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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030308
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】熱重量測定装置及びその設定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/04 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
G01N5/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133093
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】富田 創
(72)【発明者】
【氏名】下島 啓
(57)【要約】
【課題】冷却ファンの回転数を変化させつつ、重量測定値の変化をモニタリングし、その重量測定値の変化に基づいて冷却ファンの動作時における回転数を決定することができる、熱重量測定装置及びその設定方法を提供する。
【解決手段】試料Sの重量を測定する測定部14と、試料Sを加熱する加熱部16と、測定部14に対して物理的に接続される冷却ファン20とを備える熱重量測定装置10の設定方法であって、回転数決定工程を含む。回転数決定工程では、冷却ファン20の回転数を変化させつつ、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングし、その重量測定値の変化に基づいて冷却ファン20の動作時における回転数を決定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の重量を測定する測定部と、前記試料を加熱する加熱部と、前記測定部に対して物理的に接続される冷却ファンとを備える熱重量測定装置の設定方法であって、
前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時における回転数を決定する回転数決定工程を含む、熱重量測定装置の設定方法。
【請求項2】
前記回転数決定工程では、前記測定部に試料がセットされていない状態で、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングする、請求項1に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項3】
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数を段階的に変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングする、請求項1に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項4】
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における前記重量測定値の平均値に基づいて前記冷却ファンの動作時の回転数を決定する、請求項3に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項5】
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における前記重量測定値の大きさに基づいて前記冷却ファンの動作時の回転数を決定する、請求項3に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項6】
前記熱重量測定装置は、複数の前記冷却ファンを備え、
前記回転数決定工程では、複数の前記冷却ファンのうち1つの冷却ファンの回転数を変化させつつ、他の冷却ファンは停止させた状態で、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングする、請求項1に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項7】
前記熱重量測定装置は、前記測定部を内部に有する筐体をさらに備え、
前記測定部及び前記冷却ファンが、前記筐体に対して直接的又は間接的に取り付けられることにより、前記冷却ファンが前記測定部に対して物理的に接続されている、請求項1に記載の熱重量測定装置の設定方法。
【請求項8】
試料の重量を測定する測定部と、
前記試料を加熱する加熱部と、
前記測定部に対して物理的に接続される冷却ファンと、
