(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030169
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】弾性波装置および弾性波装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240229BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20240229BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H3/08
H03H9/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132773
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA16
5J097AA18
5J097BB02
5J097BB14
5J097DD07
5J097DD13
5J097GG03
5J097HA02
5J097KK02
5J097KK04
(57)【要約】
【課題】帯域外の減衰特性に優れた弾性波装置、および、そのような弾性波装置の製造方法を提供する。
【解決手段】弾性波装置は、圧電性基板10と、圧電性基板10の主面10aに位置し、4以上の偶数個のIDT電極21~26を有する縦結合共振子20とを備える。偶数個のIDT電極21~26の最も外側に位置する一対のIDT電極21、26のうち、一方のIDT電極21の電極指の数は2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板と、
前記圧電性基板の主面に位置し、4以上の偶数個のIDT電極を有する縦結合共振子と、
を備え、
前記偶数個のIDT電極のうち最も外側に位置する一対のIDT電極のうち、一方のIDT電極の電極指の数が2である、弾性波装置。
【請求項2】
前記縦結合共振子は、前記圧電性基板の主面に位置し、前記偶数個のIDT電極の外側に配置された一対の反射器をさらに有する請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記偶数個のIDT電極のうち、前記一方のIDT電極を除く、他のIDT電極の電極指の数が3以上である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記一方のIDT電極の電極指のピッチをP1とし、前記一方のIDT電極を除く他のIDT電極のメインピッチの平均値をP2とした場合、P1およびP2は、
0.97×P2≦P1≦2.1×P2
を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
一対の入出力端子と、
前記縦結合共振子と前記一対の入出力端子の一方とを結ぶ経路と、基準電位との間に接続された少なくとも1つの共振子とをさらに備える、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項6】
一対の入出力端子と、
前記縦結合共振子と前記一対の入出力端子の一方とを結ぶ経路に対して、直列に接続された少なくとも1つの共振子とをさらに備える、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記縦結合共振子は帯域通過型フィルタである、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項8】
3以上の奇数個のIDT電極を有する縦結合共振子を含む帯域通過型フィルタのフィルタ特性を設計するステップと、
前記奇数個のIDT電極の一端に2本の電極指を有するIDT電極を追加して、前記フィルタ特性を修正するステップと、
前記修正されたフィルタ特性に基づき、圧電性基板に縦結合共振子を形成するステップと
を含む弾性波装置の製造方法。
【請求項9】
前記フィルタ特性を修正するステップにおいて、前記フィルタの通過帯域の外側の高周波側の減衰極を修正する、請求項8に記載の弾性波装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波装置および弾性波装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信技術の進歩に伴い、より高速で大容量のデータ通信を行うことが可能な携帯通信網の重要性が高まっている。また、携帯通信網で使用される携帯端末には、より高周波数で、多くのバンドに対応できることが求められている。弾性波フィルタは、このような携帯端末に好適な特性を備えており、弾性波フィルタの重要性も高まってきている。
【0003】
