(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030199
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】燃料供給システム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20240229BHJP
F02D 19/12 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F02D19/08 Z
F02D19/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132847
(22)【出願日】2022-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】任介 幸司
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA04
3G092AA06
3G092AB17
3G092AB19
3G092BA04
3G092BB06
3G092DE14S
3G092FA24
3G092HA01Z
3G092HB01X
3G092HB05X
3G092HF01Z
3G092HF04Z
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の排出を抑制できる燃料供給システムを提供する。
【解決手段】
燃料供給システム1は、第1タンク11と、第2タンク12と、燃料タンク14と、インジェクタ15とを備える。第1タンク11は、アザン水を貯蔵する。アザン水は、アザンと水との混合物である。第2タンクは、水を貯蔵する。燃料タンク14は、液体燃料を貯蔵する。液体燃料は、第1タンク11から供給されるアザン水と、第2タンク12から供給される水とが混合されることにより調製される。インジェクタ15は、燃料タンク14内の液体燃料を内燃機関101の燃焼室Cに噴射する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に液体燃料を供給するための燃料供給システムであって、
アザンと水との混合物であって、アザンの濃度が第1濃度であるアザン水を貯蔵する第1タンクと、
水を貯蔵する第2タンクと、
前記第1タンクから供給される前記アザン水と、前記第2タンクから供給される水とが混合されることにより調製された液体燃料であって、アザンの濃度が第1濃度以下の第2濃度である前記液体燃料を貯蔵する燃料タンクと、
前記燃料タンク内の前記液体燃料を前記内燃機関の燃焼室に噴射するインジェクタと
を備える、燃料供給システム。
【請求項2】
過酸化水素水を貯蔵する第3タンクをさらに備え、
前記第3タンク内の過酸化水素水を前記燃料タンクに供給可能である、請求項1に記載の燃料供給システム。
【請求項3】
1つの燃焼サイクルにおいて前記燃焼室内に供給された前記液体燃料中の全てのアザンを燃焼させるために必要な空気の質量である必要空気量に対する1つの燃焼サイクルにおいて前記燃焼室内に吸入される空気の質量である吸入空気量の割合が1以上である場合、前記第3タンク内の過酸化水素は、前記燃料タンクに供給されず、
前記必要空気量に対する前記吸入空気量の割合が1未満である場合、前記第3タンク内の過酸化水素が前記燃料タンクに供給される、請求項2に記載の燃料供給システム。
【請求項4】
前記内燃機関からの排気ガス中の水蒸気を凝縮させて水を生成し、前記排気ガスを、水と、窒素ガスを含有するガス成分とに分離する分離装置を、さらに備え、
前記分離装置によって前記排気ガスから分離された水は、前記第2タンクに供給される、請求項1に記載の燃料供給システム。
【請求項5】
前記分離装置から前記第1タンクに前記ガス成分を送るポンプをさらに備え、
前記第1タンク内の前記アザン水は、前記分離装置から前記第1タンクに供給された前記ガス成分により加圧される、請求項4に記載の燃料供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料としてガソリンやアルコールを燃焼させる内燃機関が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような内燃機関では、二酸化炭素の排出を抑制することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、二酸化炭素の排出を抑制できる燃料供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、内燃機関に液体燃料を供給するための燃料供給システムであって、アザンと水との混合物であって、アザンの濃度が第1濃度であるアザン水を貯蔵する第1タンクと、水を貯蔵する第2タンクと、前記第1タンクから供給される前記アザン水と、前記第2タンクから供給される水とが混合されることにより調製された液体燃料であって、アザンの濃度が第1濃度以下の第2濃度である前記液体燃料を貯蔵する燃料タンクと、前記燃料タンク内の前記液体燃料を前記内燃機関の燃焼室に噴射するインジェクタとを備える、燃料供給システムを含む。
