(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030364
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】車両用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240229BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133211
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】井田 知里
(72)【発明者】
【氏名】金子 峻輔
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA05
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770HA06X
5H770JA17W
5H770QA01
5H770QA08
5H770QA22
5H770QA28
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】コンデンサの放電を行うコンデンサ放電制御によってインバータ回路のスイッチング素子が損傷することを防止できる車両用電動圧縮機を提供する。
【解決手段】車両用電動圧縮機1において、圧縮機構を駆動する電動モータに電力を供給するインバータ装置5の制御部55は、インバータ回路50の複数のスイッチング素子Q1~Q6のうちスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21に蓄積された電荷を放電させるコンデンサ放電制御を実施する。制御部55は、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を流れる電流がスイッチング素子温度に応じた許容電流以下になるように、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に、電動モータと、電動モータによって駆動される圧縮機構と、前記電動モータに電力を供給するインバータ装置と、を有する車両用電動圧縮機であって、
前記インバータ装置は、
車両の直流電源に接続される正極母線と負極母線との間に配置された複数のスイッチング素子を含み、前記車両の直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータのコイルに供給するインバータ回路と、
前記正極母線と前記負極母線との間に接続されると共に、前記インバータ回路よりも前記車両の直流電源側に配置されたコンデンサと、
前記複数のスイッチング素子の温度又は前記複数のスイッチング素子の近傍の温度を検知する温度検知部と、
前記複数のスイッチング素子のうちの少なくとも一部のスイッチング素子を制御することにより、前記少なくとも一部のスイッチング素子及び前記電動モータのコイルを介して前記コンデンサに蓄積された電荷を放電させるコンデンサ放電制御を実施する制御部であって、前記コンデンサ放電制御の際に、前記少なくとも一部のスイッチング素子を流れる電流が前記温度検知部によって検知された温度に応じた許容電流以下になるように、前記少なくとも一部のスイッチング素子を制御するように構成された制御部と、
を含む、車両用電動圧縮機。
【請求項2】
前記制御部は、前記コンデンサ放電制御の際に、前記少なくとも一部のスイッチング素子を流れる電流が要求放電時間と前記温度検知部によって検知された温度とに応じた下限電流以上になるように、前記少なくとも一部のスイッチング素子を制御するように構成されている、請求項1に記載の車両用電動圧縮機。
【請求項3】
前記インバータ装置は、前記コンデンサと前記インバータ回路との間における前記正極母線と前記負極母線との電位差を検知する電圧検知部を含み、
前記制御部は、前記電圧検知部によって検知された電位差が放電必要電圧以上である場合に前記コンデンサ放電制御を実施する、
請求項1に記載の車両用電動圧縮機。
【請求項4】
前記インバータ装置は、前記コンデンサ放電制御による前記コンデンサの放電電流を検知する電流検知部を含み、
前記制御部は、前記温度検知部によって検知された温度に基づいて前記許容電流以下の目標放電電流を設定し、前記目標放電電流と前記電流検知部によって検知された前記コンデンサの放電電流とに基づいて前記少なくとも一部のスイッチング素子のデューティ比を設定し、設定されたデューティ比で前記少なくとも一部のスイッチング素子を制御する、
請求項1に記載の車両用電動圧縮機。
【請求項5】
前記制御部は、車両からのコンデンサ放電指令に基づいて前記コンデンサ放電制御を実施する、請求項1~4のいずれか一つの記載の車両用電動圧縮機。
【請求項6】
コネクタを介して前記車両の直流電源に接続されるように構成され、
前記制御部は、前記コンデンサ放電制御により、前記コンデンサに蓄積された電荷を放電させることに加えて、前記コネクタよりも前記車両の直流電源側に配置されて前記車両の直流電源に並列に接続された車両側コンデンサに蓄積された電荷を放電させる、
