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特開2024-30009調査候補範囲の検出方法、地層深度推定方法、及び地層推定支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030009
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】調査候補範囲の検出方法、地層深度推定方法、及び地層推定支援システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20240229BHJP
   G01V 1/00 20240101ALI20240229BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E02D1/02
G01V1/00 C
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132529
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児島 理士
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
【テーマコード(参考)】
2D043
2G105
【Fターム(参考)】
2D043AA03
2D043AC01
2G105AA02
2G105BB01
2G105DD01
2G105EE02
2G105LL01
2G105LL09
(57)【要約】
【課題】地盤深度の推定精度を向上するために好適な追加調査の候補範囲を、合理的に検出することである。
【解決手段】地盤調査を追加実施して地層深度を推定するための調査候補範囲の検出方法であって、取得済みの地盤情報に基づいて、異なる地層推定手法により対象領域における地層の深度分布を複数取得する工程と、複数の前記深度分布に基づいて評価指標を算定し、該評価指標の平面分布を取得する工程と、前記深度分布と物理探査を実施して予測した地盤構造との差である予測差の平面分布を、複数の前記深度分布ごとに取得する工程と、前記評価指標の平面分布及び前記予測差の平面分布に基づいて、追加調査の候補範囲を検出する工程と、を備え、前記評価指標は、前記深度分布の不確かさを定量的に評価する指標である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤調査を追加実施して地層深度を推定するための調査候補範囲の検出方法であって、
取得済みの地盤情報に基づいて、異なる地層推定手法により対象領域における地層の深度分布を複数取得する工程と、
複数の前記深度分布に基づいて評価指標を算定し、該評価指標の平面分布を取得する工程と、
前記深度分布と物理探査を実施して予測した地盤構造との差である予測差の平面分布を、複数の前記深度分布ごとに取得する工程と、
前記評価指標の平面分布及び前記予測差の平面分布に基づいて、追加調査の候補範囲を検出する工程と、を備え、
前記評価指標は、前記深度分布の不確かさを定量的に評価する指標であることを特徴とする調査候補範囲の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の調査候補範囲の検出方法において、
前記地層推定手法にBS-Horizonとクリギング(Kriging)法を採用することを特徴とする調査候補範囲の検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載の調査候補範囲の検出方法において、
前記物理探査に、微動探査を採用することを特徴とする調査候補範囲の検出方法。
【請求項4】
請求項1に記載の調査候補範囲の検出方法において、
前記地層が支持層であることを特徴とする調査候補範囲の検出方法。
【請求項5】
対象領域の地層深度を推定する地層深度推定方法であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の調査候補範囲の検出方法で検出した追加調査の候補範囲から調査地点を選定する工程と、
該調査地点で地盤調査を追加実施する工程と、
追加取得した地盤情報と取得済みの地盤情報に基づいて、地層の深度分布を推定する工程と、
を備えることを特徴とする地層深度推定方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の調査候補範囲の検出方法に用いる地層推定支援システムであって、
追加調査の前記候補範囲を検出する調査範囲検出装置と、検出した前記候補範囲を表示する表示装置とを備え、
前記調査範囲検出装置は、
異なる地層推定手法で取得した複数の深度分布に基づいて、評価指標の平面分布を取得する評価指標算定部と、
前記深度分布と物理探査を実施して予測した地盤構造とに基づいて取得した予測差の平面分布を、複数の前記深度分布ごとに取得する予測差算定部と、
前記評価指標の平面分布と前記予測差の平面分布とに基づいて、追加調査の候補範囲を検出する候補範囲検出部と、
