Vpを持つパルス電圧V1’を生成できる。このように、ピークホールド回路118は、入力信号の時間軸を伸長した信号を出力する。これにより、後述するように、制御部110は、1msec以上のサンプリング周波数でピークホールド回路118の出力信号をサンプリングして、デジタルデータを生成できる。なお、
図4の入力端子134に、時間的に接近した複数のパルス信号が入力された場合、1つのパルス信号として認識され、信号の大きさが最大のパルス信号が代表のパルス信号となり、
図6に示したような波形の信号が出力端子136から出力される。時間的に近接したパルス信号とは、信号間隔が、例えばコンデンサC2及び抵抗R4により定まる時定数よりも短い時間を意味する。
【0025】
漏れ電流検出部106は、抵抗R2及びR3を含む。抵抗R2及びR3は直列接続され、抵抗R2の抵抗R3に接続されていない一端は電極114に接続されている。抵抗R3の抵抗R2に接続されていない一端は、トランス122に接続されている。抵抗R3の両端子は、CPU124に接続されており、抵抗R3の両端子間の電圧は、CPU124に入力される。後述するように、絶縁性能が低下すると、電極114及び116間を介して漏れ電流が発生し、抵抗R2及びR3を流れる。抵抗R3の両端子間の電圧を観測することにより、漏れ電流の発生とその大きさを検出できる。抵抗R2及びR3の抵抗値はそれぞれ、例えば1kΩ及び10Ωである。漏れ電流の大きさは10mA程度であるので、抵抗R3の抵抗値が10Ωであれば、漏れ電流の発生を0.1V程度の電圧として検出できる。電極114及び116が短絡すると、過大な電流が流れる可能性がある。抵抗R2は、これを防止するための保護抵抗である。抵抗R2の抵抗値が1kΩであれば、電極114及び116間に交流200V(実効値)が印加された状態で短絡しても、抵抗R3に発生する電圧は約2.8Vであり、CPU124を損傷することはない。
【0026】
交流電圧供給部108は、電源部120及びトランス122を含む。電源部120は、例えば商用の交流電圧(100V)をトランス122に供給する。トランス122は、1次側巻線及び2次側巻線を有している。トランス122は、1次側巻線に供給された交流電圧を変換した交流電圧を、2次側巻線から出力する変圧器である。巻線比は、1次:2次=1:2である。トランス122の2次側巻線の一端は電極116に接続され、他端は、抵抗R1のコンデンサC1に接続されていない一端、及び、抵抗R3の抵抗R2に接続されていない一端に接続されている。トランス122は、1次側巻線の両端子間に供給される交流電圧100Vから、200Vの交流電圧を生成して、2次側巻線の両端子間の電圧として出力する。これにより、抵抗R2及びR3を介して、閉回路が形成され、電極114及び116間に200Vの交流電圧が印加される。したがって、模擬電極102の絶縁性能が低下するに伴い、漏れ電流及び部分放電が発生する。
【0027】
制御部110は、CPU124、メモリ126及び通信部128を含む。CPU124は、電源部120、メモリ126及び通信部128を制御する。CPU124は、電源部120を制御して、交流電圧を出力させる。CPU124は、A/D変換機能を有し、ピークホールド回路118から出力される電圧V1’と抵抗R3の両端子間の電圧V2とが入力され、それぞれのアナログ信号をサンプリングして時系列のデジタルデータを生成し、メモリ126に記憶させる。メモリ126は、例えば、書換可能な不揮発性の半導体メモリである。上記したように、例えば、サンプリング周波数は1ms以上である。CPU124は、後述するように、所定期間にわたってメモリ126に記憶されたデジタルデータを処理して、模擬電極102の絶縁劣化の予兆を検出する。CPU124は、メモリ126に記憶されたデジタルデータ及び処理結果等を、適宜通信部128を介して外部装置に送信する。通信部128は、Wi-Fi等の無線通信又は有線通信を行う。なお、メモリ126は、CPU124が所定の処理を実効するためのプログラムと、その処理の実行に必要なパラメータ等をも記憶している。
【0028】
(絶縁劣化の検出)
図7を参照して、
図3に示した絶縁劣化検出装置100を、電気設備の設置現場に配置して、電極114及び116間にトランス122から交流電圧200Vを印加した状態で、時間経過に伴い模擬電極102に絶縁劣化が発生する状況を観測した結果を説明する。
図7において上段に、模擬電極102における汚損進行及び放電発生状況を段階的に示す。各段階を(a)~(d)で表す。
図7の中断及び下段のそれぞれには、各段階における電圧V2及びV1を示す。
【0029】
図7の左端に示した(a)の段階は、無汚損又は汚損が軽微な状態である。このとき模擬電極102への交流電圧の印加による通電はなく、電圧V2及びV1は共にゼロであった。(b)の段階は、汚損が進行した状態である。模擬電極102において塵埃が堆積し、特に、イオンを含む汚損又はイオンの発生を伴う汚損が進行すると、周囲環境が高湿度になったときに漏れ電流I
Lが観測された。即ち、電圧V2に、印加される交流電圧(正弦波)に応じて変化する漏れ電流I
Lに対応する正弦波状の電圧波形140が確認された。一方、高周波電流は通電せず、電圧V1はゼロのままであった。
【0030】
