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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030236
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】塗工方法、塗工装置、および積層基材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20240229BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20240229BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20240229BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240229BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240229BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240229BHJP
【FI】
H01M8/1004
C25B13/02 301
C25B13/04 301
C25B13/08 301
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132949
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 千丈
(72)【発明者】
【氏名】厨子 卓哉
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
5H126AA02
5H126BB06
5H126FF04
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】触媒インクの塗工に伴う電解質膜の膨潤変形を抑制し、かつ、バックシートから電解質膜を剥離するときに電解質膜に粘着材が残ることも抑制できる技術を提供する。
【解決手段】電解質膜91は、バックシートからはみ出した被吸着部94を有する。触媒インクの塗工時には、バックシート92と、電解質膜91の被吸着部94とを、負圧面11に吸着させた状態で、塗工を行う。このようにすれば、バックシート92の粘着層と電解質膜91の界面に、負圧が作用する。このため、粘着層の粘着力だけではなく、負圧による吸着力により、電解質膜91が保持される。これにより、触媒インクの塗工に伴う電解質膜91の膨潤変形を抑制できる。また、粘着層922の粘着力を抑えることができるため、バックシート92から電解質膜91を剥離するときに、電解質膜91に粘着材が残ることを抑制できる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜に触媒インクを塗工する塗工方法であって、
a)粘着層を有するバックシートと、前記粘着層に貼付された前記電解質膜と、を有する積層基材を準備する工程と、
b)負圧を作用させる負圧面に前記積層基材を吸着保持させる工程と、
c)前記負圧面に吸着保持された前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを供給する工程と、
を含み、
前記電解質膜は、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有し、
前記工程b)および前記工程c)において、前記バックシートと、前記電解質膜の前記被吸着部とを、前記負圧面に吸着させる、塗工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の前記被吸着部は、前記電解質膜の少なくとも一方向における両端部を含む、塗工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の前記被吸着部は、前記電解質膜の外端部の全周を含む、塗工方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の塗工方法であって、
前記被吸着部の前記バックシートからのはみ出し量は、20mm以上である、塗工方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の塗工方法であって、
前記電解質膜の前記粘着層に貼付される面の最大高さは、10μm以上である、塗工方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の塗工方法であって、
前記粘着層の厚みは、20μm以下である、塗工方法。
【請求項7】
電解質膜に触媒インクを塗工する塗工装置であって、
