(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030214
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】浸水域推定シミュレーション方法及び浸水域推定シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20240229BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20240229BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20240229BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
G01W1/00 Z
G09B9/00 Z
G08B31/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132894
(22)【出願日】2022-08-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000121844
【氏名又は名称】応用地質株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】信岡 大
(72)【発明者】
【氏名】松井 恭
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊介
【テーマコード(参考)】
2C032
5C087
【Fターム(参考)】
2C032HA02
2C032HC38
5C087AA03
5C087AA09
5C087DD02
5C087EE07
5C087FF01
5C087FF04
5C087GG11
5C087GG14
5C087GG35
5C087GG66
(57)【要約】
【課題】現実の浸水情報を起点として浸水域を推定することにより、信頼性の高い浸水域の推定を行う。
【解決手段】特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、特定位置での浸水深を特定する。ついで、特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する。ついで、特定位置を起点として、隣接する領域における3次元位置情報と浸水深とを、特定位置から離間する方向に順次比較することにより、特定位置を起点とした浸水域を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する工程と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する工程と、
前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する工程と
を有することを特徴とする浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項2】
前記冠水情報には前記冠水センサのID情報が含まれており、
前記浸水深の特定は、前記ID情報と、このID情報に関連付けられた、前記冠水センサの高さ情報とに基づいて行われる
請求項1記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項3】
前記特定位置の周辺の3次元位置情報は、水平面内において複数の領域に分割されており、
前記浸水域を推定する工程は、
前記特定位置が属する領域を起点として、この領域に隣接する領域の高さ情報が前記浸水深より低い場合に、当該領域を浸水領域に設定する工程と、
前記浸水領域とされた前記領域を起点として、この領域に隣接する領域の高さ情報が前記浸水深より低い場合に、当該領域をさらに浸水領域に設定する工程とを有しており、
これによって、前記冠水センサが設置されている前記特定位置を起点とした連続的な浸水域を推定できるようになっている
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項4】
前記特定位置を起点として推定された前記浸水域を、平面地図に投影して出力する工程をさらに備える
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項5】
前記冠水情報は、前記冠水センサで冠水検知が行われた時間の情報を有しており、
推定された前記浸水域は、前記時間の情報と関連付けられている
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項6】
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する浸水深情報取得部と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する3次元位置情報取得部と、
前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する浸水シミュレーション処理部と
を有することを特徴とする浸水域推定シミュレーション装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水域推定シミュレーション方法及び浸水域推定シミュレーション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、河川面の高さデータの面情報と地表面の高さデータの面情報とを重ね合わせることにより、河川面よりも低い地表面を抽出し、この抽出された部分を洪水発生地域と推定する技術が記載されている。
