(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030361
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20240229BHJP
C03B 37/018 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C03B8/04 E
C03B8/04 D
C03B8/04 G
C03B37/018 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133205
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】森 貴宏
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH12
4G014AH14
4G014AH16
4G014AH21
4G021EA01
4G021EB01
4G021EB04
4G021EB15
(57)【要約】
【課題】ドーパントの添加に要する時間を低減できるガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス母材の製造方法においては、ガラス粒子を堆積させて第1多孔質ガラス層を形成し、前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子よりも大きい粒子径を有しかつ前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子と同じ化学組成を有するガラス粒子を前記第1多孔質ガラス層の外周面に堆積させて第2多孔質ガラス層を形成することで、多孔質ガラス母材を得て、前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に同時にドーパントを添加し、前記ドーパントが添加された前記多孔質ガラス母材を焼結して、少なくとも前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に跨った部分の屈折率を径方向において略一定にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粒子を堆積させて第1多孔質ガラス層を形成し、
前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子よりも大きい粒子径を有しかつ前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子と同じ化学組成を有するガラス粒子を前記第1多孔質ガラス層の外周面に堆積させて第2多孔質ガラス層を形成することで、多孔質ガラス母材を得て、
前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に同時にドーパントを添加し、
前記ドーパントが添加された前記多孔質ガラス母材を焼結して、少なくとも前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に跨った部分の屈折率を径方向において略一定にする、ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記第1多孔質ガラス層を形成する第1バーナの構造は、前記第2多孔質ガラス層を形成する第2バーナの構造と異なる、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記第1多孔質ガラス層を形成する第1バーナの外径は、前記第2多孔質ガラス層を形成する第2バーナの外径よりも小さい、請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記第1多孔質ガラス層は、径方向における前記多孔質ガラス母材の中心に位置する、請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質ガラス母材の外径は、100mm以上である、請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項6】
前記第1多孔質ガラス層の屈折率を径方向において略一定にする、請求項1または2に記載のガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、径方向に均一な嵩密度分布を持つ多孔質ガラス母材を形成する、光ファイバ母材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