前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時おける回転数を決定する回転数決定処理部とを備える、熱重量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱重量測定装置及びその設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1で開示されるような熱重量測定装置は、試料が載置される載置皿と、載置皿と接続される天秤と、試料を加熱する加熱部等を備える。この熱重量測定装置では、載置皿に載置される試料を加熱した際に起こるその試料の重量の変化を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-32624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような熱重量測定装置では、試料の加熱に伴って装置本体の温度が上昇するのを防止するために、冷却ファンが設けられる。しかしながら、冷却ファンが回転し、その冷却ファンが振動すると、重量測定値が試料の実際の重量と異なる重量を示すことがある。つまり、この場合、重量測定値及び連続する重量測定値である重量波形にノイズが含まれることがある。
【0005】
さらに、天秤については、同じ製法で製造されたものであっても、固有振動数が個々に異なる。また、冷却ファンについては、同じ製法で製造されたものであっても、所定の回転数での回転に伴って生じる振動数が個々に異なる。したがって、熱重量測定装置については、冷却ファンを同じ条件で動作させたとしても、重量測定値に含まれるノイズ量が装置毎に異なる。
【0006】
これらのことから、上記のような熱重量測定装置では、冷却ファンの回転及び振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量を調整するのが困難である。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる、熱重量測定装置及びその設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、試料の重量を測定する測定部と、前記試料を加熱する加熱部と、前記測定部に対して物理的に接続される冷却ファンとを備える熱重量測定装置の設定方法であって、回転数決定工程を含む。前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時における回転数を決定する。
【0009】
本発明の第2の態様は、測定部と、加熱部と、冷却ファンと、回転数決定処理部とを備える熱重量測定装置である。前記測定部は、試料の重量を測定する。前記加熱部は、前記試料を加熱する。前記冷却ファンは、前記測定部に対して物理的に接続される。前記回転数決定処理部は、前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時おける回転数を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、冷却ファンの回転数と、冷却ファンの振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量との関係性を特定したうえで、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、冷却ファンの回転数と、冷却ファンの振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量との関係性を特定したうえで、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の熱重量測定装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本実施形態の熱重量測定装置の電気的構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施形態の回転数決定工程における重量波形の一例を示す概略図である。
図4】本実施形態の熱重量測定装置の電気的構成の具体例を示す機能ブロック図である。
図5】本実施形態の熱重量測定装置の設定処理の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.熱重量測定装置の構成
図1は、本実施形態の熱重量測定装置10の構成の一例を示す概略断面図である。熱重量測定装置10は、試料Sを加熱、冷却又は一定温度に保持した際に起こるその試料Sの重量の変化を測定するための装置であり、示差熱・熱重量同時測定装置を含む概念である。
【0014】
熱重量測定装置10は、測定部14、加熱部16、放熱部18及び冷却ファン20等を備え、これらは、筐体12内部に収容される。また、筐体12には、その筐体12内部の空気を排気するための排気口13が設けられる。
【0015】
測定部14は、試料Sの重量を測定する。測定部14は、上皿方式の熱天秤であるため、載置台14a及び支持部材14bを含み、支持部材14bは、載置台14aを支持する。測定部14によれば、重量測定値を取得することができる。たとえば、図1に示すように、載置台14a上に試料Sがセットされているのであれば、その試料Sの重量を示す重量測定値を取得することができる。
