(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029905
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】エレベーターシステム及びエレベーター制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 1/34 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B66B1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132365
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】番場 隆行
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502JA61
3F502NA24
3F502NA31
(57)【要約】
【課題】エレベーターシステムで電気自動車などの車両からの供給電力を行う場合に、バッテリの残量がなることによるエレベーター閉じ込めを発生させない。
【解決手段】、バッテリ搭載車両に充電された電力が充放電装置2から供給される電源入力部301と、充放電装置2と通信を行う送受信部302と、バッテリ搭載車両からの電力供給を開始するときに、バッテリ搭載車両に搭載されたバッテリの充電残量が、当該エレベーターシステムを一定時間駆動可能な充電残量であるときに、充放電装置から送信される運転指令信号を送受信部302で受信して乗りかごの走行を開始させるエレベーター制御部303とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ搭載車両への充電及び前記バッテリ搭載車両からの放電が可能な充放電装置からの電力供給が可能なエレベーターシステムであり、
前記バッテリ搭載車両に充電された電力が前記充放電装置から供給される電源入力部と、
前記充放電装置と通信を行う送受信部と、
前記バッテリ搭載車両からの電力供給を開始するときに、前記バッテリ搭載車両に搭載されたバッテリの充電残量が、当該エレベーターシステムを一定時間駆動可能な充電残量であるときに、前記充放電装置から送信される運転指令信号を前記送受信部で受信して乗りかごの走行を開始させるエレベーター制御部と、を備える
エレベーターシステム。
【請求項2】
前記エレベーター制御部は、前記充放電装置が故障又はエラー検出を示す設備故障信号を、前記送受信部が受信したとき乗りかごの走行を開始させないようにする
請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
乗りかごの状態を検出するかご状態検出部を備え、
前記エレベーター制御部は、前記電源入力部に前記バッテリ搭載車両からの電力供給が開始されたとき、前記かご状態検出部が乗りかごがいずれかの階に着床していないとき、前記バッテリ搭載車両から供給される電力で、前記乗りかごを最寄階に着床させてドア開とする
請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
前記エレベーター制御部は、前記バッテリ搭載車両からの電力供給時には、前記乗りかごの走行速度を通常運用の速度より低い速度とする
請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
前記一定時間駆動可能な充電残量は、当該エレベーターシステムの乗りかごの移動階床数に基づいて設定される
請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
エレベーターの運転を制御するエレベーター制御方法であって、
バッテリ搭載車両からの電力が充放電装置から供給される電力でエレベーターを駆動する電源入力処理と、
前記充放電装置と通信を行う送受信処理と、
前記バッテリ搭載車両からの電力供給を開始するときに、前記車両に搭載されたバッテリが、当該エレベーターシステムを一定時間駆動可能な充電残量であるときに、前記充放電装置から送信される運転指令信号を受信して乗りかごの走行を開始させるエレベーター制御処理と、を含む
エレベーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム及びエレベーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリを動力源とした電気自動車が普及拡大されており、ショッピングセンター等の大型施設やマンション、オフィスビルに、電気自動車用の充電設備の備え付けが併せて普及拡大している。