径方向に均一な嵩密度分布を有する多孔質ガラス母材にドーパントを添加する場合、多孔質ガラス母材の内側部分におけるドーパントの拡散速度は、多孔質ガラス母材の外側部分におけるドーパントの拡散速度よりも遅くなる。このため、ドーパント添加後の多孔質ガラス母材において径方向に均一な屈折率分布を得ようとすると、上記内側部分においてドーパントが十分に拡散するのを待つ必要があり、ドーパントの添加に要する時間が長くなってしまう。この課題は、多孔質ガラス母材の外径を大きくするほど顕著となる。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、ドーパントの添加に要する時間を低減できるガラス母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の態様1は、ガラス粒子を堆積させて第1多孔質ガラス層を形成し、前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子よりも大きい粒子径を有しかつ前記第1多孔質ガラス層に含まれるガラス粒子と同じ化学組成を有するガラス粒子を前記第1多孔質ガラス層の外周面に堆積させて第2多孔質ガラス層を形成することで、多孔質ガラス母材を得て、前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に同時にドーパントを添加し、前記ドーパントが添加された前記多孔質ガラス母材を焼結して、少なくとも前記第1多孔質ガラス層および前記第2多孔質ガラス層に跨った部分の屈折率を径方向において略一定にする、ガラス母材の製造方法である。
【0007】
また、本発明の態様2は、態様1のガラス母材の製造方法において、前記第1多孔質ガラス層を形成する第1バーナの構造は、前記第2多孔質ガラス層を形成する第2バーナの構造と異なる、ガラス母材の製造方法である。
【0008】
また、本発明の態様3は、態様1又は態様2のガラス母材の製造方法において、前記第1多孔質ガラス層を形成する第1バーナの外径は、前記第2多孔質ガラス層を形成する第2バーナの外径よりも小さい、ガラス母材の製造方法である。
【0009】
また、本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つのガラス母材の製造方法において、前記第1多孔質ガラス層は、径方向における前記多孔質ガラス母材の中心に位置する、ガラス母材の製造方法である。
【0010】
また、本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つのガラス母材の製造方法において、前記多孔質ガラス母材の外径は、100mm以上である、ガラス母材の製造方法である。
【0011】
また、本発明の態様6は、態様1から5のいずれか一つのガラス母材の製造方法において、前記第1多孔質ガラス層の屈折率を径方向において略一定にする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、ドーパントの添加に要する時間を低減可能なガラス母材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る多孔質ガラス母材の製造方法に用いる製造装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る光ファイバ母材およびその屈折率分布を示す図である。
【
図3A】バーナが有する複数のポートの第1の例を示す図である。
【
図3B】バーナが有する複数のポートの第2の例を示す図である。
【
図3C】バーナが有する複数のポートの第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るガラス母材の製造方法について図面に基づいて説明する。
本実施形態では、気相軸付法(VAD法:Vapor phase Axial Deposition Method)を用いて光ファイバ母材のコアを形成し、コアの周囲に外付化学気相堆積法(OVD法:Outside Vapor Deposition Method)を用いてクラッドを形成することで光ファイバ母材を得る場合について説明する。なお、「光ファイバ母材」は、「ガラス母材」の一例である。
【0015】
図1に示すように、多孔質ガラス母材5の製造装置(以下、単に製造装置10という)は、反応室7と、第1バーナ3と、第2バーナ4と、支持部2と、を備えている。反応室7内には、出発部材1の少なくとも一部が収容されている。出発部材1は、製造装置10により製造される多孔質ガラス母材5の堆積の起点となる部材である。出発部材1は石英ガラス等により形成されている。出発部材1は、例えば丸棒状である。出発部材1の少なくとも一方の端部は、支持部2によって回転軸Oまわりに回転可能に把持されている。反応室7には、不要なガスを排出するための2つの排気口6が設けられている。排気口6の数および位置は、適宜変更可能である。
【0016】
