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特開2024-29888熱分析装置及び熱分析装置用制御ソフトウェア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029888
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】熱分析装置及び熱分析装置用制御ソフトウェア
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20240229BHJP
   G01N 25/00 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N25/20 F
G01N25/00 P
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132340
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100099690
【弁理士】
【氏名又は名称】鷺 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100166604
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 明代
(72)【発明者】
【氏名】則武 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】細井 宣伸
【テーマコード(参考)】
2G040
2G059
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA25
2G040CA02
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA03
2G040DA13
2G040EA02
2G040EC09
2G040HA06
2G040ZA01
2G059AA05
2G059BB08
2G059DD16
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF04
2G059HH02
2G059KK04
2G059KK09
2G059MM01
2G059PP04
(57)【要約】
【課題】 試料の温度変化に伴う、試料の色の変化を詳細に把握し且つ関連付けながら、試料の状態変化を詳細に解析できる熱分析装置及び熱分析装置用制御ソフトウェアを提供する。
【解決手段】 加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該試料を撮影して画像データを取得する熱分析装置は、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示させる手段と、該画像データの試料画像を表示させる手段と、該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する手段と、該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて表示させる手段と、一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させる手段と、を備える。
【選択図】 図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該試料を撮影して画像データを取得する熱分析装置において、
該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置に表示させる熱分析グラフ表示手段と、
該画像データの試料画像を該表示装置に表示させる試料画像表示手段と、
該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段と、
該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、該表示装置に表示させる色情報グラフ表示手段と、
一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段と、を備えたことを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
前記マーカー表示手段は、一つのグラフ上で表示されたマーカーを移動させるのに対応させて、他のグラフ上で表示されたマーカーも移動させることを特徴とする請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記マーカー表示手段は、所定の温度範囲又は時間範囲内の値をスライダーバーにより選択するのに対応させて、グラフ上に表示されたマーカーを移動させることを特徴とする請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項4】
前記色情報生成手段は、前記試料画像から色情報データを生成する範囲を複数選択できることを特徴とする請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項5】
加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該試料を撮影して画像データを取得する熱分析装置を制御するコンピュータを、
該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置に表示させる熱分析グラフ表示手段として、
該画像データの試料画像を該表示装置に表示させる試料画像表示手段として、
該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段として、
該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、該表示装置に表示させる色情報グラフ表示手段として、及び、
