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特開2024-30268擁壁ブロックとネット構造体からなる擁壁構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030268
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】擁壁ブロックとネット構造体からなる擁壁構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
E02D29/02 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133014
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000199463
【氏名又は名称】株式会社トッコン
(74)【代理人】
【識別番号】100121762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100126767
【弁理士】
【氏名又は名称】白銀 博
(72)【発明者】
【氏名】荒井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】郭 知旭
【テーマコード(参考)】
2D048
【Fターム(参考)】
2D048AA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】円筒ブロックを使用した擁壁構造において、背面側からの土圧による擁壁ブロックの滑動を防止することができると共に、大きな揺れを伴う地震に遭遇したとしても、円筒ブロックが滑動したり、崩れてしまったりするような損傷を受けにくい擁壁構造を、簡便な工法で、かつ低コストで構築できる擁壁構造を提供する。
【解決手段】複数の隣接して配置された円筒ブロックと、複数の円筒ブロックの背面側に配置され、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したネット構造体と、複数の円筒ブロックとネット構造体とによって画成される空間に充填された中詰材と、から構成された擁壁構造であって、ネット構造体を形成する帯状シートの横方向、および円筒ブロックの軸心方向が擁壁構造の上下方向に配向されており、ネット構造体と円筒ブロックとは互いに連結されている構成の擁壁構造とした。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の隣接して配置された円筒ブロックと、
複数の円筒ブロックの背面側に配置され、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したネット構造体と、
複数の円筒ブロックと、ネット構造体とによって画成される空間に充填された中詰材と、から構成された擁壁構造であって、
ネット構造体を形成する帯状シートの横方向、および円筒ブロックの軸心方向が擁壁構造の上下方向に配向されており、
ネット構造体と円筒ブロックとは互いに連結されている
ことを特徴とする擁壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の擁壁構造において、
前記ネット構造体は、帯状シートを折り返した屈曲部を複数備え、擁壁上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有し、折り返した屈曲部の先端部分と円筒ブロックの側壁とが互いに連結されている
ことを特徴とする擁壁構造。
【請求項3】
複数の隣接して配置された平板状ブロック又は矩形状ブロックと、
複数の平板状ブロック又は矩形状ブロックの背面側に配置され、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したネット構造体と、
複数の平板状ブロック又は矩形状ブロックと、ネット構造体とによって画成される空間に充填された中詰材と、から構成された擁壁構造であって、
ネット構造体を形成する帯状シートの横方向が擁壁構造の上下方向に配向されており、
ネット構造体と平板状ブロック又は矩形状ブロックとは互いに連結されていることを特徴とする擁壁構造。
【請求項4】
請求項3に記載の擁壁構造において、
前記ネット構造体は、帯状シートを折り返した屈曲部を複数備え、擁壁上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有し、折り返した屈曲部の先端部分と平板状ブロック又は矩形状ブロックとが互いに連結されている
ことを特徴とする擁壁構造。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の擁壁構造であって、
