(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002991
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】Y-O―F化合物を含むプラズマ溶射材料、その製造方法及びそれによって製造された溶射皮膜
(51)【国際特許分類】
C23C 4/04 20060101AFI20231228BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C23C4/04
H01L21/302 101G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104555
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】10-2022-0077391
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】523244462
【氏名又は名称】コミコ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン、キ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、トン フン
(72)【発明者】
【氏名】パン、ソン シク
【テーマコード(参考)】
4K031
5F004
【Fターム(参考)】
4K031AA08
4K031AB02
4K031CB41
4K031CB42
4K031DA04
5F004AA16
5F004BB29
5F004DA01
5F004DA23
5F004DA26
(57)【要約】
【課題】高いプラズマ抵抗性を有するプラズマ溶射コーティングのための溶射材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(a)大気プラズマジェット(plasma jet)中にイットリウム化合物粉末を投入して溶融させる段階;及び、(b)前記溶融したイットリウム化合物の液滴を冷却させてイットリウム化合物粉末を製造する段階を含むことを特徴とするプラズマ溶射用材料の製造方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)大気プラズマジェット(plasma jet)中にイットリウム化合物粉末を投入して溶融させる段階;及び
(b)前記溶融したイットリウム化合物の液滴を冷却させてイットリウム化合物粉末を製造する段階を含むことを特徴とするプラズマ溶射用材料の製造方法。
【請求項2】
前記段階(b)は、
(b1)前記溶融したイットリウム化合物液滴を冷媒に噴射する段階;及び
(b2)前記(b1)段階後に冷媒を除去して乾燥させる段階;を含むことを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ溶射用材料の製造方法。
【請求項3】
前記(b1)段階で溶融した液滴の噴射時に、噴射吐出口から冷媒表面までの隔離距離が400~600mmであることを特徴とする、請求項2に記載のプラズマ溶射用材料の製造方法。
【請求項4】
前記段階(b)のイットリウム化合物粉末においてY、O及びFのモル数は1.5<(O+F)/Y<2.0を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ溶射用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Y-O-F化合物を含むプラズマ溶射材料及びその製造方法に関し、より詳細には、高いプラズマ抵抗性を有するプラズマ溶射コーティングのための溶射材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体工程の高集積化及び線幅超微細化技術は、高密度プラズマ、高清浄度、過度な電気的衝撃などの超極限環境下でのプラズマエッチング工程を要求している。特に、化学的反応性が強いF、Cl又はBrなどのハロゲン元素を含む反応ガスを用いるプラズマエッチング工程は、ウエハー表面の様々な蒸着材料をエッチングさせると同時に、チャンバー内部の金属又はセラミック部品との化学的及び物理的反応によって部品表面の損傷と共に不揮発性汚染粒子の発生を招く。
【0003】
そのため、最近では、金属又はセラミック部品の表面に優れた耐プラズマ抵抗性を示すセラミック素材のコーティングへの関心が大きく増加しており、代表として、酸化イットリウム(Y2O3)コーティングが広く適用されている。
【0004】
