(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029971
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】船外機および船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 20/12 20060101AFI20240229BHJP
B63H 20/28 20060101ALI20240229BHJP
B63H 20/32 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B63H20/12 100
B63H20/28 100
B63H20/32 710
B63H20/32 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132473
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 公隆
(72)【発明者】
【氏名】若水 侑
(72)【発明者】
【氏名】岡部 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宏樹
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水ポンプアセンブリのメンテナンス性を高める。
【解決手段】船外機100は、プロペラシャフト134を含むロワー部120と、エンジン131を含むアッパ部110とを備える。支持部は可動ケース部材17および転舵軸部材5を含む。支持部は、転舵軸5aを中心にアッパ部110に対してロワー部120を相対的に回動可能に支持し、且つ、ロワー部120と一体に回動する。アッパ部120には水ポンプアセンブリ10が設けられる。転舵軸部材5の軸心方向(軸心P2に平行な方向)からみて、アッパ部110に対するロワー部120の第1の回動位置(直進位置)では、水ポンプアセンブリ10はロワー部120と重なる。一方、左または右への最大転舵時の転舵位置(第2の回動位置)では、水ポンプアセンブリ10の少なくとも一部がロワー部120と重ならない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラ軸を含むロワー部と、
前記プロペラ軸を回転させる回転力を得るための駆動源を含むアッパ部と、
転舵軸を中心に前記アッパ部に対して前記ロワー部を相対的に回動可能に支持し、且つ前記ロワー部と一体に回動する支持部と、を有し、
前記アッパ部には、前記ロワー部から前記支持部を介して水を吸い上げ、前記駆動源に前記水を供給する水ポンプアセンブリが設けられ、
前記転舵軸の軸線方向からみて、前記アッパ部に対する前記ロワー部の第1の回動位置では、前記水ポンプアセンブリは前記ロワー部と重なり、
前記転舵軸の軸線方向からみて、前記アッパ部に対する前記ロワー部の第2の回動位置では、前記水ポンプアセンブリの少なくとも一部が前記ロワー部と重ならない、船外機。
【請求項2】
前記水ポンプアセンブリは、前記駆動源からの回転力によって回転するポンプ駆動軸によって駆動され、
前記水ポンプアセンブリは、前記ポンプ駆動軸の端部に配置された、請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記駆動源の出力軸と前記ポンプ駆動軸とは同心であり、
前記プロペラ軸を回転させるギアを駆動するギア駆動軸は前記転舵軸と同心であり、且つ前記ポンプ駆動軸とは同心でない、請求項2に記載の船外機。
【請求項4】
前記転舵軸の軸線方向からみて、前記アッパ部に対する前記ロワー部の前記第2の回動位置では、前記水ポンプアセンブリの全部が前記ロワー部と重ならない、請求項1に記載の船外機。
【請求項5】
前記水ポンプアセンブリの一部は、常に外部に露出している、請求項1に記載の船外機。
【請求項6】
前記水ポンプアセンブリのうち常に露出する部分は、ハウジング部である、請求項5に記載の船外機。
【請求項7】
前記水ポンプアセンブリは、前記ロワー部から前記支持部に吸い上げられた水を受け入れる受け入れ口を有する、請求項1に記載の船外機。
【請求項8】
前記ロワー部の前記第1の回動位置は、直進時の転舵位置である、請求項1に記載の船外機。
【請求項9】
前記ロワー部の前記第2の回動位置は、左または右への最大転舵時の転舵位置である、請求項1に記載の船外機。
【請求項10】
プロペラ軸と、
前記プロペラ軸を回転させる回転力を得るための駆動源と、
水を吸い上げ、吸い上げた前記水を前記駆動源に供給する水ポンプアセンブリと、を有し、