請求項5に記載の車両用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用電動圧縮機の一例として特許文献1に記載された車載用電動圧縮機が知られている。特許文献1に記載された車載用電動圧縮機は、車両に設けられた直流電源としてのバッテリとインバータ回路との間の非通電(両者を接続するコネクタが外れたこと)を電流センサによって検知し、非通電が検知された場合に前記インバータ回路のスイッチング素子を制御してコンデンサの放電を開始させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された車載用電動圧縮機では、次のような課題がある。
【0005】
電流センサの誤検知などにより、バッテリとインバータ回路とが通電状態であるにもかかわらず非通電が検知されてコンデンサの放電が開始されると、高電圧が維持されたままスイッチング素子に電流が流れ続けることになり、スイッチング素子の発熱が大きくなってスイッチング素子が熱破壊するおそれがある。
【0006】
電動圧縮機側コンデンサの放電だけではなく、車両側コンデンサの放電が要求されることがある。車両側コンデンサは、一般に、電動圧縮機側コンデンサよりも静電容量が大きい。そのため、そのような要求に応じた場合、スイッチング素子に流れる電流(つまり、スイッチング素子の発熱)が想定以上に大きくなって、スイッチング素子が熱破壊するおそれがある。
【0007】
本発明は、コンデンサの放電を行うためのコンデンサ放電制御によってインバータ回路のスイッチング素子が損傷(熱破壊等)することを防止できる車両用電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、ハウジング内に、電動モータと、前記電動モータによって駆動される圧縮機構と、前記電動モータに電力を供給するインバータ装置と、を有する車両用電動圧縮機が提供される。この車両用電動圧縮機は、車両の直流電源に接続される正極母線と負極母線との間に配置された複数のスイッチング素子を含み、前記車両の直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータのコイルに供給するインバータ回路と、前記正極母線と前記負極母線との間に接続されると共に、前記インバータ回路よりも前記車両の直流電源側に配置されたコンデンサと、前記複数のスイッチング素子の温度又は前記複数のスイッチング素子に近傍の温度を検知する温度検知部と、前記複数のスイッチング素子のうちの少なくとも一部のスイッチング素子を制御することにより、前記少なくとも一部のスイッチング素子及び前記電動モータの前記コイルを介して前記コンデンサに蓄積された電荷を放電させるコンデンサ放電制御を実施する制御部であって、前記コンデンサ放電制御の際に、前記少なくとも一部のスイッチング素子に流れる電流が前記温度検知部によって検知された温度に応じた許容電流以下になるように、前記少なくとも一部のスイッチング素子を制御するように構成された制御部と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンデンサの放電を行うためのコンデンサ放電制御によってインバータ回路のスイッチング素子が損傷(熱破壊等)することを防止できる車両用電動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る車両用電動圧縮機の概略縦断面図である。
【
図2】実施形態に係る車両用電動圧縮機の回路構成図である。
【
図4】コンデンサ放電制御の一例を示すフローチャートである。
【
図5】コンデンサ放電制御の一例を示すフローチャートである。
【
図6】目標放電電流設定マップの一例を示す図である。
【
図7】設定されるスイッチング素子のデューティ比の一例を示す図である。
【
図8】設定されるスイッチング素子のデューティ比の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用電動圧縮機(以下単に「電動圧縮機」という)1の概略縦断面図である。実施形態に係る電動圧縮機1は、インバータ装置を一体に有するインバータ一体型電動圧縮機である。電動圧縮機1は、車両に搭載されて車両用空調装置の冷媒回路の一部を構成し、冷媒を圧縮して吐出するように構成され得る。
【0013】
図1を参照すると、電動圧縮機1は、電動モータ2と、電動モータによって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構3と、電動モータ2及び圧縮機構3を収容するメインハウジング4と、電動モータ2に電力を供給するインバータ装置5と、インバータ装置5を収容するインバータハウジング6とを含む。メインハウジング4とインバータハウジング6は、電動圧縮機1のハウジングを構成する。つまり、電動圧縮機1は、電動モータ2、圧縮機構3及びインバータ装置5をハウジング内に有している。
【0014】