この充電設備は、通常、電気自動車への充電を行うが、建物の停電時に充電から放電へ切り替えて、電気自動車のバッテリを利用して建物内の設備への電力供給を行うこともできるハイブリッド型電気自動車充電設備という製品も開発されている。
【0003】
一方で、上述した建物の多くには、昇降設備としてエレベーターが備わっており、停電時にはエレベーターに備え付けられたバッテリにより最寄階まで走行することで、乗客が閉じ込められないようにした設備が備え付けられていることが多い。
しかし、エレベーターに備え付けられたバッテリは、基本的には閉じ込め発生防止目的のためのものであって容量が少ないため、最寄階への走行後には、エレベーターは停電復旧まで停止となる。
【0004】
特許文献1には、ハイブリッド型電気自動車充電設備を用いて、電気自動車からエレベーターへ電力供給することで停電時においてもエレベーターを走行させる連動制御技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、ハイブリッド型電気自動車充電設備を用いたエレベーターへの電力供給制御では、電気自動車から供給される電圧値でエレベーターへ電力供給が可能かを判定し、供給可であれば電力供給することで適切にエレベーターを動作させる制御を行っている。
しかしながら、電圧値だけではエレベーターを駆動するのに必要なバッテリ残量であるかが判断できない。したがって、電圧値は問題ない場合でも、エレベーターを一定時間動作させるための容量が不足している場合があり得る。
【0007】
近年、エレベーターは停電時に最寄階まで運行するための非常用バッテリを搭載するのが一般的であるが、停電が頻発した場合には、非常用バッテリの残量がなくなってしまう可能性がある。このように非常用バッテリの残量がなくなった場合や、非常用バッテリ非搭載のエレベーターの場合には、停電時に、階と階の中間で乗りかごが停止をしていたり、最寄階でドアが開いた状態、または半開き状態で停止してしまう可能性がある。したがって、停電発生時には、不安定な状態で電源再起動することによる閉じ込め等のリスクがある。
【0008】
本発明の目的は、電気自動車などの車両からの供給電力を行う場合に、エレベーター閉じ込めを発生させないエレベーターシステム及びエレベーター制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、バッテリ搭載車両への充電及びバッテリ搭載車両からの放電が可能な充放電装置からの電力供給が可能なエレベーターシステムであり、バッテリ搭載車両に充電された電力が充放電装置から供給される電源入力部と、充放電装置と通信を行う送受信部と、バッテリ搭載車両からの電力供給を開始するときに、バッテリ搭載車両に搭載されたバッテリの充電残量が、当該エレベーターシステムを一定時間駆動可能な充電残量であるときに、充放電装置から送信される運転指令信号を、送受信部で受信して乗りかごの走行を開始させるエレベーター制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充放電装置に接続された車両のバッテリ容量不足や、エレベーターの突然の動作による閉じ込め発生を防ぐことが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態例によるエレベーターシステムと充放電装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態例によるエレベーターシステムの制御装置のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施の形態例による充放電装置とエレベーター側送受信部との間で送受信される信号を示す図である。
【
図4】本発明の一実施の形態例による電気自動車のバッテリ電力供給の処理の例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施の形態例による充放電装置の表示パネルの表示例を示す図である。
【
図6】本発明の他の実施の形態例によるエレベーターシステムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)によるエレベーターシステム及びそのシステムを利用して行われるエレベーター制御方法を、添付図面を参照して説明する。
【0013】
[エレベーターシステムと充放電装置の構成]
まず、
図1を参照して、本例のエレベーターシステム3と、そのエレベーターシステムに接続される充放電装置2の構成を説明する。