【0003】
しかしこの文献に記載の技術は、単に河川面の高さデータの面情報と地表面の高さデータの面情報とを比較するだけであり、実際の浸水情報に基づいていない。このため浸水域シミュレーションとしては信頼性について改善の余地があった。
【0004】
下記非特許文献1の技術は、対象地域の3次元点群データを用い、予想位置に描画された水面を対象空間の3Dモデルに重ね合わせてAR表示するものである。この技術も前記特許文献1の技術と同様に、実際の浸水情報に基づいておらず、信頼性について改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】LiDARデータと自然特徴を用いた地下空間での浸水情報のAR表示、情報処理学会第80回全国大会講演論文集、2-265 - 2-266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、現実の浸水情報を起点として浸水域を推定することにより、信頼性の高い浸水域の推定を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0009】
(項目1)
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する工程と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する工程と、
前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する工程と
を有することを特徴とする浸水域推定シミュレーション方法。
【0010】
(項目2)
前記冠水情報には前記冠水センサのID情報が含まれており、
前記浸水深の特定は、前記ID情報と、このID情報に関連付けられた、前記冠水センサの高さ情報とに基づいて行われる
項目1記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【0011】
(項目3)
前記特定位置の周辺の3次元位置情報は、水平面内において複数の領域に分割されており、
前記浸水域を推定する工程は、
前記特定位置が属する領域を起点として、この領域に隣接する領域の高さ情報が前記浸水深より低い場合に、当該領域を浸水領域に設定する工程と、
前記浸水領域とされた前記領域を起点として、この領域に隣接する領域の高さ情報が前記浸水深より低い場合に、当該領域をさらに浸水領域に設定する工程とを有しており、
これによって、前記冠水センサが設置されている前記特定位置を起点とした連続的な浸水域を推定できるようになっている
項目1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【0012】
(項目4)
前記特定位置を起点として推定された前記浸水域を、平面地図に投影して出力する工程をさらに備える
項目1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【0013】
(項目5)
前記冠水情報は、前記冠水センサで冠水検知が行われた時間の情報を有しており、
推定された前記浸水域は、前記時間の情報と関連付けられている
項目1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【0014】
(項目6)
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する浸水深情報取得部と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する3次元位置情報取得部と、
前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する浸水シミュレーション処理部と
を有することを特徴とする浸水域推定シミュレーション装置。
【0015】
(項目7)
項目1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【0016】
このコンピュータプログラムは、適宜な記録媒体(例えばCD-ROMやDVDディスクのような光学的な記録媒体、ハードディスクやフレキシブルディスクのような磁気的記録媒体、あるいはMOディスクのような光磁気記録媒体)に格納することができる。このコンピュータプログラムは、インターネットなどの通信回線を介して伝送されることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の技術によれば、冠水センサからの冠水情報すなわち現実の浸水情報を起点として浸水域を推定することができる。これにより、信頼性の高い浸水域の推定を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態における浸水域推定シミュレーションシステムの概略的構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のシステムを用いた浸水域推定シミュレーション方法を説明するための流れ図である。
【
図3】
図1のシステムにおける浸水域推定の手順を説明するための説明図である。
【
図4】
図1のシステムを用いた浸水域推定シミュレーションの実施例における結果(3次元点群測量データ)を示す説明図である。
【
図5】
