(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030324
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/08 20060101AFI20240229BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240229BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240229BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240229BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20240229BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240229BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20240229BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240229BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20240229BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240229BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240229BHJP
【FI】
B32B27/08
B32B7/027
B32B27/40
B32B27/26
B32B27/16 101
B05D7/24 302T
B05D7/04
B05D7/24 301T
B05D7/24 301R
B05D7/24 301E
B05D5/00 E
B05D5/00 B
B29C48/21
B29C48/08
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133133
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】510127882
【氏名又は名称】株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】星 健太
【テーマコード(参考)】
3D344
4D075
4F100
4F207
【Fターム(参考)】
3D344AA08
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4F207KM16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するHUD用防塵カバーに用いることのできる透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体の提供。
【解決手段】ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとの共押出成形体であって、ポリカーボネート層と、ポリメチルメタクリレート層とを備える基材層10と、前記ポリメチルメタクリレート層40に積層するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20と、を備え、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとを質量比7:3~8:2で含み、さらにカルボジイミドを含む硬化物であり、可視領域における光線透過率が90%以上であり、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層側の表面の鉛筆硬度が2H以上であり、燃焼性試験において自己消火性を示す、透光性樹脂シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとの共押出成形体であって、ポリカーボネート層と、ポリメチルメタクリレート層とを備える基材層と、
前記基材層の前記ポリメチルメタクリレート層に積層するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層と、を備え、
前記ポリカーボネート層の厚さが320μm~400μmであり、
前記ポリメチルメタクリレート層の厚さが18μm~45μmであり、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層の厚さが3μm~10μmであり、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、カルボジイミドを含む硬化物であり、
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比は、7:3~8:2であり、
可視領域における光線透過率が90%以上であり、
前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層側の表面の鉛筆硬度が2H以上であり、
FMVSS No.302に規定された燃焼性試験において自己消火性を示す、透光性樹脂シート。
【請求項2】
前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分の合計と、前記カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8である、請求項1に記載の透光性樹脂シート。
【請求項3】
請求項1に記載の透光性樹脂シートの製造方法であって、
前記基材層に塗料を塗付して前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層を形成するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程を含み、
前記塗料は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、カルボジイミドと、光重合開始剤と、溶剤とを含む混合物であり、
前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分と、前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分との質量比は、7:3~8:2である、
透光性樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分の合計と、前記カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8である、請求項3に記載の透光性樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記ポリカーボネートと前記熱可塑性ポリメチルメタクリレートとを共押出成形して、前記基材層を形成する基材層形成工程を含む、請求項3に記載の透光性樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の透光性樹脂シートを透光性防塵カバーとして備える、投射型表示器。