図1に示すように、本例のエレベーターシステム3は、充放電装置2を経由して商用電源が供給される構成になっており、通常時には、商用電源が入力電源として作動するように構成されている。
また、充放電装置2には電気自動車1が接続されており、商用電源の停電時には、電気自動車1に搭載されたバッテリからの電源が充放電装置2からエレベーターシステム3に供給されて、エレベーターシステム3が作動する構成になっている。
【0014】
まず、充放電装置2の構成について説明すると、充放電装置2は、本例のエレベーターシステム3が設置された建物に、予備電源として接続されるハイブリッド型電気自動車充電設備である。
充放電装置2は、AC/DC変換部201、充電部202、充放電切替部203、放電部204、充放電制御部205、バッテリ残量検出部206、送受信部207、電力切替部208、充放電用コネクタ210、及びユーザ操作部220を備える。
【0015】
充放電装置2は、商用電源が供給される通常時においては、AC/DC変換部201が商用電源(200Vなどの交流電源)をDC電源(直流電源)に変換し、変換したDC電源を充電部202に供給する。充電部202は、得られるDC電源を、充放電切替部203を介してコネクタ210で接続された電気自動車1に供給して、電気自動車1に搭載されたバッテリに充電する。
【0016】
ここで、バッテリ残量検出部206は、電気自動車1との通信、あるいは電気自動車1への充電電流や充電電圧を監視することで、バッテリ残量を検出し、検出したバッテリ残量を充放電制御部205に供給する。充放電制御部205は、バッテリ残量検出部206で検出されたバッテリ残量が、エレベーターシステム3を少なくとも一定時間駆動可能な充電残量あるか否かを判断する。
通常、電気自動車1のバッテリの残量や充放電は、電気自動車1に搭載されたバッテリ制御部(不図示)により管理されるのであるが、充放電装置2のバッテリ残量検出部206は、電気自動車1に搭載されたバッテリ制御部と通信を行って、電気自動車1のバッテリへの充電や放電を行う際のバッテリ残量を検出している。但し、充放電装置2のバッテリ残量検出部206が単独で、電気自動車1への充電電流や充電電圧からバッテリ残量を検出(推定)するようにしてもよい。
【0017】
また、充放電制御部205は、充放電切替部203における充電と放電の切替、並びに充電の開始・終了と放電の開始・終了を制御する。充放電制御部205による充電の開始と終了の制御は、バッテリ残量検出部206が検出したバッテリ残量と、ユーザ操作部220による充電の開始操作及び停止操作に基づいて行われる。
ユーザ操作部220は、例えば表示機能付きのタッチパネルで構成され、ユーザ操作部220には、コネクタ210の電気自動車1からの切り離しの可否なども表示される。
【0018】
また、充放電装置2の電力切替部208は、充放電制御部205からの指令で、エレベーターシステム3に供給する電力の切替処理を行っている。すなわち、電力切替部208は、商用電源が得られる通常時には、エレベーターシステム3の電源入力部301に商用電源を供給する。また、商用電源が停電時には、電力切替部208は、充放電制御部205からの指令で、電気自動車1から供給される電源をエレベーターシステム3の電源入力部301に供給する。
【0019】
この電気自動車1からの電源供給時には、充放電制御部205は、充放電切替部203を放電に切替え、充放電切替部203で得た電気自動車1からの電源を、放電部204を介してAC/DC変換部201に供給する。AC/DC変換部201は、電気自動車1からのDC電源をAC電源に変換し、電力切替部208を介してエレベーターシステム3の電源入力部301に供給する。
【0020】
なお、この電気自動車1からの電源供給時には、充放電制御部205は、充放電装置2の送受信部207とエレベーターシステム3の送受信部302を介して、エレベーター制御部303とデータの送受信を行った上で、電気自動車1からの電源供給を行う。この充放電制御部205とエレベーター制御部303とのデータの送受信により行われる電源供給の処理の詳細は後述する。
【0021】
次に、エレベーターシステム3の構成について説明する。
エレベーターシステム3は、電源入力部301、送受信部302、エレベーター制御部303、乗りかご304、巻上機305、かご状態検出部306、及び非常用バッテリ307を備える。
【0022】
電源入力部301には、充放電装置2の電力切替部208から、商用電源又は電気自動車1からの電源が供給される。すなわち、電源入力部301は、電源入力処理を行って、電力切替部208から供給された電源により、エレベーターシステム3全体を作動させる。
送受信部302は、充放電装置2側の送受信部207との間で送受信処理を行う。
