(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030222
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
F04C18/02 311U
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132922
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】増山 拓樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰造
(72)【発明者】
【氏名】西山 京志郎
(72)【発明者】
【氏名】阿久澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】冠城 美早子
(72)【発明者】
【氏名】押尾 英一
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA12
3H039BB04
3H039BB28
3H039CC02
3H039CC07
3H039CC31
3H039CC36
(57)【要約】
【課題】機能を損なうこと無く、可動スクロールのラップと固定スクロールの鏡板の強い接触を効果的に抑制して耐久性を改善することができるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】固定スクロール21及び可動スクロール22の各ラップ24、32間に形成された圧縮室34を外側から内側に向けて縮小させながら移動させ、作動流体を圧縮する。可動スクロール22のラップ32は、渦巻基礎円の中心Oから外壁伸開開始点Sを通過して外側に向かう線L1が最外側のラップ32と交差する点P1から巻終り点P2までの範囲において、当該巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる傾斜部を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構を備え、前記可動スクロールを前記固定スクロールに対して公転旋回運動させ、両スクロールの前記各ラップ間に形成された圧縮室を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることにより、作動流体を圧縮するスクロール圧縮機において、
前記可動スクロールのラップは、渦巻基礎円の中心から外壁伸開開始点を通過して外側に向かう線L1が最外側のラップと交差する点P1から巻終り点P2までの範囲において、当該巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる傾斜部を有することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記可動スクロールのラップには、前記範囲において、前記巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第1の傾斜部と、高さが変化しない平坦部と、前記巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第2の傾斜部が連続して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記可動スクロールのラップの高さは、前記第1の傾斜部の終端で10μm低くなり、前記第2の傾斜部の終端で50μm低くなることを特徴とする請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記可動スクロールのラップの長さは、前記第1の傾斜部よりも前記平坦部において長く、該平坦部よりも前記第2の傾斜部において長く設定されていることを特徴とする請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記両スクロールにはメッキ処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記可動スクロールの鏡板背面には背圧室が構成されており、前記可動スクロールの鏡板には、前記背圧室と前記圧縮室を連通する背圧孔が貫通形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記固定スクロールと前記可動スクロールのラップ先端には、チップシールが設けられていないことを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、両スクロールのラップ間に形成された圧縮室で作動流体を圧縮するスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりこの種スクロール圧縮機は、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた可動スクロールから成る圧縮機構を備え、各スクロールのラップを対向させてラップ間に圧縮室を形成し、モータにより固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、圧縮室の容積を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることで、作動流体(冷媒)を圧縮するように構成されている。
【0003】
この場合、従来では固定スクロールと可動スクロールの両方のラップ先端、若しくは、片方に樹脂素材のチップシールを取り付け、金属(アルミニウム)同士の接触を防止していた。しかしながら、チップシールを設けない場合、スクロール圧縮機が停止と再起動を繰り返す稼働状態では、可動スクロールが転覆しながら(傾きながら)起動するため、起動が安定するまで可動スクロールのラップ先端が非常に強く固定スクロールの鏡板に接触することが考えられ、特にラップの壁厚が薄く、面圧が上昇し易い巻終り付近は固定スクロールの鏡板に引きずったような溝ができる。
【0004】
このような状態が繰り返されると、可動スクロールのラップ巻終り付近の先端でめっきが摩滅し、金属製のスクロール間に強い接触抵抗が生まれ、荷重により疲労破壊(壁割れや破断)が生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、例えば可動スクロールのラップの巻終り部を階段状に低くすることが考えられるが、段差のつなぎ目の角部において面圧が上昇し、部分的なめっきの剥離を誘発する欠点がある。
【0007】
また、例えば特許文献1のように可動スクロールのラップの最外側の高さを徐々に低くすることが考えられる。しかしながら、特許文献1ではラップの高さを低くする範囲が明確ではなく、範囲が広すぎればスクロール圧縮機としての機能が損なわれる。一方、範囲が狭すぎれば、スクロールの実際の摩耗に対応できず、強い接触状態の発生を効果的に抑制することができなくなって耐久性が損なわれる。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、機能を損なうこと無く、可動スクロールのラップと固定スクロールの鏡板の強い接触を効果的に抑制して耐久性を改善することができるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスクロール圧縮機は、各鏡板の各表面にそれぞれ渦巻き状のラップが対向して形成された固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構を備え、可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させ、両スクロールの各ラップ間に形成された圧縮室を外側から内側に向けて縮小させながら移動させることにより、作動流体を圧縮するものであって、可動スクロールのラップは、渦巻基礎円の中心から外壁伸開開始点を通過して外側に向かう線L1が最外側のラップと交差する点P1から巻終り点P2までの範囲において、当該巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる傾斜部を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明のスクロール圧縮機は、上記発明において可動スクロールのラップには、前記範囲において、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第1の傾斜部と、高さが変化しない平坦部と、