【請求項7】
請求項6に記載の投射型表示器を備える移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体に関し、特に、電気自動車に搭載されるヘッドアップディスプレイ装置(Head-Up Display 以下、「HUD」とする場合がある)に使用可能なHUD用防塵カバーとして用いることのできる透光性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のような移動体に搭載して用いられる投射型表示器として、HUDが知られている。また、近年の自動車に搭載され始めているHUDは、装置本体からガラス等の投影部に画像を投影する投影口から埃やゴミが入り込まないようにするための防塵カバーが必要とされている。
【0003】
例えば特許文献1には、従来のHUD用防塵カバーとして、主として樹脂材料で構成される透明樹脂層と、この透明樹脂層に積層されたハードコート層とを備える透明性樹脂シートが提案されている。例えば前記樹脂材料は、ポリカーボネート系樹脂であり、ハードコート層を構成する紫外線硬化性樹脂としてはアクリル系化合物を主成分とする紫外線硬化性樹脂が好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HUD用防塵カバーは、画像の表示部と投影部との間に配されるため、画像の投影を阻害しないよう高い透明性が求められている。そして、埃やゴミで傷が付かないよう、防塵カバーには鉛筆硬度2H以上の耐傷付性が求められている。さらに近年、電気自動車が急速に普及して来ているが、電気自動車に搭載されるHUD用防塵カバーにはFMVSS No.302に規定された燃焼性試験に合格する難燃性を有することが求められている。
【0006】
しかしながら、従来のHUD用防塵カバーには、これらの高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するものは無かった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するHUD用防塵カバーに用いることのできる透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の透光性樹脂シートは、ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとの共押出成形体であって、ポリカーボネート層と、ポリメチルメタクリレート層とを備える基材層と、前記基材層の前記ポリメチルメタクリレート層に積層するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層と、を備え、前記ポリカーボネート層の厚さが320μm~400μmであり、前記ポリメチルメタクリレート層の厚さが18μm~45μmであり、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層の厚さが3μm~10μmであり、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、カルボジイミドを含む硬化物であり、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比は、7:3~8:2であり、可視領域における光線透過率が90%以上であり、前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層側の表面の鉛筆硬度が2H以上であり、FMVSS No.302に規定された燃焼性試験において自己消火性を示す、透光性樹脂シートである。
【0009】
本発明の透光性樹脂シートにおいて、前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分の合計と、前記カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8であってもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の透光性樹脂シートの製造方法は、本発明の透光性樹脂シートの製造方法であって、前記基材層に塗料を塗付して前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層を形成するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程を含み、前記塗料は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、カルボジイミドと、光重合開始剤と、溶剤とを含む混合物であり、前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分と、前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分との質量比は、7:3~8:2である、透光性樹脂シートの製造方法である。
【0011】
本発明の透光性樹脂シートの製造方法において、前記紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと前記熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分の合計と、前記カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8であってもよい。
【0012】
本発明の透光性樹脂シートの製造方法は、前記ポリカーボネートと前記熱可塑性ポリメチルメタクリレートとを共押出成形して、前記基材層を形成する基材層形成工程を含んでもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の投射型表示器は、本発明の透光性樹脂シートを透光性防塵カバーとして備える。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の移動体は、本発明の投射型表示器を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するHUD用防塵カバーに用いることのできる透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る透光性樹脂シート100の側面断面の概略図である。
【
図2】本発明に係る投射型表示器の一例として、ヘッドアップディスプレイ装置を示す概略側面図である。
【
図3】本発明に係る投射型表示器を備える移動体の一例として、車に搭載したヘッドアップディスプレイ装置を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
[透光性樹脂シート]