(c)の段階は、さらに汚損が進行し、漏れ電流ILが増加した状態である。汚損進行と共に漏れ電流ILが増加すると、模擬電極102の電極114及び116の電界集中部(突起部)に微小発光放電142が確認された。この原因は、漏れ電流ILの増加と共に、特に電界が集中する突起部付近に電流が集中し、ジュール熱により局所的に乾燥しドライバンドが発生したためと考えられる。このとき、電圧V2の絶対値が増加すると共に波形が正弦波から歪み、概して三角波状の電圧波形144が発生する。高周波電流も通電し始め、電圧V1に複数のパルス状の電圧波形146が確認された。このような状態が持続すると、絶縁劣化に至り((d)の段階)、トラッキング148が発生し、模擬電極102に絶縁破壊が生じる。
【0031】
このように、
図3に示した絶縁劣化検出装置100により、模擬電極102における漏れ電流の推移(増加傾向の確認)、及び、高周波電流の頻度の推移(増加傾向の確認)から、模擬電極102が配置された電気設備の汚損及び絶縁劣化の進行状況の監視と診断とが可能になる。したがって、絶縁劣化検出装置100により、
図7の右端に示したような絶縁劣化に至る前に、即ち、漏れ電流I
Lが増加し、高周波電流が通電する状態((c)の段階)を、絶縁劣化の予兆として検出できる。
【0032】
(絶縁劣化検出装置の動作)
図8を参照して、
図3に示した絶縁劣化検出装置100により、絶縁劣化の予兆を検出する処理に関して説明する。
図8に示した処理は、絶縁劣化検出装置100の各部がその機能を実現するために必要となる電力を供給する電源(図示せず)がオンされて、CPU124が、予めメモリ126に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。電源がオンされることにより、電源部120から交流電圧(例えば100V)が供給され、トランス122から模擬電極102に交流電圧(例えば200V)が印加される。メモリ126は、4種類のしきい値Th
V1、Th
Av、Th
Max及びTh
Pと、所定時間のロギング期間と、ロギング期間を等間隔にn分割した期間(以下、区間という)と、所定のメッセージ(絶縁劣化の予兆を示す警告)とを記憶している。ここでは、ロギング期間を1時間(3600秒)とし、区間は、ロギング期間を100等分(n=100)して得られる36秒であるとする。
【0033】
CPU124は、メモリ126からロギング期間及び区間を読出し、初期設定を行う。その後、ステップ400において、CPU124は、1区間において、高周波電流による電圧V1と漏洩電流による電圧V2とを測定する。具体的には、模擬電極102にトランス122から電圧が印加された状態で、上記したように、CPU124は、ピークホールド回路118から入力される電圧V1’及び抵抗R3の電圧V2をそれぞれサンプリングして時系列のデジタルデータを生成し、メモリ126に記憶させる。その後、制御はステップ402に移行する。上記したように、ピークホールド回路118は入力信号である電圧V1を、大きさを変えずに時間軸方向に伸長し、入力信号と同じピーク値を持つ出力信号である電圧V1’を出力する。したがって、電圧V1’をサンプリングして得られるデータは、実質的に電圧V1を、より短いサンプリング時間でサンプリングして得られるデータと同じである。したがって、以下においては、電圧V1’をサンプリングして得られたデータを、電圧V1として説明する。
【0034】
上記したように、模擬電極102に発生する漏れ電流の周期は、印加される交流電圧と同様の周期で変化する。50Hz又は60Hzの交流電圧を印加するので、漏れ電流及びそれによる電圧V2は20msec又は16.7msecの周期で変化する。サンプリング時間が1.5msec以下であれば、電圧V2の1周期において10点以上のサンプリングが可能であり、取得された時系列のデジタルデータは電圧V2を十分に再現可能である。なお、電圧V1’は、ピークホールド回路118により電圧V1の時間軸が0.1~1秒(
図6参照)に伸長されているので、上記したようにサンプリング時間が1.5msec以下であれば、ピークVpの値を特定するのに十分な時系列データを取得できる。
【0035】
ステップ402において、CPU124は、メモリ126から、ステップ400で取得された電圧V2の1区間の時系列データを読出し、代表値(以下、区間代表値という)を特定する。CPU124は、特定した区間代表値をメモリ126に記憶する。その後、制御はステップ404に移行する。例えば、1区間における最大値を区間代表値とする。1区間における時系列データを、大きい順に並べた場合に、上位m個(mは2以上の正の整数)のデータの平均値を区間代表値としてもよい。
【0036】
ステップ404において、CPU124は、メモリ126から、ステップ400で取得された電圧V1の1区間の時系列データを読出し、その中の最大値を特定し、放電発生の有無を判定する。具体的には、CPU124は、メモリ126からしきい値ThV1を読出し、特定した最大値がしきい値ThV1以上であるか否かを判定する。最大値がしきい値ThV1以上であれば、放電の発生の有無を表す変数Sに“1”を設定する。最大値がしきい値ThV1未満であれば、変数Sに“0”を設定する。その後、制御はステップ406に移行する。
【0037】
ステップ406において、CPU124は、ロギング期間が経過したか否かを判定する。経過したと判定された場合、制御はステップ408に移行する。そうでなければ、制御はステップ400に戻り、ステップ400~404が繰返される。
【0038】
