(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029948
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20240229BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240229BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132438
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愉子
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA12
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA06
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池における単位重量あたりの放電容量を高め、サイクル特性を効果的に向上させることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多いリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子であって、式(A):LifMngFehM1
xPO4・・・(A)で表され、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が0.5質量%~5.0質量%であり、かつ粒子の特定の断面においてセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が特定の条件を満たす、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多いリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子であって、下記式(A):
LifMngFehM1
xPO4・・・(A)
(式(A)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が0.5質量%~5.0質量%であり、かつ
粒子の中心を通る断面Xについて、断面Xの半径が粒子の中心から4/5等分される点のみを通る円により、粒子の中心部を含む断面Xaと粒子の外周部を含む断面Xbとに二分割したときに、
断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中で52質量%~95質量%を占める、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項2】
断面Xにおいて、断面Xの半径が粒子の中心から1/5等分される点のみを通る円により、粒子の中心部を含む断面Xa1を切り出したときに、
断面Xa1におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中で0.52質量%~50質量%を占める、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項3】
式(A)中におけるg及びhが、2/3≦g/h≦4を満たす、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子。
【請求項4】
次の工程(I)~(III):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z1を得る工程
(II)得られた造粒体Z1とともに、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z2を得る工程
(III)得られた造粒体Z2を焼成する工程
を備え、
工程(I)で混合するセルロースナノファイバーIと、工程(II)で混合するセルロースナノファイバーIIとの質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)が、1~19である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池における単位重量あたりの放電容量を高め、優れたサイクル特性を発現することのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯電話、デジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、電気自動車等広い分野に利用されている。こうしたリチウムイオン二次電池の正極材料として、その安全性の高さや容量の大きさから、LiMnxFe1-xPO4のような、いわゆるリチウム系ポリアニオン粒子が有望視されている。その一方で、こうしたリチウム系ポリアニオン粒子は導電性が低く、得られるリチウムイオン二次電池において充分に電池特性を高めるには、依然として改善を要することから、従来より種々の開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、導電性炭素で被覆された、式LiFe1-xMnxPO4(0≦x≦1)で示されるリチウムリン酸金属粒子、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素、及び特定の高分子分散剤を用いて得られる造粒粒子であって、造粒粒子中の炭素原子の濃度が、鉄原子全重量を基準として前記造粒粒子の中心部から表層部に向けて高くなる造粒粒子が開示されており、高い電池容量や優れたサイクル特性等を有する二次電池の実現を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術であっても、得られる二次電池の単位重量あたりの放電容量については、未だ充分な結果が得られる状況ではなく、優れたサイクル特性を確保するには、依然として改善すべき余地がある。
【0006】
したがって、本発明の課題は、リチウムイオン二次電池における単位重量あたりの放電容量を高め、サイクル特性を効果的に向上させることのできるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の中心部において粒子の外周部よりも多く、さらに、かかる炭素含有量が特定の量的条件を満たす粒子であることにより、得られるリチウムイオン二次電池において、単位重量あたりの放電容量が高く、優れたサイクル特性を発現できるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多いリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子であって、下記式(A):
LifMngFehM1
xPO4・・・(A)
(式(A)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が0.5質量%~5.0質量%であり、かつ
