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特開2024-30188女性のうつ症状を改善するための医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030188
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】女性のうつ症状を改善するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/475 20060101AFI20240229BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K31/475
A61P25/24
A61K31/4164
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132812
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】室井 喜景
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086CB05
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】女性のうつ症状を改善するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する医薬組成物は、月経前、周産期、又は更年期の女性のうつ症状を改善するために好ましく用いることができる。本発明におけるヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩は、副作用のおそれのない低用量で使用されるので、うつ症状を改善するための安全性の高い医薬として利用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、女性のうつ症状を改善するための医薬組成物。
【請求項2】
月経前、周産期、又は更年期の女性のうつ症状を改善するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
産後の女性のうつ症状を改善するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1日当たり0.8~80μg/kg体重のヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩が投与されるように用いられる、ヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
1日当たり0.8~80μg/kg体重のアチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩が投与されるように用いられる、アチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨヒンビン、アチパメゾール、及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、女性のうつ症状を改善するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、気分の落ち込みや意欲、喜びの喪失を特徴とする精神疾患である。現状、抗うつ薬としては主にセロトニン又はノルアドレナリンの再取り込み阻害薬が使用されているが、薬効が得られるまでに長期間を要すること、副作用があること等の課題がある。
【0003】
うつ病は、男性よりも女性の罹患率が高く、周産期の女性で罹患率はより増加する。例えば、産後の女性は7~10人に一人がうつ病を発症するとされている。しかしながら、妊娠予定のある女性、妊娠中又は授乳中の女性は胎児や乳児への悪影響の懸念から、抗うつ薬の使用を躊躇する場合が多い。
【0004】
うつ病の発症メカニズムの詳細は明らかになっていないが、ノルアドレナリン作動性神経伝達の障害が原因の一つとして推測されている。α2アドレナリン受容体はノルアドレナリン系を制御する重要因子として注目され、様々な研究が進められているが、うつ病への関与については相反する報告がなされており、未だ明確な結論は出されていない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C Cottingham, et al., Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 2012, 36(10):2214-2225. DOI:10.1016/j.neubiorev.2012.07.011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、女性に対して安全性の高い抗うつ薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ヨヒンビン及びアチパメゾールが、低用量で、女性特異的な抗うつ作用を示すことを見いだした。
【0008】
項1. ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、女性のうつ症状を改善するための医薬組成物。
項2. 月経前、周産期、又は更年期の女性のうつ症状を改善するための、項1に記載の医薬組成物。
項3. 産後の女性のうつ症状を改善するための、項1に記載の医薬組成物。
項4. 1日当たり0.8~80μg/kg体重のヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩が投与されるように用いられる、ヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩を含有する、項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