携帯端末に用いられる弾性波フィルタなどの弾性波装置には、通過帯域と阻止帯域との境界の急峻性と、阻止帯域での高減衰が求められる。特許文献1は、通過帯域と阻止帯域との境界における減衰の傾きを急峻にすることが容易な帯域阻止フィルタを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、帯域外の減衰特性に優れた弾性波装置、および、そのような弾性波装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態による弾性波装置は、圧電性基板と、前記圧電性基板の主面に位置し、4以上の偶数個のIDT電極を有する縦結合共振子と、を備え、前記偶数個のIDT電極のうち最も外側に位置する一対のIDT電極のうち、一方のIDT電極の電極指の数が2である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、帯域外の減衰特性に優れた弾性波装置、および、弾性波装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の弾性波装置の構造の一例を示す模式的平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す弾性波装置のIDT電極の構造を示す模式的平面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す弾性波装置のIDT電極の構造を示す模式的平面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す弾性波装置の反射器の構造を示す模式的平面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の弾性波装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2実施形態の弾性波装置の構造の一例を示す回路図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の弾性波装置の構造の他の例を示す回路図である。
【
図8】
図8は、参考例1の弾性波装置の構造を示す模式的平面図である。
【
図9】
図9は、参考例2の弾性波装置の構造を示す模式的平面図である。
【
図10】
図10は、シミュレーションによって求めた実施例および参考例のフィルタの減衰特性の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、シミュレーションによって求めた実施例および参考例のフィルタの減衰特性の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、シミュレーションによって求めた実施例および参考例のフィルタの帯域内インピーダンス特性の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、シミュレーションによって求めた実施例および参考例のフィルタの帯域内インピーダンス特性の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、シミュレーションによって求めた参考例のフィルタの減衰特性の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、シミュレーションによって求めた参考例のフィルタの減衰特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
縦結合共振子を用いた帯域通過型フィルタを設計する場合、通過帯域外に位置する減衰極の位置や減衰量を調整する必要がある。これらは、一般的には、IDT電極の容量および電極指の間隔で定まる波長などを変化させることにより行われる。しかし、減衰極の位置や減衰量を調整すると、フィルタの通過帯域内の特性も変動してしまう。つまり、通過帯域の特性と通過帯域外の特性とは、独立して設計することが難しい。
【0010】
本願発明者はこのような課題に鑑み、通過帯域の特性の変化を抑制しながら通過帯域外の特性を調節し得る弾性波装置および弾性波装置の製造方法を想到した。
【0011】
以下本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されず、本開示の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。また、以下の説明において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、実施形態および変形例に記載された各構成は、本開示の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよいし、変更されてもよい。説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されていたり、一部の構成部材が省略されていたりする場合がある。特に、IDT電極の電極指の数は、分かりやすさのため、少なく示されている場合がある。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の弾性波装置101の構造を示す模式的平面図である。本実施形態の弾性波装置101は、例えば、700MHzから2500MHz帯で使用される弾性波装置であり、特に表面波弾性を利用したフィルタなどに用いられる。弾性波装置101は、圧電性基板10と、縦結合共振子20とを備える。弾性波装置101はさらに反射器31、32を備えていてもよい。
