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特開2024-30251成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法、および成型炭の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030251
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法、および成型炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/06 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
C10B57/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132977
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】川畑 聡志
(72)【発明者】
【氏名】安村 光太郎
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012PA01
(57)【要約】
【課題】成型炭の結合強度の向上のため、成型炭原料の石炭とバインダーであるデンプンとの均一な混合状態を適切かつ簡便に求めることができる手法を開発し、これを用いた混合方法を提供し、さらに、その混合方法を用いた成型炭の製造方法を提供する。
【解決手段】予め、バインダーの代替として塩を用い、塩の水に対する濃度と導電率との関係を求めておき、混合機に石炭と塩を投入して混合し、混合機内の所定位置ごとに原料混合物を採取し、原料混合物を水と撹拌して塩が溶けた水の導電率を測定し、塩の水に対する濃度と導電率との関係から原料混合物中の塩の濃度を算出し、所望する濃度範囲に入れば、その混合条件に従って石炭とバインダーを混合することを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型炭の原料となる石炭とデンプン系のバインダーとを混合する方法において、
予め、前記バインダーの代替として塩を用いて、前記塩の水に対する濃度と導電率との関係を求める事前測定工程(1)と、
混合機に所定の混合条件で前記石炭と前記塩を投入して混合する試料混合工程(2)と、
混合後の前記混合機内の特定位置の原料混合物を採取する特定位置試料採取工程(3)と、
採取した前記原料混合物を一定量の水と撹拌して、前記原料混合物中の前記塩を水に溶かし、前記塩が溶けた水の導電率を測定する導電率測定工程(4)と、
前記事前測定工程(1)で求めた関係から前記特定位置の原料混合物中の塩の濃度を算出する特定位置塩濃度算出工程(5)と、
前記特定位置塩濃度算出工程(5)で得た前記塩の濃度と前記バインダーの所望する濃度範囲とを比較し、前記塩の濃度が前記バインダーの所望する濃度範囲に入らない場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返す特定位置塩濃度比較工程(6)と、
前記塩の濃度が前記バインダーの所望する濃度範囲に入った場合、前記所定の混合条件を前記バインダーの混合条件として決定する混合条件決定工程(7)と、
前記決定した混合条件に従って実操業で石炭とバインダーを混合する石炭・バインダー混合工程(8)と、
をこの順に備えることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
【請求項2】
成型炭の原料となる石炭とデンプン系のバインダーとを混合する方法において、
予め、前記バインダーの代替として塩を用いて、前記塩の水に対する濃度と導電率との関係を求める事前測定工程(1)と、
混合機に所定の混合条件で前記石炭と前記塩を投入して混合する試料混合工程(2)と、
混合後の前記混合機内の複数位置ごとの原料混合物を採取する複数位置試料採取工程(13)と、
採取した前記原料混合物を一定量の水と撹拌して、前記原料混合物中の前記塩を水に溶かし、前記塩が溶けた水の導電率を測定する導電率測定工程(4)と、
前記事前測定工程(1)で求めた関係から前記複数位置ごとの原料混合物中の塩の濃度を算出する複数位置塩濃度算出工程(15)と、
前記複数位置塩濃度算出工程(15)で得た前記塩の濃度の分布が、所望する濃度分布の範囲に入らない場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返す塩濃度分布判定工程(16)と、
前記塩の濃度分布が所望する濃度分布の範囲となった場合、前記所定の混合条件を前記バインダーの混合条件として決定する混合条件決定工程(7)と、
前記決定した混合条件に従って実操業で石炭とバインダーを混合する石炭・バインダー混合工程(8)と、