粘着層を有するバックシートと、前記粘着層に貼付された前記電解質膜と、を有する積層基材を吸着保持する負圧面と、
前記負圧面に吸着保持された前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを供給するノズルと、
を備え、
前記電解質膜は、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有し、
前記負圧面は、前記バックシートと、前記電解質膜の前記被吸着部とを吸着する、塗工装置。
【請求項8】
粘着層を有するバックシートと、
前記粘着層に貼付された電解質膜と、
を有する積層基材であって、
前記電解質膜が、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有する、積層基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜に触媒インクを塗工する塗工方法、電解質膜に触媒インクを塗工する塗工装置、および電解質膜およびバックシートを有する積層基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer electrolyte fuel cell)が知られている。固体高分子形燃料電池には、電解質膜の表面に触媒層が形成された膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)が使用される。CCMは、電解質膜の表面に触媒インクを塗工することにより、製造される。なお、イオン交換膜は、プロトン交換膜と呼称される場合もある。
【0003】
水(HO)を電気分解することにより水素(H)を製造する、固体高分子形水電解においても、同様のCCMが使用される。また、例えば、トルエンなどの芳香族化合物を水素化することにより、有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を製造するLОHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)プロセスにおいても、同様のCCMが使用される。
【0004】
CCMを製造する従来の装置については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6669515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電解質膜は、触媒インク中の溶媒(水およびアルコール)を吸収することにより、膨潤変形する。このため、CCMの製造工程では、粘着層付きのバックシートに電解質膜を貼り合わせた状態で、電解質膜に触媒インクを塗工することが考えられる。その際、バックシートの粘着層の粘着力が強いほど、電解質膜の膨潤変形を抑えることができる。
【0007】
ただし、粘着層の粘着力が強すぎると、バックシートから電解質膜を剥離したときに、電解質膜に粘着材が残るという問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、触媒インクの塗工に伴う電解質膜の膨潤変形を抑制し、かつ、バックシートから電解質膜を剥離するときに電解質膜に粘着材が残ることも抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、電解質膜に触媒インクを塗工する塗工方法であって、a)粘着層を有するバックシートと、前記粘着層に貼付された前記電解質膜と、を有する積層基材を準備する工程と、b)負圧を作用させる負圧面に前記積層基材を吸着保持させる工程と、c)前記負圧面に吸着保持された前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを供給する工程と、を含み、前記電解質膜は、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有し、前記工程b)および前記工程c)において、前記バックシートと、前記電解質膜の前記被吸着部とを、前記負圧面に吸着させる。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の塗工方法であって、前記電解質膜の前記被吸着部は、前記電解質膜の少なくとも一方向における両端部を含む。
【0011】
本願の第3発明は、第2発明の塗工方法であって、前記電解質膜の前記被吸着部は、前記電解質膜の外端部の全周を含む。
【0012】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記被吸着部の前記バックシートからのはみ出し量は、20mm以上である。
【0013】