【0016】
また、測定部14は、筐体12に直接的又は間接的に取り付けられる。たとえば、測定部14は、その測定部14を筐体12に固定するための各種部材等を介して、筐体12に取り付けられる。
【0017】
加熱部16は、電気的に制御可能な加熱炉であって、試料Sを加熱する。加熱部16は、測定部14の上方に配置される。また、熱重量測定装置10は、加熱部16を変位させる機構であって、電気的に制御可能な第1変位機構(図示は省略)を備える。加熱部16は、この第1変位機構により、垂直方向に変位可能とされる。
【0018】
本実施形態では、たとえば、試料Sを加熱しつつ、その試料Sの重量の変化を測定する場合、加熱部16は、図1に示すように、試料Sが内部に収容される箇所に位置する。また、載置台14a上に試料Sがセットされる場合及び載置台14a上から試料Sが回収される場合、加熱部16は、試料Sが内部に収容されない箇所、つまり、図1の破線で示す箇所に位置する。
【0019】
なお、熱重量測定装置10は、汎用の温度センサ(図示は省略)を備えており、加熱部16の温度制御は、この温度センサから出力される温度信号に基づいて行われる。
【0020】
また、熱重量測定装置10は、筐体12の一部を変位させる機構であって、電気的に制御可能な第2変位機構(図示は省略)を備える。たとえば、載置台14aの側方における筐体12の一部は、開閉又はスライド可能とされる。
【0021】
熱重量測定装置10では、ユーザによる第1の所定の操作を操作受付部(図示は省略)で受け付けた場合、上記第1変位機構及び上記第2変位機構が連動し、試料Sの載置台14a上へのセット及び載置台14a上の試料Sの回収が可能とされる。
【0022】
放熱部18は、熱を吸収し、空気中に放熱する部材であって、放熱部18としては、汎用のヒートシンク等が用いられる。放熱部18は、支持部材14bの周囲、かつ、加熱部16の下方に設けられる。
【0023】
冷却ファン20は、電気的に制御可能な軸流ファンである。冷却ファン20は、筐体12内部を冷却する役割又は熱重量測定装置10が備えるコンポーネントを冷却する役割を担う。
【0024】
また、冷却ファン20は、測定部14と同様に、筐体12に直接的又は間接的に取り付けられる。つまり、冷却ファン20に関しては、測定部14に対して物理的に接続されていると言える。
【0025】
冷却ファン20には、第1冷却ファン20a、第2冷却ファン20b及び第3冷却ファン20cが含まれる。
【0026】
第1冷却ファン20aは、筐体12内部の加熱された空気を排気口13から筐体12外部に排気することで、筐体12内部を冷却する。第1冷却ファン20aについては、常に動作状態とされる。したがって、試料Sの重量の測定中は、第1冷却ファン20aが動作状態とされる。
【0027】
第2冷却ファン20bは、加熱部16を冷却する。第2冷却ファン20bは、試料Sが加熱されている間は停止状態とされるが、それ以外では適宜動作状態とされる。
【0028】
第3冷却ファン20cは、放熱部18を冷却する。第3冷却ファン20cは、試料Sが載置台14a上へセットされる場合及び載置台14a上の試料Sが回収される場合は、停止状態とされる。また、第3冷却ファン20cは、少なくとも試料Sの重量の測定中は動作状態とされる。
【0029】
なお、冷却ファン20には、第1冷却ファン20a、第2冷却ファン20b及び第3冷却ファン20c以外のファンが含まれても良い。たとえば、筐体12に給気口が設けられるのであれば、冷却ファン20には、筐体12外部の空気を給気口から筐体12内部に取り込むためのファンが含まれても良い。
【0030】
このような、熱重量測定装置10によれば、載置台14a上の試料Sを加熱、冷却又は一定温度に保持した際に起こる重量の変化を測定することができる。なお、図1に示す熱重量測定装置10の構成は、あくまで一例である。
【0031】
熱重量測定装置10に関し、測定部14以外のコンポーネントは、上述したような役割を担うのであれば、筐体12外部に設けられても良い。つまり、本実施形態の熱重量測定装置10は、少なくとも測定部14が筐体12内部に設けられる構成であってもよい。
【0032】
また、本実施形態の熱重量測定装置10では、冷却ファン20は、筐体12を介することなく、測定部14に対して物理的に接続されていてもよい。つまり、冷却ファン20は、測定部14に直接的に取り付けられてもよいし、何らかの部材を介して測定部14に取り付けられてもよい。
【0033】
さらに、本実施形態の測定部14は、吊り下げ方式の熱天秤及び水平方式の熱天秤のどちらか一方でもよい。ただし、加熱部16の変位方向は、熱天秤の方式に合わせた方向とされる。
【0034】
2.熱重量測定装置の電気的構成
図2は、本実施形態の熱重量測定装置10の電気的構成の一例を示すブロック図である。熱重量測定装置10は、測定部14等以外に、制御回路22及び制御部50等を備える。
【0035】