【0013】
圧電性基板10は主面10aを有しており、圧電特性を備えている。圧電性基板10は、例えば、LiTaO3、LiNbO3などの圧電性単結晶によって構成されている。圧電性基板10は圧電性セラミックスによって構成されていてもよい。また、圧電性基板10は、支持基板上に圧電性薄膜が配置された積層構造体であってもよく、支持基板と圧電性薄膜の間にさらに1以上の誘電体膜が配置された積層構造体などであってもよい。本実施形態では、例えば、圧電性基板10は、回転YカットのLiTaO3基板であり、回転角が116°以上136°以下の範囲内であることが好ましい。
【0014】
縦結合共振子20は、圧電性基板10の主面10aに位置している。縦結合共振子20は、4以上の偶数個のIDT(Inter Digital Transducer)電極を有している。本実施形態では、縦結合共振子20は、6個のIDT電極を有している。具体的には、縦結合共振子20は、IDT電極21と、IDT電極22と、IDT電極23と、IDT電極24と、IDT電極25と、IDT電極26とを含む。IDT電極21とIDT電極26とは、縦結合共振子20において、最も外側に位置する一対のIDT電極である。各IDT電極は、電極指が互いに入り込んだ一対の櫛歯電極を含む。
【0015】
IDT電極21は、第1櫛歯電極21Aと第2櫛歯電極21Bとを含む。同様に、IDT電極22は、第1櫛歯電極22Aと第2櫛歯電極22Bとを含む。IDT電極23は、第1櫛歯電極23Aと第2櫛歯電極23Bとを含む。IDT電極24は、第1櫛歯電極24Aと第2櫛歯電極24Bとを含む。また、IDT電極25は、第1櫛歯電極25Aと第2櫛歯電極25Bとを含み、IDT電極26は、第1櫛歯電極26Aと第2櫛歯電極26Bとを含む。
【0016】
図2は、IDT電極21の構造を拡大して示す模式的平面図である。IDT電極21は、2本の電極指を含む。具体的には、第1櫛歯電極21Aは、第1電極指21aと、第1電極指21aの一端に接続された第1バスバー21cとを含み、第2櫛歯電極21Bは、第2電極指21bと、第2電極指21bの一端に接続された第2バスバー21dとを含む。IDT電極21は、第1バスバー21cおよび第2バスバー21dを備えていなくてもよい。
【0017】
IDT電極21の2本の電極指のピッチP1は、電極指が伸びる方向と垂直な方向(x軸方向)における隣接する一対の電極指の中心間距離で定義される。
【0018】
一方、IDT電極22、23、24、25、26は、3以上の電極指をそれぞれ含む。電極指の数は、任意に決定することができる。例えば、電極指の数は、3以上50以下であり、好ましくは、20以上40以下である。
図3はIDT23の構造を拡大して示す模式的平面図である。IDT電極23において、第1櫛歯電極23Aは、複数の第1電極指23aと、複数の第1電極指23aの一端に接続された第1バスバー23cとを含み、第2櫛歯電極23Bは、複数の第2電極指23bと、第2電極指23bの一端に接続された第2バスバー23dとを含む。電極指のピッチは、IDT電極23の全体で同じであってもよいし、電極指のピッチが異なる領域があってもよい。
【0019】
本実施形態では、IDT電極23は、中央に位置するメイン領域Rmとメイン領域Rmを挟む一対の狭ピッチ領域Rnとを含む。メイン領域Rmおよび狭ピッチ領域Rnのそれぞれにおいて、電極指のピッチは、領域内で同じであってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。
【0020】
狭ピッチ領域Rnにおける電極指の平均ピッチは、メイン領域Rmにおける電極指の平均ピッチよりも小さい。より具体的には、狭ピッチ領域Rnにおける電極指の平均ピッチをPnとし、メイン領域Rmにおける電極指の平均ピッチをPmとした場合、PnおよびPmは、Pn≦0.95×Pmの関係を満たしていることが好ましい。ここで、狭ピッチ領域Rnおよびメイン領域Rmにおける電極指の平均ピッチは、各領域の両端に位置する電極指のx軸方向における中心間距離を領域内のギャップ数(領域内の電極指の本数-1))で除することによって求められる。
【0021】
IDT電極22、24、25、26もIDT電極23と同様の構造を備えている。ただし、IDT電極22、23、24、25、26において、電極指の数および電極指のピッチは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
また、本実施形態では、IDT電極23~25は、