項5. 1日当たり0.8~80μg/kg体重のアチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩が投与されるように用いられる、アチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩を含有する、項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明において用いられるヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩は、副作用のおそれのない低用量で使用されるので、うつ症状を改善するための安全性の高い医薬として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヨヒンビン、アチパメゾール又はデシプラミンを投与した正常マウス(産後雌)の強制水泳試験の結果を示すグラフである。
図2】ヨヒンビン又はアチパメゾールを投与した正常マウス(産後雌、未経産雌、雄)の強制水泳試験の結果を示すグラフである。
図3】ヨヒンビン又はアチパメゾールを投与したLPS誘発うつ病モデルマウス(産後雌、未経産雌、雄)の強制水泳試験の結果を示すグラフである。
図4】ヨヒンビン又はアチパメゾールを投与したLPS誘発うつ病モデルマウス(産後雌、未経産雌、雄)の強制水泳試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0012】
ヨヒンビン及びアチパメゾールはα2アドレナリン受容体に対する拮抗作用を有する化合物であり、動物においてキシラジン又は塩酸メデトミジン等の鎮静薬による鎮静状態からの回復のために用いることができる。アチパメゾールは、動物用医薬品として利用されている。ヨヒンビンについて、うつ病の治療に用いようとする試みはあるが、十分な有効性が確認できない一方で血圧上昇及び不安の増加といった副作用が発生したと報告されている(G R Heninger, et al., Archives of General Psychiatry, 1988, 45(8):718-26. doi: 10.1001/archpsyc.1988.01800320028003.)。
【0013】
ヨヒンビンは、式(I)に示される構造を有する(IUPAC名:methyl (1S,15R,18S,19R,20S)-18-hydroxy-1,3,11,12,14,15,16,17,18,19,20,21-dodecahydroyohimban-19-carboxylate、CAS登録番号:146-48-5)。
【化1】
【0014】
アチパメゾールは、式(II)に示される構造を有する(IUPAC名:5-(2-ethyl-1,3-dihydroinden-2-yl)-1H-imidazole、CAS登録番号:104054-27-5)。
【化2】
【0015】
本発明において、薬学的に許容されるヨヒンビンの塩、及び薬学的に許容されるアチパメゾールの塩は、それぞれ酸付加塩又は塩基付加塩であり得る。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。さらに、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩基性あるいは酸性アミノ酸といったアミノ酸塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、好ましくは、塩酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩であり得る。
【0016】
本発明において、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩は、水和物又は溶媒和物の形態であってもよい。本発明においては、遊離形態又は薬学的に許容される塩の形態のヨヒンビン又はアチパメゾールを、また同様にそれらの水和物又は溶媒和物を利用することができる。
【0017】
ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩は、公知の化学合成法により製造してもよく、又は医薬品として販売されているものを入手して使用してもよい。
【0018】
うつ病は、気分障害の一つであり、日常生活に大きな支障をきたす精神疾患である。また、抑うつ状態は、うつ病の診断には至らないものの、うつ病のいくつかの症状が持続している状態をいう。うつ病及び抑うつ状態では、抑うつ気分、意欲低下、注意・集中力の低下、無価値感・罪業感、不安・焦燥感、希死念慮等の精神的症状、さらには睡眠障害、食欲異常、倦怠感、疲労感、めまい、頭痛、吐き気等の身体的症状を包含するうつ症状が出現する。
【0019】
米国精神医学会DSM-5の診断基準によると、「気持ちが落ち込む」及び「物事に関心がない、あるいは楽しめない」を基本症状とし、さらに「集中力や注意力が衰えている」、「人生の敗北者だと悩む、家族に申し訳ないと感じる」、「自分を責めたくなったり、自分には価値がないと思ってしまう」、「将来に対して悲観的な見方をしてしまう」、「自分の体を傷つけたり、死んだほうがいいと思ってしまう」、「寝られない、睡眠中に目が覚める」、「食欲がない」という項目のうちの5つ以上に該当する状態が一定期間続く場合は「うつ病」、基本症状に加えて上記項目のうちの4つ以下に該当する場合は「抑うつ状態」とされている。
【0020】
また、女性は男性よりうつ病にかかりやすい傾向にあり、月経、妊娠、出産、閉経等のライフサイクルに伴う女性ホルモンの急激な変化だけでなく、結婚、育児、介護等のライフイベントによる環境や役割の変化が女性のうつ病罹患率の高さに寄与していると考えられている。
【0021】
女性特有のうつ病として、月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder; PMDD)、周産期うつ病(妊娠中のうつ病、産後うつ病)、更年期うつ病が挙げられ、これらはいずれも前述のうつ症状を伴う。また、うつ病以外にも、月経前症候群(Premenstrual Syndrome、PMS)やいわゆるマタニティブルーなどの女性特有の状態においても、しばしばうつ症状が観察される。
【0022】
本発明は、一態様において、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、女性のうつ症状を改善するための医薬組成物を提供する。
【0023】