図1のシステムを用いた浸水域推定シミュレーションの実施例における結果(浸水域シミュレーションの結果)を示す説明図である。
【
図6】
図1のシステムを用いた浸水域推定シミュレーションの実施例における結果(平面地図)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る浸水域推定シミュレーションシステムを、
図1を参照しながら説明する。このシステムは、冠水センサ10と、浸水域推定シミュレーション装置20とから構成されている。
【0020】
(冠水センサ)
冠水センサ10は、浸水域推定の対象地域(特定位置)に設置されている。本実施形態における冠水センサ10は、浸水を検知できる複数の接点を持ち、この接点の設置高さを変えておくことで、複数の高さにおける現実の浸水を検知できるようになっている。また冠水センサ10は、いずれかの接点が浸水を検知した場合、当該冠水センサ10自体とその接点とに紐づけられたID情報を冠水情報として浸水域推定シミュレーション装置20(以下単に「シミュレーション装置」又は「装置」ということがある)に送信できるようになっている。ただし、例えば浸水の高さ情報自体を検知し、それを冠水センサ10のID情報と共に装置20に送信する構成であってもよい。冠水センサ10は、浸水の連続的な高さ情報を検知できるものであってもよい。冠水情報には、浸水を検知した時間を特定する時間情報を含めることが好ましい。
【0021】
本実施形態の冠水センサ10は、バッテリ及び送信装置(図示せず)を持ち、自律的に装置20に情報を送ることができるようになっている。送信装置としては、たとえば携帯電話回線などの無線通信回線を用いて冠水センサ10からの情報を装置20に送信できるものを用いることができるが、特に制約されず、Wi-Fi(商標)など適宜な通信装置を用いることができる。
【0022】
本実施形態の冠水センサ10としては、基本的に従来から用いられているものを利用可能なので、これについてのこれ以上の説明は省略する。
【0023】
(浸水域推定シミュレーション装置)
浸水域推定シミュレーション装置20は、3次元位置情報取得部21と、浸水深情報取得部22と、浸水シミュレーション処理部23と、平面地図投影処理部24とを有している。本実施形態では、装置20が、クラウド上で利用可能なアプリケーションとして構築されているものとするが、装置20がユーザのサーバ上で構築されていてもよい。
【0024】
3次元位置情報取得部21は、冠水センサ10の設置位置(特定位置)の周辺における3次元位置情報を取得するものである。3次元位置情報は、クラウド上で利用可能な適宜な記憶部(図示せず)に格納されているものとする。本実施形態の3次元位置情報としては、いわゆる3次元点群測量データであることを前提とする。3次元点群測量データは、平面上での位置情報(XY平面での位置情報)のほか、高さ情報(Z方向での高さ情報)を有している。また、3次元点群測量データは、特に制約されないが、例えば0.5~10センチメートル間隔程度、好ましくは1センチメートル間隔程度の密度(粒度)を持つデータである。
【0025】
浸水深情報取得部22は、冠水センサ10からの冠水情報に基づいて、特定位置での浸水深を特定するものである。具体的には、冠水センサ10から冠水情報を受信すると、それに含まれかつ冠水センサ10と接点とを特定するID情報から、予め記録されている情報(特定位置の情報や接点高さ情報)を検索する。ここで、当該冠水センサ10の特定位置の情報や接点高さ情報はID情報に紐づけされて、適宜な記憶部(図示せず)に格納されているものとする。接点高さ情報と、特定位置での標高(3次元位置情報から特定可能)とを用いて浸水深を得ることができる。もし冠水情報に浸水深情報自体が含まれている場合は、それを用いて浸水深情報を特定することができる。
【0026】
浸水シミュレーション処理部23は、特定位置を起点として、隣接する領域における3次元位置情報と浸水深とを、特定位置から離間する方向に順次比較することにより、特定位置を起点とした浸水域を3次元で推定する構成となっている。浸水シミュレーション処理部23の具体的動作は、浸水域推定シミュレーション方法の実施形態として後述する。
【0027】
平面地図投影処理部24は、3次元で推定された浸水域(すなわちシミュレーション結果)から、平面地図情報に変換するものである。平面地図投影処理部24の具体的動作についても後述する。
【0028】
(浸水域推定シミュレーション方法)
前記した浸水域推定シミュレーション装置を用いた浸水域推定シミュレーション方法の一例を、
図2をさらに参照しながら説明する。
【0029】
(
図2のステップSA-1)
冠水センサ10が設置された位置(特定位置)において実際の浸水があると、冠水センサ10は冠水情報を浸水域推定シミュレーション装置20に送る。
【0030】
(
図2のステップSA-2~SA-3)
シミュレーション装置20の浸水深情報取得部22は、受け取った冠水情報に含まれるID情報に基づいて、浸水深や特定位置を特定する。具体的には、浸水深の特定は、ID情報と、このID情報に関連付けられた冠水センサ(より具体的には接点)の高さ情報とに基づいて行われる。そして、3次元位置情報取得部21が、特定位置の周辺の3次元位置情報(具体的には点群測量データ)を取得する。
【0031】
(
図2のステップSA-4)
ついで、浸水シミュレーション処理部23が、取得した浸水深、特定位置及び3次元位置情報を用いて、浸水深のシミュレーションを行う。このシミュレーションの具体的な手順の一例を、
図3をさらに参照しながら説明する。ここで、3次元位置情報における平面位置(領域あるいは地点)を