前記擁壁構造を高さ方向に複数段積上げた構成の擁壁構造。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の擁壁構造において、
前記円筒ブロックの外周面には、外周外側方向に突出した複数の突起部が設けられ、水平面内に配置された隣り合う円筒ブロックの突起部同士が互いに噛合うように配置されていることを特徴とする擁壁構造。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の擁壁構造において、
前記隣接した円筒ブロックを拘束し合うかすがい状部材を、更に備えたことを特徴とする擁壁構造。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路工事、河川工事、宅地造成工事の土留擁壁や護岸の構築に使用される擁壁構造に関するものであり、更に詳細には、大きな揺れを伴う地震に遭遇したとしても、損傷を受けにくい擁壁構造を簡便な工法で、かつ低コストで構築できる擁壁構造に関係する。
【背景技術】
【0002】
道路工事、河川工事、宅地造成工事の土留擁壁や護岸の構築に使用される擁壁構造として、様々な擁壁ブロックを積み上げて構築する擁壁構造(例えば、空積みコンクリートブロック積工法による擁壁構造)が提案されている。
このような擁壁構造においては、擁壁構造の背面側(盛土または切土側)からの土圧に耐えて擁壁ブロックが滑動するのを防止するために、様々な対策が取られている。
【0003】
特に、擁壁ブロックの滑動を抑える工法として補強土工法があり、この補強土工法の代表的な工法に、多数アンカー式補強土壁工法、テールアルメ工法、ジオテキスタイル補強土壁等がある。
【0004】
多数アンカー式補強土壁工法は、盛土内に配置された鋼製のアンカー補強材の支圧抵抗力による引抜抵抗力で土留効果を発揮させる工法であり、盛土の補強機構として、壁面材とアンカープレートに挟まれた盛土材を一体化して拘束補強することで盛土全体の強度を高め安定を図るものである。
【0005】
また、テールアルメ工法は、盛土内に層状に複数の帯鋼補強材を配置した後、これらを転圧することにより、帯鋼補強材と盛土材との間の摩擦力を高め、この摩擦抵抗による引抜抵抗力で壁面材の土留効果を高める工法である。 盛土の補強機構として、盛土内に無数に敷設された帯鋼補強材と盛土との間に生じる摩擦抵抗による「擬似粘着力」で盛土全体の強度を高め安定を図るものである。
【0006】
また、ジオテキスタイル補強土壁工法は、盛土内に面状に敷設した高分子素材のジオテキスタイルと盛土材との間の摩擦力による引抜抵抗力及びジオテキスタイルのインターロッキング効果により壁面材の土留効果を発揮させる工法である。この工法は、ジオテキスタイルの引張り力で盛土全体としての強度を高め安定を図るものである。面状の補強材(ジオテキスタイル)を盛土面全面に複数層に亘って敷設するため、適用できる盛土材の適用範囲が比較的広く、排水機能を備えた不織布素材の補強材(ジオテキスタイル)を用いれば、含水比の高い火山灰質粘性土などでも盛土材として適用できる場合がある。
【0007】
特許文献1は、多数アンカー式補強土壁工法に係る発明を開示した代表例であり、特許文献2は、テールアルメ工法に係る発明を開示した代表例であり、特許文献3は、ジオテキスタイル補強土壁工法に係る発明を開示した代表例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-63595号公報
【特許文献2】特開平10-183624号公報
【特許文献3】特開平9-279580号公報
【0009】
しかしながら、多数アンカー式補強土壁工法におけるアンカー補強材の引抜抵抗力や、テールアルメ工法における帯鋼補強材の摩擦抵抗による引抜抵抗力や、ジオテキスタイル補強土壁工法におけるジオテキスタイルの摩擦力による引抜抵抗力は必ずしも大きくないため、大きな揺れを伴う地震に遭遇した場合に、擁壁ブロックが滑動したり、崩れてしまったりするような損傷を受けてしまうことがある。
【0010】
更に、上述した多数アンカー式補強土壁工法では、鋼製のアンカー補強材の端部を壁面材に一体的に埋め込んだ方式の場合、全体が長尺になってしまうため輸送や取扱いに難がある。 また、鋼製のアンカー補強材と壁面材を、現場作業によってターンバックル等を介して接続する場合には、擁壁構造の構築に人手が多く必要になるというコスト上の問題があった。
【0011】
また、上述したテールアルメ工法では、帯鋼補強材を盛土内に敷設する際に盛土を転圧しつつ帯鋼補強材を盛土内に敷設する必要があるため、擁壁構造の構築に人手が多く必要になるというコスト上の問題があった。
【0012】
