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  • 特開-多孔質ジルコニア粒子 図1
  • 特開-多孔質ジルコニア粒子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030366
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】多孔質ジルコニア粒子
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20240229BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240229BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240229BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240229BHJP
   B01J 20/282 20060101ALI20240229BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B01J20/06 A
B01J20/22 C
B01J20/28 Z
C01G25/02
B01J20/282 E
B01J20/281 G
B01J20/281 X
G01N30/88 J
G01N33/531 B
G01N33/553
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133213
(22)【出願日】2022-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌大
(72)【発明者】
【氏名】米倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 将吾
【テーマコード(参考)】
4G048
4G066
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4G066AA23B
4G066AA23C
4G066AB07B
4G066AB10B
4G066AB19B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA54
4G066DA07
4G066EA02
(57)【要約】
【課題】粒子漏れが抑えられる多孔質ジルコニア粒子を提供する。
【解決手段】タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子である。直径が10μm以上100μm以下であり、水銀圧入法を用いて測定した細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.00cm/gよりも大きく、0.14cm/g以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
直径が10μm以上100μm以下であり、
水銀圧入法を用いて測定した細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.00cm/gよりも大きく、0.14cm/g以下である、多孔質ジルコニア粒子。
【請求項2】
粒子破壊強度が1.2MPa以上200MPa以下である、請求項1に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項3】
前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項4】
前記免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgM、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【請求項5】
表面に、キレート剤が担持されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は多孔質ジルコニア粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
特定タンパク質を選択的に吸着させることで、特定タンパク質を分離精製するカラムが検討されている。
例えば、特許文献1では、この目的のために多孔質ジルコニア粒子を採用した技術が開示されている。この文献では、窒素吸着実験(ガス吸着法)によるBET法により測定された累積細孔容積を規定することで、特定タンパク質の吸着量を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/153253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンパク質の吸着にあたって、多孔質ジルコニア粒子をカラムに充填して使用する場合、一定以上の粒径が必要となる。例えば、カラムに設置されるフィルターの細孔径以上であることが要求される。
また、カラム法において、カラムにサンプル溶液を通す際に、充填した粒子の崩壊や、粒子の微粉化によって、粒子が漏れ出てしまう可能性がある。漏れが生じると回収されたタンパク質の純度や性質等に影響するという課題があった。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、粒子漏れが抑えられる多孔質ジルコニア粒子を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]
タンパク質の固定に用いられる多孔質ジルコニア粒子であって、
直径が10μm以上100μm以下であり、
水銀圧入法を用いて測定した細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.00cm/gよりも大きく、0.14cm/g以下である、多孔質ジルコニア粒子。
【0006】
[2]
粒子破壊強度が1.2MPa以上200MPa以下である、[1]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0007】
[3]
前記タンパク質は、免疫グロブリンであることを特徴とする[1]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0008】
[4]