本願の第5発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記電解質膜の前記粘着層に貼付される面の最大高さは、10μm以上である。
【0014】
本願の第6発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の塗工方法であって、前記粘着層の厚みは、20μm以下である。
【0015】
本願の第7発明は、電解質膜に触媒インクを塗工する塗工装置であって、粘着層を有するバックシートと、前記粘着層に貼付された前記電解質膜と、を有する積層基材を吸着保持する負圧面と、前記負圧面に吸着保持された前記積層基材の前記電解質膜の表面に、触媒インクを供給するノズルと、を備え、前記電解質膜は、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有し、前記負圧面は、前記バックシートと、前記電解質膜の前記被吸着部とを吸着する。
【0016】
本願の第8発明は、粘着層を有するバックシートと、前記粘着層に貼付された電解質膜と、を有する積層基材であって、前記電解質膜が、前記バックシートからはみ出した被吸着部を有する。
【発明の効果】
【0017】
第1発明~第8発明によれば、負圧面と被吸着部との間の空間を介して、粘着層と電解質膜の界面に、負圧を作用させることができる。このため、粘着層の粘着力だけではなく、負圧による吸着力により、電解質膜が保持される。これにより、触媒インクの塗工に伴う電解質膜の膨潤変形を抑制できる。また、粘着層の粘着力を抑えることができるため、バックシートから電解質膜を剥離するときに、電解質膜に粘着材が残ることを抑制できる。
【0018】
特に、第2発明によれば、電解質膜の両端部から、粘着層と電解質膜の界面に、負圧を作用させることができる。これにより、バックシートに対して電解質膜を、より良好に吸着させることができる。
【0019】
特に、第3発明によれば、電解質膜の外端部の全周から、粘着層と電解質膜の界面に、負圧を作用させることができる。これにより、バックシートに対して電解質膜を、より良好に吸着させることができる。
【0020】
特に、第4発明によれば、電解質膜の被吸着部を、負圧面に良好に吸着させることができる。
【0021】
特に、第5発明によれば、粘着層と電解質膜との間に、微細な間隙が形成される。これにより、粘着層と電解質膜の界面に、より良好に負圧を作用させることができる。
【0022】
特に、第6発明によれば、粘着層と電解質膜との間の微細な間隙を確保しやすくなる。これにより、粘着層と電解質膜の界面に、より良好に負圧を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】積層基材の上面図である。
図2】積層基材の図1におけるA-A線側面図である。
図3】塗工装置の構成を示した図である。
図4】塗工装置の制御ブロック図である。
図5】塗工処理の流れを示すフローチャートである。
図6】負圧面に吸着保持された積層基材の部分断面図である。
図7】第1実験結果を示した図である。
図8】第1実験結果を示した図である。
図9】第2実験結果を示した図である。
図10】変形例に係る積層基材の部分上面図である。
図11】変形例に係る塗工装置の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<1.積層基材>
図1は、本発明の一実施形態に係る積層基材9の上面図である。図2は、積層基材9の図1におけるA-A線側面図である。この積層基材9は、膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)の製造工程において使用される、矩形状の基材である。
【0026】
積層基材9は、固体高分子形燃料電池用のCCMを製造するためのものであってもよく、あるいは、固体高分子形水電解用のCCMを製造するためのものであってもよい。また、積層基材9は、例えば、トルエンなどの芳香族化合物を水素化することにより、有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を製造するLОHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)プロセスに使用されるCCMを製造するためのものであってもよい。
【0027】
図1および図2に示すように、積層基材9は、電解質膜91と、電解質膜91を支持するバックシート92と、を有する。
【0028】
電解質膜91は、イオン伝導性を有する薄膜(イオン交換膜)である。電解質膜91の材料には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質樹脂が用いられる。具体的には、電解質膜91の材料として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質樹脂が使用される。