図1に示す透光性樹脂シート100は、HUD用防塵カバーとして用いることのできるシートであり、以下に説明する基材層10とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20を備える。
【0019】
〈基材層10〉
基材層10は、ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとの共押出成形体であって、ポリカーボネート層30と、ポリメチルメタクリレート層40とを備える。基材層10は、ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとを溶融させ、例えばTダイを用いる共押出成形により、層間剥離が生じないように接着剤等を用いずに直接接着させた状態の成形体であり、樹脂の特性を損なうことなく、必要最小限の厚みでフィルム化された層である。
【0020】
(ポリカーボネート層30)
ポリカーボネート層30は、透光性樹脂シート100において最も厚さのある層となり、透光性樹脂シート100の透光性、耐衝撃性、機械的強度、耐熱性等の特性に最も影響を与える層となる。そのため、透明性(透光性)、耐衝撃性、剛性等の機械的強度および耐熱性に優れるポリカーボネート層30を採用する。
【0021】
ポリカーボネートとしては、ビスフェノールAとホスゲン、またはジフェニルカーボネートを原料として合成されたものを用いることができ、屈折率が1.58~1.59、可視領域における光線透過率が90%以上のものを使用することができる。
【0022】
(ポリカーボネート層30の厚さ)
ポリカーボネート層30の厚さは、320μm~400μmとする。ポリカーボネート層30の厚さが320μm未満の場合、剛性や難燃性を満足しないおそれがある。また、透光性樹脂シート100をHUD用防塵カバーとして用いる場合、ポリカーボネート層30の厚さが400μmより厚いと、ポリカーボネートの屈折率の影響で透光性樹脂シート100を透過した投影像が二重像となって表示されるおそれがある。ポリカーボネート層30の厚さが320μm~400μmの範囲内であることにより、剛性や難燃性を満足すると共に、投影像に二重像が生じることがない。
【0023】
(ポリメチルメタクリレート層40)
ポリカーボネートは、耐衝撃性、剛性等の機械的強度に優れるものの、柔らかいため鉛筆硬度がB程度である。そこで、かつ鉛筆硬度に優れるポリメチルメタクリレートの層を設ける。硬いポリメチルメタクリレート層40を設けることにより、この層の上へ更にポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20を設けても、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面の鉛筆硬度を2H以上にすることができる。
【0024】
また、ポリメチルメタクリレートは、全光線透過率が94%程度とガラス同等以上の透明性を有し、割れ難く耐衝撃性に優れる。そのため、HUD用防塵カバーとして用いる透光性樹脂シート100にとって有用な層を形成することができる。
【0025】
(ポリメチルメタクリレート層40の厚さ)
ポリメチルメタクリレート層40の厚さは、18μm~45μmとする。ポリメチルメタクリレート層40の厚さが18μm未満の場合、ポリカーボネート層30の柔らかさを打ち消すことができずに鉛筆硬度を2H以上にできないおそれがある。また、ポリメチルメタクリレート層40の厚さが45μmより厚いと、鉛筆硬度を2H以上にできる一方で、難燃性が低下してしまい、要求性能を満足できないおそれがある。ポリメチルメタクリレート層40の厚さが18μm~45μmの範囲内にあることにより、鉛筆硬度2H以上および難燃性を満足することができる。
【0026】
〈ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20〉
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20は、基材層10のポリメチルメタクリレート層40に積層する層である。ポリメチルメタクリレート層40は鉛筆硬度を向上させる一方で、燃えやすいため難燃性が低下する。そこで、ポリメチルメタクリレート層40を、難燃性に優れるポリカーボネート層30とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20で挟む構造とすることで、透光性樹脂シート100そのものの難燃性を満足させる。
【0027】
ポリカーボネート系ポリウレタンは、カーボネート基を主骨格とする樹脂であり、ポリカーボネートが難燃性を発揮し、ポリウレタンが硬度を発揮する。このような樹脂によって形成されるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20は、硬さと難燃性に優れるハードコート層となる。
【0028】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20は、以下の紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、カルボジイミドを含む硬化物である。
【0029】
(紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタン)
紫外線の光エネルギーに反応して、液体から固体へ短時間に重合硬化するポリウレタンであり、例えば、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの溶剤が揮発し、さらに紫外線により重合硬化した乾燥硬化物が挙げられる。
【0030】
(熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタン)
加熱により重合硬化するポリウレタンであり、例えば、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの溶剤が揮発し、さらに加熱により重合硬化した乾燥硬化物が挙げられる。
【0031】
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンは、相溶する樹脂を採用する。両方の樹脂が相溶することにより、透光性樹脂シート100の可視領域における光線透過率が90%以上なり、また、透光性樹脂シート100に表示画像が透過しても、画像がブレたり不鮮明になる等の不具合が生じない。
【0032】
(紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比)
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンは、単品で鉛筆硬度4Hと硬い膜を形成できるものの、ポリメチルメタクリレート層40上に膜を形成しようとすると、はじいて連続膜が形成できない場合がある。また、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンは、単品でポリメチルメタクリレート層40上に連続膜を形成できるものの、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと比べて柔らかいため、鉛筆硬度が2H以上とならない。
