IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ センクシア株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-柱脚構造 図1
  • 特開-柱脚構造 図2
  • 特開-柱脚構造 図3
  • 特開-柱脚構造 図4
  • 特開-柱脚構造 図5
  • 特開-柱脚構造 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030269
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】柱脚構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20240229BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20240229BHJP
   E02D 27/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
E04B1/24 R
E04B1/58 511F
E02D27/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133017
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】児玉 雄介
【テーマコード(参考)】
2D046
2E125
【Fターム(参考)】
2D046AA16
2E125AA04
2E125AA66
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE13
2E125AF03
2E125AG03
2E125AG05
2E125AG12
2E125AG23
2E125BA02
2E125BA51
2E125BB01
2E125BB22
2E125BB25
2E125CA03
2E125CA13
(57)【要約】
【課題】 簡易な構造で、曲げモーメントを低減することが可能な構造物の柱脚構造を提供する。
【解決手段】 柱脚は、柱体3と柱体3の下端に接合されたベースプレート5とを有する。柱脚は、周囲のスラブコンクリート13に形成された空間に配置され、充填コンクリート15によって埋設される。すなわち、柱脚の周囲は充填コンクリート15によって埋められる。充填コンクリート15と基礎11との間の少なくとも一部には、圧縮変形可能な弾性部材19aが配置される。また、充填コンクリート15と周囲のスラブコンクリート13との間には、圧縮変形可能な弾性部材19bが配置される。すなわち、柱脚は弾性部材19bによって全周が囲まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱体と、前記柱体の下端に接合されるベースプレートと、を有する柱脚と、
前記ベースプレートが固定される基礎と、
前記柱脚の周囲に設けられる充填コンクリートと、
を具備し、
前記充填コンクリートと前記基礎との間の少なくとも一部と、前記充填コンクリートと周囲のスラブコンクリートとの間に、圧縮変形可能な弾性部材が配置されることを特徴とする柱脚構造。
【請求項2】
前記ベースプレートは、
アンカーボルトが挿通される孔と、
前記孔の周囲の少なくとも一部に形成されるスリットと、
を具備し、
前記スリットで囲まれた部位が、変形容易部として機能することを特徴とする請求項1記載の柱脚構造。
【請求項3】
前記充填コンクリートと前記基礎との間に配置される前記弾性部材は、平面視において前記柱脚の全周にわたって配置されることを特徴とする請求項1記載の柱脚構造。
【請求項4】
前記充填コンクリートと前記基礎との間に配置される前記弾性部材は、平面視において前記柱脚の周方向に対して少なくとも一方には配置されないことを特徴とする請求項1記載の柱脚構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の柱脚構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、一般的な構造物100は、柱体101、梁105等から構成される。柱体101は、基礎103と接合される。このような構造物100に対して、側方からの力Xが付与されると、柱体101には曲げモーメントMが生じる。この場合、柱体101と基礎103との接合部において、最も大きな曲げモーメントが生じる。このため、柱体101および基礎103の変形を抑えるためには、高い剛性が要求される。