酸化イットリウム(Y2O3)は、高い溶融点(2,450℃)、化学的安定性及び2,300℃までの結晶学的安定性を示し、特に、Y2O3は、Fラジカルに対する優れた化学的安定性、イットリウムの高い原子質量による高いイオン衝突抵抗性、及び反応生成物であるYF3の優れた機械的特性などによって優れた耐プラズマ抵抗性を示す。
【0005】
しかし、前記Y2O3コーティング層の上部面においてエッチング工程プロセス初期にSF6、CF4、CHF3、HFなどのプラズマガスと反応時にチャンバー内フッ素系ガスの濃度変化が発生してエッチング工程のシーズニング時間(Seasoning Time)が増加し、Y2O3の表面と前記プラズマガスとが反応してフルオロを含む汚染粒子が形成され、このY2O3が熱サイクルを受ける場合に、汚染粒子とY2O3との熱膨張係数差によって応力が発生し、汚染粒子が脱落する問題点があった。
【0006】
これを解決するために、耐食性に優れているYF3が導入された。しかし、前記YF3は、大気プラズマ溶射(Atmospheric Plasma Spraying,APS)過程中に超高温プラズマに溶融してしまい、フッ化物の一部が酸化して部分的にフッ化物と酸化物とが混合されたコーティング層が形成される問題点があり、また、Y2O3溶射コーティング層と比較して、コーティング層内亀裂とエッチングチャンバー内でのパーティクルの発生が多いという問題を招くことがあった。
【0007】
このようなY2O3及びYF3の問題を解決するために、Y2O3及びYF3の中間性質を有するY-O-Fコーティング層が導入された。
【0008】
一例として、韓国公開特許第10-2019-0017333号(公開日:2019.02.20.)では、酸化イットリウム(Y2O3)粉末とYF3粉末を1:2~2:1の重量比で混合した後に熱処理することにより、汚染粒子の発生が少なく、耐プラズマ性に優れることから、半導体装備コーティングに適用可能なYOF系粉末の製造方法を開示している。
【0009】
他の例として、韓国公開特許第10-2019-0082119号(公開日:2019.07.09)では、Y、O及びFを含む混合粉末を用いて基材にYOFコーティング膜を形成するが、前記Y:O:FのXPSによる成分を1:1:1にすることにより、気孔率を0.01~1.0%に減少させると共に硬度を6~12GPaに向上させ、腐食性ガス及び高速衝突イオン粒子に対する高いエッチング抵抗性を有し、優れたプラズマ抵抗性を有するコーティング膜を提供できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】KR2019-0017333A
【特許文献2】KR2019-0082119A
【特許文献3】JP6918996B
【特許文献4】JP7035293B
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した従来技術によるY-O-Fプラズマ溶射コーティング層は、次のような問題点を示す。まず、従来技術によるY-O-Fプラズマ溶射コーティング層は、他のセラミックス材質のプラズマ溶射コーティング層に比べて気孔率が顕著に高い。YAG、Y2O3、YF3コーティング層が3%以内の良好な気孔率を示すのに対し、Y-O-Fコーティング層では7%以上と高い気孔率を示す。粒子の大きさは気孔率に影響を及ぼす因子の一つであるが、粒子の大きさが小さいほどコーティング層の気孔率及び表面粗さが低くなる傾向を示す。しかし、一定大きさ以下の粒子の場合、大きさが小さくなりながら狭まった粒子間距離によって凝集力が増加し、パウダー移送間に発生する摩擦静電気によってプラズマ中心へのパウダー移送自体が不可な技術的問題があるため、粒子の大きさを減少させて気孔率を下げるには限界がある。
【0012】
次に、Y-O-Fプラズマ溶射コーティング層の硬度が他のセラミックス材質のプラズマ溶射コーティング層に比べて低いという問題点がある。YAGコーティング層では600~700Hv、Y2O3コーティング層では450~550Hvレベルの硬度を示すが、Y-O-Fコーティング層では300~400Hvレベルの硬度を示す。たとえY-O-Fコーティング層が化学的に安定しているとしても、低い物理的特性のため、乾式エッチング工程で発生する物理的なイオン衝突(Ion bombardment)によって容易くエッチングされてパーティクルが発生することは、コーティング層において致命的な欠点になり得るし、溶射コーティング層の製造工程においても弱い機械的特性は問題になり得る。
【0013】
最後に、Y-O-Fプラズマ溶射コーティング層は、酸素ラジカルとフッ素系プラズマガスを同時に使用する工程において強いと知られているが、一部の工程では、高いフッ素含有量によって工程途中にF-イオンガスが半導体工程に混入してしまい、エッチング速度を増加させるなどの問題点がある。
【0014】