【0007】
このような構成によれば、液体燃料が炭素原子を含有する燃料成分を含有しないので、液体燃料中の燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。
【0008】
その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0009】
さらに、燃料成分がアザンであるため、燃料成分が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。
【0010】
そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0011】
さらに、第1タンクから供給されるアザン水と、第2タンクから供給される水とを混合することにより、内燃機関の負荷に応じて、液体燃料中のアザンの濃度を調節できる。
【0012】
本発明[2]は、過酸化水素水を貯蔵する第3タンクをさらに備え、前記第3タンク内の過酸化水素を前記燃料タンクに供給可能である、上記[1]の燃料供給システムを含む。
【0013】
このような構成によれば、内燃機関の負荷が増大したときに、燃料タンクに過酸化水素水を供給できる。
【0014】
そのため、内燃機関の負荷が増大したときに、過酸化水素の分解によって生じた酸素によって、より多くのアザンを燃焼させることができ、より多くの燃焼熱を得ることができる。そして、その燃焼熱によって、より多くの水を蒸発させることができ、より高い筒内圧を得ることができる。
【0015】
本発明[3]は、1つの燃焼サイクルにおいて前記燃焼室内に供給された前記液体燃料中の全てのアザンを燃焼させるために必要な空気の質量である必要空気量に対する1つの燃焼サイクルにおいて前記燃焼室内に吸入される空気の質量である吸入空気量の割合が1以上である場合、前記第3タンク内の過酸化水素が前記燃料タンクに供給されず、前記必要空気量に対する前記吸入空気量の割合が1未満である場合、前記第3タンク内の過酸化水素が前記燃料タンクに供給される、上記[2]の燃料供給システムを含む。
【0016】
このような構成によれば、内燃機関の負荷が増大して必要空気量に対して吸入空気量が不足するときに、燃料タンクに過酸化水素水を供給できる。
【0017】
本発明[4]は、前記内燃機関からの排気ガス中の水蒸気を凝縮させて水を生成し、前記排気ガスを、水と、窒素ガスを含有するガス成分とに分離する分離装置を、さらに備え、前記分離装置によって前記排気ガスから分離された水は、前記第2タンクに供給される、上記[1]~[3]のいずれか1つの燃料供給システムを含む。
【0018】
このような構成によれば、排気ガス中の水分を利用して、液体燃料中のアザンの濃度を調節できる。
【0019】
本発明[5]は、前記分離装置から前記第1タンクに前記ガス成分を送るポンプをさらに備え、前記第1タンク内の前記アザン水が、前記分離装置から前記第1タンクに供給された前記ガス成分により加圧される、上記[4]の燃料供給システムを含む。
【0020】
このような構成によれば、排気ガスから分離されたガス成分を利用して、第1タンク内を加圧し、アザン水からアザンが揮発することを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の燃料供給システムによれば、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図6】
図6は、
図5に示す燃料供給システムの制御を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6とともに、燃料供給システムの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.車両の概略
図1に示すように、本発明の一実施形態としての燃料供給システム1は、例えば、車両10に搭載される。
【0024】
車両10は、内燃機関101と、バッテリー102を含む電気システムと、内燃機関101に吸気するための吸気システム103と、内燃機関101に液体燃料を供給するための燃料供給システム1と、内燃機関101から排気するための排気システム104とを備える。
【0025】