一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段として、機能させることを特徴とする、熱分析装置用制御ソフトウェア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析装置、特に試料観察型の熱分析装置及びその制御ソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析は、「物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その物質(その反応生成物も含む)のある物理的性質を温度又は時間の関数として測定する一連の技法」と定義される。熱分析には、試料を加熱又は冷却して温度を変化させながら、試料の質量変化を測定する熱重量測定(TG)、試料と基準物質との温度差を測定する示差熱分析(DTA)、試料と基準物質との熱流差を測定する示差走査熱量測定(DSC)、試料の寸法変化を測定する熱機械分析(TMA)、その他、試料の種類や測定の目的によって、種々の技法がある。
【0003】
特許文献1には、加熱炉内の試料の温度変化に伴う熱的挙動を測定する熱分析装置において、該試料を観察するため、該加熱炉に開口部を設けると共に、該開口部を介して該試料の画像データを撮像する撮像手段を設けたものが開示されている。この熱分析装置は、試料の温度変化に伴う熱的挙動と共に、該画像データから生成した色情報を、温度に対して重畳表示させる。具体的には、温度を横軸として、TGデータのグラフと、R、G、Bの各値のグラフとを、重畳して表示させる。
【0004】
熱分析のうちDSC及びDTAは、温度を上昇させた後に降下させる過程におけるデータを測定し、横軸を温度として、昇温時のグラフと降温時のグラフとを、上下に並べて表示させるのが一般的である。そして、例えば、DSCデータのベースラインは試料の熱容量に依存するため、昇温時のグラフは下にシフトし、降温時のグラフは上にシフトするので、両グラフは重ならない。しかし、特許文献1の熱分析装置は、温度を横軸として、DSCデータと、RGB値などの色情報とを重畳して表示させると、色情報の昇温時のグラフと降温時のグラフとの重なりが生じてしまい、解析し難い場合や見え難い場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-1870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、試料の温度変化に伴う、試料の色の変化を詳細に把握し且つ関連付けながら、試料の状態変化を詳細に解析できる熱分析装置及び熱分析装置用制御ソフトウェアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該試料を撮影して画像データを取得する熱分析装置において、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置に表示させる熱分析グラフ表示手段と、該画像データの試料画像を該表示装置に表示させる試料画像表示手段と、該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段と、該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、該表示装置に表示させる色情報グラフ表示手段と、一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の熱分析装置において、前記マーカー表示手段は、一つのグラフ上で表示されたマーカーを移動させるのに対応させて、他のグラフ上で表示されたマーカーも移動させるものであってもよい。
【0009】
本発明の熱分析装置において、前記マーカー表示手段は、所定の温度範囲又は時間範囲内の値をスライダーバーにより選択するのに対応させて、グラフ上に表示されたマーカーを移動させるものであってもよい。
【0010】
本発明の熱分析装置において、前記色情報生成手段は、前記試料画像から色情報データを生成する範囲を複数選択できるものであってもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該試料を撮影して画像データを取得する熱分析装置を制御するコンピュータを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置に表示させる熱分析グラフ表示手段として、該画像データの試料画像を該表示装置に表示させる試料画像表示手段として、該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段として、該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、該表示装置に表示させる色情報グラフ表示手段として、及び、一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段として、機能させることを特徴とする、熱分析装置用制御ソフトウェアである。
【0012】
本発明は、前記の目的又は前記の態様に限定されない。本発明の更なる詳細、特徴、機能、及び/又は効果は、本発明の好ましい例示的な実施形態についての以下の説明によって更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一の実施例である熱分析装置の全体構成を示す説明図である。
図2】本発明の一の実施例である熱分析装置の加熱炉周辺の構造を示す切り欠き斜視図である。なお、同図では断面部分に付すべきハッチングを一部省略してある。
図3】本発明の一の実施例である熱分析装置の制御・処理系統を示すブロック図である。
図4】本発明の一の実施例である熱分析装置により熱分析データ及び画像データを取得するフローチャートの一例を示す図である。
図5】本発明の一の実施例である熱分析装置により熱分析データ及び画像データなどをグラフなどに表示するフローチャートの一例を示す図である。
図6】本発明の一の実施例である熱分析装置により表示された、熱分析データ(DSCデータ)のグラフと、グラフ上の所望点の試料画像を示す図である。
図7】本発明の一の実施例である色情報生成手段により試料画像から色情報データを生成する範囲を選択する画面を示す図である。