したがって、本発明は、Y-O-Fコーティング層は3成分系化合物を主要な成分としながらも、従来のY-O-Fプラズマ溶射コーティング層に比べて低い気孔率と高い硬度を有し、エッチング工程で発生するプラズマガスに対して物理的安定性及び化学的安定性を有するY-O-F溶射コーティング層を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、向上した特性を有するY-O-Fプラズマ溶射コーティング層の生成に適した溶射用材料を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、前述した溶射用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の技術的課題を達成するために、本発明は、イットリウム化合物を含むプラズマ溶射用材料において、前記イットリウム化合物中のY、O及びFのモル数が1.5<(O+F)/Y<2.0を満たすプラズマ溶射用材料を提供する。
【0018】
本発明において、前記イットリウム化合物は、Y-O-F化合物と、Y2O3を含んでよい。このとき、前記Y-O-F化合物は、O/F=1である第1のY-O-F化合物と、O/F<1である第2のY-O-F化合物を含んでよい。また、前記第2のY-O-F化合物は、Y4O3F6、Y5O4F7、Y6O5F8及びY7O6O9からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでよく、例示的には、前記第2のY-O-F化合物は、Y5O4F7を含んでよい。
【0019】
本発明において、前記第2のY-O-F化合物の含有量は、前記第1のY-O-F化合物の含有量よりも低いことが好ましい。
【0020】
本発明において、プラズマ溶射用材料中のY2O3含有量は、10~30%、より好ましくは15~25%であることがよい。
【0021】
上記の他の技術的課題を達成するために、本発明は、(a)大気プラズマジェット(plasma jet)中に、イットリウム化合物粉末を投入して溶融させる段階;及び、(b)前記溶融したイットリウム化合物の液滴を冷却させてイットリウム化合物粉末を製造する段階を含むことを特徴とするプラズマ溶射用材料の製造方法を提供する。
【0022】
本発明において、上記の段階(b)は、(b1)前記溶融したイットリウム化合物液滴を冷媒に噴射する段階;及び、(b1)前記(b1)段階後に冷媒を除去して乾燥させる段階;を含んでよい。
【0023】
前記(b1)段階で溶融した液滴の噴射時に、噴射吐出口から冷媒表面までの隔離距離は、400~600mmであることが好ましい。
【0024】
本発明において、前記段階(b)のイットリウム化合物粉末において、Y、O及びFのモル数は、1.5<(O+F)/Y<2.0を満たすことが好ましい。
【0025】
上記のさらに他の技術的課題を達成するために、本発明は、イットリウム化合物を含むプラズマ溶射用材料において、前記イットリウム化合物中のY、O及びFのモル数は1.6<(O+F)/Y<1.9を満たし、気孔率が3%以下であることを特徴とするプラズマ溶射皮膜を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、低い気孔率と高い硬度を有し、エッチング工程で発生するプラズマガスに対して物理的安定性及び化学的安定性を有するY-O-F溶射コーティング層を提供することが可能になる。
【0027】
また、本発明によれば、大気溶融によってY-O-F系粉末を球状化することによって、簡単な方法で緻密な構造及び高密度を有すると同時に高いO/F比率を有するY-O-F系溶射用材料を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例に係る溶射用材料の製造方法及び装置を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施例におけるプラズマ処理前後の粉末の外観を観察した写真である。
【
図3】本発明の一実施例におけるプラズマ処理前後の粉末のXRD分析結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施例によって製造された溶射用粉末の断面を撮影した電子顕微鏡写真である。
【
図5】本発明の一実施例によって製造された溶射皮膜の断面を観察した電子顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の一実施例によって製造された溶射皮膜のXRD分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
特に定義しない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われる命名法は、当該技術分野でよく知られており、通常使われているものである。
