(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030303
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】溶接チャックおよび溶接機
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20240229BHJP
B23K 9/32 20060101ALI20240229BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20240229BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20240229BHJP
B23K 9/167 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
B23K37/04 M
B23K9/32 C
B23K9/00 501N
H01R43/02 B
B23K9/167 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133087
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川越 拓海
(72)【発明者】
【氏名】上原 通
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 博章
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
5E051
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001DD01
4E001NB03
4E081YN10
4E081YY13
5E051LA01
5E051LB10
(57)【要約】
【課題】本開示は、従来の治具よりも単純な構造で部品点数の削減が可能であり、メンテナンス性を向上させることが可能な溶接チャックを提供する。
【解決手段】溶接チャック2は、開閉機構に固定される基端固定部21と、複数の端子31,31を挟み込んで保持する先端保持部22と、基端固定部21と先端保持部22との間で複数の端子31,31の突出方向に沿う長手方向(Z軸方向)に延びる弾性延在部23と、先端保持部22の先端から基端固定部21へ向けて長手方向に沿って延びる分割溝24と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉機構に取り付けられ、アーク溶接によって接合される複数の端子を、該複数の端子の突出方向に交差する接続方向の両側から挟み込んで保持する溶接チャックであって、
前記開閉機構に固定される基端固定部と、前記複数の端子を挟み込んで保持する先端保持部と、前記基端固定部と前記先端保持部との間で前記複数の端子の前記突出方向に沿う長手方向に延びる弾性延在部と、前記先端保持部の先端から前記基端固定部へ向けて前記長手方向に沿って延びる分割溝と、を有することを特徴とする溶接チャック。
【請求項2】
前記分割溝は、前記先端保持部の前記先端から前記基端固定部に接続された前記弾性延在部の基端部まで延びるスリットであることを特徴とする請求項1に記載の溶接チャック。
【請求項3】
前記基端固定部に隣接する前記スリットの端部に、前記スリットの幅よりも前記スリットの幅方向における寸法が拡大された貫通孔を有することを特徴とする請求項2に記載の溶接チャック。
【請求項4】
前記弾性延在部は、前記長手方向に直交する幅方向の一端から他端まで延びる切欠部と、該切欠部によって肉厚が減少した薄肉部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の溶接チャック。
【請求項5】
前記複数の端子は、インバータのパワーモジュール端子、バスバーモジュール端子、またはコンデンサ端子の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接チャック。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の溶接チャックと、該溶接チャックを支持して前記複数の端子の接合方向に開閉させる前記開閉機構と、前記溶接チャックによって挟み込んで保持した前記複数の端子を接合するためのアークを発生させる電極と、を備えることを特徴とする溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接チャックおよび溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から複数の端子を有した電子部品の端子と回路導体とを溶接アークにより溶融して接合する制御装置の端子と回路導体の溶接方法に関する発明が知られている。たとえば、下記特許文献1に記載されたマイクロスポットTIG溶接機は、3本の端子の全部をクランプして同電位とする電極を兼ねたアースクランプ治具を備えている(特許文献1、第0039段落-第0042段落、