また、上述したジオテキスタイル補強土壁工法では、テールアルメ工法と同様に、ジオテキスタイルを盛土内に敷設する際に盛土を転圧しつつジオテキスタイルを盛土内に敷設する必要があるため、擁壁構造の構築に人手が多く必要になるというコスト上の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術に係る問題に鑑みてなされたものであり、様々な擁壁ブロックを使用した擁壁構造において、背面側からの土圧による擁壁ブロックの滑動を防止することができると共に、大きな揺れを伴う地震に遭遇したとしても、擁壁ブロックが滑動したり、崩れてしまったりするような損傷を受けにくい擁壁構造を、簡便な工法で、かつ低コストで構築できる擁壁構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、第1の観点に係る発明では、複数の隣接して配置された円筒ブロックと、複数の円筒ブロックの背面側に配置され、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したネット構造体と、複数の円筒ブロックとネット構造体とによって画成される空間に充填された中詰材と、から構成された擁壁構造であって、ネット構造体を形成する帯状シートの横方向、および円筒ブロックの軸心方向が擁壁構造の上下方向に配向されており、ネット構造体と円筒ブロックとは互いに連結されている構成の擁壁構造とした。
【0015】
また、第2の観点に係る発明では、第1の観点に係る発明において、ネット構造体は、帯状シートを折り返した屈曲部を複数備え、擁壁上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有し、折り返した屈曲部の先端部分と円筒ブロックの側壁とが互いに連結されている構成の擁壁構造とした。
【0016】
更に、第3の観点に係る発明では、複数の隣接して配置された平板状ブロック又は矩形状ブロックと、複数の平板状ブロック又は矩形状ブロックの背面側に配置され、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したネット構造体と、複数の平板状ブロック又は矩形状ブロックと、ネット構造体とによって画成される空間に充填された中詰材と、から構成された擁壁構造であって、ネット構造体を形成する帯状シートの横方向が擁壁構造の上下方向に配向されており、 ネット構造体と平板状ブロック又は矩形状ブロックとは互いに連結されている構成の擁壁構造とした。
【0017】
また、第4の観点に係る発明では、第3の観点に係る発明において、ネット構造体は、帯状シートを折り返した屈曲部を複数備え、擁壁上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有し、折り返した屈曲部の先端部分と平板状ブロック又は矩形状ブロックとが互いに連結されている構成の擁壁構造とした。
【0018】
また、第5の観点に係る発明では、第1乃至第4の観点に係る擁壁構造を高さ方向に複数段積上げた構成の擁壁構造とした。
【0019】
更に、第6の観点に係る発明では、第1又は第2の観点に係る発明において、円筒ブロックの外周面には、外周外側方向に突出した複数の突起部が設けられ、水平面内に配置された隣り合う円筒ブロックの突起部同士が互いに噛合うように配置されている構成の擁壁構造とした。
【0020】
また、第7の観点に係る発明では、第1又は第2の観点に係る発明において、隣接した円筒ブロックを拘束し合うかすがい状部材を、更に備えた構成の擁壁構造とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の隣接して配置された種々のタイプの擁壁ブロックと、複数の擁壁ブロックの背面側に配置されたネット構造体と、これらによって画成される空間に充填された中詰材とによって構成された擁壁構造とすると共に、ネット構造体と擁壁ブロックとを互いに連結することにより、背面側からの土圧による擁壁ブロックの滑動を防止することができると共に、たとえ大きな揺れを伴う地震に遭遇したとしても、ネット構造体とその中に充填された中詰材とが一体となって(言い換えれば中詰材の重量によって)擁壁ブロックを強く拘束するため、擁壁ブロックが滑動したり、崩れ落ちてしまったりするような損傷を受けにくくし、簡便な工法で、かつ低コストで極めて強靭な擁壁構造を構築できる。
【0022】
また、本発明に係る擁壁構造は、現場打ちのコンクリートを使用すること無く、耐震性の優れた擁壁構造とすることができる。
【0023】
特に、ネット構造体を形成する際に網目構造を持つ帯状シートを使用し、この帯状シートを折り返して屈曲部を形成させ、擁壁上方から見た形状が複数の「コ」の字状の形状が連なるような形態とし、これらの折り返した屈曲部の先端部分と複数の擁壁ブロックとを互いに連結した構成の擁壁構造とすることにより、網目構造を持つ帯状シートを「一筆書き」状に設置することが可能になるため、極めて簡便な工法で擁壁構造を構築することができ、その結果低コストな擁壁構造とすることが可能となる。
【0024】