図8】本発明の一の実施例である色情報生成手段により生成された色情報データを示す図である。
図9】本発明の一の実施例である色情報グラフ表示手段により表示された色情報グラフを示す図である。
図10】本発明の一の実施例である熱分析装置により表示された熱分析データのグラフと、グラフ上の所望点の試料画像と、色情報データのグラフの一例を示す図である。
図11】本発明の一の実施例であるマーカー表示手段により表示されたマーカー及びスライダーバーの一例を示す図である。
図12】DSCデータのグラフと色情報データのグラフとを横軸を時間として重畳して表示させた比較例1を示す図である。
図13】DSCデータのグラフと色情報データのグラフとを横軸を温度として重畳して表示させた比較例2を示す図である。
図14】本発明の一の実施例である熱分析装置により表示されたDSCデータのグラフと色情報データのグラフとを示す図である。
図15】グラデーション生成手段により色情報データから生成された色の一例を示す図である。
図16図10に示したグラフに重畳させずに下方に並べて色のグラデーションを表示した一例を示す図である。
図17】本発明の他の実施例である色情報生成手段により試料画像から色情報データを生成する範囲を複数選択する画面を示す図である。
図18】本発明の他の実施例である熱分析装置により表示されたDSCデータのグラフと、試料の複数個所の色情報データのグラフとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施例1〕
本発明の一の実施例である熱分析装置として、試料観察型の示差走査熱量測定(DSC)装置について説明する。図1を参照して、熱分析装置1は、示差走査熱量測定(DSC)装置2と、試料自動交換機3と、冷却ユニット4と、観察窓付き蓋体5と、カメラ6と、カメラ移動機構7と、コンピュータ8と、入力装置9と、表示装置10とを備えている。コンピュータ8は、後述する熱分析装置制御用ソフトウェア30をインストールされている。
【0015】
図2を参照して、DSC装置2は、円筒状のケース11内に、断熱材12,13によって側面及び底面を囲まれた加熱炉14が設けられている。加熱炉14は、上面が開口した測定室15と、測定室15の内部に設けられた感熱板16とを備えている。感熱板16上の所定の試料測定位置には、試料を載せた試料容器17が配置される。感熱板16上の所定の基準物質測定位置には、基準物質を載せた試料容器18が配置される。加熱炉14の側壁内には、通電により発熱するヒータ14a(図3を参照)が設けられている。加熱炉14は、ヒータが発熱することにより、測定室15内の試料及び基準物質を加熱する。
【0016】
図3を参照して、感熱板16の所定の試料測定位置には、該位置に配置された試料容器17の底部に接触又は近接して温度を検出する、熱電対などの試料温度検出手段19が設けられている。感熱板16の所定の基準物質測定位置には、該位置に配置された試料容器18の底部に接触又は近接して温度を検出する、熱電対などの基準物質温度検出手段20が設けられている。加熱炉14の測定室15の底部には、加熱炉14の温度を検出する、熱電対などの加熱炉温度検出手段21が設けられている。DSC装置2は、試料温度検出手段19、基準物質温度検出手段20、及び加熱炉温度検出手段21によって検出された温度を、それぞれ、試料温度信号、基準物質温度信号、及び加熱炉温度信号として、DSC装置2内に備えた記憶部(図示しない)に保存すると共に、無線通信又は有線通信によりコンピュータ8へ送信する。
【0017】
図2及び図3を参照して、加熱炉14の外周には、冷却ユニット4に2本の導管により接続された冷媒ジャケット22が設置される。冷却ユニット4は、液体窒素などの冷却媒体を、冷媒ジャケット22の内部と冷却ユニット4との間で循環させることにより、加熱炉14並びに測定室15内の試料及び基準物質を冷却する。
【0018】
ケース11の上面を閉塞するケース蓋23には、観察窓付き蓋体5が設置される。観察窓付き蓋体5は、測定室15の上面開口を開閉可能とするように、加熱炉14に着脱自在に取付られる観察窓付き内蓋24、ケース蓋23上に設置されたスペーサ5aに着脱自在に取付けられる観察窓付き中蓋25、及び、蓋体5に着脱自在に取付けられる観察窓付き外蓋26を備えている。3つの観察窓付き蓋があるのは、冷却ユニット4により冷却したとき等に、観察窓に結露が生じるのを防止するためである。測定する時は、全ての観察窓付き蓋24,25及び26が蓋体5に装着され、測定室15の上面開口が閉塞される。
【0019】
DSC装置2は、熱流束型の示差走査熱量測定装置である。示差走査熱量測定(DSC)とは、「一定の熱を与えながら、基準物質及び試料の双方の温度を測定し、試料の状態変化による吸熱及び発熱を定量的に測定する方法」である。基準物質は、熱的に安定な材料によって形成されており、温度が変化しても融解、蒸発などの物性変化は生じない。これに対して、試料は、自らの特性に従って温度変化に対応して吸熱反応又は発熱反応を生じると、反応中は温度変化が止まり、試料と基準物質との間に温度差ΔTが生じる。この温度差ΔTを緩和するための熱流が感熱板16を通じて試料に流入する。この試料に流入する単位時間当たりの熱量(熱流)は、試料と基準物質との温度差ΔTに比例する。したがって、温度差ΔTを時間について積分した値を、温度依存性を考慮して補正し装置定数kで割ることにより、試料の熱量(エネルギー)が求められる。このように、試料と基準物質の温度差に基づいて試料に流れ込む熱流束、従って熱量を演算する。演算により得られた熱量は、該試料の示差走査熱量測定(DSC)により得られた熱分析データ(DSCデータ)である。
【0020】
図1から図3を参照して、カメラ6は、蓋体5の3つの観察窓付き蓋24,25及び26の観察窓を通して、測定室15内の所定の試料測定位置に配置された試料容器17にある試料を撮影する。カメラ6が撮影した試料の画像データは、カメラ6又はカメラ移動機構7に備えられた記憶部(図示しない)に保存されると共に、コンピュータ8へ送信される。
【0021】
