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特開2024-29992鍔付きアンカーボルト、及びそれを用いたあと施工アンカー工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029992
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】鍔付きアンカーボルト、及びそれを用いたあと施工アンカー工法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20240229BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E04B1/41 502A
E02D5/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132506
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522336052
【氏名又は名称】株式会社三賢
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 孝之
(72)【発明者】
【氏名】上村 賢三
【テーマコード(参考)】
2D041
2E125
【Fターム(参考)】
2D041GB01
2D041GC02
2E125AA03
2E125AG41
2E125BA02
2E125BA22
2E125BB08
2E125BD01
2E125BE07
2E125CA04
(57)【要約】
【課題】従来よりも遥かに強い引張強度・引抜強度を発現でき、縦方向・横方向・斜め方向に設置する場合に芯ずれを引き起こさず、アンカー設置穴を然程深くする必要がなく、鉄筋等を傷つけることがないうえ、安価かつ簡便に製造できる、簡素な鍔付きアンカーボルトを提供する。
【解決手段】鍔付きアンカーボルト1は、アンカー設置穴10に挿入され、前記アンカー設置穴10に充填された固着材11に埋め込まれて固定されるのに用いられるものであって、少なくともボルト頭部近傍の側面が雄螺子となっており前記アンカー設置穴10からボルト先端側5で露出できる長さの棒状のボルト部4と、前記雄螺子へ螺合する雌螺子となっている螺子穴6が中寄りに設けられ前記ボルト頭部近傍から拡張しており前記アンカー設置穴10よりも小径であって前記アンカー設置穴10内で前記固着材11に前記ボルト頭部ごと埋め込まれ固定するための頭部鍔部2とを、有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカー設置穴に挿入され、前記アンカー設置穴に充填された固着材に埋め込まれて固定されるのに用いられる鍔付きアンカーボルトであって、
少なくともボルト頭部近傍の側面が雄螺子となっており前記アンカー設置穴からボルト先端側で露出できる長さの棒状のボルト部と、前記雄螺子へ螺合する雌螺子となっている螺子穴が中寄りに設けられ前記ボルト頭部近傍から拡張しており前記アンカー設置穴よりも小径であって前記アンカー設置穴内で前記固着材に前記ボルト頭部ごと埋め込まれ固定するための頭部鍔部とを、有することを特徴とする鍔付きアンカーボルト。
【請求項2】
前記螺子穴が前記頭部鍔部の中央に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項3】
前記頭部鍔部が、円板状、楕円板状、又は正多角形板状であることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項4】
前記ボルト部の側面が、全面で雄螺子となっていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項5】
前記螺子穴が、前記頭部鍔部を貫通し、又は未貫通となっていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項6】
前記頭部鍔部が、前記長さ方向に沿って前記頭部鍔部に開けられた貫通穴を有することを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項7】
中間ナットが、前記頭部鍔部よりも前記ボルト先端側で前記雄螺子に螺合して前記頭部鍔部を締め付けていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項8】
前記ボルト部が、前記ボルト頭部で六角ボルト、ボタンキャップボルト、アイボルト、又は蝶ボルトとなっていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項9】
前記螺子穴が前記頭部鍔部を貫通し、前記雄螺子がボルト頭端側で前記頭部鍔部を突き抜けており、頭端ナットが、前記頭部鍔部よりも前記ボルト頭端側で前記雄螺子に螺合して前記頭部鍔部を締め付けていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項10】
前記頭部鍔部よりも前記ボルト先端側で前記頭部鍔部から離れつつ前記ボルト部の中程から拡張しつつ、前記雄螺子へ螺合する雌螺子となっている螺子穴が中寄りに設けられており、前記アンカー設置穴よりも小径であって前記アンカー設置穴内で固着材に埋め込まれるための中程鍔部を、有することを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項11】
前記中程鍔部が、前記頭部鍔部と同径であることを特徴とする請求項10に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項12】
前記中程鍔部が、前記長さ方向に沿って開けられた貫通穴を有することを特徴とする請求項10に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項13】
前記頭部鍔部と前記中程鍔部との間に、前記雄螺子に螺合している中間ナットが、設けられて前記頭部鍔部と前記中程鍔部とをそれぞれ締め付けていることを特徴とする請求項10に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項14】
前記ボルト部が挿入されている筒状パイプが、前記頭部鍔部と前記中程鍔部との間に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項15】
前記ボルト部が直径8mm~100mmであり、前記頭部鍔部がそれより広径で直径20mm~510mmであることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項16】
前記アンカー設置穴が直径22mm~512mmであり、前記頭部鍔部がそれより小径であり直径20mm~510mmであることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項17】
前記ボルト部の複数が、前記頭部鍔部へ、点対称に、又は線対称に、若しくは等間隔に、設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項18】
前記アンカー設置穴の開口を覆って塞ぐカバーが、前記ボルトに螺合され及び/又は貫通されていることを特徴とする請求項1に記載の鍔付きアンカーボルト。
【請求項19】
建築物、建造物、又は建材、若しくは地盤、又は岩盤に、アンカー設置穴を設け、
前記アンカー設置穴に固着材を注入し、