ステップ408において、CPU124は、最新の1周期、即ちロギング期間に含まれる各区間の代表値である区間代表値から、ロギング期間の代表値を特定する。具体的には、CPU124は、メモリ126から、ロギング期間に対応する複数の区間代表値を読出し、それらの平均値(以下、ロギング期間電圧平均値ともいう)VAvを算出し、最大値(以下、ロギング期間電圧最大値ともいう)VMaxを特定し、ロギング期間の代表値とする。ロギング期間の代表値(ロギング期間電圧平均値VAv及びロギング期間電圧最大値VMax)は、メモリ126に記憶される。その後、制御はステップ410に移行する。
【0039】
ステップ410において、CPU124は、最新の1周期、即ちロギング期間における放電頻度Pを算出する。具体的には、CPU124は、ステップ404がロギング期間の間繰返されることにより決定された各区間の変数Sをメモリ126から読出し、その合計値を算出して放電回数Nとし、放電回数Nをロギング期間の分割数nで除して放電頻度P(=N/n)とする。即ち、放電頻度Pは、1つのロギング期間に含まれる全区間(n個)に対する放電が発生した区間の割合を表す。N/nを100倍して、放電頻度Pを%単位で表してもよい。その後、制御はステップ412に移行する。1つのロギング期間を構成する各区間において、しきい値ThV1以上の電圧が常に発生していれば、そのロギング期間における変数Sの合計値は、ロギング期間の分割数nに等しい。一方、1つのロギング期間において、電圧V1が常にしきい値ThV1未満であれば、そのロギング期間における変数Sの合計値は0である。
【0040】
ステップ412において、CPU124は、メモリ126からしきい値ThAvを読出し、ステップ408で算出されたロギング期間電圧平均値VAvがしきい値ThAv以上であるか否かを判定する。VAv≧ThAvと判定された場合、制御はステップ414に移行する。そうでなければ、制御はステップ420に移行する。
【0041】
ステップ414において、CPU124は、メモリ126からしきい値ThMaxを読出し、ステップ408で算出されたロギング期間電圧最大値VMaxがしきい値ThMax以上であるか否かを判定する。VMax≧ThMaxと判定された場合、制御はステップ416に移行する。そうでなければ、制御はステップ420に移行する。
【0042】
ステップ416において、CPU124は、メモリ126からしきい値ThPを読出し、ステップ410で算出された放電頻度Pがしきい値ThP以上であるか否かを判定する。P≧ThPと判定された場合、制御はステップ418に移行する。そうでなければ、制御はステップ420に移行する。
【0043】
ステップ418において、CPU124は、絶縁劣化の予兆が検出されたことを提示する。具体的には、CPU124は、メモリ126からメッセージを読出し、当該メッセージを提示する。メッセージは、例えば、絶縁劣化の予兆が検出されことを警告するメッセージである。絶縁劣化検出装置100が、液晶パネル等の表示装置を備えていれば、表示装置に警告メッセージを提示する。
【0044】
ステップ420において、CPU124は、終了の指示を受けたか否かを判定する。終了の指示を受けた場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御はステップ400に戻り、上記の処理を繰返す。終了の指示は、例えば、絶縁劣化検出装置100の電源(図示せず)がオフされたことにより成される。
【0045】
以上により、
図7に示した(c)の段階における電圧V1及びV2の状態を検出し、絶縁劣化の予兆を警告できる。漏れ電流の発生及び微小発光放電の発生の両方を検出して、絶縁劣化の予兆の有無を判定するので、監視精度が向上する。ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設ける必要がないので、従来よりも安価な絶縁劣化検出装置を実現できる。
【0046】
電圧V1及びV2は、抵抗R1及びR3の抵抗値に依存するので、しきい値ThAv、ThMax及びThPは、抵抗R1及びR3の抵抗値を考慮して適宜設定すればよい。例えば、R3の抵抗値が10Ωの場合、電圧V2に関して、しきい値ThAv=0.005V、しきい値ThMax=0.01Vとすることができる。例えば、R1の抵抗値が2.3kΩの場合、電圧V1に関して、しきい値ThV1=0.115V、0.23V、又は0.46V、しきい値ThP=0.1(10%)とすることができる。
【0047】
上記では、ロギング期間電圧平均値V
Av、ロギング期間電圧最大値V
Max及び放電頻度Pの全てが対応するしきい値以上である場合に、絶縁劣化の予兆を提示する場合を説明したが、これに限定されない。ロギング期間電圧平均値V
Av、ロギング期間電圧最大値V
Max及び放電頻度Pの少なくとも1つが対応するしきい値以上になった場合に、絶縁劣化の予兆を提示してもよい。例えば、V
Av≧Th
Av、又は、V
Max≧Th
Maxであれば、微小発光放電は発生していないが、発生し易い状態にある(
図7の(b)の段階)。したがって、この状態(V
Av≧Th
Av、又は、V
Max≧Th
Max)を絶縁劣化の予兆として、警告メッセージを提示してもよい。
【0048】
上記では、放電の有無の判定に関して、1つのしきい値Th
V1を用いる場合を説明したが、これに限定されない。複数のしきい値Th
V1を用いてもよい。2~3種類のしきい値Th
V1を用いることにより、高周波電流の波高値と、発生頻度の両方をモニタリングできる。例えば、3種類のしきい値Th
V11=0.115V、Th
V12=0.23V、及び、Th
V13=0.46Vを用いてもよい。その場合、3種類のしきい値Th
V11~Th
V13により3つの放電頻度P1、P2及びP3が算出されるので、