本明細書において、「ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する」とは、ヨヒンビン、薬学的に許容されるヨヒンビンの塩、アチパメゾール、及び薬学的に許容されるアチパメゾールの塩よりなる群から選択される化合物を1種以上含有することを意味する。
【0024】
本明細書において、「うつ症状を改善する」とは、うつ症状の進行を抑制する又は遅延させること、うつ症状を軽減すること、うつ症状を消失させること、及び新たなうつ症状の出現を抑制することを包含する。
【0025】
ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩は、女性に対して低用量で抗うつ作用を発揮する。したがって、医薬組成物は、1又は複数のうつ症状を有する女性に対して、例えば1又は複数のうつ症状を有する月経前、周産期、又は更年期の女性に対して用いることができる。
【0026】
医薬組成物は、女性が有するうつ症状のうちの少なくとも1つを改善することができる。改善されるうつ症状の例としては、上で精神的症状及び身体的症状として例示した抑うつ気分、意欲低下、注意・集中力の低下、無価値感・罪業感、不安・焦燥感、希死念慮、睡眠障害、食欲異常、倦怠感、疲労感、めまい、頭痛、吐き気等が挙げられる。
【0027】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、月経前不快気分障害、周産期うつ病、更年期うつ病、月経前症候群、及びマタニティブルーよりなる群から選択されるうつ病又は抑うつ状態の治療のために用いることができる。ここで「治療」は、疾患又は状態の治癒、一時的寛解、改善等を目的とする全てのタイプの医学的介入を包含する。
【0028】
医薬組成物は、うつ症状の改善のために有効な量のヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。ここで有効量は、対象の年齢、性別、体重、うつ症状のタイプ及び程度、剤形、投与経路その他の要因に応じて適宜決定することができる。
【0029】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、ヒトの女性に対する1日当たりの投与量が0.8~80μg/kg体重となるように調節された量のヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩を含有する。ヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩の1日当たりの投与量は、0.8μg/kg体重以上、1μg/kg体重以上、1.5μg/kg体重以上、2μg/kg体重以上、3μg/kg体重以上、4μg/kg体重以上、5μg/kg体重以上、8μg/kg体重以上、10μg/kg体重以上、15μg/kg体重以上、20μg/kg体重以上であり得て、また80μg/kg体重以下、50μg/kg体重以下、40μg/kg体重以下、30μg/kg体重以下、20μg/kg体重以下、15μg/kg体重以下、10μg/kg体重以下、8μg/kg体重以下、6μg/kg体重以下、4μg/kg体重以下、3μg/kg体重以下であり得る。
【0030】
ヨヒンビン又は薬学的に許容されるその塩の1日当たりの投与量は、例えば、0.8~8μg/kg体重又は8~80μg/kg体重であり、好ましくは0.8~8μg/kg体重である。
【0031】
別の好ましい実施形態において、医薬組成物は、ヒトの女性に対する1日当たりの投与量が0.8~80μg/kg体重となるように調節された量のアチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩を含有する。アチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩の1日当たりの投与量は、0.8μg/kg体重以上、1μg/kg体重以上、1.5μg/kg体重以上、2μg/kg体重以上、3μg/kg体重以上、4μg/kg体重以上、5μg/kg体重以上、8μg/kg体重以上、10μg/kg体重以上、15μg/kg体重以上、20μg/kg体重以上であり得て、また80μg/kg体重以下、50μg/kg体重以下、40μg/kg体重以下、30μg/kg体重以下、20μg/kg体重以下、15μg/kg体重以下、10μg/kg体重以下、8μg/kg体重以下、6μg/kg体重以下、4μg/kg体重以下、3μg/kg体重以下であり得る。
【0032】
アチパメゾール又は薬学的に許容されるその塩の1日当たりの投与量は、例えば、0.8~8μg/kg体重又は8~80μg/kg体重であり、好ましくは8~80μg/kg体重である。
【0033】
医薬組成物は、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(有効成分)と、薬学的に許容される他の成分とを含有する。薬学的に許容される他の成分としては、上記有効成分以外の薬物、例えば抗うつ薬等;添加剤、例えば緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤等を挙げることができる。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で適宜選択して使用することができる。
【0034】
医薬組成物の形態は任意であるが、経口剤(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤等)及び非経口製剤(注射剤、点滴剤、外用剤等)の形態を好ましい例として挙げることができる。
【0035】
医薬組成物の投与方法は、特に制限されないが、非経口製剤である場合は、例えば血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与等を挙げることができる。
【0036】
本発明は、別の一態様において、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、その必要がある対象に投与することを含む、女性のうつ症状を改善する方法を提供する。本発明は、また別の一態様において、女性のうつ症状を改善するための、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物の使用を提供する。本発明は、さらなる別の一態様において、女性のうつ症状を改善するための医薬組成物の製造のための、ヨヒンビン、アチパメゾール及び薬学的に許容されるそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物の使用を提供する。これらの態様における各用語の意義及び好ましい実施形態については、先に説明したとおりである。