電動モータ2は、例えば三相同期モータ(ブラシレスDCモータ)である。圧縮機構3は、例えばスクロール圧縮機構である。電動モータ2と圧縮機構3とは、メインハウジング4内において、電動モータ2の出力軸2aの軸方向に直列に配置され、電動モータ2の出力軸2aは、圧縮機構3(スクロール圧縮機構の場合には旋回スクロール)に連結されている。
【0015】
インバータ装置5は、各種の電子部品が実装された回路基板7を含む。回路基板7は、インバータハウジング6内に複数の固定部材により取り付けられている。
【0016】
インバータハウジング6は、メインハウジング4と一体的に設けられている。インバータハウジング6は、前記軸方向におけるメインハウジング4の一端側に、具体的には、電動モータ2を挟んで圧縮機構3とは反対側に配置されている。本実施形態において、インバータハウジング6は、メインハウジング4と一体に形成されたハウジング本体61と、ハウジング本体61に対して取り外し可能なカバー部材62とを含む。
【0017】
ハウジング本体61は、底壁611と、底壁611の周縁から立ち上がると共に底壁611に対向する開口部を画定する周壁612と、を有する。カバー部材62は、ハウジング本体61の前記開口部を閉塞するようにハウジング本体61に取り付けられている。ハウジング本体61の底壁611(インバータハウジング6の底壁でもある)の一部は、メインハウジング4内とインバータハウジング6内とを仕切る仕切壁8を構成している。また、電動モータ2とインバータ装置5とは、仕切壁8を気密及び液密な状態で貫通して延びる給電線9を介して電気的に接続されている。
【0018】
メインハウジング4の仕切壁8側の部位には、外部からの冷媒をメインハウジング4内に流入させる冷媒流入口4aが形成されている。冷媒流入口4aからメインハウジング4内に流入した冷媒は、メインハウジング4内(電動モータ2の隙間)を流れて圧縮機構3に至る。圧縮機構3は、電動モータ2によって駆動されて冷媒を圧縮して吐出する。
【0019】
冷媒流入口4aからメインハウジング4内に流入する冷媒は、例えば、前記車両用空気調和装置の冷媒回路における膨張弁及び蒸発器などを通過した冷媒であり、低温低圧の冷媒である。よって、冷媒流入口4aからメインハウジング4内に流入する冷媒により、仕切壁8及び電動モータ2が冷却され得る。メインハウジング4内を流れた冷媒は、圧縮機構3によって圧縮されて高温高圧の冷媒となって圧縮機構3から吐出される。そして、圧縮機構3から吐出された(高温高圧)の冷媒は、メインハウジング4に形成された冷媒流出口4bから流出する。
【0020】
【0021】
図2を参照すると、電動圧縮機1は、コネクタ20を介して車両の直流電源としての車載バッテリ(以下単に「バッテリ」という)VBに接続される。そして、バッテリVBからコネクタ20を介して電動圧縮機1に、さらに言えば、インバータ装置5の後述するインバータ回路50に直流電力が供給される。
【0022】
電動圧縮機1のインバータ装置5は、インバータ回路50と、第1コンデンサ51と、温度検知部52と、電圧検知部53と、電流検知部54と、制御部55と、を含む。そして、これらの少なくとも一部が回路基板7に実装されている。ここで、
図1には1つの回路基板7が示されているが、これに限られるものではなく、インバータ装置5は、複数の回路基板を含み、インバータ装置5を構成するインバータ回路50や第1コンデンサ51などが前記複数の回路基板に分散配置されてもよい。
【0023】
インバータ回路50は、コネクタ20及びシステムメインリレーSMRを介してバッテリVBに接続される。詳しくは、インバータ回路50は、正極母線56P及び負極母線56Nを有し、インバータ回路50の正極母線56Pがコネクタ20及びシステムメインリレーSMRを介してバッテリVBの正極端子に接続され、インバータ回路50の負極母線56Nがコネクタ20を介してバッテリVBの負極端子に接続される。
【0024】
本実施形態において、システムメインリレーSMRは、車両の制御装置(車両ECU)100により、前記車両のスタートボタンのON操作によって閉成され、前記車両のスタートボタンのOFF操作によって開放されるように構成されている。システムメインリレーSMRが閉成されると、バッテリVBと電動圧縮機1(のインバータ装置5)とが電気的に接続され、システムメインリレーSMRが開放されると、バッテリVBと電動圧縮機1(のインバータ装置5)とが電気的に切断される。
【0025】
インバータ回路50は、バッテリVBに接続される正極母線56Pと負極母線56Nとの間に配置された複数(ここでは6つ)のスイッチング素子Q1~Q6と、スイッチング素子Q1~Q6と同数(ここでは6つ)のダイオードD1~D6とを含む。特に限定されないが、スイッチング素子Q1~Q6は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)であり得る。インバータ回路50は、スイッチング素子Q1~Q6が制御(PMW制御)されることにより、バッテリVBからの直流電力を三相交流電力に変換して電動モータ2に供給するように構成されている。
【0026】
ここで、本実施形態において、複数のスイッチング素子Q1~Q6は、インバータハウジング6内において、仕切壁8に熱的に接触するように配置されている(