液体燃料は、炭素原子を含有する燃料成分を含有しない。そのため、燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。液体燃料は、炭素原子を含有しない燃料成分としてのアザンと水とを含有する混合物である。液体燃料がアザンと水とを含有する混合物であると、液体燃料中の燃料成分(アザン)が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0026】
アザンとして、例えば、アンモニア、ヒドラジン、トリアザンが挙げられる。好ましくは、アザンとして、アンモニアが挙げられる。
【0027】
液体燃料は、アザンおよび水に加えて、過酸化水素を含有してもよい。
【0028】
2.内燃機関の詳細
本実施形態では、内燃機関101は、直列2気筒の直噴6ストロークエンジンである。内燃機関101は、2つのシリンダ105を有する。なお、以下の説明では、内燃機関101の2つのシリンダ105のうちの一方のシリンダ105について説明し、他方のシリンダ105についての説明を省略する。
【0029】
図2に示すように、内燃機関101は、シリンダ105と、ピストン106と、吸気バルブ107と、排気バルブ108と、クランクシャフト109と、コネクティングロッド110と、点火プラグ111とを備える。
【0030】
(1)シリンダ
シリンダ105は、吸気ポート105Aと、排気ポート105Bとを有する。吸気ポート105Aは、吸気システム103と接続される。排気ポート105Bは、排気システム104と接続される。
【0031】
(2)ピストン
ピストン106は、シリンダ105内を往復する。ピストン106の頭部とシリンダ105の内面とで区画される空間が、燃焼室Cである。燃焼室Cは、吸気ポート105Aおよび排気ポート105Bと通じる。
【0032】
(3)吸気バルブ
吸気バルブ107は、吸気ポート105Aを開閉する。吸気バルブ107が開き、排気バルブ108が閉じた状態(
図3A参照)で、吸気システム103からの空気は、吸気ポート105Aを通って、シリンダ105内の燃焼室Cに吸気される。吸気バルブ107および排気バルブ108が閉じた状態(
図3B参照)で、燃焼室Cは、密閉される。
【0033】
なお、吸気バルブ107が開くタイミングは、図示しないカムシャフト、および、図示しないタイミングベルトを介して、クランクシャフト109の回転と同期されている。
【0034】
(4)排気バルブ
排気バルブ108は、排気ポート105Bを開閉する。吸気バルブ107が閉じ、排気バルブ108が開いた状態(
図4C参照)で、燃焼室C内の排気ガスは、排気ポート105Bを通って、排気システム104に排気される。
【0035】
なお、排気バルブ108が開くタイミングは、図示しないカムシャフト、および、図示しないタイミングベルトを介して、クランクシャフト109の回転と同期されている。
【0036】
(5)クランクシャフト
クランクシャフト109は、2つのシリンダ105が並ぶ方向に延びる。クランクシャフト109は、軸線Aについて回転可能である。軸線Aは、2つのシリンダ105が並ぶ方向に延びる。クランクシャフト109は、ピストン106の往復運動を回転運動に変換する。クランクシャフト109の位相角は、好ましくは、180°である。
【0037】
詳しくは、クランクシャフト109は、メインジャーナル109Aと、クランクピン109Bと、クランクアーム109Cと、カウンターウェイト109Dとを有する。
【0038】
メインジャーナル109Aは、軸線Aに沿って延びる。メインジャーナル109Aは、円柱形状を有する。クランクピン109Bは、軸線Aが延びる方向と直交する方向において、メインジャーナル109Aから離れて配置される。クランクピン109Bは、軸線Aが延びる方向に延びる。クランクピン109Bは、円柱形状を有する。クランクアーム109Cは、メインジャーナル109Aとクランクピン109Bとを接続する。カウンターウェイト109Dは、メインジャーナル109Aに対して、クランクピン109Bの反対側に配置される。
【0039】
(6)コネクティングロッド
コネクティングロッド110は、ピストン106と、クランクシャフト109のクランクピン109Bとを接続する。
【0040】
(7)点火プラグ
点火プラグ111は、燃焼室C内に燃料成分が存在する状態で、燃料成分に点火する。点火プラグ111は、具体的には、スパークプラグである。点火プラグ111は、制御装置19と電気的に接続される。点火プラグ111による点火のタイミングは、制御装置19によって制御される。
【0041】
3.内燃機関の動作
次に、内燃機関101の動作について説明する。
【0042】
内燃機関101の1つの燃焼サイクルは、吸気工程(
図3A参照)と、第1圧縮工程(
図3B参照)と、噴射工程(
図3C参照)と、第2圧縮工程(
図4A参照)と、燃焼工程(
図4B参照)と、排気工程(
図4C参照)とからなる。
【0043】
(1)吸気工程