【0029】
図2に示すように、電解質膜91は、後述する塗工装置1において触媒インクが塗工される第1面911と、第1面911の裏面である第2面912と、を有する。
【0030】
電解質膜91は、機械的強度が低いため、図1の拡大図中に示すように、補強繊維93を含む場合がある。補強繊維93は、電解質膜91を構成する電解質樹脂よりも機械的強度が高い、網目状または多孔質状の繊維である。補強繊維93には、例えば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)繊維が使用される。電解質膜91は、補強繊維93に電解質樹脂を含浸させることにより形成される。このため、電解質膜91の表面は、補強繊維93の形状に沿った微細な凹凸を有する場合がある。電解質膜91の表面粗さを示す最大高さ(ISO 25178により規定される最大高さSz)は、例えば、10μm~100μmとなる。
【0031】
電解質膜91は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜91は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。また、電解質膜91は、触媒インクが塗工されたときに、触媒インク中の溶媒を吸収することによって、膨潤変形する。
【0032】
特に、固体高分子形水電解用の電解質膜91の厚みは、固体高分子形燃料電池用の電解質膜91の厚みよりも、厚い場合がある。具体的には、固体高分子形燃料電池用の電解質膜の厚みは5μm~30μmであることが多いのに対し、固体高分子形水電解用の電解質膜91は、例えば、50μm~300μmになる場合もある。このような厚みを有する電解質膜91では、上述する膨潤変形の問題が、特に大きい。
【0033】
バックシート92は、電解質膜91の変形を抑制するためのシートである。電解質膜91とバックシート92とは、互いに張り合わされる。これにより、電解質膜91が、バックシート92に支持される。電解質膜91を、単体で取り扱うのではなく、バックシート92に支持された状態で取り扱うことにより、電解質膜91の膨潤変形を抑制できる。また、バックシート92を用いることで、機械的強度が低い電解質膜91を、安定して搬送できる。
【0034】
図2に示すように、バックシート92は、ベースフィルム921と、粘着層922とを有する。
【0035】
ベースフィルム921は、電解質膜91よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂製のフィルムである。ベースフィルム921の材料には、PET(ポリエチレンテレフタレート)が使用される。ただし、PETに代えて、PEN(ポリエチレンナフタレート)、延伸ナイロン、延伸硬質ポリ塩化ビニル、OPP(オリエンテッドポリプロピレン)などを、ベースフィルム921の材料として使用してもよい。ベースフィルム921の厚みは、例えば、50μm~300μmとされる。
【0036】
粘着層922は、ベースフィルム921の一方の表面を覆う粘着材の層である。電解質膜91は、バックシート92の粘着層922に貼付される。より具体的には、電解質膜91の第2面912が、粘着層922に貼付される。粘着層922には、熱可塑性の粘着剤が使用される。具体的には、エポキシ系、アクリル系、シリコーンゴム系の無機溶剤系粘着剤を使用することができる。粘着層922の厚みは、例えば、5μm~20μmとされる。
【0037】
図1に示すように、積層基材9は、上面視において長方形状である。以下では、積層基材9の長辺に沿う方向を「長手方向」と称し、積層基材9の短辺に沿う方向を「幅方向」と称する。ただし、積層基材9は、上面視において正方形状であってもよい。
【0038】
電解質膜91の長手方向の長さL11は、バックシート92の長手方向の長さL21よりも長い。そして、電解質膜91の長手方向の両端部は、バックシート92より外側へはみ出している。同様に、電解質膜91の幅方向の長さL12は、バックシート92の幅方向の長さL22よりも長い。そして、電解質膜91の幅方向の両端部は、バックシート92より外側へはみ出している。
【0039】
この電解質膜91のバックシート92からはみ出した端縁部分は、後述する塗工装置1のステージ10に吸着される部分となる。このため、以下では、電解質膜91のバックシート92からはみ出した端縁部分を「被吸着部94」と称する。ステージ10に被吸着部94を良好に吸着させるために、被吸着部94のバックシート92からのはみ出し量ΔLは、20mm以上とすることが望ましい。
【0040】
<2.塗工装置>