また、制御部50、測定部14、加熱部16及び制御回路22等の各々は、バス等の回路24を介して互いに電気的に接続される。また、制御回路22は、第1冷却ファン20a、第2冷却ファン20b及び第3冷却ファン20cと電気的に接続される。
【0036】
制御回路22は、各冷却ファン20の動作を制御するための回路である。制御回路22は、冷却ファン20の制御条件、つまり、冷却ファン20の回転数を決めるパラメータを制御部50からの指示に応じて調整する。制御回路22によれば、たとえば、冷却ファン20に印加される電圧又は冷却ファン20に送信されるパルス信号が適宜調整される。
【0037】
制御部50は、熱重量測定装置10の全体的な制御を担う。制御部50は、CPU(Central Processing Unit)52を備える。また、制御部50は、CPU52が直接的にアクセス可能なRAM(Random Access Memory)54及び記憶部56を備える。
【0038】
RAM54は、CPU52のワーク領域及びバッファ領域として用いられる。記憶部56としては、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリが用いられる。
【0039】
記憶部56には、熱重量測定装置10の動作を制御するためのプログラム(制御プログラム)及び制御プログラムの実行に必要とされるデータ(実行用データ)等が記憶される。なお、記憶部56がRAM54を含むように構成されてもよい。
【0040】
3.熱重量測定装置の動作
熱重量測定装置10では、測定部14及び冷却ファン20が物理的に接続されているため、冷却ファン20の回転に伴う振動が測定部14に伝搬し、重量測定値が試料Sの実際の重量とは異なる重量を示すことがある。つまり、重量測定値及び連続する重量測定値(重量波形)にはノイズが含まれることがある。
【0041】
また、測定部14については、同じ製法で製造されたものであっても、影響を受けやすい振動数、つまり、固有振動数が個々に異なる。冷却ファン20については、同じ製法で製造されたものであっても、回転数に対する振動数が個々に異なる。
【0042】
したがって、熱重量測定装置10については、冷却ファン20を同じ条件で動作させたとしても、重量測定値に含まれるノイズ量が装置毎に異なる。たとえば、熱重量測定装置10において、重量測定値に含まれるノイズ量が最も少ないとされる冷却ファン20の回転数は、装置毎に異なる。
【0043】
そのため、熱重量測定装置10では、冷却ファン20の回転及び振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量を調整するのが困難である。
【0044】
これらのことから、熱重量測定装置10では、任意のタイミングで回転数設定処理が実行可能とされる。回転数設定処理は、冷却ファン20の回転数と、冷却ファン20の振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量との関係性を特定したうえで、冷却ファン20の動作時の回転数を設定する処理である。
【0045】
なお、ここでの冷却ファン20の動作時とは、具体的に、回転数設定処理外での冷却ファン20の動作時を意味する。したがって、冷却ファン20の動作時の回転数には、たとえば、載置台14a上の試料Sを加熱、冷却又は一定温度に保持しつつ、その試料Sの重量の変化を測定する際の冷却ファン20の回転数が該当する。
【0046】
また、冷却ファン20の制御条件が決まるのであれば、冷却ファン20の回転数も決まる。したがって、冷却ファン20の回転数は、冷却ファン20の制御条件とも言える。このことから、冷却ファン20の動作時における回転数は、冷却ファン20の動作時における制御条件とも言える。
【0047】
冷却ファン20の制御条件を決めるパラメータには、上述したような冷却ファン20に印加される電圧又は冷却ファン20に送信されるパルス信号が該当する。
【0048】
このような回転数設定処理は、たとえば、熱重量測定装置10の電源がオフからオンに切り替わるときのように、試料Sの重量の測定前に自動的に実行される。また、たとえば、回転数設定処理は、熱重量測定装置10が上記操作受付部でユーザによる第2の所定の操作を受け付けたときに実行されてもよい。
【0049】
本実施形態では、回転数設定処理が開始されると、回転数決定工程が1回以上実施される。
【0050】
回転数決定工程は、冷却ファン20の回転数を変化させつつ、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングし、その重量測定値の変化に基づいて、冷却ファン20の動作時における回転数を決める工程である。
【0051】
複数の冷却ファン20の振動によるうなりは、測定部14の固有振動数が変化しないことから無視することができる。さらに、複数の冷却ファン20を動作させた場合、重量測定値に影響を及ぼす冷却ファン20の特定が困難とされる。
【0052】