図6-
図7)。
【0003】
このアースクランプ治具は、金属製で枠状の治具本体と、金属製で円柱状のピストン棒と、金属製の長クランパと、金属製の短クランパとで構成されている。上記治具本体は、内部に端子の配置に合わせた凸段差状の収納空間を有する。上記ピストン棒は、上記治具本体の基端部に形成された3つの丸孔に摺動自在に支持されている。上記長クランパは、中央の上記ピストン棒の先端に固定され、上記収納空間の中央の収納部に圧縮コイルバネを介して往復摺動する。短クランパは、両側の上記ピストン棒の各先端に固定され、上記収納空間の両側の収納部に各圧縮コイルバネを介して往復摺動する。
【0004】
そして、FETの中央の端子がアースクランプ治具の中央の収納部の内壁と長クランパの先端部との間に隙間なく挟み込まれ、両側の端子がアースクランプ治具の両側の収納部の各内壁と両側の短クランパの各先端部との間に隙間なく挟み込まれるようになっている。この際、各圧縮コイルバネの付勢力に抗して各クランパが後退して開いた状態で、各クランパの先端部と各収納部の内壁間にFETの各端子を挟んでクランプすることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のマイクロスポットTIG溶接機に用いられるアースクランプ治具は、複雑な構造で部品点数が多く、メンテナンス性に改善の余地がある。本開示は、このような従来の治具よりも単純な構造で部品点数の削減が可能であり、メンテナンス性を向上させることが可能な溶接チャックおよび溶接機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、開閉機構に取り付けられ、アーク溶接によって接合される複数の端子を、該複数の端子の突出方向に交差する接続方向の両側から挟み込んで保持する溶接チャックであって、前記開閉機構に固定される基端固定部と、前記複数の端子を挟み込んで保持する先端保持部と、前記基端固定部と前記先端保持部との間で前記複数の端子の前記突出方向に沿う長手方向に延びる弾性延在部と、前記先端保持部の先端から前記基端固定部へ向けて前記長手方向に沿って延びる分割溝と、を有することを特徴とする溶接チャックである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の上記一態様によれば、従来の治具よりも単純な構造で部品点数の削減が可能であり、メンテナンス性を向上させることが可能な溶接チャックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示に係る溶接機の実施形態を示す概略的な側面図。
【
図2】本開示に係る溶接チャックの実施形態を示す斜視図。
【
図3】
図2の溶接チャックによって複数の端子を保持する前の状態を示す斜視図。
【
図4】
図3の溶接チャックによって複数の端子を保持する手順を示す平面図。
【
図5】本開示に係る溶接チャックに含まれない比較形態の溶接チャックの斜視図。
【
図6】
図5の溶接チャックによって複数の端子を保持する手順を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示に係る溶接チャックおよび溶接機の実施形態を説明する。
【0011】
図1は、本開示に係る溶接機の実施形態を示す概略的な側面図である。
図2は、本開示に係る溶接チャックの実施形態を示す斜視図であり、
図1の溶接機1に用いられる溶接チャック2の斜視図である。
図3は、
図2の溶接チャック2によって電子部品3の複数の端子31,31を保持する前の状態を示す斜視図である。なお、各図に示す3次元直交座標系は、たとえば、X軸が溶接チャック2の幅方向に平行であり、Y軸が溶接チャック2の厚さ方向および開閉方向に平行であり、Z軸が溶接チャック2の長さ方向に平行である。
【0012】
図1に示す溶接機1は、たとえば、電子部品3の複数の端子31,31をアーク溶接によって接合するTIG溶接機である。溶接機1は、たとえば、本体部11と、開閉機構12と、電極13と、溶接チャック2と、を備えている。本体部11は、たとえば、開閉機構12および電極13を支持する。開閉機構12は、たとえば、溶接チャック2を支持し、後述する溶接チャック2の第1部分2Aと第2部分2Bとを、複数の端子31,31の接合方向である溶接チャック2の厚さ方向(Y軸方向)および開閉方向に開閉させるように動作する。
【0013】
電極13は、たとえば、不活性ガスの中でアークを発生させ、溶接チャック2によって挟み込んで保持した溶接対象の電子部品3の複数の端子31,31を接合する。溶接機1の溶接対象の電子部品3は、たとえば、インバータである。より詳細には、溶接対象の電子部品3の複数の端子31,31は、たとえば、インバータのパワーモジュール端子、バスバーモジュール端子、またはコンデンサ端子の少なくとも一つを含む。
【0014】