【0030】
本明細書の全体を通じて、ある部分が一つの構成要素を「含む」とした場合に、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を排除するのではなく、他の構成要素をさらに含んでよいことを意味する。
【0031】
また、本明細書の全体を通じて「非球状化」とは、本発明に記載されている球状化工程を経ていない状態を意味する。
【0032】
本発明の明細書において、Y-O-F化合物は、化学元素YxOyFzの化学式で表現されるY、O及びFの3元系化合物を意味するが、必ずしもこれに限定されず、その結晶構造を保つまま固溶可能な微量の追加元素を含んでもよい。
【0033】
本発明において、Y-O-F化合物は、例示的には、YOF、Y7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7、及びY4O3F6からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでよい。Y-O-F化合物としてO/Fのモル比が1であるものとして知られた化合物はYOFであり、残りの化合物は、O/Fが1未満である。化学式YxOyFzで表現されるY-O-F化合物は、xが小さくなるほどO/Fのモル比は小さくなり、Fに富む化合物になる。
【0034】
本発明のプラズマ溶射用材料は、互いに異なる少なくとも2種のY-O-F化合物を含む。本発明において、第1のY-O-F化合物はYOFであり、第2のY-O-F化合物はY7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7及びY4O3F6からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であってよい。
【0035】
本発明の明細書で言及される各Y-O-F化合物のO/Fモル比及び(O+F)/Yモル比をY2O3及びYF3と対比すれば、下表1の通りである。
【0036】
【0037】
前述したように、本発明のプラズマ溶射用材料は、(O+F)/Yが2であるYOFと、(O+F)/Yが2を超えるY-O-F化合物、例えばY7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7、及びY4O3F6からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む。こうする場合にも、本発明のプラズマ溶射用材料は、全組成物中の(O+F)/Yが2.0未満の値を有する。
【0038】
好ましくは、前記全組成物中の(O+F)/Yは、1.99、1.98、1.97、1.96又は1.95以下であってよい。また、本発明のプラズマ溶射用材料の全組成物中の(O+F)/Yは、1.8以上、1.85以上又は1.9以上であってよい。
【0039】
本発明のプラズマ溶射用材料の組成物中のY2O3の含有量は、10重量%以上又は15重量%以上であってよい。また、組成物中のY2O3の含有量は、30重量%以下、又は25重量%以下であってよい。
【0040】
前述したように、本発明において、プラズマ溶射用材料は、YOFからなる第1のY-O-F化合物と、Y7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7及びY4O3F6からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる第2のY-O-F化合物を含んでよい。このとき、第1のY-O-F化合物の含有量(重量%)は、第2のY-O-F化合物の含有量よりも大きいことが好ましい。
【0041】
本発明の他の側面によれば、前述した本発明のプラズマ溶射用材料は、(a)プラズマジェット(plasma jet)中に、イットリウム化合物を含む粉末を投入して溶融させる段階、及び(b)前記溶融した粉末の液滴を冷却させる段階を含んで製造されてよい。
【0042】
図1は、本発明の一実施例に係る溶射用材料の製造方法及び装置を模式的に示す図である。以下では、これを参照して本発明の製造工程を説明する。
【0043】
本発明において、(a)段階は、大気プラズマジェット(atmospheric plasma jet)中にイットリウム化合物組成の粉末を投入して溶融させる段階である。
【0044】
プラズマ装置において、熱プラズマを発生させる時には、大量のガスを流しながら陰極と両極との間にアーク放電をさせ、ジェット状態でプラズマを吹き出させる。これをプラズマジェット(plasma jet)又はプラズマトーチ(plasma torch)といい、前記(a)段階では、このようなプラズマジェット内に粉末を投入し、短時間で粉末を溶融させる。このとき、本発明において、プラズマ装置が大気に開放された状態でプラズマジェットを生成する場合、これを大気プラズマジェットと呼ぶ。