エレベーター制御部303は、電源入力部301に供給される電源で作動し、巻上機305による乗りかご304の走行・停止や、乗りかご304のドア開閉などのエレベーターの運行を制御する。
【0023】
また、エレベーター制御部303は、エレベーターシステム3側の送受信部302と充放電装置2側の送受信部207との通信により、充放電装置2と随時、データの送受信を行う。なお、エレベーター制御部303がデータの送受信を行う詳細については後述する。
【0024】
なお、図示は省略するが、乗りかご304には、エレベーター利用者に対し、案内誘導や状態表示を行うための誘導灯、液晶インジケータ、自動アナウンス機能が備え付けてある。
かご状態検出部306は、エレベーターシステム3の乗りかご304の運転状況の判定処理を行う。すなわち、かご状態検出部306は、巻上機305の状態や、昇降路や乗りかご304に設置されたセンサの検出値などから、乗りかご304が階床間を走行中か否か、各階床に停止中か否か、あるいは停止した階床でかごドアや乗場ドアが開か閉のどちらになっているか等を検出する。
【0025】
非常用バッテリ307は、停電によりエレベーターシステム3への電力供給が絶たれた場合に、乗りかご304を最寄階に走行し、ドア開閉後停止させる。但し、非常用バッテリ307の容量は、少なくとも1回、乗りかご304を最寄階に走行しドア開閉後停止させることが可能な程度の容量でしかない。
したがって、非常用バッテリ307の充電残量がなくなった場合には、非常用バッテリ307の充電完了までには、商用電源が復旧してからある程度の時間が必要になる。
なお、エレベーターシステム3の構成によっては、この非常用バッテリ307が用意されていない場合もある。
【0026】
[エレベーター制御部のハードウェア構成例]
図2は、エレベーター制御部303のハードウェア構成例を示す。
エレベーター制御部303は、例えば情報処理装置であるコンピュータにより構成することができる。
図2は、エレベーター制御部303をコンピュータで構成した場合の例を示す。
エレベーター制御部303としてのコンピュータは、プロセッサであるCPU(中央処理ユニット:Central Processing Unit)303a、ROM(Read Only Memory)303b、RAM(Random Access Memory)303c、及び不揮発性ストレージ303dを備える。
不揮発性ストレージ303dとしては、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、あるいは半導体メモリなどが使用される。
また、コンピュータは、他の機器とデータの送受信を行うためのネットワークインターフェース303eと、エレベーターシステム3内の機器と信号のやり取りを行うための入出力部303fとを備える。
【0027】
CPU303aは、ROM303bまたは不揮発性ストレージ303dが記憶したプログラムをRAM303cで実行させることで、
図4のフローチャートに示す各処理を実行する処理部が構成される。
不揮発性ストレージ303dは、エレベーター制御部303としての処理を行うプログラムを記憶すると共に、エレベーターを制御する上で必要な情報などを記憶する。
【0028】
ネットワークインターフェース303eは、送受信部302としての通信機能を有する。入出力部303fは、巻上機305への指令の出力や、かご状態検出部306で検出された信号の入力と、エレベーターシステム3内の各部との送受信処理を行う。
【0029】
なお、図示は省略するが、充放電装置2の充放電制御部205も、同様のコンピュータで構成される。但し、充放電装置2の充放電制御部205の場合には、ユーザ操作部220に相当する入力部や表示部がCPUに接続される点が、エレベーター制御部303とは相違する。
【0030】
[エレベーターシステムと充放電装置との間の信号送受信関係]
図3は、本例のエレベーターシステム3の送受信部302と、充放電装置2の送受信部207との間で送受信される信号の例を示す。この
図3に示す信号は、商用電源が停電して、電気自動車1のバッテリから電源をエレベーターシステム3に供給する場合の例である。エレベーターシステム3の送受信部302での送受信は、エレベーター制御部303による制御で行われ、充放電装置2の送受信部207での送受信は、充放電制御部205による制御で行われる。
【0031】
まず、充放電装置2からエレベーターシステム3への、電気自動車1からの電力供給が開始される際には、充放電制御部205からの指示で、送受信部207が自立電源確立信号401を送信する。