バーナ3、4には、ガラス原料ガス、酸素を含む助燃性ガス、水素を含む燃焼ガス、不活性ガス等が供給される。各バーナ3、4は、例えば多重管構造(詳細は後述)を有する。バーナ3、4の噴出口近傍には、各ガスが単独あるいは混合された状態で噴出する複数のポートが設けられている。ガラス原料ガスとしては、例えばSiCl4、GeCl4、または有機シリコン化合物等を採用できる。有機シリコン化合物の具体例としては、アルキルシクロシロキサンが挙げられる。水素を含む燃焼ガスが燃焼することで、バーナ3、4の噴出口の近傍には火炎(酸水素火炎)が生じる。この火炎中でガラス原料ガスを反応させることで、ガラス粒子が生成される。このガラス粒子を、回転する出発部材1の先端から回転軸Oと平行な方向に堆積させることで、ガラス粒子の堆積層(スート)が形成される。これにより、多孔質ガラス母材5が得られる。
【0017】
多孔質ガラス母材5にドープ処理および焼結処理を施すことで、
図2に示すような光ファイバ母材20のコア5となる部材が得られる。ドープ処理および焼結処理に加えて、必要に応じて多孔質ガラス母材5に脱水処理を施してもよい。
【0018】
光ファイバを製造する場合、得られたコア5の周囲に、ガラス粒子を堆積させ、スートを形成する。形成されたスートに焼結処理等を施すことで、コア5の周囲にクラッド8が形成される。これにより、
図2に示すような、コア5およびクラッド8を有する光ファイバ母材20が得られる。光ファイバ母材20を線引きすることで、光ファイバを得ることができる。なお、
図2の例において、クラッド8はコア5を覆う第1クラッド8aおよび第1クラッド8aを覆う第2クラッド8bを含む2層構造を有している。ただし、クラッド8は単層構造であってもよいし、3層以上の構造を有していてもよい。
【0019】
図2に示すように、本実施形態において製造される光ファイバ母材20は、ステップ型の屈折率分布を有する。つまり、コア5の屈折率、第1クラッド8aの屈折率n
1、および第2クラッド8bの屈折率n
2の各々が、径方向において略一定となっている。なお、本明細書において、「コア5」「コア5の平均屈折率n
0」「屈折率が略一定」を、具体的に次のように定義する。まず、光ファイバ母材20を径方向において複数(例えば、2500個)の領域(サンプリング領域)に分割し、各サンプリング領域の屈折率を測定する。次に、径方向に対する屈折率の変化量を各サンプリング領域で算出し、径方向に対する屈折率の変化量が20点以上連続で0.000015以上となった部分の最も内側に位置するサンプリング領域を、コア5の最外周と定義する。そして、コア5の最外周よりも径方向内側のサンプリング領域全てを、「コア5」と定義する。また、「コア5の平均屈折率n
0」は、このように定義したコア5の範囲内における、屈折率の測定値の平均値と定義する。そして、「屈折率が略一定」とは、コア5の範囲内において、平均屈折率n
0に対する比屈折率Δn
sの変動が0.01%以下であることを意味する。なお、各サンプリング領域について、「n
0に対する比屈折率Δn
s」は、当該サンプリング領域における屈折率の計測値をn
sとして、以下のように定義される。
Δn
s[%]=100×(n
s
2-n
0
2)/2n
s
2
また、n
0に対するn
1の比屈折率Δn
1は、例えば-0.36~-0.32%の範囲内である。n
0に対するn
2の比屈折率Δn
2は、例えば-0.26~-0.22%の範囲内である。なお、比屈折率Δn
1、Δn
2は以下のように定義される。
Δn
1[%]=100×(n
1
2-n
0
2)/2n
1
2
Δn
2[%]=100×(n
2
2-n
0
2)/2n
2
2
【0020】
(方向定義)
本実施形態では、支持部2の回転軸Oと平行な方向、すなわち多孔質ガラス母材5の中心軸Oと平行な方向を、「軸方向」または「長手方向」と称する場合がある。図面では、鉛直方向をZ軸によって表し、鉛直方向における上方を+Z側、下方を-Z側とする。本実施形態では、長手方向が鉛直方向と一致している。ただし、長手方向は鉛直方向と一致していなくてもよい。長手方向から見て、多孔質ガラス母材5の中心軸Oに直交する方向を、径方向と称する。径方向に沿って、中心軸Oに接近する向きを、径方向内側と称し、中心軸Oから離反する向きを、径方向外側と称する。長手方向から見て、中心軸Oまわりに周回する方向を、周方向と称する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態では、出発部材1の上端部は支持部2によって把持されており、出発部材1の下端部は反応室7内に位置している。支持部2は、例えば、出発部材1を把持するチャックと、チャックを鉛直方向(長手方向)に移動させる移動機構と、を有している。支持部2は、出発部材1を回転軸Oまわりに回転させながら上方に移動させることが可能である。
【0022】
第1バーナ3は、出発部材1の下端部にガラス粒子を堆積させてスートを形成することが可能な位置に配置されている。本明細書では、第1バーナ3が形成するスートを第1多孔質ガラス層5aと称する。第1バーナ3は、鉛直方向(長手方向)および水平方向(径方向)の双方に対して傾いている。ただし、第1バーナ3の位置および姿勢は適宜変更してもよい。
【0023】