そのため、冷却ファン20が複数存在する場合、回転数決定工程は、複数の冷却ファン20のうち1つの冷却ファン20の回転数を変化させつつ、他の冷却ファン20は停止させた状態で、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングする。なお、この場合、回転数決定工程は、対象とする冷却ファン20を切り替えながら繰り返し実施される。
【0053】
また、本実施形態では、測定部14が熱天秤であることから、マイナスの重量測定値も取得する可能である。そのため、回転数決定工程は、試料Sが載置台14a上にセットされていない状態で実施される。
【0054】
一方で、測定部14自体の重量が試料Sの重量よりも非常に重いことから、試料Sの有無は、重量測定値に含まれるノイズの量に影響しない。そのため、回転数決定工程は、試料Sが載置台14a上にセットされた状態で実施されてもよい。
【0055】
試料Sが載置台14a上にセットされていない状態で回転数決定工程が実施される場合、重量測定値そのものが、ノイズ量に相当する。つまり、この場合、重量測定値に含まれるノイズ量を簡単に特定することができる。したがって、回転数決定工程は、試料Sが載置台14a上にセットされていない状態で実施されるのが好ましい。
【0056】
また、回転数決定工程では、冷却ファン20の回転数が昇順に変更される。ただし、回転数決定工程において、冷却ファン20の回転数は、降順に変更されてもよい。なお、回転数決定工程における冷却ファン20の回転数の変更範囲は、特に限定されない。
【0057】
図3は、本実施形態の回転数決定工程における重量波形の一例を示す概略図である。本実施形態では、冷却ファン20が電気的に制御可能な部品であるため、冷却ファン20が回転数を変更する制御を受けてから、その冷却ファン20の回転数が安定するまで、応答時間T1を要する。
【0058】
このことから、冷却ファン20が回転数を変更する制御を受けてから、冷却ファン20の回転数が安定した状態での重量測定値が取得されるまで、応答時間T1を要することになる。
【0059】
したがって、冷却ファン20の回転数を連続的に変化させた場合、回転数に対応する重量測定値を特定するのが困難とされるうえに、冷却ファン20の回転数が安定した状態での重量測定値が取得されないことになる。
【0060】
そのため、回転数決定工程では、冷却ファン20の回転数を段階的に変化させつつ、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングする。
【0061】
なお、冷却ファン20の回転数が段階的に変化される場合、冷却ファン20の回転数は、回転数継続時間T2が経過する毎に変化される。冷却ファン20の回転数が安定した状態での重量測定値を取得するためにも、この回転数継続時間T2は、応答時間T1よりも長い時間が好ましい。たとえば、回転数決定工程では、冷却ファン20の回転数は、1分間毎に変化する。
【0062】
また、回転数決定工程では、測定部14での重量測定値の変化がモニタリングされると、冷却ファン20の回転数が継続される期間(回転数継続期間)P1のうちの参照期間P2内における重量測定値の大きさに基づいて、冷却ファン20の動作時の回転数を決める。
【0063】
なお、回転数継続期間P1は、回転数継続時間T2に相当する期間である。また、参照期間P2の最大は、回転数継続期間P1と同じ期間である。参照期間P2に関しては、回転数継続期間P1のうち応答時間T1が経過した後の期間、すなわち、冷却ファン20の回転数が安定してからの期間が好ましい。
【0064】
回転数決定工程では、具体的に、回転数継続期間P1毎、つまり回転数毎に、参照期間P2内における重量測定値の大きさを参照する。言い換えると、回転数決定工程では、回転数毎に参照期間P2内における重量波形のピークピーク値(peak-to-peak value)を参照する。なお、ピークピーク値は、重量波形の最大値と最小値との差(乖離量)を指す。
【0065】
重量波形のピークピーク値の大きさは、重量波形に含まれるノイズ量と比例する。そのため、重量測定値の精度を優先するのであれば、回転数毎に重量波形のピークピーク値を参照し、重量測定値に含まれるノイズ量が最も少ないとされる回転数を冷却ファン20の動作時の回転数として決定すればよい。図3に示す例では、回転数R1を冷却ファン20の動作時の回転数として決定すればよい。
【0066】
また、重量測定値に含まれるノイズ量に対して許容量が予め定められるのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が許容量以下とされる回転数のうち、いずれか1つの回転数を冷却ファン20の動作時の回転数として決定してもよい。
【0067】
たとえば、熱重量測定装置10の冷却効率を優先するのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が許容量以下とされる回転数のうち、回転数が最も高いものを冷却ファン20の動作時の回転数として決定してもよい。