ボルト先端側で前記ボルト部をアンカー設置穴から露出させるように、請求項1に記載の鍔付きアンカーボルトを、前記アンカー設置穴内に挿入して、前記固着材に前記ボルト頭部ごと埋め込むことを特徴とするあと施工アンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカルバート、ダム堤体、建物のようなコンクリート躯体や岩盤に、鍔付きのもので鉄筋や各種アンカー素子のような鍔付きアンカーボルト、及びそれを定着させて用いられるあと施工アンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバート、ダム堤体、トンネル、建物など既存のコンクリート躯体のような建築物・建造物の耐震強度や耐久性を高めるために、せん断耐力を向上させる補強工事が行われている。また、これら建築物・建造物やその工事途中で、又は建材に、別な建材を後付けで接続する設置工事が行われている。或いは、地盤・岩盤の法面を覆ってそれの崩落を防止するという所謂張コンクリートに、必要に応じて落石防護網や雪崩防止柵のような工作物を取り付ける工事が行われている。これらの工事は、コンクリート躯体や岩盤などに、ドリルやホールソーコアドリルやコアボーリングマシンのような回転工具で円筒形の削孔を形成し、そこへ硬化性の固着材を注入しさらに筋目状や螺子状の直棒型やL字型やJ字型の鉄筋や各種アンカー素子のようなアンカーボルトを打ち込んで定着させるというものである。
【0003】
例えば、特許文献1に、既設コンクリート構造物の補強装置であって、既設コンクリートの表面と補強用鋼板の平面とが水平になるように、アンカー素子として、複数のスパイクボンドアンカーで補強用鋼板を固定して保持し、既設コンクリート表面と補強用鋼板との間の空間にグラウトを充填した既設コンクリート構造物の補強装置が開示されている。このスパイクボンドアンカーは、キャップとボルトから成り、既設コンクリート構造物に溝をつけてキャップの表面積でコンクリートに接着し、キャップに溶接したボルトで、グラウトを注入して支持力を得る後施工アンカーボルトである旨、記載されている。しかし、コンクリート躯体に付けた溝にこのスパイクボンドアンカーを嵌め込んで接着しただけでは、より強い引張強度・引抜強度が求められる近年の施工要求を満たし難くなってきているという問題が生じている。しかも、このようなアンカー素子を安価かつ簡便に製造でき簡素な構造であることも求められている。
【0004】
また、特許文献2に、一端に吐出口有するシリンダ内に予め収容されているセメント系組成物粉体である水硬性組成物に吐出口から水を注入した後、シリンダカートリッジを手に持って振盪したり、このシリンダカートリッジに機械で振動を与えたりして水硬性組成物と水とを撹拌し、それにより調製した高流動性のセメントペーストを吐出口から押し出しながら、コンクリート構造物に開けた削孔に注入し、そこへアンカー筋のようなアンカー素子を挿入するという方法が記載されている。
【0005】
しかし、アンカー筋のようなアンカー素子は、その棒状の側面に水硬性組成物の硬化物が接触して付着・接合していることにより固定されているに過ぎず、棒状であることに起因して、引き抜き易く、より強い引張強度・引抜強度を要求される近年の施工要求を満たし難くなってきている。しかも、棒状のアンカー筋などのアンカー素子を削孔のようなアンカー設置穴に深く挿入しなければ強い引張強度・引抜強度を得られないから、コンクリートの鉄筋に当たって傷つけかねない。さらに、長い棒状のアンカー筋などのアンカー素子は、水硬性組成物を養生して硬化させている間に、重力によって傾いて固着されることが多く、芯ずれの問題が生じている。さらに、削孔が横向き又は斜め向きである場合、その芯ずれはより深刻になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3198237号公報
【特許文献2】特開2013-147883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、従来よりも遥かに強い引張強度・引抜強度を発現でき、縦方向・横方向・斜め方向に設置する場合に芯ずれを引き起こさず、アンカー設置穴を然程深くする必要がなく、鉄筋等を傷つけることがないうえ、安価かつ簡便に製造できる、簡素な鍔付きアンカーボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた鍔付きアンカーボルトは、アンカー設置穴に挿入され、前記アンカー設置穴に充填された固着材に埋め込まれて固定されるのに用いられるものであって、少なくともボルト頭部近傍の側面が雄螺子となっており前記アンカー設置穴からボルト先端側で露出できる長さの棒状のボルト部と、前記雄螺子へ螺合する雌螺子となっている螺子穴が中寄りに設けられ前記ボルト頭部近傍から拡張しており前記アンカー設置穴よりも小径であって前記アンカー設置穴内で前記固着材に前記ボルト頭部ごと埋め込まれ固定するための頭部鍔部とを、有することを特徴とする。
【0009】
この鍔付きアンカーボルトは、前記螺子穴が前記頭部鍔部の中央に設けられていることが好ましい。
【0010】
この鍔付きアンカーボルトは、前記頭部鍔部が、例えば円板状、楕円板状、又は正多角形板状であるというものである。
【0011】
この鍔付きアンカーボルトは、前記ボルト部の側面が、全面で雄螺子となっていることが好ましい。
【0012】
この鍔付きアンカーボルトは、前記螺子穴が、前記頭部鍔部を貫通し、又は未貫通となっているというものである。
【0013】
この鍔付きアンカーボルトは、前記頭部鍔部が、前記長さ方向に沿って前記頭部鍔部に開けられた貫通穴を有することが好ましい。
【0014】
この鍔付きアンカーボルトは、中間ナットが、前記頭部鍔部よりも前記ボルト先端側で前記雄螺子に螺合して前記頭部鍔部を締め付けているというものであってもよい。
【0015】
この鍔付きアンカーボルトは、前記ボルト部が、例えば、前記ボルト頭部で六角ボルト、ボタンキャップボルト、アイボルト、又は蝶ボルトとなっているというものである。
【0016】
この鍔付きアンカーボルトは、前記螺子穴が前記頭部鍔部を貫通し、前記雄螺子がボルト頭端側で前記頭部鍔部を突き抜けており、頭端ナットが、前記頭部鍔部よりも前記ボルト頭端側で前記雄螺子に螺合して前記頭部鍔部を締め付けているというものであってもよい。
【0017】
この鍔付きアンカーボルトは、前記頭部鍔部よりも前記ボルト先端側で前記頭部鍔部から離れつつ前記ボルト部の中程から拡張しつつ、前記雄螺子へ螺合する雌螺子となっている螺子穴が中寄りに設けられており、前記アンカー設置穴よりも小径であって前記アンカー設置穴内で固着材に埋め込まれるための中程鍔部を、有すると、なお一層好ましい。
【0018】
この鍔付きアンカーボルトは、前記中程鍔部が、前記頭部鍔部と同径であることが好ましい。
【0019】
この鍔付きアンカーボルトは、前記中程鍔部が、前記長さ方向に沿って開けられた貫通穴を有していると、なお一層好ましい。
【0020】
この鍔付きアンカーボルトは、前記頭部鍔部と前記中程鍔部との間に、前記雄螺子に螺合している中間ナットが、設けられて前記頭部鍔部と前記中程鍔部とをそれぞれ締め付けているというものであってもよい。
【0021】
この鍔付きアンカーボルトは、前記ボルト部が挿入されている筒状パイプが、前記頭部鍔部と前記中程鍔部との間に設けられているというものであってもよい。
【0022】
この鍔付きアンカーボルトは、具体的には、前記ボルト部が直径8mm~100mmであり、前記頭部鍔部がそれより広径で直径20mm~510mmであることが好ましい。
【0023】