ここでは自立電源確立信号401は、充放電装置2から充放電制御部205の指示で送信される信号であるとしているが、充放電装置2の電力切替部208が受け付けた信号でもよいし、ユーザ操作部220のユーザ操作により受け付けた信号である場合も考えられる。
【0032】
電気自動車1からの電力供給の成立後は、充放電装置2の送受信部207は、エレベーターシステム3に対し、自立運転指令信号402を送信する。この自立運転指令信号402は、エレベーターシステム3に対して電気自動車1からの電力供給で動作することを示す信号である。自立運転指令信号402を受信したエレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、通常定常速度より速度を低下させた定速運転を行うようにする。これにより、エレベーターシステム3が通常定常速度で運行した場合に発生する負荷電流による、電気自動車1のバッテリの大電流放電での劣化を軽減することができる。
【0033】
また、電気自動車1からの電力供給時には、充放電制御部205が充放電装置2自身を診断した結果、故障や異常がない場合に、送受信部207は、受電設備正常信号403を送信する。
これまで説明した自立電源確立信号401と自立運転指令信号402と受電設備正常信号403とをエレベーターシステム3の送受信部302が受信すると、エレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、電気自動車1からの電力供給に従ってエレベーターシステム3を動作させる。このとき、エレベーター制御部303は、かご状態検出部306が検出した乗りかご304の状態も確認する。
【0034】
ここで、エレベーター制御部303は、乗りかご304が階と階の間等の位置以外にいる場合や、階に停止しドアが開放状態の場合は、階位置への運転及びドア閉じを行いつつ乗りかごの自動アナウンス等で注意喚起を行う。そして、エレベーター側送受信部302は、充放電装置2にエレベーター最寄階運転信号404を送信する。これは、エレベーター利用者が安全に乗り込めるように、階位置でドア閉じ状態で充放電装置2が始動するために行われる。
【0035】
エレベーター最寄階運転信号404を受信した充放電装置2は、最寄階への運転動作により電気自動車1のバッテリを一度消費している可能性があり、残容量でエレベーターシステム3を動作させることが可能か否かを再び確認し、可能であれば、送受信部207がエレベーターシステム3に自立運転再指令信号405を送信する。
エレベーター制御部303は、乗りかご304が階位置で、かつドアが閉まった状態で電気自動車1からの電力供給で走行できると判断すると、乗りかご304の走行を開始する。それを受けてエレベーター側の送受信部302は、充放電装置2にエレベーター起動信号406を送信する。
【0036】
なお、エレベーター制御部303は、エレベーターシステム3内で故障や不具合を検出した場合に、送受信部302を通して充放電装置2にエレベーター起動不可信号407を送信する。このエレベーター起動不可信号407を受信した充放電装置2は、ユーザ操作部220により建物管理者や電気自動車所有者等の利用者に対して、エレベーター起動不可状態であることが通知される(ステップS34)。すると、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1のバッテリ電力の電力切替部208からの供給を停止する(ステップS32)。
【0037】
[車両からの供給時の処理の流れ]
図4は、本例のエレベーターシステム3と充放電装置2とにより、停電時に電気自動車1から電源の供給を受けてエレベーターを運転する際の処理の例を示すフローチャートである。
図4のフローチャートにおいて、左半分の処理(ステップS11,S12,S18-S24,S33の処理)は、エレベーターシステム3で行われる処理であり、右半分の処理(ステップS13-S17,S25-S32の処理)は、充放電装置2で行われる処理である。
【0038】
まず、停電により建屋の電源遮断が発生すると(ステップS11)、まずエレベーター制御部303は、非常用バッテリ307による非常用運転に切り替え、乗りかご304を最寄階へ走行させ、ドア開閉にて乗客をエレベーター外へ誘導してから停止状態にする(ステップS12)。
次に、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1から電力供給されているか否かを判断する(ステップS13)。つまり、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1側で充放電装置2への放電が可能な状態で、電気自動車1が接続されているか否かを判断する。ステップS13で、電力供給がされていない場合(ステップS13のNO)、充放電制御部205はそのまま待機しステップS13の判断を繰り返す。