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第2の傾斜部が連続して形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明のスクロール圧縮機は、上記発明において可動スクロールのラップの高さは、第1の傾斜部の終端で10μm低くなり、第2の傾斜部の終端で50μm低くなることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明のスクロール圧縮機は、請求項2の発明において可動スクロールのラップの長さは、第1の傾斜部よりも平坦部において長く、この平坦部よりも第2の傾斜部において長く設定されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明のスクロール圧縮機は、請求項1の発明において両スクロールにはメッキ処理が施されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明のスクロール圧縮機は、請求項1の発明において可動スクロールの鏡板背面には背圧室が構成されており、可動スクロールの鏡板には、背圧室と圧縮室を連通する背圧孔が貫通形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明のスクロール圧縮機は、上記各発明において固定スクロールと可動スクロールのラップ先端には、チップシールが設けられていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スクロール圧縮機としての機能を維持しながら、固定スクロールの鏡板の引きずりを改善し、可動スクロールのラップの巻終り付近の先端に疲労破壊が生じることも効果的に防止することができるようになり、耐久性を向上させることができるようになる。これにより、機能と耐久性の両立を図ったスクロール圧縮機を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機の縦断断面図である。
【
図2】
図1のスクロール圧縮機の可動スクロールのラップ側から見た平面図である。
【
図3】
図2の可動スクロールの巻終り付近のラップ高さを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機1の概略断面図である。
【0019】
実施例のスクロール圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、三相の電動モータ2と、この電動モータ2を運転するためのインバータ3と、電動モータ2によって駆動される圧縮機構としてのスクロール圧縮機構4を備えた所謂横置き型のインバータ一体型スクロール圧縮機である。
【0020】
実施例のスクロール圧縮機1は、電動モータ2やセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側の端壁7Aに取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0021】
これらステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例のスクロール圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0022】
ステータハウジング7内には電動モータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面はステータハウジング7の端壁7Aにより基本的には閉塞されている。そして、この端壁7Aがモータ室12と後述するインバータ収容部13とを区画する隔壁となる。モータ室12の他端面は開口しており、この開口には電動モータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、端壁7Aの内面(モータ室12側)には、電動モータ2の駆動軸14の一端部を回転可能に支持するための副軸受16が取り付けられている。
【0023】
センターケーシング6は、電動モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口はスクロール圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、スクロール圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9がステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0024】
また、センターケーシング6には電動モータ2の駆動軸14の他端部を挿通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17のスクロール圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、スクロール圧縮機構4側で駆動軸14の他端部を回転可能に支持する主軸受18が取り付けられている。
【0025】
電動モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、電動モータ2のステータ25のコイルに給電されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。そして、駆動軸14はこのロータ23に固定されている。
【0026】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート20が形成されており、吸入ポート20から吸入された冷媒は、ステータハウジング7内の電動モータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、電動モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、スクロール圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート30より、ハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0027】
スクロール圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。
【0028】
尚、実施例の固定スクロール21のラップ24の先端にはチップシールは設けられていない。また、鏡板23及びラップ24の表面には、実施例ではすずめっきが施されている。この固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0029】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。
【0030】
尚、実施例の可動スクロール22のラップ32の先端にもチップシールは設けられていない。また、鏡板31及びラップ32の表面には、実施例では無電解ニッケル・リンめっきが施されている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧力室34を形成する。
【0031】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、駆動軸14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、電動モータ2のロータ23と共に駆動軸14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。
【0032】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒を吸入した圧力室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0033】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、スクロール圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。また、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。
