(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030314
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
F04C18/02 311P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133103
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰造
(72)【発明者】
【氏名】冠城 美早子
(72)【発明者】
【氏名】阿久澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】押尾 英一
(72)【発明者】
【氏名】西山 京志郎
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA05
3H039BB05
3H039BB15
3H039CC19
3H039CC20
3H039CC31
3H039CC32
(57)【要約】
【課題】シャフトを支持するリアベアリングがシャフトシールよりも大きい外径寸法を有する場合にも破損を防止することができするスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】センターケーシング6に圧入固定されてシャフト14を支持するリアベアリング18と、その貫通孔17側に配置されたシャフトシール58を備え、可動スクロール22を固定スクロール21に対して公転旋回運動させる。リアベアリング18は、シャフトシール58よりも大きい外径寸法を有し、シャフトシール58はリアベアリング18とは別体構造とされる。リアベアリング18とシャフトシール58間に、シャフトシール58より大径のシャフトシール固定プレート64が介設されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構と、ケーシングと、該ケーシングと前記可動スクロール間に構成された背圧室と、前記ケーシングに形成された凹部の貫通孔を貫通し、前記可動スクロールを駆動するシャフトと、前記ケーシングの凹部に圧入固定され、前記シャフトを回転可能に支持するベアリングと、該ベアリングの前記貫通孔側における前記凹部に配置され、前記ケーシング外に作動流体が流出することを防ぐためのシャフトシールを備え、前記シャフトが取り付けられたモータにより前記可動スクロールを前記固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、前記作動流体を圧縮するスクロール圧縮機において、
前記ベアリングは、前記シャフトシールよりも大きい外径寸法を有し、
該シャフトシールは、前記ベアリングとは別体構造とされると共に、
当該ベアリングと前記シャフトシール間の前記凹部には、前記シャフトシールより大径のシャフトシール固定プレートが介設されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記可動スクロールの前記背圧室側に設けられたスラストプレートと、
該スラストプレートを前記ケーシングに対して位置決めする少なくとも一対の位置決めピンを備え、
前記ベアリングの外径寸法は、前記各位置決めピン間の間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記ケーシングの凹部は、小径凹部と大径凹部から成る段差形状を呈し、前記貫通孔は前記小径凹部に形成されており、
前記シャフトシールは前記小径凹部に配置され、前記ベアリングは前記大径凹部に圧入固定されると共に、
前記シャフトシール固定プレートは、前記ベアリングと前記シャフトシール間における前記大径凹部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記モータは前記ケーシング側に位置するバランスウェイトを備え、
前記ケーシングの外形は、前記凹部の段差形状に沿った段差形状とされていることを特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記ベアリングは、外輪部と内輪部間にボールが設けられたボールベアリングであり、
前記ベアリングの外径寸法は、前記スラストプレートに設けられた前記可動スクロールの少なくとも一対の自転阻止ピン間の間隔よりも大きく、