第2バーナ4は、第1多孔質ガラス層5aの外周面にガラス粒子を堆積させてスートを形成することが可能な位置に配されている。本明細書では、第2バーナ4が形成するスートを第2多孔質ガラス層5bと称する。第2バーナ4は、第1バーナ3よりも上方に配置されている。言い換えれば、バーナ3、4は、多孔質ガラス母材5の長手方向に沿って、間隔を空けて配置されている。第2バーナ4は、多孔質ガラス母材5の長手方向に略直交する方向(すなわち、略径方向)に沿って延びている。ただし、第2バーナ4の位置および姿勢は適宜変更してもよい。また、製造装置10は多孔質ガラス母材5の長手方向に沿って間隔を空けて配置された複数の第2バーナ4を備えていてもよい。
【0024】
第1多孔質ガラス層5aの外周面を覆うように、第2多孔質ガラス層5bを形成することで、多孔質ガラス母材5が得られる。本実施形態において、第1多孔質ガラス層5aは、径方向における多孔質ガラス母材5の中心に位置する。多孔質ガラス母材5は、光ファイバ母材20のコア5(
図2参照)となる部分である。つまり、本実施形態に係るバーナ3、4は、光ファイバのコアとなる部分を形成する役割を担っている。第2多孔質ガラス層5bの外径(すなわち、多孔質ガラス母材5の外径)は、例えば100mm以上である。
【0025】
ここで、第2多孔質ガラス層5bを形成するガラス粒子の粒子径は、第1多孔質ガラス層5aを形成するガラス粒子の粒子径よりも大きい。言い換えれば、第2バーナ4が堆積させるガラス粒子の粒子径は、第1バーナ3が堆積させるガラス粒子の粒子径よりも大きい。また、第2多孔質ガラス層5bを形成するガラス粒子の化学組成は、第1多孔質ガラス層5aを形成するガラス粒子の化学組成と同じである。言い換えれば、第2バーナ4が堆積させるガラス粒子の化学組成は、第1バーナ3が堆積させるガラス粒子の化学組成と同じである。第1バーナ3と第2バーナ4とで堆積させるガラス粒子の粒子径を変える具体的な方法としては、例えば、第1バーナ3の構造(ポートの構成)と第2バーナ4の構造(ポートの構成)とを異ならせる方法や、第1バーナ3の外径と第2バーナ4の外径とを異ならせる方法を採用することができる。あるいは、第1バーナ3と第2バーナ4とでガスの流量や温度を異ならせてもよい。
【0026】
次に、製造装置10を用いた多孔質ガラス母材5の製造方法、および多孔質ガラス母材5を用いて光ファイバ母材20を製造する方法について説明する。
【0027】
まず、多孔質ガラス母材5を形成する形成工程が行われる。形成工程においては、回転する出発部材1を支持部2によって上方に引き上げながら、点火されたバーナ3、4からガラス原料ガス等を噴出する。これにより、第1バーナ3が、出発部材1の下端部から下方に向けてガラス粒子を堆積させ、長手方向に延びる棒状の第1多孔質ガラス層5aを形成する。また、第2バーナ4が、第1多孔質ガラス層5aの外周面にガラス粒子を堆積させ、第1多孔質ガラス層5aの外周面に第2多孔質ガラス層5bを形成する。これにより、多孔質ガラス母材5が得られる。先述したように、第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子の化学組成と第2多孔質ガラス層5bに含まれるガラス粒子の化学組成とは同一にする。つまり、第1バーナ3から噴出するガラス原料ガスの種類と第2バーナ4から噴出するガラス原料ガスの種類とは同一にする。また、第2多孔質ガラス層5bに含まれるガラス粒子の大きさは第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子の大きさよりも大きくする。
【0028】
次に、ドープ工程が行われる。ドープ工程は、多孔質ガラス母材5にドーパントを添加する工程である。本実施形態では、第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bに対して、同一のドープ工程で同時にドーパントを添加する。なお、「同時にドーパントを添加する」ことについては、第1多孔質ガラス層5aにドーパントが吸着するタイミングと、第2多孔質ガラス層5bにドーパントが吸着するタイミングとが、厳密に同時でなくてもよく、同一の工程(ドープ工程)内でタイミングが多少ずれる場合も含むものとする。なお、ドープ工程に先立って多孔質ガラス母材5に脱水処理が行われてもよい。ドープ工程においては、例えば、製造装置10から取り出した多孔質ガラス母材5を炉心管(不図示)に収容し、多孔質ガラス母材5をヒータ等で加熱しながら、当該炉心管に塩素等のドーパントを含むガスを導入する。炉心管内に導入された塩素系ガスが多孔質ガラス母材5のガラス粒子と反応することにより、多孔質ガラス母材5に塩素が添加される。多孔質ガラス母材5に塩素を添加することにより、多孔質ガラス母材(コア)5の屈折率を上げることができる。なお、塩素系ガスが炉心管内に導入されるとともに、アルゴン等の不活性ガス(キャリアガス)が炉心管内に導入されてもよい。
【0029】