図1参照)。ここで、仕切壁8に熱的に接触するとは、仕切壁8との間で熱交換が可能な状態にあることをいい、仕切壁8に直接接触すること、仕切壁8に近接していること、及び、熱伝導率が高い熱交換部材などを介して仕切壁8に間接的に接触することなどが含まれる。したがって、複数のスイッチング素子Q1~Q6は、メインハウジング4内に流入する(低温の)冷媒によって仕切壁8を介して冷却され得る。
【0027】
インバータ回路50についてさらに説明する。インバータ回路50は、正極母線56Pと負極母線56Nとの間に並列に設けられたU相アーム、V相アーム及びW相アームを有する。U相アームには2つのスイッチング素子Q1、Q2が直列に接続され、各スイッチング素子Q1、Q2にはダイオードD1、D2がそれぞれ逆並列に接続されている。V相アームには2つのスイッチング素子Q3、Q4が直列に接続され、各スイッチング素子Q3、Q4にはダイオードD3、D4がそれぞれ逆並列に接続されている。W相アームには2つのスイッチング素子Q5、Q6が直列に接続され、各スイッチング素子Q5、Q6にはダイオードD5、D6がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0028】
また、U相アーム、V相アーム及びW相アームのそれぞれの中間点は、それぞれの一端においてスター結線された電動モータ2のU相コイル、V相コイル及びW相コイルの他端に接続されている。すなわち、U相アームにおいてスイッチング素子Q1、Q2の間の位置するU相アームの中間点はU相コイルに接続され、V相アームにおいてスイッチング素子Q3、Q4の間に位置するV相アームの中間点はV相コイルに接続され、及び、W相アームにおいてスイッチング素子Q5、Q6の間に位置するV相アームの中間点はW相コイルに接続されている。
【0029】
そして、各相アームの正極母線56P側のスイッチング素子Q1、Q3、Q5のON期間の比率と負極母線56N側のスイッチング素子Q2、Q4、Q6のON期間の比率が制御されることにより、すなわち、スイッチング素子Q1~Q6がデューティ比で制御(PWM制御)されることにより、インバータ回路50は、バッテリVBからの直流電力を三相交流電力に変換して電動モータ2に供給することができ、これによって、電動モータ2を駆動する。
【0030】
第1コンデンサ51は、インバータ回路50の正極母線56Pと負極母線56Nとの間に接続されている。第1コンデンサ51は、インバータ回路50よりもバッテリVB側、すなわち、インバータ回路50とコネクタ20との間に配置されている。第1コンデンサ51は、バッテリVBからインバータ回路50に供給される直流電力を平滑化する平滑コンデンサである。
【0031】
温度検知部52は、スイッチング素子Q1~Q6の温度又はスイッチング素子Q1~Q6の近傍の温度(以下、これらをまとめて単に「スイッチング素子温度」という。)を検知する。
【0032】
電圧検知部53は、インバータ回路50と第1コンデンサ51との間に配置され、インバータ回路50と第1コンデンサ51との間における正極母線56Pと負極母線56Nとの間の電位差を検知する。
【0033】
電流検知部54は、電動モータ2を流れる電流を検知する。本実施形態において、電流検知部54は、インバータ回路50と第1コンデンサ51との間における負極母線56N上に配置されている。但し、これに限られるものではなく、電流検知部54は、インバータ回路50と第1コンデンサ51との間における正極母線56P上に配置されてもよい。
【0034】
制御部55は、前記車両用空調装置の制御装置(空調ECU)101からの動作指令に基づき、電動モータ2、ひいては圧縮機構3を駆動するため、スイッチング素子Q1~Q6を制御(PWM制御)するように構成されている。
【0035】
また、制御部55は、車両ECU100からコンデンサ放電指令を入力すると、コンデンサの放電を行うための制御(以下「コンデンサ放電制御」という)を実施するように構成されている。本実施形態において、車両ECU100は、少なくとも前記車両のスタートボタンがOFF操作されたこと(すなわち、システムメインリレーSMRを開放したこと)を条件に、前記コンデンサ放電指令を制御部55に出力するように構成されている。
【0036】
ここで、本実施形態においては、第1コンデンサ51の他にも、コネクタ20よりもバッテリVB側にバッテリVBに並列に接続された第2コンデンサ21が設けられている。第2コンデンサ21は、バッテリVBの正極端子とインバータ回路50の正極母線56Pとをコネクタ20を介して接続する正極側配線22Pと、バッテリVBの負極端子とインバータ回路50の負極母線56Nとをコネクタ20を介して接続する負極側配線22Nとに間に接続されている。第2コンデンサ21は、第1コンデンサ51と同様、バッテリVBからインバータ回路50に供給される直流電力を平滑化する機能を有する。
【0037】