図3Aに示すように、吸気工程では、吸気バルブ107が開き、排気バルブ108が閉じた状態で、ピストン106が、前回の燃焼サイクルによる慣性によって、下死点に向かって移動する。これにより、吸気システム103からの空気は、吸気ポート105Aを通って、シリンダ105内の燃焼室Cに吸気される。ピストン106が下死点に位置するタイミングで、吸気バルブ107は、閉じる。なお、「ピストン106が下死点に位置するタイミング」とは、ピストン106が下死点に位置した時点だけではなく、ピストン106が下死点に位置した時点の直前および直後を含む。
【0044】
(2)第1圧縮工程
次に、
図3Bに示すように、第1圧縮工程では、吸気工程に続き、吸気バルブ107および排気バルブ108が閉じた状態で、ピストン106が、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の空気が圧縮されて、燃焼室C内の空気の温度が上昇する。
【0045】
ピストン106が上死点に位置するタイミングで、燃焼室C内の空気の温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、200℃以上であり、例えば、500℃以下、好ましくは、480℃以下である。
【0046】
ピストン106が上死点に位置するタイミングでの燃焼室C内の空気の温度は、圧縮比によって調節可能である。
【0047】
圧縮比は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、13以上であり、例えば、30以下、好ましくは、25以下である。
【0048】
(3)噴射工程
次に、
図3Cに示すように、噴射工程では、第1圧縮工程に続き、吸気バルブ107および排気バルブ108が閉じた状態で、ピストン106が上死点に位置するタイミングで、燃料供給システム1のインジェクタ15が、燃焼室C内に液体燃料を噴射する。インジェクタ15については、後で説明する。なお、「ピストン106が上死点に位置するタイミング」とは、ピストン106が上死点に位置した時点だけではなく、ピストン106が上死点に位置した時点の直前および直後を含む。
【0049】
すると、噴射された液体燃料は、燃焼室C内の空気によって加熱される。液体燃料が加熱されることにより、液体燃料中の燃料成分の少なくとも一部が気化し、水から分離される。
【0050】
インジェクタ15が燃焼室Cに液体燃料を噴射した後、ピストン106は、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、下死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内において、空気と、燃料成分と、水と、場合により過酸化水素とが混合される。
【0051】
(4)第2圧縮工程
次に、
図4Aに示すように、第2圧縮工程では、噴射工程に続き、吸気バルブ107および排気バルブ108が閉じた状態で、ピストン106が、引き続き前回の燃焼サイクルによる慣性によって、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内において、空気と、燃料成分と、水と、場合により過酸化水素とを含む混合物が、圧縮される。
【0052】
(5)燃焼工程
次に、
図4Bに示すように、燃焼工程では、第2圧縮工程に続き、吸気バルブ107および排気バルブ108が閉じた状態で、ピストン106が上死点に位置するタイミングで、点火プラグ111が、燃焼室C内の混合物中の燃料成分に点火する。なお、燃焼工程では、「ピストン106が上死点に位置するタイミング」とは、好ましくは、ピストン106が上死点に位置した時点の直後である。
【0053】
すると、燃料成分が燃焼し、発生した燃焼熱によって、混合物中の水が気化して、生じた水蒸気が膨張する。水蒸気の膨張により、筒内圧が上昇し、上昇した筒内圧によって、ピストン106が下死点に向かって移動する。つまり、点火プラグ111が燃焼室C内の燃料成分に点火した後、ピストン106は、下死点に向かって移動する。ピストン106が下死点に位置するタイミングで、排気バルブ108が、開く。
【0054】
(6)排気工程
次に、
図4Cに示すように、排気工程では、燃焼行程に続き、吸気バルブ107が閉じ、排気バルブ108が開いた状態で、ピストン106が、燃焼行程による慣性により、上死点に向かって移動する。これにより、燃焼室C内の排気ガスは、ピストン106によって排気ポート105Bから押し出され、排気システム104に排気される。
【0055】
そして、ピストン106が上死点に位置するタイミングで、排気バルブ108が閉じ、吸気バルブ107が開く。排気バルブ108が閉じ、吸気バルブ107が開くことにより、次の燃焼サイクルの吸気工程が開始される。
【0056】