を備えることを特徴とする地層推定支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地層の深度分布を推定する際に用いる、調査候補範囲の検出方法、地層深度推定方法、及び地層推定支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建物の構築を予定する対象範囲の支持層深度を推定する場合、調査ボーリングの結果を3次元的に補間し、支持層の不陸などを推定している。そして、構築予定の建物の設計時には、この推定結果を利用して杭長を検討する。
【0003】
ところが、推定した支持層深度の検証は困難であるため、推定した支持層深度が杭設計に十分な精度であるかの判断が難しい。また、未調査エリアで調査ボーリングを追加実施すれば、推定精度の向上は見込めるものの、精度向上に効果的な追加調査地点の選定方法が確立されてらず、設計者の判断に委ねられている。
【0004】
このような中、例えば特許文献1には、建物の構築を予定する対象範囲で、空間内挿手法の一つであるクリギング手法を採用して地盤特性の空間分布を推定するとともに、追加調査の位置や数を決定する方法が開示されている。具体的には、クリギング推定誤差とブラインド誤差に基づいて、追加調査位置を選定するための誤差指標の空間分布を算定する。そして、算定した誤差指標の空間分布に基づいて、所定エリア内に設定した複数の候補位置の中から、追加の地盤調査の位置を選定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-100011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、追加調査の位置や数を合理的に検出することができる。しかし、追加の地盤調査の位置を選定するにあたり、あらかじめ複数の候補位置を設定する必要があり、推定作業が煩雑である。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、地盤深度の推定精度を向上するために好適な、追加調査の候補範囲を合理的に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため本発明の調査候補範囲の検出方法は、地盤調査を追加実施して地層深度を推定するための調査候補範囲の検出方法であって、取得済みの地盤情報に基づいて、異なる地層推定手法により対象領域における地層の深度分布を複数取得する工程と、複数の前記深度分布に基づいて評価指標を算定し、該評価指標の平面分布を取得する工程と、前記深度分布と物理探査を実施して予測した地盤構造との差である予測差の平面分布を、複数の前記深度分布ごとに取得する工程と、前記評価指標の平面分布及び前記予測差の平面分布に基づいて、追加調査の候補範囲を検出する工程と、を備え、前記評価指標は、前記深度分布の不確かさを定量的に評価する指標であることを特徴とする。
【0009】
本発明の調査候補範囲の検出方法は、前記地層推定手法にBS-Horizonとクリギング(Kriging)法を採用することを特徴とする。
【0010】
本発明の調査候補範囲の検出方法は、前記物理探査に、微動探査を採用することを特徴とする。
【0011】
本発明の調査候補範囲の検出方法は、前記地層が支持層であることを特徴とする。
【0012】
本発明の地層深度推定方法は、本発明の調査候補範囲の検出方法で検出した追加調査の候補範囲から調査地点を選定する工程と、該調査地点で地盤調査を追加実施する工程と、追加取得した地盤情報と取得済みの地盤情報に基づいて、地層の深度分布を推定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の地層推定支援システムは、追加調査の前記候補範囲を検出する調査範囲検出装置と、検出した前記候補範囲を表示する表示装置とを備え、前記調査範囲検出装置は、異なる地層推定手法で取得した複数の深度分布に基づいて、評価指標の平面分布を取得する評価指標算定部と、前記深度分布と物理探査を実施して予測した地盤構造とに基づいて取得した予測差の平面分布を、複数の前記深度分布ごとに取得する予測差算定部と、前記評価指標の平面分布と前記予測差の平面分布とに基づいて、追加調査の候補範囲を検出する候補範囲検出部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の調査候補範囲の検出方法、地層深度推定方法及び地層推定支援システムによれば、複数の地層推定手法により地層の深度分布を複数パターン取得し、これらの不確かさを定量化した評価指標を算定する。さらに、複数パターンの深度分布と物理探査で予測した地盤構造との予測差を取得する。
【0015】