をこの順に備えることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
【請求項3】
前記塩濃度分布判定工程(16)において、前記石炭と前記塩の混合割合の標準偏差σを求め、該標準偏差が所望する値から外れる場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
【請求項4】
前記所定の混合条件が、混合時間であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
【請求項5】
前記所定の混合条件が、バインダーの前記混合機への投入位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の混合方法を用いて、前記石炭と前記バインダーを混合し、得られた混合物を成型することを特徴とする成型炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法、および成型炭の製造方法に関する。特に、コークス炉への投入時に粉砕しないように成型炭の強度を向上させるため、成型炭原料の石炭とバインダーの混合割合を簡便に求めることができる混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コークス炉では石炭を投入して乾留し、コークスを製造しているが、石炭を取り扱う際に発生する石炭粉(以下、「粉炭」ともいう。)の活用が求められていた。その活用法の一つとして、石炭粉にバインダーと呼ばれる粘結剤を混合して成型炭とする方法がある。成型炭の代表的なバインダーとして、従来比較的安価なタールピッチやアスファルトピッチが用いられてきたが、ピッチから発生する揮発成分による臭気が問題となる場合があり、臭気の発生しないバインダーとして近年デンプンが注目されている。例えば、特許文献1に記載されているように、石炭粉にバインダーとしてデンプン(スターチ)を混合して成型炭を製造し、その成型炭をコークス炉に投入していた。
【0003】
しかしながら、単に石炭粉とバインダーであるデンプンを混合して成型した成型炭は、石炭よりも強度が低くてコークス炉への投入時に粉砕してしまうという問題があった。
【0004】
一方、石炭とデンプンの混合には、例えば、特許文献2に記載されるようなヘンシェル型ミキサーなどのバッチ式の縦型の混合機、あるいは、特許文献3に記載されるような攪拌羽根を用いた攪拌混合が可能なニーダーと呼ばれる横型の混合機などが活用されている。
【0005】
図4に示す縦型混合機の一例である縦型のヘンシェル型ミキサーは、回転羽根の回転速度が速く、混合性能が高い(完全混合に近くなる)が、設備費が高い。また、図7に示す横型混合機の一例である横型ニーダー混合機は、設備費は安価であるが、混合性能が劣ると言われている。
【0006】
これらの混合機を用いて成型炭の強度を向上させるには、石炭とデンプンの混合量を適切にするとともに、均一に混合しなければならない。そのためには、石炭とデンプンの混合状態を把握し、最適な混合条件を決める必要がある。
【0007】
なお、石炭とバインダーの混合状態を把握する方法としては、従来から、特許文献4に記載の硫黄濃度測定法、あるいは、特許文献1に記載の吸光度測定法などが知られている。
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の硫黄濃度測定等の化学分析法、特許文献1に記載の吸光度測定法等の光度計法は、測定装置が高価であり、測定手順も複雑であって専門的技術を要し、結果を得るまでに時間を要し、迅速性に欠け、効率的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-177165号公報
【特許文献2】実開昭61-152405号公報
【特許文献3】特開2009-028650号公報
【特許文献4】国際公開WO2015-177998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、成型炭の結合強度の向上のため、成型炭原料の石炭とバインダーであるデンプンとの混合状態を適切かつ簡便に求めることができる手法を開発し、これを用いた混合方法を提供することを目的とする。さらには、その混合方法を用いた成型炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来は、石炭とバインダーの混合状態を把握するため、その混合物そのものを測定していたので、測定装置が高価で、かつ手順が複雑であるという問題があった。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、混合するバインダーの量は石炭の量に比べて1wt%(重量%)程度とわずかであることから、バインダーの混合状態を把握するためのバインダーの代替物として、安価な材料である「塩」を指標として用いるのが有効であることを見出した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであり、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕成型炭の原料となる石炭とデンプン系のバインダーとを混合する方法において、
