(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029999
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/20 20120101AFI20240229BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F16H48/20
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132514
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】廣田 功
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB01
3J027HB07
3J027HC02
3J027HC03
3J027HC12
3J027HC17
3J027HC23
3J027HD01
3J027HE01
3J027HF07
3J027HG04
3J027HH13
(57)【要約】
【課題】出力ギヤと押圧部材の耐久性を向上することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】デフケース11と、ピニオンシャフト13と、ピニオンギヤ15と、一対の出力ギヤ17,19と、一対の出力ギヤ17,19の差動を制限する差動制限部5と、一対の出力ギヤ17,19を差動制限部5に向けて押圧する一対の押圧部材7,7と、一対の押圧部材7,7に入力する回転トルクによってピニオンシャフト13との間に軸方向推力を発生させて一対の押圧部材7,7を軸方向移動させるカム部39とを備えたデファレンシャル装置1において、一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7との間に、出力ギヤ17,19と押圧部材7との相対回転を促す低摩擦部材9を配置した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置されたデフケースと、
前記デフケースと共に回転可能に前記デフケースに収容されたピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転するピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、
前記デフケースと前記出力ギヤとの間に設けられ、前記一対の出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、
前記デフケースと一体回転可能で前記デフケースに対して軸方向移動可能に設けられ、前記一対の出力ギヤを前記差動制限部に向けて押圧する一対の押圧部材と、
前記ピニオンシャフトと前記一対の押圧部材との間に設けられ、前記一対の押圧部材に入力する回転トルクによって前記ピニオンシャフトとの間に軸方向推力を発生させて前記一対の押圧部材を軸方向移動させるカム部と、
を備え、
前記一対の出力ギヤと前記一対の押圧部材との間には、前記出力ギヤと前記押圧部材との相対回転を促す低摩擦部材が配置されているデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記一対の出力ギヤの間、前記一対の押圧部材の間のうち少なくともいずれか一方の間には、前記差動制限部に予圧を付与する付勢部材が配置されている請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記出力ギヤと前記押圧部材と前記低摩擦部材との間の摺動面のうち少なくとも1つの摺動面は、軸方向に向けて突出する曲面を備えている請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記ピニオンギヤと前記一対の出力ギヤとの噛み合いの軸方向隙間は、前記一対の差動制限部の軸方向隙間及び前記一対の出力ギヤと一対の前記低摩擦部材と前記一対の押圧部材との軸方向隙間及び前記カム部の軸方向隙間の合計より大きく設定されている請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記低摩擦部材は、前記出力ギヤ及び前記押圧部材と相対回転可能に配置されている請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、回転可能に配置されたデフケースと、デフケースと共に回転可能にデフケースに収容されたピニオンシャフトとを備えている。また、ピニオンシャフトに自転可能に支持され、デフケースの回転によって公転するピニオンギヤと、ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤとを備えている。さらに、デフケースと出力ギヤとの間に設けられ、一対の出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、デフケースと一体回転可能でデフケースに対して軸方向移動可能に設けられ、一対の出力ギヤを差動制限部に向けて押圧する一対の押圧部材とを備えている。また、ピニオンシャフトと一対の押圧部材との間に設けられ、一対の押圧部材に入力する回転トルクによってピニオンシャフトとの間に軸方向推力を発生させて一対の押圧部材を軸方向移動させるカム部を備えたものが知られている(特許文献1参照。
