(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030326
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】光触媒担持体
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240229BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240229BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240229BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240229BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20240229BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240229BHJP
B01J 35/54 20240101ALI20240229BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/02 101Z
B01J37/08
C04B38/00 303Z
C04B41/85 D
B01J35/10 301G
B01J35/04 341
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133135
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻
(72)【発明者】
【氏名】宇佐 智治
(72)【発明者】
【氏名】義本 恭之
【テーマコード(参考)】
4G019
4G169
【Fターム(参考)】
4G019FA15
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BA48A
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA11
4G169EB07
4G169EB10
4G169EB12X
4G169EB12Y
4G169EB15Y
4G169EB17X
4G169EB17Y
4G169EB18Y
4G169EC20
4G169EC22Y
4G169FB15
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB02
4G169HC22
4G169HD09
4G169HE03
(57)【要約】
【課題】脱臭効果が高い光触媒担持体を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る光触媒担持体は、多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材と、前記基材の表面および気孔の内部に担持される光触媒と、を備え、前記セラミックス材料の開気孔率は、35%以上75%以下であり、前記セラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下での大気孔を有し、前記大気孔の内壁面に径が10μm以下の小気孔が開口する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材と、
前記基材の表面および気孔の内部に担持される光触媒と、
を備え、
前記セラミックス材料の開気孔率は、35%以上75%以下であり、
前記セラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下での大気孔を有し、
前記大気孔の内壁面に径が10μm以下の小気孔が開口する光触媒担持体。
【請求項2】
前記セラミックス材料の断面における1.8mm×1.8mmの範囲内の前記大気孔の数が8以上50以下である、請求項1に記載の光触媒担持体。
【請求項3】
前記基材は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記貫通孔の径は、0.7mm以上2.0mm以下であり、
前記基材における前記貫通孔の面積率は、20%以上50%以下である、請求項1または2に記載の光触媒担持体。
【請求項4】
前記光触媒は、酸化チタンを主成分とし、
前記光触媒の担持量は、0.04g/cm3以上0.15g/cm3以下である、請求項1または2に記載の光触媒担持体。
【請求項5】
多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材を光触媒粒子を溶剤に分散した光触媒分散液に浸漬する工程と、
前記基材を乾燥させる工程と、
前記基材を焼成する工程と、
を備え、
前記セラミックス材料の開気孔率は、35%以上75%以下であり、
前記セラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下の大気孔を有し、
