(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030185
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】最適化方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20240229BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20240229BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132807
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相澤 景
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ▲琢▼也
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】浅原 信吾
(72)【発明者】
【氏名】江原 勇介
(72)【発明者】
【氏名】倭 昂司
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146DC04
5B146DJ01
(57)【要約】
【課題】整数である設計変数の最適解を探索する最適化問題を解く際に、勾配法による最適解の探索の実施を可能とする。
【解決手段】最適化装置は、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトルの各成分を整数化し、整数化された設計変数を各成分とする第1パラメータベクトルを設定する。最適化装置は、設計変数ベクトルを第2パラメータベクトルとして設定する。最適化装置は、第1パラメータベクトルを備える第1解析モデルによる解析処理の結果から目標値ベクトルとの差を表す第1誤差ベクトルを計算し、第2パラメータベクトルを備える第2解析モデルによる解析処理の結果から目標値ベクトルとの差を表す第2誤差ベクトルを計算し、第1誤差ベクトルと第2誤差ベクトルとを結合させた誤差ベクトルの設計変数ベクトルに対する勾配を計算する。最適化装置は、勾配と誤差ベクトルから計算された修正量に基づいて設計変数を修正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトルを設定し、
前記設計変数ベクトルの各成分を整数化し、整数化された前記設計変数を各成分として持つ第1パラメータベクトルを設定し、
前記設計変数ベクトルを第2パラメータベクトルとして設定し、
前記第1パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第1解析モデルを設定し、
前記第2パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第2解析モデルを設定し、
対象となる入力データと前記第1解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、前記第1解析モデルによる解析処理の結果である第1出力データベクトルと目標値ベクトルとの差を表す第1誤差ベクトルを計算し、
前記入力データと前記第2解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、前記第2解析モデルによる解析処理の結果である第2出力データベクトルと前記目標値ベクトルとの差を表す第2誤差ベクトルを計算し、
前記第1誤差ベクトルと前記第2誤差ベクトルとを結合させた誤差ベクトルを設定し、
前記設計変数ベクトルの各成分に対する前記誤差ベクトルの各成分の勾配を計算し、
前記勾配と前記誤差ベクトルとに基づいて、前記誤差ベクトルが小さくなるような、前記設計変数ベクトルの各成分に対する修正量を計算し、
前記修正量に基づいて、前記設計変数ベクトルの各成分である前記設計変数を修正し、
前記誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされるまで、前記第1パラメータベクトルの設定、前記第2パラメータベクトルの設定、前記第1解析モデルの設定、前記第2解析モデルの設定、前記第1誤差ベクトルの計算、前記第2誤差ベクトルの計算、前記誤差ベクトルの設定、前記勾配の計算、前記修正量の計算、及び前記設計変数ベクトルの各成分の修正を繰り返し、
前記所定条件が満たされた場合、前記設計変数が整数化された前記第1パラメータベクトルを結果として出力する、
処理をコンピュータが実行する最適化方法。
【請求項2】
前記設計変数は、設計対象の建物の各階に設置されるダンパーの数であり、
前記入力データは、設計対象の建物を表す建物データ及び模擬地震動データであり、
前記第1出力データベクトル、前記第2出力データベクトル、及び前記目標値ベクトルの各成分は、地震動に対する最大層間変形角である、
請求項1に記載の最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実際の初期設計値とは関係のない値を代入してしまうことで解が収束せずに最適解を求めることができなくなるといった事態を防止する自動設計装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この自動設計装置は、数理計画法により設計変数を連続変数として用いて最適解を求め、最適解に最も近い規格品を初期値として選択する。これにより、実際の初期設計値とは関係のない値を代入してしまうことがなくなり、解が収束せずに最適解を求めることができなくなるといった事態が確実に防止される。
【0003】