前記水ポンプアセンブリの一部は、常に外部に露出している、船外機。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の船外機を備える、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機および船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機において、駆動源(エンジン等)を冷却するための水を吸い上げ駆動源に供給する水ポンプは、一般には船外機本体内に配置される。従って、水ポンプの修理や交換等のメンテナンスを行うのは簡単ではなかった。
【0003】
また、船外機において、アッパ部を左右方向に可動にせず、アッパ部に対して相対的にロワー部を左右方向に可動にすることで転舵可能にした構成が知られている(特許文献1)。このような構成の船外機においても、水ポンプのメンテナンス性を高めることが求められる。
【0004】
一方、特許文献2には、プロペラ軸を駆動する駆動軸と水ポンプを駆動する駆動軸とを別軸とした船外機が開示されている。この船外機では、水ポンプを駆動する軸の端部に水ポンプが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4617376号公報
【特許文献2】特開2014-40120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、水ポンプの配置についての記載はない。また、特許文献1の船外機においては、水ポンプを覆っている他の部品をいくつか取り除かないと水ポンプにアクセスできないため、メンテナンス性は高くない。
【0007】
本発明は、水ポンプアセンブリのメンテナンス性を高めることができる船外機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一態様による船外機は、プロペラ軸を含むロワー部と、前記プロペラ軸を回転させる回転力を得るための駆動源を含むアッパ部と、転舵軸を中心に前記アッパ部に対して前記ロワー部を相対的に回動可能に支持し、且つ前記ロワー部と一体に回動する支持部と、を有し、前記アッパ部には、前記ロワー部から前記支持部を介して水を吸い上げ、前記駆動源に前記水を供給する水ポンプアセンブリが設けられ、前記転舵軸の軸線方向からみて、前記アッパ部に対する前記ロワー部の第1の回動位置では、前記水ポンプアセンブリは前記ロワー部と重なり、前記転舵軸の軸線方向からみて、前記アッパ部に対する前記ロワー部の第2の回動位置では、前記水ポンプアセンブリの少なくとも一部が前記ロワー部と重ならない。
【0009】
この構成によれば、転舵軸の軸線方向からみて、アッパ部に対してロワー部を第2の回動位置に位置させれば、水ポンプアセンブリの少なくとも一部がロワー部と重ならない。従って、水ポンプアセンブリへのアクセスが容易となり、メンテナンス等の作業が容易となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水ポンプアセンブリのメンテナンス性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】水ポンプアセンブリおよびプロペラを駆動する、主駆動機構の要部の斜視図である。
【
図5】船舶航行時の姿勢の船外機のロワー部を下方からみた模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る船外機が適用される船舶の模式的な平面図である。
図2は、船外機の模式的な左側面図である。
【0014】
この船舶220は、船体210と、2つの船外機100とを備える。
図1、
図2において、FWD、BWD、L、R、Z1、Z2は、それぞれ、船舶220の前方、後方、左方、右方、上方、下方を示している。
【0015】
図1に示すように、船外機100は、船体210の船尾211に対し、左右方向に並ぶように2つ取り付けられている。2つの船外機100の構成は共通するので、船外機100の構成については代表して1つについて説明する。船外機100は、船体210を推進するための船舶用推進機である。船外機100は、エンジン131、転舵機構140、ECU(Engine Control Unit)151、SCU(Steering Control Unit)152を備える。
【0016】
図1に示すように、船体210は、制御部213と、船舶220を操縦(操船)するための操作を受け付ける操作部212とを備える。操作部212は、リモートコントローラ212aと、ステアリングホイール212bと、ジョイスティック212cと、を含む。
【0017】
リモートコントローラ212aに設けられたレバー(不図示)が傾倒されることにより、船外機100の推力(プロペラ135(
