(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029901
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】プロペラシャフトニップル位置調整装置及び調整方法
(51)【国際特許分類】
B60S 5/00 20060101AFI20240229BHJP
B60K 17/22 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B60S5/00
B60K17/22 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132360
(22)【出願日】2022-08-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】522335848
【氏名又は名称】有限会社水木産業
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水木 英雄
【テーマコード(参考)】
3D026
3D042
【Fターム(参考)】
3D026BA27
3D042AB01
3D042AB16
3D042DA02
3D042DA17
(57)【要約】
【課題】トラックなどの大型の車両に備えられたプロペラシャフトのグリスアップ作業において、プロペラシャフトのグリス注入孔(ニップル)をグリスアップ作業に適した位置に合わせるプロペラシャフトニップル位置調整装置及び調整方法を提供することを課題とする。
【解決手段】車両の左右何れかの一方のみの車輪を載置して、前記車輪を回転させる前後一対の回転ローラを有する車輪回転装置を1つ備えたことを特徴とするプロペラシャフトニップル位置調整装置及び該プロペラシャフトニップル位置調整装置を使用するプロペラシャフトニップル位置調整方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右何れかの一方のみの車輪を載置して、前記車輪を回転させる前後一対の回転ローラを有する車輪回転装置を1つ備えたことを特徴とするプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【請求項2】
前記前後一対の回転ローラのうちの少なくとも1つがモータにより駆動されることを特徴とする請求項1に記載されたプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【請求項3】
前記前後一対の回転ローラのうちの少なくとも1つは、回転しないように固定可能とする手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載されたプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【請求項4】
前記車輪はダブルタイヤであり、前記前後一対の回転ローラは前記ダブルタイヤを載置することができる幅を有することを特徴とする請求項1に記載されたプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【請求項5】
可搬式であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載されたプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【請求項6】
車両の左右何れかの一方のみの車輪を載置して、前記車輪を回転させる前後一対の回転ローラを有する車輪回転装置を1つ備えたプロペラシャフトニップル位置調整装置を使用するプロペラシャフトニップル位置調整方法であって、
前記前後一対の回転ローラのうちの少なくとも1つを回転して、前記車輪を回転させることによりプロペラシャフトを回転させる工程を備えることを特徴とするプロペラシャフトニップル位置調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックなどの大型の車両に備えられたプロペラシャフトを回転させる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックなどの大型の車両に備えられたプロペラシャフトは、定期的に、又は、車両の使用状況に応じて、グリスアップする必要がある。
プロペラシャフトには、1か所又は複数個所にグリス注入口(ニップル)が設けられていて、このグリス注入口からグリスを注入する。
プロペラシャフトは、トラックなどの大型の車両の下部に配置されているから、グリス注入口にグリスを注入するには、車両の下の狭い場所に潜り込んで注入作業を行わなければならない。
これを避けるために、作業場に人が入って各種作業ができる溝を設け、その溝の上方にトラックなどの大型の車両を停車させてグリス注入作業を行う方法もある。しかし、このような設備を備えた作業場は数が少なく、また、グリス注入のたびにこのような作業場にトラックなどの大型の車両を移動させることは、手間も時間も経費もかかるものである。このことは、かえって、グリス注入を手控える要因となり、トラックなどの大型の車両の故障などの原因となることがある。
【0003】