図3において四角で示している。この四角の大きさは、例えば一辺1センチメートルである。
【0032】
(
図3(a))
まず、特定位置を特定する。この位置は実際に浸水を生じた位置であり、かつ、浸水を検知した冠水センサ10の設置位置である。なお、浸水深A=標高z+地盤高Dと表すこともできる。標高zは冠水センサ10(具体的にはその接点)の地表面(地盤)からの高さである。地盤高Dは特定位置での3次元点群測量データに基づく地盤の高さである。
【0033】
(
図3(b))
特定位置の周囲における標高値を符号Zで表すことにする。特定位置の周囲8地点(つまり8個の領域)における標高値Zを3次元点群測量データに基づいて特定し、Z<Aを満たすかどうかを判定する。符号1、2、3で示す地点(領域)のみがこの条件を満たしたとする。
【0034】
(
図3(c)~(e))
ついで、符号1の領域、符号2の領域、符号3の領域についてそれぞれ、それらの周囲8点の領域がZ<Aを満たすかどうかを判定する。その結果、符号a、b、cで示す領域のみがこの条件を満たしたとする。
【0035】
(
図3(f)~(h))
引き続き同様に、符号aの領域、符号bの領域、符号cの領域についてそれぞれ、それらの周囲8点の領域がZ<Aを満たすかどうかを判定する。その結果、符号αで示す領域がこの条件を満たしたとする。
【0036】
(
図3(i))
符号αの領域について、その周囲8点の領域がZ<Aを満たすかどうかを判定する。その結果、どの領域もこの条件を満たさないとする。
【0037】
(
図3(j))
その結果、当該冠水センサ10を起点とした浸水範囲を
図3(j)のように推定することができる。すなわち、実際に浸水を観測した冠水センサ10の特定位置を起点として、隣接する領域における3次元位置情報と浸水深とを、特定位置から離間する方向に順次比較することにより、特定位置を起点とした浸水域を推定することができる。
【0038】
(
図2のステップSA-5)
前記のようにして、本実施形態の浸水シミュレーション処理部23は、3次元情報としての浸水範囲を特定することができる。ここで
図3では、平面情報のみを表示しているが、浸水深さは実際検出された値Aであるとすることができる。
【0039】
(
図2のステップSA-6~SA-8)
ついで、平面地図投影処理部24は、得られた3次元情報としての浸水範囲を平面地図に投影する。これによりユーザ(例えばシステム管理者や住民)は浸水範囲を容易に認識することができる。さらに、データの利用性を高めるため、平面地図をGIS(地理情報システム)に準拠した地図とすることができる。このように生成されたデータを各種の用途、例えば避難指示の判断や避難場所の選択などに用いることができる。
【0040】
すなわち本実施形態によれば、3次元浸水域推定シミュレーションで得られた推定浸水範囲を,防災計画,防災管理等で採用されている平面地図(GIS)情報に自動変換し地図表示することができる。これにより、広範囲な浸水被害を迅速かつ一元的に管理することができる。ここで平面地図情報としては、例えばShape形式である。一般に、浸水以外の管理事象は平面地図上で管理されているため、3次元情報を平面地図に投影して活用することの利便性は極めて高い。
【0041】
平面地図あるいはGIS情報は、適宜な出力部(図示せず)により出力したり、記憶部(図示せず)に保存して活用することができる。
【0042】
冠水センサ10で冠水を検知したということは、すでに発災している状況であると推定でき、被害を避ける、あるいは低減させるためには、リアルタイムかつ高精度の情報が求められる。本実施形態によれば、実際の浸水深と、その浸水を生じた特定位置の情報を用いて浸水域を推定するので、推定精度が高いという利点がある。また、粒度の細かい3次元点群測量データを用いているので、その点からも高精度を期待できる。
【0043】
同じ冠水センサ10から新たな冠水情報が送信された場合(例えばより深い又はより浅い浸水深の情報が送信された場合)、前記の動作を繰り返す。これにより新たな冠水情報に基づいて浸水域を推定することができる。異なる冠水センサ10から冠水情報が送信された場合も同様に、前記の動作を繰り返す。
【0044】
このように、本実施形態の手法では、冠水情報が送信された都度、冠水センサ10ごとに浸水域を推定する。つまり本実施形態では、実際の浸水深を取得するごとに浸水域を新たに推定するというリアルタイムシミュレーションを、冠水センサ10での検知動作を起点として行うことができる。
【0045】
本実施形態の手法の場合、推定された浸水域情報の競合や選別を考慮する必要が基本的にはないと考えられる。いずれの推定も現実のセンサデータに基づいているので信頼性は高いからである。例えば本実施形態では、冠水情報に含まれるタイムスタンプと推定データとを紐づけておいて、最新の推定データを常に優先して表示することができる。もし、浸水領域が重なっていてかつ異なる浸水深となった場合、時間情報が近接していれば、安全優先のため、深い浸水深の情報を優先して表示することも考えられる。
【0046】
また、本実施形態の手法では、
図3に示したように、実際に浸水を観測した冠水センサ10の特定位置を起点として、隣接する領域における3次元位置情報と浸水深とを、特定位置から離間する方向に順次比較することにより、特定位置を起点とした浸水域を推定している。仮に、浸水深と地形の標高情報とを比較するだけでは、実際には浸水しない位置(飛び地となる位置)も浸水すると推定することになる。例えば人工構造物(壁や建物や橋脚など)あるいは局所的な自然環境(斜面や樹木など)により浸水が阻止されている状況の場合、それも評価することが望ましい。本実施形態では、前記の手段で浸水域を推定しているので、飛び地となるような浸水域を避けて(つまり非連続点を除外して)推定することができ、高い推定精度を得ることができる。