図3を参照して説明したように、メイン領域Rmと、メイン領域Rmに対してx軸方向の両側に配置された一対の狭ピッチ領域Rnとを含む。これに対して、IDT電極22は、メイン領域Rmと、メイン領域Rmに対してIDT電極23側に配置された狭ピッチ領域Rnとを含む。また、IDT電極26は、メイン領域Rmと、メイン領域Rmに対してIDT電極25側に配置された狭ピッチ領域Rnとを含む。つまり、IDT電極22は、IDT電極21側には狭ピッチ領域を有しておらず、IDT電極26は、反射器32側には狭ピッチ領域を有していない。しかし、IDT電極22は、IDT電極21側にも狭ピッチ領域を有していてもよい。言い換えると、狭ピッチ領域Rnは、IDT電極22、23、24、25、26において、IDT電極が隣り合う領域に設けられてもよい。
【0023】
図1に示すように、IDT電極21、22、23、24、25、26は圧電性基板10の主面10aにおいて、それぞれの電極指が伸びる方向と直交する方向に配列されている。
図1では、IDT電極21、22、23、24、25、26の電極指はy軸と平行に伸びており、IDT電極21、22、23、24、25、26はx軸方向に配列されている。縦結合共振子20によって、圧電性基板10に励起された弾性波はy軸と垂直なx軸方向に伝搬する。
【0024】
IDT電極21の第1櫛歯電極21A、IDT電極23の第1櫛歯電極23A、およびIDT電極25の第1櫛歯電極25Aは互いに電気的に接続され、入出力端子40Aに接続されている。一方、IDT電極21の第2櫛歯電極21B、IDT電極23の第2櫛歯電極23B、およびIDT電極25の第2櫛歯電極25Bは、それぞれ基準電位に接続される。
【0025】
また、IDT電極22の第2櫛歯電極22B、IDT電極24の第2櫛歯電極24B、およびIDT電極26の第2櫛歯電極26Bは互いに電気的に接続され、入出力端子40Bに接続されている。IDT電極22の第1櫛歯電極22A、IDT電極24の第1櫛歯電極24A、およびIDT電極26の第1櫛歯電極26Aは、それぞれ基準電位に接続される。
【0026】
縦結合共振子20は、反射器をさらに有していてもよい。本実施形態では、縦結合共振器30は、IDT電極21~25のx軸方向における外側に、一対の反射器31、32を有している。
図4は反射器31の構造を拡大して示す模式的平面図である。反射器31は、複数の電極指31aを有する。電極指31aの両端は、それぞれバスバー31cに接続されている。反射器32も、反射器31と同様の構造を備えている。反射器31、32において、電極指の数および電極指のピッチは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
IDT電極23、24、25、26および反射器31、32は、1層または複数層の金属層によって構成されている。金属層は、Al、Pt、Au、Cu、W、Mo、Ta、NiおよびCrからなる群から選ばれる1種、また、これらの群からなる少なくとも1種を含む合金によって構成される。
【0028】
弾性波装置101によれば、2本の電極指によって構成されるIDT電極21が縦結合共振子20の4以上の偶数個のIDT電極のうち、x軸方向において最も外側に位置していることによって、残りのIDT電極22、23、24、25、26によって形成される帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上させることができる。例えば、通過帯域の高周波数側により近い周波数位置における減衰量を大きくすることができる。したがって、通過帯域の高周波数側における通過帯域と阻止帯域の境界をより急峻にすることができる。一方、通過帯域においては、良好な通過特性を確保することができる。
【0029】
以下において詳細に説明するように、2本の電極指によって構成されるIDT電極は、縦結合共振子の弾性波の伝搬方向の両端のうち、一方の端にのみ配置されていることが好ましい。弾性波の伝搬方向における両端に電極指の数が2であるIDT電極が配置されている場合、通過帯域の高周波数側の減衰特性は向上するが、通過帯域近傍の減衰特性が悪くなる場合がある。また、帯域内インピーダンス特性が変化する場合がある。
【0030】
また、IDT電極21を除く他のIDT電極22、23、24、25、26のそれぞれのメインピッチPmの平均値をP2とした場合、P2は、IDT電極21の電極指のピッチP1との間で以下の関係式(1)を満たしていることが好ましい。
0.97×P2≦P1≦2.1×P2 (1)
P1およびP2が式(1)を満たすことによって、通過帯域にリプル等が生じることなく、良好な通過帯域特性を得ることができる。
【0031】
次に、本実施形態の弾性波装置101の製造方法を説明する。
図5は、本実施形態の弾性波装置101の製造方法を示すフローチャートである。
【0032】
一般に、縦結合共振子は奇数個のIDT電極で構成される場合が多い。これは、IDT電極が偶数個である場合、伝搬する弾性波の位相を適切に調節することが容易ではないからである。
【0033】
本実施形態の弾性波装置101は、偶数個のIDT電極を含む縦結合共振子を備えているが、一般的な奇数個のIDT電極による縦結合共振子の設計に基づいて、偶数個のIDT電極を含む縦結合共振子のフィルタ特性を設計する。
【0034】
本実施形態の弾性波装置の製造方法は、奇数個のIDT電極を有する帯域通過型フィルタのフィルタ特性を設計する第1ステップ(S1)と、第1ステップで得られたフィルタ特性を修正する第2ステップ(S2)と、修正したフィルタ特性に基づき弾性波装置を作製する第3ステップ(S3)を含む。以下、各ステップを詳述する。