前記大気孔の内壁面に径が10μm以下の小気孔が開口する、光触媒担持体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒担持体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光触媒を用いて有機物を分解することにより脱臭効果を得る脱臭装置が実用化されている。このような脱臭装置は、基材の表面に光触媒を担持させてなる光触媒担持体と、光触媒担持体に光触媒を活性化させる光を発する光源と、周囲の空気を吸い込んで光触媒に接触させる気流生成手段と、を備える。空気を効率よく光触媒に接触させるために、光触媒担持体の基材として多孔性のセラミックス材料を用いることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
光触媒担持体の基材として使用されるセラミックス材料を選定するにあたり、機械的特性を定める材料組成と、表面積ひいては空気の接触効率の指標となる気孔率と、が重視される。気孔率について、特許文献1には、空孔率85%のセラミック多孔体を使用したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、材料を多層にすることで機械的強度を担保しながら上述のように高い気孔率を実現している。気孔には開気孔(連続気孔)と閉気孔(独立気孔)があり、特許文献1の空孔率がどのような気孔の割合を意味するか定かではない。しかしながら、特許文献1の空孔率がどのような値であったとしても、機械的強度を考慮するとセラミックス材料の気孔率を特許文献1の値よりも大幅に高くすることは難しい。このため、脱臭効果のさらなる向上のためには、異なるアプローチが必要である。かかる実情に鑑みて、本発明は、脱臭効果が高い光触媒担持体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る光触媒担持体は、多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材と、前記基材の表面および気孔の内部に担持される光触媒と、を備え、前記セラミックス材料の開気孔率は、35%以上75%以下であり、前記セラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下の大気孔を有し、前記大気孔の内壁面に径が10μm以下の小気孔が開口する。
【0007】
上述の光触媒担持体において、前記セラミックス材料の断面における1.8mm×1.8mmの範囲内の前記大気孔の数が8以上50以下であってもよい。
【0008】
上述の光触媒担持体において、前記基材は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の径は、0.7mm以上2.0mm以下であり、前記基材における前記貫通孔の面積率は、20%以上50%以下であってもよい。
【0009】
上述の光触媒担持体において、前記光触媒は、酸化チタンを主成分とし、前記光触媒の担持量は、0.04g/cm3以上0.15g/cm3以下であってもよい。
【0010】
本発明の別の態様に係る光触媒担持体製造方法は、多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材を光触媒粒子を溶剤に分散した光触媒分散液に浸漬する工程と、前記基材を乾燥させる工程と、前記基材を焼成する工程と、を備え、前記セラミックス材料の開気孔率は、35%以上75%以下であり、前記セラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下の大気孔を有し、前記大気孔の内壁面に径が10μm以下の小気孔が開口する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脱臭効果が高い光触媒担持体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光触媒担持体を示す模式斜視図である。
【
図2】
図1の光触媒担持体の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の一実施形態に係る光触媒担持体1を示す模式斜視図である。
【0014】
光触媒担持体1は、多孔性のセラミックス材料で形成される概略板状の基材と、基材の表面および気孔の内部に担持される光触媒と、を備える。
【0015】
光触媒担持体1の基材として、多孔質のセラミックもしくは、100μm以上の空孔と10μm以下の細孔の両方を有するセラミックス材料を用いることにより、空気中の有機物を一次的吸着保持し、吸着した有機物を光触媒の触媒効果により時間をかけて分解することができるので、脱臭効果を増大できる。
【0016】