溶接チャック2は、たとえば、同一形状の第1部分2Aと第2部分2Bとを有している。溶接チャック2は、たとえば、第1部分2Aと第2部分2Bとを、複数の端子31,31の接合面に面対称に対向させた状態で、溶接機1の開閉機構12に取り付けられる。溶接チャック2は、たとえば、開閉機構12の開閉動作により、溶接対象の複数の端子31,31を、その複数の端子31,31の突出方向(Z軸方向)に交差する接続方向(Y軸方向)の両側から、第1部分2Aと第2部分2Bとの間に挟み込んで保持する。
【0015】
溶接チャック2の材質は、たとえば、導電性が良好な金属や合金である。溶接チャック2は、たとえば、複数の端子31,31の接続方向(Y軸方向)に対向して配置される同一形状の第1部分2Aと第2部分2Bが、それぞれ、基端固定部21と、先端保持部22と、弾性延在部23と、分割溝24とを有している。
【0016】
基端固定部21は、たとえば、溶接チャック2の他の部分よりも肉厚が大きいブロック状の部分であり、複数の固定孔21aを有している。基端固定部21は、たとえば、複数の固定孔21aに挿通されるボルトや固定ピンを介して、溶接機1の開閉機構12に固定される。基端固定部21は、たとえば、第1部分2Aと第2部分2Bの互いに対向する面に、傾斜面21bを有している。
【0017】
基端固定部21の互いに対向する傾斜面21bは、溶接対象の複数の端子31,31の突出方向である溶接チャック2の長手方向(Z軸方向)において、複数の端子31,31に近付くほど互いに接近するように、溶接チャック2の内側へ向けて傾斜している。また、基端固定部21は、たとえば、傾斜面21bと反対側の溶接チャック2の外側に、溶接チャック2の長手方向すなわち長さ方向に平行な面21cを有している。これにより、基端固定部21は、溶接チャック2の長手方向において弾性延在部23に近付くほど肉厚が増加している。
【0018】
弾性延在部23は、基端固定部21と先端保持部22との間で複数の端子31,31の突出方向に沿う溶接チャック2の長手方向(Z軸方向)に延びている。弾性延在部23は、たとえば、全体的に基端固定部21よりも肉厚が小さく、複数の端子31,31の接続方向または溶接チャック2の開閉方向(Y軸方向)に対向する板状に形成されている。弾性延在部23は、たとえば、溶接チャック2の長さ方向に平行な基端側部分23aと、溶接チャック2の長さ方向に対して傾斜した先端側部分23bと、一つ以上の切欠部23cと、一つ以上の薄肉部23dと、を有している。
【0019】
弾性延在部23の基端側部分23aは、基端固定部21の肉厚が最大となる端部において、溶接チャック2の開閉方向における内側の端部に接続されている。弾性延在部23の基端側部分23aは、基端固定部21に接続された端部において、溶接チャック2の開閉方向における外側の面に、部分円筒状の凹曲面を有している。これにより、弾性延在部23の基端側部分23aの基端固定部21に接続された端部は、基端固定部21に近付くほど肉厚が増加している。基端固定部21と反対側に位置する弾性延在部23の基端側部分23aの先端部に先端側部分23bの基端部が接続され、先端側部分23bの先端部に先端保持部22が接続されている。
【0020】
切欠部23cは、たとえば、溶接チャック2の長手方向に直交する幅方向(X軸方向)において、弾性延在部23の一端から他端まで延びている。
図2および
図3に示す例において、溶接チャック2の幅方向から見た切欠部23cの形状は、半円状である。切欠部23cは、たとえば、弾性延在部23の基端側部分23aに設けられている。より詳細には、たとえば、溶接チャック2の開閉方向における基端側部分23aの外側の面に、二つの切欠部23cが溶接チャック2の長さ方向に並んで設けられている。
【0021】
なお、弾性延在部23の幅方向から見た切欠部23cの形状は、半円形状に限定されず、弾性延在部23に薄肉部23dを形成可能な任意の形状を採用することができる。また、切欠部23cは、たとえば、溶接チャック2の開閉方向における弾性延在部23の基端側部分23aの内側の面に設けられていてもよい。また、溶接チャック2の第1部分2Aおよび第2部分2Bのそれぞれに形成される切欠部23cの数は、二つに限定されず、一つでも三つ以上でもよい。切欠部23cは、たとえば、溶接チャック2の幅方向において、分割溝24によって複数の部分に分割されている。
【0022】
薄肉部23dは、弾性延在部23において、切欠部23cによって肉厚が減少した部分である。
図2および
図3に示す例において、溶接チャック2は、薄肉部23dにおいて肉厚が最も減少している。薄肉部23dは、各々の切欠部23cの底部に形成され、切欠部23cと同様に溶接チャック2の幅方向の一端から他端まで延びている。切欠部23cと同様に、薄肉部23dは、溶接チャック2の幅方向において、分割溝24によって複数の部分に分割されている。
【0023】
先端保持部22は、開閉機構12の開閉動作により、溶接対象の電子部品3の複数の端子31,31を、その複数の端子31,31の突出方向(Z軸方向)に交差する接続方向(Y軸方向)の両側から挟み込んで保持する。先端保持部22は、たとえば、弾性延在部23の先端、より詳細には、弾性延在部23の先端側部分23bの先端に設けられている。
【0024】
