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特開2024-29924孔食発生評価装置、および、孔食発生評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029924
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】孔食発生評価装置、および、孔食発生評価方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20240229BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20240229BHJP
   F01D 21/10 20060101ALI20240229BHJP
   F01K 13/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F01D25/00 W
F01D5/28
F01D25/00 V
F01D21/10
F01K13/00 D
F01D25/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132393
(22)【出願日】2022-08-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度~2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 侑香
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】二宮 義和
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】寺田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
【テーマコード(参考)】
3G071
3G202
【Fターム(参考)】
3G071AB01
3G071FA01
3G071FA05
3G071FA06
3G071FA10
3G071GA06
3G202BB04
(57)【要約】
【課題】孔食の発生の予測を低コストかつ効果的に実行可能な孔食発生評価装置等を提供する。
【解決手段】実施形態の孔食発生評価装置において、孔食発生評価部は、乾湿交番時間データ、堆積物不純物濃度データ、および、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに複数のタービン段落のそれぞれにおいて発生した孔食に関する孔食発生データに基づいて、乾湿交番時間と堆積物不純物濃度と孔食の発生との関係を示す孔食発生評価テーブルを作成して保持する。また、孔食発生評価部は、孔食発生評価テーブルを用いて、蒸気タービンについて計画する運転において、複数のタービン段落のそれぞれで発生する孔食を評価するように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータの回転中心軸に沿った軸方向に複数のタービン段落が配列され、蒸気源から供給された蒸気が、前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて、順次、膨張して仕事を行うことによって、前記タービンロータが回転するように構成されている蒸気タービンと、前記タービンロータの回転によって発電を行うことによって電力を出力するように構成されている発電機とを含む蒸気タービン発電システムにおいて、前記複数のタービン段落のそれぞれに発生する孔食について評価する孔食発生評価装置であって、
前記蒸気タービンが実際に運転を行ったときに前記発電機が電力を出力した発電出力量について、前記蒸気タービンが定格運転を行うときに前記発電機が発電する定格発電出力量に対する割合を算出し、タービン運転データとして出力する、タービン運転状態評価部と、
前記タービン運転状態評価部が出力した前記タービン運転データに基づいて、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生した乾湿交番時間を算出し、乾湿交番時間データとして出力する、乾湿交番時間算出部と、
前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の温度に関する蒸気温度データ、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の蒸気流量に関する蒸気流量データ、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の不純物濃度である作動媒体不純物濃度に関する作動媒体不純物濃度データ、および、前記乾湿交番時間算出部が出力した前記乾湿交番時間データに基づいて、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれに堆積する堆積物の不純物濃度である堆積物不純物濃度を算出し、堆積物不純物濃度データとして出力する、堆積物不純物濃度算出部と、
前記乾湿交番時間算出部が出力した前記乾湿交番時間データ、前記堆積物不純物濃度算出部が出力した前記堆積物不純物濃度データ、および、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて発生した孔食に関する孔食発生データに基づいて、前記乾湿交番時間と前記堆積物不純物濃度と前記孔食の発生との関係を示す孔食発生評価テーブルを作成して保持する、孔食発生評価部と
を有し、
前記孔食発生評価部は、前記孔食発生評価テーブルを用いて、前記蒸気タービンについて計画する運転において、前記複数のタービン段落のそれぞれで発生する孔食を評価するように構成されている、
孔食発生評価装置。
【請求項2】