【0003】
このデファレンシャル装置では、デフケースの回転によって、一対の押圧部材に回転トルクが入力される。ピニオンシャフトと一対の押圧部材との間のカム部は、一対の回転部材に入力された回転トルクによって、一対の押圧部材を軸方向移動させる。軸方向移動された一対押圧部材は、一対の出力ギヤを、差動制限部に向けて押圧し、差動制限部で差動制限力が発生される。差動制限部で差動制限力が発生することにより、一対の出力ギヤの差動が制限され、車両の走行安定性が保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のようなデファレンシャル装置では、出力ギヤと、出力ギヤを押圧する押圧部材との間に、摺動が発生する。このため、出力ギヤと押圧部材との摺動によって、出力ギヤと押圧部材の耐久性が低下していた。
【0006】
そこで、この発明は、出力ギヤと押圧部材の耐久性を向上することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係るデファレンシャル装置は、回転可能に配置されたデフケースと、前記デフケースと共に回転可能に前記デフケースに収容されたピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、前記デフケースと前記出力ギヤとの間に設けられ、前記一対の出力ギヤの差動を制限する差動制限部と、前記デフケースと一体回転可能で前記デフケースに対して軸方向移動可能に設けられ、前記一対の出力ギヤを前記差動制限部に向けて押圧する一対の押圧部材と、前記ピニオンシャフトと前記一対の押圧部材との間に設けられ、前記一対の押圧部材に入力する回転トルクによって前記ピニオンシャフトとの間に軸方向推力を発生させて前記一対の押圧部材を軸方向移動させるカム部とを備え、前記一対の出力ギヤと前記一対の押圧部材との間には、前記出力ギヤと前記押圧部材との相対回転を促す低摩擦部材が配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力ギヤと押圧部材の耐久性を向上することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るデファレンシャル装置の断面図である。
【
図2】本実施形態に係るデファレンシャル装置のカム部の一例を示す上面図である。
【
図3】本実施形態に係るデファレンシャル装置のカム部の他例を示す上面図である。
【
図4】本実施形態に係るデファレンシャル装置の差動制限部にイニシャルトルクを付与したときと付与していないときのトルク伝達特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係るデファレンシャル装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るデファレンシャル装置1は、例えば、エンジンや電動モータなどの駆動源(不図示)と、左右の車輪(不図示)との間に配置されている。駆動源からの駆動力は、トランスミッション(不図示)を介してデファレンシャル装置1に伝達され、一対の出力軸(不図示)を介して左右の車輪に駆動力が配分される。デファレンシャル装置1は、差動機構3と、差動制限部5と、押圧部材7と、低摩擦部材9とを備えている。
【0012】
差動機構3は、デフケース11と、ピニオンシャフト13と、ピニオンギヤ15と、一対の出力ギヤ17,19とを備えている。
【0013】
デフケース11は、軸方向両側に形成されたボス部21,23のそれぞれの外周でベアリング(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。デフケース11には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部25が形成されている。フランジ部25に固定されたリングギヤは、例えば、駆動源からの駆動力を伝達する動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が伝達されてデフケース11を回転駆動させる。デフケース11内には、ピニオンシャフト13と、ピニオンギヤ15と、一対の出力ギヤ17,19などが収容配置されている。
【0014】