前記シャフトシール固定プレートは、前記ベアリングの外径寸法と略同等の外径寸法を有し、前記大径凹部の内面と前記ベアリングの外輪部及び内輪部との間に挟み込まれていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させるスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば車両用空調装置の冷媒回路を構成するスクロール圧縮機は、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、鏡板の表面に渦巻き状のラップを備えた可動スクロールから成る圧縮機構を備え、各スクロールのラップを対向させてラップ間に圧縮室を形成し、モータのシャフトにより固定スクロールに対して可動スクロールを公転旋回運動させることにより、圧縮室で作動流体(冷媒と潤滑用のオイル)を圧縮するように構成されている。
【0003】
この場合、可動スクロールの鏡板の背面側には、センターケーシングと称されるケーシング内に、圧縮室からの圧縮反力に対向して可動スクロールを固定スクロールに押し付けるための背圧室が形成されている。また、シャフトはセンターケーシングの貫通孔を貫通して設けられ、センターケーシング内に圧入固定されたリアベアリングと称されるベアリングにより、回転自在に支持されていた。
【0004】
また、センターケーシング内には、貫通孔から作動流体が流出することを防ぐためのシャフトシールが設けられ、シャフトに摺動自在に当接するように配置されていた(シャフトシールについては、例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年ではスクロール圧縮機の運転範囲の拡大が必要とされており、シャフトを支持するリアベアリングの大型化が必須となって来ている。その場合、リアベアリングはシャフトシールよりも大きい外径寸法となる。前記従来技術では、リアベアリングとシャフトシールが一体化されているため問題ないが、リアベアリングとシャフトシールが別体構造である場合、リアベアリングがシャフトシールよりも大きい外径寸法となると、リアベアリングの外輪部と内輪部間に介設されたボール等にシャフトシールの端面が接触してしまい、リアベアリング及びシャフトシールが破損してしまう問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、シャフトを支持するベアリングがシャフトシールよりも大きい外径寸法を有する場合にも、それらの破損を防止することができするスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構と、ケーシングと、このケーシングと可動スクロール間に構成された背圧室と、ケーシングに形成された凹部の貫通孔を貫通し、可動スクロールを駆動するシャフトと、ケーシングの凹部に圧入固定され、シャフトを回転可能に支持するベアリングと、このベアリングの貫通孔側における凹部に配置され、ケーシング外に作動流体が流出することを防ぐためのシャフトシールを備え、シャフトが取り付けられたモータにより可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、作動流体を圧縮するものであって、ベアリングは、シャフトシールよりも大きい外径寸法を有し、シャフトシールは、ベアリングとは別体構造とされると共に、当該ベアリングとシャフトシール間の凹部には、シャフトシールより大径のシャフトシール固定プレートが介設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明のスクロール圧縮機は、上記発明において可動スクロールの背圧室側に設けられたスラストプレートと、このスラストプレートをケーシングに対して位置決めする少なくとも一対の位置決めピンを備え、ベアリングの外径寸法は、各位置決めピン間の間隔よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明のスクロール圧縮機は、請求項1の発明においてケーシングの凹部は、小径凹部と大径凹部から成る段差形状を呈し、貫通孔は小径凹部に形成されており、シャフトシールは小径凹部に配置され、ベアリングは大径凹部に圧入固定されると共に、シャフトシール固定プレートは、ベアリングとシャフトシール間における大径凹部に配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明のスクロール圧縮機は、上記発明においてモータはケーシング側に位置するバランスウェイトを備え、ケーシングの外形は、凹部の段差形状に沿った段差形状とされていることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明のスクロール圧縮機は、請求項3又は請求項4の発明においてベアリングは、外輪部と内輪部間にボールが設けられたボールベアリングであり、ベアリングの外径寸法は、スラストプレートに設けられた可動スクロールの少なくとも一対の自転阻止ピン間の間隔よりも大きく、シャフトシール固定プレートは、ベアリングの外径寸法と略同等の外径寸法を有し、大径凹部の内面とベアリングの外輪部及び内輪部との間に挟み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固定スクロール及び可動スクロールから成る圧縮機構と、ケーシングと、このケーシングと可動スクロール間に構成された背圧室と、ケーシングに形成された凹部の貫通孔を貫通し、可動スクロールを駆動するシャフトと、ケーシングの凹部に圧入固定され、シャフトを回転可能に支持するベアリングと、このベアリングの貫通孔側における凹部に配置され、ケーシング外に作動流体が流出することを防ぐためのシャフトシールを備え、シャフトが取り付けられたモータにより可動スクロールを固定スクロールに対して公転旋回運動させることにより、作動流体を圧縮するスクロール圧縮機において、ベアリングとシャフトシール間に、当該シャフトシールより大径のシャフトシール固定プレートを介設したので、ベアリングが、シャフトシールよりも大きい外径寸法を有し、シャフトシールが、ベアリングとは別体構造とされる場合にも、シャフトシールがベアリングのボールと接触して、当該ベアリングやシャフトシールが破損してしまう不都合を解消することができるようになる。
【0014】
これにより、ケーシング外に作動流体が流出する不都合を回避し、スクロール圧縮機の性能低下を解消することができるようになる。また、ベアリングの大型化に対応することが可能となるので、スクロール圧縮機の運転範囲が拡大された場合にも、寿命の延長を図ることができるようになる。更に、ベアリングとシャフトシール間にシャフトシール固定プレートを介設するという比較的簡単な構成のため、コストアップも最小限に抑制することができる。
【0015】
更にまた、シャフトシールを大型化するものではないので、シャフトの延長等によるスクロール圧縮機の全体寸法の拡大も解消されると共に、請求項4の発明の如きモータに取り付けられるバランスウェイトとの干渉の危険性も抑制され、振動騒音が悪化する不都合も解消することが可能となる。
【0016】
また、請求項2の発明の如く可動スクロールの背圧室側に設けられたスラストプレートと、このスラストプレートをケーシングに対して位置決めする少なくとも一対の位置決めピンを備え、ベアリングの外径寸法を、各位置決めピン間の間隔よりも小さくすることで、ベアリングの過剰な大型化によるスクロール圧縮機の全体寸法の大型化を回避することができるようになる。
【0017】
また、請求項3の発明の如くケーシングの凹部を、小径凹部と大径凹部から成る段差形状とし、貫通孔を小径凹部に形成し、シャフトシールを小径凹部に配置し、ベアリングは大径凹部に圧入固定すると共に、シャフトシール固定プレートを、ベアリングとシャフトシール間における大径凹部に配置するようにすれば、ケーシングに圧入固定されるベアリングにより、シャフトシールとシャフトシール固定プレートを安定的に保持することができるようになる。
【0018】
また、請求項4の発明の如くケーシングの外形を、凹部の段差形状に沿った段差形状とすることで、ケーシングが、モータのケーシング側に位置するバランスウェイトと干渉してしまう不都合も解消することができるようになり、シャフトの軸長を伸ばす必要もなくなる。
【0019】
更に、請求項5の発明の如くベアリングの外径寸法を、スラストプレートに設けられた可動スクロールの少なくとも一対の自転阻止ピン間の間隔よりも大きくし、シャフトシール固定プレートの外径寸法を、ベアリングの外径寸法と略同等とし、大径凹部の内面とベアリングの外輪部及び内輪部との間に挟み込まれるようにすれば、更に安定的にシャフトシール固定プレートをケーシング内に保持し、シャフトシールとベアリングとの干渉を確実に防止することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機の断面図である。
【
図2】
図1のスクロール圧縮機のリアベアリング部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明を適用した一実施形態のスクロール圧縮機1の概略断面図である。