【0033】
そこで、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比は、7:3~8:2とする。この範囲の質量比とすることで、濡れ性を改善し、ポリメチルメタクリレート層40上に、ポリメチルメタクリレート層40の表面41の全面を覆うポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の連続膜を形成できると共に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21の鉛筆硬度を2H以上とすることができる。
【0034】
(カルボジイミド)
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの未反応の官能基が、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の内部に残っていると、酸化されてカルボン酸が発生する。発生したカルボン酸はウレタン成分を分解してしまい、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の耐候性を低下させてしまう。
【0035】
そこで、カルボジイミドをポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20に含めておき、未反応で残った官能基が酸化された場合に、カルボジイミドにより封止することで、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の耐候性を満足することができる。
【0036】
また、カルボジイミドを含めることにより、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の耐薬品性を向上させることができる。
【0037】
カルボジイミドとしては、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンおよび熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと相溶するものを採用する。両方の樹脂と相溶するカルボジイミドを用いることにより、透光性樹脂シート100の可視領域における光線透過率が90%以上なり、また、透光性樹脂シート100に表示画像が透過しても、画像がブレたり不鮮明になる等の不具合が生じない。このような相溶性のあるカルボジイミドとしては、例えば、分子中にカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドを用いることができる。
【0038】
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、カルボジイミドの混合物が乾燥、硬化してポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20となることで、透光性樹脂シート100は透明性、鉛筆硬度、難燃性に優れることとなる。
【0039】
(ポリウレタンとカルボジイミドとの質量比)
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分の合計と、カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8であることが好ましい。カルボジイミドが少ないと、耐アルカリ性等の耐薬品性を向上させる効果が発揮されないおそれがある。また、カルボジイミドが多い場合も、ポリウレタンの特性を阻害し、耐アルカリ性等の耐薬品性を低下させてしまうおそれがある。
【0040】
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の厚さ)
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の厚さは、3μm~10μmとする。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の厚さが3μm未満の場合、透光性樹脂シート100に要求される難燃性を満足しないおそれがある。また、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の厚さが10μmより厚い層は、ポリウレタン樹脂の紫外線硬化や熱硬化における硬化不良が生じ、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の難燃性、耐候性、耐薬品性等の性能を発揮することができないおそれがある。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の厚さが3μm~10μmの範囲内にあることにより、難燃性、耐候性、耐薬品性等の要求性能を十分に発揮することができる。
【0041】
〈可視領域における光線透過率〉
透光性樹脂シート100をHUD用防塵カバーとして使用する場合、表示画像が透光性樹脂シート100を透過することとなる。そこで、表示画像が透光性樹脂シート100の透過によって不鮮明とならないよう、透光性樹脂シート100は、可視領域(波長380~780nm)における光線透過率が90%以上とする。この光線透過率の上限は100%であるが、実際には90%~95%程度の透過率であれば問題ない。
【0042】
〈鉛筆硬度〉
透光性樹脂シート100のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21の鉛筆硬度が2H以上である。鉛筆硬度の上限は9Hであるが、2H~3H程度であれば要求される耐傷付き性能を満たすことができる。
【0043】
〈難燃性〉
透光性樹脂シート100の難燃性は、FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standard) No.302に規定された燃焼性試験において自己消火性を示すことが条件である。自己消火性を示すことにより、例えば自動車部材や建築材料等の高い難燃性が求められる用途に好適に使用することができる。
【0044】
また、本発明の透光性樹脂シート100をHUD用防塵カバーとして用いることを考慮すると、透光性樹脂シート100は更に以下の性能を満足することが好ましい。
【0045】
(ヘイズ)
透光性樹脂シート100をHUD用防塵カバーとして使用する場合、表示画像が透光性樹脂シート100を透過することとなる。そこで、表示画像が透光性樹脂シート100の透過によって不鮮明とならないよう、透光性樹脂シート100のヘイズ(濁度)は1.0%以下であることが好ましい。ヘイズの下限は0%であるが、実際にはヘイズが0.1%~0.5%程度であれば問題ない。
【0046】
(耐傷付性)