そのため、本実施形態において、制御部55は、前記コンデンサ放電制御により、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を行うように構成されている。すなわち、制御部55は、前記コンデンサ放電制御を実施することにより、第1コンデンサ51に蓄積された電荷を放電させることに加えて、第2コンデンサ21に蓄積された電荷を放電させるように構成されている。ここで、第1コンデンサ51は、電動圧縮機側のコンデンサであり、第2コンデンサ21は、前記車両側のコンデンサである。
【0038】
具体的には、制御部55は、前記コンデンサ放電指令を入力すると、複数のスイッチング素子Q1~Q6のうちの少なくとも一部のスイッチング素子、ここでは、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御して(ONして)第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21と、電動モータ2のコイル(U相コイル、V相コイル及びW相コイル)とを通電させる。これにより、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6と電動モータ2の前記コイルとを含むコンデンサ放電回路が生成され、
図3中に矢印で示されるように、第1コンデンサ51に蓄積された電荷及び第2コンデンサ21に蓄積された電荷がスイッチング素子Q1、Q4及びQ6と、電動モータ2の前記コイル(U相コイル、V相コイル及びW相コイル)とを介して放電される。
【0039】
制御部55が実施する前記コンデンサ放電制御についてさらに説明する。
【0040】
本実施形態において、制御部55は、前記コンデンサ放電指令を入力すると、温度検知部52によって検知される前記スイッチング素子温度の監視、電圧検知部53によって検知される電圧の監視、及び、電流検知部54によって検知される電流の監視を開始する。ここで、電圧検知部53によって検知される電位差は、正極母線56Pと負極母線56Nとの間の電位差であり、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の端子間電圧(コンデンサ電圧)に相当する。また、電流検知部54によって検知される電流は、前記コンデンサ放電回路が生成された場合の第1コンデンサ51及び/又は第2コンデンサ21の放電電流に相当する。よって、以下では、電圧検知部53によって検知される電位差を「コンデンサ電圧相当値」といい、電流検知部54によって検知される電流を「コンデンサ放電電流」ということがある。制御部55は、電圧検知部53によって検知されるコンデンサ電圧相当値に基づいて前記コンデンサ放電制御が必要か否かを判断する。そして、前記コンデンサ放電制御が必要な場合、制御部55は、温度検知部52によって検知される前記スイッチング素子温度に基づいて目標放電電流を設定し、設定された目標放電電流と、電流検知部54によって検知されるコンデンサ放電電流とに基づいてスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比を設定し、設定されたデューティ比でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御する。
【0041】
図4、
図5は、制御部55が実施する前記コンデンサ放電制御の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、制御部55が前記コンデンサ放電指令を入力すると開始される。
【0042】
ステップS1において、制御部55は、電圧検知部53によって検知される電位差、すなわち、コンデンサ電圧相当値を読み込む。
【0043】
ステップS2において、制御部55は、読み込まれたコンデンサ電圧相当値が前記コンデンサ放電制御を必要する基準値である放電必要電圧以上であるか否かを判断する。読み込まれたコンデンサ電圧相当値が前記放電必要電圧以上である場合、制御部55はステップS3の処理に進み、読み込まれたコンデンサ電圧相当値が前記放電必要電圧未満である場合、制御部55は本フローを終了する。
【0044】
ステップS3において、制御部55は、温度検知部52によって検知されるスイッチング素子温度を読み込む。
【0045】
ステップS4において、制御部55は、読み込まれたスイッチング素子温度に基づいて目標放電電流を設定する。制御部55は、次のようにして目標放電電流を設定する。
【0046】
本実施形態において、制御部55は、
図6に示されるような目標放電電流設定マップを有している。この目標放電電流設定マップにおいて、X軸は前記スイッチング素子温度であり、Y軸は放電電流値(=スイッチング素子を流れる電流=電動モータ2の相電流値)である。また、
図6中の実線は、スイッチング素子に流れてもスイッチング素子が熱破壊することのない最大の電流であるスイッチング素子の許容電流を示し、
図6中の破線は、あらかじめ設定された要求放電時間内に第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を完了させる(完全に完了させる必要はなく、概ね完了させればよい。)ために必要な下限電流を示している。ここで、前記許容電流及び前記下限電流は、第1コンデンサ51に蓄積された電荷及び第2コンデンサ21に蓄積された電荷を放電させるために生成される前記コンデンサ放電回路、つまり、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6と電動モータ2の前記コイルとを含む前記コンデンサ放電回路の温度特性(特に抵抗変動)を考慮して設定されている。