3.燃料供給システムの詳細
次に、燃料供給システム1の詳細について説明する。
【0057】
図5に示すように、燃料供給システム1は、第1タンク11と、第2タンク12と、第3タンク13と、燃料タンク14と、インジェクタ15と、加熱部16と、分離装置17と、ポンプ18と、制御装置19(
図1参照)とを備える。
【0058】
(1)第1タンク
第1タンク11は、アザン水を貯蔵する。アザン水は、上記したアザンと水との混合物である。好ましくは、アザン水は、アンモニアと水のみからなる。アザン水がアンモニアと水のみからなる場合、アンモニア水としてアザン水を取り扱うことができる。詳しくは、アンモニアを気体のまま燃料として取り扱う場合、高圧タンクなどが必要になったり、可搬性が悪かったりと、取り扱いが難しい。一方、アンモニア水は、常温付近で液体であるため、炭素原子を含有する一般的な液体燃料(ガソリン、アルコール)と同様に取り扱うことができる。そのため、取り扱いが容易である。
【0059】
第1タンク11のアザン水中のアザンの濃度を、第1濃度と定義する。
【0060】
第1濃度は、例えば、30質量%以上、好ましくは、35質量%以上であり、例えば、50質量%以下、好ましくは、45質量%以下である。
【0061】
第1タンク11は、燃料タンク14と接続される。第1タンク11内のアザン水は、必要により、燃料タンク14に供給される。例えば、燃料供給システム1は、第1タンク11の排出ポートを開閉するバルブV1を有する。燃料供給システム1は、バルブV1を開くことにより、第1タンク11内の水を燃料タンク14に供給する。バルブV1は、制御装置19と電気的に接続される。バルブV1は、制御装置19によって制御される。
【0062】
(2)第2タンク
第2タンク12は、水を貯蔵する。第2タンク12は、第1タンク11とは独立して、燃料タンク14と接続される。第2タンク12内の水は、必要により、燃料タンク14に供給される。例えば、燃料供給システム1は、第2タンク12の排出ポートを開閉するバルブV2を有する。燃料供給システム1は、バルブV2を開くことにより、第2タンク12内の水を燃料タンク14に供給する。バルブV2は、制御装置19と電気的に接続される。バルブV2は、制御装置19によって制御される。
【0063】
(3)第3タンク
第3タンク13は、過酸化水素水を貯蔵する。第3タンク13は、第1タンク11および第2タンク12とは独立して、燃料タンク14と接続される。第3タンク13内の過酸化水素水は、必要により、燃料タンク14に供給される。例えば、燃料供給システム1は、第3タンク13の排出ポートを開閉するバルブV3を有する。燃料供給システム1は、バルブV3を開くことにより、第3タンク13内の過酸化水素水を燃料タンク14に供給する。バルブV3は、制御装置19と電気的に接続される。バルブV3は、制御装置19によって制御される。
【0064】
第3タンク13の過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、例えば、50質量%以上、好ましくは、55質量%以上であり、例えば、70質量%以下、好ましくは、65質量%以下である。
【0065】
(4)燃料タンク
燃料タンク14は、上記した液体燃料を貯蔵する。液体燃料は、第1タンク11から供給されるアザン水と、第2タンク12から供給される水と、必要により、第3タンク13から供給される過酸化水素水とが燃料タンク14内において混合されることにより、調製される。
【0066】
液体燃料がアンモニア水と水との混合物であると、燃焼室C内で、加熱により、容易にアンモニアと水とに分離できる。そのため、アンモニアの燃焼熱を利用して水を気化させて、生じた水蒸気を膨張させることができ、高い筒内圧を得ることができる。
【0067】
さらに、液体燃料に過酸化水素水が混合されると、燃焼室C内で、過酸化水素の分解によって生じた酸素を利用して、アンモニアを燃焼させることができる。そのため、吸気システム103からの空気に含まれる酸素と、過酸化水素の分解によって生じた酸素とによって、より多くのアンモニアを燃焼させることができる。その結果、液体燃料がアンモニア水である場合と比べて、より高い筒内圧を得ることができる。
【0068】
燃料タンク14の液体燃料中のアザンの濃度を、第2濃度と定義する。第2濃度は、第1濃度以下である。第2濃度は、内燃機関101の負荷に応じて、一定でもよく、変動してもよい。例えば、内燃機関101の負荷が低い場合、第2濃度は、一定であり、内燃機関101の負荷が高い場合、第2濃度は、内燃機関101の負荷が高くなるにつれて高くなってもよい。
【0069】
(5)インジェクタ
インジェクタ15は、燃料タンク14内の液体燃料を、内燃機関101の燃焼室Cに噴射する。インジェクタ15は、燃料タンク14と接続される。インジェクタ15は、制御装置19と電気的に接続される。インジェクタ15による液体燃料の噴射のタイミングは、制御装置19によって制御される。