また、車両の下の狭い場所に潜り込んで注入作業を行う場合であっても、作業用の溝に入って注入作業を行う場合であっても、グリス注入口の位置によっては、注入作業が著しく困難となる。
例えば、作業者から見て裏側にグリス注入口がある場合、手探りでグリス注入口を探し出して、自由に折れ曲がるフレキシブルホースノズルを使用してグリス注入作業を行うが、これも簡単に行える作業ではない。
【0004】
そこで、グリス注入口を作業しやすい位置に合わせるためには、プロペラシャフトを回転させる必要があるところ、タイヤが接地しているとプロペラシャフトを回転させられないため、車体を持ち上げてタイヤを浮かせる設備が必要であるが、トラックなどの大型の車両の車体を持ち上げる設備を備えた作業場も数が少ない。
【0005】
そのため、注入口を作業しやすい位置に合わせるために、トラックなどの大型の車両を少し移動させてプロペラシャフトを少し回転させ、グリス注入口の位置を確かめるという作業を何回も行う面倒な作業を行っていた。さらに、この作業では、次のような事故例が報告されている。
[事故例1]
ダンプトラックを少し移動させてプロペラシャフトを回転させた後、グリス注入口の位置を確かめるために車両の下に入る前に、安全のためにパーキングブレーキをかけ、輪止めをする必要があるところ、何回も同じ作業を繰り返しているうちに、このパーキングブレーキをかけ、輪止めをすることを失念していまい、車両の下での作業中にダンプトラックが動き出してしまい、ダンプトラックのタイヤにひかれてしまった。(
図7参照)
【0006】
また、ダンプトラックのような荷台を上げることができる車両では、荷台を上げて、プロペラシャフトの上側からグリスアップ作業を行うことができる。
しかし、以下のような事故例が報告されている。
[事故例2]
ダンプトラックの荷台を上げた場合、安全のために下降防止の安全ロックを行う必要があるところ、安全ロックを行うことを失念したまま、荷台の下でグリスアップ作業を行っているうちに荷台が下がってきて荷台と車体フレームとの間に挟まってしまった。(
図8参照)
【0007】
このようにプロペラシャフトのグリス注入孔の位置を合わせるために、プロペラシャフトを回転させる方法として、車体を持ち上げる代わりに、特許文献1に示されるような、回転ローラ上にタイヤを載せて、タイヤを回転させて種々の検査を行う設備を用いることも考えられるが、このような設備を備えた作業場も数が少なく、また、本来、検査に用いるものであるから、グリスアップ作業に使用するという発想はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、トラックなどの大型の車両に備えられたプロペラシャフトのグリスアップ作業を安全に容易に行えるようにする装置や設備は知られておらず、また、特許文献1に記載されるような検査装置は、前後左右のすべてのタイヤを載せるローラを備える大掛かりな設備であって、コストも高く、比較的頻繁に行われるトラックなどの大型の車両のプロペラシャフトのグリスアップ作業に気軽に使用できるものではない。
【0010】
そこで、本発明は、トラックなどの大型の車両に備えられたプロペラシャフトのグリスアップ作業において、プロペラシャフトのグリス注入孔(ニップル)をグリスアップ作業に適した位置に合わせるプロペラシャフトニップル位置調整装置及び調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
車両の左右何れかの一方のみの車輪を載置して、前記車輪を回転させる前後一対の回転ローラを有する車輪回転装置を1つ備えたことを特徴とするプロペラシャフトニップル位置調整装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、車両の左右何れかの一方のみの車輪を載置して、前記車輪を回転させる前後一対の回転ローラを有する車輪回転装置を1つ備え、小型で、安価に製造できるプロペラシャフトニップル位置調整装置により、トラックなどの大型の車両のプロペラシャフトのニップル位置を調整することにより、安全かつ容易にプロペラシャフトのグリスアップ作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の斜視図である。
【
図2】本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の使用時の要部拡大図である。
【
図3】本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の退出時の要部拡大図である。
【
図4】本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1をダンプトラック7に使用した状態の側面図である。
【
図5】本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1をダンプトラック7に使用した状態の上面図である。
【
図6】本発明に係る実施形態2のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の使用時の側面図である。
【
図7】事故例1を説明するためのダンプトラックの側面図である。
【