ここで、仮に第1多孔質ガラス層5aと第2多孔質ガラス層5bとでガラス粒子の粒子径が等しい場合、多孔質ガラス母材5の嵩密度は径方向に均一となる。しかし、径方向に均一な嵩密度分布を有するガラス母材に塩素等のドーパントを添加する場合、多孔質ガラス母材の内側部分におけるドーパントの拡散速度は、多孔質ガラス母材の外側部分におけるドーパントの拡散速度よりも遅くなる。このため、径方向において略一定の屈折率を有するコアを得ようとすると、上記内側部分においてドーパントが十分に拡散するのを待つ必要があり、ドープ工程に要する時間が長くなってしまう。この課題は、多孔質ガラス母材5の外径が大きくなるほど顕著となる。
【0030】
そこで、本実施形態に係る光ファイバ母材20の製造方法においては、第1多孔質ガラス層5aのガラス粒子の粒子径を、第2多孔質ガラス層5bのガラス粒子の粒子径よりも小さくしている。これにより、径方向内側に位置する第1多孔質ガラス層5aにおけるドーパントの吸着効率を高めることができる。このように、第1多孔質ガラス層5aにおけるドーパントの吸着を促進させることで、多孔質ガラス母材5の全体にドーパントが拡散するまでに要する時間を削減することができる。特に、多孔質ガラス母材5が太い径(例えば、100mm以上)を有する場合においても、ドープ工程に要する時間を削減することができる。
【0031】
ドープ工程が行われたのち、焼結工程が行われる。焼結工程においては、ドーパントが添加された多孔質ガラス母材5がヒータ等によってガラス転移温度まで加熱される。これにより、多孔質ガラス母材5が透明ガラス化する。また、上記ドープ工程において多孔質ガラス母材5の全体にドーパントが拡散しているため、当該焼結工程によって第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bの屈折率が径方向において略一定となる。つまり、径方向に略一定な屈折率を有するコア5が得られる。
【0032】
焼結工程が行われたのち、コア5の外周にガラス粒子が堆積され、スートが形成される。当該スートを焼結することにより、第1クラッド8aが得られる。さらに第1クラッド8aの外周にスートを形成して焼結することにより、第2クラッド8bが得られる。クラッド8a、8bの屈折率n1、n2がコア5の平均屈折率n0よりも小さくなるよう、上記焼結に先立ち、屈折率を下げる作用を有するドーパント(例えば、フッ素等)をスートにドープしてもよい。また、必要に応じて脱水処理が行われてもよい。以上の工程により、光ファイバ母材20が製造される。また、光ファイバ母材20を線引きすることで、光ファイバが得られる。
【0033】
なお、第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bの全体の屈折率が径方向において略一定でなくてもよい。例えば、第1多孔質ガラス層5aの屈折率は径方向において略一定であり、かつ、第2多孔質ガラス層5bの外周部分では、屈折率が径方向外側に向かうに従って低下してもよい。このような屈折率分布の光ファイバ母材20でも、光ファイバの機能を確保可能な場合がある。言い換えれば、第2多孔質ガラス層5bの外周部分がコア5として用いられなくてもよい。少なくとも第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bに跨った部分の屈折率が径方向において略一定となるような製造方法を採用することで、径方向内側に位置する第1多孔質ガラス層5aのドーパントの添加に要する時間を、従来と比較して低減する、という目的は達せられる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバ母材20の製造方法は、ガラス粒子を堆積させて第1多孔質ガラス層5aを形成し、第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子よりも大きい粒子径を有しかつ第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子と同じ化学組成を有するガラス粒子を第1多孔質ガラス層5aの外周面に堆積させて第2多孔質ガラス層5bを形成することで、多孔質ガラス母材5を得て、第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bに同時にドーパントを添加し、ドーパントが添加された多孔質ガラス母材5を焼結して、少なくとも第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bに跨った部分の屈折率を径方向において略一定にする。
【0035】
この構成により、径方向内側に位置する第1多孔質ガラス層5aにおけるドーパントの吸着効率を高めることができる。したがって、多孔質ガラス母材5の全体にドーパントが添加されるまでに要する時間を削減することができる。
【0036】
また、第1多孔質ガラス層5aを形成する第1バーナ3の構造は、第2多孔質ガラス層5bを形成する第2バーナ4の構造と異なっていてもよい。この構成によれば、第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子の粒子径と第2多孔質ガラス層5bに含まれるガラス粒子の粒子径とを容易に異ならせることができる。