ピニオンシャフト13は、端部側が、デフケース11と一体回転可能に収容された一対の押圧部材7,7に対して、カム部39を介して一体回転可能に係合されている。このため、ピニオンシャフト13は、デフケース11と一体に回転駆動される。ピニオンシャフト13の両端側には、ピニオンギヤ15がそれぞれ支承されている。
【0015】
ピニオンギヤ15は、デフケース11の周方向等間隔に複数(ここでは2つ)配置され、それぞれピニオンシャフト13の端部側に支承されてデフケース11の回転によって公転する。ピニオンギヤ15は、一対の出力ギヤ17,19に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対の出力ギヤ17,19に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト13に自転可能に支持されている。
【0016】
一対の出力ギヤ17,19は、デフケース11内に相対回転可能に収容され、ピニオンギヤ15と噛み合っている。一対の出力ギヤ17,19には、内周側にスプライン形状の出力部27,29が形成されている。出力部27,29には、例えば、左右の車輪に連結された一対の出力軸(不図示)が一体回転可能に連結され、デフケース11に入力された駆動力を左右の車輪へ出力する。
【0017】
このような差動機構3において、一対の出力ギヤ17,19とデフケース11との間には、差動機構3の差動を制限する一対の差動制限部5,5が設けられている。差動制限部5は、デフケース11と一対の出力ギヤ17,19との間に配置され、デフケース11と一体回転可能に係合された一対のテーパリング31,31を有する。
【0018】
テーパリング31は、外周側に複数の脚部33が設けられている。複数の脚部33は、デフケース11の内周面に形成された凹部35に係合され、テーパリング31とデフケース11とを一体回転可能とする。一対のテーパリング31,31は、デフケース11に入力される回転トルクの大きさに応じて、ピニオンギヤ15との噛み合い反力を受けて軸方向に移動された一対の出力ギヤ17,19と摺動摩擦する。
【0019】
差動制限部5は、摩擦トルクに対応して、係合する一対のテーパリング31,31を介してデフケース11と一対の出力ギヤ17,19との間で摩擦トルクが伝達され、差動機構3の差動を制限する。このような差動制限部5は、トルク感応型の摩擦クラッチとしてのコーンクラッチとなっている。差動制限部5を作動させる一対の出力ギヤ17,19は、一対の押圧部材7,7によっても、差動制限部5に向けて押圧される。
【0020】
押圧部材7は、環状に形成され、外周側に複数の凸部37が設けられている。複数の凸部37は、デフケース11の内周面に形成された凹部35に係合され、押圧部材7とデフケース11とを一体回転可能とすると共に、押圧部材7を軸方向に移動可能とする。一対の押圧部材7,7の軸方向に対向する対向面には、ピニオンシャフト13の外面と係合されるカム部39が設けられている。
【0021】
図2,
図3に示すように、カム部39は、ピニオンシャフト13の外面と、一対の押圧部材7,7の対向面に形成されたカム面41,41とで構成されている。カム部39は、ピニオンシャフト13の外面と一対の押圧部材7,7のカム面41,41とが係合することにより、デフケース11とピニオンシャフト13とを一体回転可能とさせる。
【0022】
一方、カム部39は、一対の押圧部材7,7に入力される回転トルクの大きさに応じて、ピニオンシャフト13との間で、一対の押圧部材7,7を一対の差動制限部5,5に向けて軸方向移動させる軸方向推力を発生させる。カム部39の軸方向推力によって軸方向移動された一対の押圧部材7,7は、一対の出力ギヤ17,19を一対の差動制限部5,5に向けて押圧し、差動制限部5における差動制限力を増大・強化させる。カム部39のドライブ時とコースト時における軸方向推力は、カム面41の傾斜角度の設定によって、変更可能である。
【0023】
ドライブ時とコースト時において、カム部39の軸方向推力を同じとする場合には、
図2に示すように、ドライブ側とコースト側(
図2の上下方向)に対するカム面41の傾斜角度を同一に設定すればよい。このようにカム面41を設定することにより、ドライブ時とコースト時において、同じ差動制限力を得ることができる。
【0024】
ドライブ時とコースト時において、カム部39の軸方向推力を異ならせる場合には、
図3に示すように、ドライブ側とコースト側(
図3の上下方向)に対するカム面41の傾斜角度を異なるように設定すればよい。このようにカム面41を設定することにより、ドライブ時とコースト時において、異なる差動制限力を得ることができる。なお、ドライブ時とコースト時の差動制限力を異ならせる場合において、ドライブ時とコースト時の差動制限力を逆にしたいときには、一対の押圧部材7,7をデフケース11に対して、逆に組付ければよい。