また、遺伝的探索法を用いた最適化設計装置において、設計変数データの数が膨大となる実設計問題において、自動計算を実施し、最適解を得ることを可能にする装置が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この技術は、遺伝的探索法を用いた骨組構造最適化設計装置において、骨組部材断面寸法などの離散設計変数データの近似式を使用する近似最適化計算装置と該設計変数データを使用する詳細最適化計算装置を設け、これら二つの計算装置を結合して骨組構造の最適化設計装置を構成する。上記設計変数データの近似式を用いた近似最適化計算装置及び詳細最適化計算装置により、2段階の最適化計算を連続して自動的に実施することにより、設計変数データの数がいくら多くなっても、良好な骨組構造の最適解が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-131421号公報
【特許文献2】特開2001-134628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最適化問題を解くための解法として、ニュートン法及び最急降下法等の目的関数の勾配を利用して最適解を探索する方法(以下、単に「勾配法」と称する。)が知られている。勾配法を用いる場合、探索対象の変数は連続性を有している必要がある。
【0006】
一方、最適化問題には、探索対象の変数が整数又は自然数等の離散的な変数であるような問題も多い。探索対象の変数が離散的である問題に勾配法を適用したとしても、勾配を適切に計算することはできないため、解の探索を効率的に行うことは困難となる。
【0007】
そのため、探索対象の変数が離散的であるような問題では、上記特許文献2に開示されているような遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic algorithm)等の発見的手法が用いられることが多い。
【0008】
しかしながら、発見的手法はランダム探索の一面もあり、最適解の探索には一般的に多くの探索回数が必要となる。
【0009】
これに対して勾配法では、目的関数の勾配に基づいて最適解の探索が実行されるため、少ない探索回数で効率的に最適解を得られる可能性を有している。
【0010】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、整数である設計変数の最適解を探索する最適化問題を解く際に、勾配法による最適解の探索の実施を可能とすることにより、整数である設計変数の最適解を効率的に探索することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の最適化方法は、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトルを設定し、前記設計変数ベクトルの各成分を整数化し、整数化された前記設計変数を各成分として持つ第1パラメータベクトルを設定し、前記設計変数ベクトルを第2パラメータベクトルとして設定し、前記第1パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第1解析モデルを設定し、前記第2パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第2解析モデルを設定し、対象となる入力データと前記第1解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、前記第1解析モデルによる解析処理の結果である第1出力データベクトルと目標値ベクトルとの差を表す第1誤差ベクトルを計算し、前記入力データと前記第2解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、前記第2解析モデルによる解析処理の結果である第2出力データベクトルと前記目標値ベクトルとの差を表す第2誤差ベクトルを計算し、前記第1誤差ベクトルと前記第2誤差ベクトルとを結合させた誤差ベクトルを設定し、前記設計変数ベクトルの各成分に対する前記誤差ベクトルの各成分の勾配を計算し、前記勾配に基づいて、前記誤差ベクトルが小さくなるような前記設計変数ベクトルの各成分に対する修正量を計算し、前記修正量に基づいて、前記設計変数ベクトルの各成分である前記設計変数を修正し、前記誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされるまで、前記第1パラメータベクトルの設定、前記第2パラメータベクトルの設定、前記第1解析モデルの設定、前記第2解析モデルの設定、前記第1誤差ベクトルの計算、前記第2誤差ベクトルの計算、前記誤差ベクトルの設定、前記勾配の計算、前記修正量の計算、及び前記設計変数ベクトルの各成分の修正を繰り返し、前記所定条件が満たされた場合、前記設計変数が整数化された前記第1パラメータベクトルを結果として出力する、処理をコンピュータが実行する最適化方法である。これにより、整数である設計変数の最適解を探索する最適化問題を解く際に、勾配法による最適解の探索の実施を可能とすることにより、整数である設計変数の最適解を効率的に探索することができる。
【0012】
本発明の前記設計変数は、設計対象の建物の各階に設置されるダンパーの数であり、前記入力データは、設計対象の建物を表す建物データ及び模擬地震動データであり、前記第1出力データベクトル、前記第2出力データベクトル、及び前記目標値ベクトルの各成分は、地震動に対する最大層間変形角であるようにしてもよい。これにより、目標となる最大層間変形角を満たすような建物の各階に設置されるダンパーの数を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、整数である設計変数の最適解を探索する最適化問題を解く際に、勾配法による最適解の探索の実施を可能とすることにより、整数である設計変数の最適解を効率的に探索することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る最適化装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態において利用する解析モデルを説明するための図である。