この鍔付きアンカーボルトは、具体的には、前記アンカー設置穴が直径22mm~512mmであり、前記頭部鍔部がそれより小径であり直径20mm~510mmであることが好ましい。
【0024】
この鍔付きアンカーボルトは、前記ボルト部の複数が、前記頭部鍔部へ、点対称に、又は線対称に、若しくは等間隔に、設けられているというものであってもよい。
【0025】
この鍔付きアンカーボルトは、前記アンカー設置穴の開口を覆って塞ぐカバーが、前記ボルトに螺合され及び/又は貫通されているというものであってもよい。
【0026】
前記の目的を達成するためになされたあと施工アンカー工法は、建築物、建造物、又は建材、若しくは地盤、又は岩盤に、アンカー設置穴を設け、前記アンカー設置穴に固着材を注入し、ボルト先端側で前記ボルト部をアンカー設置穴から露出させるように、前記鍔付きアンカーボルトを、前記アンカー設置穴内に挿入して、前記固着材に前記ボルト頭部ごと埋め込むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の鍔付きアンカーボルトは、アンカー設置穴に挿入され、アンカー設置穴に充填された固着材に埋め込まれて固定された際に、頭部鍔部が硬化した固着材によって引抜難くなっているので、従来のような単なる棒状のアンカーボルトよりも遥かに強い引張強度・引抜強度を発現できる。
【0028】
さらに、この鍔付きアンカーボルトによれば、長いボルト部を有していても頭部鍔部によって傾斜し難くなっているので、縦方向・横方向・斜め方向に設置する場合であっても、自重によって傾斜してしまうことが防止でき、その結果、芯ずれを引き起こさず、アンカー設置穴よりも外で露出しているボルト部に、後付けで設置する別部材の施工精度が高まるばかりか、施工性が向上し、ボルト部に別部材を無理矢理押し込むような無駄な操作をしなくて済む。
【0029】
しかも、この鍔付きアンカーボルトによれば、アンカー設置穴を深く抉り従来のような単なる棒状のアンカーボルトのボルト部を奥底まで挿入しなくても、頭部鍔部があることによってボルト部と頭部鍔部を比較的浅くまで挿入するだけで引張強度・引抜強度を高めることができる。そのため、アンカー設置穴を然程深く抉る必要がなく、アンカー設置穴を抉る際に縦横に設けられた鉄筋等を傷つけることを無くすことができる。
【0030】
この鍔付きアンカーボルトは簡素な構造であって、各部材を安価かつ簡便に調製したり購入できたりするものばかりである。そのため、鍔付きアンカーボルトも、安価かつ簡便に製造でき、歩留まりが良く、生産性が高い。
【0031】
本発明のあと施工アンカー工法によれば、この鍔付きアンカーボルトを用いることによって、簡便にあと施工をすることができ、このあと施工によって鍔付きアンカーボルトを強い引張強度・引抜強度で傾斜することなく設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明を適用する鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図2】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図3】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図4】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図5】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトの使用状態を示す概要図である。
図6】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトの使用状態を示す概要図である。
図7】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図8】本発明を適用する別な鍔付きアンカーボルトを示す斜視図である。
図9】本発明を適用するあと施工アンカー工法における工程の一部を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0034】
本発明の鍔付きアンカーボルト1は、図1(a)を参照して説明すると、建築物、建造物、又は建材、若しくは地盤、又は岩盤に掘られ、削られ、抉られ、及び/又は刳られ、若しくは事前に形成されたアンカー設置穴10に挿入されて使用されるものである。この鍔付きアンカーボルト10は、このアンカー設置穴10に充填された固着材11に、鍔付きアンカーボルト1の頭部鍔部3及びボルト頭端側2のボルト部4ごと埋め込まれ、ボルト先端側5のボルト部4をアンカー設置穴10から露出するようにして、固定される、あと施工アンカー工法のためのものである。
【0035】
この鍔付きアンカーボルト1の一例は、側面全面に螺子溝が切られた雄螺子であるボルト部4と、内面で雌螺子となっておりボルト部4の雄螺子と螺合する螺子穴6が中央に開けられつつボルト部4が頭部近傍で螺合している円板状の頭部鍔部3とからなる。
【0036】
この鍔付きアンカーボルト1は、頭部鍔部3が、螺子穴6寄りに、ボルト部4の長さ方向に沿って開けられた円筒状の貫通穴8a・8bを有している。
【0037】
螺子穴6は、頭部鍔部3を貫通することなく、ボルト部4が頭部鍔部3に揺るがずに確りと螺合して固定されるように、螺子穴6の深さDが頭部鍔部3の厚さTの約8~9割程度となるように、螺子切りされている。これにより、頭部鍔部3の螺子穴6がナットの代わりとなって、ボルト部4の雄螺子が、頭部側2の頭部末端近傍で、螺子穴6の雌螺子と螺合して確りと締め付けている。これにより。ボルト部4の頭部側2で、頭部末端から頭部鍔部3が拡張するように設けられている。
なお、螺子穴6は、頭部鍔部3を貫通させて螺合していてもよい。
【0038】
ボルト部4の径は、頭部鍔部3の径よりも小さい。また、頭部鍔部3がアンカー設置穴10に挿入し易いように、頭部鍔部3の径は、アンカー設置穴10の径よりも幾分小さくなっている。
【0039】
ボルト部4の長さは、鍔付きアンカーボルト1のあと施工の内容により、アンカー設置穴10から露出されるべき長さに応じて、適宜調整される。
【0040】
鍔付きアンカーボルト1は、ボルト部4の径を、8~100mm、好ましくは8~50mm、より好ましくは8~16mm、より一層好ましくは8~12mmとし、ボルト部4の長さを30~1000mm、好ましくは40~800mm、より好ましくは40~700mmとするものである。
【0041】
鍔付きアンカーボルト1は、頭部鍔部3の径を、20~510mm、好ましくは30~300mm、より好ましくは50~100mmとし、頭部鍔部3の厚さTを、3~40mm、好ましくは4~40mm、より好ましくは5~35mm、より一層好ましくは6mmとするものである。
【0042】
鍔付きアンカーボルト1は、頭部鍔部3の径とボルト部4の径との比は、特に限定されないが、10:1~3:1であることが好ましく、6:1~4:1であると一層好ましい。
【0043】
ボルト部4の長さは、鍔付きアンカーボルト1のあと施工の内容により適宜調整される。鍔付きアンカーボルト1は、アンカー設置穴10内に埋没しているボルト頭端側2のボルト部4の長さが、20~510mm、好ましくは50~400mm、より好ましくは100~300mmとするものである。これに応じて、頭部鍔部3がアンカー設置穴10内に埋没される深さも調整される。一方、アンカー設置穴10から露出しているボルト先端側5のボルト部4の長さが、鍔付きアンカーボルト1によるあと施工の内容に応じて20~400mm、好ましくは25~300mm、より好ましくは25~200mmとするものである。