図8】事故例2を説明するためのダンプトラックの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1を説明する。
以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0015】
[発明の経緯]
本発明の発明者は、車両の駆動輪のドライブシャフトに設けられるデファレンシャル(差動装置)の動作により、左右一方の車輪のみが雪面や泥面などで空転する場合、左右他方の車輪には動力が伝達されず、回転しないという現象から、左右一方の車輪が接地して回転しない状態でも、左右他方の車輪を回転させれば、プロペラシャフトが回転するのではないかと思い付いた。そこで、エンジンとプロペラシャフトをつなぐクラッチを切るか又は変速機をニュートラルにして、駆動輪である後輪の左右一方の車輪を回転させたところ、実際にプロペラシャフトが回転することが確認できた。
さらに、駆動輪である後輪が2軸ある大型の車両でも、2軸のうちの1軸の車輪の左右一方の車輪以外の車輪を接地させて回転できないようにした状態で、その左右一方の車輪を回転させると、プロペラシャフトが回転することを見出した。これは、回転させた車輪に対応するデファレンシャルのほかに、2軸の後輪のうちの前側の車輪(以下、「後前輪」という。)と後側の車輪(以下、「後後輪」という。)の回転数の差を調整するインターアクスルデファレンシャルの動作によるものとわかった。
特に、後前輪の左右両輪と後後輪の左右一方の車輪を接地したまま、後後輪の左右他方の車輪を回転させると、インターアクスルデファレンシャルから後後輪のデファレンシャルに動力を伝達するインターアクスルプロペラシャフトと、エンジンからインターアクスルデファレンシャルに動力を伝達するプロペラシャフトの両方が回転する。なお、後後輪の左右両輪と後前輪の左右一方の車輪を接地したまま、後前輪の左右一方の車輪を回転させると、インターアクスルプロペラシャフトは回転しないが、プロペラシャフトは回転する。
本発明の発明者は、この発想により、大掛かりな設備を必要とせず、左右一方の駆動輪を回転させるだけの装置で、プロペラシャフトを回転させることができ、グリスアップ作業におけるニップル位置の調整を安全かつ容易に行うことができる、プロペラシャフトニップル位置調整装置を発明するに至った。
【0016】
[全体構造]
図1は、実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の斜視図である。
プロペラシャフトニップル位置調整装置1は、フレーム2に駆動ローラ3及び従動ローラ4を固定した車輪回転装置を有し、この他に、停止補助装置5などを備える。このプロペラシャフトニップル位置調整装置1は、可搬式であり、作業者一人でも運ぶことが可能である。
【0017】
[フレーム]
フレーム2は、スチール製の部品から構成され、駆動ローラ3、従動ローラ4、停止補助装置5、空転防止ストッパ42などが固定された本体部21の一方側に、本体部の駆動ローラ3及び従動ローラ4に車輪を載置するときの斜路を形成する傾斜部22が形成され、本体部21を挟んで、傾斜部22の反対側に、車輪が本体部21を通過して落下しないように、車輪を止める車輪ストッパ23が形成されている。
また、本体部21の車体横外側に相当する側部には、傾斜部22にかけて、車輪が側方に脱輪することを防止する脱輪防止バー24が形成されている、この脱輪防止バー24には黒色と黄色の斜めのストライプ模様が施されており、駆動ローラ3及び従動ローラ4に車輪を載置するときに運転者が脱輪防止バー24を容易に視認できるようになっている。実施形態1では、右車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1に載せて使用することを想定しているため、プロペラシャフトニップル位置調整装置1に車両を載せた際の車両右外側に相当する箇所に脱輪防止バー24を設置している。
なお、脱輪防止バー24は、車両右外側に相当する箇所でなく、車両左外側に相当する個所に設置してもよいし、両側に設置してもよい。
なお、傾斜部22は、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の重量を軽減するためにラダー状に形成されているが、平板状の部材により構成してもよい。
【0018】
[一対の回転ローラ]
図2は、実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の使用時の要部拡大図であり、
図3は、実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の退出時の要部拡大図である。
プロペラシャフトニップル位置調整装置1の本体部21には、駆動ローラ3及び従動ローラ4からなる前後一対の回転ローラが軸支されている。実施形態1では、傾斜部22側(前側)に従動ローラ4を、車輪ストッパ23側(後側)に駆動ローラ3が配置されているが、前後一対の回転ローラのうちの前後どちらを駆動ローラとするかは任意に選択できることであり、実施形態1での駆動ローラ3及び従動ローラ4の配置を逆にしてもよい。