【0022】
実施例のスクロール圧縮機1は、例えば電動車両用の空調装置の冷媒回路に使用され、空調装置の作動流体としての冷媒(潤滑油を含む)を吸入し、圧縮して吐出配管に吐出するものであり、モータの実施例である三相のモータ2と、このモータ2を運転するためのインバータ3と、モータ2によって駆動されるスクロール式の圧縮機構4を備えた所謂横置き型のスクロール圧縮機である。
【0023】
実施例のスクロール圧縮機1は、モータ2や、本発明におけるケーシングとしてのセンターケーシング6をその内側に収容するステータハウジング7と、このステータハウジング7の一端側に取り付けられ、インバータ3をその内側に収容するインバータケース8と、ステータハウジング7の他端側に取り付けられたリアケーシング9を備えている。
【0024】
これらセンターケーシング6、ステータハウジング7、インバータケース8、リアケーシング9は何れも金属製(実施例ではアルミニウム製)であり、それらが一体的に接合されて実施例のスクロール圧縮機1のハウジング11が構成されている。
【0025】
ステータハウジング7内にはモータ2を収容するモータ室12が構成されており、モータ室12の一端面は閉塞されている。モータ室12の他端面は開口しており、この開口にはモータ2が収容された後、センターケーシング6が収容される。また、ステータハウジング7の一端側の壁の内面(モータ室12側)には、モータ2に取り付けられたシャフト14の一端部を回転可能に支持するためのフロントベアリング16が取り付けられている。
【0026】
センターケーシング6は、モータ2とは反対側(他端側)が開口しており、この開口は圧縮機構4の後述する可動スクロール22が収容された後、圧縮機構4のこれも後述する固定スクロール21が固定されたリアケーシング9が、ステータハウジング7に固定されることで閉塞される。
【0027】
また、センターケーシング6にはモータ2のシャフト14の他端部が貫通する貫通孔17が開設されており、この貫通孔17の圧縮機構4側のセンターケーシング6内には、圧縮機構4側でシャフト14の他端部を回転可能に支持するベアリングとしてのリアベアリング18が取り付けられている。
【0028】
モータ2は、コイルが巻装されてステータハウジング7の周壁内側に固定されたステータ25と、その内側で回転するロータ23から構成されている。そして、例えば車両のバッテリ(図示せず)からの直流電流がインバータ3により三相交流電流に変換され、モータ2のステータ25のコイルに供給されることで、ロータ23が回転駆動されるよう構成されている。そして、シャフト14はこのモータ2のロータ23に取付固定されている。51Aは、モータ2のロータ23のセンターケーシング6側の位置の端面に取り付けられたバランスウェイトであり、51Bは反対側の端面に取り付けられたバランスウェイトである。
【0029】
また、ステータハウジング7には、吸入ポート30が形成されており、
図1中矢印で示す如く吸入ポート30から吸入された低温の冷媒は、ステータハウジング7内のモータ2を通過した後、センターケーシング6内に流入し、圧縮機構4の外側の吸入部37に吸入される。これにより、モータ2は吸入冷媒により冷却される。また、圧縮機構4にて圧縮された冷媒は、後述する吐出室27からリアケーシング9に形成された吐出ポート20より、図中矢印で示す如くハウジング11外の図示しない冷媒回路の吐出配管に吐出される構成とされている。
【0030】
圧縮機構4は、前述した固定スクロール21と可動スクロール22から構成されている。固定スクロール21は、円盤状の鏡板23と、この鏡板23の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ24を一体に備えており、このラップ24が立設された鏡板23の表面をセンターケーシング6側としてリアケーシング9に固定されている。
【0031】
固定スクロール21の鏡板23の中央には吐出孔26が形成されており、この吐出孔26はリアケーシング9内の吐出室27に連通されている。図中において28は、吐出孔26の鏡板23の背面(他方の面)側の開口に設けられた吐出バルブである。
【0032】
可動スクロール22は、固定スクロール21に対して公転旋回運動するスクロールであり、円盤状の鏡板31と、この鏡板31の表面(一方の面)に立設されたインボリュート状、又は、これに近似した曲線から成る渦巻き状のラップ32と、鏡板31の背面(他方の面)の中央に突出形成されたボス33を一体に備えている。この可動スクロール22は、ラップ32の突出方向を固定スクロール21側としてラップ32が固定スクロール21のラップ24に対向し、相互に向かい合って噛み合うように配置され、各ラップ24、32間に圧力室34を形成する。