【0044】
アンカー設置穴10は、直径を、22~512mm、好ましくは30~500mm、より好ましくは50~400mm、より一層好ましくは50~300mmとするというものである。頭部鍔部3の径とアンカー設置穴10の径との間の遊びは、特に限定されないが、アンカー設置穴10の径は、頭部鍔部3の径よりも4mm大きくなることが好ましい。
【0045】
鍔付きアンカーボルト1のボルト部4と頭部鍔部3とは、金属製、例えば一般構造用圧延鋼材製、より具体的にはSS400相当以上の圧延鋼材製、又はステンレス製であって、その金属表面が未処理であってもよくその金属表面がメッキ処理のような被覆処理・硬質皮膜処理、電食処理、焼入処理、熱拡散処理、窒化処理、浸硫窒化処理で表面処理されたものであってもよい。
【0046】
鍔付きアンカーボルト1は、螺子穴6が頭部鍔部3の中央に開けられていると、ボルト部4が頭部鍔部3の中央から突き出すようになるので、アンカー設置穴10の中央に配置し易いので特に好ましい。
【0047】
鍔付きアンカーボルト1は、次のようにして製造される。
【0048】
ボルト部4が雄螺子となるように、ボルト部形成用棒材の側面を螺子切りする。頭部鍔部形成用円板の中央に貫通しない程度にドリルで穴を開け、ボルト部4の雄螺子と螺合するように螺子穴6の内面を雌螺子に螺子切りして、頭部鍔部3を調製する。ボルト部4をボルト頭端側2で、頭部鍔部3の螺子穴6に螺合させ、最早回転できなくなるまで締め付けると、鍔付きアンカーボルト1が作製される。
【0049】
代表例として、図1(a)に示す態様を説明したが、鍔付きアンカーボルト1の別な態様は、図1(b)に示す通りである。図1(a)の態様と異なり、螺子穴6が頭部鍔部3を貫通し、螺子穴6の深さDと頭部鍔部3の厚さTとが同じとなっており、ボルト部4がボルト頭端側2を頭部鍔部3から突き出さず面一となるように螺子穴6に螺合されているというものである。
【0050】
図1(c)に示すように、ボルト部4がボルト頭端側2を頭部鍔部3から突き出していてもよい。
【0051】
鍔付きアンカーボルト1は、貫通穴8a・8bを、単数、又は複数、好ましくは対称に、より好ましくは点対称に、又は線対称に、若しくは等間隔に、設けられつつ、有している。貫通穴8a・8bは、このアンカー設置穴10に挿入される際に、そこに充填された固着材11が貫通穴8a・8bを通過することにより、固着材11に潜り易くなるように、好ましくは二つ又は四つとなっている。
【0052】
鍔付きアンカーボルト1は、貫通穴8a・8bが図1(a)~(c)に示すように、頭部鍔部3の中寄り、好ましくは螺子穴6寄りに円筒状に二つ対称に設けられていてもよく、図示しないが、頭部鍔部3の縁部に沿って又は縁部に接するように、螺子穴6寄りに円筒状又は半円筒状若しくは切り欠き円筒状に二つ対称に設けられていてもよい。
【0053】
鍔付きアンカーボルト1は、図1(d)に示すように、貫通穴8a・8b(同図(a)~(c)参照)を有しなくてもよい。
【0054】
鍔付きアンカーボルト1の別な態様は、図2(a)に示すように、螺子穴6が頭部鍔部3を貫通し、ボルト頭端側2でボルト部4が頭部鍔部3から突き出し、さらに突き出したボルト部4がボルト頭端側2で頭端ナット7と螺合しつつ、頭部鍔部3を締め付けていてもよい。同図(b)に示すように、同図(a)に加えて、ボルト部4がボルト頭端側2で中間ナット7’と螺合しつつ、頭端ナット7と中間ナット7’とで頭部鍔部3を締め付けていてもよい。ナット7・7’を用いると、頭部鍔部3の回動や緩みを防止することができる。頭端ナット7と中間ナット7’とは、貫通穴8a・8bでの固着材の通過を阻害しないように被らないことが好ましい。頭端ナット7は、ボルト部4と一体化し、ボルト頭部で六角ボルト、ボタンキャップボルト、アイボルト、又は蝶ボルトとなったものであってもよい。図示しないが同図(b)の頭端ナット7を用いない態様であってもよい。図示しないが、ボルト部4がボルト頭端側2で頭端ナット7から突き出して螺合していてもよい。
【0055】
鍔付きアンカーボルト1の別な態様は、図3(a)に示すように、図1(a)~(c)の態様に加えさらに、中央に螺子穴6’が開いてボルト部4の雄螺子に螺合する雌螺子が設けられた中程鍔部3’が、ボルト部4に螺合してその中程から拡張しつつ、ボルト先端側5で頭部鍔部3から距離Wだけ離れて設けられていてもよい。図3(b)に示すように、中程鍔部3’を回動させてアンカー設置穴10の深さに応じ距離Wへと適宜広狭させてもよい。頭部鍔部3と中程鍔部3’との距離W・Wは、0~500mm、好ましくは5~400mm、より好ましくは10~300mmとするものである。図3(a)~(b)に示すように、頭部鍔部3と中程鍔部3’とに夫々、貫通穴8a・8bと貫通穴8’a・8’bとが設けられていることが好ましい。貫通穴8a・8’aと貫通穴8b・8’bとは夫々ボルト部8方向に同じく沿って配置されていてもよく、90°ずれて配置されていてもよい。図3(a)~(b)は、図1(a)と同様に螺子穴6・6’が貫通しておらず、ボルト部4のボルト頭端側2が頭部鍔部3を突き抜けていないという例を示してある。
【0056】
頭部鍔部3と中程鍔部3’とは、同形及び/又は同径であることが好ましい。
【0057】
頭部鍔部3と中程鍔部3’とを有していると、図3(a)~(b)のように立てて保管することもできるし、頭部鍔部3と中程鍔部3’との間に距離W・Wが空いていることにより横に倒した時でも傾斜しないようにしつつ、互い違いに入れ込んで保管スペースを少なくして保管することもできる。
【0058】
頭部鍔部3や中程鍔部3’は円板状である例を示したが、楕円板状、又は正多角形板状好ましくは六角板状であってもよい。そのとき、頭部鍔部3や中程鍔部3’は互いにずれないように調整されていることが好ましい。
【0059】
鍔付きアンカーボルト1は、図4(a)に示すように、頭部鍔部3と中程鍔部3’との間に、ボルト部4の雄螺子に螺合しており頭部鍔部3-中程鍔部3’間距離Wの厚さの中間ナット7’aが、設けられていることによって、頭部鍔部3と中程鍔部3’とをそれぞれ締め付けているというものであってもよい。中間ナット7’aは、貫通穴8a・8b・8’a・8’bでの固着材の通過を阻害しないように被らないことが好ましい。
頭部鍔部3と中間ナット7’a、及び中程鍔部3’と中間ナット7’aとが、夫々締め付けていることが好ましい。
【0060】
鍔付きアンカーボルト1は、図4(b)に示すように、頭部鍔部3と中程鍔部3’との間に、ボルト部4が貫通しており頭部鍔部3-中程鍔部3’間距離Wの厚さの中間管7”が、設けられていることによって、頭部鍔部3-中程鍔部3’間距離Wに調整されているというものであってもよい。中間管7”は、貫通穴8a・8b・8’a・8’bでの固着材の通過を阻害しないように被らないことが好ましい。
【0061】
鍔付きアンカーボルト1の別態様は、図4(c)に示すように、頭部鍔部3をボルト部4のボルト頭端側2の頭端ナット7とボルト先端側5の中間ナット7’とで締め付け、及び/又は中程鍔部3’をボルト部4のボルト頭端側2の中程内ナット9とボルト先端側5の中程外ナット9’とで締め付けていてもよい。これらナット7・7’・9・9’は貫通穴8a・8b・8’a・8’bでの固着材の通過を阻害しないように被らないことが好ましい。
【0062】
図2図4中、これらのナットと頭部鍔部3及び/又は中程鍔部3’との間にワッシャーを噛ましてもよい(不図示)。
【0063】