【0039】
ステップS13で、電気自動車1からの電力供給がされている場合(ステップS13のYES)、バッテリ残量検出部206は、電気自動車1のバッテリ残容量を検出する(ステップS14)。そして、充放電制御部205は、バッテリ残容量が予め設定された一定容量以上か否かを判断する(ステップS15)。
ステップS15で、バッテリ残容量が一定量以上の場合は(ステップS15のYES)、さらに充放電制御部205は、充放電装置2の診断を行い、充放電装置2内の回路や処理部に故障又はエラーが発生していないかどうかを判断する(ステップS16)。
【0040】
ステップS16の判断で、故障やエラーが発生していない場合(ステップS16のYES)、充放電制御部205は、電力切替部208により電気自動車1からの電源を出力させ、電気自動車1からの電力をエレベーターシステム3に供給を開始する(ステップS17)。このとき、充放電制御部205からの指示で、送受信部207は、
図3で説明した自立電源確立信号401と自立運転指令信号402をエレベーターシステム3に送信する。
【0041】
エレベーターシステム3では、電源入力部301への電源供給が行われ、送受信部302が自立電源確立信号401及び自立運転指令信号402を受信すると、エレベーター制御部303は、かご状態検出部306での検出値から、乗りかご304の停止位置の検出を行う(ステップS18)。
そして、エレベーター制御部303は、乗りかご304が各階の停止位置(階位置)で停止して、かごドアと乗場ドアが閉じた状態になっているか否かを判断する(ステップS19)。ステップS19で、乗りかご304が階位置で停止してかごドアと乗場ドアが閉じた状態にあると判断したとき(ステップS19のYES)、エレベーター制御部303は、供給される電気自動車1の電力で乗りかご304を走行させる動作を行う(ステップS22)。ここでの走行は、バッテリの負担を軽減するために、通常時よりも低速で走行させるのが好ましい。
【0042】
次に、エレベーター制御部303は、ステップS22でのエレベーター動作を監視して、エレベーターシステム3に故障又はエラー検出した箇所があるか否かを判断する(ステップS23)。ステップS23で、故障やエラー検出した箇所がない場合(ステップS23のNO)、エレベーター制御部303は、送受信部302から充放電装置2に、エレベーター起動信号406(
図3参照)を送信する(ステップS24)。
また、ステップS23で、故障やエラー検出した箇所がある場合(ステップS23のYES)、エレベーター制御部303は、エレベーター制御部303は、送受信部302から充放電装置2に、エレベーター起動不可信号407(
図3参照)を送信する(ステップS33)。ユーザ操作部220により建物管理者や電気自動車所有者等の利用者に対して、エレベーター起動不可状態であることが通知される(ステップS34)。すると、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1のバッテリ電力の電力切替部208からの供給を停止する(ステップS32)。
【0043】
ステップS24で、エレベーターシステム3側から充放電装置2側にエレベーター起動信号406が送信されると、充放電装置2側の充放電制御部205は、エレベーター起動信号406を送受信部302で受信したか否かを判断する(ステップS25)。ステップS25で、エレベーター起動信号406を受信したとき(ステップS25のYES)、充放電制御部205は、電源供給開始の処理を完了する。
【0044】
一方、ステップS19で、乗りかご304が階位置で停止していない状態であるか、あるいは階位置に停止していてもドア開の状態であると判断したとき(ステップS19のNO)、エレベーター制御部303は、乗りかご304を最寄階へ走行させ、ドア開とその後のドア閉を一度実施する(ステップS20)。このとき、ドアの開閉時には、乗りかご304内でのアナウンスや状態表示で、エレベーター利用者が乗りかご304を利用しないように注意喚起を行う。
そして、乗りかご304が最寄階でドア閉じ状態となると、エレベーター制御部303は、送受信部302から充放電装置2に、エレベーター最寄階運転信号404を送信する(ステップS21)。
【0045】
このステップS20とステップS21の処理が行われると、充放電装置2の充放電制御部205は、ステップS25において、エレベーター起動信号406を受信しないと判断する(ステップS25のNO)。そして、充放電制御部205は、エレベーター最寄階運転信号404を受信するか否かを判断する(ステップS26)。ステップS26で、エレベーター最寄階運転信号404を受信しないとき(ステップS26のNO)、充放電制御部205は、ステップS25の判断に戻る。