【
図3】本実施形態の処理の流れを説明するための図である。
【
図4】本実施形態の最適化装置のコンピュータの構成例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る最適化処理ルーチンの一例を示す図である。
【
図6】シミュレーション実験の内容を説明するための説明図である。
【
図7】シミュレーション実験の内容を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
<本実施形態に係る最適化装置の構成>
【0017】
図1に、本発明の実施形態に係る最適化装置100の構成の一例を示す。最適化装置100は、機能的には、
図1に示されるように、データ受付部10、コンピュータ20、及び出力部40を含んだ構成で表すことができる。
【0018】
本実施形態の最適化装置100は、離散変数である設計変数を最適化する。本実施形態では、建物の各階に設置されるダンパーの台数を設計変数として設定し、その設計変数を最適化する場合を例に説明する。本実施形態において説明する最適化問題は、設計対象の建物の各階の最大層間変形角が目標値となるような、建物の各階に設置されるダンパーの数を求めることである。
【0019】
なお、本実施形態において、「最適化する」、「最適化された設計変数」、又は「最適解」等の表現が用いられている場合には、これら「最適」の表現は、最適な状態に近づけることにより得られるものを意味することに留意されたい。このため、ある誤差が最小となるようなパラメータを得ようとする場合、最適化により得られたパラメータは、当該誤差が最小となるような大局解ではなく、局所解である場合も想定されることに留意されたい。
【0020】
本実施形態では、まず、建物の各階に設置されるダンパーの台数として設計変数ベクトルを設定する。この設計変数ベクトルの各成分は、各階に設置されるダンパーの数である。また、設計変数ベクトルの各成分は、連続変数である実数として設定される。
【0021】
次に、本実施形態では、設計変数ベクトルの各成分を整数化し、その整数化した各成分をパラメータとして備える解析モデルである第1解析モデルを設定する。具体的には、設計変数ベクトルの各成分の値を四捨五入するなどして小数点以下の数が存在しなくなるようにし、それをパラメータとして備える第1解析モデルを設定する。また、本実施形態では、設計変数ベクトルの各成分をそのままパラメータとして備える解析モデルである第2解析モデルを設定する。
【0022】
本実施形態では、上記のような第1解析モデルと第2解析モデルの2つの解析モデルを設定し、その両モデルの出力が目標値となるように、勾配法を用いて設計変数の探索を実施する。なお、第1解析モデル及び第2解析モデルは、設計対象の建物を表す解析モデルである。第1解析モデル及び第2解析モデルを利用することにより、設計対象の建物に対して所定の地震動が入力された場合の、建物の各階の最大層間変形角が計算される。本実施形態では、設計対象の建物の各階の最大層間変形角が目標値となるような、建物の各階に設置されるダンパーの数を求める。
【0023】
以下の表1に、最適な設計変数を探索する際に、整数のパラメータを有する離散化モデルである第1解析モデルを利用した場合の利点及び欠点と、実数のパラメータを有する実数化モデルである第2解析モデルを利用した場合の利点及び欠点とを示す。
【0024】
【0025】
上記表1に示されるように、整数化された設計変数をパラメータとして有する離散化モデルを用いた場合には、整数化された設計変数を探索することができる、という利点がある。具体的には、設計変数の探索結果として、例えば、ダンパー台数1台といった設計変数が求められる。
【0026】
しかし、離散化モデルを用いた場合には、設計変数が整数であるため、離散化モデルから出力される最大層間変形角は飛び飛びの値となる。具体的には、ダンパーの台数が1台の場合には最大層間変形角はY1となり、ダンパーの台数が2台の場合には最大層間変形角はY2となるものの、ダンパーの台数が1.5台の場合の最大層間変形角は不明となる。このため、離散化モデルを用いて設計変数の探索を実行する場合には、離散化モデルから得られる最大層間変形角と目標値との間の誤差の勾配を計算することが難しく、設計変数の探索を効率的に行うことができない、という欠点がある。
【0027】
一方、上記表1に示されるように、実数化された設計変数をパラメータとして有する実数化モデルを用いた場合には、設計変数が実数であるため、実数化モデルから得られる最大層間変形角と目標値との間の誤差の勾配を計算することが可能となる。このため、その勾配を利用することにより、設計変数の探索を効率的に行うことができる。
【0028】
しかし、実数化モデルを用いた場合には、設計変数が実数であるため、探索された結果は、例えば、ダンパーの台数1.23台といった結果になる。このような結果が得られた場合、その設計変数を四捨五入するなどして、整数化されたダンパーの台数を求めることも可能である。しかし、そのようにして求められた設計変数は適切ではない場合もある。例えば、建物の各階のダンパーの台数が探索された際に、1階:2.4台、2階:1.8台、3階:1.4台となった場合を考える。この場合、これらの設計変数を整数化した場合には、1階:2台、2階:2台、3階:1台となるが、1階:2台、2階:2台、3階:2台の方が、最大層間変形角と目標値との間の誤差は小さくなる場合もある。
【0029】
そこで、本実施形態では、上記表1に示されるように、離散化モデルである第1解析モデルと実数化モデルである第2解析モデルとを併用する。これにより、整数化された設計変数を効率的に探索することができる、という利点が生じる。なお、第1解析モデルと第2解析モデルとを併用する場合には、2つの解析モデルによる解析が必要になるため、設計変数の修正に掛かる時間は2倍になるという欠点が生じる。しかし、設計変数の修正に要する時間は十分短いため、本実施形態によれば、整数化された設計変数を効率的に探索することができる。