粒子の中心を通る断面Xについて、断面Xの半径が粒子の中心から4/5等分される点のみを通る円により、粒子の中心部を含む断面Xaと粒子の外周部を含む断面Xbとに二分割したときに、
断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中で52質量%~95質量%を占める、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、次の工程(I)~(III):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z1を得る工程
(II)得られた造粒体Z1とともに、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z2を得る工程
(III)得られた造粒体Z2を焼成する工程
を備え、
工程(I)で混合するセルロースナノファイバーIと、工程(II)で混合するセルロースナノファイバーIIとの質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)が、1~19である、上記リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子によれば、得られるリチウムイオン二次電池において、効果的に単位重量あたりの放電容量を高め、サイクル特性の向上を有効に図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多いリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子であって、下記式(A):
LifMngFehM1
xPO4・・・(A)
(式(A)中、M1はMg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd及びGdから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。f、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
で表され、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が0.5質量%~5.0質量%である。
【0012】
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、セルロースナノファイバー由来の炭素を0.5質量%~5.0質量%なる特定の量で含有しつつ、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多い粒子であり、セルロースナノファイバーが炭化してなる炭素が、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の外周部から中心部に向けて増大するという特性を有する粒子である。
なお、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の中心部とは、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を粒子の中心から粒子の半径4/5の位置で二分割したときに、その内側に存在する粒子の中心を含む部分を意味し、粒子の外周部とは、粒子の中心部以外の残部を意味する。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子内に存在する炭素は、炭素による周期的構造が形成されているセルロース分子鎖によって構成されるセルロースナノファイバーが炭化されてなる炭素であり、その存在量は、粒子の外周部側から中心部側へと増大する状態にある。セルロースナノファイバーは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、繊維径1nm~1000nmの特異な構造を有する炭素材料である。
そのため、詳細については定かではないが、特異な構造を有するセルロースナノファイバーの炭化によりその物性を引き継ぐ炭素が、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子内において特定の分布を有することによって、電子導電パスの増強に有効に寄与し、単位重量あたりの放電容量を効果的に高めてサイクル特性を向上させるものと推定される。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、上記式(A)で表されるとおり、少なくとも遷移金属としてマンガン(Mn)及び鉄(Fe)の双方を含む、いわゆるオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物(LMFP粒子)である。かかる粒子は、より詳細には、後述するように、一次粒子aと一次粒子bとの凝集体であり、中心部が一次粒子aにより形成されてなり、外周部が一次粒子bにより形成されてなる粒子である。
【0015】
上記式(A)中、M1は、Mg、Al、Ti、Cu、Zn、Nb、Co、Ni、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、放電容量を高める観点から、Mg、Al、Ti、Zn、Nb、Co、Zr、又はGdが好ましい。
また、上記式(A)中のf、g、h及びxは、0<f≦1.2、0.3≦g≦1.2、0.2≦h≦1.2、0≦x≦0.3を満たし、かつf+(Mnの価数)×g+(Feの価数)×h+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。
【0016】
上記式(A)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子としては、放電容量の向上の観点から、fについては、0.6≦f≦1.2が好ましく、0.65≦f≦1.15がより好ましく、0.7≦f≦1.1がさらに好ましい。gについては、0.4≦g≦0.8が好ましい。hについては、0.2≦h≦0.6が好ましい。xについては、0≦x≦0.2が好ましく、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.1がさらに好ましい。
なかでも、サイクル特性を効果的に高める観点から、g及びhが、2/3≦g/h≦4を満たす数であるのが好ましく、9/11≦g/h≦3を満たす数であるのがより好ましく、1≦g/h≦7/3を満たす数であるのがさらに好ましい。
【0017】