【0003】
このような柱体101の下部における基礎103との接合構造としては、柱脚に接合されたベースプレートを、基礎に対してアンカーボルトで固定する方法が一般的である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-64244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば、中低層構造物では、鋼製の柱体101や梁105の剛性は十分であるが、コンクリート製の基礎103の剛性が不足する場合がある。より頑丈な基礎103を得るためには、より大きく深い基礎103が必要となる。例えば、柱体101に用いられる鋼材は規格品であるため、最も安価な柱体101を選択しても、中低層構造物に要求される剛性に対しては十分な余裕がある場合がある。これに対し、基礎103と柱体101との接合部における柱脚構造は、曲げモーメントに耐えうる十分な剛性を確保する必要があり、コスト増の要因となっていた。
【0006】
これに対し、基礎103と柱体101との接合部をピン構造とする方法もある。ピン構造とすることで、柱脚に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。したがって、より小さな基礎103とすることができる。
【0007】
一方、美観等の観点から、床スラブの一部に空間を形成し、当該空間に柱脚構造を構築し、その後、ベースプレートを含む柱脚の一部を充填コンクリートで埋設する場合がある。しかし、このような構造とすると、基礎103と柱体101との接合部をピン構造としても、柱脚の周囲の充填コンクリートと、さらにその周囲の床スラブを構成するコンクリートによって柱脚が拘束されるため、柱脚の回転変形が妨げられ、前記した効果を十分に得ることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で、曲げモーメントを低減することが可能な構造物の柱脚構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明は、柱体と、前記柱体の下端に接合されるベースプレートと、を有する柱脚と、前記ベースプレートが固定される基礎と、前記柱脚の周囲に設けられる充填コンクリートと、を具備し、前記充填コンクリートと前記基礎との間の少なくとも一部と、前記充填コンクリートと周囲のスラブコンクリートとの間に、圧縮変形可能な弾性部材が配置されることを特徴とする柱脚構造である。
【0010】
前記ベースプレートは、アンカーボルトが挿通される孔と、前記孔の周囲の少なくとも一部に形成されるスリットと、を具備し、前記スリットで囲まれた部位が、変形容易部として機能させてもよい。
【0011】
前記充填コンクリートと前記基礎との間に配置される前記弾性部材は、平面視において、前記柱脚の全周にわたって配置されてもよく、又は、前記充填コンクリートと前記基礎との間に配置される前記弾性部材は、平面視において、前記柱脚の周方向に対して少なくとも一方には配置されなくてもよい。
【0012】
本発明によれば、柱脚が埋設される充填コンクリートの周囲及び下方に、圧縮変形可能な弾性部材を配置することで、周囲のスラブコンクリートや基礎との間で、充填コンクリートの移動が許容される。このため、柱脚に曲げモーメントがかかった際に、充填コンクリート自体が柱脚とともに回転して、曲げモーメントを低減することができる。
【0013】
また、さらに、ベースプレートにスリットを入れることで、ベースプレートが変形しやすく、柱脚が回転変形しやすくなる。このため、柱脚に生じる曲げモーメントをより低減することができる。
【0014】
また、充填コンクリートと基礎との間に配置される弾性部材を、柱脚の全周にわたって配置すれば、全方向に対して柱脚の回転を許容させることができる。
【0015】
一方、充填コンクリートと基礎との間に配置される弾性部材を、柱脚の一方の方向に配置しないことで、柱脚の回転が生じない方向や、あえて回転を規制したい方向に対する弾性部材の配置を削減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構造で、曲げモーメントを低減することが可能な構造物の柱脚構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】柱脚構造1を示す図。
図2図1のA-A線断面図。
図3】柱脚構造1aを示す図。
図4】柱脚構造1bを示す図。
図5】(a)、(b)は、柱脚構造1の動作を示す図。