【0070】
(6)加熱部
加熱部16は、燃料タンク14とインジェクタ15との間に配置される。加熱部16は、燃料タンク14からインジェクタ15に供給される液体燃料を加熱する。言い換えると、加熱部16は、内燃機関101の燃焼室Cに供給される液体燃料を加熱する。好ましくは、加熱部16は、燃料タンク14とインジェクタ15との間に配置される蓄圧室内の液体燃料を加熱する。蓄圧室内の液体燃料を加熱することにより、液体燃料を、1気圧における水の沸点よりも高い温度まで加熱できる。インジェクタ15に供給される液体燃料を加熱することにより、燃焼室C内において、液体燃料中の燃料成分が燃焼することにより得られる燃焼熱によって、液体燃料中の水を効率よく蒸発させることができる。本実施形態では、加熱部16は、排気ガスとの熱交換によって、液体燃料を加熱する。なお、加熱部16は、ヒーターで液体燃料を加熱してもよい。
【0071】
インジェクタ15に供給される液体燃料の温度は、加熱部16によって加熱される液体燃料に加わる圧力に応じて設定される。インジェクタ15に供給される液体燃料の温度は、加熱部16によって加熱される液体燃料に加わる圧力における水の沸点よりも低い。
【0072】
インジェクタ15に供給される液体燃料の温度は、例えば、燃料タンク14内の液体燃料の温度よりも高く、好ましくは、1気圧における水の沸点よりも高く、より好ましくは、上記した噴射工程の後、第2圧縮工程の前において、ピストン106が下死点に位置したときの燃焼室C内の圧力における水の沸点よりも高い。具体的には、インジェクタ15に供給される液体燃料の温度は、好ましくは、100℃以上、150℃以下である。インジェクタ15に供給される液体燃料の温度が、噴射工程の後、第2圧縮工程の前において、ピストン106が下死点に位置したときの燃焼室C内の圧力における水の沸点よりも高ければ、噴射工程の後、第2圧縮工程の前において、ピストン106が下死点に位置する前に、燃焼室C内に噴射された液体燃料中の水を蒸発させることができる。これにより、噴射工程の後、第2圧縮工程の前において、蒸発した水によって筒内圧を上昇させることができ、上昇した筒内圧によって、ピストン106を下死点に向かって押圧することができる。
【0073】
(7)分離装置
分離装置17には、内燃機関101からの排気ガスの少なくとも一部が、排気システム104から供給される。分離装置17は、排気ガスを、水と、ガス成分とに分離する。詳しくは、排気ガスは、窒素ガスと水蒸気とを含有する。分離装置17は、排気ガス中の水蒸気を凝縮させて水を生成する。例えば、分離装置17は、排気ガス中の水蒸気を凝縮させるための凝縮器を有する。凝縮器の冷媒は、燃料タンク14からインジェクタ15に供給される液体燃料であってもよい。この場合、凝縮器は、加熱部15内を流れる排気ガス中の水蒸気を凝縮させてもよい。分離装置17は、生成した水を、ガス成分と分離する。例えば、分離装置17は、生成した水をガス成分と分離するための気液分離器を有する。ガス成分は、窒素ガスを含有する。分離装置17は、第2タンク12と接続される。分離装置17によって排気ガスから分離された水は、第2タンク12に供給される。また、分離装置17は、第1タンク11および第3タンク13と接続される。分離装置17によって排気ガスから分離したガス成分は、第1タンク11および第3タンク13に供給される。
【0074】
(8)ポンプ
ポンプ18は、分離装置17から第1タンク11および第3タンク13にガス成分を送る。ポンプ18は、制御装置19と電気的に接続される。ポンプ18は、制御装置19によって制御される。ポンプ18によって第1タンク11および第3タンク13にガス成分が送られることにより、第1タンク11および第3タンク13の内圧は、上昇する。言い換えると、第1タンク11内のアザン水は、分離装置17から第1タンク11に供給されたガス成分により加圧される。これにより、アザン水がアンモニア水である場合、アンモニアの揮発を抑制できる。また、第3タンク13内の過酸化水素水は、分離装置17から第3タンク13に供給されたガス成分により加圧される。これにより、過酸化水素の揮発を抑制できる。
【0075】
(9)制御装置
図1に示す制御装置19は、車両10における電気的な制御を実行するECU(Electronic Control Unit)であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを備える。制御装置19は、バッテリー102と電気的に接続される。制御装置19は、車両10のイグニッションスイッチがオンされたときに、バッテリー102から電力が供給されることにより、起動する。
【0076】
4.燃料供給システムの制御