また、駆動ローラ3及び従動ローラ4は、車輪の幅よりもかなり余裕をもった幅に設計する方が、車輪を前後一対の回転ローラに載置する際の運転が容易になる。さらに、トラックなどの大型の車両の後輪は、左右それぞれに2つの車輪を隣接して配置したダブルタイヤを装備するものも多いから、駆動ローラ3及び従動ローラ4の幅も、ダブルタイヤの幅に対応できる幅に設計する方が、多くの種類の車両に使用できるようになる。
なお、前後一対の回転ローラのうちの一方を駆動ローラ、他方を従動ローラとしたが、両方を駆動ローラにしてもよい。
【0019】
[駆動ローラ]
駆動ローラ3は、本体部21に設置された駆動装置31(
図1参照)により駆動される。駆動装置31は、図示していないモータとギヤなどから構成されている。
駆動装置31は、コントローラ311(
図5参照)に設けられた「回転」ボタン、「停止」ボタンにより操作される。さらに、回転速度を変える操作装置、例えば、切換スイッチにより、定められた回転速度を選択できるもの、ロータリスイッチにより複数の決められた回転速度又は無段階に回転速度を変えられるものを設けてもよい。なお、駆動ローラ3は、正転、逆転の両方向に回転できるようにしてもよい。
また、実施形態1では、駆動装置31とコントローラ311は有線で接続されているが、無線装置により接続してもよい。無線装置は、公知の赤外線を利用したものでもよいし、電波を利用するものでもよい。また、コントローラ311として、既存の携帯端末装置、例えばスマートフォンに導入されたアプリを利用するものでもよく、スマートフォンとの通信は、WiFi(登録商標)やBluetooth(登録商標)などを使用すればよい。
また、駆動ローラ3の周面には、車輪が滑らないようにするための突起を設けてもよい。突起の形状や大きさは適宜設計でき、単に粗面にするようなものでもよい。
なお、前後一対の回転ローラの両方を駆動ローラにする場合、2つの回転ローラをそれぞれ異なるモータで駆動してもよいし、1つのモータの動力をギヤ、チェーン、ベルトなどの公知の伝動機構により、2つの回転ローラに伝えてもよい。
また、駆動装置31は、モータを使用するものに限らず、エンジンなどの他の動力源を使用してもよいし、人力により駆動する装置であってもよい。
【0020】
[停止補助装置]
実施形態1には、トラックなどの大型の車両を運転して、車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1の前後一対の回転ローラ上に停止させるための停止補助装置5(
図1参照)を備えている。
停止補助装置5は、車輪載置検出器51と停止ランプ52を有する。車輪載置検出器51は、本体部21の駆動ローラ3と従動ローラ4の間に設置された小径の遊動ローラ511を有し、この小径の遊動ローラ511は、左右一対のアーム512に支持されていて、上方に突出する方向にスプリング(図示していない)で付勢されている。駆動ローラ3と従動ローラ4上に、車輪が正しく載ると、スプリングに抗して、遊動ローラ511が下方に押し下げられる。
左右一対のアーム512のうちの一方のアーム512の近傍には、遊動ローラ511が押し下げられたときに、アーム512が接触する位置にリミットスイッチ(図示していない)が設置されている。
【0021】
リミットスイッチは、アーム512が接触するとON状態になるように設置されており、リミットスイッチがON状態になると、停止ランプ52が点灯する。この停止ランプ52の点灯を見て、車両を運転している使用者は、車輪が駆動ローラ3と従動ローラ4上に正しく載ったことがわかる。
なお、コントローラ311として、スマートフォンなどの携帯端末装置を使用した場合、リミットスイッチがON状態になったことを、スマートフォンなどの携帯端末装置の画面に表示したり、音や音声で伝えたりしてもよい。
また、リミットスイッチを駆動装置31の回路に接続して、リミットスイッチがON状態にならないと、駆動装置31が作動しないようにしてもよい。こうすると、プロペラシャフトニップル位置調整装置1に、正しく車輪が載っていない状態で、駆動ローラ3が回転することを防ぐことができ、安全性をより向上することができる。
このほか、遊動ローラ511が押し下げられたことを検知するリミットスイッチ自体を、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源スイッチとして、プロペラシャフトニップル位置調整装置1に正しく車輪が載ったことを検知することにより、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源がONになるようにしてもよい。
【0022】
停止ランプ52は、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の脱輪防止バー24と同じ側に配置される。したがって、脱輪防止バー24がプロペラシャフトニップル位置調整装置1に車両を載せた際の車両右外側に相当する箇所に設置されている場合は車両右外側に相当する箇所に、脱輪防止バー24が車両左外側に相当する箇所に設置されている場合は車両左外側に相当する箇所に、脱輪防止バー24が両側に設置されている場合は両側に配置される。
実施形態1では、停止ランプ52を、支持フレーム53を使用して高い位置に配置している。この支持フレーム53を可倒式として、使用していないときは支持フレーム53を倒して収納位置に、使用時には支持フレーム53を立てて使用位置にするように構成してもよい。また、停止ランプ52は、高い位置に設置することには限られず、低い位置に設置することも可能である。