続いて、上記の積層基材9に対して塗工処理を行う塗工装置1について説明する。図3は、塗工装置1の構成を示した図である。この塗工装置1は、固体高分子形燃料電池用または固体高分子形水電解用のCCMの製造工程において、積層基材9の電解質膜91に、電極となる触媒インクを塗工する装置である。図3に示すように、塗工装置1は、ステージ10、吸引機構20、ノズル30、インク供給部40、ノズル移動機構50、および制御部60を備えている。
【0041】
ステージ10は、積層基材9を保持する載置台である。ステージ10の上面は、積層基材9を吸着保持する負圧面11となっている。負圧面11には、多数の微細な吸着孔12が形成されている。
【0042】
負圧面11の形状は、上面視において略長方形状である。負圧面11は、上面視において、積層基材9よりも大きい。すなわち、負圧面11の長手方向の長さは、積層基材9の長手方向の長さ(電解質膜91の長手方向の長さL11)よりも長い。また、負圧面11の幅方向の長さは、積層基材9の幅方向の長さ(電解質膜91の幅方向の長さL12)よりも長い。
【0043】
吸引機構20は、負圧面11の吸着孔12に、負圧を発生させる機構である。図3に示すように、吸引機構20は、吸引管21と、吸引ポンプ22とを有する。吸引管21の一端は、ステージ10内に形成された流路を介して、複数の吸着孔12に接続されている。吸引管21の他端は、吸引ポンプ22に接続されている。
【0044】
吸引ポンプ22を動作させると、ステージ10内に形成された流路および吸引管21から、空気が排出される。これにより、複数の吸着孔12の圧力が、大気圧よりも低い負圧となる。積層基材9は、複数の吸着孔12の負圧の作用によって、負圧面11に吸着保持される。
【0045】
ノズル30は、ステージ10の上方に配置されている。ノズル30は、触媒インクを吐出する吐出口31を有する。本実施形態のノズル30は、スプレーノズルである。ノズル30は、吐出口31から、液滴化された触媒インクを吐出することが可能である。
【0046】
インク供給部40は、ノズル30に触媒インクを供給するための配管部である。図3に示すように、インク供給部40は、インクタンク41、供給管42、および供給ポンプ43を有する。インクタンク41は、未使用の触媒インクを貯留する容器である。触媒インクは、触媒材料(例えば、白金(Pt))を含む粒子を、水およびアルコールなどからなる溶媒中に分散させたスラリー(電極ペースト)である。
【0047】
供給管42の一端は、インクタンク41に接続されている。供給管42の他端は、ノズル30に接続されている。供給ポンプ43は、供給管42の経路上に設けられている。供給ポンプ43を動作させると、インクタンク41から供給管42を通ってノズル30へ、触媒インクが供給される。これにより、ノズル30の吐出口31から触媒インクが吐出される。
【0048】
ノズル移動機構50は、ステージ10上に保持された積層基材9の表面に沿って、ノズル30を移動させる機構である。図3に示すように、ノズル移動機構50は、第1移動機構51と第2移動機構52とを有する。第1移動機構51は、ステージ10上に保持された積層基材9に対してノズル30を、積層基材9の幅方向に沿って移動させる。第2移動機構52は、ステージ10上に保持された積層基材9に対して、ノズル30および第1移動機構51を、積層基材9の長手方向に沿って移動させる。
【0049】
第1移動機構51および第2移動機構52には、例えば、モータの回転運動をボールねじを介して直進運動に変換する機構が使用される。ただし、第1移動機構51および第2移動機構52は、リニアモータを利用した直動機構であってもよい。塗工装置1は、ノズル移動機構50によりノズル30を移動させつつ、ノズル30からステージ10上の積層基材9へ向けて、触媒インクをスプレー状に吐出する。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒インクが塗工される。
【0050】
制御部60は、塗工装置1の各部を動作制御するためのユニットである。制御部60はCPU等のプロセッサ、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。記憶部内には、塗工処理を実行するためのコンピュータプログラムが、記憶されている。
【0051】
図4は、塗工装置1の制御ブロック図である。図4に示すように、制御部60は、上述した吸引ポンプ22、供給ポンプ43、第1移動機構51、および第2移動機構52と、有線または無線により通信可能に接続されている。制御部60は、コンピュータプログラムに従って、塗工装置1内の上記各部を動作制御する。これにより、塗工装置1における塗工処理が進行する。
【0052】
<3.塗工処理>
続いて、上述した塗工装置1を用いて、電解質膜91に触媒インクを塗工する処理の手順について、説明する。図5は、当該塗工処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