【0068】
さらに、重量波形のピークピーク値の代わりに重量波形の振幅、具体的には、重量波形の絶対値の最大値と、基準値Bとの差が参照されてもよい。ここでの基準値Bは、試料Sが載置台14a上にセットされている場合は、試料Sの重量を示す重量測定値であり、試料Sが載置台14a上にセットされていない場合は0である。
【0069】
また、回転数決定工程では、測定部14での重量測定値の変化がモニタリングされると、回転数継続期間P1のうちの参照期間P2内における重量測定値の平均値に基づいて、冷却ファン20の動作時の回転数を決めてもよい。
【0070】
この場合、回転数決定工程では、具体的に、回転数継続期間P1毎、つまり回転数毎に、参照期間P2内における重量測定値の平均値を参照する。言い換えると、回転数決定工程では、回転数毎に参照期間P2内における重量波形の平均値を参照する。
【0071】
重量波形の平均値と、基準値Bとの差は、その重量波形に含まれるノイズ量に比例する。そのため、重量測定値の精度を優先するのであれば、回転数毎に重量波形の平均値と、基準値Bとの差を参照し、重量測定値のノイズの含有量が最も少ないとされる回転数を冷却ファン20の動作時の回転数として決定することができる。
【0072】
また、この場合、上述したように、重量測定値に含まれるノイズ量に対して許容量が予め定められるのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が許容範囲内とされる回転数のうち、いずれか1つの回転数を冷却ファン20の動作時の回転数として決定することもできる。
【0073】
つまり、熱重量測定装置10の冷却効率を優先するのであれば、同様に、重量測定値に含まれるノイズ量が許容量以下とされる回転数のうち、回転数が最も高いものを冷却ファン20の動作時の回転数として決定することができる。
【0074】
このように回転数決定工程により冷却ファン20の動作時の回転数が決められると、その回転数を示す回転数情報がデータとして記憶部56に記憶される。なお、冷却ファン20が複数存在する場合、各回転数情報には、対応先の冷却ファン20を識別可能とする識別情報が含まれる。以下、第1冷却ファン20aを対象とする回転数設定工程が実施された場合を例に挙げて、熱重量測定装置10の具体的な動作の流れを説明する。
【0075】
本実施形態では、第1冷却ファン20aを対象とする回転数設定工程が実施される場合、第2冷却ファン20b及び第3冷却ファン20cが停止状態とされ、第1冷却ファン20aの回転数が段階的に上昇する。また、第1冷却ファン20aの回転数が段階的に上昇していく間、測定部14での重量測定値の変化がモニタリングされる。
【0076】
測定部14での重量測定値のモニタリングが完了すると、回転数毎に参照期間P2内における重量測定値の大きさ又は平均値が参照され、たとえば、重量測定値に含まれるノイズ量が最も少ないとされる回転数が第1冷却ファン20aの動作時の回転数として決定される。
【0077】
このように、第1冷却ファン20aの動作時の回転数が決められると、その回転数を示す回転数情報がデータとして記憶部56に記憶される。また、この場合、回転数情報に含まれる識別情報は、この回転数情報が第1冷却ファン20aに対応することを示す。
【0078】
本実施形態の熱重量測定装置10では、回転数設定処理外において、回転数情報が参照される。つまり、本実施形態の熱重量測定装置10では、たとえば、試料Sを加熱、冷却又は一定温度に保持しつつ、試料Sの重量の変化を測定する際、冷却ファン20が回転数決定工程により決められた回転数で回転する。
【0079】
4.熱重量測定装置の電気的構成の具体例
図4は、本実施形態の熱重量測定装置10の電気的構成の具体例を示す機能ブロック図である。なお、図4では、RAM54等の図示は省略する。
【0080】
記憶部56には、測定データ58及び回転数データ60等が記憶される。測定データ58は、重量測定値に対応するデータである。なお、測定データ58は、重量波形に対応するデータでもある。
【0081】
回転数データ60は、データ形式の回転数情報である。なお、回転数データ60は、記憶部56に複数記憶されることがある。また、回転数データ60には、データ形式の識別情報が含まれることがある。図示は省略するが、上述したように、記憶部56には、制御プログラム及び実行用データ等も併せて記憶される。
【0082】
熱重量測定装置10は、CPU52(図2参照)が制御プログラムを実行することにより、測定処理部62、回転数決定処理部64、記憶処理部66及び動作処理部68等として機能する。
【0083】
測定処理部62は、測定部14で取得される重量測定値を測定データ58として記憶部56に記憶させる。
【0084】
回転数決定処理部64は、回転数決定工程を実施する役割を担う。そのため、回転数決定処理部64は、冷却ファン20の回転数を変化させつつ、測定データ58を参照することで、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングし、その重量測定値の変化に基づいて冷却ファン20の動作時における回転数を決定する。