【0047】
そして、制御部55は、読み込まれた前記スイッチング素子温度に基づき、前記許容電流以下であり且つ前記下限電流以上の電流、すなわち、
図6中のハッチング内の電流を目標放電電流として設定する。つまり、制御部55は、基本的には、前記スイッチング素子温度が低いほど高い電流値を有する目標放電電流を設定する。特に限定されないが、本実施形態において、制御部55は、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6の発熱をできるだけ抑制するため、前記スイッチング素子温度に基づき、前記下限電流に比較的近い電流値を有する電流を目標放電電流として設定する。
【0048】
ステップS5において、制御部55は、デューティ比50%でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御する。これにより、前記コンデンサ放電回路が生成され、前記コンデンサ放電制御、すなわち、第1コンデンサ51に蓄積された電荷の放電及び第2コンデンサ21に蓄積された電荷の放電が開始される。
【0049】
ステップS6において、制御部55は、電流検知部54によって検知される電流、すなわち、コンデンサ放電電流を読み込む。
【0050】
ステップS7において、制御部55は、設定された目標放電電流と読み込まれた前記コンデンサ放電電流との差分を算出する。
【0051】
ステップS8において、制御部55は、算出された差分に基づいてスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比を設定する。
【0052】
ステップS9において、制御部55は、設定されたデューティ比でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御する。これにより、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を流れる電流が前記許容電流以下に制限された状態で、第1コンデンサ51に蓄積された電荷及び第2コンデンサ21に蓄積された電荷が放電される。
【0053】
ステップS10において、制御部55は、前記コンデンサ放電指令を入力してから又は放電開始から前記要求放電時間が経過したか否かを判定する。前記要求放電時間が経過していない場合、制御部55はステップS11の処理に進む。他方、前記要求放電時間が経過している場合、制御部55はステップS13(
図5)の処理に進む。
【0054】
ステップS11において、制御部55は、電圧検知部53によって検知される電位差、すなわち、コンデンサ電圧相当値を読み込む。
【0055】
ステップS12において、制御部55は、読み込まれたコンデンサ電圧相当値が放電必要電圧以上であるか否かを判断する。読み込まれたコンデンサ電圧相当値が前記放電必要電圧以上である場合、制御部55はステップS6の処理に戻り、読み込まれたコンデンサ電圧相当値が前記放電必要電圧未満である場合、制御部55は本フローを終了する。
【0056】
ステップS13において、制御部55は、コンデンサ放電制御を停止する。
【0057】
ステップS14において、制御部55は、コンデンサ放電制御を停止してからあらかじめ設定されたスイッチング素子の冷却期間が経過したか否かを判定する。そして、スイッチング素子の冷却期間が経過すると、制御部55は、ステップS1の処理に戻る。
【0058】
図7は、制御部55によって設定されるスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比の一例を示す図である。
図7(a)は、前記スイッチング素子温度が低い場合を示し、
図7(b)は、前記スイッチング素子温度が高い場合を示している。
【0059】
制御部55に前記コンデンサ放電指令が入力された場合、通常はシステムメインリレーSMRが開放されており、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21は、バッテリVBから電気的に切断された状態にある。そのため、電圧検知部53によって検知されるコンデンサ電圧相当値は、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21が放電されるにつれて低下する。換言すれば、前記要求放電時間が経過するまでの間、前記コンデンサ電圧相当値は、前記コンデンサ放電制御の開始から時間の経過と共にだんだん低くなる。また、前記コンデンサ電圧相当値が低下すると、電流検知部54によって検知される前記コンデンサ放電電流も低下する。よって、前記目標放電電流が一定の場合、前記目標放電電流を維持するため、
図7(a)、(b)に示されるように、時間が経過するにつれてステップS8で設定されるデューティ比が大きくなる(T1<T2<T3)。なお、前記スイッチング素子温度が高い場合、前記スイッチング素子温度が低い場合に比べて低い電流値の目標放電電流が設定される(