予め、前記バインダーの代替として塩を用いて、前記塩の水に対する濃度と導電率との関係を求める事前測定工程(1)と、
混合機に所定の混合条件で前記石炭と前記塩を投入して混合する試料混合工程(2)と、
混合後の前記混合機内の特定位置の原料混合物を採取する特定位置試料採取工程(3)と、
採取した前記原料混合物を一定量の水と撹拌して、前記原料混合物中の前記塩を水に溶かし、前記塩が溶けた水の導電率を測定する導電率測定工程(4)と、
前記事前測定工程(1)で求めた関係から前記特定位置の原料混合物中の塩の濃度を算出する特定位置塩濃度算出工程(5)と、
前記特定位置塩濃度算出工程(5)で得た前記塩の濃度と前記バインダーの所望する濃度範囲とを比較し、前記塩の濃度が前記バインダーの所望する濃度範囲に入らない場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返す特定位置塩濃度比較工程(6)と、
前記塩の濃度が前記バインダーの所望する濃度範囲に入った場合、前記所定の混合条件を前記バインダーの混合条件として決定する混合条件決定工程(7)と、
前記決定した混合条件に従って実操業で石炭とバインダーを混合する石炭・バインダー混合工程(8)と、
をこの順に備えることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
〔2〕成型炭の原料となる石炭とデンプン系のバインダーとを混合する方法において、
予め、前記バインダーの代替として塩を用いて、前記塩の水に対する濃度と導電率との関係を求める事前測定工程(1)と、
混合機に所定の混合条件で前記石炭と前記塩を投入して混合する試料混合工程(2)と、
混合後の前記混合機内の複数位置ごとの原料混合物を採取する複数位置試料採取工程(13)と、
採取した前記原料混合物を一定量の水と撹拌して、前記原料混合物中の前記塩を水に溶かし、前記塩が溶けた水の導電率を測定する導電率測定工程(4)と、
前記事前測定工程(1)で求めた関係から前記複数位置ごとの原料混合物中の塩の濃度を算出する複数位置塩濃度算出工程(15)と、
前記複数位置塩濃度算出工程(15)で得た前記塩の濃度の分布が、所望する濃度分布の範囲に入らない場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返す塩濃度分布判定工程(16)と、
前記塩の濃度分布が所望する濃度分布の範囲となった場合、前記所定の混合条件を前記バインダーの混合条件として決定する混合条件決定工程(7)と、
前記決定した混合条件に従って実操業で石炭とバインダーを混合する石炭・バインダー混合工程(8)と、
をこの順に備えることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
〔3〕前記〔2〕に記載の、前記塩濃度分布判定工程(16)において、前記石炭と前記塩の混合割合の標準偏差σを求め、該標準偏差が所望する値から外れる場合、前記所定の混合条件を変更して、前記試料混合工程(2)から繰り返すことを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
〔4〕前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一つにおいて、前記所定の混合条件が、混合時間であることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
〔5〕前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一つにおいて、前記所定の混合条件が、バインダーの前記混合機への投入位置であることを特徴とする成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法。
〔6〕前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一つに記載の混合方法を用いて、前記石炭と前記バインダーを混合し、得られた混合物を成型することを特徴とする成型炭の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、成型炭原料の石炭とバインダーの混合状態を把握するため、バインダーの代替として塩を用い、その混合物を水に溶解した後の導電率を測定することで、安価で専門的技術を要さず、簡便に精度よく混合状態(濃度のバラツキ)が把握できる。また、導電率の測定においては、迅速にその結果が得られるので測定時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る特定位置試料採取による混合方法の手順を示すフローチャートである。