【0034】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)の吐出室27内に取り付けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48はスクロール圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離するものである。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回する。このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート30に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0035】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(スクロール圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0036】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、スクロール圧縮機構4の圧力室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧力室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0037】
また、可動スクロール22の鏡板31には、背圧室39と圧縮室34とを連通する背圧孔5が実施例では二箇所削設されている。各背圧孔5は、背圧室39内の圧力(背圧)が過剰になったときに、背圧室39から圧縮室34に圧力(冷媒とオイル)を逃がす役割を果たす。
【0038】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ3が収容されるインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。この蓋部材15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられるものである。
【0039】
ステータハウジング7の端壁7A(隔壁)にはハーメチックプレート52が取り付けられており、このハーメチックプレート52には導電性のハーメチックピン53が取り付けられている。ハーメチックピン53の一端側は端壁7Aを貫通してモータ室12内に入り、電動モータ2のステータ25のコイルに接続されている。また、ハーメチックピン53の他端側はプレスフィット端子56を介して回路基板51に電気的に接続されている。
【0040】
次に、
図2、
図3を参照しながら実施例の可動スクロール22のラップ32の先端部形状について詳述する。
図2は可動スクロール22をラップ32側(表面側)から見た平面図、
図3はラップ32の巻終り付近の高さを説明する図である。
【0041】
図2において、Oは可動スクロール22のラップ32の渦巻基礎円の中心、Sはラップ32の外壁伸開開始点である。そして、この渦巻基礎円の中心Oから外壁伸開開始点Sを通過して可動スクロール22の外側に向かう線をL1とすると、この線L1と最外側のラップ32とが交差する点をP1とする。また、P2はラップ32の巻終り点である。
【0042】
本発明では、この点P1と巻終り点P2までの範囲のラップ32に巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる傾斜部を構成する。実施例の場合、傾斜部としては巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第1の傾斜部32Aと、同じく巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第2の傾斜部32Bが構成されており、これら第1及び第2の傾斜部32A、32Bの間に高さが変化しない平坦部32Cを構成している。即ち、実施例のラップ32には、点P1と巻終り点P2までの範囲に、点P1側から第1の傾斜部32A、平坦部32C、第2の傾斜部32Bが連続して形成されている。
【0043】
また、
図3に示すように第1の傾斜部32Aの始端をP3、第1の傾斜部32Aの終端、即ち、平坦部32Cの始端をP4、平坦部32Cの終端、即ち、第2の傾斜部32Bの始端をP5、第2の傾斜部32Bの終端をP6とすると、ラップ32の長さは、P3からP4までの第1の傾斜部32Aの長さ<P4からP5までの平坦部32Cの長さ<P5からP6までの第2の傾斜部32Bの長さの関係とされている。
【0044】
即ち、可動スクロール22のラップ32の長さは、第1の傾斜部32Aよりも平坦部32Cにおいて長く、この平坦部32Cよりも第2の傾斜部32Bにおいて長くなるように設定されている。また、実施例では可動スクロール22のラップ32の高さは、第1の傾斜部32Aの終端P4(平坦部32Cの始端)で始端P3(ラップ32の通常の高さ)よりも10μm低くなり、第2の傾斜部32Bの終端P6で始端P3よりも50μm低くなる。
【0045】
実施例の如くラップ32の先端にチップシールを設けない場合、前述した如くスクロール圧縮機1が停止と再起動を繰り返す稼働状態では、可動スクロール22が転覆しながら(傾きながら)起動するため、起動が安定するまで可動スクロール22のラップ32の先端が非常に強く固定スクロール21の鏡板23に接触する。そのため、特にラップ32の壁厚が薄く、面圧が上昇し易い巻終り付近は固定スクロール21の鏡板23に引きずり溝ができる。
【0046】
そこで、ラップ32の高さを低くして強く接触しないようにすると、高さを低くする範囲が広すぎればスクロール圧縮機1としての機能が損なわれる。一方、範囲が狭すぎれば、固定スクロール21の鏡板23と可動スクロール22のラップ32との強い接触状態の発生を効果的に抑制することができなくなって耐久性が損なわれる。
【0047】
一方、本発明の如く可動スクロール22のラップ32の、渦巻基礎円の中心Oから外壁伸開開始点Sを通過して外側に向かう線L1が最外側のラップ32と交差する点P1から巻終り点P2までの範囲において、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる傾斜部を構成し、更に、この範囲において、実施例の如く巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第1の傾斜部32Aと、高さが変化しない平坦部32Cと、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第2の傾斜部32Bを連続して形成することで、スクロール圧縮機1としての機能を維持しながら、固定スクロール21の鏡板23の引きずりを改善し、可動スクロール22のラップ32の巻終り付近の先端に疲労破壊が生じることも効果的に防止することができるようになる。これにより、耐久性を向上させることができるようになって、機能と耐久性の両立を図ることができるようになる。
【0048】
尚、実施例では可動スクロール22のラップ32に、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第1の傾斜部32Aと、高さが変化しない平坦部32Cと、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる第2の傾斜部32Bを連続して形成するようにしたが、それに限らず、渦巻基礎円の中心Oから外壁伸開開始点Sを通過して外側に向かう線L1が最外側のラップ32と交差する点P1から巻終り点P2までの範囲において、巻終り点P2に向かって徐々に高さが低くなる一連の傾斜部(間に平坦部無し)を構成してもよく、或いは、実施例より更に複数の傾斜部と平坦部を構成してもよい。
【0049】
また、実施例では車両用空気調和装置の冷媒回路に使用されるスクロール圧縮機1に本発明を適用したが、それに限らず、各種冷凍装置の冷媒回路で使用されるスクロール圧縮機に本発明は有効である。また、実施例では所謂インバータ一体型のスクロール圧縮機に本発明を適用したが、それに限らず、インバータを一体に備えない通常のスクロール圧縮機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 スクロール圧縮機
2 電動モータ
4 スクロール圧縮機構(圧縮機構)
5 背圧孔
11 ハウジング
21 固定スクロール
22 可動スクロール
23、31 鏡板
24、32 ラップ
32A 第1の傾斜部
32B 第2の傾斜部
32C 平坦部
L1 渦巻基礎円の中心Oから外壁伸開開始点Sを通過して可動スクロール22の外側に向かう線
O 可動スクロール22のラップ32の渦巻基礎円の中心
P1 線L1と最外側のラップ32とが交差する点
P2 ラップ32の巻終り点
S ラップ32の外壁伸開開始点