図8のステップ416の判定で使用されるしきい値には、3種類のしきい値Th
V11~Th
V13に対応するしきい値Th
P1=0.1(10%)、Th
P2=0.1(10%)、及び、Th
P3=0.1(10%)を用いればよい。
【0049】
例えば、V
Av≧Th
Av、及び、V
Max≧Th
Maxであり、且つ、P1≧Th
P1、P2≧Th
P2及びP3≧Th
P3のいずれかである場合、微小発光放電は発生している状態である(
図7の(c)の段階)。したがって、この状態を絶縁劣化の予兆として、警告メッセージを提示してもよい。通常、P1≧Th
P1となった後、P2≧Th
P2となる。したがって、P1~P3のうち、対応するしきい値以上となるものが増加するほど、微小発光放電による絶縁性能の低下が進行していると判断できる。
【0050】
上記では、模擬電極102が、基板表面の銅をエッチングして作製され、電極114及び116が銅により形成される場合を説明したが、これに限定されない。電極114及び116は、金属等の導電性の部材により形成されていればよく、模擬電極102は任意の製造方法により作製され得る。電極114及び116の形状は、
図3に示したものに限定されず、電極の間隔Dは5mmに限定されない。例えば、印加する交流電圧等に応じて、適切な形状及び電極間隔を採用できる。
【0051】
絶縁劣化の予兆が検出されたときに、管理者等に提示できればよく、提示方法は所定のメッセージを表示する方法に限定されない。例えば、絶縁劣化検出装置100にランプ等の点灯装置を装備しておき、ステップ418において、点灯装置を点灯させてもよい。また、絶縁劣化検出装置100にスピーカ等の音響装置を装備していれば、ステップ418において、音響装置により警告音を出力してもよい。
【0052】
ロギング期間は、上記の値に限定されない。ロギング期間は、電流推移の長期トレンドを確認できる値であればよく、10分~3時間の範囲内の値であればよい。
【0053】
上記では、交流電圧供給部108がトランス122を含み、100Vの交流電圧を200Vの交流電圧に増大して、模擬電極102に印加する場合を説明したが、これに限定されない。交流電圧供給部108は、模擬電極102の絶縁性の低下により部分放電が生じる程度の電圧を模擬電極102に印加できればよく、トランス122を含まない構成であってもよい。
【0054】
上記では、ピークホールド回路118により電圧V1の時間軸を伸長した電圧V1’を生成して、CPU124に入力する場合を説明したが、これに限定されない。CPU124のA/D変換機能のサンプリング時間としてより短い時間(例えば、0.1μsec以下)を採用すれば、ピークホールド回路118を設けなくてもよい。例えば、電圧V1を、インピーダンスの調整のみを行ってCPU124に入力してもよい。
【0055】
ステップ408が繰返されることにより特定されたロギング期間電圧平均値及びロギング期間電圧最大値を、漏れ電流の推移として記録することが望ましい。また、ステップ410が繰返されることにより特定された放電回数を、高周波電流発生頻度の推移として記録することが望ましい。これにより、警報出力(絶縁劣化の予兆の提示)がなければ、現在まで絶縁劣化に至っていないことのエビデンスとなる。また、警告出力の場合には、警報出力に至るまでの記録を確認できる。即ち、絶縁劣化は徐々に進行するので、警報出力以前に、しきい値以下の信号が警報出力前に発生していることが確認できる。警報出力の際に、それ以前のデータを確認することにより、警報出力の妥当性を判断できる。即ち、何らかのノイズによる間違った警報出力か、真に絶縁性低下の進行による警報出力かを判別できる。
【0056】
上記では、高周波電流を表す電圧V1と、漏れ電流を表す電圧V2とを測定して、絶縁劣化の予兆を検出する場合を説明したが、これに限定されない。
図8のステップ400~404において、高周波電流及び漏れ電流自体を測定して絶縁劣化の予兆を検出してもよい。また、電圧V1及びV2のそれぞれの電圧値v1及びv2から、抵抗R1及びR3のそれぞれの抵抗値r1及びr3を用いて換算された電流値(v1/r1、v2/r3)を用いて、上記と同様に絶縁劣化の予兆を検出してもよい。
【0057】
高周波電流及び漏れ電流自体を測定する場合には、
図8のステップ408において、測定された電圧の代表値(ロギング期間電圧平均値V
Av及びロギング期間電圧最大値V
Max)と同様に、測定された電流の代表値(ロギング期間電流平均値I
Av及びロギング期間電流最大値I
Max)を特定すればよい。したがって、ロギング期間電圧平均値V
Av及びロギング期間電流平均値I
Avをまとめてロギング期間平均値αという。また、ロギング期間電圧最大値V
Max及びロギング期間電流最大値I
Maxをまとめてロギング期間最大値βという。電流値に応じたしきい値は適宜設定すればよい。例えば、抵抗R1及びR3の抵抗値を用いて、電圧を用いる場合のしきい値から電流を用いる場合のしきい値を算出できる。
【0058】
(第1変形例)
上記では、模擬電極102をそのまま電気設備が設置された環境に配置する場合を説明した。しかし、電気設備における絶縁劣化の進行速度は一定ではない。例えば、冷却ファン等の通風機能を有する電気設備においては、通風により、通常環境より塵埃の堆積及び結露が顕著であるような特定の場所が発生し、そのような場所においては、絶縁劣化の進行が速い。したがった、上記したように模擬電極により絶縁劣化の予兆を検出する前に、絶縁劣化してしまう可能性がある。これに対応するために、第1変形例では、模擬電極への汚損を顕著にし、絶縁性の低下を促進させる。