特に、本発明では、網目構造を持つ帯状シートを「一筆書き」状に設置する際、折り返した屈曲部の先端部分の位置を自由に設定することができるため、擁壁ブロックとして円筒ブロックを使用し、これとネット構造体を組み合わせることにより、立体的な曲面を有する擁壁を自由自在に構築できるという効果を併せて奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に使用される擁壁ブロックの実施例の1つである円筒ブロックを示したものであって、円筒ブロックの外周面に、外周外側方向に突出した複数の突起部が設けられた円筒ブロックの平面図とその断面図を示したものである。
図2図2は、本発明に使用される擁壁ブロックの実施例の1つである平板状ブロックの典型例を示したものであって、平板状ブロックの背面に、後方に伸びた脚を備えた平板状ブロックの斜視図を示したものである。
図3図3は、本発明に使用される擁壁ブロックの実施例の1つである矩形状ブロックの典型例を示したものであって、矩形状ブロックの上方から見た場合に矩形状の形状部分を備えたブロックの斜視図を示したものである。
図4図4は、擁壁ブロックとして円筒ブロックを使用した場合の、本発明に係る擁壁構造の1段分を示した斜視図であり、中詰材を除いた状態を示した図である。
図5図5は、図4に示す擁壁構造の側面図を示した図である。
図6図6は、図4に示す擁壁構造の平面図を示した図である。
図7図7は、図4に示す擁壁構造のうち、ネット構造体のみを取り出して示した斜視図である。
図8図8は、擁壁ブロックとして円筒ブロックを使用した場合の、本発明に係る擁壁構造の1段分を示した平面図であり、中詰材をも含めた状態を示した図である。
図9図9は、擁壁ブロックとして円筒ブロックを使用した場合の、本発明に係る擁壁構造の側面図を示した図であり、図4に示した擁壁構造を複数段段積みした状態の擁壁構造を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。 本発明における擁壁構造1は、複数の擁壁ブロックと、ネット構造体20と、中詰材30と、連結材40の要素から成り立っている。
擁壁ブロックとしては、種々のタイプの擁壁ブロックを使用することができ、本明細書では、擁壁ブロックを円筒ブロック10、平板状ブロック50、矩形状ブロック60に大別した上で説明する。
【0027】
本発明の擁壁構造1は、擁壁ブロックを空積みして構築するものであり、擁壁ブロックとして、図1に示す円筒ブロック10を使用した擁壁構造について最初に説明する。
円筒ブロック10は、中空円筒状の形状を有し、直径(D)、高さ(L)、肉厚(T)等の寸法は特に限定されるものではない。 なお、本明細書において中空円筒状の形状とは、断面外周および断面内周が円に限定されるものではなく、楕円、5角形以上の多角形を含む概念であり、更に、円錐台や角錐台をも含む概念である。
【0028】
擁壁ブロックは、擁壁の土留めとして機能するとともに、擁壁の形状を安定的に保持するためのものである。 本発明では擁壁ブロックとして円筒ブロック10を使用しているため、隣接する円筒ブロック10の相対的な位置関係を自由に設定することができるから、立体的な曲面を有する壁面を有する擁壁構造1を自由自在に構築することが可能になっている。
【0029】
更に、円筒ブロック10の外周面には、図1に示すように、半径方向に突出した複数の突起部11を設け、水平面内に配置された隣り合う円筒ブロック10の突起部11同士が互いに噛合うように配置することもできる。 なお、この突起部11は、円筒ブロック10の全高に亘って伸びるようにしても良いし、円筒ブロック10の全高のうちの一部分にわたって設けるようにしても良い。
【0030】
このように、円筒ブロック10の外周外側方向に突出した複数の突起部11を設けることにより、複数の円筒ブロック10を水平面内に配置し互いに隣接させて設置させると、隣り合う円筒ブロック10の突起部11同士が互いに噛合い、互いに拘束し合うことにより、より強固な擁壁を構築することが可能となる。
【0031】
円筒ブロック10は、コンクリートを使用して形成することができる。 使用するコンクリートとしては、透水性コンクリートおよび非透水性コンクリートのいずれであってもよい。
また、円筒ブロック10はコンクリート製に限定されるものではなく、コンクリート以外の材料を使用して構成することもできる。
【0032】
円筒ブロック10の壁に孔12を設けたり、あるいは円筒ブロック10の上下端面又はいずれかの端面にスリット部13を設けたりしても良い。 このような孔12やスリット部13は、擁壁構造1の排水性を高めたり、あるいは後述するようにネット構造体20を連結する際に使用することができる。 また、円筒ブロック10の上端面にスリット部13を設けることにより、後述するような「かすがい状部材」14を設置する際にこのスリット部13を利用することができる。
【0033】
ネット構造体20は、網目構造を持つ帯状シートを屈曲させて形成したものであって、図7に示すように帯状シートの横方向(図7に示すX方向)が擁壁構造1の上下方向(垂直方向)を向き、立体的な形状を有している。