図6参照)。そのため、前記スイッチング素子温度が高い場合の制御デューティ比(
図7(b))は、前記スイッチング素子温度が低い場合のデューティ比(
図7(a))よりもデューティ比の増加分が小さくなる。
【0060】
図8は、制御部55によって設定されるスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比の他の例を示す図である。
図8(a)は、前記スイッチング素子温度が低い場合を示し、
図8(b)は、前記スイッチング素子温度が高い場合を示している。
【0061】
何らかの事情により、システムメインリレーSMRが閉じているときに制御部55に前記コンデンサ放電指令が入力された場合、換言すれば、制御部55に誤って前記コンデンサ放電指令が入力された場合、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21は、バッテリVBと電気的に接続された状態にある。この場合、前記コンデンサ放電制御の開始後も電圧検知部53によって検知される電位差(前記コンデンサ電圧相当値)は一定に維持される(低下しない)。よって、前記目標放電電流が一定の場合、前記要求放電時間が経過するまでの間、
図8(a)、(b)に示されるように、ステップS8で前記目標放電電流に応じたほぼ一定のデューティ比が設定される(T1≒T2≒T3)。前記スイッチング素子温度が高い場合、前記スイッチング素子温度が低い場合に比べて低い電流値の目標放電電流が設定される。そのため、前記スイッチング素子温度が高い場合の制御デューティ比(
図8(b))は、前記スイッチング素子温度が低い場合の制御デューティ比(
図8(a))よりも小さく設定される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態において、制御部55は、前記コンデンサ放電指令を入力すると、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6と電動モータ2の前記コイルとを介して第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21を放電させる前記コンデンサ放電制御を実施する。その際、制御部55は、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を流れる電流が前記スイッチング素子温度に応じたスイッチング素子Q1、Q4及びQ6の許容電流以下になるように、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御する。つまり、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を流れる電流が許容電流以下に制限される。
【0063】
そのため、前記コンデンサ放電制御によりスイッチング素子Q1、Q4及びQ6が損傷(熱破壊等)することが防止される。また、バッテリVBと第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21とが電気的に接続された状態にあるときに前記コンデンサ放電指令が誤って制御部55に入力された場合であっても、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6が損傷(熱破壊等)することが防止される。
【0064】
制御部55は、前記コンデンサ放電制御の際に、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を流れる電流が前記要求放電時間及び前記スイッチング素子温度に応じた下限電流以上になるように、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御するように構成されている。下限電流は、前記要求放電時間内に第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を完了させるために必要な電流である。そのため、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6が損傷(熱破壊等)することを防止しつつ、前記要求放電時間内に第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を完了させることができる。
【0065】
具体的には、本実施形態において、制御部55は、前記スイッチング素子温度に基づいて前記許容電流以下であり且つ前記下限電流以上の目標放電電流を設定し、設定された目標放電電流と電流検知部54によって検知される前記コンデンサ放電電流とに基づいてスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比を設定し、設定されたデューティ比でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御するように構成されている。これにより、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6の損傷(熱破壊等)を防止すると共に前記要求放電時間内に第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を完了させることのできる前記コンデンサ放電制御が安定して実施され得る。