透光性樹脂シート100のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21が、HUD用防塵カバーの表面となって露出するため、この表面21は傷が付きにくいことが好ましい。耐傷付性の目安として既述の鉛筆硬度2H以上であることが挙げられる。さらに、耐傷付性の性能の目安としては、欧州自動車規格TL226の条件を満たすことが好ましい。
【0047】
具体的には、直径15mmの端子にガーゼを巻き付けたものを、荷重9Nで表面21に押し付けて、押し付けたガーゼをストローク10cmで60往復/分の条件で100往復させる試験となる。試験後の表面21に傷が無ければ、欧州自動車規格TL226の条件を満たす。
【0048】
(耐候性)
透光性樹脂シート100は耐候性に優れることが好ましい。耐候性は、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21を曝露面とし、キセノンウェザオメーターを用いた促進耐候性試験を行って評価することができる。
【0049】
具体的には、キセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機株式会社製)を使用し、試験条件は、ブラックパネル温度63±2℃、湿度50%RH、降雨周期(非降雨時間/降雨時間)102min/18min、放射照度180W/m2、槽内温度25~35℃、積算光量500MJ/m2とする。そして、試験前後の表面21の色差を、色彩色差計CM-3600A(コニカミノルタ製)を用いて測定して、△E=3.0以下であることが、耐候性を満足するといえる目安となる。
【0050】
(耐薬品性)
透光性樹脂シート100は耐候性に優れることが好ましい。具体的には、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21にアルコール等溶剤や日焼け止め剤が付着して放置された場合に、透光性樹脂シート100の付着した部分が白濁等の変色をしないことが好ましい。
【0051】
[透光性樹脂シートの製造方法]
次に本発明の透光性樹脂シートの製造方法について説明する。透光性樹脂シートの製造方法は、以下のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程を含む方法であり、また、基材層形成工程を含んでもよい。
【0052】
〈ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程〉
本工程は、基材層10に以下の塗料を塗付してポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20を形成する工程である。具体的には、ポリメチルメタクリレート層40の表面41にダイコーター等で塗料を塗付して塗膜を形成し、その塗膜を120℃~140℃で2分程度加熱乾燥させ、さらに照度150W/m2程度、積算光量が600mj/cm2程度の条件で塗膜に紫外線を照射することにより、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20を形成することができる。
【0053】
〈塗料〉
塗料は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと、カルボジイミドと、光重合開始剤と、溶剤とを含む混合物であり、これらの原料が均一に混合された混合物である。
【0054】
(紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョン)
ポリメチルメタクリレートとの密着性に優れると共に、耐薬品性にも優れるディスパージョンを採用することができる。透光性樹脂シート100が車内にて用いられることや環境への配慮の観点から、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタンが水に分散した水系のディスパージョンを用いることができる。
【0055】
(熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョン)
ポリメチルメタクリレートとの濡れ性に優れるディスパージョンを採用することができる。透光性樹脂シート100が車内にて用いられることや環境への配慮の観点から、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタンが水に分散した水系のディスパージョンを用いることができる。
【0056】
(カルボジイミド)
カルボジイミドとしては、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンおよび熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと相溶するものを採用する。両方の樹脂と相溶するカルボジイミドを用いることにより、透光性樹脂シート100の可視領域における光線透過率が90%以上なり、また、透光性樹脂シート100に表示画像が透過しても、画像がブレたり不鮮明になる等の不具合が生じない。このような相溶性のあるカルボジイミドとしては、例えば、分子中にカルボジイミド基を有する水溶性のポリカルボジイミドを用いることができる。
【0057】
(光重合開始剤)
紫外線の照射により、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンを重合、高分子化させることのできるものである。
【0058】
(溶剤)
溶剤は、塗料中の樹脂固形分を調整するために含めることができる。塗料に水系のディスパージョンを用いる場合には、溶剤として水を使用することができる。また、水に不要な光重合開始剤を含める場合には、光重合開始剤を溶解させるために、イソプロピルアルコール等のアルコールも溶剤として水と併用して用いることができる。
【0059】
(その他の成分)
塗料には、上記以外の成分を含んでもよい。例えば、レベリング剤や消泡剤等の添加剤、着色剤や艶消し剤等を含むことができる。
【0060】
(紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分と、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分との質量比)
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンは、単品で鉛筆硬度4Hと硬い膜を形成できるものの、ポリメチルメタクリレート層40上に膜を形成しようとすると、はじいて連続膜が形成できない場合がある。また、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンは、単品でポリメチルメタクリレート層40上に連続膜を形成できるものの、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと比べて柔らかいため、鉛筆硬度が2H以上とならない。
【0061】
