(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030338
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】調光装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20240229BHJP
G02F 1/1345 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1345
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133160
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 昌明
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088FA29
2H088GA10
2H088HA02
2H088MA20
2H092GA50
2H092HA04
2H092HA14
2H092HA24
2H092PA01
2H092QA15
2H092RA10
(57)【要約】
【課題】調光装置の電源接続部において、ITOとFPCとをACFを用いて接合する際に、ACFに含まれる導電粒子に起因するITOへのクラックの発生を抑制し、FPCと調光シートの接合抵抗値上昇に伴う駆動電圧の低下を防止できる調光装置を提供することを課題とする。
【解決手段】印加電圧に応じて不透明状態と、透明状態とを切り替え可能な調光シートと、調光シートを外部電源に接続するための電源接続部とからなる調光装置であって、
前記調光シートは、調光層と、前記調光層に電圧を印加する透明電極層が形成された透明基材に挟持されてなる構成であり、
前記電源接続部は、前記透明電極層とFPCとをACFを介して電気的に接続しつつ、機械的に接着された構造を有し、前記透明電極層と前記ACF間には、さらに導電性物質が積層され、前記導電性物質は、前記透明電極層より柔軟な材料からなる調光装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて不透明状態と、透明状態とを切り替え可能な調光シートと、調光シートを外部電源に接続するための電源接続部とからなる調光装置であって、
前記調光シートは、調光層と、前記調光層に電圧を印加する透明電極層が形成された透明基材に挟持されてなる構成であり、
前記電源接続部は、前記透明電極層とFPCとをACFを介して電気的に接続しつつ、機械的に接着された構造を有し、
前記透明電極層と前記ACF間には、さらに導電性物質が積層され、
前記導電性物質は、前記透明電極層より柔軟な材料からなることを特徴とする調光装置。
【請求項2】
前記導電性物質は、金または銀を含むことを特徴とする請求項1に記載の調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的制御によって光の透過状態を制御する光学素子を備えた調光装置に関し、特に、透明電極層により挟持された液晶素子を駆動するタイプの調光装置における電源接続部の改良された調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば窓に貼り付けて外来光の透過を制御する液晶パネルを用いた調光シートに関する工夫が種々に提案されている。調光シートとして、ITO(Indium Tin
Oxide)による透明電極間に保持された液晶層を備え、透明電極に印加する電圧により液晶層に含まれる液晶分子の配向状態を変化させて、入射した光を散乱する不透明状態(あるいは白濁状態)と、入射した光を透過する透明状態とを切り替え可能に構成されるタイプが例示される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような調光シートは、例えばガラス等の透明基材に固定することにより、建築物のみならず車両向けの窓ガラスや展示ウィンドウ、間仕切りなどに採用することが可能となり、プライベート空間とパブリック空間とを分離するため等、空間を分離する設備の他、映像を映し出すスクリーンの用途としての利用についても提案されている。
【0004】
こうした調光シートと、透明電極層を電源に接続するための電源接続部とから、調光装置が構成される。外部電源から給電するための電源接続部として、低コストで簡便な構造として、透明電極ITOとFPC(フレキシブルプリント基板)とをACF(導電性接着層)を用いて電気的に接続しつつ、機械的に接着することで配線を引き出す構造も採用されている(特許文献2参照)。FPCとACFを用いた接続では、面状の接合構造となり、調光ユニットの運搬時や取り付け作業時の揺れや衝撃に対して、接合の耐久性が向上している。
【0005】
しかしながらITOは、柔軟性に欠け、調光シートを透明基材に貼り付けて使用されることにより、ACFに含まれる導電粒子がITOに接触し、応力をかけてITO上へクラックを発生させてしまうおそれがある。そして、このITO上のクラックが発生した箇所において、FPCと調光シートの接合抵抗値が上昇し、調光装置の駆動電圧が低下し、調光を害するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-187775号公報
【特許文献2】特許第6439029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、調光装置の電源接続部において、ITOとFPCとをACFを用いて接合する際に、ACFに含まれる導電粒子に起因するITOへのクラックの発生を抑制し、FPCと調光シートの接合抵抗値上昇に伴う駆動電圧の低下を防止できる調光装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の第1の態様は、