前記免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする[3]に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【0009】
[5]
表面に、キレート剤が担持されていることを特徴とする[1]から[4]のいずれか1項に記載の多孔質ジルコニア粒子。
【発明の効果】
【0010】
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、カラム通液時等の粒子漏れが十分に抑えられる。
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、粒子破壊強度が1.2MPa以上200MPa以下であると、カラムで使用する際にピペッティング操作をする場合、通液速度が速い場合でも、破壊されにくくなり、ハンドリング性が向上する。
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、免疫グロブリンである場合には、選択性が非常に高い。
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、固定されるタンパク質が、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種である場合には、選択性が極めて高い。
本開示の多孔質ジルコニア粒子の表面に、キレート剤が担持されていると、選択性がより高まる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA)の推定担持構造を示す模式図である。
図2】細孔径と細孔体積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.多孔質ジルコニア粒子
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、タンパク質の固定に用いられる。尚、以下の説明における「粒子」は「多孔質ジルコニア粒子」を意味する場合がある。
(1)多孔質ジルコニア粒子の粒子径
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、カラムに充填して使用するに際して、カラムに設置されるフィルターからの漏れを抑制する観点から、10μm以上であり、30μm以上が好ましく、45μm以上がより好ましい。他方、タンパク質の吸着効率の観点から、100μm以下であり、90μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。これらの観点から、多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、10μm以上100μm以下であり、30μm以上90μm以下が好ましく、45μm以上80μm以下がより好ましい。
尚、多孔質ジルコニア粒子を所望の粒子径とするためには例えば分級が好適に用いられる。分級としては、公知の分級処理を用いることができる。例えば、ふるいを用いることができる。カラムは、例えば分取用のオープンカラムクロマトグラフィー、中圧カラムクロマトグラフィーなどに用いられる。
多孔質ジルコニア粒子の粒子径は、顕微鏡によって観察することによって、粒子径を規定できる。多孔質ジルコニア粒子を顕微鏡によって観察し、当該粒子の画像を取得する。取得した画像から、粒子のそれぞれの面積を画像処理によって算出する。算出した粒子の面積と同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)をそれぞれの粒子ごとに算出する。そして、算出した円の直径を平均化したものを粒子径として規定できる。
【0014】
(2)粒子破壊強度
多孔質ジルコニア粒子の粒子破壊強度は、カラムへ充填して使用する際に強度不足による不具合を抑制する観点から、1.2MPa以上が好ましく、1.7MPa以上がより好ましく、2.0MPa以上が更に好ましい。粒子破壊強度の上限値は特に限定されないが、通常、200MPaである。
粒子破壊強度は、微小圧縮試験機を用いて測定できる。具体的には、多孔質ジルコニア粒子を試料とし、微小圧縮試験機(島津製作所、MCT211)を用いて、試料に一定の負荷速度で荷重を負荷し、粒子が破壊した時点の荷重値を、荷重に対して垂直に見た粒子の投影面積で割った値を圧縮強度(MPa)とする。さらに、この操作を4回繰り返し、5個の試料について圧縮強度を測定し、その平均値を粒子破壊強度とする。試料としては、粒子の直径が40μm以上60μm以下の多孔質ジルコニア粒子を選別して用いることができる。
【0015】
(3)総細孔容積
総細孔容積は、細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、0.00cm/gよりも大きく、0.14cm/g以下であり、0.02cm/g以上0.08cm/g以下が好ましく、0.05cm/g以上0.07cm/g以下がより好ましい。この範囲であると、カラム通液時等の粒子の漏れが十分に抑えられる。多孔質ジルコニア粒子は、表面にメソからマクロポアを有する多孔質状となっており、孔径サイズとしては数nmから数百nmまで様々なサイズが混在している粒子と考えられる。本発明者らが、粒子漏れを抑制すべく鋭意研究を重ねて、細孔径分布を確認したところ、粒子漏れが生じた粒子と生じなかった粒子では、100nm以上の細孔分布のグラフ形状に相違があるという新規な知見を得た。この知見によれば、粒子漏れが生じる粒子は粒子自体の強度の他に、大きい細孔が破壊の起点となって粒子の剥がれ、微粉の発生等に影響しているものと推測された。尚、粒子の崩壊性は、従来から粒子の形状等の影響をもちろん受けていると考えられていた。しかし、粒子の崩壊性は、総細孔容積の影響を受けているとは、従来、全く考えられていなかった。
本開示においては、細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲における総細孔容積を特定の範囲とすることで、カラム通液時等の粒子漏れを抑制している。また、この範囲であると、タンパク質の十分な吸着能力を発揮する。例えば、この範囲であると、ジルコニア製品「Zir Chrom」(Zir Chrom Seperations Inc.)のIgG吸着量よりも高い能力を発揮し、市販のプロテインAの半分程度のIgG吸着量を確保できる。