【0046】
そして、ステップS26で、エレベーター最寄階運転信号404を受信したとき(ステップS26のYES)、バッテリ残量検出部206は、電気自動車1のバッテリ残容量を検出する(ステップS27)。そして、充放電制御部205は、バッテリ残容量が予め設定された一定容量以上か否かを判断する(ステップS28)。
ステップS28で、バッテリ残容量が一定量以上の場合は(ステップS28のYES)、さらに充放電制御部205は、充放電装置2の診断を行い、充放電装置2内の回路や処理部に故障又はエラーが発生していないか否かを判断する(ステップS29)。
【0047】
ステップS29の判断で、故障やエラーが発生していない場合(ステップS29のYES)、充放電制御部205からの指示を受けて、送受信部207は、自立運転再指令信号405(
図3参照)をエレベーターシステム3に送信する(ステップS30)。
すると、自立運転再指令信号405を受信したエレベーターシステム3のエレベーター制御部303は、既に説明したステップS18からステップS33までの処理を実行する。
【0048】
また、ステップS15とステップS28でバッテリ残容量が適切でない場合(ステップS15,S28のNO)、及びステップS16とステップS29で故障やエラーを検出した場合(ステップS16,S29のNO)には、ユーザ操作部220により建物管理者や電気自動車所有者等の利用者に対して、電力供給不可状態であることが通知される(ステップS31)。すると、充放電装置2の充放電制御部205は、電気自動車1のバッテリ電力の電力切替部208からの供給を停止する(ステップS32)。
このステップS32で、電気自動車1からの電力供給が停止した状態になると、エレベーターシステム3は、乗りかご304が階位置でドア閉じ状態で停止している状態であるため、エレベーター利用者は乗りかご304への出入りが不可となるので、エレベーターかご内への閉じ込めの発生は生じることがない。
【0049】
[ユーザ操作部の表示例]
図5は、ユーザ操作部220の表示パネル221の表示例を示す。
図5Aは、電気自動車1からエレベーターへの電源供給が行われている状態の例を示す。このとき、表示パネル221は、ビルが停電中である旨の表示と、電気自動車からエレベーターへ電力供給中である旨の表示222を行う。
【0050】
図5Bは、電気自動車1のバッテリ残量が一定以下に低下したときの例を示す。このとき、表示パネル221は、ビルが停電中である旨の表示と、電気自動車のバッテリ容量低下のためエレベーターが停止している旨の表示223を行う。
【0051】
[本実施の形態例による効果]
以上説明した処理が行われることで、本例のエレベーターシステム3では、電気自動車1のバッテリ残容量が満足している状態でのみ、エレベーターシステム3の乗りかご304を走行させることが可能になる。
【0052】
エレベーターシステム3側の送受信部302が充放電装置2から故障又はエラー検出を示す設備故障信号を受信した場合には、エレベーター制御部303は、エレベーター起動信号406を発生さないようにする。これにより、充放電装置2に不具合がある場合には、充放電装置2側からの電力供給が行われることがないので、不安定なエレベーター運転を防ぐことができる。
【0053】
さらに、エレベーター制御部303は、電源入力部301に電気自動車1からの電力供給が開始されたとき、かご状態検出部306が検出した乗りかごの状態が、いずれかの階に着床していない場合には、供給される電力で、最寄階に着床させてドア開とする運転を実行する。そして、エレベーター制御部303は、供給される電力での利用者の救出を優先して行うため、エレベーター利用者の救出と、エレベーター閉じ込めの発生を確実に行うことができる。
【0054】
さらに、エレベーター制御部303は、電気自動車1からの電力供給時には、乗りかご304の走行速度を制限することにより、電気自動車1に搭載されたバッテリの劣化を防止するようにしている。これにより、エレベーターシステム3は、走行に必要な電力を節約することができ、長時間のバッテリ駆動が可能になる。
【0055】
[変形例]
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0056】
例えば、上述した実施の形態例では、充放電装置2が、エレベーターシステム3への電力切替えを行う電力切替部208を内蔵する構成としたが、エレベーターシステム3への電力切替えを行う電力切替部208は、充放電装置2の外部に設けてもよい。
すなわち、