図2)の回転数)の変更、船外機100のシフト状態(前進状態、後進状態、ニュートラル状態)の切り換え等が行われる。ステアリングホイール212bが回動操作されることにより、船外機100の転舵(船体210に対するプロペラ135の向きの変更)が行われる。船舶220では、リモートコントローラ212aに対する操作とステアリングホイール212bに対する操作との組み合わせにより、船舶220の並進移動、旋回等が行われる。
【0018】
ジョイスティック212cには、傾倒可能かつ回動可能なレバー(不図示)が設けられている。ジョイスティック212cのレバーが傾倒されるか、回動されるか、または、傾倒かつ回動されることにより、船外機100の推力の変更、船外機100のシフト状態の切り換え、船外機100の転舵等が行われる。ジョイスティック212cのレバーの操作によって、船舶220の並進移動、旋回、回頭が可能である。
【0019】
制御部213は、操作部212に対する操作に基づいて船外機100のECU151、SCU152等を制御する。制御部213は、例えば、CPU、ROM、RAM等を含む。
【0020】
船外機100において、ECU151は、制御部213による制御に基づいて、エンジン131の駆動およびシフトアクチュェータ(不図示)の駆動を制御する。SCU152は、制御部213による制御に基づいて、転舵機構140の駆動を制御する。ECU151およびSCU152は、例えば、CPU、ROM、RAM等を含む。
【0021】
図2に示すように、船外機100は、船外機本体102を備える。船外機本体102は、ブラケット101を介して船体210の船尾211に取り付けられている。
【0022】
船外機本体102は、アッパ部110と、ロワー部120と、支持部60(
図3参照)と、を含む。支持部60の構成については
図3、
図4を用いて詳述するが、概説すると、支持部60は可動ケース部材17および転舵軸部材5を含む。支持部60は、転舵軸部材5の転舵軸5aを中心にアッパ部110に対してロワー部120を相対的に回動可能に支持し、且つ、ロワー部120と一体に回動する。すなわち、船外機100においては、船体210に対して、船外機本体102のうちアッパ部110は回動せず、ロワー部120が回動するように構成されている。
【0023】
以下、船外機本体102における上下方向については、
図2に示す航行時における姿勢を基準として特定する。
【0024】
アッパ部110は、ブラケット101を介して船尾211に取り付けられている。ロワー部120はプロペラ135を含み、アッパ部110の下方に配置される。アッパ部110は、エンジン131を収納するカウル111と、カウル111の下方に配置され船尾211に取り付けられたアッパケース112と、を含む。ロワー部120は、ロワーケース121を含む。
【0025】
船外機本体102は、エンジン131と、ポンプ駆動軸7と、第2駆動軸14(ギア駆動軸)と、ギア部133と、プロペラシャフト134(プロペラ軸)と、プロペラ135と、を含む。エンジン131は、プロペラシャフト134を回転させる回転力を得るための駆動源の一例である。第1駆動軸138は、エンジン131の出力軸であり、クランクシャフトからの出力により回転する。ポンプ駆動軸7は第1駆動軸138と同心であり、第1駆動軸138と一体に回転する。
【0026】
第2駆動軸14は、ポンプ駆動軸7および第1駆動軸138とは別軸であり(すなわち、同心でなく)、ポンプ駆動軸7および第1駆動軸138に対して平行である。ギア部133は、ロワーケース121内に配置されている。ギア部133は、第2駆動軸14の下端部に接続されている。プロペラシャフト134は、ギア部133に接続されている。プロペラシャフト134は、ギア部133の後方において、前後方向に延びるように配置されている。プロペラ135は、プロペラシャフト134の後端部に接続されている。プロペラ135は、船外機本体102の外部に露出するように、ロワーケース121の外部に配置されている。
【0027】
固定ケース部材31(固定部)は、アッパ部110に対して相対的に固定されている。固定ケース部材31は、転舵機構140を覆う転舵ハウジング(不図示)に対して固定され、転舵ハウジングはアッパ部110に固定されている。固定ケース部材31内に水ポンプアセンブリ10が配置されている。水ポンプアセンブリ10は、ポンプ駆動軸7の下端部7aに配置され、ポンプ駆動軸7によって駆動される。ポンプ駆動軸7は、第1駆動軸138を介してエンジン131からの回転力によって回転する。水ポンプアセンブリ10は、エンジン131に冷却用の水を供給する。
【0028】