図6】構造物100を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態にかかる柱脚構造1について説明する。図1は、柱脚構造1を示す正面図であり、図2は、図1のA-A線断面図である。なお、図1図2は、充填コンクリート15の透視図とする。柱脚構造1は、主に、柱体3、ベースプレート5、アンカーボルト9、基礎11、充填コンクリート15、弾性部材19a、19b等から構成される。
【0019】
柱脚は、柱体3と柱体3の下端に接合されたベースプレート5とを有する。なお、図示した例では、柱体3はH鋼柱であるが、丸形柱や角形柱であってもよい。また、図示した例では、柱体3の一方の側にガセットプレートを介してブレース17が接合されるが、ブレース17は必ずしも必要ではなく、また、異なる方向に対してもさらにブレース17を配置してもよい。
【0020】
ベースプレート5は鋼製の板状部材である。ベースプレート5には、柱体3との接合部の周囲に複数の孔が設けられ、それぞれの孔にはアンカーボルト9が挿通される。アンカーボルト9の一端は基礎11に埋設され、アンカーボルト9によって、ベースプレート5が基礎11に固定される。
【0021】
なお、アンカーボルト9の配置や本数は特に限定されないが、例えば、ベースプレート5の四隅近傍にそれぞれ配置してもよく、図2に示すように、ベースプレート5の中央に近づけて配置し、いわゆるピン構造としてもよい。
【0022】
ベースプレート5と基礎11との間には、モルタル7が充填される。すなわち、ベースプレート5の下方には、基礎11との間に隙間は形成されず、ベースプレート5の下面の全体がモルタル7と接触する。
【0023】
柱脚は、周囲のスラブコンクリート13(床スラブ)に形成された空間に配置され、充填コンクリート15によって埋設される。すなわち、柱脚の周囲には充填コンクリート15が設けられ、柱脚と一体化する。充填コンクリート15と基礎11との間の少なくとも一部には、圧縮変形可能な弾性部材19aが配置される。また、充填コンクリート15と周囲のスラブコンクリート13との間には、圧縮変形可能な弾性部材19bが配置される。
【0024】
弾性部材19bは、柱脚を全周から囲むように四方向に配置される。一方、図示した例では、ベースプレート5に対して、弾性部材19aは、ブレース17が設置された側のみに配置され、その他の方向には弾性部材19aが配置されない。
【0025】
なお、図2に示すように、本実施形態では、ブレース17が配置されたのとは逆側と、ブレース17の設置方向に対して垂直な方向には、弾性部材19aが配置されていないが、これには限られない。すなわち、柱脚と弾性部材19bとの間において、弾性部材19aは、少なくとも一方に配置されれば、その配置は特に限定されない。
【0026】
例えば、ブレース17が配置されたのとは逆側に対しても、弾性部材19aを配置して、柱脚と弾性部材19bとの間の二方向に弾性部材19aを配置してもよい。又は、ブレース17の設置方向に対して垂直な方向の一方または両方に弾性部材19aを配置して、柱脚と弾性部材19bとの間の二方向又は三方向に弾性部材19aを配置してもよい。
【0027】
また、例えば、図3に示す柱脚構造1aのように、充填コンクリート15と基礎11との間に配置される弾性部材19aは、柱脚(ベースプレート5)の全周にわたって配置されてもよい。このように、弾性部材19aは、平面視において、柱脚(ベースプレート5)の周方向に対して少なくとも一方に配置されれば、全周(柱脚の四方向)に配置してもよく、少なくとも一方には弾性部材19aを配置しなくてもよい。
【0028】
また、図4に示す柱脚構造1bのように、ベースプレート5aを用いてもよい。ベースプレート5aは、アンカーボルト9(アンカーボルトが挿通される孔)の周囲の少なくとも一部にスリット21が設けられる。スリット21は、ベースプレート5aの側面側から略L字状に形成される。すなわち、スリット21は、それぞれのアンカーボルト9(ベースプレート5aの孔)を少なくとも二方向から囲むように形成される。
【0029】
このように、アンカーボルト9が、異なる2方向のスリット21の間に配置されることで、アンカーボルト9で固定されるベースプレート5aに、変形容易部23を形成することができる。変形容易部23は、柱体3に外力が生じた際にベースプレート5aが変形し、柱体3の回転変形を許容する部位である。なお、スリット21は、必ずしも必須ではない。
【0030】
弾性部材19a、19bは、例えば発泡体やゴムなどが適用可能である。ここで、通常、スラブコンクリート13を打設する際には、柱脚を設置する部分を囲むように基礎11上に型枠を設置して型枠の外側にコンクリートを打設することで、スラブコンクリート13に、柱脚を設置する空間を形成(いわゆる箱抜き)することができる。