【0025】
ここで、一対の押圧部材7,7は、デフケース11と一体回転可能となっており、一対の出力ギヤ17,19は、デフケース11と相対回転可能となっている。このため、一対の押圧部材7,7と一対の出力ギヤ17,19とが直接当接すると、一対の押圧部材7,7と一対の出力ギヤ17,19との間で摺動が発生する。一対の押圧部材7,7と一対の出力ギヤ17,19との摺動により、出力ギヤ17,19と押圧部材7の耐久性が低下してしまう。
【0026】
そこで、一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7との間には、出力ギヤ17,19と押圧部材7との相対回転を促す低摩擦部材9が配置されている。低摩擦部材9は、例えば、合成樹脂、金属母材に表面処理を施した材料などからなり、環状に形成されている。なお、低摩擦部材9は、ニードルベアリングであってもよい。加えて、低摩擦部材9の表面に、潤滑油が流入する油溝を設けてもよい。
【0027】
低摩擦部材9は、軸方向両側の面が、一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7とに当接し、出力ギヤ17,19と押圧部材7と摺動する。このため、一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7とは、直接摺動することがなく、低摩擦部材9によって相対回転が促される。従って、出力ギヤ17,19と押圧部材7との直接的な摺動による変形や損傷を防止することができ、出力ギヤ17,19と押圧部材7の耐久性を向上することができる。
【0028】
低摩擦部材9は、デフケース11の内周面によって径方向に支持されている。低摩擦部材9を径方向に支持することにより、出力ギヤ17,19及び押圧部材7との摺動を安定化することができる。なお、例えば、押圧部材7の外周側に軸方向に向けて突出する突部を設け、突部によって低摩擦部材9を径方向に支持してもよい。
【0029】
低摩擦部材9は、例えば、デフケース11に対して回り止めされておらず、出力ギヤ17,19及び押圧部材7と相対回転可能に配置されている。このため、低摩擦部材9は、出力ギヤ17,19、或いは押圧部材7の回転によって連れ回りし、出力ギヤ17,19及び押圧部材7との摺動を半減することができる。従って、出力ギヤ17,19、押圧部材7、低摩擦部材9の耐久性を向上することができる。
【0030】
出力ギヤ17,19と押圧部材7と低摩擦部材9との間の摺動面のうち少なくとも1つの摺動面は、軸方向に向けて突出する曲面を備えている。摺動面の少なくとも1つが軸方向に突出する曲面を備えることにより、出力ギヤ17,19の倒れによる摺動面の片当たりを防止することができる。
【0031】
ピニオンギヤ15と一対の出力ギヤ17,19との噛み合いの軸方向隙間は、差動制限に関与する軸方向隙間より大きく設定されている。差動制限に関与する軸方向隙間は、一対の差動制限部5,5の軸方向隙間、一対の出力ギヤ17,19と一対の低摩擦部材9,9と一対の押圧部材7,7との軸方向隙間、カム部39の軸方向隙間となっている。差動制限に関与する軸方向隙間よりピニオンギヤ15と一対の出力ギヤ17,19との噛み合いの軸方向隙間を大きくすることにより、噛み合いのがたつきが、差動制限力に影響を与えることがない。
【0032】
ここで、一対の押圧部材7,7の軸方向間には、付勢部材43が配置されている。付勢部材43は、コイルスプリングからなり、一対の押圧部材7,7の対向面にそれぞれ設けられた凹部に両端部を配置することによって、一対の押圧部材7,7の間に位置決めされている。付勢部材43は、一対の押圧部材7,7の周方向等間隔に複数配置されている。なお、付勢部材43は、皿バネであってもよい。
【0033】
付勢部材43は、一対の押圧部材7,7を介して一対の出力ギヤ17,19を、一対の差動制限部5,5に向けて押圧し、一対の差動制限部5,5に予圧を付与する。差動制限部5に予圧を付与することにより、差動制限部5にイニシャルトルクが付与され、差動制限部5における差動制限特性を向上することができる。
【0034】
ここで、イニシャルトルクを付与してしないときのトルク伝達特性45と、イニシャルトルクを付与したときのトルク伝達特性47との変化を
図4に示す。
図4から明らかなように、差動制限部5にイニシャルトルクを付与することによって、差動制限部5における差動制限特性を向上することができる。
【0035】
なお、付勢部材43は、一対の出力ギヤ17,19の軸方向間に配置されてもよい。一対の出力ギヤ17,19の間に付勢部材43を配置する場合には、例えば、一対の出力ギヤ17,19の対向面に、付勢部材43を支持する一対の支持プレートをそれぞれ配置する。一対の支持プレートを配置することにより、一対の出力ギヤ17,19に凹部などの支持部を設ける必要がない。