【0037】
また、第1多孔質ガラス層5aを形成する第1バーナ3の外径は、第2多孔質ガラス層5bを形成する第2バーナ4の外径よりも小さくてもよい。この構成によれば、第1多孔質ガラス層5aに含まれるガラス粒子の粒子径を、第2多孔質ガラス層5bに含まれるガラス粒子の粒子径よりも容易に小さくすることができる。
【0038】
また、第1多孔質ガラス層5aは、径方向における多孔質ガラス母材5の中心(すなわち光ファイバ母材20の中心)に位置している。言い換えれば、多孔質ガラス母材5は光ファイバ母材20のコアとなる部材である。この構成によれば、径の大きいコアを有する光ファイバ母材20の製造に要する時間を低減することができる。
【0039】
また、多孔質ガラス母材5の外径は、100mm以上であってもよい。このように太い径を有する多孔質ガラス母材5においても、上記のようにガラス粒子径が互いに異なる第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5bを形成することで、ドープ工程に要する時間を低減することができる。
【0040】
以下、具体的な試験例を用いて、上記実施形態を説明する。なお、本発明は以下の試験例に限定されない。
【0041】
(試験例1)
図1に示すような製造装置10を用意した。なお、第2バーナ4の本数は2本であり、製造装置10は合計で3本のバーナ3、4を有していた。各バーナ3、4は、
図3Aに示すような、ポートP1~P4を含む同心円状の多重管構造を有していた。ポートP1は、SiCl
4を含むガラス原料ガスを噴出するポートである。ポートP2は、水素を含む燃焼ガスを噴出するポートである。ポートP3は、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスを噴出するポートである。ポートP4は、酸素を含む助燃性ガスを噴出するポートである。また、第1バーナ3の外径は15mmであり、第2バーナ4の外径は21mmであった。
【0042】
この製造装置10を用い、外径200mm、長さ1300mmの多孔質ガラス母材5を製造した。製造した多孔質ガラス母材5について、電子顕微鏡を用いてガラス粒子径を測定した。粒子径の最小値は0.18μmであり、粒子径の最大値は0.25μmであった。また、製造した多孔質ガラス母材5について脱水処理、ドープ処理、および焼結処理を行ってコア5を得、プリフォームアナライザ等を用いてSiO2に対する比屈折率を調べた。コア5の平均屈折率n0に対して、径方向におけるコア5領域内の比屈折率Δnsの変動は、0.005%以内であった。
【0043】
(試験例2)
図1に示すような製造装置10を用意した。なお、第2バーナ4の本数は2本であり、製造装置10は合計で3本のバーナ3、4を有していた。第1バーナ3は、
図3Bに示すような、ポートP1~P9を含む同心円状の多重管構造を有していた。ポートP1は、SiCl
4を含むガラス原料ガスを噴出するポートである。ポートP2、P4、P6、P8は、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスを噴出するポートである。ポートP3、P7は、水素を含む燃焼ガスを噴出するポートである。ポートP5、P9は、酸素を含む助燃性ガスを噴出するポートである。一方、各第2バーナ4は、
図3Aに示すような、ポートP1~P4を含む同心円状の多重管構造を有していた。各ポートP1~P4の役割は、試験例1と同一である。また、第1バーナ3の外径は44mmであり、第2バーナ4の外径は21mmであった。
【0044】
この製造装置10を用い、外径200mm、長さ1300mmの多孔質ガラス母材5を製造した。製造した多孔質ガラス母材5について、電子顕微鏡を用いてガラス粒子径を測定した。粒子径の最小値は0.25μmであり、粒子径の最大値は0.33μmであった。また、製造した多孔質ガラス母材5について脱水処理、ドープ処理、および焼結処理を行ってコア5を得、プリフォームアナライザ等を用いてSiO2に対する比屈折率を調べた。コア5の平均屈折率n0に対して、径方向におけるコア5領域内の比屈折率Δnsの変動は、0.01%程度であった。
【0045】
(試験例3)
図1に示すような製造装置10を用意した。なお、第2バーナ4の本数は2本であり、製造装置10は合計で3本のバーナ3、4を有していた。各バーナ3、4は、
図3Cに示すような構造を有していた。つまり、各バーナ3、4は、ポートP1~P5を含む同心円状の多重管と、ポートP3の内部に配置された複数のノズルQと、を組み合わせた構造を有していた。複数のノズルQは、バーナ3、4の周方向に間隔を空けて配されていた。ポートP1は、SiCl