前記乾湿交番時間算出部は、前記タービン運転データにおいて値の変化量が予め定めた閾値を越えた時点を前記乾湿交番時間の始点とし、前記タービン運転データにおいて値の増加量が予め定めた閾値を越えた時点を前記乾湿交番時間の終点とすることによって、前記乾湿交番時間の算出を行う、
請求項1に記載の孔食発生評価装置。
【請求項3】
前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気源に供給した給水の水質に関する水質データ、および、前記蒸気温度データに基づいて、作動媒体不純物濃度を算出し、前記作動媒体不純物濃度データとして前記堆積物不純物濃度算出部へ出力する、作動媒体不純物濃度算出部
を有し、
前記水質データは、酸電気伝導度のデータとpHのデータとを含む、
請求項1に記載の孔食発生評価装置。
【請求項4】
給水を加熱することによって蒸気を生成する蒸気源と、タービンロータの回転中心軸に沿った軸方向に複数のタービン段落が配列され、前記蒸気源から供給された蒸気が、前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて、順次、膨張して仕事を行うことによって、前記タービンロータが回転するように構成されている蒸気タービンと、前記タービンロータの回転によって発電を行うことによって電力を出力するように構成されている発電機とを含む蒸気タービン発電システムにおいて、前記複数のタービン段落のそれぞれに発生する孔食について評価する孔食発生評価方法であって、
前記蒸気タービンが実際に運転を行ったときに前記発電機が電力を出力した発電出力量について、前記蒸気タービンが定格運転を行うときに前記発電機が発電する定格発電出力量に対する割合を算出し、タービン運転データとして出力する、タービン運転状態評価ステップと、
前記タービン運転状態評価ステップで出力した前記タービン運転データに基づいて、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生した乾湿交番時間を算出し、乾湿交番時間データとして出力する、乾湿交番時間算出ステップと、
前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の温度に関する蒸気温度データ、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の蒸気流量に関する蒸気流量データ、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記蒸気タービンに供給した蒸気の不純物濃度である作動媒体不純物濃度に関する作動媒体不純物濃度データ、および、前記乾湿交番時間算出ステップで出力した前記乾湿交番時間データに基づいて、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれに堆積する堆積物の堆積物不純物濃度を算出し、堆積物不純物濃度データとして出力する、堆積物不純物濃度算出ステップと、
前記乾湿交番時間算出ステップで出力した前記乾湿交番時間データ、前記堆積物不純物濃度算出ステップで出力した前記堆積物不純物濃度データ、および、前記蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに前記複数のタービン段落のそれぞれにおいて発生した孔食に関する孔食発生データに基づいて、前記乾湿交番時間と前記堆積物不純物濃度と前記孔食の発生との関係を示す孔食発生評価テーブルを作成して保持する、孔食発生評価ステップと
を有し、
前記孔食発生評価ステップでは、前記孔食発生評価テーブルを用いて、前記蒸気タービンについて計画する運転において、前記複数のタービン段落のそれぞれで発生する孔食を評価するように構成されている、
孔食発生評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、孔食発生評価装置、および、孔食発生評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン発電システムは、蒸気タービンが蒸気の熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、その変換された運動エネルギーを発電機が電力に変換するように構成されている。
【0003】
蒸気タービンにおいて、作動媒体として供給された蒸気は、高圧部から低圧部へ流れるに伴って、温度の低下および圧力の低下が生じるため、蒸気の湿り度が高くなる。このため、蒸気タービンにおいては、乾き蒸気(飽和液相水が共存していない水蒸気)から湿り蒸気(飽和液相水が共存している水蒸気)へ遷移する乾湿交番域が存在する。乾湿交番域は、例えば、蒸気タービンが高圧タービンと中圧タービンと低圧タービンとで構成され、複数段のタービン段落がタービンロータの軸方向に配列する軸流タービンである場合、低圧タービンにおいて後段側に位置するタービン段落で発生する場合がある。この他に、乾湿交番域は、例えば、地熱発電所を構成する中圧タービンにおいて発生する場合がある。
【0004】
乾湿交番域では、蒸気に含有する不純物の濃縮が生ずる。不純物の濃縮は、動翼の植込部と、動翼の植込部が植え込まれるタービンロータとの間に介在する隙間で、特に、発生する。不純物は、Na、Cl、SO等であり、動翼の植込部等のタービン構成部材の表面には、不純物の濃縮によって、タービン構成部材を腐食させる堆積物が堆積する。その結果、タービン構成部材の腐食の進行によって、タービン構成部材に孔食が発生し、応力腐食割れ(SCC;Stress Corrosion Cracking)や腐食疲労損傷へ発展する場合がある。
【0005】
ピークロード発電方式を採用する場合には、電力の需要に合わせて発電出力を調整するために、定格運転とは異なる蒸気流量で蒸気タービンに蒸気を供給する場合があるので、乾湿交番域は、定格運転の場合とは異なる位置に発生する場合がある。