印加電圧に応じて不透明状態と、透明状態とを切り替え可能な調光シートと、調光シー
トを外部電源に接続するための電源接続部とからなる調光装置であって、
前記調光シートは、調光層と、前記調光層に電圧を印加する透明電極層が形成された透明基材に挟持されてなる構成であり、
前記電源接続部は、前記透明電極層とFPCとをACFを介して電気的に接続しつつ、機械的に接着された構造を有し、
前記透明電極層と前記ACF間には、さらに導電性物質が積層され、
前記導電性物質は、前記透明電極層より柔軟な材料からなることを特徴とする調光装置である。
【0009】
また、第2の態様は、
前記導電性物質は、金または銀を含むことを特徴とする請求項1に記載の調光装置である。
【0010】
調光装置の電源接続部において、ITOとFPCとをACFを用いて接合する部分に、ITOとACF間にさらに、ITOより柔軟な導電性物質を積層する。導電性物質は、ITOよりも柔らかい材料からなることで、ACFに含まれる導電性粒子の接触による応力を緩和し、ITOへのクラックを抑制してFPCと調光シートの接合抵抗値の上昇を防止することができる。
【0011】
導電性物質は、ITOよりも柔らかい金または銀などを含む材料からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
調光装置の電源接続部において、ITOとFPCとをACFを用いて接合する際に、ACFに含まれる導電粒子に起因するITOへのクラックの発生を抑制し、FPCと調光シートの接合抵抗値上昇に伴う駆動電圧の低下を防止できる調光装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による調光装置の正面図。
【
図2】調光装置の一方の面に形成された電源接続部の概略断面図。
【
図3】調光装置の他方の面に形成された電源接続部の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態による調光装置の構造の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態による調光装置の正面図であるが、
図1が示すように、調光装置10は、大面積での使用形態にあたって、例えば、窓ガラス等の透明板20に取り付けられる。調光装置10は、フレキシブルで薄い材料が主体であり、可撓性に富む。支持基材は、ガラスや樹脂等からなる透明な板状の部材であって平面状であってもよいし曲面状でもよい。透明板20は、窓ガラス以外にパーテーションやガラス壁等の建材であってもよいし、自動車の窓ガラス等の車両用部材であってもよい。
【0015】
調光装置10は、略矩形形状を有しており、調光装置10の大半を占める調光シート11と調光シート11の端部の電源接続部16A、16Bとを含む。調光シート11は、調光層(液晶層)12と、調光層12に電圧を印加する一対の透明電極層13A、13Bに挟持されてなる構成である。透明電極層13Aには外部電源から給電するための電源接続部16Aが接続され、透明電極層13Bには外部電源から給電するための電源接続部16Bが接続されている。
【0016】
調光層12は、液晶組成物を含む。例えば、高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)等から構成される。例えば、高分子ネットワーク型液晶は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備え、高分子ネットワークが有する空隙に液晶分子を保持する。調光層12が含む液晶分子は、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系の液晶分子である。
【0017】
調光層12に電圧を印加する一対の透明電極層13A、13Bの各々は、導電性を有する透明な層である。透明電極層13A、13Bを構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含むポリマー等が挙げられる。透明電極層13A、13Bの好適な厚さは略80nm以上150nm以下である。
【0018】
液晶素子を調光層として用いる調光シート11には、その使用態様により、ノーマルモードとリバースモードの二種が知られている。ノーマルモードとは、電圧印加(ON)により透過状態となり、電圧除去(OFF)により散乱状態となるモードを言う。また、リバースモードとは、電圧除去(OFF)により透過状態となり、電圧印加(ON)により散乱状態となるモードを言う。
【0019】
ノーマルモードの調光シート11では、透明電極層13A、13Bに駆動電圧が印加されていないとき、液晶分子の長軸方向の向きは不規則である。そのため、調光層13に入射した光は散乱し、調光領域は白濁して見える。すなわち、調光層13に駆動電圧が印加されていないとき、調光領域は不透明である。一方、透明電極層13A、13Bに駆動電圧が印加されると、液晶分子が配向され、液晶分子の長軸方向が透明電極層13A、13B間の電界方向に沿った向きとなる。その結果、調光層12を光が透過しやすくなり、調光領域は透明となる。
【0020】
電源接続部16A、16Bは、調光シートの一辺に沿って、調光シート11の端部に位置する。電源接続部16A、16Bが配置される上記一辺は矩形のいずれの辺であってもよく、透明板20や駆動回路(不図示)の配置等に応じて設定されればよい。また、電源接続部16A、16Bは、上記一辺の中央部を含む位置に配置されてもよいし、