これにより、評価指標の大きい範囲及び予測差の大きい範囲を、地盤深度の推定精度を向上するために好適な、追加調査の候補範囲として客観的合理性をもって検出することが可能となる。また、この候補範囲を支援情報として利用することで、設計者らは推定精度の向上に効果的な調査地点を、効率よく選定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の地層推定手法により推定した複数パターンの地層の深度分布と物理探査で予測した地盤構造を採用することで、地層深度の推定精度を向上するために好適な追加調査の候補範囲を、合理的に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における建物の構築を予定する対象領域と対象領域の地盤を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における地層深度推定方法及び調査候補範囲の検出方法の流れを示す図である。
図3】本発明の実施の形態における地盤推定支援システムを示す図である。
図4】本発明の実施の形態における深度推定値データ、第1の評価指標データ(推定差)、及び第2の評価指標データ(標準偏差)を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における深度推定値と第1及び第2の評価指標との関係を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における微動探査により取得した深度予測値データ、第1の予測差データ(BS-Horizonと微動探査の差)、及び第2の予測差データ(クリギング(Kriging)法と微動探査の差)を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における追加調査の候補範囲を可視化した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、複数の地層推定手法で推定した地層深度から算出した評価指標と物理探査で予測した地盤構造を利用して、追加調査の候補範囲を検出し可視化する。また、検出した候補範囲で地盤調査を追加実施し、追加取得した地盤情報と取得済みの地盤情報とに基づいて地層深度を推定することで、推定精度の向上を図るものである。
【0019】
以下に、本発明の調査候補範囲の検出方法、地層深度推定方法、及び地層推定支援システムの詳細を、基礎杭の設計検討に使用する支持層の深度分布を推定する場合を事例に挙げ、図1図7を参照しつつ、説明する。
【0020】
≪≪地層深度推定方法の概略≫≫
図1(a)で示すように、建物10を構築する際には設計時に、この建物10を支持する基礎杭20について、杭種や配置とともに杭長を検討する。基礎杭20は、杭先端を地盤Eの支持層30に十分到達させる必要があることから、支持層30の深度をあらかじめ推定し、この推定結果を参照情報として利用し杭長を検討する。
【0021】
したがって、支持層30の深度には、基礎杭20の設計に採用可能な程度の推定精度が求められる。そこで、図1(b)で示すように、施工領域11を含む対象領域40を設定し、対象領域40の支持層30について、使用目的に見合った推定精度を有する深度分布を、図2で示すような手順で取得する。
【0022】
まず、既存の地盤情報を取得する(STEP1)。地盤情報は、図1(b)で示すように、施工領域11やその近傍の調査地点Pで実施した調査ボーリングの地盤調査データから取得する。地盤調査データは、他の目的で実施された既存の調査ボーリングから取得してもよいし、新規に調査ボーリングを実施して取得してもよい。また、調査ボーリングの手法も、いずれを採用してもよい。
【0023】
次に、取得した地盤情報に基づいて異なる地層推定手法により、支持層30の深度分布を複数パターン取得する。また、取得した深度分布を利用して、追加調査の候補範囲を検出し可視化する(STEP2)。
【0024】
設計者は、追加調査の候補範囲を支援情報として利用し、追加の調査地点を選定する(STEP3)。選定した調査地点で調査ボーリングを実施するとともに(STEP4)、追加調査により取得した地盤情報とSTEP1で取得済みの地盤情報とを利用し、任意の地層推定手法により支持層30の深度分布を再度推定する(STEP5)。
【0025】
このように、追加調査により取得した地盤情報を加味して支持層30の深度分布を再推定することにより、推定精度の向上を図ることができる。したがって、設計者は、上記の手順により再推定した支持層30の深度分布を参考資料として採用し、建物10を支持する基礎杭20を設計する。
【0026】
上記の地盤推定方法は、追加調査の候補範囲を検出する工程(STEP2)を含む点が大きな特徴である。そして、追加調査の候補範囲を検出する工程は、図3で示す地層推定支援システム80を利用した調査候補範囲の検出方法により実施することができる。
【0027】
≪≪地層推定支援システム≫≫
図3で示すように、地層推定支援システム80は、調査範囲検出装置50と、表示装置60と、端末装置70と、を備えている。
【0028】
≪≪調査範囲検出装置≫≫
調査範囲検出装置50は、図3で示すように、入力部51、演算処理部52、及び出力部53を備える装置であればいずれでもよく、パソコンやノートPC、タブレット端末などを採用することができる。
【0029】