【0030】
図2に、本実施形態において利用する解析モデルを説明するための図を示す。
図2に示される丸印は設計対象の建物の床を表し、丸印を繋ぐ棒は壁及び柱による剛性に対応する。
図2の解析モデルは、設計対象の建物の1階から4階までの各階にダンパーを何台設置すべきか、という最適化問題を解く際に利用される。
【0031】
図3に、本実施形態の処理の流れを説明するための図を示す。
図3に示されるように、本実施形態の最適化装置100は、まず、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトル[X
1,X
2,X
3,X
4]を設定する。
【0032】
次に、最適化装置100は、
図3に示されるように、設計変数ベクトル[X
1,X
2,X
3,X
4]の各成分を整数化した第1パラメータベクトル[X
1-1,X
1-2,X
1-3,X
1-4]を設定する。また、最適化装置100は、
図3に示されるように、設計変数ベクトル[X
1,X
2,X
3,X
4]の各成分を、そのまま各成分として持つ第2パラメータベクトル[X
2-1,X
2-2,X
2-3,X
2-4]を設定する。このため、X
1=X
2-1,X
2=X
2-2,X
3=X
2-3,X
4=X
2-4である。
【0033】
次に、最適化装置100は、
図3に示されるように、例えば、第1解析モデルを用いて設計対象の建物に対する応答解析を実行することにより、建物の応答解析の結果を得る。これにより、建物の各階の最大層間変形角を各成分として持つ第1出力データベクトル[Y
1-1,Y
1-2,Y
1-3,Y
1-4]が得られる。
【0034】
また、最適化装置100は、
図3に示されるように、例えば、第2解析モデルを用いて設計対象の建物に対する応答解析を実行することにより、建物の応答解析の結果を得る。これにより、建物の各階の最大層間変形角を各成分として持つ第2出力データベクトル[Y
2-1,Y
2-2,Y
2-3,Y
2-4]が得られる。
【0035】
そして、最適化装置100は、第1出力データベクトル[Y1-1,Y1-2,Y1-3,Y1-4]と、建物の各階の最大層間変形角の目標値を各成分として持つ目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との間の誤差を表す第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]を計算する。なお、R1-1=T1-Y1-1,R1-2=T2-Y1-2,R1-3=T3-Y1-3,R1-4=T4-Y1-4である。
【0036】
また、最適化装置100は、第2出力データベクトル[Y2-1,Y2-2,Y2-3,Y2-4]と目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との間の誤差を表す第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を計算する。なお、R2-1=T1-Y2-1,R2-2=T2-Y2-2,R2-3=T3-Y2-3,R2-4=T4-Y2-4である。
【0037】
そして、最適化装置100は、この第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]と第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]とを結合することにより、1つの誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を生成する。この誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]の各成分が0になるような設計変数が探索される。
【0038】
具体的には、最適化装置100は、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分に対する誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]の各成分の勾配を計算する。この勾配を利用して設計変数ベクトルの各成分を修正することにより、誤差ベクトルの各成分が0となるような設計変数ベクトルを得ることができる。
【0039】
上述のような処理を実行した場合、第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]と第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]との双方の各成分が小さくなるように設計変数が修正されるため、より適切な設計変数が得られる。
【0040】
以下、具体的に説明する。
【0041】
データ受付部10は、各種データを受け付ける。具体的には、データ受付部10は、設計対象の建物の解析モデルに関するデータ、設計対象の建物の仕様を表す建物データ、当該解析モデルに対する応答解析を実行するための模擬地震動データ、及び設計対象の建物の各階の最大層間変形角の目標値を各成分として持つ目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]等を受け付ける。これらのデータは、ユーザによって予め設定される。
【0042】
コンピュータ20は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。コンピュータ20は、