図6に示すように、充放電装置2′とは別に電力切替部208′を設け、充放電装置2′の充放電制御部205からの指示で、その電力切替部208′が、商用電源のエレベーターシステム3の供給と、電気自動車1からの電源の供給とを切り替えるようにしてもよい。
【0057】
また、
図6に示すように、ユーザ操作部220′を、充放電装置2′とは別体のものとしてもよい。この場合のユーザ操作部220′としては、例えばユーザが所持したスマートフォン、タブレット端末、コンピュータ端末などの端末でもよい。
充放電装置2′は、電力切替部208とユーザ操作部220を備えない構成になっており、それ以外の構成は、
図1に示す充放電装置2と同じである。また、電力切替部208′やユーザ操作部220′が行う処理も、
図1に示す電力切替部208とユーザ操作部220が行う処理と同じである。
【0058】
また、
図1や
図6の構成では、エレベーターシステム3が非常用バッテリ307を備えるようにしたが、非常用バッテリ307を備えないエレベーターシステムに適用してもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態例では、充放電装置2の充放電制御部205は、バッテリ残量検出部206が検出したバッテリ残量が、エレベーターシステム3を少なくとも一定時間駆動可能な充電残量あるか否かを判断するようにしたが、ここで判断する充電残量は、接続されるエレベーターシステム3によって調整できるようにしてもよい。
【0060】
例えば、一定時間駆動可能な充電残量として、乗りかごの移動階床数に基づいて設定されるようにしてもよい。
具体的には、高層階まで昇降するエレベーターシステムの場合には、充放電制御部205が判断する充電残量を比較的大きな残量として、高層階まで昇降する運転がある程度の時間駆動できるか否かの判断を行うようにする。
一方、低層階だけの間を昇降するエレベーターシステムの場合には、充放電制御部205が判断する充電残量を比較的小さな残量として、低層階の間での運転がある程度の時間駆動できるか否かの判断を行うようにする。
このように、充放電制御部205が判断する充電残量を調整することにより、様々なビルに設置されたエレベーターへの電源供給を適切に行うことが可能になる。
【0061】
また、上述した実施の形態例では、充放電装置2に接続される車両は電気自動車としたが、ここでの電気自動車には、エンジンとモータとを備えて、バッテリが蓄電を行うハイブリッド型の自動車などの、バッテリを備えた各種車両が含まれる。
【0062】
また、
図1に示す構成や
図4に示すフローチャートでは、エレベーターシステム3が備えるエレベーター制御部303が、停電時の処理を行うようにしたが、既存のエレベーターシステムの制御部に実装されたプログラムを修正して、同様の処理を行うようにしてもよい。
この場合のプログラムについては、
図2に示したエレベーター制御部303を構成するコンピュータ内の不揮発性ストレージやメモリに用意する他に、外部のメモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置いて、転送してもよい。
さらに、エレベーター制御部303が行う機能の一部又は全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0063】
また、
図1や
図6に示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。また、
図4に示すフローチャートについても、処理結果が同じであれば、処理順序を変更したり、複数の処理を同時に実行してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…電気自動車、2,2′…充放電装置、3…エレベーターシステム、201…AC/DC変換部、202…充電部、203…充放電切替部、204…放電部、205…充放電制御部、206…バッテリ残量検出部、207…送受信部、208,208′…電力切替部、210…充放電用コネクタ、220,220′…ユーザ操作部、221…表示パネル、223…電気自動車切り離しボタン、301…電源入力部、302…送受信部、303…エレベーター制御部、303a…CPU、303b…ROM、303c…RAM、303d…不揮発性ストレージ、303e…ネットワークインターフェース、303f…入出力部、305…巻上機、306…かご状態検出部、307…非常用バッテリ、401…自立電源確立信号、402…自立運転指令信号、403…受電設備正常信号、404…エレベーター最寄階運転信号、405…自立運転再指令信号、406…エレベーター起動信号、407…エレベーター起動不可信号