カメラ移動機構7は、カメラ6による試料の撮影位置を調整する。蓋体5から観察窓付き蓋24,25及び26が外されて、試料又は基準物質が測定室15内に設置又は交換されるときは、カメラ移動機構7に水平軸で軸支されたカメラ6が、上方且つ後方に回動し、蓋体5の周辺から退避する。
【0022】
カメラ移動機構7に軸支されたカメラ6が上方且つ後方に回動して退避しており、観察窓付き蓋24,25及び26が蓋体5から外されているときに、試料自動交換機3は作動する。試料自動交換機3は、測定室15の上面開口を通して、試料を載せた試料容器17を所定の試料測定位置に配置し又は該位置から外部へ取り出すことができる。試料自動交換機3は、更に、基準物質を載せた試料容器18を所定の基準物質測定位置に配置し又は該位置から外部へ取り出すことが可能な構成にしてもよい。
【0023】
図3を参照して、コンピュータ8は、本発明の一の実施例である、熱分析装置用制御ソフトウェア30をインストールされている。コンピュータ8は、中央処理装置(CPU)27、画像処理装置(GPU)28、HDD・SSDなどの記憶装置29、などを備えている。コンピュータ8は、DSC装置2、試料自動交換機3、冷却ユニット4、カメラ6、カメラ移動機構7、入力装置9、及び、表示装置10との間で、有線通信又は無線通信により各種の信号を送信及び受信する。
【0024】
入力装置9は、操作者が、試料の測定条件や各機器の操作指示などをコンピュータ8に入力する装置である。入力装置9は、キーボードやマウスなどからなるが、タッチパネルや、音声による入力手段を含んでもよい。
【0025】
表示装置10は、コンピュータ8にインストールされたソフトウェア30による制御や、入力装置9からの入力に従って、各種の情報を表示する。表示装置10は、液晶モニタなどからなる。
【0026】
熱分析装置1は、ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8により制御されて、加熱炉14により加熱し又は冷却ユニット4により冷却し、測定室15内の試料の温度を変化させながら、該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、カメラ6により該試料を撮影して画像データを取得する。
【0027】
ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置10に表示させる熱分析グラフ表示手段31としての構成及び機能を備える。
【0028】
ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、該画像データの試料画像を表示装置10に表示させる試料画像表示手段32としての構成及び機能を備える。
【0029】
ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段33としての構成及び機能を備える。
【0030】
ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、表示装置10に表示させる色情報グラフ表示手段34としての構成及び機能を備える。
【0031】
ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段35としての構成及び機能を備える。
【0032】
図4を参照して、本発明の一の実施例である熱分析装置により試料の熱分析データ及び画像データを取得するフローチャートの一例を説明する。
【0033】
ステップS101では、熱分析装置1の測定条件及び温度プログラムの設定画面を開いて、試料名、試料重量、設定温度範囲、測定時間、測定間隔などを入力手段9によりコンピュータ8に入力して設定する。
【0034】
ステップS102では、熱分析装置1の試料撮影条件の設定画面を開いて、撮影時間、撮影間隔などを入力手段9によりコンピュータ8に入力して設定する。
【0035】
ステップS103では、測定を開始し、所定の測定条件及び所定の温度プログラムに従って、ソフトウェア30をインストールしたコンピュータ8により温度を制御されて、加熱炉14は、ヒータに通電されて発熱し、測定室15の所定の試料測定位置に配置された試料容器17に載せた試料を加熱し、又は、冷却ユニット4は、冷却媒体を2本の導管を通じて冷媒ジャケット22内部との間で循環させ、加熱炉14並びに測定室15の所定の試料測定位置に配置された試料容器17に載せた試料を冷却する。そして、測定間隔などの所定の測定条件に従って、試料温度検出手段19により試料の温度を測定し、基準物温度検出手段20により基準物質の温度を測定する。
【0036】
ステップS104では、コンピュータ8は、測定した試料温度と基準物質温度との温度差に基づいて、試料に流れ込む熱流束、すなわち熱量を演算して、試料の熱分析データ(DSCデータ)を取得する。
【0037】
ステップS201では、所定の試料撮影条件に従って、ソフトウェア30をインストールしたコンピュータ8により制御されて、熱分析装置1のカメラ6により、測定室15の所定の試料測定位置に配置された試料容器17に載せた試料を、測定中に撮影する。
【0038】
ステップS202では、コンピュータ8は、測定中の試料の画像データを取得する。
【0039】
ステップS105では、コンピュータ8が取得した試料の熱分析データと試料の画像データとが、コンピュータ8の記憶装置29に保存される。
【0040】
次に、試料の温度変化に伴う状態変化を解析するために、本発明の一の実施例である熱分析装置により熱分析データ及び画像データなどをグラフなどに表示するフローチャートの一例を説明する。
【0041】
図5を参照して、ステップS301では、熱分析装置1は、ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8により制御されて、加熱炉14により加熱し又は冷却ユニット4により冷却して、測定室15内の試料の温度を変化させながら、該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、測定中の該試料をカメラ6により撮影して画像データを取得する。例えば、図4に示すフローチャートに従って、試料の測定及び撮影を行って、熱分析データ及び画像データを取得することができる。また、熱分析データ及び画像データは、コンピュータ8の記憶装置29に保存されたデータを読み出して取得してもよい。