図4に示されるように、CPU51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ20は、入出力装置等(図示省略)であるデータ受付部10及び出力部40が接続される入出力interface(I/F)54、及び記録媒体59に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータ20は、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0043】
記憶部53は、Hard Disk Drive(HDD)、Solid State Drive(SSD)、フラッシュメモリ等によって実現できる。記憶媒体としての記憶部53には、コンピュータを機能させるためのプログラムが記憶されている。CPU51は、プログラムを記憶部53から読み出してメモリ52に展開し、プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0044】
コンピュータ20は、
図1に示されるように、機能的には、データ記憶部21と、設計変数ベクトル設定部22と、パラメータベクトル設定部24と、解析モデル設定部26と、応答解析部28と、誤差ベクトル計算部30と、勾配計算部32と、修正部34と、判定部36と、結果取得部38とを備えている。
【0045】
データ記憶部21には、データ受付部10によって受け付けられた、各種データが格納される。具体的には、データ記憶部21には、設計対象の建物を表す建物データ、設計対象の建物の応答解析を実行するための解析モデルに関するデータ、当該解析モデルに対する応答解析を実行するための模擬地震動データ、及び目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]等が格納される。
【0046】
設計変数ベクトル設定部22は、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]を設定する。
【0047】
パラメータベクトル設定部24は、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分を整数化し、整数化された設計変数を各成分として持つ第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を設定する。また、パラメータベクトル設定部24は、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]を、そのまま第2パラメータベクトル[X2-1,X2-2,X2-3,X2-4]として設定する。
【0048】
解析モデル設定部26は、第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]の各成分をパラメータとして備える第1解析モデルを設定する。また、解析モデル設定部26は、第2パラメータベクトル[X2-1,X2-2,X2-3,X2-4]の各成分をパラメータとして備える第2解析モデルを設定する。
【0049】
応答解析部28は、データ記憶部21に格納されている建物データ及び模擬地震動データと、解析モデル設定部26によって設定された第1解析モデル及び第2解析モデルとに基づいて、設計対象の建物に対する所定の応答解析処理を実行する。
【0050】
具体的には、応答解析部28は、対象となる入力データの一例である建物データ及び模擬地震動データと第1解析モデルとに基づいて応答解析処理を実行し、第1解析モデルによる応答解析処理の結果を取得する。
【0051】
また、応答解析部28は、建物データ及び模擬地震動データと第2解析モデルとに基づいて応答解析処理を実行し、第2解析モデルによる解析処理の結果を取得する。
【0052】
誤差ベクトル計算部30は、応答解析部28によって得られた第1解析モデルによる応答解析処理の結果から、模擬地震動データに対応する地震が発生した際の建物の各階の最大層間変形角を各成分として持つ第1出力データベクトル[Y1-1,Y1-2,Y1-3,Y1-4]を取得する。そして、誤差ベクトル計算部30は、第1出力データベクトル[Y1-1,Y1-2,Y1-3,Y1-4]と、データ記憶部21に格納されている目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との差を表す第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]を計算する。
【0053】
また、誤差ベクトル計算部30は、応答解析部28によって得られた第2解析モデルによる応答解析処理の結果から、模擬地震動データに対応する地震が発生した際の建物の各階の最大層間変形角を各成分として持つ第2出力データベクトル[Y2-1,Y2-2,Y2-3,Y2-4]を取得する。そして、誤差ベクトル計算部30は、第2出力データベクトル[Y2-1,Y2-2,Y2-3,Y2-4]と、データ記憶部21に格納されている目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との差を表す第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を計算する。
【0054】
そして、誤差ベクトル計算部30は、第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]と第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]とを結合させた誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を設定する。
【0055】
勾配計算部32は、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分に対する誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]の各成分の勾配を計算する。なお、この勾配は(誤差ベクトルの成分の変化量)/(設計変数ベクトルの成分の変化量)によって算出され、誤差を設計変数で微分したものに相当する。