具体的には、例えばLiMn0.2Fe0.8PO4、LiMn0.3Fe0.7PO4、LiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.03PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4等が挙げられる。なかでもLiMn0.4Fe0.6PO4、LiMn0.45Fe0.55PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4が好ましい。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子中に0.5質量%~5.0質量%なる限られた量である。かかる炭素含有量は、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量を、有効に粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多くする観点、及び単位重量あたりの放電容量を効果的に高める観点から、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子中に、0.5質量%~5.0質量%であって、好ましくは0.5質量%~4.5質量%であり、より好ましくは0.6質量%~4.0質量%であり、さらに好ましくは0.7質量%~3.5質量%である。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、より詳細には、2種の一次粒子、すなわち一次粒子aと一次粒子bとの凝集体であり、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の中心部は、一次粒子aにより形成されてなり、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の外周部は、一次粒子bにより形成されてなる。このように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、粒子の中心部が一次粒子aにより形成されてなるとともに、粒子の外周部が一次粒子bにより粒子の中心部が包囲されることによって、形成されてなる粒子であって、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多い粒子である。
【0020】
一次粒子aの平均粒径は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子において、単位重量あたりの放電容量を効果的に高める観点から、好ましくは50nm~200nmであり、より好ましくは55nm~190nmであり、さらに好ましくは58nm~180nmである。
一次粒子bの平均粒径は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子において、サイクル特性を効果的に高める観点から、好ましくは52nm~200nmであり、より好ましくは57nm~190nmであり、さらに好ましくは60nm~180nmである。
【0021】
一次粒子bの平均粒径は、サイクル特性を有効に高める観点から、一次粒子aの平均粒径よりも大きいほうが好ましい。
【0022】
なお、一次粒子aの平均粒径の値、及び一次粒子bの平均粒径の値は、後述する本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子100粒子分において、SEMにより一次粒子a、b各100粒子ずつの一次粒子径を測定し、かかる測定値から求められる平均値を意味する。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、かかるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の中心を通る断面Xについて、断面Xの半径が粒子の中心から4/5等分される点のみを通る円により、粒子の中心部を含む断面Xaと粒子の外周部を含む断面Xbとに二分割したときに、断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中で52質量%~95質量%を占める。
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多い粒子であることから、粒子の中心部を含む断面Xaにおいて、高いセルロースナノファイバー由来の炭素含有量の値を示すこととなる。
【0024】
断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量は、単位重量あたりの放電容量を有効に高め、優れたサイクル特性を発現させる観点から、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量100質量%中で、52質量%~95質量%を占め、好ましくは54質量%~94質量%を占め、より好ましくは56質量%~93質量%を占め、さらに好ましくは58質量%~92質量%を占める。
なお、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中において、断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量の残部は、二分割した他方の断面Xbにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量に相当する。
【0025】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子において、セルロースナノファイバーが炭化してなる炭素が、粒子の外周部から中心部に向けて増大するのを確保する観点から、上記断面Xにおいて、断面Xの半径が粒子の中心から1/5等分される点のみを通る円により、粒子の中心部を含む断面Xa1を切り出したときに、断面Xa1におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が、断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量中で、好ましくは0.52質量%~50質量%を占め、より好ましくは0.54質量%~40質量%を占め、さらに好ましくは0.56質量%~30質量%を占め、またさらに好ましくは0.58質量%~20質量%を占めるのが望ましい。
【0026】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の中心を通る断面Xにおけるセルロースナノファイバー由来の全炭素含有量、断面Xaにおけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量、及び断面Xa1におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量は、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を、集束イオンビーム装置を搭載した走査型電子顕微鏡(FIB-SEМ、(株)日立ハイテクサイエンス製SМF-1000)で断面Xを切り出したうえで、断面X100粒子分において、SEM-EDSによりZAF補正法を用いた定量分析により測定される値を意味する。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の平均粒径は、高い単位重量あたりの放電容量と優れたサイクル特性とを有効に兼ね備える観点から、好ましくは5μm~30μmであり、より好ましくは7μm~25μmであり、さらに好ましくは9μm~20μmである。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子のタップ密度は、高い単位重量あたりの放電容量と優れたサイクル特性とを有効に兼ね備える観点から、好ましくは0.9g/cm3~1.4g/cm3であり、より好ましくは1.0g/cm3~1.4g/cm3であり、さらに好ましくは1.1g/cm3~1.4g/cm3である。