【0045】
本発明において、プラズマジェット内に投入される粉末の組成物中の(O+F)/Yは、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上又は2.5以上であってよく、3.0以下、2.9以下、2.8以下、2.7以下又は2.6以下であってよい。
【0046】
例示的には、前記粉末組成物は、Y-O-F化合物、例えばYOF、Y7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7、及びY4O3F6からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含んでよい。また、前記粉末組成物はYF3をさらに含んでよい。
【0047】
本発明において、プラズマ装置は、粉末を溶融させるのに十分な温度を有するものであり、大気プラズマ溶射(Atmospheric Plasma Spraying,APS)装置が好ましい。
【0048】
次に、(b)段階は、前記溶融した液滴を冷却させる段階である。この段階は、溶融した液滴が噴射される噴射吐出口から所定の隔離距離をおいて水、N2及びArから選ばれるいずれか1種以上を用いて前記溶融したYOF系液滴を急速に冷媒に噴射して行われてよい。
【0049】
具体的には、前記隔離距離は、プラズマスプレーガン(plasma spray gun)の噴射吐出口から冷媒表面までの距離を意味するもので、溶融したYOF系液滴を損失無しで冷媒に噴射し、収率を向上させながら急冷効果を示し得るように300~800mmの範囲に保つことが好ましい。より好ましくは、隔離距離は400~600mmの範囲に保たれることがよい。前記隔離距離が400mm未満であると、噴射圧力による溶媒及び粉末損失が相当となり、600mmを超えると、噴射角度による収率低下がある他、溶融した粉末の十分な急冷効果が得難いためである。
【0050】
また、前記冷媒は、噴射された溶融したイットリウム化合物液滴を急冷させて球状化及び高密度化させるもので、具体的には、前記冷媒に急速に噴射された溶融した液滴を急冷により焼入れ(quenching)する過程を経ながら、液滴が表面エネルギー最小化のために球状に形成されると同時に高密度化されるようにし、これにより、硬度を向上させる。このとき、前記冷媒は、水、N2及びArから選ばれるいずれか1種であってよく、前記冷媒によって、製造される粉末の成分比を調節することができる。
【0051】
一例として、溶融した液滴を蒸留水(H2O)に急速噴射して急冷によって焼入れする場合に、イットリウム化合物のF成分は蒸留水の水素と反応してフッ化水素を形成することによってF含有量が減少するが、N2やArを冷媒とする場合には、イットリウム化合物との反応がなされずに急冷し、F含有量の減少を誘発しない。このように、前記冷媒を調節することにより、製造される粉末の組成を調節することができる。
【0052】
液滴の冷却後に冷媒を除去して得られた粉末は、適宜乾燥させることができる。冷媒の除去及び粉末の乾燥段階は通常の方法によってなされてよく、ここではその詳細を記載しない。
【0053】
このような方法によって製造された粉末は、粒子サイズが10~60μmである球状の粉末である。一般に、YOF系粒子の直径が小さいほど緻密なコーティング層の成膜が可能であるが、粒子の直径が10μm未満に形成されると、却って、狭まった粒子間距離によって凝集力が発生してしまい、フィーディング(feeding)されない技術的問題が発生することがある。したがって、本発明の球状の粉末は、粒子サイズを10μm以上とし、密度を緻密化しながらも、コーティング時に凝集されずに高密度の成膜ができるようにし、好ましくは、前記溶融粉末の平均粒度は15~45μmとする。
【0054】
本発明において、プラズマジェット内での溶融と急冷によって製造された溶射用材料は、プラズマ装置に投入された原料粉末とは異なる性状を有する。
【0055】
まず、本発明で製造される溶射用材料は、中空の内部を有し、外部は緻密な密度のシェル(shell)を有する球状粉末であり、緻密化によって粉末外径は収縮(shrinkage))する。
【0056】
次に、本発明の製造方法によって製造されたイットリウム化合物は、原料粉末と比べて陰イオン組成に変動がある。例えば、本発明によれば、イットリウム化合物をYX(ここで、Xは陰イオンであって、酸素及び/又はフッ素である。)と表現するとき、化合物中の陰イオン(X)と陽イオン(Y)のモル比、すなわち、X/Yは、2を基準に変動する。例示的には、原料粉末のイットリウム化合物は2以上の値を有するが、大気プラズマジェット処理された溶射用材料のX/Yは、2よりも低い値にシフト(shift)する。これは、大気圧雰囲気でプラズマ処理することによって大気中の空気がプラズマジェット火炎中に混入してプラズマジェット内の液滴と反応するためと理解される。