【0056】
修正部34は、勾配計算部32によって計算された勾配と誤差ベクトルとに基づいて、設計変数ベクトルの各成分の修正量を計算する。例えば、修正部34は、誤差ベクトルに勾配マトリクスの逆マトリクスを乗じて求められたベクトルを、各成分に対する修正量とする。または、修正部34は、勾配マトリクスの主方向を表す勾配ベクトルの値そのものを、各成分に対する修正量とする。
【0057】
そして、修正部34は、計算された修正量に基づいて、設計変数ベクトルの各成分である設計変数を修正する。例えば、修正部34は、設計変数ベクトルの各成分に対して、各成分の修正量をそのまま加算するなどして、設計変数ベクトルの各成分である設計変数を修正する。
【0058】
なお、誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされるまで、第1パラメータベクトルの設定、第2パラメータベクトルの設定、第1解析モデルの設定、第2解析モデルの設定、第1誤差ベクトルの計算、第2誤差ベクトルの計算、誤差ベクトルの設定、勾配の計算、修正量の計算、及び設計変数ベクトルの各成分の修正が繰り返される。
【0059】
誤差ベクトルに関連する所定条件としては、例えば、修正回数が所定回数に達したか、誤差ベクトルの各成分の値が所定閾値未満となったか、又は誤差ベクトルのノルムが所定閾値未満となったか等が採用される。
【0060】
ここで、誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]には、そのパラメータが整数化されている第1解析モデルの解析結果から得られた第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]のみならず、パラメータが実数である第2解析モデルの解析結果から得られた第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]も含まれている。本実施形態では、これら2種類の誤差が小さくなるように設計変数の修正がなされる。そのため、第1解析モデル及び第2解析モデルの何れか一方のみの解析結果を利用する場合に比べ、より適切な設計変数が結果として得られる。
【0061】
判定部36は、誤差ベクトルが、誤差ベクトルに関連する所定条件を満たしたか否かを判定する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされている場合には、設計変数の修正は終了する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされていない場合には、設計変数の修正が繰り返される。
【0062】
結果取得部38は、設計変数を修正することにより得られた第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を結果として出力する。
【0063】
出力部40は、結果取得部38によって出力された第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を結果として出力する。第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]の各成分は、設計対象の建物の各階のダンパーの台数である。例えば、出力部40は、ディスプレイによって実現される。
【0064】
<最適化装置100の作用>
【0065】
次に、最適化装置100の作用を説明する。最適化装置100のデータ受付部10が、設計対象の建物の解析モデルに関するデータ、当該解析モデルに対する応答解析を実行するための模擬地震動データ、及び目標値ベクトル[T
1,T
2,T
3,T
4]等の入力を受け付けると、データ記憶部21へ格納する。そして、最適化装置100のコンピュータ20は、処理実行の指示信号を受け付けると、
図5に示す最適化処理ルーチンを実行する。
【0066】
ステップS100において、設計変数ベクトル設定部22は、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の初期値を設定する。
【0067】
ステップS102において、パラメータベクトル設定部24は、ステップS100又は後述するステップS118で得られた設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分を整数化し、整数化された設計変数を各成分として持つ第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を設定する。
【0068】
また、ステップS102において、パラメータベクトル設定部24は、ステップS100又は後述するステップS118で得られた設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]を、そのまま第2パラメータベクトル[X2-1,X2-2,X2-3,X2-4]として設定する。
【0069】
ステップS104において、解析モデル設定部26は、ステップS102で設定された第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]の各成分をパラメータとして備える第1解析モデルを設定する。また、ステップS104において、解析モデル設定部26は、ステップS102で設定された第2パラメータベクトル[X2-1,X2-2,X2-3,X2-4]の各成分をパラメータとして備える第2解析モデルを設定する。
【0070】
ステップS106において、応答解析部28は、建物データ及び模擬地震動データをデータ記憶部21から読み出し、建物データ及び模擬地震動データとステップS104で設定された第1解析モデルとに基づいて、設計対象の建物の応答解析処理を実行し、第1解析モデルによる応答解析処理の結果を取得する。また、ステップS106において、応答解析部28は、建物データ及び模擬地震動データとステップS104で設定された第2解析モデルとに基づいて、設計対象の建物の応答解析処理を実行し、第2解析モデルによる解析処理の結果を取得する。