図5に示すように、塗工処理を行うときには、まず、積層基材9を準備する(ステップS1)。積層基材9は、バックシート92に電解質膜91を貼付することにより、製造される。より詳細には、バックシート92の粘着層922に、電解質膜91の第2面912が貼付される。
【0054】
上述の通り、電解質膜91の長手方向の長さL11は、バックシート92の長手方向の長さL21よりも長い。また、電解質膜91の幅方向の長さL12は、バックシート92の幅方向の長さL22よりも長い。電解質膜91は、長手方向の両端部および幅方向の両端部が、バックシート92からはみ出した状態でバックシート92に貼付される。これにより、バックシート92からはみ出した被吸着部94を有する電解質膜91と、バックシート92とで構成される積層基材9が得られる。
【0055】
次に、塗工装置1に積層基材9を搬入する。そして、ステージ10の負圧面11に、積層基材9を載置する。このとき、吸引ポンプ22の動作により、負圧面11の複数の吸着孔12が負圧となっている。このため、積層基材9は、負圧面11に吸着保持される(ステップS2)。
【0056】
図6は、負圧面11に吸着保持された積層基材9の部分断面図である。図6に示すように、負圧面11は、バックシート92の下面と、電解質膜91の被吸着部94の下面(第2面912)とを吸着する。このとき、負圧面11と被吸着部94の間に形成される閉空間Sから、複数の吸着孔12へ、空気が吸引される。また、当該閉空間Sを介して、粘着層922と電解質膜91との界面にも、負圧が作用する。このため、電解質膜91は、粘着層922の粘着力だけではなく、負圧による吸引力により、バックシート92に保持される。これにより、電解質膜91が、バックシート92上により安定的に保持されるとともに、電解質膜91の変形が抑制される。
【0057】
続いて、負圧面11に吸着保持された積層基材9の電解質膜91の第1面911に、触媒インクを供給する(ステップS3)。ここでは、供給ポンプ43を動作させることにより、ノズル30から触媒インクを吐出する。そして、ノズル30から触媒インクを吐出しつつ、ノズル移動機構50を動作させることにより、電解質膜91の第1面911に沿って、ノズル30を長手方向および幅方向に移動させる。これにより、電解質膜91の第1面911に、触媒インクが塗工される。
【0058】
電解質膜91に触媒インクが塗工されると、触媒インク中の溶媒の一部が、電解質膜91に浸透する。しかしながら、上述の通り、電解質膜91は、粘着層922の粘着力と、負圧による吸引力との、2つの力によって、バックシート92に保持されている。このため、触媒インクの塗工に伴う電解質膜91の膨潤変形を抑制できる。
【0059】
その後、電解質膜91の第1面911に塗工された触媒インクを、乾燥させる(ステップS4)。具体的には、触媒インクに、加熱された気体を吹き付ける。そうすると、触媒インクが加熱され、触媒インク中の溶媒が気化する。これにより、触媒インクが乾燥して、電解質膜91の第1面911に触媒層が形成される。ただし、触媒インクを乾燥させるための方法は、熱風の供給に限らず、光照射や減圧などの他の方法であってもよい。
【0060】
以上の工程により、バックシート92付きのCCMが得られる。CCMは、最終的には、バックシート92から剥離して使用される。このとき、粘着層922の粘着力が強すぎると、電解質膜91の第2面912に、粘着材が残る場合がある。しかしながら、上記の塗工方法によれば、電解質膜91が、粘着層922の粘着力だけではなく、負圧による吸引力により、バックシート92に保持されるため、吸引力が無い場合と比べて、粘着力の弱い粘着層922を使用することができる。したがって、バックシート92から電解質膜91を剥離するときに、電解質膜91の第2面912に、粘着材が残ることを抑制できる。
【0061】
また、電解質膜91とバックシート92の粘着層922との界面には、貼り合わせ不良などにより、気泡が存在する場合がある。そのような場合でも、本実施形態の塗工方法では、電解質膜91と粘着層922の界面に作用する負圧により、当該気泡が、吸着孔12へ吸引される。したがって、電解質膜91と粘着層922の界面から気泡を除去できる。これにより、触媒インクの塗工不良を、より抑制できる。
【0062】
特に、本実施形態では、バックシート92からはみ出した被吸着部94が、電解質膜91の長手方向および幅方向の両端部に設けられている。このように、被吸着部94が、電解質膜91の少なくとも一方向における両端部を含むようにすれば、電解質膜91の両端部から、粘着層922と電解質膜91の界面に、負圧を作用させることができる。このため、電解質膜91の片端部のみに被吸着部94が設けられている場合と比べて、バックシート92に対して電解質膜91を、より良好に吸着させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、電解質膜91の全周が、バックシート92からはみ出している。すなわち、被吸着部94が、電解質膜91の外端部の全周を囲んでいる。このようにすれば、電解質膜91の外端部の全周から、粘着層922と電解質膜91の界面に、負圧を作用させることができる。これにより、バックシート92に対して電解質膜91を、より良好に吸着させることができる。