【0085】
また、回転数決定処理部64は、具体的に、冷却ファン20の回転数を段階的に変化させつつ、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングする。
【0086】
さらに、回転数決定処理部64は、具体的に、回転数継続期間P1のうちの参照期間P2内における重量測定値の大きさに基づいて冷却ファン20の動作時の回転数を決定する。
【0087】
また、回転数決定処理部64は、回転数継続期間P1のうちの参照期間P2内における重量測定値の平均値に基づいて冷却ファン20の動作時の回転数を決定してもよい。
【0088】
記憶処理部66は、回転数決定処理部64により決定された回転数を回転数データ60として記憶部56に記憶させる。
【0089】
動作処理部68は、回転数設定処理外において、回転数データ60を適宜参照し、冷却ファン20をその回転数データ60が示す回転数で回転させる。
【0090】
5.フロー
図5は、本実施形態の熱重量測定装置10の回転数設定処理の一例を示すフロー図である。回転数設定処理は、上述したように任意のタイミングで開始される。
【0091】
ステップS1では、冷却ファン20の回転数を変更させつつ、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングし、その重量測定値の変化に基づいて冷却ファン20の動作時の回転数を決定する。
【0092】
ステップS1では、具体的に、複数の冷却ファン20のうちの1つの冷却ファン20の回転数を段階的に上昇又は下降させつつ、他の冷却ファン20は停止させた状態で、測定部14での重量測定値の変化をモニタリングし、回転数継続期間P1のうちの参照期間P2内における重量測定値の大きさ又は平均値に基づいて、冷却ファン20の動作時の回転数を決定する。
【0093】
ステップS2では、ステップS1で決定された回転数の情報を、冷却ファン20の動作時の回転数を示す回転数情報として記憶部56に記憶させる。
【0094】
ステップS3では、各冷却ファン20の動作時の回転数が決まっているかどうかを判断する。ステップS3で“NO”であれば、つまり、いずれかの冷却ファン20の動作時の回転数が決まっていないのであれば、他の冷却ファン20の動作時の回転数を決定するためにステップS1に戻る。一方で、ステップS3で“YES”であれば、つまり、全ての冷却ファン20の動作時の回転数が決められているのであれば、回転数設定処理を終了する。
【0095】
なお、本実施形態で挙げた具体的な構成は一例であり、実際の製品に応じて適宜変更することが可能である。そのため、熱重量測定装置10の構成は、本発明の作用効果が得られる範囲内で適宜変更されてもよい。また、本実施形態で示したフロー図の各ステップは、同じ結果が得られるのであれば、処理される順番は適宜変更することが可能である。
【0096】
6.態様
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0097】
(第1項)一態様に係る熱重量測定装置の設定方法は、
試料の重量を測定する測定部と、前記試料を加熱する加熱部と、前記測定部に対して物理的に接続される冷却ファンとを備える熱重量測定装置の設定方法であって、
前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時における回転数を決定する回転数決定工程を含んでもよい。
【0098】
第1項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、冷却ファンの回転数と、冷却ファンの振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量との関係性を特定したうえで、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる。そのため、重量測定値の精度を優先するのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が最も少ないとされる回転数を冷却ファンの動作時における回転数として決定することができる。また、冷却ファンの冷却効率を優先するのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が許容値以下とされる回転数のうち、回転数が最大ものを冷却ファンの動作時における回転数として決定することもできる。
【0099】
(第2項)第1項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記回転数決定工程では、前記測定部に試料がセットされていない状態で、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングしてもよい。