【0033】
即ち、可動スクロール22のラップ32は、固定スクロール21のラップ24と対向し、ラップ32の先端が鏡板23の表面に接し、ラップ24の先端が鏡板31の表面に接するように噛み合い、且つ、可動スクロール22のボス33には、シャフト14の他端において軸心から偏心して設けられた偏心部36が嵌め合わされている。そして、モータ2のロータ23と共にシャフト14が回転されると、可動スクロール22は自転すること無く、固定スクロール21に対して公転旋回運動するように構成されている。尚、52はシャフト14の他端部に取り付けられたカウンタウェイトである。
【0034】
可動スクロール22は固定スクロール21に対して偏心して公転旋回するため、各ラップ24、32の偏心方向と接触位置は回転しながら移動し、外側の前述した吸入部37から冷媒(オイルを含む)を吸入した圧力室34は、内側に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより冷媒は圧縮されていき、最終的に中央の吐出孔26から吐出バルブ28を経て吐出室27に吐出される。
【0035】
図1において、38は円環状のスラストプレートである。このスラストプレート38は、可動スクロール22の鏡板31の背面とセンターケーシング6との間に形成された背圧室39と、圧縮機構4の外側の吸入部37とを区画するためのものであり、ボス33の外側に位置してセンターケーシング6と可動スクロール22の間に介設されている。即ち、スラストプレート38は可動スクロール22の背圧室39側に設けられている。
【0036】
また、40はこのスラストプレート38をセンターケーシング6に位置決めするための位置決めピンであり、スラストプレート38の端部に位置して少なくとも一対設けられている。更に、45はスラストプレート38から可動スクロール22側に突出する自転阻止ピンである。この自転阻止ピン45も少なくとも一対設けられ、可動スクロール22の鏡板31の背面に摺動自在に係合して可動スクロール22の自転を阻止する役割を果たす。
【0037】
更にまた、41は可動スクロール22の鏡板31の背面に取り付けられてスラストプレート38に当接するシール材であり、このシール材41とスラストプレート38により背圧室39と吸入部37とが区画される。尚、図面では片方のみ示しているが、実際のシール材41はリング状を呈し、鏡板31の背面周縁部に取り付けられている。
【0038】
また、48はリアケーシング9(ハウジング11)内に設けられた遠心式のオイルセパレータである。このオイルセパレータ48は圧縮機構4から吐出室27に吐出された冷媒に混入した潤滑用のオイルを当該冷媒から分離するものである。このオイルセパレータ48には流入口49が形成され、この流入口49から流入したオイルを含む冷媒は、オイルセパレータ48内で旋回する。このときの遠心力でオイルは分離され、冷媒は上端の流出口から吐出ポート20に向かい、前述した如く吐出配管に吐出される。
【0039】
オイルセパレータ48の下方のリアケーシング9には貯油室44が形成されており、オイルセパレータ48で冷媒から分離されたオイルは、オイルセパレータ48の下端からこの貯油室44に流入する。図中において43は、リアケーシング9からセンターケーシング6に渡って形成された背圧通路である。この背圧通路43はリアケーシング9内の吐出室27内(圧縮機構4の吐出側)のオイルセパレータ48と背圧室39とを連通する経路であり、実施例ではオリフィス50を有している。これにより、背圧室39には背圧通路43のオリフィス50で減圧調整された吐出圧が、オイルセパレータ48で分離された貯油室44内のオイルと共に供給されるように構成されている。
【0040】
この背圧室39内の圧力(背圧)により、可動スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重が生じる。この背圧荷重により、圧縮機構4の圧力室34からの圧縮反力に抗して可動スクロール22が固定スクロール21に押し付けられ、ラップ24、32と鏡板31、23との接触が維持され、圧力室34で冷媒を圧縮可能となる。
【0041】
一方、インバータケース8は、内部にインバータ3が収容されるインバータ収容部13を構成するケース本体10と、このケース本体10の一端面の開口を閉塞する蓋部材15から構成されている。この蓋部材15はインバータ3をインバータ収容部13に収容した後、ケース本体10に取り付けられる。