【0064】
ステージ10の負圧面11に、被吸着部94を良好に吸着させるために、被吸着部94のバックシート92からのはみ出し量ΔLは、20mm以上とすることが望ましい。また、ステージ10の負圧面11に、被吸着部94をより良好に吸着させるために、被吸着部94のバックシート92からのはみ出し量ΔLは、50mm以上とすることが望ましい。
【0065】
また、本実施形態の塗工方法では、粘着層922の上面と、電解質膜91の第2面912との間に、微細な気道が確保されていることが望ましい。そのために、電解質膜91の第2面912の表面粗さを示す最大高さ(ISO 25178により規定される最大高さSz)は、10μm以上とすることが望ましい。これにより、粘着層922の上面と電解質膜91の第2面912との間に、微細な間隙が形成される。したがって、負圧面11と電解質膜91との間に形成される閉空間Sから、粘着層922と電解質膜91の界面へ、良好に負圧を作用させることができる。
【0066】
ただし、粘着層922の厚みhが厚過ぎると、粘着層922の上面が、電解質膜91の第2面912の形状に沿って変形しやすくなる。そうすると、粘着層922と電解質膜91との間の間隙が小さくなってしまう場合がある。このため、粘着層922の厚みhは、20μm以下とすることが望ましい。これにより、電解質膜91の第2面912の凹部に、粘着材が埋まりにくくなる。したがって、粘着層922と電解質膜91との間の間隙を確保しやすくなる。これにより、粘着層922と電解質膜91との界面に、より良好に負圧を作用させることができる。なお、粘着層922の厚みhは、15μm以下とすることがより望ましい。
【0067】
本実施形態の塗工方法によれば、電解質膜91の膨潤変形を抑制することと、電解質膜91に対する粘着材残りを抑制することとを、両立できる。したがって、CCMの製造不良を大幅に低減できる。これにより、製造不良による電解質膜91の廃棄量を減らし、資源を有効活用することができる。
【0068】
<4.実験例>
続いて、上記実施形態の効果を実証するための実験例について、説明する。この実験では、上述した塗工装置1において、ステージ10の負圧面11に積層基材9を吸着させ、積層基材9の中央に孔を空けて、粘着層922と電解質膜91の界面における気圧を計測した。また、電解質膜91に触媒インクを塗工して、電解質膜91の膨潤の有無等を調べた。また、塗工後の電解質膜91をバックシート92から剥離して、粘着材の付着の有無を調べた。図7および図8は、これらの実験結果(第1実験結果)を示した図である。
【0069】
図7の比較例1~5では、電解質膜91がバックシート92からはみ出していない(すなわち、被吸着部94を有さない)積層基材9を使用した。この場合、粘着層922と電解質膜91の界面には、負圧が作用しないため、粘着層922と電解質膜91の界面の気圧は、0kPaとなった。すなわち、電解質膜91は、粘着層922の粘着力のみで、バックシート92に保持される。
【0070】
比較例1~2では、電解質膜91に対する粘着層922の粘着力が小さいため、触媒インクを塗工したときに、電解質膜91の膨潤変形が大きかった。一方、比較例3~5では、電解質膜91に対する粘着層922の粘着力が大きいため、触媒インクを塗工したときに、電解質膜91の膨潤変形を抑えることができた。すなわち、粘着層922の粘着力のみで電解質膜91の膨潤変形を抑えようとすると、2N/15mm程度以上の粘着力が必要であることが分かった。ただし、比較例3~5では、粘着層922の粘着力が大きいため、バックシート92から電解質膜91を剥離したときに、電解質膜91に粘着層922の粘着材の一部が付着していた。
【0071】
このように、触媒インクを塗工したときの電解質膜91の膨潤変形を抑制することと、バックシート92から剥離したときの電解質膜91における粘着材残りを防止することとを、両立させることは、比較例1~5のいずれにおいても、実現できなかった。
【0072】
また、比較例1~5では、粘着層922と電解質膜91の界面に負圧が作用しないため、粘着層922と電解質膜91の界面に存在する気泡を解消することもできなかった。
【0073】