図1(a)で代表している図1図4は、水平な法面に対し垂直に開けられたアンカー設置穴10に、鍔付きアンカーボルト1を挿入して使用する態様を示したが、図5(a)に示すように、傾斜した法面30に対して直角方向に開けられたアンカー設置穴10に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11で固定しつつ、頭部鍔部3及び中程鍔部3’が傾斜に沿って配置されることにより、傾斜していても当該直角方向からボルト部4の軸心がずれることなく鍔付きアンカーボルト1を設置するようにしてもよい。
【0064】
鍔付きアンカーボルト1を使用する際には、図5(a)に示すように、垂直な法面30に対して直角方向(即ち水平方向)に開けられたアンカー設置穴10に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11で固定しつつ、頭部鍔部3及び中程鍔部3’が垂直方向に向いて配置されることにより、横堀りのアンカー設置穴10に対しても、当該水平方向からボルト部4の軸心がずれることなく鍔付きアンカーボルト1を設置するようにしてもよい。
【0065】
鍔付きアンカーボルト1を使用する際には、図6(a)に示すように、水平な法面30aに対し直角方向に開けられ固着材11が注入されたアンカー設置穴10に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11を硬化させて固定しつつ、鍔付きアンカーボルト1のボルト部4に螺合し及び/又は貫通したカバー21でアンカー設置穴10の開口を覆って塞いでもよい。
【0066】
鍔付きアンカーボルト1を使用する際には、図6(b)に示すように、傾斜した法面30bから真下垂直方向に開けられ固着材11が注入されたアンカー設置穴10に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11を硬化させて固定しつつ、鍔付きアンカーボルト1のボルト部4に螺合し及び/又は貫通した折り曲げ可能なカバー22でアンカー設置穴10の開口を覆い、法面30bの傾斜に合わせカバー22折ってもよい。
【0067】
鍔付きアンカーボルト1を使用する際には、図6(b)に示すように、水平な法面30aに対し直角方向に開けられ固着材11が注入されたアンカー設置穴10に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11を硬化させて固定する。一方、傾斜した法面30bから真下垂直方向に開けられ固着材11が注入されたアンカー設置穴10に、そのアンカー設置穴10の内径と略同径乃至やや小さな径であって押し込み後に法面30aと同じ高さとなる長さのパイプを押し込み、必要に応じてパイプ24内にさらに固着材11をパイプ24内で一杯になるまで注入し、パイプ24に鍔付きアンカーボルト1を挿入し、固着材11を硬化させて固定するというものであってもよい。パイプ24には、開口にカバー23が設けられていてもよい。
【0068】
鍔付きアンカーボルト1は、図7に示すように、ボルト部4がボルト頭端側2の一部、例えば約半分の長さで雄螺子となるよう螺子切りされ、ボルト先端側5があと施工アンカー工法の次の設置の内容に合わせつる挿入後にアンカー設置穴10から露出できるような形状になっていてもよい。
【0069】
鍔付きアンカーボルト1は、図8に示すように、ボルト部8a~8dの複数、好ましくは四つが、頭部鍔部3へ、対称に、好ましくは点対称に、又は線対称に、若しくは等間隔に、設けられ、又はさらに隣り合うボルト部8a~8dの間に貫通穴8a~8dが、対称に、好ましくは点対称に、又は線対称に、若しくは等間隔に、設けられている。
【0070】
鍔付きアンカーボルト1は、次のように、あと施工アンカー工法に使用される。
【0071】
先ず、あと施工を施すべき建築物、建造物、又は建材、若しくは地盤、又は岩盤に、掘られ、削られ、抉られ、及び/又は刳られて、アンカー設置穴10を形成し、若しくは事前にアンカー設置穴10形成するように調製される。例えば円筒状のドリルを用いてホルソー(ホールソー)掘りし、円筒状のコアをノミ等で砕いて取り出し、アンカー設置穴10を形成する(アンカー設置穴形成工程)。
【0072】
図9(a)に示すように、未硬化の固着材である水硬性組成物が透水性筒状容器に封入されている固着剤カプセルと水とを接触させることにより、水硬性組成物に水を吸収させて水硬性組成物を凝集させる(凝集工程)。
【0073】
図9(b)に示すように、凝集した水硬性組成物を、透水性筒状容器から取り出して、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、同図(c)に示すように必要に応じ撹拌し、同図(d)に示すように押圧に応じてシリンダカートリッジ内を筒先に向かって移動する蓋体を開口から入れる(注入準備工程)。
【0074】
図9(e)に示すように、蓋体を押圧して水硬性組成物を筒先から押し出して、硬化性組成物と水とが混合された硬化性ペーストをアンカー設置穴10に吐出して、固着材11として注入する(注入工程)。
【0075】
図1(a)のように、ボルト先端側5で前記ボルト部をアンカー設置穴10から露出させるように、鍔付きアンカーボルト1をアンカー設置穴10内に挿入する(挿入工程)。
【0076】
固着材11に頭部鍔部3・ボルト頭部ごと埋め込んだ後、養生させて固着材11を硬化させる。すると、鍔付きアンカーボルト1の鍔付きアンカーボルト1の頭部鍔部3及びボルト頭端側2のボルト部4ごと埋め込まれ、ボルト先端側5のボルト部4をアンカー設置穴10から露出したまま、固着され、固定される(固定工程)。これにより、あと施工アンカー工法が施される。
【0077】
必要に応じて、アンカー設置穴10から露出したボルト部4にあと施工を施す(あと施工工程)。
【0078】
なお、固着材は、セメント・モルタルのような無機系固着剤が硬化した無機系固着材であってもよく、硬化性樹脂・硬化性組成物のような有機系固着剤が硬化した有機系固着材であってもよい。
【0079】
硬化して固着材になる未硬化の固着剤は、例えばポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、凝結調整剤と、細骨材とを、含んでいる水硬性組成物が挙げられる。
【0080】
水硬性組成物中の含有量は、質量比で、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、粘度調整剤、凝結調整剤、及び細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30であることがより一層好ましい。
【0081】
例えば、ポルトランドセメントを基準とした場合、ポルトランドセメントの20、30、40、50、又は60質量部に対して、アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0082】
アルミナセメントを基準とした場合、アルミナセメントの30、40、50、60、又は70質量部に対して、ポルトランドセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0083】
急結剤を基準とした場合、急結剤の10、20、30、又は40質量部に対して、ポルトランドセメント:アルミナセメント:粘度調整剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0084】
粘度調整剤を基準とした場合、粘度調整剤の0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0085】
凝結調整剤を基準とした場合、凝結調整剤の1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0086】