【0047】
また、本実施形態では、冠水情報に冠水センサのID情報を含め、浸水深の特定を、このID情報と、ID情報に関連付けられた冠水センサの高さ情報とに基づいてシステム側で行なうので、冠水センサ10の動作が簡素となり、冠水センサ10のバッテリー寿命を延ばすことができる。
【0048】
(実施例)
図4に、具体的な浸水域推定の例を示す。
図4は3次元点群測量データの一例を示す。この図には冠水センサの設置位置を矢印を示している。
図5は3次元での浸水域推定シミュレーションの結果を示す。図中、白色により浸水域を表している。
図6は3次元での浸水域推定シミュレーションを平面地図に投影した結果を示す。
【0049】
なお、前記実施形態の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【0050】
例えば、本実施形態では、平面地図投影処理部23を備えるものとしたが、平面地図が不要の場合、あるいは浸水シミュレーション処理部により必要な平面地図を直接に生成できる場合には、平面地図投影処理部24を省略することができる。
【0051】
さらに、前記した本実施形態では、浸水域の判定条件としてZ<Aを用いたが、これに代えて例えばZ<(A+α)としてもよい。ここでαは安全性を考慮したマージンである。
【符号の説明】
【0052】
10 冠水センサ
20 浸水域推定シミュレーション装置
21 3次元位置情報取得部
22 浸水深情報取得部
23 浸水シミュレーション処理部
24 平面地図投影処理部
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する工程と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する工程と、
前記冠水センサの設置位置である前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する工程と
を有しており、
前記浸水深は、前記特定位置に設置された前記冠水センサの地表面からの高さと前記特定位置での前記3次元情報に基づく標高値との和、又は、この和に安全性を考慮したマージンを加えたものに等しいものとされている
ことを特徴とする浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項2】
前記冠水情報には前記冠水センサのID情報が含まれており、
前記浸水深の特定は、前記ID情報と、このID情報に関連付けられた、前記冠水センサの地表面からの高さ情報とに基づいて行われる
請求項1記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項3】
前記特定位置の周辺の3次元位置情報は、水平面内において多数の矩形状の領域に分割されており、
前記浸水域を推定する工程は、
前記特定位置が属する領域の周囲8地点の領域のうちで標高値が前記浸水深より低い領域を浸水領域に設定する工程と、
前記浸水領域とされた前記領域の周囲8地点の新たな領域のうちで標高値が前記浸水深より低い領域をさらに浸水領域に設定する工程とを有しており、
これによって、前記冠水センサが設置されている前記特定位置を起点とした連続的な浸水域を順次推定できるようになっている
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項4】
前記特定位置を起点として推定された前記浸水域を、平面地図に投影して出力する工程をさらに備える
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項5】
前記冠水情報は、前記冠水センサで冠水検知が行われた時間の情報を有しており、
推定された前記浸水域は、前記時間の情報と関連付けられている
請求項1又は2に記載の浸水域推定シミュレーション方法。
【請求項6】
特定位置に設置された冠水センサでの冠水検知により発信された冠水情報に基づいて、前記特定位置での浸水深を特定する浸水深情報取得部と、
前記特定位置の周辺の3次元位置情報を取得する3次元位置情報取得部と、
前記冠水センサの設置位置である前記特定位置を起点として、隣接する領域における前記3次元位置情報と前記浸水深とを、前記特定位置から離間する方向に順次比較することにより、前記特定位置を起点とした浸水域を推定する浸水シミュレーション処理部と
を有しており、
前記浸水深は、前記特定位置に設置された前記冠水センサの地表面からの高さと前記特定位置での前記3次元情報に基づく標高値との和、又は、この和に安全性を考慮したマージンを加えたものに等しいものとされていることを特徴とする浸水域推定シミュレーション装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の各ステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
(
図3(a))
まず、特定位置を特定する。この位置は実際に浸水を生じた位置であり、かつ、浸水を検知した冠水センサ10の設置位置である。なお、浸水深A=標高z+地盤高Dと表すこともできる。標高zは
特定位置での3次元点群測量データに基づく地盤の高さである。地盤高Dは
冠水センサ10(具体的にはその接点)の地表面(地盤)からの高さである。