入力部51は、各種機器と無線または有線で接続されるだけでなく、キーボードやマウス、スキャナなどの入力装置と接続し、これらから入力された情報を受信する。出力部53は、データ出力部531と画像出力部532とを備える。データ出力部531は、入力部51を介して取得した情報や、演算処理部52で処理した処理データなどの各種情報を、表示装置60や記憶装置に出力する。また、画像出力部532は、後述する演算処理部52の評価指標算定部521や予測差算出部522で算出された各種情報、候補範囲検出部523で検出された追加調査の候補範囲に関する情報などを、表示装置60に出力し可視化する。
【0030】
表示装置60は、出力部53と無線または有線で接続されたディスプレイやプリンタなど、いずれでもよい。さらに、作業員が携帯する携帯端末や工事事務所に設置されている管理用パソコンなどの端末装置70と調査範囲検出装置50とを、通信ネットワークを介して相互にデータ送信可能としてもよい。
【0031】
こうすると、この端末装置70から入力部51を介して調査範囲検出装置50に情報を入力する、もしくは調査範囲検出装置50から出力部53を介して情報を端末装置70に出力できる。なお。通信ネットワークとしては、インターネット、専用通信回線等いずれにより構築されるものであってもよい。
【0032】
演算処理部52は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶部を備え、調査範囲検出装置50の動作を制御する。このような演算処理部52は、少なくとも評価指標算定部521と、予測差算出部522と、候補範囲検出部523とを備える。
【0033】
評価指標算定部521は、地盤情報に基づいて任意の異なる地層推定手法により、支持層30の深度分布を2パターン推定する。また、推定した2パターンの深度分布から2種類の評価指標を算定し、評価指標ごとの平面分布を取得する。評価指標の詳細は、後述する。
【0034】
予測差算出部522は、評価指標算定部521で取得した支持層30の深度分布と物理探査で予測した地盤構造との差から、予測差の平面分布を2パターンの深度分布ごとに取得する。物理探査の詳細は、後述する。
【0035】
候補範囲検出部523は、評価指標算定部521で算定した評価指標の平面分布と予測差算出部522で取得した予測差の平面分布とに基づいて、追加調査の候補範囲を検出する。
【0036】
≪≪調査候補範囲の検出方法≫≫
上記の地層推定支援システム80を用いて、追加調査の候補範囲を検出する手順を図2のフローに沿って、図3の地層推定支援システム80の構成図を参照しつつ、説明する。
【0037】
≪≪追加調査の候補範囲を検出(調査候補範囲の検出方法):STEP2≫≫
STEP1で取得した地盤情報を調査範囲検出装置50に送信すると、入力部51を介して地盤情報が、調査範囲検出装置50に入力される。すると、演算処理部52は評価指標算定部521の指令を受けて、支持層30の深度分布を2パターン推定する(STEP2-1)。また、推定した2パターンの深度分布から2種類の評価指標を算定し、これらの平面分布を取得する(STEP2-2)。
【0038】
≪2パターンの深度分布の推定:STEP2-1≫
支持層30の深度分布を推定する地層推定手法はいずれを採用してもよく、不整三角網(TIN)、逆距離加重法(IDW)、非一様有理Bスプライン(NURBS)、BS-Horizon、クリギング(Kriging)法などを事例として挙げることができる。また、推定した支持層30の深度分布は、位置情報が関連付けられた座標値を持つ深度推定値データであり、支持層30の深度推定値(地層境界)を二次元の平面分布や三次元の空間分布で表現し可視化することができる。
【0039】
例えば図4(a)は、BS-Horizonにより推定した支持層30の深度推定値データD1を、二次元の平面分布で表現した場合を事例に挙げており、グレースケール画像で可視化している。同様に、図4(b)は、クリギング(Kriging)法により推定した支持層30の深度推定値データD2を、二次元の平面分布で表現し、グレースケール画像で可視化したものである。グレースケール画像はいずれも、支持層30の深度推定値が大きいほど、濃色で表現している。
【0040】
以降、地層推定手法にBS-Horizonとクリギング(Kriging)法を採用する場合を事例に挙げ、追加調査の候補範囲を検出する手順を説明する。なお、BS-Horizonは、点と点の地盤調査情報を三次元的に補間し、地層境界面を三次元的なスプライン曲線で表現する方法である。また、クリギング法は、点と点の地盤調査情報から、離間距離と共分散(相関)の関係を定量化することで、未調査の点における地層境界の標高を予測し、地層構成を推定する方法である。
【0041】
≪2種類の評価指標の算定:STEP2-2≫
評価指標は、地層推定手法で推定した深度推定値データD1、D2について、推定結果の不確かさを定量的に評価するための指標である。
【0042】