細骨材を基準とした場合、細骨材の10、15、20、又は30質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:凝結調整剤が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5質量部であることがより一層好ましい。
【0087】
細骨材は、硬化性ペーストが凝結後に硬化する際に生じる収縮を低減し、これの硬化体へのクラック発生を防止する。また、水硬成分の水和反応に伴う発熱を緩和し、硬化性ペーストの温度上昇を抑えて過度な流動性増大や、凝結時間の延長を防止する。珪砂、川砂、海砂、及び砕砂のような砂類;アルミナクリンカー、シリカ粉、及び石灰石のような無機材;ウレタン砕、EVA(ethylene vinyl acetate)フォーム、発泡樹脂の粉砕物から選ばれる少なくとも一種であり、なかでも珪砂が好ましい。
【0088】
細骨材は、1mm以上の粗粒子を含んでいないことが好ましい。具体的に、JIS G5901(2016)の表3に準拠した粒度区分を、4~8号とすることが好ましく、5~8号とすることがより好ましく、5~7号とすることが一層好ましい。細骨材の粒度区分がこの範囲であることにより、1mm以上の粗粒子を排除することができる。この粒度区分における具体的な粒度分布は、4号で600~1180μm、4.5号で425~850μm、5号で300~600μm、5.5号で212~425μm、6号で150~300μm、6.5号で106~212μm、7号で75~150μm、7.5号で53~106μm、8号で38~75μmである。
【0089】
粒度区分は、3種の公称目開きを有する網目ふるいによって求められる。細骨材の測定試料全質量に対する各網目ふるいの面上の細骨材の質量比は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
【0090】
また水硬性組成物中、細骨材は、10~40質量部、好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~30質量部含まれている。この範囲の含有量である細骨材は、水硬性組成物全体に対し、下限値を8~38質量%、好ましくは8~25質量%とし、上限値を27~67質量%、好ましくは27~33質量%としている。このように、細骨材が、粒径1.2mm未満の細粒で、かつ水硬性組成物中に最大でも67質量%という低含有率であることによって、水硬性組成物の凝集が阻害されない。細骨材の粒径、含有量、及び含有率が上記の上限値を超えると、硬化性ペーストを用いて施工している間に水硬成分と細骨材とが分離し、硬化体が所期の強度を発揮できない。
【0091】
粘度調整剤は、例えば増粘剤であり、より具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、並びにこれらの少なくとも一種を含んでいてもよい天然多糖類誘導体;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質が挙げられる。これらの何れかを単独又は複数混合して用いてもよい。
【0092】
このような増粘剤である粘度調整剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、アクリルアミド、澱粉エーテル、高分子電解質として市販のものが挙げられ、例えば、天然多糖類誘導体であるESAMID HP(lamberti spa社製)、並びにポリカルボン酸エーテルとポリアクリルアミドとの混合物であるSTARVIS S 5514 F及び澱粉エーテルであるSTARVIS SE 35 F(ともにBASFジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0093】
また、高分子電解質としては、高分子鎖の主鎖中又は側鎖中に解離基を有し水中で解離して高分子イオンとなるものであれば特に限定されず、例えばカルボキシル基やスルホン酸基やリン酸や亜リン酸又はそれらの塩若しくは脂肪族・芳香族又は複素環基含有アミノ基若しくはそれらの塩酸塩又は硫酸塩のような無機酸塩や有機酸塩・アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩のような塩や第一~第四アンモニウム基又は有機アンモニウム基などの少なくとも何れかの解離基を有した炭化水素系、エーテル性基又はアミノ性基含有複素炭化水素系、芳香族系、複素環系、アミド系及び/又は有機酸系の高分子鎖を有する高分子イオン、具体的には、天然物ではアルギン酸やその塩、ペクチン(ポリガラクツロン酸)又はその塩、カルボキシメチルセルロース又はその塩、タンパク質乃至ポリペプチドが例示でき、合成高分子化合物としてはポリアクリル酸ナトリウム塩のようなポリアクリル酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのようなポリスチレンスルホン酸又はその塩、ポリ(アリルアミン)又はその塩酸塩、四級化ポリ(ビニルピリジン)又はその塩、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム)コポリマーやポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)のようなアニオン基含有環状繰返単位含有ポリマー、ナフィオン(シグマ-アルドリッチ社製の商品名)のようなパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、セミ-アロマティックアンモニウムロネン類、アリファティックアンモニウム、ヘテロサイクリックアンモニウムロネン類、アルキルエーテル アンモニウムロネン類、遊離基含有高分子化合物具体的にはSTARVIS 308F(BASFジャパン社製の商品名)、デュラマックス(Duramax)やタモール(Tamol)やロマックス(Romax)やダゥエックス(Dowex)(何れもダウ・ケミカル社製の商品名)、アキュゾル(Acusol)やアキュマー(Acumer)(何れもロームアンドハース社製の商品名)、ディスペックス(Dispex)やマグナフロック(Magnafloc)(何れもBASF社製の商品名)が例示される)が挙げられる。
【0094】
水硬性組成物中、粘度調整剤を有していると、水硬性組成物と水とを混合して硬化性ペーストにした時に、削孔へ注入し易い適度な流動性と、上向きの削孔に注入しても流れ出ない適度な粘性とを発現することにより、両者のバランスを取り、両効果を発現できるように調整することができる。しかも、粘度調整剤によって、硬化性ペーストが優れた濡れ性を示すので、細骨材に付着して流動性を高めると共にそれによって削孔である内側表面の凹凸やアンカー素子の凹凸に細骨材が入り込み易くなって引っ掛かったまま硬化することになる結果、硬化性ペーストを削孔に注入し鉄筋のようなアンカー素子を打ち込んだときに、アンカー素子が抜け難くなり、確りと定着できるようになる。
【0095】
水硬性組成物中、増粘剤である粘度調整剤は、0.1~1.0質量部、好ましくは0.1~0.8質量部、より好ましくは0.1~0.5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストパックからの押し出し抵抗が著しく増大する上、十分な強度を有する硬化体を得ることができない。一方、含有量が下限値未満であると、硬化性ペーストの粘度が不足する。
【0096】