【0036】
一対の出力ギヤ17,19の間に配置された付勢部材43は、一対の出力ギヤ17,19を、直接的に一対の差動制限部5,5に向けて押圧し、一対の差動制限部5,5に予圧を付与する。このため、付勢部材43の付勢力が、一対の押圧部材7,7を介在せずに、一対の差動制限部5,5に付与され、差動制限部5における差動制限特性をさらに向上することができる。加えて、一対の押圧部材7,7が介在しているときよりも、小さい付勢力で同様のイニシャルトルクを差動制限部5に付与することができ、付勢部材43を小型化及び低コスト化することができる。
【0037】
このようなデファレンシャル装置1では、回転可能に配置されたデフケース11と、デフケース11と共に回転可能にデフケース11に収容されたピニオンシャフト13とを備えている。また、ピニオンシャフト13に自転可能に支持され、デフケース11の回転によって公転するピニオンギヤ15と、ピニオンギヤ15と噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤ17,19とを備えている。さらに、デフケース11と出力ギヤ17,19との間に設けられ、一対の出力ギヤ17,19の差動を制限する差動制限部5を備えている。また、デフケース11と一体回転可能でデフケース11に対して軸方向移動可能に設けられ、一対の出力ギヤ17,19を差動制限部5に向けて押圧する一対の押圧部材7,7を備えている。さらに、ピニオンシャフト13と一対の押圧部材7,7との間に設けられ、一対の押圧部材7,7に入力する回転トルクによってピニオンシャフト13との間に軸方向推力を発生させて一対の押圧部材7,7を軸方向移動させるカム部39を備えている。そして、一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7との間には、出力ギヤ17,19と押圧部材7との相対回転を促す低摩擦部材9が配置されている。
【0038】
一対の出力ギヤ17,19と一対の押圧部材7,7との間には、出力ギヤ17,19と押圧部材7との相対回転を促す低摩擦部材9が配置されているので、出力ギヤ17,19と押圧部材7とが直接摺動することがない。加えて、低摩擦部材9は、出力ギヤ17,19と押圧部材7との相対回転を促すので、低摩擦部材9と出力ギヤ17,19及び押圧部材7との間の摺動摩擦を低減することができる。このため、出力ギヤ17,19と押圧部材7との直接的な摺動による変形や損傷を防止することができる。
【0039】
従って、このようなデファレンシャル装置1では、出力ギヤ17,19と押圧部材7の耐久性を向上することができる。
【0040】
また、一対の出力ギヤ17,19の間、一対の押圧部材7,7の間のうち少なくともいずれか一方の間には、差動制限部5に予圧を付与する付勢部材43が配置されている。
【0041】
このため、付勢部材43によって、差動制限部5にイニシャルトルクが付与され、差動制限部5における差動制限特性を向上することができる。
【0042】
さらに、出力ギヤ17,19と押圧部材7と低摩擦部材9との間の摺動面のうち少なくとも1つの摺動面は、軸方向に向けて突出する曲面を備えている。
【0043】
このため、軸方向に向けて突出する曲面によって、出力ギヤ17,19の倒れによる摺動面の片当たりを防止することができる。
【0044】
また、ピニオンギヤ15と一対の出力ギヤ17,19との噛み合いの軸方向隙間は、次の軸方向隙間の合計より大きく設定されている。次の軸方向隙間とは、一対の差動制限部5,5の軸方向隙間、一対の出力ギヤ17,19と一対の低摩擦部材9,9と一対の押圧部材7,7との軸方向隙間、カム部39の軸方向隙間である。
【0045】
このため、差動制限に関与する軸方向隙間よりピニオンギヤ15と一対の出力ギヤ17,19との噛み合いの軸方向隙間が大きくなり、噛み合いのがたつきが、差動制限力に影響を与えることがない。
【0046】
また、低摩擦部材9は、出力ギヤ17,19及び押圧部材7と相対回転可能に配置されている。
【0047】
このため、低摩擦部材9と出力ギヤ17,19及び押圧部材7との摺動を半減することができ、出力ギヤ17,19、押圧部材7、低摩擦部材9の耐久性を向上することができる。
【0048】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、本実施形態においては、差動制限部が、コーンクラッチとなっているが、これに限らず、差動制限部は、例えば、デフケースと一対の出力ギヤとの間に配置された多板クラッチなどであってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 デファレンシャル装置
5 差動制限部
7 押圧部材
9 低摩擦部材
11 デフケース
13 ピニオンシャフト
15 ピニオンギヤ
17 出力ギヤ
19 出力ギヤ
39 カム部