【0006】
タービン構成部材の腐食を防止する防食技術として、さまざまな方法が知られている。例えば、AVT(All Volatile Treatment)やCWT(Combined Water Treatment)等のように、系統水に溶存する溶存酸素量や、系統水のpHを管理することが提案されている。また、蒸気タービンの内部における腐食環境を監視する技術や、蒸気タービンの内部に還元剤を注入することによって腐食環境を制御する技術等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3718377号
【特許文献2】特開平07-54607号公報
【特許文献3】特開2002-073155号公報
【特許文献4】特開2004-308522号公報
【特許文献5】特開2011-202864号公報
【特許文献6】特許第5487112号
【特許文献7】特開平09-287408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来においては、孔食の発生の予測を低コストかつ効果的に実行することが容易ではない。このため、応力腐食割れや腐食疲労損傷の発生を十分に抑制することが困難な場合がある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、孔食の発生の予測を低コストかつ効果的に実行可能な、孔食発生評価装置、および、孔食発生評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の孔食発生評価装置は、蒸気タービン発電システムにおいて、複数のタービン段落のそれぞれに発生する孔食について評価するように構成されている。ここでは、蒸気タービン発電システムは、蒸気タービンと発電機とを含む。蒸気タービンは、タービンロータの回転中心軸に沿った軸方向に複数のタービン段落が配列され、蒸気源から供給された蒸気が、複数のタービン段落のそれぞれにおいて、順次、膨張して仕事を行うことによって、タービンロータが回転するように構成されている。発電機は、タービンロータの回転によって発電を行うことによって電力を出力するように構成されている。実施形態の孔食発生評価装置は、タービン運転状態評価部と乾湿交番時間算出部と堆積物不純物濃度算出部と孔食発生評価部とを備える。タービン運転状態評価部は、蒸気タービンが実際に運転を行ったときに発電機が電力を出力した発電出力量について、蒸気タービンが定格運転を行うときに発電機が発電する定格発電出力量に対する割合を算出し、タービン運転データとして出力する。乾湿交番時間算出部は、タービン運転状態評価部が出力したタービン運転データに基づいて、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに複数のタービン段落のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生した乾湿交番時間を算出し、乾湿交番時間データとして出力する。堆積物不純物濃度算出部は、蒸気タービンが前記運転を実際に行ったときに蒸気タービンに供給した蒸気の温度に関する蒸気温度データ、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに蒸気タービンに供給した蒸気の蒸気流量に関する蒸気流量データ、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに蒸気タービンに供給した蒸気の不純物濃度である作動媒体不純物濃度に関する作動媒体不純物濃度データ、および、乾湿交番時間算出部が出力した乾湿交番時間データに基づいて、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに複数のタービン段落のそれぞれに堆積する堆積物の不純物濃度である堆積物不純物濃度を算出し、堆積物不純物濃度データとして出力する。孔食発生評価部は、乾湿交番時間算出部が出力した乾湿交番時間データ、堆積物不純物濃度算出部が出力した堆積物不純物濃度データ、および、蒸気タービンが運転を実際に行ったときに複数のタービン段落のそれぞれにおいて発生した孔食に関する孔食発生データに基づいて、乾湿交番時間と堆積物不純物濃度と孔食の発生との関係を示す孔食発生評価テーブルを作成して保持する。また、孔食発生評価部は、孔食発生評価テーブルを用いて、蒸気タービンについて計画する運転において、複数のタービン段落のそれぞれで発生する孔食を評価するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る蒸気タービン発電システム1の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態に係る蒸気タービン発電システム1において、低圧タービン3cの一例を模式的に示す図である。
図3図3は、実施形態に係る孔食発生評価装置700を模式的に示すブロック図である。
図4図4は、実施形態に係る孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740の作成を行うときのデータの流れを模式的に示す図である。
図5A図5Aは、実施形態において、発電出力データD10の一例を示す図である。
図5B図5Bは、実施形態において、タービン運転データD711の一例を示す図である。
図5C図5Cは、実施形態において、タービン運転データD711から乾湿交番時間tを求める様子を示す図である。
図5D図5Dは、実施形態において、堆積物不純物濃度Cと作動媒体不純物濃度Cwと乾湿交番時間tとの関係を示す図である。
図5E図5Eは、実施形態において、孔食発生評価テーブルD740を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740を用いて孔食の発生を評価する場合におけるデータの流れを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[A]蒸気タービン発電システム1の構成