そこで、塗料における紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分と、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分との質量比は、7:3~8:2とする。この範囲の質量比とすることで、塗料の濡れ性を改善し、ポリメチルメタクリレート層40上に、ポリメチルメタクリレート層40の表面41の全面を覆うポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の連続膜を形成できると共に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21の鉛筆硬度を2H以上とすることができる。
【0062】
(ポリウレタンとカルボジイミドとの質量比)
紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンと熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンの樹脂分の合計と、カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8であることが好ましい。カルボジイミドが少ないと、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の耐アルカリ性等の耐薬品性を向上させる効果が発揮されないおそれがある。また、カルボジイミドが多い場合も、ポリウレタンの特性を阻害してしまい、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の耐アルカリ性等の耐薬品性を低下させてしまうおそれがある。
【0063】
〈基材層形成工程〉
本工程は、ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとを共押出成形して、基材層10を形成する工程である。例えば、溶融させたポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートを2種2層用フィードブロック式Tダイへ供給し、適正なリップクリアランスに調整されたダイにより2層シートを押し出し、3本ポリシングロールで圧延し、常温になるまで冷却し、2層シートを成形してからロール状に巻取り、ポリカーボネート層30とポリメチルメタクリレート層40とを備える基材層10が製造される。また、Tダイは、フィードブロック式Tダイに替えて、マルチマニホールド式Tダイを用いることができる。
【0064】
Tダイを用いる共押出成形により、ポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートとを、接着剤等を用いずに直接溶融接着させることができ、また、樹脂の特性を損なうことなく、必要最小限の厚みでフィルム化できる。
【0065】
なお、基材層形成工程は必須の工程ではなく、基材層10を購入等により入手し、基材層10に対してポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程を行って透光性樹脂シート100を製造してもよい。
【0066】
[投射型表示器]
次に本発明の投射型表示器について説明する。本発明の投射型表示器は、本発明の透光性樹脂シートを透光性防塵カバーとして備える。
図2に、本発明に係る投射型表示器の一例として、ヘッドアップディスプレイ装置200の概略側面図を示す。
【0067】
ヘッドアップディスプレイ装置200は、表示器210と、折り返しミラー220と、凹面ミラー(反射部材)230と、透光性防塵カバー240と、制御基板250とを備えている。さらに、ヘッドアップディスプレイ装置200は、筐体260を備え、筐体260内に表示器210、折り返しミラー220、凹面ミラー230、及び制御基板250を収納している。
【0068】
表示器210は、例えば車300の運転者に提供すべき情報を表示光Aとして出射するものである。表示器210からの表示光Aは
図2に示す折り返しミラー220に向けて出射され、折り返しミラー220にて凹面ミラー230に向けて反射される。凹面ミラー230は表示光Aを反射し、筐体260の開口に設けられた透光性防塵カバー240を介して表示画像を車300のウィンドシールド310(
図1)に投射するものである。ウィンドシールド310に投射された表示画像は、運転者Bに虚像Cとして認識される。
【0069】
透光性防塵カバー240としては、ヘッドアップディスプレイ装置200の透光性防塵カバー240として組み込めるよう、所定の形状に加工した透光性樹脂シート100を使用する。そして、耐傷付き性や耐候性、耐薬品性に優れるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21が外部に露出し、ポリカーボネート層30の表面31がヘッドアップディスプレイ装置200の内部となるように配される。
【0070】
なお、表示画像はウィンドシールド310に投射されなくてもよく、例えば、ヘッドアップディスプレイ装置200が運転者Bに視認可能な投射用のクリアパネルを備え、そのクリアパネルに表示画像を投射してもよい。
【0071】
[移動体]
次に、本発明の移動体について説明する。本発明の移動体は、本発明の投射型表示器を備える。
図3に、本発明に係る投射型表示器を備える移動体の一例として、車300に搭載したヘッドアップディスプレイ装置200の概略側面図を示す。
【0072】
図3に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置200は、車300のインストルメントパネル320の上面に形成された開口部330に収納されて配置されている。なお、ヘッドアップディスプレイ装置200はこれに限定されず、開口部330が無い場合において、インストルメントパネル320の上面にヘッドアップディスプレイ装置200が載せられていてもよい。
【実施例0073】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
[透光性樹脂シートの製造]
〈基材層形成工程〉
溶融させたポリカーボネートと熱可塑性ポリメチルメタクリレートを2種2層用フィードブロック式Tダイへ供給し、適正なリップクリアランスに調整されたダイにより2層シートを押し出し、3本ポリシングロールで圧延し、常温になるまで冷却し、2層シートを成形してからロール状に巻取り、厚みが355μmのポリカーボネート層30と、厚みが20μmのポリメチルメタクリレート層40とを備える、総厚が375μmの基材層10を製造した。
【0075】
ここで、ポリカーボネートとしては、lupilon S-2000UR(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)を使用し、熱可塑性ポリメチルメタクリレートとしては、スミペックスMHF(住友化学株式会社製)を使用した。
【0076】
〈ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程〉
(塗料の作成)
表1に示す配合に基づき原料を混合して、塗料No.A~Fのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成用の塗料を作製した。