図2】本発明に係る混合方法に用いる塩の濃度と導電率の関係の一例を示す図である。
図3】本発明に係る複数位置試料採取による混合方法の手順を示すフローチャートである。
図4】縦型混合機の一例であるヘンシェル型ミキサーの概要を示す断面模式図である。
図5】縦型混合機を用いたときの試料採取位置と導電率測定方法の概略を説明する模式図である。
図6】縦型混合機を用いたときの混合物試料の塩の濃度測定結果を示す模式図である。
図7】横型混合機の一例である横型ニーダー混合機の概要を示す断面模式図である。
図8】横型混合機を用いたときの試料採取位置を説明する模式図である。
図9】横型混合機への塩の投入位置と混合後の塩の濃度測定結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法、およびその混合方法を用いた成型炭の製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明する。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表わされた各部材の寸法やそれらの比は、実際のものとは異なる場合もある。
【0017】
[成型炭の製造方法]
まず、コークスの製造プロセスに用いる成型炭の製造方法の一例を説明する。
成型炭の原料となる石炭粉(粉炭)の一部にバインダーとしてデンプンを混合し、その混合物を成型機にかけて成型炭を得る。
【0018】
なお、用いるデンプンの種類は、例えば、タピオカ、じゃがいも、さつまいも、とうもろこし、米、小麦などの原料植物から製造されたデンプンが適宜使用できる。また、植物由来のデンプンを加工したデンプン誘導体や化学合成したデンプンなども使用することができる。
【0019】
[混合方法の手順1]
次に、本発明に係る成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法について説明する。
混合方法に関する手順1の各工程を、図1のフローチャートに基づき説明する。
【0020】
「事前測定工程」(1)では、予め、バインダーの代替として塩を用いて、塩の水に対する濃度と導電率との関係を求めておく。この関係の一例として、塩の水に対する濃度(g-塩/L-水)と導電率(mS/cm)の検量線の例を図2に示す。
【0021】
「試料混合工程」(2)では、対象となる混合機に所定の混合条件で石炭と塩を投入して混合する。
【0022】
「特定位置試料採取工程」(3)では、上記「試料混合工程」(2)で混合後、混合機内の特定位置で混合物(試料)を採取する。
【0023】
「導電率測定工程」(4)では、上記「特定位置試料採取工程」(3)で採取した原料混合物を、一定量の水と撹拌して、原料混合物中の塩を水に溶かし、塩が溶けた水の導電率を測定する。
【0024】
「特定位置塩濃度算出工程」(5)では、上記「導電率測定工程」(4)で測定した導電率から上記「事前測定工程」(1)で求めた塩の水に対する濃度と導電率の関係を用いて原料混合物中の塩の濃度を算出する。
【0025】
一方、混合する石炭の重量全体と混合するバインダーの重量全体との和に対するバインダーの重量全体の比から、完全に均一に混合(以下、「完全混合」ともいう。)したと仮定した場合のバインダーの理論的な濃度(以下、「完全混合濃度」ともいう。)(wt%)が算出できる。
【0026】
従って、「特定位置塩濃度比較工程」(6)では、前記特定位置から採取した石炭と塩の混合部について、導電率を測定して塩の濃度(混合状態)を求め、その測定値と上記のバインダーの完全混合濃度とを比較する。その差が所望する範囲に入らなければ、「試料混合工程」(2)に戻って、所定の混合条件を変更して混合し、「特定位置試料採取工程」(3)、「導電率測定工程」(4)、「特定位置塩濃度算出工程」(5)、「特定位置塩濃度比較工程」(6)を繰り返す。
【0027】
「特定位置塩濃度比較工程」(6)で、上記測定値とバインダーの完全混合濃度とを比較し、その差が所望する範囲内であれば、「混合条件決定工程」(7)で、バインダーの混合条件として決定することができる。
【0028】
「石炭・バインダー混合工程」(8)では、決定した混合条件に従って、石炭とバインダーを混合する。
【0029】
[混合方法の手順2]
続いて、本発明に係る成型炭原料の石炭とバインダーの混合方法に関する手順2の各工程を、図3のフローチャートに基づき説明する。
【0030】
「事前測定工程」(1)では、前述の混合方法の手順1と同様に、予め、バインダーの代替として塩を用いて、塩の水に対する濃度と導電率との関係として図2に一例を示す検量線を求めておく。