【0057】
以上のように、原料粉末を大気プラズマジェット内で短時間で処理することによって製造されたプラズマ溶射用材料は、次のような特徴を有し得る。
【0058】
まず、プラズマ溶射用材料中の酸素含有量の増加により、プラズマ処理前の粉末に比べて酸素に富むイットリウム化合物になり得る。次に、プラズマ溶射用材料は、短い処理時間で処理され、X/Y>2であるイットリウム化合物とX/Y<2であるイットリウム化合物が混成状態で存在可能になる。また、本発明のプラズマ溶射用材料は、溶融によって緻密な球状の粉末を生成することができる。
【0059】
以下では、本発明において前述した溶射用材料を用いた溶射皮膜の製造方法を説明する。
【0060】
大気プラズマ溶射(Atmospheric Plasma Spay,APS)は、粉末或いは線形材料を高温熱源から溶融液滴に変化させ、高速で基材に衝突させて急冷凝固させて積層皮膜を形成する溶射(Thermal Spray)技術である。より具体的には、APSは、大気中でAr、He、N2などのガスをアークでプラズマ化させ、これをノズルから排出させて超高温、高速のプラズマジェットを熱源とする皮膜形成技術であり、溶射材料が高速で被処理物に衝突し、これにより、高密着強度、高密度の皮膜の製造が可能である長所を有するが、大気圧の雰囲気で作業がなされるため周辺空気がプラズマジェット火炎中に混入し、結果として、気孔度が高く、皮膜材によって酸化物又は不純物の混入したコーティングが製造されることがある。
【0061】
このようなAPS方法により、前述した方法で製造された溶射用材料を基材にコーティングすることによって製造されたイットリウム化合物コーティング層は、気孔率が2%未満と緻密化し、硬度が550Hv以上と高硬度を示し、また、機械的物性が顕著に向上するため、乾式エッチング工程で発生する物理的なイオン衝突に対する抵抗性が増加し得る。
【0062】
イオン衝突に対する抵抗性の増加は、前記コーティング層を形成するイットリウム化合物中の(O+F)/Yのモル比の変化に起因する。これは、溶射用材料の球状化過程で発生する酸化と、前記APSによるコーティング時に発生する追加の酸化によってイットリウム化合物中の酸素含有量が増加し、結果として、溶射皮膜内にO/Fが1未満であるイットリウム化合物、例えば、Y7O6F9、Y6O5F8、Y5O4F7、又はY4O3F6の生成が抑制されるためである。好ましくは、本発明の溶射皮膜において存在するY-O-F化合物は、O/Fが1であるYOFである。
【0063】
前述した大気プラズマ溶射によって形成されたイットリウム化合物皮膜の(O+F)/Yは、1.9未満、1.85未満、1.8未満又は1.75未満の値を有してよく、1.6超過、1.65超過又は1.7超過の値を有してよい。好ましくは、本発明の溶射皮膜は、イットリウム化合物としてYOFとY2O3を含み、Y2O3の含有量(wt%)はYOFの含有量よりも大きい。例示的には、皮膜内のY2O3の含有量(wt%)はYOFの含有量の2倍以上であることが好ましい。
【0064】
また、本発明によって製造されたイットリウム化合物皮膜は、3%以下、より好ましくは2%以下の気孔率を有する緻密な溶射皮膜である。
【0065】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明が実施例によって限定されるものではない。
【0066】
A.イットリウム化合物溶射材料の製造
下表2の組成からなるイットリウム化合物の顆粒粉末を、
図1のプラズマ溶射装置によって大気プラズマ溶射処理した。
【0067】
【0068】
図1の装置でプラズマを形成した後、前記プラズマ流れ中に、表2の組成のイットリウム化合物粉末を注入して加熱した。この時、プラズマ形成条件、粉末注入角度などの条件は、下表3の通りにした。また、プラズマガンのノズルと冷却媒体表面との間の隔離距離(separation distance)は300~800mmに維持した。吐き出された液滴が水と接触して焼入れ(quenching)された後、球状の粉末を水と分離後に乾燥させた。粉末注入は、単一フィーダー(single feeder)又は二重フィーダー(double feeder)方式で行うことができ、単一フィーダーでは粉末注入角度を90°にし、二重フィーダーでは、一方は90°、他方は105°に維持した。
【0069】
【0070】
隔離距離による溶射皮膜の収率を次の数式によって計算した。