図1に示す様に、上記一辺の端部を含む位置に配置されてもよい。そして、電源接続部16A、16Bは、リード線(不図示)を備え、リード線は、調光シート11の外側に延び、駆動回路に接続されている。
【0021】
また、電源接続部16A、16Bが接続する透明電極層13A、13Bの該当する箇所にあたる他方の透明電極層の一部(それぞれ透明電極層13Bの一部、透明電極層13Aの一部)は、カットされて除去されて、電源接続部16A、電源接続部16Bは、調光層12および他方の透明電極層から露出する領域に接続されている。
【0022】
詳細には、
図2が示すように、一方の透明電極層13Aは、透明電極形成層14Aと透明支持層15Aとの積層体である。透明支持層15Aは、透明な基材である。透明支持層15Aの材料としては、ポリエチレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリビニルアルコール,ポリカーボネート,ポリ塩化ビニル,ポリイミド,ポリサルホン,シクロオレフィンポリマー,トリアセチルセルロース等からなる高分子フィルムが用いら
れる。透明支持層の厚みは、それぞれ約50~200μm程度が望ましい。
【0023】
透明支持層15Aは、接着層25を介して透明板20に貼り付けられており、透明電極層13Aは、調光層12の一方の面に接し、電源接続部16Aは、透明電極層13Aのなかで調光層12および他方の透明電極層13Bから露出する領域に接続されている。
図3が示すように、他方の透明電極層13Bは、透明電極形成層14Bと透明支持層15Bとの積層体であり、透明電極層13Bは、調光層12の他方の面に接している。透明支持層15Bは、透明支持層15Aと同一の材料からなり、電源接続部16Bは、透明電極層13Bのなかで調光層12および他方の透明電極層13Aから露出する領域に接続されており、透明板20と対向する。
【0024】
電源接続部16A、16Bは、透明電極層13A、13Bに接合された導電性接着層であるACF17A、17Bと、ACF17A、17Bによって接合されたフレキシブルプリント基板FPC18A、18Bとを備える。さらに、透明電極層13A、13BとACF17A、17Bの間にはさらに導電性物質19A、19Bが積層されている。導電性物質19A、19Bは、例えば金または銀ペースト等の透明電極層13A、13Bより柔軟な材料からなる。電源接続部16A、16Bは、さらに、FPC18A、18Bに接続されたリード線とを備える。リード線は、電源から供給される電圧を駆動電圧に変換する駆動回路に接続され、電源接続部16A、16Bを通じて、透明電極層13A、13Bに駆動電圧が印加される。
【0025】
ACF17A、17Bは、熱硬化性又は熱可塑性の樹脂シート材料である。自身が接着性を持つ場合もあるこの樹脂シート材料をFPC18A、18Bの端子部と給電領域の透明電極層13A、13B表面との間に設置して、加熱圧着しながら樹脂を硬化又は成形する。これにより加熱圧着箇所となる厚さ方向では導通をとることができる。FPC18A、18Bは、ポリイミド等の絶縁性樹脂から構成された柔軟性を有する基材である絶縁性樹脂層の表面に、銅等の金属薄膜をパターニングして構成されたリード線を備えており、外部電源からの調光シート11への給電を受け持つ。
【0026】
前述したように、導電性接着層であるACF17A、17Bが、直接透明電極層13A、13Bに接着すると、ACF17A、17Bに含まれる導電性粒子の接触による応力によって、透明電極層13A、13Bにクラックが発生し、その結果FPC18A、18Bと調光シート11の接合抵抗値上昇に伴う駆動電圧の低下を引き起こし、調光が害されることになる。
図4に、電子顕微鏡で観察された透明電極層ITO上のクラックを示す。導電性物質19A、19Bは、ACF17A、17Bが、直接透明電極層13A、13Bに接着しないように、透明電極層13A、13BとACF17A、17Bの間に積層されており、この導電性物質19A、19Bは、透明電極層13A、13Bよりも柔らかい金または銀を含む材料からなることで、ACF17A、17Bに含まれる導電性粒子の接触による応力を緩和し、クラックを抑制してFPC18A、18Bと調光シート11の接合抵抗値の上昇を防止することができる。
【0027】
透明電極層13A、13Bへの電源接続部16A、16Bの形成にあたっては、図示されるように、矩形の調光シート11の一辺の端部にあたる透明電極層13B、13A(それぞれ他方の透明電極層)に切り欠け部を形成した上で除去して、露出させた透明電極層13A、13B上にそれぞれ導電性物質(19A、19B)、ACF(17A、17B)、FPC(18A、18B)をこの順に接合させる手順が採られる。金または銀を含む材料からなる導電性物質(19A、19B)は、透明電極層(13A、13B)上に、貼りこみや印刷または蒸着などの公知の手法により形成される。
【実施例0028】
ACFと透明電極ITOの間に導電性物質を設けなかった場合(試料1)と、
図2および
図3のように、ACFと透明電極ITOの間に導電性物質として銀ペーストを設けた場合(試料2)の調光装置を作成した。参考実験にて、試料1および試料2の調光シートに外部電源から給電し、FPCと調光シートの接合抵抗値を測定した。
試料1:透明電極ITOにクラックが発生し、接合抵抗値は3Ω
試料2:透明電極ITOにクラックが発生せず、接合抵抗値は0.3Ω
上記結果から、本発明の調光装置10によって、透明電極ITOへのクラックの発生を抑制し、FPCと調光シートの接合抵抗値の上昇を防止できることがわかった。