【0042】
図6は、試料の温度を80℃まで上昇させた後に-50℃まで下降させる過程で、試料の温度と基準物質の温度を測定し、試料と基準物質との温度差に基づいて演算して取得したDSCデータのグラフの一例を示している。具体的には、熱分析グラフ表示手段31により、試料の温度と時間に関するグラフが、横軸を時間(Time。単位min。)、縦軸を温度(Temperature。単位℃。)として表示されている。また、熱流束と時間に関するグラフが、横軸を時間(Time。単位min。)、縦軸を熱流束(Heat Flow。単位mW。)として表示されている。
【0043】
図6には、試料画像表示手段32により、熱分析データ(DSCデータ)の熱流束と時間に関するグラフ上の任意に選択した点の試料画像が表示されている。試料画像表示手段32は、熱分析データのグラフ上の複数の点を選択して、又は、記憶装置29に保存している画像データの中から複数の試料画像を選択して、表示装置10に複数の試料画像を表示することが可能である。
【0044】
図5を参照して、ステップS302では、色情報生成手段33は、試料画像から生成する色情報の範囲及び種類を選択することができる。図7は、色情報生成手段33により開かれた、試料画像から生成する色情報の範囲及び種類を選択するための試料観察色情報ウインドウの一例を示している。試料観察色情報ウインドウには、試料画像表示手段32により試料画像が表示される。図7の試料観察色情報ウインドウでは、試料画像から生成する色情報の範囲(対象範囲)として、「四角で選択」するか、「丸で選択」するかを選択するチェック欄が設けてある。図7では、「丸で選択」にチェックが入っているので、試料観察色情報ウインドウに表示された試料画像の中に、破線の丸が表示されている。破線の丸で表示される対象範囲は、キーボードやマウスなどの入力装置9により大きさ及び位置を変更することができる。
【0045】
図7には示されていないが、生成する色情報の種類を選択するための試料観察色情報ウインドウも存在する。色情報とは、カメラ6が撮影した画像データの色を数値化した情報である。生成する色情報の種類は、「光の三原色」とされるレッド(Red)、グリーン(Green)、ブルー(Bule)の組合せで色を表現する「RGB」、「色の三原色」とされるシアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)の3色とブラック(Black)との組合せで色を表現する「CMYK」、国際照明委員会(CIE)が定義した「CIE Lab」、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の組合せで色を表現する「HSV」、などを選択することができる。
【0046】
図5を参照して、ステップS303では、色情報生成手段33は、試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する。図7を参照して、試料観察色情報ウインドウに表示された「生成」をマウスでクリックすると、色情報生成手段33は、生成する色情報の範囲及び種類の選択を確定して、色情報データを生成する。図8には、色情報生成手段33により生成された色情報データの一例が表に示されている。図8に示すように、熱分析データ(Temp、DSC)、画像データ(観察画像)、及び、色情報データ(R値、G値、B値など)は、測定時間(Time)と対応させて保存される。
【0047】
図9は、図8の表に示された色情報データであるR値、G値及びB値の時間に関するグラフが、横軸を時間として示されている。これらの色情報のグラフによれば、測定開始から5分から7分頃の間、及び、14分から20分(特に19分前後)頃の間に、色情報が大きく変化していることが把握できる。このように、色情報のグラフによれば、試料の色変化の時期や変化量を正確に把握することができる。しかし、図9の色情報のグラフによっては、試料の色やその変化を視覚的に把握することができない。また、試料温度との関係が把握できない。
【0048】
図5を参照して、ステップS304では、熱分析グラフ表示手段31は、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置10に表示させる。また、色情報グラフ表示手段35は、色情報データの温度又は時間に関するグラフを、熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、表示装置10に表示させる。
【0049】
図5を参照して、ステップS305では、マーカー表示手段36により、一つのグラフ上の任意点を選択して、該選択した点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点とは測定時間が同期する他のグラフ上の点にもマーカーを表示させる。
【0050】
熱分析データのグラフと色情報データのグラフとが重畳せずに並べて表示されることにより、各グラフが見易くなり、解析し易くなる。更に、熱分析データのグラフ及び色情報データのグラフの対応する点にマーカーが表示されることにより、熱分析データと色情報データとの対応関係を容易に把握できる。したがって、各グラフを解析して、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することができる。
【0051】
例えば、図10には、消せるボールペンで文字を書いた紙を試料容器に入れ、N雰囲気で80℃まで10℃/minで昇温した後、-50℃まで降温したとき、熱分析装置1で測定した熱分析データ(DSCデータ)のグラフが、横軸を時間(測定時間)として、表示されている。また、時間(測定時間)と試料温度との関係を示すグラフ(Temp)も表示されている。
【0052】
図10には、熱分析データ(DSCデータ)のグラフと共に、熱分析データ(DSCデータ)のグラフ上の5か所の点における試料画像が表示されている。試料画像の表示は、試料の実際の色を把握することができるが、表示できる試料画像の数に限界があるので、試料の局所的な色変化を評価することや、複数個所の色変化を比較評価することが困難である。