図1は、実施形態に係る蒸気タービン発電システム1の一例を模式的に示す図である。
【0013】
蒸気タービン発電システム1は、図1に示すように、蒸気源2(ボイラ)、蒸気タービン3、発電機4、復水器5、および、給水ポンプ6を備える。本実施形態では、蒸気タービン3は、高圧タービン3a、中圧タービン3b、および、低圧タービン3cを含み、蒸気源2で生成された蒸気が作動媒体として供給されることにより駆動する。
【0014】
本実施形態の蒸気タービン発電システム1では、蒸気源2で生成された蒸気(主蒸気)は、主蒸気止め弁V11と蒸気加減弁V12とが設置された主蒸気管P1を経由して、高圧タービン3aに作動流体として導入され、高圧タービン3aにおいて仕事を行う。そして、高圧タービン3aから排出された蒸気は、低温再熱蒸気管P2を経由して、蒸気源2に供給され、再熱される。
【0015】
蒸気源2で再熱された蒸気(再熱蒸気)は、再熱蒸気止め弁V21とインターセプト弁V22が設置された高温再熱蒸気管P3を経由して、中圧タービン3bに作動流体として導入され、中圧タービン3bにおいて仕事を行う。そして、中圧タービン3bから排出された蒸気は、クロスオーバ管P4を経由して、低圧タービン3cに作動流体として導入され、低圧タービン3cにおいて仕事を行う。そして、低圧タービン3cから排出された蒸気は、復水器5で凝縮される。
【0016】
復水器5で凝縮された水(復水)は、給水ポンプ6において昇圧される。給水ポンプ6で昇圧された水(給水)は、蒸気源2に戻される。
【0017】
蒸気タービン発電システム1において、蒸気タービン3は、高圧タービン3aと中圧タービン3bと低圧タービン3cとの間においてタービンロータが連結されており、蒸気の仕事によってタービンロータが回転する。そして、蒸気タービン3を構成するタービンロータの回転によって発電機4が駆動し、発電が行われる。
【0018】
[B]低圧タービン3cの構成
図2は、実施形態に係る蒸気タービン発電システム1において、低圧タービン3cの一例を模式的に示す図である。図2は、縦断面(xz面)を示しており、縦方向が鉛直方向zであり、横方向が第1水平方向xであり、紙面に垂直な方向が第2水平方向yである。
【0019】
図2に示すように、低圧タービン3cは、複流式であって、下方に蒸気を排出する下方排気方式の場合を例示する。
【0020】
本実施形態において、低圧タービン3cは、外部車室10と内部車室20とタービンロータ30とを有し、外部車室10が内部車室20を内部に収容し、タービンロータ30が内部車室20および外部車室10を貫通するように構成されている。タービンロータ30は、回転中心軸AXが第1水平方向xに沿っており、ロータ軸受301によって回転可能に支持されている。
【0021】
低圧タービン3cは、多段式の軸流タービンであって、静翼40と動翼50とを含む複数のタービン段落60が、内部車室20の内部において回転中心軸AXに沿った軸方向に設けられている。
【0022】
静翼40は、複数であって、複数の静翼40がダイアフラム内輪41とダイアフラム外輪43との間においてタービンロータ30の回転方向に配列されることでノズルダイアフラム45を構成している。
【0023】
動翼50は、複数であって、複数の動翼50がタービンロータ30の回転方向に沿って配列されている。
【0024】
低圧タービン3cは、内部車室20に蒸気供給管70が連結されており、蒸気が蒸気供給管70に作動流体として供給される。蒸気供給管70に供給された蒸気は、内部車室20の内部において、複数のタービン段落60を順次流れる。つまり、作動流体は、初段のタービン段落60から最終段のタービン段落60へ向かって流れ、それぞれのタービン段落60において膨張して仕事を行う。これにより、タービンロータ30が回転中心軸AXを回転軸として回転し、タービンロータ30に連結された発電機(図2では図示省略。図1では発電機4に相当)が発電を行う。
【0025】
低圧タービン3cにおいて、最終段のタービン段落60を通過した蒸気は、コーン部12を経由して、外部車室10の下端部に設けられている下方排気口11から排出される。下方排気口11から排出された蒸気は、復水器(図2では図示省略。図1では復水器5に相当)において凝縮されて、復水が生成される。
【0026】
先に説明した通り、蒸気タービン3のうち低圧タービン3cでは、作動媒体として供給された蒸気の湿り度が高くなるため、乾き蒸気から湿り蒸気へ遷移する乾湿交番域が存在する場合がある。乾湿交番域では、蒸気に含有する不純物の濃縮が生ずる。不純物の濃縮は、特に、動翼50の植込部と、動翼50の植込部が植え込まれるタービンロータ30との間に介在する隙間で発生しやすく、動翼50の植込部等のタービン構成部材の表面には、不純物の濃縮によって、タービン構成部材を腐食させる堆積物が堆積する。その結果、タービン構成部材の腐食の進行によって、タービン構成部材に孔食が発生し、応力腐食割れや腐食疲労損傷へ発展する場合がある。
【0027】
[C]孔食発生評価装置700の構成
図3は、実施形態に係る孔食発生評価装置700を模式的に示すブロック図である。
【0028】
図3に示すように、孔食発生評価装置700は、タービン運転状態評価部711と乾湿交番時間算出部712と作動媒体不純物濃度算出部721と堆積物不純物濃度算出部730と孔食発生評価部740とを有する。
【0029】
孔食発生評価装置700は、蒸気源2と蒸気タービン3と発電機4とを含む蒸気タービン発電システム1(図1を参照)において、蒸気タービン3(例えば、図2に示す低圧タービン3c)を構成する複数のタービン段落60(図2を参照)のそれぞれに発生する孔食について評価するように各部が構成されている。
【0030】