総細孔容積は、気孔径分布を解析することによって求める。具体的には、気孔径分布の解析は、次のように行う。水銀ポロシメータ(マイクロメリティックス社 オートポアIV9510)を用いて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件で水銀圧入法により測定された気孔径及びlog微分細孔容積を、それぞれ横軸及び縦軸とする気孔径分布のグラフを作成して解析する。測定に用いるサンプル量は、0.15g-0.25gとする。
【0016】
2.タンパク質
固定の対象となるタンパク質は、特に限定されない。本開示の多孔質ジルコニア粒子は、免疫グロブリン、特に、IgG、IgM、IgA、IgY、IgE、及びIgDからなる群より選択される少なくとも1種を選択的に固定することに優れている。
なお、本開示において、「固定」とは、物理的固定と、化学的固定を含む。本開示の多孔質ジルコニア粒子は、その細孔内でのタンパク質の固定に、毛細管現象によりタンパク質が挿入される物理的固定と、ジルコニア表面に共有結合などの化学結合を利用した化学的固定を利用しており、高いタンパク質固定能を有している。
【0017】
3.キレート剤
多孔質ジルコニア粒子の表面には、キレート剤が担持されていてもよい。キレート剤を担持することで、選択性がより高まる。
キレート剤は、特に限定されない。キレート剤として、下記一般式(1)で表される化合物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DETPA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DETPPA)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。尚、塩としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム等)の塩が好適に例示される。
【0018】
【化1】

(一般式(1)中、Rは炭素数1~10のアルキレン基である。また、R~Rは炭素数1~10のアルキレン基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0019】
一般式(1)のRにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
また、R~Rにおける炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、イソブチレン基等が例示される。
【0020】
キレート剤としては、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、一般式(1)で表される化合物が好ましい。一般式(1)で表される化合物の中でも、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTPA;N,N,N’,N’-Ethylenediaminetetrakis(methylenephosphonic Acid))が特に好ましい。
【0021】
キレート剤の担持量は、特に限定されない。キレート剤の担持量は、免疫グロブリンに対する選択性をより高めるという観点から、ジルコニア1mgあたり、0.01μg~10μgであることが好ましく、0.02μg~5μgであることがより好ましく、0.05μg~3μgであることが更に好ましい。
なお、キレート剤の担持量は、TG-DTA(熱重量示差熱分析)の重量減少から算出できる。
【0022】
キレート剤の担持態様は、明らかではないが、ジルコニウム原子に、キレート剤に由来する配位子が結合しているものと推測される。例えば、キレート剤がエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸の場合には、図1の構造であると推測される。
【0023】
4.多孔質ジルコニア粒子の製造方法
多孔質ジルコニア粒子の製造方法は、特に限定されない。
(1)多孔質ジルコニア粒子の製造
多孔質ジルコニア粒子を製造するためには、まず、多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)を製造する。多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)は、例えば、次の方法によって製造できる。ジルコンを原料として、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl・8HO)溶液を得る。そして、加水分解反応により、Zr(OH)微粒子とし、これを焼成して、多孔質ジルコニア粒子(多孔質ジルコニア粉末原料)とする。
【0024】
(2)多孔質ジルコニア粒子の製造
多孔質ジルコニア粉末原料と水(HO)を、水分割合(%)が所定の値となるようにボールミルで混合してスラリーを作製する。スラリーをスプレードライヤーにて造粒し、所定の粒径の粒子を製造する。この粒子を所定温度で、所定時間、焼成する。多孔質ジルコニア粉末原料としては、特に限定されないが、例えば、第一稀元素化学工業製UEP-100、新日本電工製のPCS90、新日本電工製のPCS140等を好適に用いることができる。
スラリーにおける水分量は、特に限定されない。水分量は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、スラリー全体を100質量%とした場合に、65質量%以上90質量%以下であることが好ましく、75%質量以上85質量%以下であることがより好ましく、77%質量以上83%質量以下であることが更に好ましい。
焼成温度は、特に限定されない。焼成温度は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、600℃以下であることが好ましく、350℃以上550℃以下であることがより好ましく、420℃以上520℃以下であることが更に好ましい。
焼成時間は、特に限定されない。焼成時間は、所望の総細孔容積を有する多孔質ジルコニア粒子を製造する観点から、10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましく、1.5時間以上3時間以下であることが更に好ましい。
【実施例0025】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。以下の実験では、水銀圧入法による総細孔容積と、漏れとの関係等を検討した。