【0042】
ステータハウジング7の一端側の壁にはハーメチックピン53が取り付けられている。このハーメチックピン53の一端側はインバータ3に電気的に接続されている。また、ハーメチックピン53の他端側はモータ2のステータ25のコイルに接続される構造とされている。
【0043】
次に、
図2の拡大図を参照しながら、リアベアリング18周辺の詳細構造を説明する。センターケーシング6には、他端側の開口とは反対側、即ち、一端側に凹陥した凹部54が形成されている。この凹部54は、センターケーシング6の一端部に位置する小径凹部56と、この小径凹部56よりも径が大きい大径凹部57から成る段差形状を呈しており、前述した貫通孔17は小径凹部56に貫通形成されている。また、センターケーシング6の外形は、係る凹部54の段差形状に沿った段差形状とされている。
【0044】
そして、この小径凹部56内には、円環状のシャフトシール58が配置されている。この場合、小径凹部56の内側の深さ寸法(シャフト14の軸方向における寸法)は、シャフトシール58の厚さ寸法と略同等とされており、シャフトシール58はこの小径凹部56内に略隙間無く収容される。このシャフトシール58はリアベアリング18の貫通孔17側に配置されており、その内周縁部はシャフト14の外周面に摺動自在に当接し、貫通孔17からオイルや冷媒(作動流体)がセンターケーシング6外のモータ室12に流出(
図2中に矢印で示す)することを防止する。
【0045】
一方、前述したリアベアリング18は、大径凹部57内に圧入されて固定されている。このリアベアリング18は、外輪部61及び内輪部62と、それらの間に設けられた複数のボール63から成るボールベアリングであり、外輪部61の外面が大径凹部57の内面に圧入され、シャフト14が内輪部62の内面に圧入される。
【0046】
本発明で使用するリアベアリング18は、スクロール圧縮機1の運転範囲の拡大に対応するために従前にものよりも大径化され、シャフトシール58よりも大きい外径寸法を有している。実施例の場合、リアベアリング18の外径寸法は、前述したスラストプレート38の自転阻止ピン45間の間隔よりも大きい値まで拡大されている。しかしながら、実施例のリアベアリング18の外径寸法は、スラストプレート38の位置決めピン40間の間隔よりは小さい値に止められている。これにより、
図2に示されるように、実施例のシャフトシール58の外周縁部は、丁度リアベアリング18の外輪部61と内輪部62の間のボール63に軸方向で対応する位置に来ている。
【0047】
また、リアベアリング18と上述したシャフトシール58とは別体構造とされており、リアベアリング18のシャフトシール58側における大径凹部57内には、所定の間隔が形成される。そして、このリアベアリング18とシャフトシール58間の大径凹部57の間隔内に、本発明におけるシャフトシール固定プレート64が配置され、リアベアリング18とシャフトシール58の間に介設される。
【0048】
実施例のシャフトシール固定プレート64は、シャフトシール58よりも大径とされており、リアベアリング18の外径寸法と略同等の外径寸法を有している。そして、シャフトシール固定部プレート64は、大径凹部57と小径凹部56との段差部分の大径凹部57内面と、リアベアリング18の外輪部61及び内輪部62との間に挟み込まれている。
【0049】
次に、これらリアベアリング18、シャフトシール58、シャフトシール固定プレート64を取り付ける手順を説明すると、先ず、センターケーシング6の凹部54の小径凹部56内にシャフトシール58を配置する。その後、シャフトシール固定プレート64を大径凹部57と小径凹部56の段差部分の大径凹部57内に配置する。そして、最後にリアベアリング18を大径凹部57内に圧入するということになる。
【0050】
ここで、リアベアリング18を大径化すると、シャフトシール58の外周縁部は前述した如くリアベアリング18のボール63に対応する位置に来ることになる。そのため、シャフトシール固定プレート64が無いと、リアベアリング18とは別体構造のシャフトシール58が軸方向に動いて、その外周縁部が回転するリアベアリング18のボール63や内輪部62と接触してしまい、リアベアリング18及びシャフトシール58が破損してしまう。
【0051】
リアベアリング18が破損すると、シャフト14を円滑に支持することができなくなり、回転が阻害されることになる。また、シャフトシール58が破損すると、オイルや冷媒(作動流体)が