【0059】
(絶縁劣化検出装置の構成)
図9を参照して、第1変形例に係る絶縁劣化検出装置200は、
図2及び
図3に示した絶縁劣化検出装置100と同様に、模擬電極102、高周波電流検出部104、漏れ電流検出部106、制御部110及び交流電圧供給部108を含む。絶縁劣化検出装置200は、電気設備に配置される。これらは、絶縁劣化検出装置100に関して上記したのと同じ機能を有する。絶縁劣化検出装置200はさらに、模擬電極102を収容する収容部210と、収容部210に収容される支持部材212及び送風器214と、リレー220とを含む。以下においては、主として、絶縁劣化検出装置100と異なる点に関して説明する。
【0060】
収容部210は、例えば筐体である。支持部材212は、模擬電極102よりも熱容量が大きい部材であり、模擬電極102を支持する。支持部材212は、例えば、金属製の架台である。金属は、ステンレス又は真鍮等であれば比重が大きく、錆び難いので好ましい。支持部材212は模擬電極102において結露を促進するためのものであり、そのためには、支持部材212の重量は500g以上であればよい。装置の重量増加を考慮すると、500g以上2000g以下であることが好ましい。
【0061】
図10を参照して、模擬電極102は、支持部材212の上面に、基板112が接触し、電極114及び116が支持部材212から離隔するように配置される。支持部材212は、模擬電極102における結露を促進するためのものであるので、模擬電極102は支持部材212に、例えばネジ等により固定される。基板112と支持部材212との間の熱抵抗を低減するためには、基板112と支持部材212との間に放熱グリスを塗布する、又は、接着剤等により固定することが好ましい。
【0062】
送風器214は、例えば回転翼を有するファンである。送風器214により、
図10において破線の矢印で示すように、収容部210の上部に設けられた開口216から外気が収容部210内に流入し、収容部210の下部に設けられた開口218から排出されるように空気の流れが形成される。開口216における風速は、例えば0.1~1m/sであることが好ましい。0.1m/s以下では、模擬電極102に塵埃堆積を加速する効果が低減し、逆に1m/s以上では気流により模擬電極102への塵埃堆積が阻害される可能性がある。送風器214の選択及び通風路の設計により、風速を調整できる。
【0063】
リレー220は、CPU124の制御を受けて、電源部120とトランス122の2次巻線とにより形成される回路のオン(短絡)及びオフ(開放)を切り替える機械式又は電子式のリレーである。リレー220の初期状態はオフである。リレー220により、電源部120及びトランス122から模擬電極102への電圧印加を間欠的に行うことができる。
【0064】
(絶縁劣化の促進)
図9に示した絶縁劣化検出装置200を、電気設備の設置現場に配置し、送風器214により送風した状態で、電極114及び116間にトランス122から交流電圧200Vを間欠的に印加し、時間経過に伴い模擬電極102に絶縁劣化が発生する状況を観測した。送風器214により模擬電極102に外気を導入することにより、電気設備の通常環境よりも模擬電極102への塵埃堆積が顕著となり、外気を導入しない環境よりも漏れ電流及び高周波電流の通電が顕著となった。
【0065】
熱容量が比較的大きい支持部材212の上に模擬電極102を設置したことにより、特に環境温度の上昇局面で、支持部材212の熱容量により模擬電極102の温度上昇に遅れが生じた。それにより、模擬電極102の温度が環境温度より低くなるために模擬電極102表面の相対湿度が上昇し、条件によっては結露した。これにより、漏れ電流及び高周波電流の通電が顕著となった。
【0066】
模擬電極102への交流電圧の印加を間欠的に行うと、交流電圧の印加を一旦休止した後に再開した直後において、漏れ電流及び高周波電流の通電が顕著になることを確認した。交流電圧の印加を休止する期間を定期的に設けることにより、漏れ電流及び高周波電流の検出感度を実質的に高くできた。
【0067】
図11は、模擬電極102の電極114及び116における汚損が進行した状態において、模擬電極102への電圧印加を一旦休止した後、再開したときの電圧V2及びV1(
図4参照)の波形を、(i)~(iii)により時系列順に示す。
【0068】
(i)は、電圧印加を再開した直後の状態を示す。一時的に高い漏れ電流が通電し、対応する電圧V2には、大きい電圧波形150が発生する。この段階では電圧V1は0であり、高周波電流は発生していない。その後、(ii)に示すように、漏れ電流の減少過程で、電圧V2は電圧波形152のように三角波状の波形となり、高周波電流が顕著に発生し、電圧V1にはパルス状の電圧波形156が検出される。さらにその後、漏れ電流及び高周波電流は定常状態まで低下し、(iii)に示すように、電圧V2は電圧波形154のように減少し、電圧V1に発生するパルス状の電圧波形158の頻度及び強度は減少する。このように、(i)及び(ii)の過程において、漏れ電流及び高周波電流の発生が顕著になることが分かる。したがって、模擬電極102に電圧を間欠的に印加することにより、絶縁劣化の予兆の検出感度を高くできる。
【0069】
(絶縁劣化検出装置の動作)
図12を参照して、
図9に示した絶縁劣化検出装置200により、絶縁劣化の予兆を検出する処理に関して説明する。