溶接チャック2において、第1部分2Aおよび第2部分2Bのそれぞれの先端保持部22は、たとえば、弾性延在部23の先端側部分23bの先端から、複数の端子31,31の接続方向に複数の端子31,31へ向けて延びている。電子部品3の端子31に接する先端保持部22の先端面は、たとえば、溶接チャック2の長さ方向および幅方向に平行な平坦面である。
【0025】
分割溝24は、先端保持部22の先端から基端固定部21へ向けて溶接チャック2の長手方向に沿って延びている。本実施形態において、分割溝24は、先端保持部22の先端から基端固定部21に接続された弾性延在部23の基端部まで延びるスリットSである。なお、分割溝24は、たとえば、溶接チャック2の第1部分2Aおよび第2部分2Bの長手方向の一端から他端まで全体にわたって延びて、第1部分2Aおよび第2部分2Bをそれぞれ複数の部分に分割していてもよい。
【0026】
図2および
図3に示す例において、分割溝24は、たとえば、溶接チャック2の幅方向において、第1部分2Aおよび第2部分2Bのそれぞれの中央に形成され、先端保持部22および弾性延在部23を二つの部分に分割している。なお、分割溝24は、溶接チャック2の幅方向において、第1部分2Aおよび第2部分2Bのそれぞれに二つ以上が形成されて、先端保持部22および弾性延在部23を三つ以上の部分に分割していてもよい。
【0027】
また、溶接チャック2は、たとえば、第1部分2Aおよび第2部分2Bの各々の基端固定部21に隣接するスリットSの端部に、スリットSの幅よりもスリットSの幅方向における寸法が拡大された貫通孔25を有している。貫通孔25は、たとえば、円形の開口を有する丸孔である。なお、貫通孔25は、丸孔に限定されず、任意の形状を有することができる。
【0028】
以下、本実施形態の溶接チャック2および溶接機1の作用を、比較形態の溶接チャックXとの対比に基づいて説明する。
【0029】
図4は、本実施形態の溶接チャック2によって複数の端子31,31を保持する手順を示す平面図である。
図5は、本開示に係る溶接チャックに含まれない比較形態の溶接チャックXの斜視図である。
図6は、
図5の比較形態の溶接チャックXによって複数の端子31,31を保持する手順を説明する平面図である。
【0030】
図5および
図6に示す比較形態の溶接チャックXは、本実施形態の溶接チャック2とは異なり、分割溝24を有しない。また、溶接対象の電子部品3の複数の端子31,31は、それぞれ、所定の公差の範囲内で厚さが異なっている。そのため、溶接チャックXの幅方向(X軸方向)に複数対の溶接対象の端子31,31が並んでいる場合、溶接チャックXによって一度に複数対の端子31,31を挟み込むと、厚さが大きい端子31,31の対によって、第1部分XAと第2部分XBの間隔が規制される。その結果、厚さが小さい端子31,31の対と溶接チャックXとの間に隙間が生じてしまう。
【0031】
このように、溶接対象の端子31,31の対と溶接チャックXとの間に隙間が生じることを回避するために、比較形態の溶接チャックXでは、次のような手順で溶接を行う。まず、
図6の矢印A1に示すように、溶接チャックXの溶接対象の一対の端子31,31を挟み込み、溶接機1の電極13によってアークを発生させ、この一対の端子31,31を溶接する。その後、
図6の矢印A2に示すように、溶接機1の開閉機構12によって第1部分XAと第2部分XBとの間隔を拡げる。
【0032】
さらに、
図6の矢印A3に示すように、溶接チャックXを、電子部品3に対して溶接チャックXの幅方向に相対的に移動させる。その後、
図6の矢印A4に示すように、溶接が終了した一対の端子31,31の隣の一対の端子31,31を挟み込み、溶接機1の電極13によってアークを発生させ、この一対の端子31,31を溶接する。その後、
図6の矢印A5に示すように、溶接機1の開閉機構12によって第1部分XAと第2部分XBとの間隔を拡げる。
【0033】
これに対し、本実施形態の溶接チャック2は、開閉機構12に取り付けられ、アーク溶接によって接合される複数の端子31,31を、それら複数の端子31,31の突出方向に交差する接続方向の両側から挟み込んで保持する。溶接チャック2は、開閉機構12に固定される基端固定部21と、複数の端子31,31を挟み込んで保持する先端保持部22と、これら基端固定部21と先端保持部22との間で複数の端子31,31の突出方向に沿う長手方向に延びる弾性延在部23と、を有する。さらに、溶接チャック2は、先端保持部22の先端から基端固定部21へ向けて長手方向に沿って延びる分割溝24を有している。
【0034】
このような構成により、溶接チャック2は、たとえば、
図4に示すように、溶接チャックXの幅方向(X軸方向)に溶接対象の二対の端子31,31が並んでいる場合、次のような手順で溶接を行うことができる。まず、
図4の矢印S1に示すように、二対の端子31,31の接続方向(Y軸方向)の両側から、溶接チャック2の幅方向に並んだ二対の端子31,31を、溶接チャック2の先端保持部22,22によって挟み込む。すると、溶接チャック2の先端保持部22,22の間隔が、厚さが大きい方の端子31,31の対によって規制される。