孔食発生評価装置700は、コンピュータと記憶装置とを含み、記憶装置が記憶するプログラムを用いて、演算器が、孔食発生評価装置700を構成する各部として機能する。
【0031】
[D]孔食発生評価装置700の動作
[D-1]孔食発生評価テーブルD740を作成する場合
孔食発生評価装置700においては、まず、孔食の評価で用いる孔食発生評価テーブルD740(後述の図5E参照)の作成を行う。
【0032】
図4は、実施形態に係る孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740の作成を行うときのデータの流れを模式的に示す図である。
【0033】
孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740を作成する場合における各部の動作に関して、図4を用いて説明する。
【0034】
[D-1-1]タービン運転状態評価部711
タービン運転状態評価部711は、図4に示すように、発電出力データD10が入力され、発電出力データD10に基づいてタービン運転データD711を出力するように構成されている。
【0035】
図5Aは、実施形態において、発電出力データD10の一例を示す図である。図5Bは、実施形態において、タービン運転データD711の一例を示す図である。図5Aおよび図5Bでは、蒸気タービン3の運転が実行された時点t0から時点t3までの時間を含む運転時間に関して例示している。
【0036】
発電出力データD10は、図5Aに示すように、蒸気タービン3が実際に運転を行ったときに発電機4が電力を出力した発電出力量Pに関するデータである。つまり、発電出力データD10は、蒸気タービン3の運転時刻(Time)と発電出力量P(MW)とを関連付けたデータである。
【0037】
タービン運転データD711は、図5Bに示すように、蒸気タービン3が実際に運転を行ったときに発電機4が電力を出力した発電出力量Pについて、蒸気タービン3が定格運転を行うときに発電機4が発電する定格発電出力量PRに対する割合R(%)に関するデータである(R=100*P/PR)。つまり、タービン運転データD711は、蒸気タービン3の負荷状況に関するデータであって、上記の割合R(%)と、蒸気タービン3の運転時刻(Time)とを関連付けたデータである。
【0038】
このように、タービン運転状態評価部711は、蒸気タービン3が実際に運転を行ったときに発電機4が電力を出力した発電出力量P(=発電出力データD10)について、蒸気タービン3が定格運転を行うときに発電機4が発電する定格発電出力量PRに対する割合Rを算出する。そして、タービン運転状態評価部711は、その算出した上記の割合Rに関するデータをタービン運転データD711として出力する。
【0039】
[D-1-2]乾湿交番時間算出部712
乾湿交番時間算出部712は、図4に示すように、タービン運転データD711が入力され、タービン運転データD711に基づいて、乾湿交番時間データD712を出力するように構成されている。乾湿交番時間データD712は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに複数のタービン段落60のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生した乾湿交番時間tに関するデータである。
【0040】
図5Cは、実施形態において、タービン運転データD711から乾湿交番時間tを求める様子を示す図である。図5Cでは、図5Aおよび図5Bの場合と同様に、蒸気タービン3の運転が実行された時点t0から時点t3までの時間を含む運転時間に関して例示している。
【0041】
図5Cに示すように、乾湿交番時間算出部712は、タービン運転データD711において値の増加量が予め定めた閾値ΔX1(例えば、50%)を越えた時点を乾湿交番時間tの始点とする。そして、乾湿交番時間算出部712は、タービン運転データD711において乾湿交番時間tの始点を検出した後に、タービン運転データD711において値の減少量が予め定めた閾値ΔX2(例えば、50%)を越えた時点を、乾湿交番時間tの終点とする。そして、乾湿交番時間算出部712は、乾湿交番時間tの始点と乾湿交番時間tの終点との間を乾湿交番時間tとして算出する。図示していないが、乾湿交番時間tは、タービン運転データD711において値の減少量が予め定めた閾値ΔX1(例えば、50%)を越えた時点を始点とし、タービン運転データD711において値の増加量が予め定めた閾値ΔX2(例えば、50%)を越えた時点を終点とする場合も含む。つまり、乾湿交番時間tは、タービン運転データD711において値の変更量(増加量または減少量)が予め定めた閾値ΔX1(例えば、50%)を越えた時点を始点とし、タービン運転データD711において値の変更量(減少量または増加量)が予め定めた閾値ΔX2(例えば、50%)を越えた時点を終点とする場合も含む。
【0042】
乾湿交番時間tの算出は、蒸気タービン3を構成する複数のタービン段落60のそれぞれについて行う。なお、閾値ΔX1および閾値ΔX2は、複数のタービン段落60のそれぞれにおいて個別に設定されている。なお、この閾値ΔX1および閾値ΔX2は、タービン翼の初段から最終段へ向かうに伴い、減少していくように設定されている。
【0043】
このように、乾湿交番時間算出部712は、タービン運転データD711に基づいて、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに複数のタービン段落60のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生した乾湿交番時間tを算出する。乾湿交番時間算出部712は、その算出した乾湿交番時間tに関するデータを乾湿交番時間データD712として出力する。
【0044】
[D-1-3]作動媒体不純物濃度算出部721