なお、タップ密度とは、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に規定される方法により測定される「タップかさ密度」を意味する。
【0029】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、次の工程(I)~(III):
(I)リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z1を得る工程
(II)得られた造粒体Z1とともに、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z2を得る工程
(III)得られた造粒体Z2を焼成する工程
を備え、
工程(I)で混合するセルロースナノファイバーIと、工程(II)で混合するセルロースナノファイバーIIとの質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)が、1~19である製造方法により得ることができる。
【0030】
このように、工程(I)で混合するセルロースナノファイバーIと、工程(II)で混合するセルロースナノファイバーIIとを特定の質量比となるよう配分して用いる製造方法により、得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子に、セルロースナノファイバーが炭化してなる炭素が、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の外周部から中心部に向けて増大するという特性を付与し、効果的に単位重量あたりの放電容量を高め、サイクル特性の向上を有効に図ることが可能となる。
【0031】
工程(I)は、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水i-1の水熱反応物である粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z1を得る工程である。かかる工程で得られる造粒体Z1は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の中心部を形成することとなる一次粒子aの予備粒子に相当する。
なお、工程(I)における噴霧乾燥は、複数回行ってもよい。
【0032】
まず、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水i-1の水熱反応物である粒子A1を調製する。
用い得るリチウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H2O、LiOH)、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
なお、これらリチウム化合物、及びマンガン化合物とともに、金属化合物として、マンガン化合物及び鉄化合物以外の金属化合物(M1化合物:M1は式(A)中のM1と同義)を用いてもよい。
【0033】
用い得るリン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0034】
次に、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加してスラリー水i-1を得た後、これを水熱反応に付して水熱反応物である粒子A1を得る。なお、スラリー水i-1は、目的とする造粒体Z1の組成に応じ、適宜リチウム化合物、マンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物等の使用量を決定し、通常の方法にしたがって調製すればよい。水の使用量は、金属化合物の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水i-1中に含有されるリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10モル~50モルであり、より好ましくは12.5モル~45モルである。
【0035】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130℃~200℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130℃~200℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa~1.6MPaであるのが好ましく、140℃~160℃で反応を行う場合の圧力は0.3MPa~0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1時間~48時間が好ましく、さらに0.2時間~24時間が好ましい。
水熱反応に付した後、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することにより造粒体Z1を単離する。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0036】
次に、得られた水熱反応物である上記粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z1を得る。すなわち、予め粒子A1と、セルロースナノファイバーIと、水とを混合してスラリー水i-2を得た後、かかるスラリー水i-2を噴霧乾燥に付すればよい。
スラリー水i-2中の固形分濃度は、好ましくは5質量%~30質量%であり、より好ましくは5質量%~20質量%であり、さらに好ましくは5質量%~15質量%である。また、スラリー水i-2の固形分100質量%中におけるセルロースナノファイバーIの含有量は、好ましくは0.3質量%~4.2質量%であり、より好ましくは0.4質量%~3.7質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~3.2質量%である。
水を添加した後、噴霧乾燥に付する前にスラリー水i-2を予め攪拌するのが好ましい。かかるスラリー水i-2の撹拌時間は、好ましくは3分~60分であり、より好ましくは5分~30分である。また、スラリー水i-2の温度は、好ましくは10℃~60℃であり、より好ましくは20℃~40℃である。
【0037】
得られたスラリー水i-2は、噴霧乾燥に付す。かかる噴霧乾燥では、用いる装置に応じて適宜運転条件を設定すればよい。
例えば、4流体ノズルを備えたマイクロミストドライヤー(藤崎電気(株)製 MDL-050M)での処理条件としては、熱風温度が110℃~300℃であるのが好ましく、150℃~250℃であるのがより好ましい。また、熱風の供給量とスラリー水の供給量の容積比(熱風の供給量/スラリー水の供給量)が、500~10000であるのが好ましく、1000~9000であるのがより好ましい。