第1の評価指標は、異なる地層推定手法各々で推定した深度推定値の差を算出して取得した推定差である。第1の評価指標が小さい場合、異なる地層推定手法を採用しても推定結果である深度分布が似通っており、現実の深度分布を再現できている可能性があるものと予測できる。一方、第1の評価指標が大きい場合には、地層推定手法によって推定結果に大きなばらつきがあり、追加調査の必要性が高いものと推察できる。
【0043】
図4(c)に、第1の評価指標データD3を示す。第1の評価指標データD3は、BS-Horizonとクリギング(Kriging)法で推定した深度推定値データD1、D2から算出した推定差のデータである。図4(c)では、この推定差の平面分布をグレースケール画像で可視化している。また、図5(a)に、深度推定値データD1、D2における任意の同一Y座標上に分布する深度推定値をプロットしたグラフを示す。
【0044】
なお、X座標の20付近は、STEP1で取得した地盤情報の調査地点Pの近傍である。図5(a)を見ると、X座標の20付近ではBS-Horizonとクリギング(Kriging)法との間で、深度推定値に大きな差がない。しかし、X座標の20付近から離れるほど深度推定値の差分(推定差)が増大し、追加調査の候補範囲とすべきであることがわかる。
【0045】
第2の評価指標は、クリギング(Kriging)法で推定した深度推定値の標準偏差σである。クリギング(Kriging)法による地層推定では,地層境界の存在確率を表す確率分布を取得できる。地層境界の存在確率は、標準偏差σによりその確からしさを評価でき、標準偏差σが大きいほど予測の信頼性が低くなる。
【0046】
図4(d)に、第2の評価指標データD4を示す。第2の評価指標データD4は、クリギング(Kriging)法で推定した深度推定値データD2から算出した標準偏差σのデータであり、図4(d)では、平面分布をグレースケール画像で可視化している。また、図5(b)に、クリギング(Kriging)法で推定した深度推定値データD2における任意の同一Y座標上に分布する深度推定値と、標準偏差σをプロットしたグラフを示す。
【0047】
なお、X座標の20付近は、STEP1で取得した地盤情報の調査地点Pの近傍である。図5(b)を見ると、X座標の20付近では、標準偏差σ(ばらつき)が小さい。しかし、X座標の20付近から離れるほど標準偏差σ(ばらつき)が大きく、追加調査の候補範囲とすべきであることがわかる。
【0048】
上記の手順で算出された2パターンの深度推定値データD1、D2及び2種類の評価指標データD3、D4は、演算処理部52の記憶領域に格納してもよいし、画像出力部532を介して表示装置60に出力してもよい。
【0049】
≪微動探査の実施:STEP2-3≫
上記のとおり、2パターンの支持層30の深度分布、第1の評価指標(推定差)及び第2の評価指標(標準偏差σ)を取得する一方で、対象領域40に対して微動探査を実施し、支持層30の深度分布を予測する。
【0050】
微動探査は物理探査の1つであり、地表に配置した複数の地震計を使って常時微動を同時観測し、得られた表面波の位相速度を逆解析して地盤のS波構造を推定する。これにより、地盤のN値分布や強震動被害想定に必要となる工学的基盤(支持層30に相当)や地震基盤の深度分布を予測できる。
【0051】
図6(a)は、微動探査を実施して予測した深度予測値データD5を二次元の平面分布で表現した事例であり、グレースケール画像で可視化している。このグレースケール画像には、微動探査を実施する際に地震計を設置した地点である地震計設置地点Mが表示されている。こうして取得した深度予測値データD5は、入力部51を介して演算処理部52の記憶領域に格納しておくとよい。
【0052】
本実施の形態では、微動探査を採用したが、支持層30の深度分布を予測できる探査技術であれば、他の物理探査技術を採用してもよい。なお、微動探査を採用すると、地表に設定した地震計設置地点Mに地震計を設置する簡略な作業で地盤構造、ひいては支持層30の深度分布を予測できるため、作業性がよい。
【0053】
≪地層推定手法と物理探査との予測差を算定:STEP2-4≫
微動探査により予測した深度予測値データD5が入力部51より入力されると、演算処理部52は予測差算出部522の指令を受けて、2パターンの深度分布ごとに、深度分布と微動探査により予測した地盤構造との差である予測差の平面分布を取得する。
【0054】
図6(b)に、第1の予測差データD6を示す。第1の予測差データD6は、BS-Horizonで推定した深度推定値データD1とSTEP2-3で取得した深度予測値データD5との差(第1の予測差)のデータであり、図6(b)では、この第1の予測差の平面分布をグレースケール画像で可視化している。
【0055】
また、図6(c)に、第2の予測差データD7を示す。第2の予測差データD7は、クリギング(Kriging)法で推定した深度推定値データD2とSTEP2-3で取得した深度予測値データD5との差(第2の予測差)のデータであり、図6(c)では、この第2の予測差の平面分布をグレースケール画像で可視化している。
【0056】