【0077】
塗料において、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンとしては、水性樹脂のETERNACOLL(登録商標) UW9102(樹脂固形分30質量% 宇部興産株式会社製)を使用し、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョンとしては、水性樹脂のETERNACOLL(登録商標) UW5002E(樹脂固形分30質量% 宇部興産株式会社製)を使用した。そして、カルボジイミドとしてはカルボジライト V-02(カルボジイミド含有量40質量% 日清紡ケミカル株式会社製)、レベリング剤としてはBYK-333(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)(BYK-Chemie社製)、光重合開始剤としてはDoblecure550(DOUBLE BOND CHEMICAL社製)を使用した。また、溶剤としてイソプロピルアルコール(IPA)と水を使用した。
【0078】
【0079】
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の形成)
作製した塗料を、ポリメチルメタクリレート層40の表面41にダイコーターで塗付し、塗付後の塗膜を130℃で2分乾燥後、照度150W/m2、積算光量600mj/cm2の条件で紫外線照射して塗膜を硬化させ、透光性樹脂シート100を得た。
【0080】
硬化後のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の乾燥膜厚を表2、3に示す。なお、実施例1、2の塗料については、硬化後のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の乾燥膜厚を変更して、物性評価を行った。
【0081】
〈透光性樹脂シート100の物性評価〉
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の外観)
目視でポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の外観を観察し、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20がポリメチルメタクリレート層40の表面41に均一な連続膜を形成した場合を〇、表面41において塗膜が弾いて均一な連続膜を形成せずに表面41が露出した場合を×、と評価した。
【0082】
(可視領域における光線透過率、ヘイズの測定)
Haze Meter NDH 7000SP2 (NIPPON DENSHOKU) K7105を使用し、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21を測定対象面として透光性樹脂シート100の可視領域(波長380~780nm)における光線透過率およびヘイズを測定した。
【0083】
(鉛筆硬度)
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21を試験対象面とし、JIS K 5600 引っかき硬度(鉛筆法)に基づき、荷重750gとして透光性樹脂シート100の鉛筆硬度を評価した。
【0084】
(耐傷付性)
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の表面21を試験対象面とし、欧州自動車規格TL226の条件に基づき、直径15mmの端子にガーゼを巻き付けたものを、荷重9Nで表面21に押し付けて、押し付けたガーゼをストローク10cmで60往復/分の条件で○○分往復させた。試験後の表面21に傷が発生しなかった場合を〇、傷が発生した場合を×と評価した。
【0085】
(難燃性)
透光性樹脂シート100の難燃性を、FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standard) No.302に規定された燃焼性試験よって評価した。具体的な試験内容は以下のとおりである。試験の結果、FMVSS No.302規格合格した場合を難燃性有りとして〇、FMVSS No.302規格合格しなかった場合を難燃性無しとして×、と評価した。
【0086】
透光性樹脂シート100を試験片(350mm×100mm)とし、試験環境21℃×50%RHにおいて、試験片を水平に保持し、38mm炎を15秒間接炎し、A標線からB批標線間254mmに対する燃焼速度により判定を行う。
判定基準 以下に示すFMVSS No.302燃焼試験の判定基準のいずれかを満たすものが、FMVSS No.302規格合格。
・試験片に着火しない、又はA標線手前で自消するもの
・燃焼距離51mm以内(且つ60秒以内)で自消するもの
・燃焼距離が102mm/min以下のもの
【0087】
(耐候性)
透光性樹脂シート100のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21を曝露面とし、キセノンウェザオメーターを用いた促進耐候性試験を行った。具体的には、キセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機株式会社製)を使用し、試験条件は、ブラックパネル温度63±2℃、湿度50%RH、降雨周期(非降雨時間/降雨時間)102min/18min、放射照度180W/m2、槽内温度25~35℃、積算光量500MJ/m2とした。そして、試験前後の表面21の色差を、色彩色差計CM-3600A(コニカミノルタ製)を用いて測定した。色差が△E=3.0以下である場合を、耐候性を満足するとして〇、色差が△E=3.0を超える場合を、耐候性を満足しないとして×、と判定した。
【0088】
(耐薬品性)
透光性樹脂シート100を55℃の温水に4時間浸漬処理した。浸漬処理終了直後の状態で温水より取り出した多層フィルム等に白化、変色、著しい瘢痕等の異常が無い場合を耐水性有りとして〇、これらのいずれかの異常が認められた場合を耐水性無しとして×、と評価した。
【0089】
透光性樹脂シート100のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21を試験対象面とし、試験対象面に0.1N H2SO4水溶液を5ml滴下し、20℃で24時間静置することにより、耐酸性試験を行った。試験対象面に0.1N NaOH水溶液を5ml滴下し、55℃で4時間静置することにより、耐アルカリ性試験を行った。試験対象面に白灯油を5ml滴下し、55℃で4時間静置することにより、耐薬品性試験を行った。また、耐薬品性試験として、試験対象面に50質量%エタノールを5ml滴下し、55℃で4時間静置する試験、試験対象面に日焼け止めクリーム(SPF45)を塗付して、その後80℃で24時間静置後にクリームを除去する試験を行った。試験終了直後の状態で各薬品を除去した透光性樹脂シート100に白化、変色、著しい瘢痕等の異常が無い場合を〇、これらのいずれかの異常が認められた場合を×と評価した。