【0038】
かかる工程(I)を経ることにより得られた造粒体Z1の平均粒径は、好ましくは4μm~24μmであり、より好ましくは5μm~20μmであり、さらに好ましくは7μm~16μmである。
【0039】
工程(II)は、工程(I)で得られた造粒体Z1とともに、リチウム化合物、少なくともマンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物、並びに水を添加して得たスラリー水の水熱反応物である粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z2を得る工程である。
【0040】
ここで用いる粒子A2は、工程(I)で用いる粒子A1と同様の製造方法により得ることができる。したがって、粒子A2は、粒子A1と同じ粒子であってもよく、適宜リチウム化合物、マンガン化合物及び鉄化合物を含む金属化合物、リン酸化合物等の使用量を代えることにより、粒子A1とは異なる粒子としてもよい。
【0041】
次に、造粒体Z1と、粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合して噴霧乾燥を行い、造粒体Z2を得る。すなわち、予め造粒体Z1と、粒子A2と、セルロースナノファイバーIIと、水とを混合してスラリー水iiを得た後、かかるスラリー水iiを噴霧乾燥に付すればよい。
スラリー水ii中の固形分濃度は、好ましくは5質量%~30質量%であり、より好ましくは5質量%~20質量%であり、さらに好ましくは5質量%~15質量%である。また、スラリー水iiの固形分100質量%中におけるセルロースナノファイバーIIの含有量は、好ましくは0.04質量%~2.0質量%であり、より好ましくは0.05質量%~1.7質量%であり、さらに好ましくは0.06質量%~1.5質量%である。
【0042】
ここで、スラリー水ii中におけるセルロースナノファイバーIの含有量とセルロースナノファイバーIIの含有量との質量比、すなわち工程(I)で混合するセルロースナノファイバーIと、工程(II)で混合するセルロースナノファイバーIIとの質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多く、所定の条件を満たす本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得る観点から1~19であって、好ましくは1.1~16であり、より好ましくは1.2~14であり、さらに好ましくは1.3~12である。
【0043】
なお、水を添加した後、噴霧乾燥に付する前にスラリー水iiもスラリー水i-2と同様の方法により、予め攪拌するのが好ましい。
【0044】
得られたスラリー水iiを噴霧乾燥に付す。かかる噴霧乾燥については、工程(I)と同様の方法を用いればよい。
【0045】
かかる工程(II)を経ることにより得られた造粒体Z2の平均粒径は、好ましくは5μm~30μmであり、より好ましくは7μm~25μmであり、さらに好ましくは9μm~20μmである。
また、得られた造粒体Z2中における造粒体Z1の含有量は、好ましくは10質量%~90質量%であり、より好ましくは20質量%~80質量%であり、さらに好ましくは35質量%~65質量%である。
【0046】
工程(III)は、工程(II)で得られた造粒体Z2を焼成する工程である。これにより、セルロースナノファイバーが炭化されて炭素となり、粒子の中心部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量が粒子の外周部におけるセルロースナノファイバー由来の炭素含有量よりも多く、所定の条件を満たす本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を得ることができる。
還元雰囲気又は不活性雰囲気にて焼成すればよく、焼成温度は、好ましくは500℃~750℃であり、より好ましくは520℃~720℃であり、焼成時間は、好ましくは0.3時間~12時間であり、より好ましくは0.5時間~6時間である。
【0047】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いる材料である。具体的には、例えば本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子と、アセチレンブラックやケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデン、N-メチル-2-ピロリドン等とを混練して正極スラリーを調製した後、集電体に塗工し、次いでプレス成形して正極を作製する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子を用いて得られた正極を適用できる、リチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0048】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0049】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0050】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0051】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0052】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン電導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4を用いればよい。
【0053】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例0054】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、各物性については、下記方法にしたがって測定した。
【0055】
《造粒体Z1及び造粒体Z2の平均粒径》
得られた造粒体100個について、SEM(FIB-SEМ、(株)日立ハイテクサイエンス製SМF-1000)により粒径を測定し、その平均値を求めて平均粒径の値とした。
【0056】
《一次粒子a及び一次粒子bの平均粒径》
得られた正極活物質粒子100粒子分について、SEM(FIB-SEМ、(株)日立ハイテクサイエンス製SМF-1000)により一次粒子a、b各100粒子ずつの一次粒子径を測定し、その平均値を求めて平均粒径の値とした。
【0057】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の平均粒径》
得られた正極活物質粒子100個について、SEM(FIB-SEМ、(株)日立ハイテクサイエンス製SМF-1000)により粒径を測定し、その平均値を求めて平均粒径の値とした。