図12に示した処理は、絶縁劣化検出装置200の各部がその機能を実現するために必要となる電力を供給する電源(図示せず)がオンされて、CPU124が、予めメモリ126に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。絶縁劣化検出装置100とは異なり、絶縁劣化検出装置200においては、リレー220の初期状態はオフであり、電源がオンされても、電源部120からトランス122に交流電圧(例えば100V)は供給されず、模擬電極102には交流電圧(例えば200V)は印加されない。また、電源がオンされると、送風器214による送風が開始される。
【0070】
図12に示したフローチャートは、
図8に示したフローチャートにおいて、ステップ430、432及び434が追加されたものである。
図12において、
図8と同じ符号が付されたステップにおいては、
図8と同じ処理が実行される。以下においては、主として、
図8と異なる点に関して説明する。
【0071】
絶縁劣化検出装置200のメモリ126には、絶縁劣化検出装置100と同様に、4種類のしきい値ThV1、ThAv、ThMax及びThPと、所定時間のロギング期間と、区間と、警告メッセージとが記憶されている。さらに、絶縁劣化検出装置200のメモリ126には、模擬電極102への電圧印加を休止する休止期間が記憶されている。例えば、測定の1周期を1時間(3600秒)とする場合、ロギング期間を55分(3300秒)とし、休止期間を5分(300秒)に設定できる。区間は、ロギング期間(3300秒)を100等分(n=100)して得られる33秒に設定できる。各ロギング期間において、模擬電極102に交流電圧が印加されて、電圧V1及びV2の測定が実行される。隣接するロギング期間の間に位置する休止期間においては、模擬電極102に交流電圧は印加されず、電圧V1及びV2の測定は実行されない。
【0072】
CPU124は、メモリ126からロギング期間、区間及び休止期間を読出し、初期設定を行う。その後、ステップ430において、CPU124は、リレー220をオンにする。これにより、電源部120から交流電圧(例えば100V)が供給され、トランス122から模擬電極102に交流電圧(例えば200V)が印加される。その後、制御はステップ400に移行し、絶縁劣化検出装置100と同様に(
図8参照)、ロギング期間においてステップ400~404が繰返され、電圧V1及びV2の時系列データがメモリ126に記憶される。
【0073】
ロギング期間が経過すると、ステップ432において、CPU124は、リレー220をオフにする。これにより、トランス122から模擬電極102への交流電圧の印加が停止される。
【0074】
その後、制御はステップ408に移行し、絶縁劣化検出装置100と同様に(
図8参照)、ステップ408~420が実行される。V
Av≧Th
Av、V
Max≧Th
Max、及び、P≧Th
Pであれば(ステップ412~414のいずれにおいてもYes)、ステップ418により、絶縁劣化の予兆を知らせる警告メッセージが提示される。そうでなければ、ステップ420により、終了するか否かが判定され、終了しない場合、制御はステップ434に移行する。なお、ステップ420により終了すると判定された場合、送風器214への電力供給が停止し、送風は停止する。
【0075】
ステップ434において、CPU124は、電圧V1及びV2の測定を再開するか否かを判定する。具体的には、CPU124は、リレー220をオフにしてから休止期間が経過したか否かを判定する。休止期間が経過していれば、測定を再開するために、制御はステップ430に戻り、CPU124はリレー220をオンする。休止期間が経過していなければ、ステップ434が繰返される。
【0076】
以上により、
図11に示した(ii)の段階における電圧V1及びV2の状態を検出し、絶縁劣化の予兆を警告できる。このとき、模擬電極102への電圧印加を休止した後(休止期間の経過後)、電圧印加を再開すると、大きい電圧V1及びV2を検出できるので、絶縁劣化の検出精度が向上する。絶縁劣化検出装置200により、絶縁劣化検出装置100と同様に、漏れ電流の発生及び微小発光放電の発生の両方を検出して、絶縁劣化の予兆の有無を判定するので、監視精度が向上する。また、ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設ける必要がないので、従来よりも安価な絶縁劣化検出装置を実現できる。
【0077】
上記では、リレー220をオンした後、直ちに電圧V1及びV2を測定する場合を説明したが、リレーの構造によっては、リレー220をオンすると、リレー接点のバウンド等によりノイズが発生し、電圧V1及びV2の測定結果に影響を与える可能性がある。したがって、リレー220をオンした後、電圧V1及びV2の測定を開始する前に所定の待機時間を設けることが好ましい。待機時間は、例えば3~10秒であればよい。
【0078】
上記では、模擬電極102が支持部材212の上に配置される場合を説明したが、これに限定されない。模擬電極102は、模擬電極102よりも熱容量が大きい部材に接触されていればよい。例えば、模擬電極102は、所定部材の側面等に固定されていてもよい。
【0079】
また、上記では、送風器と模擬電極102よりも熱容量の大きい部材とを設けることにより模擬電極の絶縁劣化を進行させる場合を説明したが、これに限定されない。それらの少なくとも一方を設けることにより、模擬電極の絶縁劣化を進行させることができる。
【0080】