4を含むガラス原料ガスを噴出するポートである。ポートP2は、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスを噴出するポートである。ポートP3は、水素を含む燃焼ガスを噴出するポートである。ポートP4は、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスを噴出するポートである。ポートP5は、酸素を含む助燃性ガスを噴出するポートである。ノズルQは、酸素を含む助燃性ガスを噴出する。また、第1バーナ3の外径は21mmであり、第2バーナ4の外径は25mmであった。
【0046】
この製造装置10を用い、外径200mm、長さ1300mmの多孔質ガラス母材5を製造した。製造した多孔質ガラス母材5について、電子顕微鏡を用いてガラス粒子径を測定した。粒子径の最小値は0.20μmであり、粒子径の最大値は0.27μmであった。また、製造した多孔質ガラス母材5について脱水処理、ドープ処理、および焼結処理を行ってコア5を得、プリフォームアナライザ等を用いてSiO2に対する比屈折率を調べた。コア5の平均屈折率n0に対して、径方向におけるコア5領域内の比屈折率Δnsの変動は、0.005%以内であった。
【0047】
(試験例4)
図1に示すような製造装置10を用意した。なお、第2バーナ4の本数は2本であり、製造装置10は合計で3本のバーナ3、4を有していた。各バーナ3、4は、
図3Cに示すような構造を有していた。つまり、各バーナ3、4は、ポートP1~P5を含む同心円状の多重管と、ポートP3の内部に配置された複数のノズルQと、を組み合わせた構造を有していた。複数のノズルQは、バーナ3、4の周方向に間隔を空けて配されていた。ポートP1~P5、およびノズルQの役割は試験例3と同一である。また、第1バーナ3の外径は40mmであり、第2バーナ4の外径は25mmであった。
【0048】
この製造装置10を用い、外径200mm、長さ1300mmの多孔質ガラス母材5を製造した。製造した多孔質ガラス母材5について、電子顕微鏡を用いてガラス粒子径を測定した。粒子径の最小値は0.25μmであり、粒子径の最大値は0.40μmであった。また、製造した多孔質ガラス母材5について脱水処理、ドープ処理、および焼結処理を行ってコア5を得、プリフォームアナライザ等を用いてSiO2に対する比屈折率を調べた。コア5の平均屈折率n0に対して、径方向におけるコア5領域内の比屈折率Δnsの変動は、0.01%程度であった。
【0049】
上記の通り、第1バーナ3と第2バーナ4とで構成および外径を異ならせることで、ガラス粒子の粒子径を変化させられることが確認された。そして先述の通り、ガラス粒子の粒子径を変化させることで、多孔質ガラス母材5の全体にドーパントが添加されるまでに要する時間を削減することができる。
【0050】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0051】
例えば、前記実施形態において多孔質ガラス母材5は光ファイバ母材20のコア5となる部分であったが、多孔質ガラス母材5は光ファイバ母材20の第1クラッド8aまたは第2クラッド8bとなる部分であってもよい。つまり、第1クラッド8aや第2クラッド8bの製造において、前記実施形態のように、ガラス粒子径の異なる2つの多孔質ガラス層を形成してもよい。
【0052】
また、ドープ工程において多孔質ガラス母材5に添加されるドーパントは、塩素に限られない。ドーパントの種類は、光ファイバ母材20の屈折率分布の設計に応じて適宜変更可能である。例えば、上記のように第1クラッド8aまたは第2クラッド8bの製造に前記実施形態を適用する場合には、ドーパントとしてフッ素等を用いることができる。
【0053】
また、多孔質ガラス母材5は、第1多孔質ガラス層5aおよび第2多孔質ガラス層5b以外の層を有していてもよい。つまり、上記実施形態において、屈折率が略一定となる(コア5となる)多孔質ガラス層は2層であったが、3層以上の多孔質ガラス層について屈折率を略一定とし、3層以上の多孔質ガラス層によってコア5を製造してもよい。この場合、より太い外径の多孔質ガラス母材5を製造することができる。また、多孔質ガラス母材5の径を太くしない場合でも、3層以上の多孔質ガラス層の各々についてガラス粒子径を制御することで、多孔質ガラス母材5の径方向において、より高い精度でガラス粒子径の制御を行うことができる。これにより、径方向における屈折率の変動をより調整しやすくなる。
【0054】
また、
図2に示す屈折率分布は一例に過ぎない。例えば、コア5と第1クラッド8aとの境界部分において、屈折率が矩形状に変化していてもよい。
【0055】
また、前記実施形態においては光ファイバ母材20の製造方法について説明したが、光ファイバ母材20以外のガラス母材の製造に前記実施形態を適用してもよい。径方向において屈折率が略一定な層を含むガラス母材を製造するにあたって、前記実施形態に係る製造方法を好適に用いることができる。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
3…第1バーナ 4…第2バーナ 5…多孔質ガラス母材 5a…第1多孔質ガラス層 5b…第2多孔質ガラス層 20…光ファイバ母材(ガラス母材)