次に、燃料供給システム1の制御について説明する。
【0077】
(1)車両が走行している場合の燃料供給システムの制御
図6に示すように、車両10が走行しており(S1:NO)、空気過剰率λが1以上である場合(S2:NO)、制御装置19は、インジェクタ15の噴射量を一定に制御し(S3)、かつ、燃料タンク14内の液体燃料のアザンの濃度(第2濃度)を一定に保つ(S4)。
【0078】
詳しくは、空気過剰率λは、必要空気量に対する吸入空気量の割合であり、下記式1で計算される。
【0079】
式1:空気過剰率λ=吸入空気量/必要空気量
必要空気量は、1つの燃焼サイクルにおいて燃焼室C内に供給された液体燃料中の全てのアザンを燃焼させるために必要な空気の質量である。必要空気量は、液体燃料中のアザンの濃度と、インジェクタ15の噴射量とによって定まる。
【0080】
吸入酸素量は、1つの燃焼サイクルにおいて燃焼室C内に吸入される空気の質量である。吸入酸素量は、燃焼室Cの容積に応じて定まる。
【0081】
空気過剰率λが1以上である場合(S1:NO、S2:NO)、内燃機関101の負荷は低い。例えば、車両10が平地を一定の速度で走行している場合、内燃機関101の負荷は低い。
【0082】
内燃機関101の負荷が低い場合、制御装置19は、バルブV1の開度とバルブV2の開度とを調節して、第2濃度を一定に保つ(S4)。第2濃度は、1つの燃焼サイクルで、アザンの燃焼熱によって燃焼室C内に供給された全ての水を気化できるように、設定される。
【0083】
また、内燃機関101の負荷が低い場合、制御装置19は、バルブV3を閉じて、第3タンク13内の過酸化水素水を燃料タンク14に供給しない。つまり、空気過剰率λが1以上である場合、第3タンク13内の過酸化水素水は、燃料タンク14に供給されない。
【0084】
一方、空気過剰率λが1未満である場合(S1:NO、S2:YES)、制御装置19は、必要な筒内圧が得られるように、インジェクタ15の噴射量を増加させ(S5)、第2濃度を上昇させ(S6)、かつ、第3タンク13内の過酸化水素水を燃料タンク14に供給する。
【0085】
詳しくは、空気過剰率λが1未満である場合(S1:NO、S2:YES)、内燃機関101の負荷は高い。例えば、車両10を加速させる場合、内燃機関101の負荷は高くなる。
【0086】
内燃機関101の負荷が高い場合、制御装置19は、バルブV1の開度とバルブV2の開度とを調節して、第2濃度を、負荷に応じて上昇させる(S6)。
【0087】
また、内燃機関101の負荷が高い場合、制御装置19は、バルブV3を開けて、第3タンク13内の過酸化水素水を燃料タンク14に供給する(S7)。つまり、空気過剰率λが1未満である場合、第3タンク13内の過酸化水素水が燃料タンク14に供給される。
【0088】
なお、内燃機関101の負荷が高い場合、制御装置19は、燃料タンク14へのアザン水、水、および、過酸化水素水の供給量を、例えば、以下の計算に基づいて設定する。
【0089】
まず、制御装置19は、負荷に応じて必要なアザンの質量を計算する。また、制御装置19は、その質量のアザンを燃焼させたときに生じる燃焼熱で蒸発できる水の質量を計算する。
【0090】
次に、制御装置19は、その質量のアザンを燃焼させるために必要な過酸化水素の質量を計算する。
【0091】
過酸化水素の質量を計算するには、制御装置19は、まず、その質量のアザンを燃焼させたときに不足する酸素の質量を、酸素過剰率μを用いて計算する。酸素過剰率μは、必要酸素量に対する吸入酸素量の割合であり、下記式2で計算される。
【0092】
式2:酸素過剰率μ=吸入酸素量/必要酸素量
必要酸素量は、1つの燃焼サイクルにおいて燃焼室C内に供給された液体燃料中の全てのアザンを燃焼させるために必要な酸素の質量である。言い換えると、必要酸素量は、上記した必要空気量の内の酸素の質量である。
【0093】
吸入酸素量は、1つの燃焼サイクルにおいて燃焼室C内に吸入される空気に含まれる酸素の質量である。言い換えると、吸入酸素量は、上記した吸入空気量の内の酸素の質量である。
【0094】
次に、制御装置19は、酸素過剰率μが1になるように、不足している分の酸素を発生させるために必要な過酸化水素の質量を計算する。
【0095】
そして、制御装置19は、計算されたアザンの質量、水の質量、および、過酸化水素の質量に基づいて、燃料タンク14へのアザン水、水、および、過酸化水素水の供給量を設定する。
【0096】
このように、制御装置19は、車両10が走行している間(S1:NO)、内燃機関101の負荷に応じて、燃料供給システム1を制御する。
【0097】
(2)車両がアイドリング中である場合の燃料供給システムの制御