【0071】
ステップS108において、誤差ベクトル計算部30は、ステップS106で得られた第1解析モデルによる応答解析処理の結果のうちの第1出力データベクトル[Y1-1,Y1-2,Y1-3,Y1-4]と、データ記憶部21に格納されている目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との差を表す第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]を計算する。また、ステップS108において、誤差ベクトル計算部30は、ステップS106で得られた第2解析モデルによる応答解析処理の結果のうちの第2出力データベクトル[Y2-1,Y2-2,Y2-3,Y2-4]と、データ記憶部21に格納されている目標値ベクトル[T1,T2,T3,T4]との差を表す第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を計算する。
【0072】
ステップS110において、誤差ベクトル計算部30は、ステップS108で得られた、第1誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4]と第2誤差ベクトル[R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]とを結合させた誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]を設定する。
【0073】
ステップS112において、判定部36は、ステップS110で設定された誤差ベクトルが、誤差ベクトルに関連する所定条件を満たしたか否かを判定する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされている場合には、ステップS120へ進む。一方、誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされていない場合にはステップS114へ進み、設計変数の修正が繰り返される。
【0074】
ステップS114において、勾配計算部32は、ステップS110で得られた誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]の各成分又はノルム等が小さくなるような、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分に対する誤差ベクトル[R1-1,R1-2,R1-3,R1-4,R2-1,R2-2,R2-3,R2-4]の各成分の勾配を計算する。
【0075】
ステップS116において、修正部34は、ステップS114で計算された勾配に基づいて、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分に対する修正量を計算する。
【0076】
ステップS118において、修正部34は、ステップS116で計算された修正量に基づいて、設計変数ベクトル[X1,X2,X3,X4]の各成分である設計変数を修正する。
【0077】
ステップS120において、結果取得部38は、前回のステップS118で設計変数を修正することにより得られた第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を結果として出力する。
【0078】
出力部40は、結果取得部38によって取得された第1パラメータベクトル[X1-1,X1-2,X1-3,X1-4]を結果として出力する。
【0079】
以上詳細に説明したように、本実施形態の最適化装置は、連続変数である設計変数を各成分として持つ設計変数ベクトルを設定する。最適化装置は、設計変数ベクトルの各成分を整数化し、整数化された設計変数を各成分として持つ第1パラメータベクトルを設定する。最適化装置は、設計変数ベクトルを第2パラメータベクトルとして設定し、第1パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第1解析モデルを設定する。最適化装置は、第2パラメータベクトルの各成分をパラメータとして備える第2解析モデルを設定する。最適化装置は、対象となる入力データと第1解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、第1解析モデルによる解析処理の結果である第1出力データベクトルと目標値ベクトルとの差を表す第1誤差ベクトルを計算する。最適化装置は、入力データと第2解析モデルとに基づいて所定の解析処理を実行し、第2解析モデルによる解析処理の結果である第2出力データベクトルと目標値ベクトルとの差を表す第2誤差ベクトルを計算する。最適化装置は、第1誤差ベクトルと第2誤差ベクトルとを結合させた誤差ベクトルを設定し、設計変数ベクトルの各成分に対する誤差ベクトルの各成分の勾配を計算する。最適化装置は、勾配と誤差ベクトルとに基づいて、誤差ベクトルが小さくなるような、設計変数ベクトルの各成分に対する修正量を計算する。最適化装置は、修正量に基づいて、設計変数ベクトルの各成分である設計変数を修正する。最適化装置は、誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされるまで、第1パラメータベクトルの設定、第2パラメータベクトルの設定、第1解析モデルの設定、第2解析モデルの設定、第1誤差ベクトルの計算、第2誤差ベクトルの計算、誤差ベクトルの設定、勾配の計算、修正量の計算、設計変数ベクトルの各成分の修正を繰り返す。最適化装置は、所定条件が満たされた場合、設計変数を整数化して作成された第1パラメータベクトルを結果として出力する。これにより、整数である設計変数の最適解を探索する最適化問題を解く際に、勾配法による最適解の探索の実施を可能とすることにより、整数である設計変数の最適解を効率的に探索することができる。