作動媒体不純物濃度算出部721は、図4に示すように、蒸気温度データD11および水質データD20が入力され、蒸気温度データD11および水質データD20に基づいて、作動媒体不純物濃度データD721を出力するように構成されている。
【0045】
蒸気温度データD11は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに蒸気タービン3に供給した蒸気の温度Tに関するデータである。水質データD20は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに蒸気源2に供給した給水の水質に関するデータであって、例えば、酸電気伝導度κのデータとpHのデータとを含む。作動媒体不純物濃度データD721は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに蒸気タービン3に供給した蒸気の不純物濃度である作動媒体不純物濃度Cwに関するデータである。図示を省略しているが、蒸気温度データD11、水質データD20、および、作動媒体不純物濃度データD721は、例えば、蒸気タービン3の運転が実行された時点t0から時点t3までの時間を含む運転時間(図5Aおよび図5B等を参照)に関するデータである。
【0046】
作動媒体中の孔食に影響する不純物濃度(Na、Cl,SO)Cwは、下記の(式I)に示すように、蒸気源2に供給した給水の酸電気伝導度κおよびpHと、蒸気タービン3に作動媒体として供給した蒸気(主蒸気)の温度Tとを変数とする時間推移データによって決定される関数f1(κ,pH,T)を用いて算出される。なお、関数f1(κ,pH,T)は、各変数の関係について調査した結果から導かれた関数であって、AおよびBは、pHおよび温度Tから定まる定数である。
【0047】
Cw=f1(κ,pH,T)=A・κ ・・・(式I)
【0048】
このように、作動媒体不純物濃度算出部721は、水質データD20および蒸気温度データD11に基づいて、作動媒体不純物濃度Cwを算出し、その算出した作動媒体不純物濃度Cwに関するデータを作動媒体不純物濃度データD721として出力する。
【0049】
[D-1-4]堆積物不純物濃度算出部730
堆積物不純物濃度算出部730は、図4に示すように、乾湿交番時間データD712(=t)、蒸気温度データD11、作動媒体不純物濃度データD721(=Cw)、および、蒸気流量データD12(=v)が入力され、堆積物不純物濃度データD730(=C)を出力するように構成されている。
【0050】
蒸気流量データD12は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに蒸気タービン3に供給した蒸気の蒸気流量vに関するデータである。堆積物不純物濃度データD730は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに複数のタービン段落60のそれぞれに堆積する堆積物の不純物濃度である堆積物不純物濃度Cに関するデータである。図示を省略しているが、蒸気流量データD12および堆積物不純物濃度データD730は、例えば、蒸気タービン3の運転が実行された時点t0から時点t3までの時間を含む運転時間(図5Aおよび図5B等を参照)に関するデータである。
【0051】
堆積物不純物濃度Cとは、等価不純物濃度であって、蒸気に含有する不純物が堆積した堆積物中において、蒸気に腐食成分(Na、Cl,SOなどの複数成分)として含有する不純物が堆積した堆積物が占める割合(ppm)を意味する。
【0052】
堆積物不純物濃度Cは、下記の(式II)に示すように、不純物析出速度D(T,v)と、乾湿交番時間tと、作動媒体不純物濃度Cwとを変数とする関数f2(D(T,v),t,Cw)を用いて算出される。不純物析出速度D(T,v)は、蒸気の温度Tと蒸気流量vとを変数とする関数で算出される。なお、関数f2(D(T,v),t,Cw)および関数f2(D(T,v)は、各変数の関係について調査した結果から導かれた関数である。
【0053】
C=f2(D(T,v),t,Cw) ・・・(式II)
【0054】
図5Dは、実施形態において、堆積物不純物濃度Cと作動媒体不純物濃度Cwと乾湿交番時間tとの関係を示す図である。
【0055】
図5Dに示すように、堆積物不純物濃度Cは、作動媒体不純物濃度Cwが増加するに伴って指数関数的に増加する。また、堆積物不純物濃度Cは、乾湿交番時間tの増加に伴って増加する。
【0056】
このように、堆積物不純物濃度算出部730は、蒸気温度データD11、蒸気流量データD12、作動媒体不純物濃度データD721、および、乾湿交番時間データD712に基づいて、堆積物不純物濃度Cを算出し、その算出した堆積物不純物濃度Cに関するデータを堆積物不純物濃度データD730として出力する。
【0057】
[D-1-5]孔食発生評価部740
孔食発生評価部740は、図4に示すように、乾湿交番時間データD712(=t)、堆積物不純物濃度データD730(=C)、および、孔食発生データD30が入力される。
【0058】
孔食発生データD30は、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに複数のタービン段落60のそれぞれにおいて発生した孔食に関するデータである。孔食発生データD30は、例えば、複数のタービン段落60のそれぞれにおいて動翼50に孔食が発生したか否かの検査を行うことで得られる。孔食は、例えば、腐食により生じた孔の深さが0.2mmを越えたときに発生したと検査で判断される。
【0059】
そして、孔食発生評価部740は、乾湿交番時間データD712(=t)、堆積物不純物濃度データD730(=C)、および、孔食発生データD30に基づいて、孔食発生評価テーブルD740を作成して保持する。
【0060】
図5Eは、実施形態において、孔食発生評価テーブルD740を示す図である。
【0061】