ロワー部120は、外部の水を取り入れる吸水部136、137を有する。吸水部136はロワーケース121の左側部と右側部とに設けられ、吸水部137もロワーケース121の左側部と右側部とに設けられる。側面視で、吸水部136はギア部133より前に位置し、吸水部137は吸水部136より後方且つ上方に位置する。吸水部136、137はそれぞれ、フィルタ136a、137aを含む。フィルタ136a、137aを第1のフィルタと称する。
【0029】
図3は、水ポンプアセンブリ10およびプロペラ135を駆動する、主駆動機構の要部の斜視図である。
図3に示される構成要素は、支持部60を除きアッパ部110に配置される。
【0030】
図4は、転舵機構140およびその周辺の縦断面図である。
図4に示す断面は、ポンプ駆動軸7の軸心P1と転舵軸部材5の軸心P2とに平行で且つ軸心P1、P2を含む断面である。なお、軸心P1と軸心P2とは平行である。
【0031】
図3、
図4を参照して、主駆動機構および水流路Rについて説明する。
【0032】
まず、主駆動機構は、
図3に示すように、ドッグクラッチ1、ベベルギア2、ヘリカルギア4、転舵軸部材5、ピニオンギア6、ポンプ駆動軸7、ギア8、水ポンプアセンブリ10、ベベルギア11、ギア12、ヘリカルギア13を含む。主駆動機構はさらに、第2駆動軸14、減速ギア15、ギア16、支持部60、油圧シリンダ144(
図2参照、
図3、
図4には不図示)を含む。水ポンプアセンブリ10は、上ハウジング9および下ハウジング41(ハウジング部)を含む。
【0033】
転舵機構140は、支持部60、第1の機構および第2の機構を含む。この第1の機構は、不図示のモータ、減速ギア15、ギア16およびギア8を含む。この第2の機構は、油圧シリンダ144(
図2)、不図示のラックギアおよびピニオンギア6を含む。
【0034】
クランクシャフト(不図示)からの出力により第1駆動軸138が回転駆動される。すると、第1駆動軸138と一体に回転するポンプ駆動軸7によって水ポンプアセンブリ10が駆動される。それと並行して、第1駆動軸138と一体に回転するヘリカルギア4がヘリカルギア13を回転駆動する。
【0035】
ヘリカルギア13の回転はベベルギア2に伝わり、さらにギア12を介してベベルギア11にも伝わる。ベベルギア2とベベルギア11とは互いに逆方向に回転する。シフトアクチュェータ(不図示)がドッグクラッチ1を第2駆動軸14の軸方向に移動させることで、前進、後進、ニュートラルが切り替えられる。
【0036】
第2駆動軸14は軸心P2(
図4)を中心として、ドッグクラッチ1と一体に回転する。第2駆動軸14は、ベベルギア2とベベルギア11とのうち、ドッグクラッチ1と噛み合っているギアと同じ方向に回転する。第2駆動軸14の回転力が、ロワー部120内のギア部133を介してプロペラシャフト134(
図2)を回転させる。
【0037】
軸心P2は、第2駆動軸14の軸心であり且つ転舵軸部材5の転舵軸5aの軸心でもある。すなわち、転舵軸部材5は第2駆動軸14と同心である。ピニオンギア6およびギア8は転舵軸部材5と一体に回転する。
【0038】
転舵機構140において、操船者からの指示により、第1の機構と第2の機構のいずれかが選択的に作動する。なお、第1の機構と第2の機構の双方を供える必要はなく、いずれかのみを備える構成であってもよい。
【0039】
まず、第1の機構が適用される場合は、第1の機構における不図示のモータからの回転力が、減速ギア15およびギア16を介してギア8に伝わる。これにより、転舵軸部材5と一体に可動ケース部材17が回動駆動される。その結果、アッパ部110に対してロワー部120が転舵(回転駆動)される。
【0040】
一方、第2の機構が適用される場合は、第2の機構(油圧シリンダ144(
図2))からの駆動力によって、不図示のラックギアが移動し、このラックギアによってピニオンギア6が回転駆動される。その結果、アッパ部110に対してロワー部120が転舵(回転駆動)される。
【0041】
水流路Rを
図4で説明する。ロワーケース121、可動ケース部材17、固定ケース部材31、水ポンプアセンブリ10の下ハウジング41の、それぞれの内側空間によって、水流路Rが形成される。
【0042】
支持部60のうち可動ケース部材17は、ロワー部120に対して固定されている。ロワーケース121の上部に可動ケース部材17が固定される。ロワーケース121と可動ケース部材17との間にプレート33が介在する。プレート33は、例えば金属で構成される。
【0043】
支持部60の内側に形成される空間において、第2のフィルタ35が支持部60に固定されている。まず、可動ケース部材17の内側空間において、筒状部材34の上部に第2のフィルタ35が固定され、さらに第2のフィルタ35が可動ケース部材17に固定される。具体的には、筒状部材34の下部とプレート33の上面とによって環状部材36が挟み込まれている。第2のフィルタ35と筒状部材34の上部とが、不図示のボルトによって可動ケース部材17に共締めにより締結されている。従って、第2のフィルタ35は、筒状部材34および環状部材36を介してロワー部120に対しても固定状態となっている。環状部材36は、例えばゴム等の弾性部材で構成される。