【0035】
(1)第1ステップ(S1)
まず、3以上の奇数個のIDT電極を有する縦結合共振子を含む帯域通過型フィルタのフィルタ特性を設計する。奇数個のIDT電極で構成される縦結合共振子を含む帯域通過型フィルタの設計は、従来と同様の方法によって行うことができる。
【0036】
(2)第2ステップ(S2)
次に、奇数個のIDT電極の一端に2本の電極指を有するIDT電極を追加して、フィルタ特性を修正する。2本の電極指を有するIDT電極を追加することによって、このIDT電極の容量成分が、設計する帯域通過型フィルタに付加され、減衰極の位置(周波数)を変化させることができる。容量の大きさは、2本の電極指のピッチにより調整し得る。減衰極を適切な位置に配置することによって、通過帯域と阻止帯域の境界をより急峻にすること、つまり、フィルタ特性のキレを改善することができる。また、追加するIDTの電極指を2本にすることによって、第1ステップで設計した基本となる帯域通過型フィルタの帯域特性に与える影響を小さくし、帯域内特性を維持することができる。
【0037】
ただし、2本の電極指を有するIDT電極を追加した後に、奇数個のIDT電極による縦結合共振子におけるIDT電極の電極指のピッチ、電極指の数などを変化させて第1ステップで設計した帯域通過型フィルタを調整してもよい。
【0038】
(3) 第3ステップ(S3)
修正したフィルタ特性に基づき、圧電性基板に縦結合共振子を形成し、弾性波装置を作製する。具体的には、修正したフィルタ特性に用いたパラメータ、具体的には、電極指の数、電極指のピッチ等を用いて、IDT電極および反射器のパターンを決定し、決定したパターンでIDT電極等を形成するためのフォトマスクを作製する。作製したフォトマスクを用いて、一般的な弾性波装置の製造技術および製造工程に従い、弾性波装置を作製する。
【0039】
本実施形態の弾性波装置の製造方法によれば、まず、3以上の奇数個のIDT電極を有する縦結合共振子を含む帯域通過型フィルタのフィルタ特性を設計し、そのフィルタ特性を有するフィルタに、2本の電極指を有するIDT電極を追加して、フィルタ特性を修正する。この時、通過帯域外に位置する減衰極の位置が主として影響を受け、通過帯域の特性の変化は小さい。したがって、フィルタ全体の設計を調整することなくフィルタ特性を修正することが可能となり、設計が容易ではない偶数個のIDT電極を有する縦結合共振子に基づかなくても、本実施形態の弾性波装置を設計することができる。
【0040】
[第2実施形態]
図6は、本実施形態の弾性波装置102の構造を示す回路図である。弾性波装置102は、縦結合共振子20に加えて、少なくとも1つの並列共振子を備えている点で第1実施形態の弾性波装置101と異なる。少なくとも1つの共振子は、縦結合共振子20を含む弾性波装置101、および、入出力端子40A、40Bの一方を結ぶ経路と、基準電位との間に接続されている。
【0041】
図6に示すように、本実施形態では、弾性波装置102は、第1の実施形態の縦結合共振子20と、第1並列共振子81と第2並列共振子82とを備えている。弾性波装置102において、第1並列共振子81および第2並列共振子82は、縦結合共振子20に対してそれぞれ並列に接続されている。
【0042】
より具体的には、第1並列共振子81は、入出力端子40Bと、基準電位との間に接続され、第2並列共振子82は、入出力端子40Aと、基準電位との間に接続されている。基準電位は、弾性波装置を動作させるときの基準となる電位であり、通常0Vである。しかし、基準電位は0Vに限られず他の値の電位であってもよい。第1並列共振子81および第2並列共振子82は、縦結合共振子20により実現される帯域通過フィルタにおける減衰レベルの調整およびインピーダンス調整のために配置されている。弾性波装置102において、第1並列共振子81および第2並列共振子82の一方が設けられていなくてもよい。
【0043】
弾性波装置102が第1並列共振子81および第2並列共振子82を備えていても、第1実施形態の弾性波装置101と同様の効果が得られる。すなわち、IDT電極21によって、帯域内特性を維持しつつ、帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上させるという効果を得ることができる。
【0044】
本実施形態の弾性波装置は、縦結合共振子20に加えて、少なくとも1つの直列共振子を備えていてもよい。少なくとも1つの直列共振子は、縦結合共振子20を含む弾性波装置101、および、入出力端子40A、40Bの一方を結ぶ経路に対して直列に接続されている。
図7に示すように、弾性波装置103は、第1の実施形態の縦結合共振子20と、第1直列共振子83と第2直列共振子83とを備えている。弾性波装置103において、第1並列共振子81および第2並列共振子82は、縦結合共振子20に対してそれぞれ直列に接続されている。
【0045】