図5Eに示すように、孔食発生評価テーブルD740は、乾湿交番時間tと堆積物不純物濃度Cと孔食の発生有無との関係を関連付けたテーブルである。孔食発生評価部740は、乾湿交番時間データD712(=t)、堆積物不純物濃度データD730(=C)、および、孔食発生データD30を関連付けたデータセットが複数入力され、そのデータセットについて、例えば、補間処理を施すことで、孔食発生評価テーブルD740を作成する。
【0062】
図5Eに示すように、孔食発生評価テーブルD740は、乾湿交番時間tの座標軸と堆積物不純物濃度Cの座標軸とで規定される直交座標系において、孔食の発生が有る領域と、孔食の発生が無い領域とを区切る境界を含むように構成される。孔食発生評価テーブルD740から判るように、孔食は、乾湿交番時間tが長くなるほど発生しやすく、かつ、堆積物不純物濃度Cが高くなるほど発生しやすい。孔食発生評価テーブルD740は、複数のタービン段落60のそれぞれに関して作成される。
【0063】
[D-2]蒸気タービン3の運転計画における孔食の評価
孔食発生評価装置700において、上記のように、孔食発生評価テーブルD740を作成した後には、孔食発生評価テーブルD740を用いて、蒸気タービン3について計画する運転において複数のタービン段落60のそれぞれで発生する孔食の評価を実行する。ここでは、例えば、孔食を補修後の蒸気タービン3について、孔食の評価を行う。また、孔食の検査結果を得た蒸気タービン3と同タイプの他の蒸気タービン3について、孔食の評価を行ってもよい。
【0064】
図6は、実施形態に係る孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740を用いて孔食の発生を評価する場合におけるデータの流れを模式的に示す図である。
【0065】
孔食発生評価装置700において、孔食発生評価テーブルD740を用いて孔食の評価を実行する場合における各部の動作に関して、図6を用いて説明する。
【0066】
[D-2-1]タービン運転状態評価部711
タービン運転状態評価部711は、図6に示すように、発電出力データD10kが入力され、発電出力データD10kに基づいて、タービン運転データD711kを出力するように構成されている。
【0067】
ここでは、発電出力データD10kは、図5Aに示した発電出力データD10と同様に、蒸気タービン3の運転時刻(Time)と発電出力量P(MW)とを関連付けたデータである。しかし、発電出力データD10kの発電出力量Pは、図5Aに示した発電出力データD10と異なり、蒸気タービン3の運転計画で発電機4が電力を出力する発電出力量Pである。
【0068】
また、タービン運転データD711kは、図5Bに示したタービン運転データD711と同様に、割合R(%)と蒸気タービン3の運転時刻(Time)とを関連付けたデータである。しかし、タービン運転データD711kの割合R(%)は、図5Bに示したタービン運転データD711と異なり、蒸気タービン3の運転計画で発電機4が電力を出力する発電出力量Pを定格発電出力量PRで割った割合R(%)である(R=100*P/PR)。
【0069】
このように、タービン運転状態評価部711は、図6に示すように、蒸気タービン3の運転計画で発電機4が電力を出力する発電出力量P(=発電出力データD10k)を定格発電出力量PRで割った割合Rを算出し、その算出した割合Rに関するデータをタービン運転データD711として出力する。
【0070】
[D-2-2]乾湿交番時間算出部712
乾湿交番時間算出部712は、図6に示すように、タービン運転データD711kが入力され、タービン運転データD711kに基づいて、乾湿交番時間データD712kを出力するように構成されている。
【0071】
乾湿交番時間データD712kは、図5Cに示した乾湿交番時間データD712と異なり、蒸気タービン3の運転計画で複数のタービン段落60のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生する乾湿交番時間tに関するデータである。乾湿交番時間データD712kの乾湿交番時間tの算出は、乾湿交番時間データD712の場合と同様に実行される。
【0072】
このように、乾湿交番時間算出部712は、図6に示すように、タービン運転データD711kに基づいて、蒸気タービン3の運転計画で複数のタービン段落60のそれぞれにおいて乾湿交番域が発生する乾湿交番時間tを算出する。そして、乾湿交番時間算出部712は、その算出した乾湿交番時間tに関するデータを乾湿交番時間データD712kとして出力する。
【0073】
[D-2-3]作動媒体不純物濃度算出部721
作動媒体不純物濃度算出部721は、図6に示すように、蒸気温度データD11kおよび水質データD20kが入力され、蒸気温度データD11kおよび水質データD20kに基づいて、作動媒体不純物濃度データD721kを出力するように構成されている。
【0074】
蒸気温度データD11kは、図4に示した蒸気温度データD11と異なり、蒸気タービン3の運転計画で蒸気タービン3に供給する蒸気の温度Tに関するデータである。水質データD20kは、図4に示した水質データD20と異なり、蒸気タービン3の運転計画で蒸気源2に供給する給水の水質に関するデータであって、例えば、酸電気伝導度κのデータとpHのデータとを含む。発電出力データD10kに対応する運転計画における、蒸気温度データD11kおよび水質データD20kは、過去の運転経歴から求めたデータでもよい。作動媒体不純物濃度データD721kは、図4に示した作動媒体不純物濃度データD721と異なり、蒸気タービン3の運転計画で蒸気タービン3に供給する蒸気の作動媒体不純物濃度Cwに関するデータである。
【0075】
作動媒体不純物濃度データD721kである作動媒体不純物濃度Cwは、上述した作動媒体不純物濃度データD721である作動媒体不純物濃度Cwの場合と同様な方法で算出される。
【0076】