基材を形成するセラミックス材料は、比較的安価で機械的特性を向上できるシリカを主成分とすることが好ましく、より安価なアルミナを含むことが好ましい。具体的には、シリカとアルミナの合計含有率の下限としては、コストを抑制するために、60%以上が好ましく、80%がより好ましい。一方、シリカとアルミナの合計含有率の上限としては、材料の物性を最適化する添加剤を含有させるために、98%が好ましく、97%がより好ましい。また、シリカのアルミナに対する比の下限としては、強度を向上するために、1.0が好ましく、1.2がより好ましい。一方、シリカのアルミナに対する比の上限としては、コストを抑制するために、3.0が好ましく、2.5がより好ましい。
【0017】
基材を形成するセラミックス材料の開気孔率の下限としては、35%が好ましく、40%がより好ましく、50%がさらに好ましい。一方、基材を形成するセラミックス材料の開気孔率の上限としては、75%が好ましく、70%がより好ましい。セラミックス材料の開気孔率を前記下限以上とすることによって、基材の気孔の内部に担持される光触媒の量を多くできるので、光触媒担持体1の脱臭効果(有機物を光触媒の触媒効果により分解する効果)を大きくできる。また、セラミックス材料の開気孔率を前記上限以下とすることによって、基材の機械的強度を担保できる。なお、「開気孔率」は、JIS-R1634(1998)の煮沸法に準拠して測定される。
【0018】
基材を形成するセラミックス材料は、径が100μm以上1000μm以下の大気孔と径が10μm以下の小気孔とを有する。セラミックス材料の気孔径の存在密度分布は、100μm以上1000μm以下のピークと10μm以下のピークとを有することが好ましい。セラミックス材料において、小気孔は大気孔の内壁面にも開口することが好ましい。気孔径が大きすぎる場合は、多孔質セラミックの比表面積が小さくなり、有機物の吸着能が減少するとともに光触媒の担持量が少なくなってしまう。逆に、気孔径が小さくなりすぎると、光触媒分散液が細部まで浸透せずに光触媒担持量が少なくなる問題が発生する。気孔径が100以上1000μm以下の大気孔が存在することにより、光触媒分散液が内部まで浸透し、効率よく光触媒を担持可能となる。さらには、気孔径が10μm以下の小気孔が混在すれば、大気孔に浸入した光触媒分散液が、小気孔に容易に浸入できるため、基材の深部にも均一に光触媒を担持させられるため、きさらに脱臭効率が上がる。このような観点から、大気孔の数は、多孔質セラミックの断面1.8mm×1.8mmの正方形の範囲に8以上50個存在することが好ましい。尚、「気孔径」は、セラミックス材料の断面の走査型電子顕微鏡撮影画像におけるそれぞれの気孔の長径と短径との平均値である。より詳しくは、セラミックス材料を約10×10mm断面の棒状に加工し、この棒をバンドソーを用いて切断してイオンスパッタ装置で表面コーティングした後、走査型電子顕微鏡で撮影した。走査型電子顕微鏡は、日立ハイテク社製のS3400を用い、15kVにて画像を撮影した。
【0019】
基材の厚みの下限としては、強度を担保するため、8mmが好ましく、10mmがより好ましい。一方、基材の厚みの上限としては、気孔の内部の光触媒に光を照射して触媒作用を活性化できるよう、20mmが好ましく、15mmがより好ましい。
【0020】
基材ひいては光触媒担持体1は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔11を有する。貫通孔11は、空気の流路となり、空気の圧力損失を低減することで、空気の流れを形成するファンの負荷を抑制する。貫通孔11の径を小さくすることで、貫通孔11の内周面から外側の基材の気孔に空気が入り込むことで脱臭効果が促進される。このような貫通孔11は、光触媒担持体1の外縁部を除く略全体に、均等な間隔で規則正しく形成されることが好ましい。
【0021】
貫通孔11の径の下限としては、形成を容易にするために、0.7mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。一方、貫通孔11の径の上限としては、空気が光触媒に接触せずに通過することを防止するために、2.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。基材における貫通孔11の面積率の下限としては、圧力損失を十分に低減するために、20%が好ましく、25%がより好ましい。一方、基材における貫通孔11の面積率の上限としては、空気の光触媒との接触を促進するために、50%が好ましく、40%がより好ましい。なお、「径」は、円相当径、つまり面積が等しい円の直径である。
【0022】
光触媒は、光触媒効果に優れる酸化チタン、より詳しくはアナターゼ型二酸化チタンを主成分とすることが好ましい。光触媒の粒子径(メジアン径)は、基材の気孔の内部に導入できるよう、50nm以上400nm以下であることが好ましい。
【0023】