【0034】
ネット構造体20を構成する網目構造を持つ帯状シートは、繊維材料からなる編み物、織布、不織布の他、非繊維材料(合成樹脂や針金等)をネット状に編み込んだ構造を有するシート状の材料で、一定の幅を持った長尺のシートであり、通常、ロール状又は折りたたんだ状態で保管されている。
【0035】
ネット構造体20を構成する網目構造を持つ帯状シートの素材は、特に限定されるものではないが、合成樹脂材料や金属材料を使用することができ、十分な強度と耐久性があれば、天然素材でも使用することができる。
【0036】
ここで、網目構造とはネット状の2次元的な広がりを有することを意味し、網目の大きさは、中詰材が流失しない程度の大きさであることが望ましい。
【0037】
図7は、本発明に係る擁壁構造1のうち、ネット構造体20のみを取り出して示した斜視図であって、擁壁構造1の1段分のネット構造体20を示した図である。
【0038】
図7に示すように、ネット構造体20は、網目構造を持つ長尺の帯状シートを折り返して屈曲部を複数構成することにより、ネット構造体20の上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有している。
【0039】
この折り返した屈曲部の先端部分21と円筒ブロックの側壁とは、後述するように、連結材40によって互いに連結される。 また、長尺の帯状シートの折り返す長さを自由に変えることができるから、屈曲部の先端部分21の位置を自由に設定することができると共に、「コ」の字状の形状も自由に変形させることができるため、ここで説明したネット構造体20は、立体的な曲面を有する壁面を有する擁壁構造1にも容易に適用できるという特徴を有している。
【0040】
なお、ここでは、ネット構造体20の上方から見た形状が「コ」の字状の形状が複数連なった形態を有しているものとして説明したが、これに限定されるものではない。
【0041】
ネット構造体20の上方から見た形状を、「コ」の字状の形状が複数連なった形態ではなく、半円弧状の形状が複数連なった形態とすることもできる。
【0042】
ネット構造体20の上方から見た形状を、半円弧状の形状が複数連なった形態とした場合、ネット構造体20の周長が最短化されることからネット構造体20の形状が変形することによる弛みが生じにくくなる。
【0043】
本発明における中詰材30は、一般に擁壁ブロックを積み上げて形成される擁壁構造において、擁壁ブロックの背面側に充填される中詰材と同様なものを使用することができ、砕石や栗石等を中詰材30として使用することができる。
【0044】
本発明における連結材40は、ネット構造体20と円筒ブロック10とを連結するために使用される部材であり、金属製や合成樹脂製のロープやワイヤ等を連結材40として使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
図6は、本発明に係る擁壁構造1の1段分の平面図から、中詰材30を除いた状態の図である。 図6に示すように、ネット構造体20の折り返した屈曲部の先端部分21に生じた空隙に連結材40を貫通させると共に、円筒ブロック10の側壁を周回するように連結材40を配置することによって、ネット構造体20と円筒ブロック10を連結している。
【0046】
使用する連結材40がロープやワイヤ等の場合、連結材40をネット構造体20の折り返した屈曲部の先端部分21に生じた空隙に通すと共に、円筒ブロック10の側壁を周回するように配置した後、連結材40の端部同志を強固に結ぶことによって、ネット構造体20と円筒ブロック10を簡便に連結することができる。
【0047】
図8は、本発明に係る擁壁構造1の1段分を示した平面図であり、中詰材30をも含めた完成状態を示した図である。 この図では、複数の円筒ブロック10と、ネット構造体20とによって画成される空間、および円筒ブロック10の内部空間の両方に中詰材30が充填されているが、必ずしも両空間に中詰材30を充填する必要はない。
【0048】
例えば、複数の円筒ブロック10と、ネット構造体20とによって画成される空間のみに中詰材30を充填し、円筒ブロック10の内部空間には中詰材30を充填しないようにすることもできる。
【0049】
図9は、本発明に係る擁壁構造1の側面図を示した図であり、図4に示した擁壁構造を複数段段積みした状態の擁壁構造1を示したものである。 図9に示す擁壁構造1では、下段側の円筒ブロック10に対して上段側の円筒ブロック10を擁壁の法面側にずらしながら積み上げた擁壁構造1となっているが、下段側の円筒ブロック10に対して上段側の円筒ブロック10をずらさずに垂直に段積みするようにしても良い。
【0050】
なお、隣り合う円筒ブロック10を連結し、互いに拘束し合うようにすることによって擁壁構造1をより強固にするために、「U」字状の形状をした「かすがい状部材」14を使用するようにしても良い。