水硬性組成物中、凝結調整剤は、例えば凝結時間調整剤であり、硬化性ペーストが流動性を失う凝結始発から硬化を開始する凝結終結までの凝結時間の長短を調整する。凝結調整剤は、硬化性ペースト中の水硬成分の粒子に吸着してそれの表面を被覆し、水硬成分と水との接触を抑制する。それにより、水硬成分の水和反応を徐々に進行させて硬化性ペーストの瞬結を防止できる。凝結時間調整剤として、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸のようなオキシカルボン酸、並びにそれらの塩;無機炭酸塩;リグニンスルホン酸、又はその塩;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールのような糖アルコールが挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。凝結時間調整剤は、炭酸、オキシカルボン酸やリグニンスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、並びにマグネシウム塩、及びカルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩であってもよく、なかでもクエン酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、ヒュームドシリカ(例えば、強度増進剤の役割も果たしているアエロジル(日本アエロジル株式会社製の商品名))が好ましく、クエン酸三ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムの何れか一つ又は二つ以上の組み合わせがより好ましい。
【0097】
この水硬性組成物は、凝結調整剤が入っていると、水との混合時での発熱を防止して膨張や冷却時又は硬化性ペーストの硬化時のひび割れを生じさせなくすると共に、硬化を遅延させて硬化性ペーストが削孔に注入されるまでは硬化し難いが注入して養生中は迅速に硬化するようになる。また、遅延型流動化剤を必要としなくてよくなる。
【0098】
水硬性組成物中、凝結時間調整剤である凝結調整剤は、1~10質量部、好ましくは1~8質量部、より好ましくは1~5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、凝結時間が過度に長くなって凝結終結に達するまでの間に、例えば水硬成分と細骨材との分離を生じてしまう。一方含有量がこの下限値未満であると、水硬成分の水和反応が急激に進行し、硬化性ペーストが凝結始発後に直ちに終結に達して硬化するので、硬化体にクラックが生じて外観上の美観を損なったり、止水材として用いてもクラックから漏水したりしてしまう。
【0099】
水硬性組成物の水硬成分は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を必須として含むM型の膨張系セメントである。ポルトランドセメントは、シリカ(SiO)、及びカルシア(CaO)を主成分とし、例えば、シリカを20~25質量%、及びカルシアを60~70質量%を含んでいるものが挙げられる。その他にアルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、及び酸化鉄(Fe)が、夫々1~6質量%含まれている。これらの成分は、例えばケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、及びカルシウムアルミノフェライトとして存在している。
【0100】
ポルトランドセメントとして、具体的に普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及び白色ポルトランドセメントが挙げられる。なかでも早強ポルトランドセメントが好ましい。これらのポルトランドセメントの一種のみを用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物中、ポルトランドセメントは、20~60質量部、好ましくは20~50質量部、より好ましくは20~40質量部含まれている。
【0101】
アルミナセメントは、アルミン酸カルシウム(CaO・Al)を主成分とする特殊セメントであり、例えばカルシアを20~40質量%、アルミナを40~80質量%、夫々含んでいるものが挙げられる。水硬性組成物中、アルミナセメントは、30~70質量部、好ましくは30~60質量部、より好ましくは30~50質量部含まれている。
【0102】
ポルトランドセメント及びアルミナセメントは、微粉末状のセメント粉体であり、その平均粒子径を、10~50μmとするものであることが好ましく、20~40μmとするものであることがより好ましく、20~30μmとするものであることがより一層好ましい。なお平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法による体積基準分布をいう。このような平均粒子径の測定装置として、例えば、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100-WJA1:V1.00(株式会社島津製作所製)が挙げられる。セメント粉体がこのような微粉末であることによって、吸水に起因するセメント粉体の水和による化学的凝集及びセメント粉体の表面電位による物理的凝集が生じ易くなる。その結果、化学的凝集若しくは物理的凝集、又は両者の相乗効果によって、例えばコンクリート構造物の天井や壁面に生じたひび割れに注入された硬化性ペーストが、そこから遺漏し難い。
【0103】
急結剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸カルシウムのような硫酸塩が挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。硫酸カルシウムとして、無水石膏(CaSO)、半水石膏(CaSO・1/2HO)、二水石膏(CaSO・2HO)のような石膏が、後述するエトリンガイトの生成量を増大させる観点から好ましい。これらの急結剤は、一種のみを用いても複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物中、急結剤は、10~40質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。
【0104】
水硬性組成物は、好ましくは遅延型流動化剤を含有していない。しかし強度増進剤を含有していてもよい。強度増進剤とは、シリカ微粒子であるシリカフューム、高炉スラグ粉末及び/又はフライアッシュのようなシリカ質粉末、カオリン(シリカ及びアルミナを含有するカオリン、焼成カオリンなど)である。遅延型流動化剤とは、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、及びこれらの塩のようなスルホン酸系流動化剤;ポリカルボン酸、及びこれらの塩のようなカルボン酸系流動化剤である。
【0105】
硬化性ペーストは時間の経過に伴って、水硬性分が水和反応を生じて凝結し、その後硬化する。具体的にアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム、石膏、及び水の反応が進行し、アルミン酸硫酸カルシウム水和物であるエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を生成する。さらに急結剤である石膏が消費されると、エトリンガイトはアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム(アルミネート相)と反応してモノサルフェート水和物を生成する。エトリンガイトやモノサルフェート水和物のようなカルシウムサルフォアルミネート水和物は、かさ高く水に不溶な針状結晶であり、これの成長に伴って、硬化性ペーストが膨張しながら凝結して徐々に硬化する。しかも急結剤である石膏が、硫酸カルシウムの供給源となってエトリンガイトの生成量を増大させ、高強度の硬化体を形成する。