【0044】
上述したように、可動ケース部材17は、上記した第1の機構または第2の機構によって回動駆動される。固定ケース部材31は回転しないため、固定ケース部材31と可動ケース部材17との間で摺動する部分が生じる。この摺動する部分(転舵部分)にシール部37、38が配置されている。従って、水流路Rのうち、固定ケース部材31と可動ケース部材17との間で摺動する部分は、シール部37、38によってシールされている。
【0045】
水流路Rの主な経路は、吸水部136、137から支持部60を介して水ポンプアセンブリ10に繋がる経路であり、途中で第2のフィルタ35を通る。なお、吸水部136、137からの水流路Rは合流位置Cで合流している。水流路Rにおいて、第2のフィルタ35はシール部37、38よりも上流に位置する。特に、第2のフィルタ35が配置された位置は、合流位置Cよりも下流であるので、第2のフィルタ35の数は1つで済む。
【0046】
第2のフィルタ35は、フィルタ136a、137a(第1のフィルタ)のメッシュサイズよりも小さいメッシュサイズを有する。このことは、「第2のフィルタ35は第1のフィルタの濾過精度よりも高い濾過精度を有すること」と同義であってもよい。あるいは、このことは、「第2のフィルタ35が通過させない異物の最小サイズは第1のフィルタが通過させない異物の最小サイズよりも小さいこと」と同義であってもよい。
【0047】
フィルタ136a、137aによって、比較的大きな異物は除去されるが、細かい異物は水流路Rに侵入する。しかし、本実施の形態では、第2のフィルタ35のメッシュサイズは、フィルタ136a、137aのメッシュサイズより小さいので、フィルタ136a、137aを通過した異物であっても第2のフィルタ35で通過を阻止された異物は転舵部分に配置されたシール部37、38まで到達しない。従って、シール部37、38へ異物が噛み込むことが抑制される。
【0048】
また、第2のフィルタ35が配置された位置における水流路Rの断面積は、第1のフィルタが配置された位置における水流路Rの断面積よりも大きい。これにより、第2のフィルタ35は目詰まりを起こしにくい。特に、第2のフィルタ35は支持部60に配置されているので、水流路Rのうち大きな断面積を確保しやすい位置にレイアウトされている。この点でも、目詰まりを起こしにくくする観点で有利である。
【0049】
また、第2のフィルタ35における水が通る部分の総面積は、第1のフィルタにおける水が通る部分の総面積よりも大きい。これによっても目詰まりしにくくすることができる。
【0050】
水ポンプアセンブリ10の下ハウジング41は受け入れ口39を有する。水流路Rにおいて、ロワー部120から支持部60に吸い上げられた水は、受け入れ口39から水ポンプアセンブリ10の内部に受け入れられる。受け入れられた水は、水ポンプアセンブリ10から不図示のパイプを通り、エンジン131における冷却水の循環経路へ供給される。エンジン131を冷却した水は、不図示の排水部から外部へ排出される。
【0051】
図5は、船舶航行時の姿勢の船外機100のロワー部120を下方からみた模式図である。
図5では、転舵軸部材5の軸心P2方向からみた、ロワー部120と水ポンプアセンブリ10との位置関係を示している。
【0052】
転舵機構140によってアッパ部110に対してロワー部120がとり得る回動角度のうち、船舶220を直進させる角度に対応する回動位置にあるロワー部120を、ロワー部120Mで示す。また、上記とり得る回動角度のうち、最も大きく右旋回/左旋回する角度に対応する回動位置にあるロワー部120を、それぞれロワー部120R/ロワー部120Lで示す。
【0053】
まず、ロワー部120が直進位置(第1の回動位置)にある状態では、軸心P2方向(軸線方向)から見て、水ポンプアセンブリ10はロワー部120Mと重なり、下方からはロワー部120Mによって隠れて見えない。直進位置は、直進時の転舵位置である。
【0054】
一方、ロワー部120が、左または右への最大転舵時の転舵位置(第2の回動位置)にある状態では、軸心P2方向から見て、水ポンプアセンブリ10の一部がロワー部120Lまたはロワー部120Rと重ならない。すなわち、下方から水ポンプアセンブリ10の一部が見える。なお、最大転舵位置にまでしなくても、水ポンプアセンブリ10の一部がロワー部120Lまたはロワー部120Rと重ならなくなる角度領域は存在する。
【0055】