【0058】
《全炭素含有量》
炭素・硫黄分析装置(EMIA-220V2、堀場製作所社製)を用い、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子の全炭素含有量を測定した。
【0059】
《断面Xa及び断面Xa1における炭素含有量》
得られた正極活物質粒子の中心を通る断面X100粒子分において、集束イオンビーム装置を搭載した走査型電子顕微鏡(FIB-SEМ、(株)日立ハイテクサイエンス製SМF-1000)で断面Xを切り出したうえで、SEM-EDSによりZAF補正法を用いた定量分析により炭素含有量を測定した。
【0060】
[実施例1]
LiOH・H2O1272g、及び水4Lを混合してスラリーaを得た。次いで、得られたスラリーi-1aを、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液1153gを35mL/分で滴下したのち、速度400rpmで12時間撹拌して、Li3PO4を含むスラリーbを得た。
得られたスラリーi-1bに窒素パージして、スラリーbの溶存酸素濃度を0.5mg/Lとした後、スラリーi-1b全量に対し、MnSO4・5H2Oを1446g、FeSO4・7H2Oを1112g添加してスラリーi-1cを得た。添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、60:40であった。
【0061】
次いで、得られたスラリーi-1cをオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を-50℃で12時間凍結乾燥して粒子A1-1を得た。
得られた粒子A1-1を768g分取し、これに水0.8L、セルロースナノファイバーI-1(Wma-10002、スギノマシン社製、繊維径4~20nm)2945gを添加して、スラリーi-2eを得た。得られたスラリーi-2eを超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製、ノズルエアー流量75L/min、給気温度120℃)を用いて噴霧乾燥に付して造粒体Z1-1を得た。
【0062】
次に、粒子A1-1を732g分取し、これに水0.8L、造粒体Z1-1、セルロースナノファイバーII-1(Wma-10002、スギノマシン社製、繊維径4~20nm)982gを添加して、スラリーiifを得た。得られたスラリーiifを超音波攪拌機(T25、IKA社製)で1分間分散処理して、全体を均一に呈色させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製、ノズルエアー流量47L/min、給気温度190℃)を用いて噴霧乾燥に付して造粒体Z2-1を得た。
得られた造粒体Z2-1を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)にて700℃で1時間焼成して、リチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=2.1質量%、平均粒径=15.0μm)を得た。
なお、セルロースナノファイバーI-1と、セルロースナノファイバーII-1との質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、3であり、また造粒体Z2-1中における造粒体Z1-1の含有量は、50質量%であった。
【0063】
[実施例2]
セルロースナノファイバーI-1を1055g、セルロースナノファイバーII-1を67gとした以外、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=0.6質量%)を得た。
なお、上記質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、16であった。
【0064】
[実施例3]
セルロースナノファイバーI-1を4757g、セルロースナノファイバーII-1を4219gとした以外、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=4.8質量%)を得た。
なお、上記質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、1であった。
【0065】
[比較例1]
セルロースナノファイバーI-1を286g、セルロースナノファイバーII-1を275gとした以外、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=0.3質量%、平均粒径=15.2μm)を得た。
なお、上記質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、1であった。
【0066】
[比較例2]
セルロースナノファイバーI-1を7293g、セルロースナノファイバーII-1を2431gとした以外、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=5.2質量%)を得た。
なお、上記質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、3であった。
【0067】
[比較例3]
セルロースナノファイバーI-1を3809g、セルロースナノファイバーII-1を118gとした以外、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子(LiMn0.6Fe0.4PO4、炭素含有量=2.1質量%)を得た。
なお、上記質量比(セルロースナノファイバーI/セルロースナノファイバーII)は、32であった。
【0068】
《電池特性の評価》
得られた各正極活物質粒子を正極材料として用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた各正極活物質粒子、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、これにN-メチル-2-ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0069】
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、高分子多孔フィルムを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR-2032)を得た。
【0070】
次いで、得られたコイン型二次電池を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて気温30℃環境での1Cにて充放電を100回繰り返し、放電容量(mAh/g)を求めて下記式(x)によるサイクル特性の値(容量維持率(%))を求めた。
サイクル特性
=(100サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)×100
・・・(x)
結果を表1に示す。
【0071】