【0106】
硬化性ペーストは、アルミナセメント中のカルシアが水に溶解した水酸化カルシウム(Ca(OH))を含んでいる。強度増進剤に含まれるシリカフュームやカオリンは、この水酸化カルシウムと、水に不溶な水和物を生成するという所謂ポゾラン反応を生じる。それにより、例えば、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO・3HO)や、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al・6HO)の微細で密な結晶が生成し、硬化性ペーストを高強度に硬化させる。特に、粉砕により粉末化される高炉スラグや、石炭灰であることにより比較的大きな球形をなしているフライアッシュに比べて、焼成カオリンの粒子は細かいので、単位質量当りに大きな表面積を有している。そのため、シリカフューム及び焼成カオリンは他のシリカ質粉末に比べて、遥かに高いポゾラン活性を有するので、緻密な水和物の結晶を生成し、硬化体により高い圧縮強度を付与する。
【0107】
このように水硬性組成物は、アルミナセメント、石膏のような急結剤、及びカオリンを主成分とする強度増進剤を含んでいることにより、それの硬化体は、施工後数時間~1日程度で高い強度を発現するという早強性を発現する。
【0108】
エトリンガイトの生成及びポゾラン反応に並行して、ポルトランドセメント中のケイ酸カルシウムの水和反応が進行し、トバモライト結晶のようなケイ酸カルシウム水和物の硬化体が生成する。それにより、ケイ酸カルシウムの水和反応は、アルミン酸カルシウムのそれに比較して遅いので、ポルトランドセメントは、施工後、例えば7日~数か月後以降の長期にわたる高強度維持に優れている。
【実施例0109】
以下、本発明を適用する実施例、及び本発明を適用外の比較例について説明する。
【0110】
(実施例1)
図1(a)に示すもので、クロムモリブデン鋼製の直径10mmで長さ250mmであって雄螺子が表面に付されたボルト部4と、直径46mm・厚さ6mmであって且つ直径7mmの貫通穴8a・8bを設けた頭部鍔部3とからなる鍔付きアンカーボルト1を用いた。
【0111】
(実施例2)
図3(a)に示すもので、クロムモリブデン鋼製の直径10mmで長さ250mmであって雄螺子が表面に付されたボルト部4と、直径46mm・厚さ6mmであって且つ直径7mmの貫通穴8a・8b及び8’a・8’bを設けつつ距離Wとして8mm離した頭部鍔部3及び中程鍔部3’とからなる鍔付きアンカーボルト1を用いた。
【0112】
(比較例1)
直径10mmで長さ250mmであって雄螺子が表面に付された棒からなる従来のアンカーボルトを用いた。
【0113】
以下のようにして、実施例の鍔付きアンカーボルト1、及び比較例のアンカー素子を用いて、あと施工アンカー工法を疑似的に行い、付着強度測定試験を行った。
【0114】
(アンカー設置穴の形成)
試験用コンクリートブロックに、ホルソードリル((株)シブヤ社製のシブヤライトビット)を用いて、ホルソー掘りし、円筒状のコアをノミで砕いて取り出し、直径50mmで深さ50mmのアンカー設置穴10を形成した。
【0115】
(水硬性組成物の調製)
原材料として、早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、早強ポルトランドセメント)の30質量部、アルミナセメント(デンカ株式会社製、アルミナセメント1号溶融品)の50質量部、石膏である急結剤(株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製、半水石膏β型SB)の28質量部、粘性調整剤としてSTARVIS 308F(BASFジャパン株式会社製の商品名)の0.2質量部、凝結調整剤である酒石酸1.8質量部、細骨材である珪砂7号(日瓢礦業株式会社製の商品名)の25質量部を、ミキサーに投入して撹拌し、水硬性組成物を調製した。
【0116】
(固着剤カプセルの作製)
水硬性組成物の450gを、坪量40g/mでヒートロン紙からなる不織シート製透水性筒状容器に封入して、長さ300mmで径34mmである実施例及び比較例の固着剤カプセルを、得た。これを20℃の水道水に5分浸漬した。
【0117】
(付着強度試験)
固着剤カプセルの透水性筒状容器を破壊し、凝集した未硬化の固着材を取り出して、先端にキャップを嵌めた筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた。回転ロッドの先端部に撹拌羽を有している撹拌棒(藤原産業株式会社製、製品名:ペイントミキサーSPM-4)の基端部を回転工具である電動インパクトドライバーに接続させた撹拌機を用い、開口から撹拌羽をシリンダカートリッジに挿し入れて10秒間掻き回して撹拌し、凝集した未硬化の固着材をシリンダカートリッジ内で分散させて硬化性ペースト状の固着材を調製した。この硬化性ペースト状の固着材をアンカー設置穴10に流し入れて注入した。実施例1~2の鍔付きアンカーボルト1、及び比較例1~2のアンカー素子を、それぞれ、アンカー設置穴10内に挿入して、ボルト先端側5にてボルト部4が20cm露出するように硬化性ペースト状の固着材にボルト頭部ごと埋め込んでから、JIS A1108(2006)に準拠して固着材を7日間養生して硬化し、固着させた。付着強度試験として、油圧ポンプと、これにつながっており油圧ポンプで発生させた油圧によって試験用コンクリートブロックからアンカーボルトを引き抜く方向へ引っ張る油圧ジャッキと、油圧ジャッキで生じた荷重を計測するロードセルと、アンカーボルトの変位量を計測する変位計とを、有する引張試験機を用い、付着強度試験を行った。その結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1から明らかな通り、付着強度は、実施例1及び2の鍔付きアンカーボルト1を用いた場合、比較例1の従来の施工用品である棒状のボルトに比べ、2倍以上強いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の鍔付きアンカーボルト、並びにそれを用いたあと施工アンカー工法は、カルバート、ダム堤体、トンネル、建物など既存のコンクリート躯体のような建築物・建造物の耐震強度や耐久性を高めるためにせん断耐力を向上させる補強工事や、これら建築物・建造物やその工事途中で又は建材に別な建材を後付けで接続する設置工事や、地盤・岩盤の法面を覆ってそれの崩落を防止するという所謂張コンクリートに落石防護網や雪崩防止柵のような工作物を取り付ける工事の際に、用いられる。
【符号の説明】
【0121】
1は鍔付きアンカーボルト、2はボルト頭端側、3は頭部鍔部、3’は中程鍔部、4・4a・4b・4c・4dはボルト部、5はボルト先端側、6・6’は螺子穴、7は頭端ナット、7’・7’aは中間ナット、7”は中間管、貫通穴は8a・8b・8’a・8’b・8c・8d、9は中程内ナット、9’は中程外ナット、10はアンカー設置穴、11は固着材、21・22・23はカバー、24はパイプ、30a・30bは法面、Dは螺子穴の深さ、Tは頭部鍔部の厚さ、W・Wは頭部鍔部と中程鍔部との距離である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9