【0090】
表2、3では、上記いずれの試験においても〇判定の場合を、耐薬品性を満たすとして〇、上記いずれかの試験において×判定があった場合を、耐薬品性を満たさないとして×、と判定した。
【0091】
物性評価の結果を表2、3に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
表2は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比を5:5~10:0に変動させて、透光性樹脂シート100の物性評価を行った結果を示した表である。表2の結果より、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比は、7:3~8:2である実施例1、2は、樹脂層20の外観、耐候性、耐薬品性等の物性に優れつつ、可視光線透過率およびヘイズの結果より高い透明性を有し、耐傷付性および難燃性のいずれも良好な結果となった。
【0095】
一方で、上記の質量比が7:3~8:2の範囲から外れる場合には、鉛筆硬度、耐傷付性および耐薬品性に劣る結果(比較例1、2)や、樹脂層20の外観、難燃性および耐候性に劣る結果(比較例3、4)となった。
【0096】
また、表3は、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと、熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンとの質量比を7:3または8:2とし、樹脂層20の乾燥膜厚を変動させて、透光性樹脂シート100の物性評価を行った結果を示した表である。表3の結果より、樹脂層20の乾燥膜厚が3μm~10μmである実施例1~6は、樹脂層20の外観、耐候性、耐薬品性等の物性に優れつつ、可視光線透過率およびヘイズの結果より高い透明性を有し、耐傷付性および難燃性のいずれも良好な結果となった。
【0097】
一方で、樹脂層20の乾燥膜厚が2μmの場合には、難燃性に劣る結果となった(比較例5、7)。また、樹脂層20の乾燥膜厚が11μmの場合には、難燃性、耐候性および耐薬品性に劣る結果となった(比較例6、8)。
【0098】
[ポリカーボネート系ポリウレタンとカルボジイミドの質量比の検証]
以下、本発明の透光性樹脂シートにおいて、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分の合計と、カルボジイミドとの質量比は、9:0.4~0.8であることにより、耐アルカリ性に優れることを検証した結果について示す。
【0099】
[透光性樹脂シートの製造]
基材層10は、上記実施例と同じものを使用した。すなわち、厚みが355μmのポリカーボネート層30と、厚みが20μmのポリメチルメタクリレート層40とを備える、総厚が375μmの基材層10である。
【0100】
〈ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成工程〉
(塗料の作成)
表4に示す配合に基づき、カルボジイミドの混合量を変えて原料を混合して、塗料No.C-1~D-4のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層形成用の塗料を作製した。なお、各原料は、上記実施例と同じ原料である。また、塗料No.C-1と塗料No.D-1は、それぞれ上記実施例における塗料No.C、塗料No.Dと同じ配合である。
【0101】
【0102】
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の形成)
作製した塗料を、ポリメチルメタクリレート層40の表面41にダイコーターで塗付し、塗付後の塗膜を130℃で2分乾燥後、照度150W/m2、積算光量600mj/cm2の条件で紫外線照射して塗膜を硬化させ、透光性樹脂シート100を得た。
【0103】
硬化後のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20の乾燥膜厚を表5に示す。
【0104】
〈透光性樹脂シート100の耐アルカリ性評価〉
上記実施例と同様の方法により試験紙、同様の基準により評価した。すなわち透光性樹脂シート100のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20側の表面21を試験対象面とし、試験対象面に0.1N NaOH水溶液を5ml滴下し、55℃で4時間静置することにより、耐アルカリ性試験を行った。試験終了直後の状態でNaOH水溶液を除去した透光性樹脂シート100に白化、変色、著しい瘢痕等の異常が無い場合を〇、これらのいずれかの異常が認められた場合を×と評価した。
【0105】
物性評価の結果を表5に示す。
【0106】
【0107】
本発明は、高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するHUD用防塵カバーに用いることのできる透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体を提供することを目的とするのであり、耐アルカリ性に優れる透光性樹脂シート等であればより好ましいが、耐アルカリ性に劣る透光性樹脂シート等を本発明から除外することは目的としていない。よって、表5では、耐アルカリ性に劣る結果を示したものも、実施例とした。
【0108】
また、表5では、樹脂層20の外観、可視光線透過率、ヘイズ、鉛筆硬度、耐傷付性、難燃性、耐候性の結果は示していないが、実施例7~12についてのこれらの結果は、実施例1、2と同様であり、良好な結果であった。
【0109】
表5の結果より、紫外線硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンと熱硬化性ポリカーボネート系ポリウレタンの樹脂分の合計と、カルボジイミドとの質量比が9:0.4~0.8であることにより、樹脂分の質量比が変わった場合であっても、耐アルカリ性に優れる物性となった。
【0110】
[実施例13]
基材層10のポリメチルメタクリレート層40の厚みが40μm、基材層の総厚が395μmである他は、実施例1と同様の方法で乾燥膜厚が8μmのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂層20を形成し、透光性樹脂シート100を得た。
【0111】
そして、得られた実施例13の透光性樹脂シート100について、実施例1と同様に物性評価を行ったところ、鉛筆硬度が3Hであった。なお、実施例13の透光性樹脂シート100の樹脂層20の外観、可視光線透過率、ヘイズ、耐傷付性、難燃性、耐候性および耐薬品性の結果は、実施例1の透光性樹脂シート100と同じ結果であった。
【0112】
(まとめ)
以上より、本発明であれば、高い透明性、耐傷付性、難燃性のいずれも満足するHUD用防塵カバーに用いることのできる透光性樹脂シート、透光性樹脂シートの製造方法、投射型表示器および移動体を提供することができるため、産業上有用である。