【0023】
[空転防止ストッパ]
グリスアップ作業後に、車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1の駆動ローラ3及び従動ローラ4から退出させる。退出時には、車両を運転して後輪を駆動させるが、このとき、後輪のうちの駆動ローラ3及び従動ローラ4上の車輪が空転して、デファレンシャルの作用により、床面に接地している他方の車輪には動力が伝わらずに回転しないため、車両をプロペラシャフトニップル位置調整装置1から退出させることができない。
そこで、傾斜部22側に配置された従動ローラ4が回転しないように、空転防止ストッパ42を設ける。空転防止ストッパ42は、従動ローラ4の近傍に揺動可能に設けられたアーム状の部材で構成される。
図2に示すように、駆動ローラ3を駆動装置31により回転させるときは、従動ローラ4は矢印の方向に回転して、空転防止ストッパ42は従動ローラ4の周面に設けた突起41により跳ね上げられて係合することはない。しかし、
図3に示すように、車両をプロペラシャフトニップル位置調整装置1から退出させるときは、車輪が矢印の方向(
図2の矢印とは逆方向)に回転するから、従動ローラ4も
図2の矢印とは逆方向に回転するが、空転防止ストッパ42が従動ローラ4の突起41に係合して、回転不能になる。
この回転不能な従動ローラ4の上を車輪が回転駆動されて、車両はプロペラシャフトニップル位置調整装置1から退出することができる。
なお、空転防止ストッパ42を、従動ローラ4から離隔した位置で固定する固定手段を設けてもよい。特に、駆動ローラ3を正転、逆転の両方向に回転できるように構成した場合には、この固定手段が必要である。
【0024】
また、従動ローラ4を回転しないように固定可能とする手段としては、従動ローラ4の周面に設けた突起41と空転防止ストッパ42の組み合わせに限らず、従動ローラ4を構成する他の部材を係止する係止部材でもよいし、従動ローラ4を摩擦で止めるブレーキ手段でもよいし、従動ローラ4を回転支持する支持軸の回転を阻止する手段などでもよい。
駆動ローラ3及び従動ローラ4の配置を逆にして、傾斜部22側に駆動ローラ3を、車輪ストッパ23側に従動ローラ4を配置した場合は、傾斜部22側にある駆動ローラ3に、回転しないように固定可能とする手段を設けることになる。さらに、駆動ローラ3及び従動ローラ4の配置によらず、駆動ローラ3及び従動ローラ4の両方に、回転しないように固定可能とする手段を設けてもよい。
なお、トラックなどの大型の車両、特に、後輪が2軸あるような車両では、デフロック装置が装備されていることが多く、デフロック装置によりデフロックすることにより、駆動ローラ3及び従動ローラ4上の車輪が空転しても、床面に接地している他方の車輪も駆動されるので、空転防止ストッパ42を使用しなくても、車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1から退出させることができる。
【0025】
[輪止め収納部]
プロペラシャフトニップル位置調整装置1には、輪止め収納部6が設置されている(
図1、5参照)。この輪止め収納部6には、グリスアップ作業時に車両の車輪、例えば、前輪に設置する輪止め61が収納されている。
また、輪止め収納部6には、輪止め61を取り出したことを検知するリミットスイッチ(図示していない)が設けられている。このリミットスイッチが輪止めを取り出したことを検知していないと、駆動装置31の電源がON状態にならないように構成されている。
この構成により、輪止め61を取り出し忘れて、輪止めを使用していない状態で、グリスアップ作業を行うことを抑止することができ、グリスアップ作業の安全性を高めることができる。
このほか、輪止め61を取り出したことを検知するリミットスイッチ自体を、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源スイッチとして、輪止め61を取り出したことにより、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源がONになるようにしてもよい。
【0026】
[使用方法]
図4は、本発明に係る実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1をダンプトラック7に使用した状態の側面図、
図5は同上面図である。
ダンプトラック7は、1軸の前輪8(左右1輪ずつ)と、2軸の後輪9(後前輪91、後後輪92ともに、左右2輪ずつのダブルタイヤ)を装着している。
エンジン(図示していない)の動力は、クラッチ・変速機71、プロペラシャフト72を介して、インターアクスルデファレンシャル73に伝達される。インターアクスルデファレンシャル73では後前輪91と後後輪92の2つに向けて動力が分割され、一方はギヤなどを介して後前輪デファレンシャル911に、他方はインターアクスルプロペラシャフト74を介して後後輪デファレンシャル921に動力が伝達される。
後前輪デファレンシャル911では、後前輪ドライブシャフト912を介して、左右の後前輪91に動力が伝達され、後後輪デファレンシャル921では、後後輪ドライブシャフト922を介して、左右の後後輪92に動力が伝達される。