【0031】
「試料混合工程」(2)でも、前述の混合方法の手順1と同様に、対象となる混合機において、所定の混合条件で石炭と塩を投入して混合する。
【0032】
「複数位置試料採取工程」(13)では、上記「試料混合工程」(2)での混合後に、混合機内の複数の所定位置ごとに混合された原料混合物(試料)を採取する。
【0033】
「導電率測定工程」(4)では、上記「複数位置試料採取工程」(13)で採取した複数位置ごとの原料混合物を、それぞれ一定量の水と撹拌して、原料混合物中の塩を水に溶かし、塩が溶けた水の導電率を測定する。
【0034】
「複数位置塩濃度算出工程」(15)では、上記「導電率測定工程」(4)で測定した導電率から上記「事前測定工程」(1)で求めた検量線を用いて、複数位置それぞれの原料混合物中の塩の濃度を算出する。
【0035】
「塩濃度分布判定工程」(16)では、前記「複数位置塩濃度算出工程」(15)で求めた測定値の分布が、所望する濃度分布の範囲となるか判定する。例えば、複数位置の濃度分布において、各位置の濃度の差が所望する範囲に入るか判定する。その差が所望する範囲に入らなければ、「試料混合工程」(2)に戻って、所定の混合条件を変更して混合し、「複数位置試料採取工程」(13)、「導電率測定工程」(4)、「複数位置塩濃度算出工程」(15)、「塩濃度分布判定工程」(16)を繰り返す。
【0036】
「混合条件決定工程」(7)では、「塩濃度分布判定工程」(16)で各位置の濃度の差が所望する範囲に入れば、バインダーの混合条件として決定することができる。
【0037】
「石炭・バインダー混合工程」(8)では、決定した混合条件に従って、石炭とバインダーを混合する。
【0038】
さらに、上記の「複数位置塩濃度算出工程」(15)では、塩の濃度だけでなく、さらに混合割合の標準偏差σを求めるとよい。
【0039】
「塩濃度分布判定工程」(16)では、混合割合の標準偏差σの値が、所望する範囲となるか判定する。例えば、複数位置の濃度分布において、各位置の混合割合の標準偏差σが所望する範囲に入るか判定する。標準偏差が所望する範囲に入らなければ、「試料混合工程」(2)に戻って、混合条件を変更して混合し、「複数位置試料採取工程」(13)、「導電率測定工程」(4)、「複数位置塩濃度算出工程」(15)、「塩濃度分布判定工程」(16)を繰り返す。
【0040】
[成型炭の製造]
使用する混合装置ごとに、上記の「石炭・バインダー混合工程」(8)により求めた実操業上の混合条件で石炭とバインダーを混合することにより、強度が向上した成型炭を製造することができる。
【0041】
[バインダー代替物としての塩]
次に、本発明において、混合条件を選定するため、バインダー代替物として塩を用いた理由を説明する。
【0042】
塩は、塩化ナトリウム(NaCl)を主な成分とし、石炭とは微細な固形物のまま混合できる。また、混合した後に採取した試料を一定量の水に混ぜると、塩のみが水に容易に溶解するので、塩の水溶液の導電率を測定することで塩の含有量を簡便に得ることができる。さらに、塩の水溶液濃度と導電率の関係はほぼ直線となるので、導電率から一定量の水に対する塩の含有量を求めることができ、塩の含有量と試料採取した混合物の重量から混合状態が求まる。
導電率の測定は、JIS K 0130「電気伝導率測定法通則」に定められている。
【0043】
[検量線の求め方]
図2は、前述した混合方法の事前測定工程(1)で予め求めた塩の濃度と導電率の関係を示した例である。水1Lに対し、塩を0g、0.5g、1.0gおよび2.0gを溶かして、それぞれの導電率を測定した結果を示したものであり、図2中に記載したように、次の式(1)で表される関係の検量線が得られた。
y=1.6098x+0.2844 ・・・ (1)
ここで、x:塩の濃度(g-塩/L-水)、y:導電率(mS/cm)である。
【0044】
また、このときの検量線(回帰式)の決定係数は、R2=0.9999であり、極めて高い相関性を示した。
【0045】
従って、上記の式(1)から、塩が溶けた水の導電率(y)を測定すれば、その塩の濃度(x)を求めることができる。
【0046】
[混合割合の標準偏差σ]
混合機内の各測定位置より採取した試料中の着目成分の濃度Ciの平均値濃度C0に対する標準偏差σは、次の式(I)で示される。
【0047】
【数1】
【0048】
本発明においては、濃度Ciは、各試料の塩の濃度〔wt%〕である。また、平均値濃度C0は、完全混合状態における濃度であって、試料全体に投入した塩の濃度〔wt%〕に相当する。そして、複数の試料採取位置から採取した試料により、上記の標準偏差σを求めるとよい。
【実施例0049】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をさらに詳しく説明する。