【0051】
この「かすがい状部材」14は、円筒ブロック10の上端面設けたにスリット部13(例えば、図4参照)を利用し、隣接する円筒ブロック10の側壁を跨るように設置することができる。 「かすがい状部材」14は棒鋼を折り曲げることによって形成することができる。
【0052】
以上、擁壁ブロックとして円筒ブロック10を使用した場合の擁壁構造1について説明したが、本発明の擁壁構造1においては、円筒ブロック10に替えて、図2に示す平板状ブロック50、又は図3に示す矩形状ブロック60を使用することができる。
【0053】
平板状ブロック50および矩形状ブロック60が、円筒ブロック10と異なるのは、その形状だけであり、その他のことについては円筒ブロック10と同様である。
【0054】
平板状ブロック50は、表面板51のみから構成されているものや、表面板51から後方に伸びた1又は複数の脚52を備えたものなどがある。
【0055】
また、矩形状ブロック60は、平板状ブロック50と同様に、表面板61を備え、ブロックの上方から見た形状において表面板61の背面側に矩形状の形状をした部位(矩形状部位62)を備えている。 この矩形状部位62の内部に空洞部分を形成したり、矩形状部位62から更に1又は複数の脚63を伸ばすようにしても良い。 なお、ここで矩形状とは、厳密な矩形状の形態を意味するだけでなく、矩形を変形させ、円形に近い形状、多角形に近い形状をも含む概念である。
【0056】
なお、平板状ブロック50および矩形状ブロック60には、表面板51、61、あるいは脚52、63、又は矩形状部位62において連結材40を配置するための溝を設けたり、連結材40を通すためのフックや孔を設けたりすることによって、ネット構造体20と連結できるようにしてある。
【0057】
次に、本発明に係る擁壁構造1を構築する際の工程について説明する。 なお、重複した説明を避けるため、ここでは、擁壁ブロックとして円筒ブロック10を使用した工法について説明するが、擁壁ブロックとして平板状ブロック50および矩形状ブロック60を使用した擁壁構造1を構築する工程も同様な工程とすることができる。
【0058】
まず最初に、法面前方の固められた地盤上に複数の円筒ブロック10を法面に沿って横方向に配置する。 この際、法面と円筒ブロック10との間には、所定の空間が形成されるように円筒ブロック10を配置する。
【0059】
次に、法面と円筒ブロック10との間にネット構造体20を設置する。 ネット構造体20を設置するには、例えば、ロール状に巻き取られた網目構造を持つ長尺の帯状シートのロールを回転させて引き出しつつ、図7に示すように帯状シートの横方向(図7に示すX方向)が擁壁構造1の上下方向(垂直方向)を向くようにした上で、個々の円筒ブロック10に対応させて帯状シートを折り返し、屈曲部を形成させることによって、ネット構造体20の上方から見た形状が「コ」の字状の形状となるように設置する(図4参照)。
【0060】
ネット構造体20を形成する際、ネット構造体20の立体的な形状を維持するために、仮設の杭や仮設のコンパネを使用して帯状シートを立体的に保持するようにしても良い。
【0061】
次に、ネット構造体20の折り返した屈曲部の先端部分21に生じた空隙に、例えば、ロープやワイヤ等からなる連結材40を貫通させると共に、円筒ブロック10の側壁を周回するように連結材40を通し、連結材40の両端を結びつけることによって、ネット構造体20と円筒ブロック10を連結する。
【0062】
この後、円筒ブロック10の上端面設けたにスリット部13を利用し、隣接する円筒ブロック10の側壁を跨るように「U」字状の形状をした「かすがい状部材」14を取り付け、隣り合う円筒ブロック10を連結し、互いに拘束し合うようにしても良い。
【0063】
次に、複数の円筒ブロック10とネット構造体20とによって画成される空間に中詰材を充填し、必要に応じて中詰材を転圧するようにしてもよい。 また、必要に応じて、複数の円筒ブロック10の内側空間についても中詰材を充填し、必要に応じて中詰材を転圧するようにしてもよい。
【0064】
なお、ネット構造体20と法面との間に空間が残っているようであれば、この空間にも中詰材を充填し、必要に応じて中詰材を転圧するようにしてもよい。
【0065】
上述したような簡便な工程を繰り返すことによって、必要な段数の擁壁構造1を構築することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 擁壁構造
10 円筒ブロック
11 突起部
12 孔
13 スリット部
14 かすがい状部材
20 ネット構造体
21 屈曲部の先端部分
30 中詰材
40 連結材
50 平板状ブロック
51 表面版
52 脚
60 矩形状ブロック
61 表面板
62 矩形状部位
63 脚


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9