(第2変形例)
上記では、高周波電流の発生を検出するために電圧V1を測定する場合を説明したが、これに限定されない。第2変形例においては、電圧V1を測定することなく、絶縁劣化の予兆を検出する。
【0081】
(絶縁劣化検出装置の構成)
図13を参照して、第2変形例に係る絶縁劣化検出装置300は、
図2に示した絶縁劣化検出装置100と同様に、模擬電極102、漏れ電流検出部106及び交流電圧供給部108を含む。絶縁劣化検出装置300は、絶縁劣化検出装置100と異なり高周波電流検出部104を含まない。したがって、絶縁劣化検出装置300において、絶縁劣化検出装置100の制御部110に対応する構成要素は制御部302として示されている。絶縁劣化検出装置300は、電気設備に配置される。
【0082】
図13の具体的な構成を
図14に示す。
図14は、
図3に示した絶縁劣化検出装置100の構成から高周波電流検出部104(ピークホールド回路118、コンデンサC1及び抵抗R1)を削除し、CPU124をCPU304で代替した構成を示す。
図14に示した構成において、
図3(絶縁劣化検出装置100)と同じ符号を付した要素は、絶縁劣化検出装置100と同じ機能を有する。したがって、重複説明を繰返さない。制御部302は、入力される抵抗R3の両端子の電圧V2(アナログ信号)をサンプリングして時系列のデジタルデータを生成し、メモリ126に記憶させる。メモリ126は、CPU304が所定の処理を実効するためのプログラムと、その処理の実行に必要なパラメータ等をも記憶している。
【0083】
(絶縁劣化検出装置の動作)
図15を参照して、
図14に示した絶縁劣化検出装置300により、絶縁劣化の予兆を検出する処理に関して説明する。
図15に示した処理は、絶縁劣化検出装置300の各部がその機能を実現するために必要となる電力を供給する電源(図示せず)がオンされて、制御部302が、予めメモリ126に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。
【0084】
図15に示したフローチャートは、
図8に示したフローチャートにおいて、ステップ404を削除し、ステップ400及び410をそれぞれステップ450及び452で代替し、ステップ412~416をステップ454で代替したものである。
図15において、
図8と同じ符号が付されたステップにおいては、
図8と同じ処理が実行される。以下においては、主として、
図8と異なる点に関して説明する。
【0085】
絶縁劣化検出装置300のメモリ126には、絶縁劣化検出装置100と同様に、所定時間のロギング期間と、区間と、警告メッセージとが記憶されている。ここでは、ロギング期間を1時間(3600秒)とし、区間は、ロギング期間を100等分(n=100)して得られる36秒であるとする。なお、絶縁劣化検出装置300のメモリ126には、絶縁劣化検出装置100とは異なり、4種類のしきい値ThV1、ThAv、ThMax及びThPは記憶されていない。
【0086】
CPU304は、メモリ126からロギング期間及び区間を読出し、初期設定を行う。その後、ステップ450において、CPU304は、1区間において、漏洩電流による電圧V2を測定する。具体的には、模擬電極102にトランス122から電圧が印加された状態で、上記したように、CPU304は、抵抗R3の電圧V2をサンプリングして時系列のデジタルデータを生成し、メモリ126に記憶させる。その後、制御はステップ402に移行する。
【0087】
ステップ402において、CPU304は、メモリ126から、ステップ450で取得された電圧V2の1区間の時系列データを読出し、区間代表値を特定する。続いて、ステップ406において、CPU304は、ロギング期間が経過したか否かを判定し、経過したと判定されるまで、制御はステップ450に戻り、ステップ450及び402が繰返される。ロギング期間が経過したと判定されると、ステップ408において、CPU304は、最新の1周期、即ちロギング期間に含まれる各区間代表値から、ロギング期間の代表値を特定する。具体的には、CPU304は、ロギング期間の代表値として、ロギング期間電圧平均値VAvを算出し、ロギング期間電圧最大値VMaxを特定する。
【0088】
ステップ452において、CPU304は、ステップ408により特定されたロギング期間電圧平均値VAv及びロギング期間電圧最大値VMaxを用いて、それぞれに対応するロギング期間電流平均値IAv及びロギング期間電流最大値IMaxを算出する。具体的には、CPU304は、抵抗R3の抵抗値r3を用いて、ロギング期間電流平均値IAv及びロギング期間電流最大値IMaxを、IAv=VAv/r3、IMax=VMax/r3により算出する。
【0089】
ステップ454において、CPU304は、ステップ452により算出されたロギング期間電流平均値IAv及びロギング期間電流最大値IMaxを用いて算出した評価値、即ちIMax-KI・IAv-LIが、0より大きいか否かを判定する。演算記号「・」は乗算を表す。ロギング期間電流平均値IAv及びロギング期間電流最大値IMaxの各々は、ミリアンペア単位で表される値である。KI及びLIは所定の定数であり、例えば、KI=3、LI=0.3である。
【0090】
IMax-KI・IAv-LI>0と判定された場合、制御はステップ418に移行する。そうでなければ、制御はステップ420に移行する。ステップ418において、CPU304は、絶縁劣化の予兆が検出されたことを提示する。ステップ420において、CPU304は、終了の指示を受けたか否かを判定し、終了の指示を受けたと判定されるまで、上記の処理を繰返す。