【0053】
図10には、熱分析データ(DSCデータ)のグラフと共に、横軸を測定開始からの時間とし且つ目盛りの大きさも合わせて、試料画像の中央付近の文字部分から生成した色情報データ(RGB値)のグラフが、上記の熱分析データ(DSCデータ)のグラフと重畳させずに下方に並べて表示されている。色情報データ(RGB値)のグラフは、色変化の時期や変化量を把握することができる。熱分析データのグラフと色情報データのグラフとが重畳せずに並べて表示されるので、各グラフが見易くなり、解析し易くなる。
【0054】
図10には、2つの熱分析データのグラフ及び3つの色情報データのグラフ上の、時間(測定時間)が4分に対応する点に、丸印のマーカーが表示されている。各グラフの対応する点にマーカーが表示されるので、熱分析データと色情報データとの対応関係を容易に把握できる。例えば、色情報データのグラフにおいてマーカーを表示された点の試料温度は、熱分析データの試料温度のグラフに表示されたマーカーに対応する試料温度であることが把握できる。このように、熱分析データ(DSCデータ)のグラフと、色情報データのグラフとを、重畳させずに並べて表示することにより、熱分析データのグラフ及び色情報データのグラフが見易く解析し易いと共に、各グラフの対応する点にマーカーを表示することにより、試料の温度変化に伴う、試料の色の変化を詳細に把握し且つ関連付けながら、試料の状態変化を詳細に解析することができる。更に、マーカーの位置を調整しやすいように、マーカーの近くに、縦軸(色情報データの強度)や横軸(時間、温度など)の値を表示してもよい。
【0055】
更に、マーカー表示手段36は、一つのグラフ上で表示されたマーカーを移動させるのに対応させて、他のグラフ上で表示されたマーカーも移動させることができる構成及び機能を備えてもよい。例えば、図10において、マーカー表示手段36は、入力装置であるマウスのカーソル位置を、いずれか一つのグラフ上で表示されたマーカーに合わせてから、マウスにより該マーカーをグラフ上で移動させると、他のグラフ上で表示された各マーカーも各グラフ上を移動させる構成及び機能を備えていてもよい。このような構成及び機能を備えていれば、マーカーを移動させることで、熱分析データと色情報データの対応関係を容易に把握しながら、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することができる。
【0056】
次に、図11を参照して、熱分析データのグラフと色情報データのグラフとを、横軸を異なる変数として表示する場合の一例を説明する。図11の上側に表示されたDSCデータのグラフは、横軸を温度としている。温度を上昇させた後に降下させる過程において測定して取得したDSCデータは、横軸を温度として、昇温時のグラフと降温時のグラフとを、上下に並べて表示させるのが一般的である。DSCデータのベースラインは試料の熱容量に依存するため、昇温時のグラフは下にシフトし、降温時のグラフは上にシフトするので、両グラフは重ならない。他方、図11のDSCデータのグラフに重畳させずに下方に並べて表示された色情報のRBGの各グラフは、横軸を時間としている。これは、RGBのグラフが温度を横軸として表示されると、昇温時のグラフと降温時のグラフが重なってしまい、解析が困難になるからである。
【0057】
熱分析データのグラフと色情報データのグラフとが横軸を異なる変数として表示される場合は、両グラフの対応関係を把握するのが困難である。そこで、図11に示すように、マーカー表示手段により、各グラフの対応する点(例えば、測定時間が同じである点)にマーカーが表示される。各グラフ上の対応する点にマーカーが表示されることにより、熱分析データのグラフと色情報データのグラフとは、対応関係を容易に把握できる。更に、マーカー表示手段36が、一つのグラフ上で表示されたマーカーを移動させるのに対応させて、他のグラフ上で表示されたマーカーも移動させることができる構成及び機能を備えている場合には、マーカーを移動させることで、熱分析データと色情報データの対応関係を容易に把握しながら、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することができる。
【0058】
更に、マーカー表示手段36は、所定の温度範囲又は時間範囲内の値をスライダーバーにより選択するのに対応させて、グラフ上に表示されたマーカーを移動させる構成及び機能を備えていてもよい。例えば、図11には、色情報データのグラフの下方に、所定の時間範囲内の値を選択できるスライダーバーが表示された例が示されている。スライダーバーの長方形のつまみの位置に該当する時間に対応する、熱分析グラフ及び色情報グラフ上の各点に、マーカーが表示される。スライダーバーのつまみを左右に移動させるのに対応して、各グラフ上をマーカーが移動する。これにより、マーカーを移動させることが容易になり、熱分析データと色情報データの対応関係を容易に把握しながら、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することが、一層容易になる。更に、スライダーバーのつまみの位置を調整しやすいように、スライダーバーの近くに、つまみの位置に対応する縦軸(色情報データの強度)や横軸(時間、温度など)の値を表示してもよい。
【0059】
次に、図12及び図13に示された比較例のグラフ表示方法と比較しながら、図14に示された本発明の熱分析装置によるグラフ表示方法を説明する。図12から図14に示されたDSCデータは、同じものであり、PETを300℃まで昇温してから、40℃まで降温して、再び300℃まで昇温するというサイクルで測定して、取得されたものである。図12から図14に示された色情報データは、同じものであり、上記測定に同期して撮影されたPETの画像データから、試料画像の中心付近の範囲を選択して生成した色情報データ(RGB値)である。
【0060】