【0031】
この際、弾性部材19bとして、スラブコンクリート13等の型枠をそのまま流用してもよい。例えば、スラブコンクリート13を打設する前に、柱脚を設置する部位の周囲に弾性部材19bを設置し、この状態でスラブコンクリート13を打設する。さらに、当該空間に柱脚の設置後、基礎11上に弾性部材19aを設置して、当該空間を埋めるように充填コンクリート15を打設する。以上により柱脚構造1を施工することができる。
【0032】
なお、スラブコンクリート13の型枠に弾性部材19bを用いる場合には、スラブコンクリート13の側圧及び、その後打設される充填コンクリート15の側圧によって、弾性部材19bが完全につぶれてしまわずに、圧縮弾性変形能が残る程度の圧縮弾性率及び厚みを有する必要がある。同様に、基礎11上に配置される弾性部材19aとしては、上方に充填コンクリート15を打設した際に、完全につぶれてしまわずに、圧縮弾性変形能が残る程度の圧縮弾性率及び厚みを有する必要がある。
【0033】
次に、柱脚構造1に対して曲げモーメントが付与された際の動作について説明する。なお、柱脚構造1a、1bも同様である。図5(a)は、柱脚構造1の部分断面図である。前述したように、基礎11上にベースプレート5が固定され、ベースプレート5と柱体3(及びガセットプレート等の一部)が充填コンクリート15に埋設される。充填コンクリート15の周囲と下方には弾性部材19a、19bが配置される。
【0034】
図5(b)に示すように、この状態から、例えば、柱体3にブレース17の方向に力がかかると(図中矢印B)、弾性部材19a、19bの一部がつぶれて、充填コンクリート15ごと、柱脚がB方向へ回転することが許容される。このように、基礎11(スラブコンクリート13)に対して、柱脚が回転動作することで、柱脚にかかる曲げモーメントを低減することができる。
【0035】
なお、B方向への力がなくなると、柱脚は元の状態に戻る。この際、弾性部材19a、19bも元の状態に戻り、充填コンクリート15とスラブコンクリート13との間に隙間が形成されることは抑制される。
【0036】
以上、本実施の形態によれば、柱体3に外力が付与された際に、弾性部材19a、19bの圧縮弾性変形によって、柱脚と一体化された充填コンクリート15の回転変形を許容することができる。このため、柱脚の回転剛性を小さくすることができる。このため、簡易な構造で、柱脚にかかる曲げモーメントを低減することが可能である。
【0037】
この際、弾性部材19aは、基礎11上に配置され、弾性部材19bは、柱脚の周囲に配置されればよいため、柱脚の形状や外形に応じて特殊な形状とする必要がない。例えば、柱脚の外表面に弾性部材を配置しようとすると、柱体3やブレース17の外面の凹凸形状等に合わせて弾性部材を細かく配置する必要があり、施工が困難であるが、本実施形態では、弾性部材19a、19bとして、板状の部材をそのまま使用することができる。このため、施工も容易である。
【0038】
また、ベースプレート5にスリット21形成すること、ベースプレート5の変形も容易となる。このため、ベースプレート5の変形によっても、柱脚への曲げモーメントの低減効果を得ることができる。
【0039】
また、弾性部材19aは、少なくとも柱脚にかかる引っ張り力側に配置されればよく、柱脚の全周に配置する必要はない。例えば、ブレース17からの力を考慮する場合には、ブレース17の配置される方向に対して弾性部材19aを配置すればよい。例えば、図3に示す例では、ブレース17が柱体3の両側に配置されているが、この場合には、ブレース17の配置方向にのみ弾性部材19aを配置してもよい。
【0040】
このように、弾性部材19bは柱脚の全周を囲むように配置されるが、弾性部材19aは、回転変形が想定される方向にのみ配置すればよい。すなわち、回転変形が想定されない方向や、回転変形を規制する方向に対しては、弾性部材19aを配置しなくてもよい。
【0041】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
1、1a、1b………柱脚構造
3………柱体
5、5a………ベースプレート
7………モルタル
9………アンカーボルト
11………基礎
13………スラブコンクリート
15………充填コンクリート
17………ブレース
19a、19b………弾性部材
21………スリット
23………変形容易部
100………構造物
101………柱体
103………基礎
105………梁
図1
図2
図3
図4
図5
図6