【0066】
上述の実施形態において、制御部55は、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、前記コンデンサ放電制御を実施している。しかし、これに限られるものではない。第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21と、電動モータ2のコイル(U相コイル、V相コイル及びW相コイル)とを通電させればよく、制御部55は、スイッチング素子Q1~Q6のうちの任意のスイッチング素子を制御して前記コンデンサ放電制御を実施することができる。
【0067】
上述の実施形態において、制御部55は、前記スイッチング素子温度に基づいて前記許容電流以下であり且つ前記下限電流以上の目標放電電流を設定している。しかし、これに限られるものではない。前記要求放電時間が設定されない場合や前記要求放電時間が十分に長い場合などにおいて、制御部55は、単に前記スイッチング素子温度に基づいて前記許容電流以下の目標放電電流を設定すればよい。
【0068】
上述の実施形態において、制御部55は、前記スイッチング素子温度に基づき、前記下限電流に比較的近い電流値を有する電流を前記目標放電電流として設定している。しかし、これに限られるものではない。例えば放電時間の短縮化が優先される場合、制御部55は、前記スイッチング素子温度に基づき、前記許容電流に比較的近い電流値を有する電流を前記目標放電電流として設定してもよい。また、スイッチング素子Q1、Q4及びQ6の発熱の抑制と放電時間の短縮化とをバランスさせる場合、制御部55は、前記スイッチング素子温度に基づき、前記許容電流と前記下限電流との中間の電流値を有する電流を前記目標放電電流として設定してもよい。
【0069】
上述の実施形態において、制御部55は、デューティ比50%でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、前記コンデンサ放電制御を開始させている(
図4のステップ5)。換言すれば、前記コンデンサ放電制御を実施する際のスイッチング素子Q1、Q4及びQ6のデューティ比の初期値を50%としている。しかし、これに限られるものではない。制御部55は、任意のデューティ比(の初期値)でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、前記コンデンサ放電制御を開始させることができる。例えば、制御部55は、
図4のステップS4で設定された目標放電電流に応じたデューティ比(の初期値)でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、前記コンデンサ放電制御を開始させてもよい。
【0070】
あるいは、
図4のステップS5の処理が省略され、制御部55は、
図4のステップS9でスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御することにより、前記コンデンサ放電制御を開始させてもよい。この場合、例えばデューティ比の上限値を設定することにより、オーバーシュートやハンチングなどを抑制するのが好ましい。
【0071】
さらに、制御部55は、前記コンデンサ電圧相当値を監視し、前記目標放電電流と前記コンデンサ電圧相当値とに基づいてデューティ比を設定し、設定されたスイッチング素子Q1、Q4及びQ6を制御するようにしてもよい。この場合、例えば、
図4において、ステップS5の処理が省略され、ステップS6においてステップS1と同様に前記コンデンサ電圧相当値が読み込まれ、ステップS7の処理が省略され、ステップS8においてステップS4で設定された前記目標放電電流とステップS6で読み込まれたコンデンサ電圧相当値とに基づいてデューティ比が設定される。
【0072】
上述の実施形態において、制御部55は、前記コンデンサ放電制御により、第1コンデンサ51及び第2コンデンサ21の放電を行っている。しかし、これに限られるものではない。制御部55は、第1コンデンサ51が無い場合においても上記と同様にして第2コンデンサ21の放電を行うことができ、第2コンデンサ21が無い場合においても上記と同様にして第1コンデンサ51の放電を行うことができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
1…電動圧縮機、2…電動モータ、3…圧縮機構、4…メインハウジング、5…インバータ装置、6…インバータハウジング、20…コネクタ、21…第2コンデンサ、50…インバータ回路、51…第1コンデンサ、52…温度検知部、53…電圧検知部、54…電流検知部、55…制御部、56P…正極母線、56N…負極母線、Q1~Q6…スイッチング素子、VB…車載バッテリ