下方からみて水ポンプアセンブリ10の一部が見えるようになるまでロワー部120を転舵させれば、水ポンプアセンブリ10へのアクセスが容易となり、例えば、メンテナンス作業等を容易に行うことができる。実際のメンテナンスは、船外機100をチルトアップさせた状態で、ロワー部120を大きく(例えば、最大転舵位置あるいはその近傍まで)転舵させて行うことが想定される。
【0056】
しかも、水ポンプアセンブリ10は、ポンプ駆動軸7の下端部7aに配置されていて、水ポンプアセンブリ10の一部は常に外部に露出している。具体的には、下ハウジング41の一部が常に露出し、水または大気に触れている。従って、ロワー部120を大きく転舵させれば、下ハウジング41を取り外して内部部品を交換する等の作業を容易に行うことができる。このように、水ポンプアセンブリ10のメンテナンス性が高められている。
【0057】
本実施の形態によれば、水流路Rのうち、固定ケース部材31と可動ケース部材17との間で摺動する部分(転舵部分)がシール部37、38によってシールされている(
図4)。水流路Rにおけるシール部37、38より上流で且つ吸水部136、137より下流の位置に、フィルタ136a、137a(第1のフィルタ)のメッシュサイズよりも小さいメッシュサイズを有する第2のフィルタ35が配置された。第2のフィルタ35は、フィルタ136a、137a(第1のフィルタ)の濾過精度よりも高い濾過精度を有する。従って、フィルタ136a、137aを通過した異物であっても、第2のフィルタ35で通過を阻止されればシール部37、38にまで到達しない。よって、転舵部分におけるシール部37、38への異物の噛み込みを抑制することができる。
【0058】
また、第2のフィルタ35は、大きな面積を確保しやすい支持部60に配置された。また、第2のフィルタ35が配置された位置における水流路Rの断面積は、第1のフィルタが配置された位置における水流路Rの断面積よりも大きい。従って、第2のフィルタ35を、目詰まりしにくい設計にする上で有利である。
【0059】
なお、より目詰まりしにくくする観点からは、第2のフィルタ35は、水流路Rに対して垂直でなくてもよく、水流路Rに対して湾曲することで、水が通る部分の大きな総面積が確保されてもよい。
【0060】
また、複数の吸水部136、137があっても、第2のフィルタ35は合流位置Cよりも下流に位置するので、第2のフィルタ35の数は1つで済む。
【0061】
本実施の形態によればまた、転舵軸部材5の軸心方向(軸心P2に平行な方向)からみて、アッパ部110に対するロワー部120の第1の回動位置(直進位置)では、水ポンプアセンブリ10はロワー部120Mと重なる(
図5)。一方、左または右への最大転舵時の転舵位置(第2の回動位置)では、水ポンプアセンブリ10の少なくとも一部がロワー部120Lまたはロワー部120Rと重ならない。よって、水ポンプアセンブリ10のメンテナンス性を高めることができる。
【0062】
また、プロペラシャフト134に駆動力を伝える第2駆動軸14と水ポンプアセンブリ10に駆動力を伝えるポンプ駆動軸7とは別軸である。しかも、水ポンプアセンブリ10は、ポンプ駆動軸7の下端部7aに配置された。これらにより、水ポンプアセンブリ10の一部を外部に露出させる構成をとりやすい。
【0063】
また、水ポンプアセンブリ10の一部は常に外部に露出している。これによって、転舵状態にしなくても、設計によっては水ポンプアセンブリ10の簡単なメンテナンスを行うことが可能である。なお、メンテナンス性を高める観点に限っていえば、直進位置でも水ポンプアセンブリ10の一部が外部に露出することでメンテナンスが可能な設計にすれば、アッパ部110に対してロワー部120が回動可能であることは必須でない。
【0064】
なお、転舵軸部材5の軸心方向(軸心P2に平行な方向)からみて、ロワー部120の左または右への最大転舵時の転舵位置(第2の回動位置)で、水ポンプアセンブリ10の全部がロワー部120Lまたはロワー部120Rと重ならないように構成してもよい。これにより、メンテナンス性をより高めることができる。
【0065】
なお、吸水部が複数である必要はなく、例えば、吸水部136、137のいずれかだけを備える構成であってもよい。
【0066】
なお、第2のフィルタ35は濾過機能を有すればよく、樹脂ロックや樹脂焼結多孔質体などを採用してもよい。
【0067】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
5 転舵軸部材、 5a 転舵軸、 10 水ポンプアセンブリ、 17 可動ケース部材、 31 固定ケース部材、 60 支持部、 100 船外機、 110 アッパ部、 120 ロワー部、 131 エンジン、 134 プロペラシャフト