尚、No.2-No.14が実施例に相当し、No.1は比較例である。比較例については、表1において、実験例の番号を示す数字の後に「10*」のように「*」を付している。
【0026】
1.多孔質ジルコニア粒子の作製
(1)No.12
原料ジルコニア粉末として、第一稀元素化学工業製UEP-100を用いた。スプレードライ装置として、大川原化工機製MLD-22を用いた。
原料ジルコニア粉末と水とを、水分量80質量%(原料ジルコニア粉末:水=20:80(質量比))になるようにして、ボールミルにて混合及び粉砕し、スラリーを作製した。
作製したスラリーを100mL/minの供給速度でスプレードライ装置に投入し、アトマイザ回転数9000rpm、出口乾燥温度90℃にてスプレードライにて造粒した。
得られた平均径約50μmの造粒紛を500℃(3時間昇温(500℃まで昇温にかけた時間)、2時間キープ(500℃を2時間保持))で焼成し、その後、分級して、粒径を45μm以上100μm以下に揃えてNo.12の造粒紛を得た。
【0027】
(2)No.1-11,13-14
以下に示す表1のように、スラリー作製時の水分量(スラリー中の水分量)、混合粉砕条件(混合粉砕時間)、スプレードライ条件(スプレーの供給速度)、焼成条件(焼成温度及び焼成時間)を変動させることで、細孔容積や強度等の粒子特性のコントロールを行った以外はNo.12と同様にして、No.1-11,13-14の多孔質ジルコニア粒子を作製した。
【0028】
【表1】
【0029】
2.多孔質ジルコニア粒子の特性測定
(1)水銀圧入法による細孔容積の測定
総細孔容積は、気孔径分布を解析することによって求めた。具体的には、気孔径分布の解析は、次のように行った。水銀ポロシメータ(マイクロメリティックス社 オートポアIV9510)を用いて接触角を130°、表面張力を485mN/mの条件で水銀圧入法により測定された気孔径及びlog微分細孔容積を、それぞれ横軸及び縦軸とする気孔径分布のグラフを作成して解析した。測定に用いたサンプル量は、0.15g-0.25gとした。
【0030】
(2)IgGの固定、及びIgG量の測定
各多孔質ジルコニア粒子に対して、それぞれ次のようにして、IgGを固定し、固定されたIgG量を求めた。
多孔質ジルコニア粒子へのIgGの固定は、以下のように行った。スピッツに500μLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を入れて、この液に多孔質ジルコニア粒子3mgを加えた。多孔質ジルコニア粒子を十分に分散させた後、IgG(750μg/500μL)を500μL加えて、遮光下、4℃で一晩撹拌した。
スピッツを、12,000回転で10分間遠心して、多孔質ジルコニア粒子を沈殿分離した。上澄み溶液に残存する未固定のIgG量を、プロテインアッセイ染色液(BIO-RAD)を用い、マイクロプレートリーダー(InfiniteF200PRO,TECAN)により定量した。始めに加えたIgG量と、未固定のIgG量との差分を固定されたIgG量(IgG抗体吸着量)とした。
【0031】
(3)粒子破壊強度
多孔質ジルコニア粒子を試料とし、微小圧縮試験機(島津製作所、MCT211)を用いて、試料に一定の負荷速度で荷重を負荷し、粒子が破壊した時点の荷重値を、荷重に対して垂直に見た粒子の投影面積で割った値を圧縮強度(MPa)とした。さらに、この操作を4回繰り返し、5個の試料について圧縮強度を測定し、その平均値を粒子破壊強度とした。試料としては、粒子径が40μm以上60μm以下の多孔質ジルコニア粒子を選別して用いた。
【0032】
(4)漏れ評価
各粒子に対して以下のような手順で実験を行い、粒子の漏れを評価した。
(4.1)1mLサイズの空カラム(20μmフリット孔径)を使用する。
(4.2)粒子100mgを緩衝液1mLに懸濁させ、ピペットを用いて静かにカラムに充填する。
(4.3)粒子を充填したカラムに、10mLの緩衝液を通液し、細かな粒子等を洗い流す。
(4.4)その後、更に、1mLの緩衝液を通液し、通液した緩衝液をスクリュー瓶に回収する。
(4.5)レーザーポインタを用いて、スクリュー瓶にレーザを当て、粒子の漏れの有無を確認する。粒子の漏れがある場合には、レーザが粒子で反射して光る。
【0033】
3.実験結果
3.1
水銀圧入法による総細孔容積、粒子破壊強度、漏れの関係を表2に示す。
No.2-No.14は、次の要件〔1〕〔2〕の全てを満たしている。
要件〔1〕直径が10μm以上100μm以下である。
要件〔2〕水銀圧入法を用いて測定した細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.00cm/gよりも大きく、0.14cm/g以下である。
これに対して、No.1は以下の要件を満たしていない。
No.1では、要件〔2〕を満たしてない。
【0034】
【表2】
【0035】
No.2-No.14は、粒子漏れが無いことが確認された。これに対して、No.1は、粒子漏れが観察された。
No.1,2,12,14について細孔径と細孔体積との関係を示すグラフを図2に示す。比較例であるNo.1は、細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、実施例であるNo.2,12,14と比べて細孔分布のグラフ形状が異なることが確認された。比較例であるNo.1は、細孔直径100nm以上2000nm以下の範囲において、総細孔容積が0.14cm/gよりも大きいため、粒子漏れが生じたことが分かった。
【0036】
No.2-No.14についてIgG抗体吸着量を測定した。No.2-No.14では、IgG抗体吸着量が250μg以上となり、優れたタンパク質固定能を示した。
【0037】
4.実験結果のまとめ
No.2-No.14のように、要件〔1〕〔2〕の全てを満たしていると、カラム通液時等の粒子の漏れが十分に抑えられ、かつ優れたタンパク質固定能を示すことが分かった。
【0038】
<他の実施形態(変形例)>
尚、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本開示の多孔質ジルコニア粒子は、抗体分離精製に用いる場合に、ジルコニア結晶相が持つ、耐薬品性、高い構造強度、焼成による再生利用可能性など、従来技術にはない有利な効果を奏する。よって、抗体製品の製造プロセスの低コスト化に大きく貢献するものと期待される。抗体医薬を始めとする抗体の精製と分離に利用されるカラム製品としての応用としてのみならず、食品中アレルゲン等の特異的なタンパク質の除去への利用も考えられる。
図1
図2