【0100】
第2項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、重量測定値そのものが、ノイズ量に相当する。そのため、この場合、重量測定値に含まれるノイズ量を簡単に特定することができる。
【0101】
(第3項)第1項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数を段階的に変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングしてもよい。
【0102】
第3項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、回転数に対応する重量測定値を簡単に特定することができる。また、この場合、冷却ファンの回転数が安定した状態での重量測定値を取得することができる。
【0103】
(第4項)第3項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における前記重量測定値の平均値に基づいて前記冷却ファンの動作時の回転数を決定してもよい。
【0104】
第4項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における重量測定値の平均値に基づいて冷却ファンの動作時の回転数を決定することができる。
【0105】
(第5項)第3項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記回転数決定工程では、前記冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における前記重量測定値の大きさに基づいて前記冷却ファンの動作時の回転数を決定してもよい。
【0106】
第5項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、冷却ファンの回転数が継続される期間のうちの所定期間内における重量測定値の大きさに基づいて冷却ファンの動作時の回転数を決定することができる。
【0107】
(第6項)第1項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記熱重量測定装置は、複数の前記冷却ファンを備え、
前記回転数決定工程では、複数の前記冷却ファンのうち1つの冷却ファンの回転数を変化させつつ、他の冷却ファンは停止させた状態で、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングしてもよい。
【0108】
第6項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、各冷却ファンの動作時の回転数を最適化することができる。
【0109】
(第7項)第1項に記載の熱重量測定装置の設定方法において、
前記熱重量測定装置は、前記測定部を内部に有する筐体をさらに備え、
前記測定部及び前記冷却ファンが、前記筐体に対して直接的又は間接的に取り付けられることにより、前記冷却ファンが前記測定部に対して物理的に接続されていてもよい。
【0110】
第7項に記載の熱重量測定装置の設定方法によれば、測定部が筐体内部に設けられ、測定部及び冷却ファンが筐体を介して物理的に接続される構成において、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる。
【0111】
(第8項)一態様に係る熱重量測定装置は、
試料の重量を測定する測定部と、
前記試料を加熱する加熱部と、
前記測定部に対して物理的に接続される冷却ファンと、
前記冷却ファンの回転数を変化させつつ、前記測定部での重量測定値の変化をモニタリングし、前記重量測定値の変化に基づいて前記冷却ファンの動作時おける回転数を決定する回転数決定処理部とを備えていてもよい。
【0112】
第8項に記載の熱重量測定装置によれば、冷却ファンの回転数と、冷却ファンの振動に伴って重量測定値に生じるノイズ量との関係性を特定したうえで、冷却ファンの動作時における回転数を装置毎に適切に決定することができる。そのため、重量測定値の精度を優先するのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が最も少ないとされる回転数を冷却ファンの動作時における回転数として決定することができる。また、冷却ファンの冷却効率を優先するのであれば、重量測定値に含まれるノイズ量が許容値以下とされる回転数のうち、回転数が最大ものを冷却ファンの動作時における回転数として決定することもできる。
【符号の説明】
【0113】
10 熱重量測定装置
12 試料供給装置
14 測定部
16 加熱部
20 冷却ファン
20a 第1冷却ファン
20b 第2冷却ファン
20c 第3冷却ファン
64 回転数決定処理部
S 試料
P1 回転数継続期間
P2 参照期間
図1
図2
図3
図4
図5