図12には、DSCデータ(DSC。単位はmW。)のグラフと、3つの色情報データ(R値、G値、B値)のグラフと、試料温度(Temperature。単位は℃。)のグラフとが、横軸を時間(Time。単位はmin。)として、重畳して表示された比較例1が示されている。図13には、DSCデータのグラフと、3つの色情報データのグラフとが、横軸を温度として、重畳して表示された比較例2が示されている。図14には、本発明の熱分析装置によるグラフ表示方法が示されており、横軸を温度とするDSCデータのグラフと、横軸を時間とする3つの色情報データのグラフとが、重畳されずに上下に並べて表示されている。色情報のグラフには、試料温度のグラフも表示されている。
【0061】
図14に示されたように、本発明によれば、DSCデータのグラフは、横軸を温度として、1回目の昇温時のグラフと、1回目の降温時のグラフと、2回目の昇温時のグラフとが重ねて表示されるので、1回目のグラフでは、ガラス転移、結晶化、融解反応が観測できるが、2回目のグラフでは、融解反応のみが観測できることを、容易に把握することができる。3つの色情報データのグラフは、互いに重なりが生じてしまうものの、DSCデータのグラフまで重畳して表示されて解析が困難になることはない。更に、DSCデータ及び3つの色情報データ上の対応する点にマーカーが表示されるので、両者の対応関係を容易に把握することができる。したがって、熱分析データと色情報データとを、対応関係を容易に把握しながら比較評価して、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することができる。更に、マウスのカーソル位置の移動や、スライダーバーの移動により、表示された各マーカーの位置を移動させることができる場合には、熱分析データと色情報データとを、対応関係を把握しながら比較評価することが一層容易となる。
【0062】
これに対して、図12に示された比較例1のグラフによれば、DSCデータのグラフが横軸を時間として表示されているので、1回目の昇温時のグラフと、1回目の降温時のグラフと、2回目の昇温時のグラフとを、比較して評価することが困難である。また、DSCデータのグラフと、3つの色情報のグラフと、試料温度のグラフとが、重畳して表示されているので、各グラフを詳細に解析して比較評価することが困難である。
【0063】
また、図13に示された比較例2のグラフによれば、3つの色情報データのグラフは、1回目の昇温時のグラフと、1回目の降温時のグラフと、2回目の昇温時のグラフとが重なってしまうので、解析が困難である。また、DSCデータのグラフと、色情報のグラフとの対応関係を把握するの困難であるので、これらのグラフを比較評価して試料の温度上昇に伴う状態変化を詳細に評価することも困難である。
【0064】
更に、ソフトウェア30をインストールされたコンピュータ8は、色情報データから生成した色を温度又は時間に対応させて並べたグラデーションを表示装置10に表示させるグラデーション表示手段としての構成及び機能を備えてもよい。図15には、図8に示された色情報データのR値、G値及びB値から、グラデーション表示手段により生成された色が、「Color」欄に表示されている。図15に示すように、熱分析データ、画像データ、色情報(R値、G値、B値)、及び、生成された色は、測定時間及びその時の試料の温度と紐づけされている。したがって、生成された色によれば、各測定時間や試料の温度に対応する試料の色を視覚的に把握できる。
【0065】
図16は、図10に表示された熱分析データ(DSCデータ)のグラフ及び色情報データ(RGB値)のグラフの下方に、横軸を測定開始からの時間とし且つ目盛りの大きさも合わせて、色情報データ(RGB値)から生成した色を並べたグラデーション(カラーバー)が表示されている。試料画像の表示は、表示できる試料画像の数に限界があるので、局所的な個所の色変化を評価することや、複数個所の色変化を比較評価することが困難である。色情報データ(RGB値)のグラフは、色情報が変化する箇所を評価することはできるが、試料の実際の色や色の変化を視覚的に把握することができない。これに対して、色情報データ(RGB値)から生成した色を並べたグラデーション(カラーバー)は、試料の色が変化する箇所を詳細に把握できると共に、試料の実際の色や色の変化を視覚的に容易に把握できる。従って、熱分析データのグラフを表示すると共に、試料の色の変化をグラデーション(カラーバー)で表示することにより、試料の温度変化に伴う状態変化を詳細に評価することができる。
【0066】
〔実施例2〕
本発明の他の実施例である熱分析装置として、試料観察型のTG―DTA装置について説明する。熱重量測定(TG)は、「試料を一定のプログラムに従って変化させながら、その試料の質量を温度の関数として測定する方法」と定義される。示差熱分析(DTA)は、「試料を加熱または冷却した際に起こる物理変化や化学変化に伴って試料内で発生する熱変化を基準試料との温度差として検出する方法」である。TG―DTA装置は、試料の熱重量測定(TG)と示差熱分析(DTA)との両方を行うことができる熱分析装置である。本発明を適用する試料観察型のTG―DTA装置としては、例えば、特許第6606710号に記載されたTG―DTA装置などを用いることができる。
【0067】
本発明を適用された試料観察型のTG―DTA装置は、加熱又は冷却して試料の温度を変化させながら該試料の物理的性質を測定し演算して熱分析データを取得すると共に、該測定時間に同期して該試料を観察し撮影して画像データを取得する熱分析装置である。そして、本発明を適用された試料観察型のTG―DTA装置、又は、同装置を制御するソフトウェアをインストールされたコンピュータは、熱分析データの温度又は時間に関するグラフを表示装置に表示させる熱分析グラフ表示手段と、該画像データの試料画像を該表示装置に表示させる試料画像表示手段と、該試料画像から選択した範囲及び種類の色情報データを生成する色情報生成手段と、該色情報データの温度又は時間に関するグラフを、該熱分析データの温度又は時間に関するグラフに重畳させずに並べて、該表示装置に表示させる色情報グラフ表示手段と、一つの該グラフ上の任意点にマーカーを表示させると共に、該マーカーが表示された点と測定時間が同期する他の該グラフ上の点にもマーカーを表示させるマーカー表示手段と、を備えている。更に、前記マーカー表示手段は、一つのグラフ上で表示されたマーカーを移動させるのに対応させて、他のグラフ上で表示されたマーカーも移動させることができる。また、前記マーカー表示手段は、所定の温度範囲又は時間範囲内の値をスライダーバーにより選択するのに対応させて、グラフ上に表示されたマーカーを移動させることもできる。