図7に示すように、車両10がアイドリング中である場合(S1:YES)、制御装置19は、インジェクタ15の噴射量を一定に制御し(S11)、かつ、燃料タンク14内の液体燃料のアザンの濃度(第2濃度)を一定に保つ(S12)。
【0098】
そして、車両10がアイドリング中である状態で、オルタネータを駆動させる場合(S13:YES)、制御装置19は、インジェクタ15の噴射量を増加させる(S14)。
【0099】
また、車両10がアイドリング中である状態で、オルタネータを駆動させ、さらにエアコンを駆動させる場合(S15:YES)、制御装置19は、インジェクタ15の噴射量を、さらに増加させる(S16)。
【0100】
このように、制御装置19は、車両10がアイドリングしている間(S1:YES)も、内燃機関101の負荷に応じて、燃料供給システム1を制御する。
【0101】
5.作用効果
(1)燃料供給システム1によれば、液体燃料が炭素原子を含有する燃料成分を含有しないので、液体燃料中の燃料成分が燃焼しても、二酸化炭素が発生しない。
【0102】
その結果、二酸化炭素の排出を抑制できる。
【0103】
さらに、燃料成分がアザンであるため、燃料成分が燃焼したときに、窒素と水(水蒸気)とが発生する。
【0104】
そのため、環境負荷の増大を抑制できる。
【0105】
さらに、
図5に示すように、第1タンク11から供給されるアザン水と、第2タンク12から供給される水とを混合することにより、内燃機関101の負荷に応じて、液体燃料中のアザンの濃度を調節できる。
【0106】
(2)燃料供給システム1は、
図5に示すように、過酸化水素水を貯蔵する第3タンク13をさらに備え、第3タンク13内の過酸化水素を燃料タンク14に供給可能である。
【0107】
そのため、内燃機関101の負荷が増大したときに、燃料タンク14に過酸化水素水を供給できる。
【0108】
その結果、内燃機関101の負荷が増大したときに、過酸化水素の分解によって生じた酸素によって、より多くのアザンを燃焼させることができ、より多くの燃焼熱を得ることができる。そして、その燃焼熱によって、より多くの水を蒸発させることができ、より高い筒内圧を得ることができる。
【0109】
(3)燃料供給システム1は、
図6に示すように、空気過剰率λが1以上である場合(S2:NO)、第3タンク13内の過酸化水素を燃料タンク14に供給せず、空気過剰率λが1未満である場合(S2:YES)、第3タンク13内の過酸化水素を燃料タンク14に供給する(S7)。
【0110】
そのため、内燃機関101の負荷が増大して必要空気量に対して吸入空気量が不足するときに、燃料タンク14に過酸化水素水を供給できる。
【0111】
(4)燃料供給システム1は、
図5に示すように、分離装置17を備え、分離装置17によって、内燃機関101からの排気ガス中の水蒸気を凝縮させて水を生成し、排気ガスを、水と、窒素ガスを含有するガス成分とに分離する。分離装置17によって排気ガスから分離された水は、第2タンク12に供給される。
【0112】
これにより、排気ガス中の水分を利用して、液体燃料中のアザンの濃度を調節できる。
【0113】
(5)燃料供給システム1は、
図5に示すように、分離装置17から第1タンク11および第3タンク13にガス成分を送るポンプ18を備える。第1タンク11内のアザン水、および、第3タンク13内の過酸化水素水は、分離装置17から第1タンク11に供給されたガス成分により加圧される。
【0114】
そのため、排気ガスから分離されたガス成分を利用して、第1タンク11内を加圧し、アザン水からアザンが揮発することを抑制できる。
【0115】
6.変形例
(1)内燃機関101は、直列2気筒の直噴6ストロークエンジンに限らない。内燃機関101は、2ストロークエンジンでもよく、4ストロークエンジンでもよい。
【0116】
(2)燃料供給システム1は、分離装置17によって排気ガスから分離されたガス成分をブレーキブースターに送ってもよい。
【0117】
(3)燃料供給システム1は、第1タンク11にアンモニア過酸化水素水を貯蔵してもよい。この場合、燃料供給システム1は、第3タンク13を備えなくてもよい。
【0118】
(4)第1タンク11および第3タンク13は、容積変化可能でもよい。容積変化可能な容器としては、例えば、伸縮することによって容積変化可能なゴム容器や、ピストンを移動させることによって容積変化可能なシリンダなどが挙げられる。第1タンク11および第3タンク13は、容積変化可能である場合、分離装置17によって排気ガスから分離されたガス成分は、第1タンク11および第3タンク13に供給されなくてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1 燃料供給システム
11 第1タンク
12 第2タンク
13 第3タンク
14 燃料タンク
15 インジェクタ
17 分離装置
18 ポンプ
101 内燃機関
C 燃焼室