光触媒は、基材の全体に、略均等に担持される。光触媒担持体1の体積(貫通孔11の内部空間を含む)あたりの光触媒の担持量の下限としては、十分な脱臭効果を得るために、0.04g/cm3が好ましく、0.06g/cm3がより好ましい。一方、光触媒担持体1の体積あたりの光触媒の担持量の上限としては、セラミックス基材の気孔を閉塞させずに均等に光触媒を担持させるために、0.15g/cm3が好ましく、0.10g/cm3がより好ましい。
【0024】
以上の構成を備える光触媒担持体1は、その内部にまで均等かつ比較的高密度に光触媒を保持していることにより、光触媒の触媒作用によって空気中の有機物を効果的に分解できるため、脱臭効果が高い。
【0025】
光触媒担持体1は、
図2に示す本発明に係る光触媒担持体製造方法の一実施形態によって製造される。光触媒担持体1は、基材を形成する工程(ステップS1:基材形成工程)と、基材を光触媒分散液に浸漬する工程(ステップS2:浸漬工程)と、基材を乾燥させる工程(ステップS3:乾燥工程)と、基材を焼成する工程(ステップS4:焼成工程)と、を備える方法によって製造され得る。
【0026】
ステップS1の基材形成工程では、所望の気孔率および気孔径、並びに必要とされる外形形状を有する基材を形成する。基材形成工程では、周知のセラミックス原料に、セラミックス焼成温度にて分解される粉体を混合して成形し、この成形体を焼成することによって、上述のように一般的なセラミックス材料には見られない100μm以上1000μm以下の比較的大きな径を有する大気孔と10μm以下の径を有する小気孔が混在する多孔質セラミックを形成することができる。大気孔を形成する粉体材料としては、酒かす、米ぬか、大豆かす、石炭、炭、プラスチック類など高温で分解するものが使用できる。大気孔の径を定める粉体材料の粒径は、ニーダーやエクストルーダーのような混錬機の混錬条件の調整によって調整することができる。
【0027】
ステップS2の浸漬工程では、上述のように多孔性のセラミックス材料で形成された基材を、光触媒粒子を溶剤に分散した光触媒分散液に浸漬することにより、基材に光触媒分散液を含侵させる。基材が大気孔および小気孔を有するセラミックス材料で形成されているので、触媒分散液が基材の内部まで均等に浸透する。光触媒分散液の溶剤としては、例えば2-プロパノール、水等を用いることができる。光触媒分散液における光触媒濃度としては、基材の内部への浸透性を担保しつつ、光触媒を十分な密度で導入するために、10%以上40%以下とすることが好ましい。光触媒分散液は、光触媒粒子の基材への固着を促進するバインダを含んでもよい。
【0028】
ステップS3の乾燥工程では、光触媒分散液を含侵させた基材を乾燥させることにより、基材の外面および気孔の内面に光触媒粒子を付着させる。光触媒分散液の溶媒を沸騰させると光触媒粒子が脱離するおそれがあるため、溶媒の沸点よりも十分に低い温度で乾燥することが好ましい。例として、触媒分散液の溶媒が2-プロパノールである場合、常温で24時間の乾燥とすることができる。
【0029】
ステップS4の焼成工程では、含侵した触媒分散液を乾燥させた基材を焼成することにより、光触媒粒子を基材に固着させる。焼成条件は、例えば500℃で1時間加熱後に室温まで徐冷とすることができる。基材が大気孔を有することで、焼成後の光触媒が連続層となりやすいため、光触媒が基材から脱落しにくくなる。
【0030】
以上のように、浸漬工程、乾燥工程および焼成工程を経ることにより、基材の比較的径が小さい気孔の内部にまで均等に光触媒を担持させることができる。このような方法で製造された光触媒担持体1は、上述のように高い脱臭効果を発現できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。
【実施例0032】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
セラミックス材料で形成された多様な基材を用意し、
図2に示す手順で光触媒担持体の試作品1~11を試作した。基材としては、主にセラミックス材料の気孔率および気孔径、並びに貫通孔の面積率が異なるものを用意した。セラミックス材料の気孔形状の差異を示す代表例として、
図3~6に、試作品1,7,8,9の操作型顕微鏡画像を示す。なお、「全気孔率」は閉気孔を含むすべての気孔の体積率であり、「空孔率」は、材料の全ての気孔の体積率と貫通孔の体積率の合計値である。また、「吸水率」は、JIS-A1509-3(2014)の煮沸法に準拠して測定した値である。
【0034】
得られた光触媒担持体の試作品について、脱臭性能を評価するために、密閉容器内のアンモニア及びアルデヒドを分解する試験を行い、分解に要した時間を測定した。次の表1に、各試作品のセラミックス材料の組成、物性、基材の幾何学情報、光触媒の担持量、および脱臭性能をまとめて示す。なお、表中の「-」は、測定値がないことを示し、「120<」は、120分で臭気成分を分解できず、試験を終了したことを示す。
【0035】
【0036】
以上のように、基材の気孔径を一定の範囲内とすることにより、光触媒担持体の脱臭効果を向上できることが確認できた。