【0068】
図17及び図18を参照して、色情報生成手段が、更に、試料画像から色情報データを生成する範囲を複数選択できる構成及び機能を備えている場合について説明する。
【0069】
熱分析装置により、試料の温度を変化させながら、試料の状態変化を測定して取得される熱分析データは、試料全体についてのデータである。しかし、試料の結晶化や転移が生じる時期は、試料全体で同じではなく、試料中の場所によって相違することが多い。そこで、本発明の他の実施例の色情報生成手段は、試料観察型の熱分析装置により測定に同期して撮影した試料画像から、色情報データを生成する範囲を複数選択できる構成及び機能を、更に備えている。図17を参照して、この色情報生成手段によれば、試料画像から、色情報を生成する範囲又は場所を2箇所選択することができる。図17には示されていないが、色情報生成手段は、生成する色情報の種類として、「RGB」、「CMYK」、「CIE Lab」、「HSV」など、様々な色情報を選択できる。
【0070】
図18には、本発明の他の実施例である熱分析装置によって表示された熱分析データのグラフ及び複数場所の色情報データのグラフの一例が示されている。熱分析データのグラフとしては、横軸を温度(Teperature。単位℃。)とし、左縦軸を質量(Weight。単位はg。)とするTGデータのグラフと、横軸を温度(Teperature。単位℃。)とし、縦軸を熱流(Heat Flow。単位はμV。)とするDTAデータのグラフとが、表示されている。また、熱分析データのグラフ上の任意点を一又は複数選択して、各点の試料画像を表示することが可能である。図18では、TDグラフ上の3つの点の試料画像が表示されている。DTAグラフ上でも同様に試料画像を表示することが可能である。更に、熱分析データのグラフと重畳させずに下方に並べて、試料画像から選択した2場所から生成した色情報データ(H,S,V)のグラフが、互いに重畳させずに並べて表示されている。
【0071】
図18に示すように、熱分析データのグラフと、試料画像中の比較したい複数の部分の色情報グラフとを、重畳させずに並べて表示することにより、試料の温度変化に伴う試料の状態変化や変化する時期を、試料の異なる場所毎に比較して評価することができる。
【0072】
試料画像中に色情報データを生成したい範囲又は場所が多数ある場合、熱分析データのグラフと、複数場所の全ての色情報データのグラフとを、重畳させずに並べて表示装置に表示すると、グラフが小さく表示されてしまい見難くなり易い。これを避けるため、表示する色情報データを一つに選択して、複数場所の該選択した色情報データのグラフを色分けして且つ重ねて表示するようにしてもよい。
【0073】
本発明の他の実施例である熱分析装置及び熱分析装置を制御するソフトウェアをインストールされたコンピュータは、色情報データから生成した色を温度又は時間に対応させて並べたグラデーションを表示装置に表示させるグラデーション表示手段としての構成及び機能を更に備えてもよい。特に、試料画像中に色情報データを生成したい範囲又は場所が複数ある場合、該複数の場所毎に生成した色情報データ(RGB値)から、更に生成した色を並べたグラデーション(カラーバー)を表示することにより、試料の各場所毎の実際の色や色の変化を視覚的に容易に把握できる。従って、熱分析データのグラフを合わせ解析することにより、試料の温度変化に伴う状態変化を、試料の場所毎に詳細に評価することができる。
【0074】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明及び本発明の各構成要素の技術的思想の範囲に含まれる様々な変形例や均等物も含まれる。
【0075】
例えば、本発明の熱分析装置は、示差走査熱量測定(DSC)装置又はTG-DTA装置の他に、冷却ユニット、制御ソフトウェアをインストールされたコンピュータ、入力装置、表示装置などの複数の装置から構成されるものに限定されず、これらの装置の一部又は全部が一体に構成されるものであってもよい。また、制御ソフトウェアをインストールされたコンピュータは、複数の示差走査熱量測定(DSC)装置又はTG-DTA装置やその他の熱分析装置を制御するものであってもよい。また、制御ソフトウェアの一部又は全部が、クラウド上のサーバーにインストールされていてもよい。
【0076】
本発明の熱分析装置は、示差走査熱量測定(DSC)装置や、TG-DTA装置に限定されるものではなく、熱重量測定(TG)装置、示差熱分析(DTA)装置、熱機械分析(TMA)装置、その他の各種熱分析装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、試料の温度変化に伴う、試料の色の変化を詳細に把握し且つ関連付けながら、試料の状態変化を詳細に解析できる熱分析装置、及び、そのような熱分析装置を実現するための制御ソフトウェアを提供することに利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1:熱分析装置、
2:示差走査熱量測定(DSC)装置、
3:試料自動交換機、
4:冷却ユニット、
5:観察窓付き蓋体、
6:カメラ、
7:カメラ移動機構、
8:コンピュータ、
9:入力装置、
10:表示装置、
11:ケース、
12,13:断熱材、
14:加熱炉、
14a:ヒータ、
15:測定室、
16:感熱板、
17,18:試料容器、
19:試料温度検出手段、
20:基準物質温度検出手段、
21:加熱炉温度検出手段、
22:冷媒ジャケット、
23:ケース蓋、
24:観察窓付き内蓋、
25:観察窓付き中蓋、
26:観察窓付き外蓋、
27:中央処理装置(CPU)、
28:画像処理装置(GPU)、
29:記憶装置、
30:制御ソフトウェア、
31:熱分析グラフ表示手段、
32:試料画像表示手段、
33:色情報生成手段、
34:色情報グラフ表示手段、
35:マーカー表示手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18