これら第1の予測差データD6及び第2の予測差データD7は、演算処理部52の記憶領域に格納してもよいし、画像出力部532を介して表示装置60に出力してもよい。
【0057】
≪追加調査の候補範囲の検出:STEP2-5≫
演算処理部52は候補範囲検出部523の指令を受けて、まず、STEP2-2で取得した第1の評価指標データD3から、第1の評価指標(推定差)における上位指定範囲の平面分布を検出する。また、第2の評価指標データD4から、第2の評価指標(標準偏差σ)における上位指定範囲の平面分布を検出する。
【0058】
このとき、上位指定範囲は、第1の評価指標(推定差)及び第2の評価指標(標準偏差σ)各々で下限値をあらかじめ設定しておき、その下限値以上を設定すればよい。もしくは、最大値のみを上位指定範囲として設定してもよい。
【0059】
次に、STEP2-4で取得した第1の予測差データD6から、第1の予測差(BS-Horizonと微動探査の差)における上位指定範囲の平面分布を検出する。また、第2の予測差データD7から、第2の予測差(クリギング(Kriging)法と微動探査の差)における上位指定範囲の平面分布を検出する。
【0060】
この場合も、上位指定範囲は、第1の予測差(BS-Horizonと微動探査の差)及び第2の予測差(クリギング(Kriging)法と微動探査の差)各々で下限値をあらかじめ設定しておき、その下限値以上を設定すればよい。もしくは、最大値のみを上位指定範囲として設定してもよい。
【0061】
こうして検出した4つの平面分布が重なる範囲を、追加調査の候補範囲として検出する。上記の手順で検出された追加調査の候補範囲は、演算処理部52の記憶領域に格納してもよいし、画像出力部532を介して表示装置60に出力してもよい。図7では、追加調査の候補範囲である候補範囲データD8を、グレースケール画像で可視化している。
【0062】
上記の調査候補範囲の検出方法によれば、対象領域40においてBS-Horizonとクリギング(Kriging)法を採用して支持層30深度分布を2パターン取得し、これらの不確かさを定量化した第1の評価指標(推定差)及び第2の評価指標(標準偏差σ)を算定する。さらに、上記2パターンの深度分布と微動探査で予測した支持層30の深度分布との差を、第1の予測差及び第2の予測差として取得する。
【0063】
これにより、対象領域40における評価指標(不確かさ)の大きい範囲及び予測差の大きい範囲を、地盤深度の推定精度を向上するために好適な、追加調査の候補範囲として客観的合理性をもって検出することが可能となる。したがって、これら追加調査の候補範囲は、地盤調査を追加実施する場合の支援情報として利用することができる。
【0064】
これにより設計者らは、追加調査の候補範囲データD8を可視化した、図7で示すようなグレースケール画像を確認しながら、推定精度の向上に効果的な調査地点を、効率よく選定することができる。
【0065】
本発明の地層深度推定方法、調査候補範囲の検出方法、及び地層推定支援システムは、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0066】
例えば、本実施の形態では、支持層30の深度分布を推定する地層推定手法として、BS-Horizon及びクリギング(Kriging)法を採用したが、前述したその他の地層推定手法を採用してもよい。また、本実施の形態では、支持層30の深度分布を2パターン作成したが、2以上の地層推定手法を採用して深度分布を2パターン以上作成してもよい。
【0067】
また、評価指標も上記の推定差や標準偏差σに限定するものではない。地層推定手法の不確かさを定量的に評価できる指標であれば、いずれの指標を採用してもよい。さらには、深度分布を推定する地層は、支持層30に限定するものではない。
【0068】
加えて、本実施の形態では、地層推定支援システム80の調査範囲検出装置50で地層推定手法により支持層30の深度分布を推定した。しかし、これに限定するものではなく、支持層30の深度分布を他の装置で別途推定し、入力部51を介して調査範囲検出装置50に入力してもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 建物
11 施工領域
20 基礎杭
30 支持層
40 対象領域
50 調査範囲検出装置
51 入力部
52 演算処理部
521 評価指標算定部
522 予測差算出部
523 候補範囲検出部
53 出力部
531 データ出力部
532 画像出力部
60 表示装置
70 端末装置
80 地層推定支援システム
E 地盤
P 調査地点
M 地震計設置地点
D1 深度推定値データ(BS-Horizon)
D2 深度推定値データ(クリギング(Kriging)法)
D3 第1の評価指標データ(推定差)
D4 第2の評価指標データ(標準偏差)
D5 深度予測値データ
D6 第1の予測差(BS-Horizonと微動探査の差)
D7 第2の予測差(クリギング(Kriging)法と微動探査の差)
D8 候補範囲データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7