【0071】
収率(%)=(乾燥後に得られた粉末の総量/投入された粉末の総量)*100
【0072】
表4は、隔離距離による収率を示す表である。
【0073】
【0074】
表4から、400~600mmにおいて最高の収率が得られることが分かる。
【0075】
図2の(a)及び(b)はそれぞれ、本実験で用いられた顆粒原料粉末とプラズマ処理後に得られた溶射用材料の外観を観察した写真である。
【0076】
図2の(b)から、プラズマ処理後に溶融によって緻密化した球状粉末の外観が確認できる。一方、
図4は、本発明で製造された溶射用粉末の断面であり、溶射用粉末粒子は、中空の内部を有し、外周は緻密化したシェル構造を有することが分かる。
【0077】
一方、左側の顆粒原料粉末粒子は、略30μm程度のサイズを有するが、右側の溶融粒子は20μm以下のサイズであり、粒子サイズが非常に減少していることが分かる。
【0078】
図3はそれぞれ、本実験で用いられた顆粒原料粉末とプラズマ処理後に得られた溶射用材料粉末のX線回折(XRD)分析結果を示すグラフである。
【0079】
同図に示すように、顆粒原料粉末はY5O4F7とYF3からなっているが、プラズマ処理を経た溶射用粉末では顕著なYOFピーク及びY2O3ピークが観察される一方で、Y5O4F7ピークは減少し、YF3ピークは実質的に検出されなくなる。
【0080】
下表5は、顆粒原料粉末と溶射用粉末のXRD定量分析結果を示す表である。表5に、定量分析結果から(O+F)/Yモル比を計算して示す。
【0081】
【0082】
B.プラズマ溶射皮膜の製造
上の実験例で製造された溶射用粉末を用いて大気プラズマ溶射(APS)によって溶射皮膜を製造した(実施例)。この時、基板としてはAl 6061(50mm*50mm*5T)を用いた。比較のために、上の実験例で使用された顆粒原料粉末を用いてAPSによって溶射皮膜を製造した(比較例)。
【0083】
実施例及び比較例の溶射皮膜の製造のためのプラズマ溶射条件を、下表6に整理して示す。
【0084】
【0085】
製造された溶射皮膜の硬度、気孔率及び表面粗さを測定した。気孔率は、溶射皮膜の断面写真を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影後に、イメージ分析ソフトウェアであるImage proを用いて断面写真中に気孔の占める面積の割合で計算した。
【0086】
また、製造された溶射皮膜のエッチング速度(etch rate)を測定した。ラムキヨ45(Lam Kiyo 45)装備を用いて、製造された溶射皮膜を下表7に記載のエッチング条件によってエッチングしたし、エッチング速度は、AFMを用いてEtch領域/非Etch領域の境界部段差を測定して計算した。
【0087】
【0088】
図5の(a)及び(b)はそれぞれ、比較例及び実施例によって製造された溶射皮膜の断面を観察した電子顕微鏡写真である。
【0089】
図5を参照すると、実施例の溶射皮膜は、比較例の溶射皮膜に比べて非常に緻密な膜をなしていることが分かる。
【0090】
図6はそれぞれ、比較例及び実施例によって製造された溶射皮膜のX線回折分析結果を示すグラフである。
【0091】
図6を参照すると、実施例の溶射皮膜は、高いY
2O
3含有量を示すことが分かり、溶射用材料に存在していたY-O-F化合物はそれ以上存在していないことが分かる。これは、溶射皮膜組成中のF含有量は減少し、酸素含有量が増加していることを示す。
【0092】
下表8は、比較例及び実施例の溶射皮膜に対するXRD定量分析結果を示す表である。表8に、定量分析結果から(O+F)/Yモル比を計算して示す。
【0093】
【0094】
下表9は、溶射皮膜の硬度、気孔率、表面粗さ及びエッチング速度測定結果を整理した表である。
【0095】
【0096】
表9から、実施例の溶射皮膜は、緻密化した組織構造であって、高い硬度及びエッチングに対する高い抵抗性を有することが分かる。
【0097】
以上、本発明を例示的な実施例及び図面によって説明してきたが、これは、本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものに過ぎず、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で様々な修正及び変形が可能であることが理解できよう。したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定して定められてはならず、特許請求の範囲の他、特許請求の範囲と均等又は等価の範囲内における変形はいずれも本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきであろう。
【外国語明細書】