【0035】
しかし、
図4の矢印S2に示すように、溶接チャック2をさらに閉じて、基端固定部21,21の間隔をさらに狭めていくと、分割溝24によって分割され、厚さが大きい方の端子31,31の対を挟み込んだ先端保持部22,22の一部に接続されている弾性延在部23,23の一部が弾性変形する。これにより、溶接チャック2から厚さが大きい方の端子31,31の対に作用する力を低減することができ、溶接チャック2の負荷を低減することができる。
【0036】
また、厚さが大きい方の端子31,31の対を保持している先端保持部22,22の一部に連続する弾性延在部23,23の一部が弾性変形することで、厚さが小さい方の端子31,31の対と溶接チャック2の先端保持部22,22との間の間隙をなくすことができる。これにより、厚さが小さい方の端子31,31の対が、溶接チャック2の先端保持部22,22の間に挟み込まれて保持される。この状態で、溶接機1の電極13によってアークを発生させ、二対の端子31,31を効率よく溶接することができ、チャック不良による溶接不良の発生を防止できる。
【0037】
以上のように、本実施形態の溶接チャック2によれば、前述の特許文献1に記載された従来のアースクランプ治具と比較して、単純な構造で部品点数の削減が可能であり、メンテナンス性を向上させることができる。さらに、本実施形態の溶接チャック2によれば、比較形態の溶接チャックXと比較して、複数の端子31,31の溶接時の手順を簡略化することができ、サイクルタイムの短縮、および、溶接チャック2の耐用期間の向上によるコスト低減が可能になる。
【0038】
また、本実施形態の溶接チャック2において、分割溝24は、先端保持部22の先端から基端固定部21に接続された弾性延在部23の基端部まで延びるスリットSである。このような構成により、分割溝24を溶接チャック2の長手方向の一端から他端まで連続させる場合と比較して、開閉機構12に対する溶接チャック2の取り付けを容易にすることができる。また、分割溝24の幅を一定に維持することができ、複数の端子31,31の安定したチャックが可能になる。
【0039】
また、本実施形態の溶接チャック2は、基端固定部21に隣接するスリットSの端部に、スリットSの幅よりもスリットSの幅方向における寸法が拡大された貫通孔25を有している。このような構成により、スリットSによって分割された弾性延在部23の弾性変形時に、スリットSの端部に作用する応力を緩和することができる。また、スリットSによって分割された弾性延在部23の弾性変形を容易にして、複数の端子31,31に作用するチャック力を低減することができる。したがって、溶接チャック2の耐用期間の向上、および、開閉機構12の小型化によるコスト低減が可能になる。
【0040】
また、本実施形態の溶接チャック2において、弾性延在部23は、長手方向に直交する幅方向の一端から他端まで延びる切欠部23cと、その切欠部23cによって肉厚が減少した薄肉部23dと、を有する。このような構成により、弾性延在部23の弾性変形を容易にして、
図4に示すように、厚さが大きい方の端子31,31に作用するチャック力を低減することができる。したがって、溶接チャック2の耐用期間の向上によるコスト低減が可能になる。
【0041】
なお、切欠部23cは、溶接チャック2の開閉方向における内側の面と反対側の外側の面に設けることが好ましい。これにより、切欠部23cを溶接チャック2の開閉方向における内側の面に設ける場合と比較して、複数の端子31,31の接続方向、すなわち、溶接チャック2の開閉方向における外側への弾性延在部23の弾性変形を容易にすることができる。
【0042】
また、本実施形態の溶接チャック2によって挟み込んで保持する複数の端子31,31は、インバータのパワーモジュール端子、バスバーモジュール端子、またはコンデンサ端子の少なくとも一つを含む。本実施形態の溶接チャック2は、様々な形状の溶接個所に対応可能であり、溶接個所の指定がない。したがって、インバータの生産時に溶接対象の端子31ごとに異なるチャックを用意する必要がなく、共通の溶接チャック2によって溶接を行うことができ、生産性の向上およびコスト低減が可能になる。
【0043】
また、本実施形態の溶接機1は、溶接チャック2と、その溶接チャック2を支持して複数の端子31,31の接合方向に開閉させる開閉機構12と、溶接チャック2によって挟み込んで保持した複数の端子31,31を接合するためのアークを発生させる電極13と、を備える。このような構成により、本実施形態の溶接機1によれば、前述の溶接チャック2と同様の効果を奏することができる。
【0044】
以上、図面を用いて本開示に係る溶接チャックの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
1 溶接機
12 開閉機構
13 電極
2 溶接チャック
21 基端固定部
22 先端保持部
23 弾性延在部
23c 切欠部
23d 薄肉部
24 分割溝
25 貫通孔
31 端子
S スリット