より具体的には、第1直列共振子83は、入出力端子40Bと縦結合共振子20との間に接続され、第2直列共振子84は、縦結合共振子20と入出力端子40Aとの間に接続されている。弾性波装置103において、第1並列共振子81および第2並列共振子82の一方が設けられていなくてもよい。
【0046】
また、本実施形態の弾性波装置は、縦結合共振子20に加えて、少なくとも1つの直列共振子および少なくとも1つの並列共振子を備えていてもよい。例えば、
図7に示す弾性波装置103において、第1直列共振子83と縦結合共振子30との間に、第1並列共振子81が接続されていてもよいし、縦結合共振子30と第2直列共振子84との間に第2並列共振子82が接続されていてもよい。また、
図7に示す弾性波装置103において、上述した第1並列共振子81および第2直列共振子84をさらに備えていてもよい。つまり、本実施形態の弾性波装置103は、弾性波装置101と、第1並列共振子81、第2並列共振子82、第1直接共振子83および第2直列共振子84とを備えていてもよい。
【0047】
本実施形態に示されるように、縦結合共振子20は、弾性波装置の回路に用いられる種々の共振子と組み合わせることができる。上述した並列共振子および直列共振子は、他の縦結合共振子であってもよいし、共振子以外の容量素子であってもよい。
【0048】
[他の形態]
本開示の弾性波装置は上記実施形態に限られず種々の改変が可能である。縦結合共振子を構成するIDT電極の数は、6に限られず、4であってもよいし、8以上であってもよい。また、IDT電極の形状等も上記実施形態に限られない。
【0049】
[実施例]
実施形態の弾性波装置のフィルタ特性をシミュレーションによって求めた結果を説明する。実施例1として、第2実施形態の弾性波装置102のフィルタ特性をシミュレーションによって求めた。シミュレーションに用いたIDT電極のパラメータは以下の表1に示す。表1において、各IDT電極の波長はメイン領域のメインピッチPmの2倍の値を示す。また、本数は、反射器またはIDTにおける電極指の数を示す。IDT電極が、メイン領域Rmおよび狭ピッチ領域Rnを含む場合には、それぞれの領域に分けて波長および本数を示している。
【0050】
【表1】
比較のために、参考例1として、
図8に示すように、IDT電極21を備えていないことを除き、弾性波装置102と同じ構造の弾性波装置111のフィルタ特性をシミュレーションによって求めた。また、参考例2として、
図9に示すように、IDT電極21と同じ構造のIDT27をさらに備えた弾性波装置112のフィルタ特性をシミュレーションによって求めた。
図10に広域の減衰特性を示す。また、
図11に通過帯域付近の減衰特性を示す。
図12および
図13に、帯域内インピーダンス特性として、S11およびS22の特性をそれぞれ示す。
図10から
図13において、実線は実施例1の特性を示し、荒い点線は参考例1の特性を示す。また、細かい点線は参考例2の特性を示す。
【0051】
図10に示すように、参考例1では、900MHz付近に減衰極が位置しているが、実施例1では、この減衰極が870MHz程度の位置にシフトしていることが分かる。その結果、通過帯域と、その高周波側の阻止帯域との境界において、急峻な減衰が実現している。一方、
図11に示すように、750MHz~800MHz程度の通過帯域での特性は、参考例1と実施例1とではほとんど一致しており、良好な通過特性を維持している。また、
図12および
図13に示すように、帯域内のインピーダンス特性も、参考例1と実施例1とではほとんど一致している。
【0052】
参考例2においても実施例1と同様、減衰極が870MHz程度の位置にシフトしており、通過帯域と、その高周波側の阻止帯域との境界において、急峻な減衰が実現している。また、750MHz~800MHz程度の通過帯域での特性は、参考例1と参考例2とではほとんど一致している。しかし、参考例2では、通過帯域よりも低周波数側の阻止帯域において、減衰量が小さくなっており、減衰特性が悪化している。また、
図13に示すように、帯域内インピーダンス特性がシフトしている。
【0053】
これらの結果から、実施例1によれば、奇数個のIDT電極を持つ縦結合共振子に、2本の電極指を有するIDTを追加することによって、帯域内特性を維持しつつ、帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上させることができることが分かる。また、2本の電極指を有するIDTは、縦結合共振子の一端にのみ設けることがより好ましいことが分かる。
【0054】
次にIDT電極21における好ましい電極指のピッチの範囲をシミュレーションによって検討した。
IDT電極21の電極指のピッチを種々の値に設定し、上記実施例1と同様にフィルタ特性をシミュレーションによって求めた。求めた結果を参考例1の結果と比較し、良好な帯域内特性を維持しつつ、帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上させることができるか否かを判定した。
【0055】