これに対し、図8の実施例1~2では、電解質膜91がバックシート92からはみ出した(すなわち、被吸着部94を有する)積層基材9を使用した。この場合、粘着層922と電解質膜91の界面に負圧が作用するため、粘着層922と電解質膜91の界面の気圧は、大気圧よりも低い-30kPaとなった。すなわち、電解質膜91は、粘着層922の粘着力と、負圧による吸着力とで、バックシート92に保持される。
【0074】
また、実施例1~2では、触媒インクを塗工したときに、電解質膜91の膨潤変形を抑えることができた。しかも、実験例1~2では、電解質膜91に対する粘着層922の粘着力を小さくしているため、バックシート92から電解質膜91を剥離したときに、電解質膜91に粘着層922の粘着材の一部が付着することも、防止できた。
【0075】
すなわち、実施例1~2では、触媒インクを塗工したときの電解質膜91の膨潤変形を抑制することと、バックシート92から剥離したときの電解質膜91における粘着材残りを防止することとを、両立させることができた。
【0076】
また、実施例1~2では、粘着層922と電解質膜91の界面に存在する気泡を解消する効果も、認められた。気泡を解消することにより、触媒インクの塗工不良を抑制できる。また、気泡は、膨潤変形の起点ともなり得るため、気泡を解消することにより、膨潤変形をより抑制できるという相乗効果も得られる。
【0077】
図9は、粘着層922の厚みhの影響を調べた実験結果(第2実験結果)を示した図である。図9の実施例1~4では、いずれも、電解質膜91がバックシート92からはみ出した(すなわち、被吸着部94を有する)積層基材9を使用した。実施例4に比べて、実施例1~3では、粘着層922の厚みhが薄い。具体的には、実施例1~3では、粘着層922の厚みhが、20μm以下となっている。そして、実施例1~3では、実施例4よりも、粘着層922と電解質膜91の界面の気圧が低くなっている。この結果から、粘着層922の厚みhを20μm以下とすることにより、粘着層922と電解質膜91との間に、微細な間隙による気道が確保されやすく、粘着層922と電解質膜91の界面に、負圧が作用しやすいことが分かる。
【0078】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0079】
上記の実施形態では、ノズル30が、触媒インクをスプレー状に吐出するスプレーノズルであった。しかしながら、ノズル30は、スリット状の吐出口から触媒インクを吐出するスリットダイであってもよい。
【0080】
また、図10のように、積層基材9の形状は、ウェブ状(長尺帯状)であってもよい。積層基材9がウェブ状である場合、電解質膜91の幅方向の両端部が、バックシート92からはみ出した被吸着部94となる。
【0081】
図11は、図10の積層基材9に対して塗工処理を行う塗工装置1の例を示した図である。図11の塗工装置1は、ウェブ状の積層基材9を、ロールtoロール方式で長手方向に搬送しつつ、電解質膜91の第1面911に、触媒インクを塗工する。図11の塗工装置1は、巻き出しローラ81、吸着ローラ82、および巻き取りローラ83を有する。ウェブ状の積層基材9は、巻き出しローラ81から繰り出されて、吸着ローラ82へ供給される。吸着ローラ82の外周面は、複数の吸着孔を有する負圧面となっている。積層基材9は、吸着ローラ82の負圧面に吸着保持されつつ、吸着ローラ82の回転により搬送される。
【0082】
ノズル30は、吸着ローラ82に保持された積層基材9の電解質膜91に、触媒インクを塗工する。このとき、バックシート92と、電解質膜91の被吸着部94とが、吸着ローラ82の負圧面に吸着されている。このため、負圧面と被吸着部94との間の空間を介して、粘着層922と電解質膜91の界面に、負圧が作用する。したがって、粘着層922の粘着力だけではなく、負圧による吸着力により、電解質膜91が保持される。これにより、触媒インクの塗工に伴う電解質膜91の膨潤変形が抑制される。また、粘着層922の粘着力を抑えることができるため、バックシート92から電解質膜91を剥離するときに、電解質膜91に粘着材が残ることを抑制できる。
【0083】
その後、積層基材9は、吸着ローラ82から巻き取りローラ83へ搬送されて、巻き取りローラ83へ回収される。
【0084】
なお、積層基材や塗工装置の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 塗工装置
9 積層基材
10 ステージ
11 負圧面
12 吸着孔
20 吸引機構
30 ノズル
31 吐出口
40 インク供給部
50 ノズル移動機構
60 制御部
81 巻き出しローラ
82 吸着ローラ
83 巻き取りローラ
91 電解質膜
92 バックシート
93 補強繊維
94 被吸着部
911 第1面
912 第2面
921 ベースフィルム
922 粘着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11