【0080】
具体的には、本実施形態の最適化装置によれば、整数などの不連続な設計変数を探索する最適化問題に対しても勾配法によって効率的な探索が可能となる。
【0081】
また、設計変数を設計対象の建物の各階に設置されるダンパーの数とし、入力データを設計対象の建物を表す建物データ及び模擬地震動データとし、第1出力データベクトル、第2出力データベクトル、及び目標値ベクトルの各成分は、地震動に対する最大層間変形角である変数とすることにより、設計対象の建物の各階のダンパーの数を効率的に決定することができる。
【0082】
<シミュレーション実験>
【0083】
次に、例題を設定し、その例題のシミュレーション実験を行うことにより、本実施形態による最適化方法の効果を確認した。
【0084】
本シミュレーション実験では、制振ダンパーの本数を最適化する問題を例題とした。
図6にシミュレーシ実験の概要を説明するための図を示す。
【0085】
図6(A)は、対象とする建物の解析モデルである。
図6(A)に示されるように、解析モデルによって表される建物は、丸印を表す質点と丸印を結ぶ線を表す等価せん断ばねとをモデル化した地上17階の鉄骨造建物とする。建物は弾塑性を考慮し、建物の減衰は初期剛性比例型で2%とする。
【0086】
また、
図6(A)に示されるように、建物の下層4層にはオイルダンパーが設置されるものとする。オイルダンパーは、ばねとダンパーとを直列に配置した既知のMaxwellモデルを用いて取付け剛性を考慮する。
【0087】
図6(B)は、オイルダンパーの非線形特性を表すグラフである。
図6(B)に示されるように、オイルダンパーの速度と減衰との間の特性を表す非線形特性はバイリニア型であり、
図6(B)に示されるグラフ中のFr,C1,C2に関しては、建物の各階に設置されるダンパー台数に応じた値が入力される。
【0088】
図7に、建物に入力される入力地震動のグラフを示す。本シミュレーション実験では、
図7に示される6つのレベルの入力地震動を採用した。
図7に示される「El CENTRO 1940 NS」は「1940年のImperial Valley地震においてEl Centroで観測されたNS成分の地震動を最大速度50cm/sとなるように係数倍した地震動」を表し、「TAFT 1952 EW」は「1952年のKern County地震においてTaftで観測されたEW成分の地震動を最大速度50cm/sとなるように係数倍した地震動」を表し、「HACHINOHE 1968NS」は「1968年の十勝沖地震において八戸港湾で観測されたNS成分の地震動を最大速度50cm/sとなるように係数倍した地震動」を表し、「告示波A(乱数位相)」は「建設省告示1461号の極希スペクトルに適合し、乱数位相特性を持つ地震動」を表し、「告示波B(八戸位相)」は「建設省告示1461号の極希スペクトルに適合し、1968年の十勝沖地震において八戸港湾で観測されたNS成分の位相特性を持つ地震動」を表し、「告示波C(神戸位相)」は「建設省告示1461号の極希スペクトルに適合し、1995年の兵庫県南部地震において神戸海洋気象台で観測されたNS成分の位相特性を持つ地震動」を表す。
【0089】
図7に示される6つの入力地震動が建物に対して入力された際に、建物の最大層間変形角が1/100になるような、建物下層の4層に設定するオイルダンパーの台数を提案手法によって探索した。
【0090】
表2に、シミュレーション実験の結果を示す。探索されたダンパーの台数は、建物の下層から6台、5台、5台、4台と整数の台数が探索され、かつ、最大層間変形角は1/100を満足していることが確認できる。
【0091】
また、表2には、比較のため、パラメータが整数である離散化モデルを用いた場合の探索結果と、パラメータが実数である実数化モデルを用いた場合の探索結果とが示されている。
【0092】
表2に示されるように、離散化モデルを用いた場合には、微分(勾配)を計算することができないため、ダンパーの台数の探索が進まず、ダンパーの台数を探索することができなかった。
【0093】
一方、表2に示されるように、実数化モデルを用いた場合には、最大層間変形角1/100は満たしているものの、自然数であるべきダンパーの台数が小数となってしまっている。また、小数によって表されるダンパーの台数を四捨五入等で整数換算した場合には、本提案手法による結果よりも多い22台となってしまう。さらに、四捨五入等による整数換算の影響により、最大層間変形角が異なる値になってしまう。
【0094】
【0095】
以上のことから、本実施形態の提案手法の効果を確認することができた。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0097】
例えば、上記実施形態において説明された最適化問題は、設計対象の建物の各階の最大層間変形角が目標値となるような、建物の各階に設置されるダンパーの数を求めることである場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。本実施形態の最適化装置及び最適化方法は、設計変数が離散変数であるようなものであれば、どのような問題に対しても適用可能である。
【0098】
また、上記ではプログラムが記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体の何れかに記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 データ受付部
20 コンピュータ
21 データ記憶部
22 設計変数ベクトル設定部
24 パラメータベクトル設定部
26 解析モデル設定部
28 応答解析部
30 誤差ベクトル計算部
32 勾配計算部
34 修正部
36 判定部
38 結果取得部
40 出力部
100 最適化装置