その結果、式(1)の条件を満たせば、良好な帯域内特性を維持しつつ、帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上さられることが分かった。
【0056】
参考例3として、下記表2の条件で設計したフィルタ特性を
図14および
図15に示す。
図14および
図15において、荒い点線は参考例1の特性を示し、一点鎖線は参考例3の特性を示す。表2において、各IDT電極の波長はメイン領域のメインピッチPmの2倍の値を示し、本数はメイン領域にある電極指の数および狭ピッチ領域にある電極指の数の合計を示す。IDT22~IDT26のメイン領域における電極指のピッチから求まる波長の平均値(つまり、P2×2)は、4.014μmであった。
【0057】
また、IDT21のピッチから求まる波長は(P1×2)は9.473μmであり、P1=2.23×P2である。
【0058】
【表2】
図14に示すように、参考例3においても、実施例1と同様、通過帯域と、その高周波側の阻止帯域との境界において、急峻な減衰が実現している。しかし、
図15において矢印Aで示すように、通過帯域内において、リプルが発生しており、良好な通過帯域特性が維持できていないことが分かる。
【0059】
これは、IDT電極21の電極指のピッチが式(1)の範囲外であり、ピッチが大きすぎるからと考えられる。IDT電極21の電極指のピッチが式(1)の範囲よりも小さくても、良好な通過帯域特性が維持できないと考えられる。
【0060】
このように、IDT電極21の電極指のピッチが式(1)の範囲を満たすことによって、良好な帯域内特性を維持しつつ、帯域通過型フィルタの帯域外に位置する減衰極における減衰特性を向上させることができることが分かった。
本開示の弾性波装置および弾性波装置の製造方法は、以下のようにも説明することができる。
【0061】
第1の構成に係る弾性波装置は、圧電性基板と、圧電性基板の主面に位置し、4以上の偶数個のIDT電極を有する縦結合共振子と、を備え、偶数個のIDT電極のうち最も外側に位置する一対のIDT電極のうち、一方のIDT電極の電極指の数が2である。
【0062】
第1の構成によれば、通過帯域と阻止帯域との境界における減衰が急峻で、良好な通過特性を有する弾性波装置を得ることができる。
【0063】
第2の構成に係る弾性波装置は、第1の構成において、縦結合共振子が、圧電性基板の主面に位置し、偶数個のIDT電極の外側に配置された一対の反射器をさらに有していてもよい。
【0064】
第3の構成に係る弾性波装置は、第1または第2の構成において、前記偶数個のIDT電極のうち、一対のIDT電極を除く、他のIDT電極の電極指の数が3以上であってもよい。
【0065】
第4の構成に係る弾性波装置は、第1から第3のいずれか1つの構成において、一方のIDT電極の電極指のピッチをP1とし、一方のIDT電極を除く他のIDT電極のメインピッチの平均値をP2とした場合、P1およびP2が、0.97×P2≦P1≦2.1×P2を満たしていてもよい。
【0066】
第5の構成に係る弾性波装置は、第1から第4のいずれか1つの構成において、一対の入出力端子と、縦結合共振子と一対の入出力端子の一方とを結ぶ経路と、基準電位との間に接続された少なくとも1つの共振子とをさらに備えていてもよい。
【0067】
第6の構成に係る弾性波装置は、第1から第5のいずれか1つの構成において、一対の入出力端子と、縦結合共振子と一対の入出力端子の一方とを結ぶ経路に対して、直列に接続された少なくとも1つの共振子とをさらに備えていてもよい。
【0068】
第7の構成に係る弾性波装置は、第1から第6のいずれか1つの構成において、縦結合共振子が帯域通過型フィルタであってもよい。
【0069】
第8の構成に係る弾性波装置の製造方法は、3以上の奇数個のIDT電極を有する縦結合共振子を含む帯域通過型フィルタのフィルタ特性を設計するステップと、奇数個のIDT電極の一端に2本の電極指を有するIDT電極を追加して、フィルタ特性を修正するステップと、修正されたフィルタ特性に基づき、圧電性基板に縦結合共振子を形成するステップとを含む。
【0070】
第8の構成によれば、通過帯域と阻止帯域との境界における減衰が急峻で、良好な通過特性を有する弾性波装置を比較的簡単な設計方法で設計し、製造することができる。
【0071】
第9の構成に係る弾性波装置の製造方法は、第8の構成において、フィルタ特性を修正するステップにおいて、フィルタの通過帯域の外側の高周波側の減衰極を修正してもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…圧電性基板、10a…主面、20…縦結合共振子、IDT電極21~27、21A~26A…第1櫛歯電極、21B~26B…第2櫛歯電極、21a~26a…第1電極指、21b~26b…第2電極指、21c~26c…第1バスバー、21d~26d…第2バスバー、31,32…反射器、31a…電極指、31c…バスバー、40A,40B…入出力端子、81…第1並列共振子、82…第2並列共振子、83…第1直列共振子、84…第2直列共振子、101、102,103,111,112…弾性波装置