このように、作動媒体不純物濃度算出部721は、図6に示すように、水質データD20kおよび蒸気温度データD11kに基づいて、作動媒体不純物濃度Cwを算出し、その算出した作動媒体不純物濃度Cwに関するデータを作動媒体不純物濃度データD721kとして出力する。
【0077】
[D-2-4]堆積物不純物濃度算出部730
堆積物不純物濃度算出部730は、図6に示すように、乾湿交番時間データD712k(=t)、蒸気温度データD11k、作動媒体不純物濃度データD721k(=Cw)、および、蒸気流量データD12k(=v)が入力され、堆積物不純物濃度データD730(=C)を出力するように構成されている。
【0078】
蒸気流量データD12kは、図4に示した蒸気流量データD12と異なり、蒸気タービン3の運転計画で蒸気タービン3に供給する蒸気の蒸気流量vに関するデータである。発電出力データD10kに対応する運転計画における、蒸気流量データD12kは、蒸気温度データD11kおよび水質データD20kと同様に、過去の運転経歴から求めたデータでもよい。堆積物不純物濃度データD730kは、図4に示した堆積物不純物濃度データD730と異なり、蒸気タービン3の運転計画で複数のタービン段落60のそれぞれに堆積する堆積物の堆積物不純物濃度Cに関するデータである。堆積物不純物濃度データD730kの堆積物不純物濃度Cの算出は、堆積物不純物濃度データD730の場合と同様に実行される。
【0079】
このように、堆積物不純物濃度算出部730は、蒸気温度データD11k、蒸気流量データD12k、作動媒体不純物濃度データD721k、および、乾湿交番時間データD712kに基づいて、堆積物不純物濃度Cを算出し、その算出した堆積物不純物濃度Cに関するデータを堆積物不純物濃度データD730kとして出力する。
【0080】
[D-2-5]孔食発生評価部740
孔食発生評価部740は、図6に示すように、乾湿交番時間データD712k(=t)、および、堆積物不純物濃度データD730k(=C)が入力される。そして、孔食発生評価部740は、既に作成し保持している孔食発生評価テーブルD740(図5Eを参照)を用いて、蒸気タービン3の運転計画で複数のタービン段落60のそれぞれにおいて発生する孔食の評価を実行する。
【0081】
具体的には、孔食発生評価部740は、図5Eに示すように、孔食発生評価テーブルD740において、乾湿交番時間データD712kとして入力された乾湿交番時間tと、堆積物不純物濃度データD730kとして入力された堆積物不純物濃度Cとの両者に対応する、孔食の発生の結果を評価結果として出力する。つまり、孔食発生評価テーブルD740において、乾湿交番時間データD712kとして入力された乾湿交番時間tと、堆積物不純物濃度データD730kとして入力された堆積物不純物濃度Cとの座標位置が、孔食の発生が有る領域に存在する場合には、孔食の発生が有ると評価する。これに対して、孔食発生評価テーブルD740において、乾湿交番時間データD712kとして入力された乾湿交番時間tと、堆積物不純物濃度データD730kとして入力された堆積物不純物濃度Cとの座標位置が、孔食の発生が無い領域に存在する場合には、孔食の発生が無いと評価する。
【0082】
[E]まとめ
以上のように、本実施形態の孔食発生評価装置700においては、蒸気タービン3が運転を実際に行ったときに取得した各種データを用いて、乾湿交番時間tと堆積物不純物濃度Cと孔食の発生との関係を示す孔食発生評価テーブルD740を作成する。そして、本実施形態の孔食発生評価装置700では、その孔食発生評価テーブルD740を用いて、蒸気タービン3について計画する運転において、複数のタービン段落60のそれぞれで発生する孔食を評価する。
【0083】
このため、本実施形態においては、蒸気タービン3に特別なセンサーなどを設けなくても、孔食の発生の予測を効果的に実行することができる。これにより、蒸気タービン3の保守管理を適切に実行することができる。その結果、本実施形態では、応力腐食割れや腐食疲労損傷の発生を容易に抑制可能である。
【0084】
[F]変形例
上記の実施形態では、図1に示した蒸気タービン発電システム1に関して孔食発生評価装置700を用いて孔食発生の評価を行う場合を説明したが、これに限らない。乾湿交番域が生ずる蒸気タービンを備える蒸気タービン発電システムに対して、適宜、孔食発生評価装置700を使用可能である。例えば、地熱により生じた蒸気が作動媒体として供給される地熱タービン(中圧タービン)を備える蒸気タービン発電システムに関して、孔食発生評価装置700を用いて孔食発生の評価を行ってもよい。
【0085】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1:蒸気タービン発電システム、2:蒸気源、3:蒸気タービン、3a:高圧タービン、3b:中圧タービン、3c:低圧タービン、4:発電機、5:復水器、6:給水ポンプ、10:外部車室、11:下方排気口、12:コーン部、20:内部車室、30:タービンロータ、40:静翼、41:ダイアフラム内輪、43:ダイアフラム外輪、45:ノズルダイアフラム、50:動翼、60:タービン段落、70:蒸気供給管、301:ロータ軸受、700:孔食発生評価装置、711:タービン運転状態評価部、712:乾湿交番時間算出部、721:作動媒体不純物濃度算出部、730:堆積物不純物濃度算出部、740:孔食発生評価部、AX:回転中心軸
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5A
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5A
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5B
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5B