【0027】
上述のような車体を有するダンプトラック7のグリスアップ作業の手順を、以下に説明する。
1.ダンプトラック7の後後輪92の右側の車輪の直後の床面上に、プロペラシャフトニップル位置調整装置1を置く。プロペラシャフトニップル位置調整装置1の輪止め収納部6から輪止め61を取り出して、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源を入れる。なお、床面に作業溝が設けられている場合は、ダンプトラック7が作業溝上に停止できるような位置に、プロペラシャフトニップル位置調整装置1を配置する。
2.ダンプトラック7の運転席に乗り、ダンプトラック7をゆっくり後退させて、後後輪92の右側の車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1の上に載せる。車輪が駆動ローラ3及び従動ローラ4の上に正しく載ると、停止ランプ52が点灯するので、停止ランプ52の点灯が視認できた時点で、ダンプトラック7を停止させる。なお、このとき、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の上に載せた後後輪92の右側の車輪以外の車輪は、床面に接地している。
3.クラッチ・変速機71の変速機をニュートラルにして、パーキングブレーキをかけて、エンジンを停止する。
4.ダンプトラック7の運転席から降りて、前輪8に輪止め61をする。なお、後前輪91に輪止め61をしてもよい。
5.ダンプトラック7の運転席に乗り、パーキングブレーキを解除する。
6.ダンプトラック7の運転席から降りて、コントローラ311とグリスポンプ(図示していない)を持って、ダンプトラック7のプロペラシャフト72の下に潜り込む。
7.コントローラ311を操作して、プロペラシャフト72を回転させて、グリス注入口(ニップル)の位置合わせを行う。グリス注入口が作業しやすい位置に来たところで、コントローラ311を操作して、プロペラシャフト72を停止させる。
8.グリスポンプの先端をグリス注入口に取り付けて、グリスアップを行う。
9.手順7と8を、プロペラシャフト72の他のグリス注入口に対して行う。
10.必要に応じて、手順6~8を、インターアクスルプロペラシャフト74に対して行う。
11.グリスアップ対象のすべてのグリス注入口に対するグリスアップが終了したら、ダンプトラック7の運転席に乗り、パーキングブレーキをかける。
12.ダンプトラック7の運転席から降りて、輪止め61を外す。
13.ダンプトラック7の運転席に乗り、ダンプトラック7をゆっくり前進させて、後後輪92の右側の車輪をプロペラシャフトニップル位置調整装置1の上から退出させ、退出が視認できたら、パーキングブレーキをかけて、エンジンを停止する。
14.ダンプトラック7の運転席から降りて、輪止め61を輪止め収納部6に収納して、プロペラシャフトニップル位置調整装置1の電源をOFFにする。なお、輪止め61の収納と電源OFFは、手順12で行ってもよい。
上述の方法は、1人の作業者でグリスアップ作業を行う方法であるが、複数人の作業者で作業を分担して行うことができることは言うまでもない。
【0028】
[実施形態2]
図6は、本発明に係る実施形態2のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の使用時の側面図である。
実施形態1では、可搬式のプロペラシャフトニップル位置調整装置1を床面の上に載置して使用したが、プロペラシャフトニップル位置調整装置1を床面に掘り下げた穴の底面に載置して使用することもできる。プロペラシャフトニップル位置調整装置1を穴の底面に載置して使用するときは、傾斜部22は不要である。そのため、可搬式のプロペラシャフトニップル位置調整装置1を穴に底面に載置して使用できるように、傾斜部22を本体部21に着脱自在に設けるとよい。
また、プロペラシャフトニップル位置調整装置を穴内に固定されたものとして構成してもよい。
穴の深さは、適宜設計可能であるが、駆動ローラ3及び従動ローラ4の上面が床面に一致する程度の深さが好ましい。
使用方法は、実施形態1のプロペラシャフトニップル位置調整装置1の使用方法と同じである。
【0029】
以上、本発明に係る実施形態のプロペラシャフトニップル位置調整装置1を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 プロペラシャフトニップル位置調整装置
2 フレーム
21 本体部
22 傾斜部
23 車輪ストッパ
24 脱輪防止バー
3 駆動ローラ
31 駆動装置
311 コントローラ
4 従動ローラ
41 突起
42 空転防止ストッパ
5 停止補助装置
51 車輪載置検出器
511 遊動ローラ
512 アーム
52 停止ランプ
53 支持フレーム
6 輪止め収納部
61 輪止め
7 ダンプトラック
71 クラッチ・変速機
72 プロペラシャフト
73 インターアクスルデファレンシャル
74 インターアクスルプロペラシャフト
8 前輪
9 後輪
91 後前輪
911 後前輪デファレンシャル
912 後前輪ドライブシャフト
92 後後輪
921 後後輪デファレンシャル
922 後後輪ドライブシャフト