【0091】
以上により、絶縁劣化検出装置300は、実施例として後述するように、
図3の絶縁劣化検出装置100と同様に、
図7に示した(c)の状態を検出でき、絶縁劣化の予兆として警告できる。絶縁劣化検出装置300においては、絶縁劣化検出装置100と異なり、電圧V1を測定せずに電圧V2のみを測定するが、漏れ電流及び微小発光放電の両方を考慮した評価値(I
Max-K
I・I
Av-L
I)を用いて判定することにより、絶縁劣化検出装置100と同等の精度で絶縁劣化の予兆の有無を判定できる。絶縁劣化検出装置300は電圧V1を測定する構成を含まないので、絶縁劣化検出装置100よりも構成を簡素化でき、安価な絶縁劣化検出装置を実現できる。また、ノイズと部分放電による信号とを分離するための機器を設ける必要がないので、従来よりも安価な絶縁劣化検出装置を実現できる。
【0092】
上記では、KI=3、LI=0.3としたが、これに限定されない。KIは、2以上4以下の実数であり、LIは、0より大きく0.5以下の実数であればよい。KI及びLIは、模擬電極の形状、及び、模擬電極に印加する交流電圧の大きさに依存する。したがって、使用する模擬電極と同じ試験用の模擬電極を用いて予め試験を実施し、KI及びLIの適切な値を決定すればよい。
【0093】
上記では、電圧V2の代表値(ロギング期間電圧平均値VAv、ロギング期間電圧最大値VMax)から、対応する電流値(ロギング期間電流平均値IAv、ロギング期間電流最大値IMax)を算出する場合を説明したが、これに限定されない。ステップ454による判定において、電圧V2の代表値(ロギング期間電圧平均値VAv、ロギング期間電圧最大値VMax)を用いてもよい。その場合、ステップ454においては、VMax-KV・VAv-LV>0であるか否かを判定すればよい。KV及びLVは所定の定数であり、例えば、KV=KI/r3、LV=LI/r3に設定すればよい。r3は抵抗R3の抵抗値であり、KIは、2以上4以下の実数であり、LIは、0より大きく0.5以下の実数である。即ち、電圧値を用いても電流値を用いてもよく、上記したロギング期間平均値α及びロギング期間最大値βを用い、KI及びKVをKで表し、LI及びLVをLで表すと、β-K・α-L>0であるか否かを判定すればよい。
【実施例0094】
以下に、実験結果を示し、本発明の有効性を示す。
図3に示した構成の絶縁劣化検出装置を、電気設備として屋外に設置されたスイッチギアに配置して測定を行った。漏れ電流及び微小発光放電の発生を促進させるために、模擬電極を予め汚損させて(等価塩分付着量:0.04mg/cm
2)配置した。
図16に、6月25日0時から7月3日24時までの9日間実施した結果を示す。
【0095】
図16において、(a)~(e)のグラフの横軸は測定日を表す。例えば、6/25~6/26は、6月25日午前0時~6月26日午前0時を表す。(a)のグラフの縦軸は、絶縁劣化検出装置とは別の湿度測定機器を用いて測定した相対湿度(%RH)を表す。(b)のグラフの縦軸は、漏れ電流の平均値(mA)を表し、具体的には、測定した電圧V2から求めたロギング期間電圧平均値V
Avから算出したロギング期間電流平均値I
Avである。ロギング期間は、10分(=600秒)とし、区間は、ロギング期間を100等分した6秒とした。(c)のグラフの縦軸は、漏れ電流の最大値(mA)を表し、具体的には、測定した電圧V2から求めたロギング期間電圧最大値V
Maxから算出したロギング期間電流最大値I
Maxである。
【0096】
(d)のグラフの縦軸は差分値(mA)を表し、具体的には、第2変形例に関して上記した評価値である。即ち、(b)のロギング期間電流平均値I
Av及び(c)のロギング期間電流最大値I
Maxから、I
Max-K
I・I
Av-L
Iにより算出した値である。K
I=3、L
I=0.3とした。なお、I
Max-K
I・I
Av-L
I<0となり得るが、そのような場合は(d)のグラフには示されていない。(d)のグラフは、第2変形例による判定結果(
図15のステップ454参照)を表している。
【0097】
(e)のグラフの縦軸は、高周波電流の発生確率(%)を表し、具体的には、
図8のステップ410に関して説明したロギング期間における放電頻度Pである。即ち、1つのロギング期間に含まれる全区間(n区間)に対する放電が発生した区間(p区間)の割合を表し、p/n×100で算出された値である。放電の有無を判定するためのしきい値Th
V1には、0.115Vを用いた。
【0098】
(a)のグラフと(b)及び(c)のグラフとを比較すると、相対湿度が80%RH以上となると、漏れ電流が流れ始めることが確認できる。また、漏れ電流は相対湿度が増加すると増加する傾向がある。次に、第2変形例による判定結果を表す(d)のグラフと、(e)のグラフとを比較すると、値が大きくなるタイミングが概ね一致していることが分かる。具体的には、7月1日の午前中及び7月3日の午前中において、(d)及び(e)のグラフは共に明らかに増大しており、その他の期間においては、(d)及び(e)のグラフは共に小さい値になっている。このことから、第2変形例(
図15のステップ454)による判定処理により、模擬電極における高周波電流の発生、即ち放電頻度の増大を検出でき、絶縁劣化の予兆を検出できることが分かる。
【0099】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。