【0037】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0038】
以下の実施例では、ヨヒンビン及びアチパメゾールの抗うつ作用を、強制水泳試験によって評価した。
【0039】
材料及び方法
[試験物質]
ヨヒンビン塩酸塩とアチパメゾール塩酸塩は富士フイルム和光純薬から、抗うつ薬のデシプラミン塩酸塩はSigma-Aldrichから購入し、いずれも生理食塩水に溶解して使用した。LPS(Escherichia coli (O127:B8))はSigma-Aldrichから購入し、生理食塩水に溶解して使用した。
【0040】
[強制水泳試験]
強制水泳試験(Forced Swim Test; FST)は、水を溜めた水槽に投入された動物が水槽から逃げ出そうとしてもがき、泳ぎ回り、やがて水面から鼻先だけを出して水に浮いたままの無動状態(immobolity)に至ることを利用し、無動時間(immobility time)をうつ様症状の指標とする方法である。一般に、試験物質を投与した動物の無動時間が短縮された場合に、その試験物質は抗うつ作用を有すると判定される。
【0041】
本実施例において、強制水泳試験は、26 ± 0.5 ℃の水を深さ18 cmまで満たしたアクリル製シリンダー(直径18 cm、高さ27.5 cm)内にマウスを投入した後7分間の時間における無動時間を測定した。
【0042】
[統計処理]
一元配置分散分析に続き、多重検定としてtukey HSD検定を行った。
【0043】
実施例1.正常マウスの抑うつ様行動に対する効果
(1)試験1-1
雄性、未経産雌性、及び産後3~4日で仔育て中の経産雌性マウス(C57BL/6J、12~15週齢)に、Vehicle(生理食塩水;図中、Salとも表す)、0.03、0.3又は3 mg/kg体重のヨヒンビン塩酸塩(図中、Yohimとも表す)、0.03、0.3又は3 mg/kg体重のアチパメゾール塩酸塩(図中、Atipaとも表す)、あるいは抗うつ薬のデシプラミン(図中、Desiとも表す)を腹腔内投与した。投与から30分経過した後、強制水泳試験に供した。
【0044】
経産雌性マウスに対する強制水泳試験の結果を図1に示す。0.03 mg/kgのヨヒンビン及び0.3 mg/kgのアチパメゾールは、マウスの無動時間を有意に短縮した。これらの効果は、3 mg/kg投与群では消失又は減弱していた。
【0045】
(2)試験1-2
雄性、未経産雌性、及び産後3~4日で仔育て中の経産雌性マウス(C57BL/6J、12~15週齢)に、Vehicle(生理食塩水)、0.003又は0.03 mg/kg体重のヨヒンビン塩酸塩、0.03又は0.3 mg/kg体重のアチパメゾール塩酸塩を腹腔内投与した。投与から30分経過した後、マウスを強制水泳試験に供した。
【0046】
強制水泳試験の結果を図2に示す。0.03 mg/kgのヨヒンビン及び0.3 mg/kgのアチパメゾールは、経産雌性マウスのみで無動時間を有意に短縮した。
【0047】
実施例2.LPS誘発うつ病モデルの抑うつ様行動に対する効果
(1)試験2-1
雄性、未経産雌性、及び産後3~4日で仔育て中の経産雌性マウス(BALB/c、12~15週齢)に、0.5 mg/kgのLPSを腹腔内投与し、LPS誘発うつ病モデルを作製した。LPS投与から24時間後、Vehicle(生理食塩水)、0.03 mg/kg体重のヨヒンビン塩酸塩、0.03又は0.3 mg/kg体重のアチパメゾール塩酸塩を腹腔内投与した。投与から30分経過した後、マウスを強制水泳試験に供した。
【0048】
強制水泳試験の結果を図3に示す。0.03 mg/kgのヨヒンビン及び0.03 mg/kgのアチパメゾールは、雌性マウス(経産、未経産とも)の無動時間を有意に短縮した。雄性マウスでは、ヨヒンビン又はアチパメゾールの投与による無動時間への影響は認められなかった。
【0049】
(2)試験2-2
雄性、未経産雌性、及び産後3~4日で仔育て中の経産雌性マウス(BALB/c、12~15週齢)に、0.5 mg/kgのLPSを腹腔内投与し、LPS誘発うつ病モデルを作製した。LPS投与から24時間後、Vehicle(生理食塩水)、0.003又は0.03 mg/kg体重のヨヒンビン塩酸塩、0.03又は0.3 mg/kg体重のアチパメゾール塩酸塩を腹腔内投与した。投与から30分経過した後、マウスを強制水泳試験に供した。
【0050】
強制水泳試験の結果を図4に示す。0.03 mg/kgのヨヒンビン及び0.3 mg/kgのアチパメゾールは、雌性マウス(経産、未経産とも)の無動時間を有意に短縮した。雄性マウスでは、ヨヒンビン又はアチパメゾールの投与による無動時間への影響は認められなかった。
【0051】
以上の実施例から、0.03 mg/kg体重のヨヒンビン、及び0.03~0.3 mg/kg体重のアチパメゾールは、雌性マウスに特異的な抗うつ作用を有することが確認され、また0.3 mg/kg体重のヨヒンビンについても同様の傾向が認められた。なお、体表面積を用いてヒト等価用量(Human Equivalent Dose; HED)に換算すると(B Anroop et al., Journal of Basic and Clinical Pharmacy, 2016, 7(2): 27-31. doi: 10.4103/0976-0105.177703.)、マウスにおける投与量0.03 mg/kg体重はヒトでは2.4μg/kg体重、マウスにおける投与量0.3 mg/kg体重はヒトでは24μg/kg体重となる。
【0052】
ヨヒンビン及びアチパメゾールが従来の用途、例えば鎮静薬による鎮静状態からの回復促進用途に用いられるときのマウスでの一般的な投与量は1~10 mg/kg体重であることから、本実施例において抗うつ作用が確認された投与量は極めて低用量であり、副作用の懸念が少ないものと期待される。
図1
図2
図3
図4