図2中矢印で示す如くセンターケーシング6外側の低圧であるモータ室12に漏れてしまうようになるので、背圧室39の背圧が低下し、圧縮機構4が圧縮不良に陥り、冷凍能力が低下することになる。
【0052】
しかしながら、本発明の如くリアベアリング18とシャフトシール58の間にシャフトシール固定プレート64を配置することで、リアベアリング18がシャフトシール58よりも大きい外径寸法を有し、シャフトシール58がリアベアリング18と別体構造とされる場合にも、シャフトシール58がリアベアリング18のボール63や内輪部62と接触して、リアベアリング18やシャフトシール58が破損してしまうことを防止することができるようになる。
【0053】
これにより、センターケーシング6外の低圧のモータ室12にオイルや冷媒(作動流体)が流出する不都合を回避し、スクロール圧縮機1の性能低下を解消することができるようになる。そして、リアベアリング18の大型化に支障無く対応することが可能となるので、スクロール圧縮機1の運転範囲が拡大された場合にも、寿命の延長を図ることができるようになる。
【0054】
更に、リアベアリング18とシャフトシール58の間にシャフトシール固定プレート64を介設するという比較的簡単な構成のため、コストアップも最小限に抑制することができる。また、シャフトシール58を大型化するものではないので、モータ2のバランスウェイト51Aとの干渉を防ぐためにシャフト14を延長する等の必要も無くなり、スクロール圧縮機1の全体寸法の拡大も解消することが可能となる。これは即ち、バランスウェイト51Aの寸法を制限する必要もなくなるということであるので、振動騒音が悪化する不都合も解消することが可能となる。
【0055】
また、実施例ではリアベアリング18の外径寸法を、スラストプレート38の位置決めピン40間の間隔よりも小さくしているので、リアベアリング18の過剰な大型化によるスクロール圧縮機1の全体寸法の大型化を回避することができるようになる。
【0056】
また、実施例ではセンターケーシング6の凹部54を、小径凹部56と大径凹部57から成る段差形状とし、貫通孔17を小径凹部56に形成し、シャフトシール58を小径凹部56に配置し、リアベアリング18は大径凹部に圧入固定すると共に、シャフトシール固定プレート64を、リアベアリング18とシャフトシール58間における大径凹部57に配置するようにしているので、センターケーシング6に圧入固定されるリアベアリング18により、シャフトシール58とシャフトシール固定プレート64を安定的に保持することができるようになる。
【0057】
また、実施例ではセンターケーシング6の外形を、凹部54の段差形状に沿った段差形状としているので、センターケーシング6の小径凹部56は、
図2に示すようにモータ2のバランスウェイト51Aの内側に来るようになる。これにより、センターケーシング6とバランスウェイト51Aが干渉してしまう不都合も解消することができるようになり、シャフト14の軸長を伸ばす必要もなくなる。
【0058】
更に、実施例ではリアベアリング18の外径寸法を、スラストプレート38に設けられた可動スクロール2の自転阻止ピン45間の間隔よりも大きくし、シャフトシール固定プレート64の外径寸法を、リアベアリング18の外径寸法と略同等とし、大径凹部57の内面とリアベアリング18の外輪部61及び内輪部2との間に挟み込まれるようにしているので、シャフトシール固定プレート64を更に安定的にセンターケーシング6内に保持し、シャフトシール58とリアベアリング18との干渉を確実に防止することができるようになる。
【0059】
尚、実施例ではセンターケーシング6がハウジング11内に収容される構成のスクロール圧縮機1で本発明を説明したが、スクロール圧縮機1のハウジング11の具体的な構造は実施例に限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 スクロール圧縮機
2 モータ
3 インバータ
4 圧縮機構
6 センターケーシング(ケーシング)
7 ステータハウジング
11 ハウジング
12 モータ室
14 シャフト
17 貫通孔
18 リアベアリング(ベアリング)
21 固定スクロール
22 可動スクロール
38 スラストプレート
39 背圧室
40 位置決めピン
45 自転阻止ピン
51A バランスウェイト
54 凹部
56 小径凹部
57 大径凹部
58 シャフトシール
61 外輪部
62 内輪部
63 ボール
64 シャフトシール固定プレート