本発明に係る混合方法によって、石炭とバインダーが均一に混合できることを実証するために、後述する2種類の混合装置(縦型混合機のヘンシェル型ミキサーと横型混合機の横型ニーダー混合機)を用いて、石炭とバインダーとの混合条件を求める検討を行った。
【0050】
検討方法は、石炭と塩とを混合機に投入した。所定の混合時間で、石炭と塩を混合し、混合後に、混合機の所定位置(10ヶ所)から試料採取し、採取した試料(原料)に一定量の水を混ぜて導電率を測定した。水のみの導電率と比較することで塩の含有量が分かる。
以下に、その結果について説明する。
【0051】
[縦型混合機を用いた場合]
まず、図4に示すヘンシェル型ミキサーを用いて、石炭に対し1wt%の塩を投入して、5秒から600秒まで時間を変更して混合した。完全混合した塩の濃度は1wt%である。
【0052】
5秒、180秒および600秒の混合時間ごとの混合物について、図5(a)に上面視するヘンシェル型ミキサー内の10ヶ所の試料採取位置からそれぞれ混合物試料を50g採取した。採取した混合物を図5(b)に示すように500cm3の水に溶かしてそれぞれ導電率(mS/cm)を測定した。さらに、その導電率から図2の検量線を用いて塩の濃度(wt%)を求め、その塩の濃度から溶解に用いた水の量に対する塩の重量を求め、その塩の重量から採取した混合物の重量(50g)を基準として各採取位置における混合物の塩の濃度(wt%)を求めた。その結果を図6に示す。
【0053】
図6(a)の混合時間5秒では、完全混合1wt%の場合に比較して、ヘンシェル型ミキサー内の各採取位置によって塩の濃度が各採取位置で大きく変化していることがわかり、混合時間5秒では適切でないことがわかった。
【0054】
また、図6(b)の混合時間が180秒になると、各採取位置の塩の濃度は、完全混合1wt%の場合に近づき、比較的良好な混合状態になることがわかった。
【0055】
さらに、図6(c)の混合時間が600秒と十分確保されると、各採取位置の塩の濃度は、完全混合1wt%に近づくまで混合されることがわかった。
【0056】
以上の結果から、縦型混合機のヘンシェル型ミキサーを用いる場合、石炭とバインダーの混合物を用いた成型炭の強度を向上させるためには、石炭とバインダーの混合時間を600秒まで確保する必要があることがわかった。
【0057】
[横型混合機を用いた場合]
次に、図7に示した横型ニーダー混合機を用いて以下の検討を行った。
この横型ニーダー混合機は、上部の蓋を全長に亘って開閉できるので、デンプンの代替物である塩の投入位置を変更して混合した。なお、石炭全体に対する塩の割合を1wt%とした。横型ニーダー混合機における投入位置は、図8に示すとおり、混合機の長手方向に10分割し、分割位置ごとに混合物試料を100g採取し、採取した混合物試料を1000cm3の水に溶解して、導電率を測定した。塩の濃度(wt%)と導電率の関係は、前述した図2に示す検量線により求めた。
【0058】
測定した導電率から塩の濃度を求め、その塩の濃度と溶解に用いた水の量から塩の重量を求め、その塩の重量から採取した混合物の重量(100g)を基準として混合物の塩の濃度の分布を求めた。その結果を図9に示す。
【0059】
横型ニーダー混合機の場合は、敢えて塩の投入量を不揃いにし、具体的には、混合機の上方から不均一に塩を投入して行った。
【0060】
図9(a)に示すように、横型ニーダー混合機への塩の投入位置について、混合機の左側約1/4の位置に塩を投入せずに、混合を行ったところ、図9(a)のグラフに示したように、混合機の左側約1/4までの塩の濃度がかなり低下していた。
【0061】
これに対し、図9(b)に示すように、横型ニーダー混合機への塩の投入をほぼ均等とした場合、完全混合に近い状態になることがわかった。
【0062】
以上の結果から、横型ニーダー混合機の場合、塩の投入位置による影響が大きいことがわかった。従って、横型ニーダー混合機を用いる場合、そこから得られた混合物を用いて成型して十分な強度を有するためには、混合機の長手方向全体に、石炭とバインダーがほぼ同じとなる量を投入することが重要であることがわかった。
【0063】
[混合条件の決定]
以上説明したように、石炭とバインダーの最適な混合条件を決定するには、それぞれ使用する混合機ごとに、石炭とバインダーの混合割合の変化を事前に把握しておき、それぞれの混合機にとって、効率のよい混合条件を求めておく必要がある。そのための方法として、本発明であるバインダーの代替物として塩を用いて石炭との混合状態を調べる方法が、簡便にかつ適切に混合状態が分かるものであり、従来にない優れた効果が得られる方法であることがわかった。
【符号の説明】
【0064】
1 縦型混合機本体
2 回転軸
3、4 回転羽根
11 横型混合機本体
12 回転軸
13 スクリュー羽根
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9